009 Goodbye PK, Welcome Sandbag
冒頭少しモブ男視点。以降はハクに戻ります。
Side ~モブ男(アレクサンダー)~
「すっげぇ……」
俺は目の前で行われる蹂躙劇に、只々溜息を漏らす事しか出来なかった。
それを行う側は何度も死にながら相手に立ち向かい、
迎い受ける側は大したダメージも無く相手を打倒している。
それでも尚……、それは正しく蹂躙劇だったのだ。
初めは只々失礼な人だと思った。行き成り人の事を『モブ男』何て言うんだ、それも仕方ないでしょ? しかもその理由を丁寧に説明し、俺が落ち込むと励ましてくれた上で最後には煽る様に『アレクサンダーモブ男ぉ!』何て言う始末……。俺は自分の気持ちの浮き沈みについて行けず、最後には頭が真っ白になってしまった……。それでも終始尻尾振ってたのは忘れないからな!
散々人を煽っておいて、それでも楽しそうにPKの事について聞いて来るもんだから。怒るのも馬鹿らしくなって、ついつい質問に答えてしまった。まぁ、別に大して知ってる訳でも無いから良いけど。
その話が終わると、ハクさんは散歩にでも行く様な気軽さでPKへと向かって歩き出す。俺は彼女もすぐにやられてしまうだろう、と無謀に思いながら彼女を見送った。
彼女がPKと一言二言話したかと思うと、戦いは突然始まった。その動きの速さに一瞬目が付いて行かず、気付けばハクさんには鎖が刺さっている。刃物を持っている相手によく立ち向かえるなと思いながら見ていると、彼女はPKの攻撃を何でも無い様に避け後ろに下がる。
だが、その動きは鎖に阻まれる事になる。そこからはきっと、他の人と同じ結末になるだろう。ああ……終わったな、と思っていたが彼女は軽く遇い鎖で遊びだす始末。それに怒ったPKが鎖を引っ張った時には思わず笑ってしまった。彼女はPKを煽りながら終始巫山戯倒している。緊張とかしないのかな?
ある程度確認が終わったのか、鎖をツンツンした後戦いは一気に激化した。その速さと、少し距離も離れている事から詳細に見えた訳じゃないけど、それでも彼女の方が優勢なのは解った。PKが凄く悔しそうな顔をしているからだ。その頃には離れて見ていた人達も、二人の戦いを囲む様に近くで見守っていた。彼女の動きで鎖の有効範囲が解ったのと、この戦いをもっと近くで見たかったからだ。
「さっきのめっちゃ恰好良いな。ガンカタみたいだったわ。俺もあんな動きやりてぇ~」
「てかあの爪、めっちゃ格好良いんだけど。俺も爪に変えようかなぁ」
「あれ、実は素手だぜ? 武器を使えない獣爪術って奴。一応補正は有るらしいけど、俺は武器使いたいから普通の爪術にしたわ」
「マジか、武器使えないのはちょっとキツイなぁ」
傍で見ていた他のプレイヤーがそんな事を言う。……ハクさん、武器使ってないのか。ガンカタって確か拳銃を使った近接戦闘だったかな? さっきの一連の動きは確かに凄く格好良かった。ハクさんは指先から何かを撃ち出したかと思うと、構えを作り武技を発動させた。それがPKの武技で阻まれ、ハクさんがやられた!って焦ったのに、結局敵に攻撃を当てたのはハクさんだった。意味が解らない。
確かに盾で弾かれた筈なのに、その後先に攻撃したのはハクさんの武技だ。五本の線が残っていたから間違いないと思う。これには皆どうやったのか解らなかった様で、傍に居た人とあーでもないこーでもないと話し合っていた。中には「チートだ」何て言っていた人も居たけど、多分それは無いと思う。
確かに巫山戯た人だけど、そんな詰らない事はしない気がする。そんな人があんなに綺麗な動きをしながら、あんな純粋に楽しそうな顔をするとは思えない。巫山戯た人だけど。
この時にはもう、僕達はハクさんの戦いに魅了されていたと思う。だから彼女から何かを学び取ろうと、皆必死で見詰めていた。結局、彼女が慣れて来たのかドンドンと動きが良くなって、唯でさえギリギリだった戦闘が途中から全然見えなくなってしまったけれど……。PKも遂に対応出来なくなったのか、軽くパニックを起こしながらナイフを振り回しているが、そんな攻撃がハクさんにまともに当たる事は最後まで無かった。
それから暫く、僕達は彼女の戦いを見守った。戦闘にそれ程興味が無いのか、何人かはその隙にさっさと行ってしまったが。それでも、多くのプレイヤーがこの場に残った。彼女の戦いを楽しむ様に、彼女の戦いに魅入られる様に。
……まぁ、途中から振り切れた様に笑い出した事には皆ドン引きだったけど。
Side ~ハク~
いや~楽しい楽しい♪
あれから結構な時間グー助パイセンとの模擬戦を続けてたんだが、流石に全ての攻撃を避ける事は出来ずに何度かやられてしまった。だが復活ポイントはすぐ近くの祭壇だし、こちとらレベル1のバリバリ初心者でやられた所で失う物が何も無い。それどころか復活した際にはステータスが全回復してるんだから、これはもうやるしかないだろう。
何も気にせず手間も掛からず、思う存分練習出来るものだから俺のテンションはドンドン上がって行き、途中から変なスイッチが入った気がしないでもない。まぁ些事だろう。誰か何処かでめちゃめちゃ笑ってる奴が居た気もするが……、変な奴もいたものだな!
因みに、一回死ぬまでに十数回位は攻撃を入れている。少々、少ない様にも見えるが、まだレベルが1なので武技も魔術も数回撃つとSPMPが枯渇してしまうのだ。その為、技が撃てなくなったら適当な攻撃をワザと貰い復活してから再突貫していた。
そんな事を数十回と繰り返していたので、合計ダメージとしては500以上は稼いだ筈だ。案外行ったかな? それでもまだまだグー助は倒せないだろう。途中から余り攻撃して来ずに防御寄りに立ち回り出したし、あいつは時折回復アイテムを使っているからな。初心者相手に回復アイテムを使わされてる事に、グー助は何も思わないんだろうか? ウケる。
そもそも、回復アイテムは戦闘中にインベントリから出す事は出来ない。というよりも、誰かから敵意を向けられている状態だと、インベントリ自体が開けないのだ。その為回復アイテム等、戦闘中に使用したいアイテムは事前に準備しておく必要が有る。そしてグー助は、盾の裏にびっしりとポーションを張り付けて準備していたのだ。初心者狩りに決死の覚悟かよグー助……。準備し過ぎだろ。
復活特攻を繰り返している内に、次第にグー助が半泣きになり始めたが知らん。何か色々言っていた気もするが、練習に忙しかったので全然耳には入っていない。決っして『もう許してくれぇ!』とか『もうやだぁ!』とか言うのをもっと聞きたくて、スルーしていた訳じゃ無い。何なら顔に再度ウィンドスラッシュを当て、此方が見えていない内に姿を眩ませ、振り向いた瞬間に『バァ!』とか言って脅かしてもいない。『うひぃ!?』だってプークスクス。尻尾ブンブン♪
最終的には、グー助の攻撃はほぼ当たらなくなっていた。真面目にやられたのは最初の二回だけ、その後は回復する為にやられただけだ。何なら途中から体が軽くなった気さえする。体が軽い、こんな幸せな気持ちで嬲れるなんて……、いや止めておこう。取り敢えず大体満足したのでリフレッシュする為、グー助が適当に振り回してるナイフに当り復活する。その際、初心者装備だからか、装備は新品の様に傷一つ残ってはいない。
「いや~満足満足。思いの外楽しめたわい」
「……お疲れ様です? 随分狂っ、いや。甚振っ、え~っと。楽しそうでしたね」
俺がモブ男の横に戻りながら話し掛けると、モブ男は若干嫌そうに返事をする。おやぁ? 周りのプレイヤーも何だか少し遠い様な? まぁ気のせいか。俺とモブ男の仲でそんな事無いよな! 俺がグー助との戦闘を止めた事に気付いて、他のプレイヤー達が順番に挑み始めた。何故か順番に、だ。行儀が良いなぁ。
俺がずっと一対一でやってたせいかな? グー助は終わったと思った所で、目の前に列が出来てて涙目である。マジウケる。さっさと逃げれば良いのに。まぁ、ガチガチ装備の弊害で逃げられないんだろう。インベントリにも仕舞えないしな。
ナイフは振れるみたいだが、あいつは終始その場を動かなかった。大盾デカいからなぁ、武技は使えるみたいだが、全身鎧を着ている事も有って多分重量過多で動けないのだ。芸人かな?
因みに、余り戦闘に興味の無い何人かのプレイヤー達は、グー助が絡んでこなくなったのでさっさと横を抜けてこの場を後にしている。やっとアホPKの脅威が去った事で、この場の空気は弛緩し始めた。
「そうじゃな。少し懲らしめてやるつもりじゃったが、興が乗ってしまってのぉ。少し羽目を外し過ぎたわい。はっはっは♪」
「少……し? ま、まぁハクさんが楽しかったんなら良いです。……というか凄いですね。何であんなに動けるんですか? それにナイフだって怖くないですか? ボクも一度やられましたけど……、ナイフ持った男が笑いながら近寄って来るのは、ゲームと解ってても滅茶苦茶怖かったんですけど……」
まぁリアルなゲームだからな、それは解る。彼が最初に復活した時、床を殴っていたのも恐怖を誤魔化す為だったのかもしれないな。
「何で出来るかなんぞ知らん。結局、このゲームは頭の中での出来事じゃからな、出来ると思えば出来るんじゃろう。逆に少しでも無理じゃと思えば成功率はグンと落ちる筈じゃ。自分なら出来る! と信じ、思い込む事が重要なんじゃよ」
「信じ、思い込む……ですか。僕には難しそうですね……」
「そう思う事が既にイカンのじゃ。お主は主人公になるんじゃろう? アレクサンダー。なら、自分の事をもっと信じてやれ!」
その言葉にモブ男はハッとして顔を上げる。周りで話しを聞いていたプレイヤーも真剣な顔をして聞いて居た様だ。何も成し得ていない者が並べる理屈など、ただの戯言だ。聞く価値すら無い。だが俺は今、実際に彼らの目の前で結果を出したのだ。ならば、俺に成功する秘訣が有る事を疑う余地など何も無いだろう。だからこそ、彼らは何か少しでも得られる物を探して真剣に耳を傾けている。
中にはワザとこちらに聞こえる程度の小声で『どうせチートだろ』、などと負け惜しみを言っている奴も居るが、そんなのは聞く価値が無い。それにどうせそいつは既に終わってる。今ここでの出来事も俺の話しも、望外のチャンスだったのだ。今自分が絶好の機会を得ている事を理解しようともせずに『チート』だ、などと言って端から投げ捨てている。そんな奴はどれだけチャンスのバーゲンセールをされた所で、結局一つも掴めやしない。そもそも、掴もうとすらしていないのだから。
その根底にはきっと、『どうせ自分には出来ない』という強い思いが根付いてしまっているのだろう。それは別段悪い事では無い、それに良くある話だ。まぁ、それで一々人に嫌味を言うのは話しが違うし、そのせいで余計に負のスパイラルに入ってしまうのだが。
ともかく、思いが形になるこの世界でのそれは特に致命的だ。初めから否定してしまっている以上、彼には出来る事が著しく制限されてしまうだろう。今ここで俺と同じスタートラインに立っている以上、彼が俺の視界に入って来る事は恐らく二度と無い。時間が経つ毎に距離は離れる一方だからだ。そんな彼に目くじらを立て、一々争った所で得る物は疲労感だけだろう。
俺がそんな事を考えている間にモブ男は気持ちに整理が着いたのか、強い目でこちらを見て来る。俺は少しでも関わりを持った子が正しい選択をしてくれた事に少し、嬉しく思う。尻尾ゆらゆら。
「そうですね。さっきは茶化されて終わってましたが、俺はモブを止めるんです。だからきっと、やってみせます」
「きっと、ではない。絶対に、じゃ!」
「はい!」
うんうん、若者は輝いていて良いね。周りの奴らもそんなモブ男を微笑ましそうに見ている。
「怖い事についてはもう割り切る事しかないのう。どうせゲームの中じゃから、と言う解り易い理由がある以上、まだやり易かろう? どうしても難しいなら、ナイフを持った狂人を超えて、こっちが更に狂ってやる事じゃな! そうすればもう、何も怖くはない!」
「あ、狂って。なるほど。良く解りました」
「おい~? 今度はやけにすんなりと納得したのぉ? ん?ん?」
俺がねっとりと追及すれば、モブ男はゆっくりと目を逸らした。
もう一つ『ん?』と言って周りに目を向ければ、周りの奴らも一斉に目を背ける。
なんだぁ? やるかぁ? 言いたい事が有るなら聞こうじゃないか~?
俺が無言で両手に爪をジャキン! と出せばビクゥ!と反応するプレイヤー達。ウケる。全く、失礼な奴らじゃ。人を狂人か何かと思いおって。俺は周りの反応に満足したので、大人しく爪は仕舞っておく事にした。尻尾フリフリ。
「というか……、何故そんな堅苦しい喋り方なんじゃ。ワシら親友じゃろう? アレクサンダーモブ男ぉぉぉぉ!」
「モブ男を付けるなぁぁぁぁ! ……はぁ、何かちょっと緊張してたけど、バカバカしくなって来た」
「うむうむ、それで良いのじゃ」
親友の揶揄いで、モブ男の体から力が抜ける。
それを見て、周りの奴らも軽く力を抜き各々話しを始めた。
「にしてもマジで凄かったよな。あんなに人間離れした動きが出来るってのは参考になったわ。途中から全然見えなくなったけど」
「だよなぁ。俺も風魔法持ってんだけど、あんな細く撃ち出せる何て思わなかったよ。途中から全然見えなくなったけど」
「ほんとにねぇ。見てれば慣れて少しは見える様になるかと思ったのに、動きはドンドン良くなっていくし。途中から全然見えなくなったけれど」
「は~~。格好良くて素敵でしたぁ~。まるで踊ってるみたいで! 私、凄く魅入っちゃいました! 途中から全然見えませんでしたけど!」
……うん? 何で皆、途中から全然見えなくなってんの? 打合せでもしたんか?
そして緩い子はこの場の癒しだな、和む。
因みに、緩い子は一見小人族に見える程に小さく、120cm程とかなり小柄だ。しかし頭には羊の角が側面に一本ずつ有り、彼女が羊の獣人族で有る事を示している。髪は膝裏近くまでの長さが有り、淡いクリーム色をしていて、羊の様にモコモコとした癖毛だ。武器は杖を使う様で、身の丈を超える木の杖を、両手で抱える様にしっかりと持っている。
確かに、途中から体が軽くなった気がしたけど。速くなった気がしましたけれども。……まさか? いや、まさかぁ~。だってぇ……ねぇ? そんな、気付かない筈が……。俺は違うと思いつつもメニューを開き、スキルの項目を確認する。するとそこには――
・獣爪術 _Lv.3
・風魔法 _Lv.2
・憑依術 _Lv.1
・俊敏強化_Lv.3
・格闘強化_Lv.3
となっていた。いや、スキルレベルめっちゃ上がってんじゃん! いつの間に!?
そう思いログを再度確認すると、ダメージログに紛れて確かにスキルレベルアップのログが表示されていた。……左側の数字しか見てなかったわ。テヘ☆ ってかダメージもちょっとずつだけど上がってんな、1とか2上がってる位だから誤差かと思ったわ。
俺は然も当然という様に、腕を組み口を開く。
「うむ! スキルレベルが上がったからの! 幾つかはレベル3になったわい!」
その言葉に、周りに居た全員がピタリ! と動きを止め、黙る。
その異変に気付かず、モブ男は話し掛けて来た。
「え? もうレベル3になってるの? 速くない? 確かこのゲームって、結構スキルレベル上がり難いんじゃなかったっけ?」
「らしいのう。じゃが上がっとるしの~。それに動きが速く見えたのは、実際速くなっとった様じゃぞ?『俊敏強化』はレベル3になっとるからの」
「それ言って良いの? スキル構成バレると対人で不利になるって聞くけど」
「別に構わんよ。寧ろ、ワシが俊敏強化持ってないなど思わんじゃろう?」
「ああ~それもそうか。じゃあホントに上がったんだね、おめでと~。スキルレベルが二つも上がれば動きも全然変わって来るか~」
モブ男と二人で暢気に話していると、それを聞いていた他のプレイヤーが再起動し話し始める。
「いやいやいや、それでも可笑しいだろ。聞いた話じゃ、レベル3までは大体四日位掛かるらしいぜ?」
「俺も聞いたな。このゲーム敵との遭遇率がそんなに無くて、一回の戦闘も短いからあんまスキル経験値が稼げないらしい」
「訓練場で対人戦しても、そこだと経験値十分の一になるから、SPやMPの消費を考えると結局微妙らしいよね」
「じゃあ何でもうレベル3何だよ。やっぱチートじゃねーかチート」
「それはねーだろ。このゲーム、セキュリティがアホ程高いって話しだぜ? 海外のハッカーがハッキングしようとして、何も出来ずにその日の内に捕まった、何て話しが幾つも有るしよ」
そうやって色々な話しが飛び交っている。俺はSWについて、事前に内容を知ると感動が薄れると思い、極力情報を仕入れ無い様にしていたので中々新鮮だ。俺は腕を組みながら、彼らの話しを聞く。そもそもこのゲームは情報規制がやたらと厳しく、攻略サイトが立ち上げられても秒で潰されるらしい。SNS等の情報についても、真偽問わず攻略関係の情報は消されるとかなんとか。
ネット上のグループ通話何かもどうやってか潰されるらしいので、このゲームは今時珍しく、現実での口コミ以外で情報を入手する事が出来ないのだ。何でも開発者が事前に調べてからゲームを始めるスタンスが嫌いらしく、ゲームの事はゲームの中で体験して欲しい、との事。解るぞ、凄く良く解る。噂ではSWのAI達に常に見張らせているんだろうと言われている。
それと、敵との遭遇率はワザと低くなってるらしい。そこら中にうじゃうじゃと敵が居るのが現実的じゃないから、だとか。またかなりリアルな世界なので、戦闘自体も結構精神に来る。その配慮として、余り連戦にならない様になっている、との事。生き物と延々命のやり取りを出来るのは狂人位のものだろう。
……ん? なんじゃ? 何か言いたい事でもぉ?
まぁ、うじゃうじゃ居る所には居るらしい。
当然、危険地帯なので対策しなければすぐに死ぬらしいが。
一通り話しが出揃った様なので話しを纏めつつ、一つ思い付いた話しをする。
「つまり、普通はどうやってももっと時間が掛かる、という事じゃな。にも拘わらずワシは既に3まで上がっているのが可笑しい、と」
「チートだろ」
「その意見は意味が無いから置いておくとしよう。今は事実のみを積み上げるべきじゃ。レベルが上がらない理由としては、普通は長時間戦闘が出来ないから。通常の戦闘は一戦が短くなるし遭遇率も低い、長くやれそうな格上相手ではこちらがやられてしまい。また、長くやれる対人戦では消費と経験値の低さから、やる意味が余り無い。ここまではよいな?」
そう言って周りを見渡せば、皆無言で頷いてくる。それに頷き返し続きを話す。
「今問題なのは何故、本来経験値の低い筈の対人戦で、スキルレベルが速く上がったか……。簡単じゃ、得られた経験値が低く無かったからじゃろう」
「だからチート使ってんだろ、経験値増やしてんじゃねーか」
アホがうざい、お前はもうちょっと自分で物を考えろ。お前のそれは考えたつもりになっただけで、聞き覚えの有る言葉を並べただけの唯の思考放棄なんだよ。もっと自分で物を考えて、自分の言葉を持て。相手にしても仕方ないので放置だ放置。俺はアホを無視して結論を言う。
「恐らくじゃが、PKとの闘いでは経験値は普通に入るんじゃろう。じゃが普通はPKとの戦闘も結果どうあれすぐに終わるからの。気付かれなかったんじゃろう。そしてPKに襲われる時は狩場で急に、が殆どじゃ。そうなれば、得られた経験値がPKからなのか、モンスターからなのか見分けがつかん。そして恐らくPK側にはこのメリットは無い。それをしてしまうと、PKは人を襲いまくればすぐ強くなってしまうからの。だからPKサイドからも、この仕様に気付く事が無かった。……要するに」
俺はそう言って一呼吸置き、ゆっくりとグー助を指差す。
それに対してグー助はビクリ! と反応を返した。
ちょっと笑うから止めろよ。尻尾ゆらゆら。
「あやつはモンスター扱い、という事じゃな」
皆がチラリとグー助に視線を送る、奴はとても居心地が悪そうだ。グー助を見て、皆『成程な』と納得しすぐに視線を戻した。害悪プレイヤーという意味で納得したのかもしれない。俺はそこでちょっと悪い事を思い付いたので、ニヤリと笑い、敢えてゆっくりと引っ張る様に喋る。尻尾ブンブン。
「つまりはじゃなぁ~。本来であれば、何処に居るか解らんモンスターは今ここに居て、しかも御誂え向きの耐久装備で長期戦が可能。復活地点も今であればすぐ傍に有るから、復活特攻も出来て、SPMPの消費も気にする必要が無い。Lv.1の今なら死亡罰則も無料じゃ」
俺が何を言いたいのか察した周りのプレイヤーは、一斉に動きを止める。いつの間にかグー助に挑んでいた奴らも話しを聞いていた様で、同じ様に動きを止めた。数舜の後、彼らはまるで示し合わせたかの様に、一斉に血走った目でグー助を見た。
モブ男もヤル気満々だ!
一斉に血走った眼を向けられ、グー助は早くも半泣きだ!
さっさと逃げれば良かったのに。哀れ。
まぁ馬鹿な事をした詫びが出来ると思えば、きっと彼も本望だろう。尻尾ブンブン。
俺は組んでいた腕を解き、ゆっくりと右の人差し指を天へと向け、彼等に告げる。きっと、グー助にとっては死刑を宣告する、裁判官の様にも見えただろう。
「皆の者! ボーナスステージじゃぞ! サンドバッグは目の前じゃぁ! かかれぇーーーー!!」
その言葉と共に俺は腕を振り下ろし、グー助を指し示す。その瞬間、全員が一斉に走り出した。さっきまでお行儀良く並んでいた彼らの姿は、もう何処にもない。……あ、チートチート煩かったアホが、真っ先に一人で突っ込んで行って即落ちしてる。やっぱアホだな。
他のプレイヤー達は、周りを利用する様に立ち回っているからか、結果それが連携となって奇妙な一体感が生まれている。その間チート野郎は人を押し退けながら、我先に突っ込んでは即落ちだ。スキルでは無くアホを極めんとしている。周りもそれを止めずに弾避けにしていた。モブ男も吹っ切れたのか、アホの後ろで剣を構え武技の準備をし、アホがやられた瞬間を狙って発動させるなど結構過激だ。武器も普通だな、モブ男よ。
魔法組との住み分けも出来ている様で、魔法組は誤射しない様、入口側でグー助を囲う様に半円状に展開し、思い思いに邪魔された恨みを叫びながらぶっ放している。MPが切れれば杖で怒声を上げながら殴り掛かる蛮族振り。魔法職とは?
プレイヤーキラー 皆で狂えば 怖くない
俺の言った通りである。最早誰も刃物を恐れてはいない。今居るのは、刃物より貴重な経験値を寄越せ! という狂ったプレイヤーと、狂人が津波の様に押し寄せて、遂にガン泣きし始めた哀れなグー助だけである。マジウケる。尻尾フリフリ。
全「「「ひゃっはぁ! 新鮮な経験値だーー!!」」」
グ「やだぁぁぁぁぁぁ!?!?」
ハ「うむうむ♪ みな楽しそうじゃの!♪」