死への恐怖
遅れてしまってすみませんでした。
『赤帽子』のナイフがオレに向かって振り下ろされた。
「オレは…、オレはまだ死ねないんだあああぁぁぁァァァ!!!!!!」
気がつけばオレは、心の底から叫んでいた。
死ねない、死にたくない…。
でもオレには、ただ叫ぶことしかできなかった。
こいつの攻撃を防げる策がある訳でもないし、何か逆転のパワーがある訳でもない。
だけど、ただひたすら声の限り叫んだ。
オレにはコイツに無残に殺されるしかできない非力な人間だから、最後の足掻きだった。
でも叫ぶと同時に、オレは死に対しての恐怖にかられ、目を閉じた。
少しでも恐怖をかき消そうと…。
あぁ、死ぬんだ…。皐月、皐月、ごめんなぁ…。兄ちゃん、お前との約束を、また破っちまうみたいだ。
皐月…!
あれ?
いつになったら激しい痛みが襲ってくるんだ?
敵は?
あぁ、もう死んだのか。
痛みも感じないくらい即死だったんだな…。
ま、そっちの方がいいが。
死後の世界とはどんなものなのだろうか?
オレは好奇心から、うっすらと目を開いた。
そんなオレが見たのは、『赤帽子』を易々となぎ倒している時さんの姿。
「時…さ、ん?」
オレは『赤帽子』を赤子の手を捻るようにして倒していく時さんの背中を見つめた。
「想い人の為に死ねない…。それほどまでに大切な人がいるのなら、あなたはまだ死ぬべきじゃないと思う。だって、その想われ人が可哀想だから」
時さんはオレに背を向けたまま言った。
「さっきから何ごちゃごちゃ言ってやがる!!おめーの相手はオレだ!!」
時さんの身長の半分くらいしかない『赤帽子』が唸っている。
「……」
時さんは無言で、黒光りする鎌を自分の胸元で構えた。
普段の彼女からは、信じられないような冷たい…本物の人殺しの目で、しっかりと『赤帽子』と目を合わせる。
そんな彼女の全身からは、まがまがしいどす黒い殺気が溢れ出ていた。
怖い、僕は仲間である時さんを初めて怖いと思った。
彼女は明らかに人間離れしすぎていた。
これじゃあ正に妖怪の領域だ。『赤帽子』がその小さい体には似合わぬほどに大きい金棒を振り上げて時さんに襲いかかる。
かなり速い。
オレの何倍、何十倍の速度だ。
オレなんか、かなうはずがない。
それを彼女はラクラクとその何万倍の速度でかわし、『赤帽子』の鳩尾、鼻っ柱等の急所に蹴りやパンチをいれて倒す。
その間、わずか0,01秒。
誰もが彼女の戦闘能力の異常なまでの高さに息をのんだ…。