008 Hello PK?
初の戦闘シーン
果たして! 俺の戦闘力でちゃんと読者に伝える事が出来ているのか!
みんな頑張って!
取り敢えずモブ男弄りに満足した俺は、今度はちゃんと話しを聞こうと再度モブ男に話し掛ける。因みにモブ男呼びを止める気は無い。
「して、結局の所、奴の事をお主は何か知っておるのか?」
「散々人の事馬鹿にしておいて、まだ聞いて来るんだ……」
モブ男はとても嫌そうな顔で、こちらを見て来る。
実に良い顔である。尻尾フリフリ♪
「なんじゃ~? これだけ沢山話したんじゃから、ワシらはもう友達じゃろう?」
「あんたとは絶対に友達にはなりたくない。……はあ~~。俺、結構前からここにいるんだけど、その時はまだこんな事になって無かったんだよ。そこの石像とか見てたりしてたんだけど、そしたら入口の方で何か騒ぎ始めて、プレイヤーの一人が倒れたんだ。その時にあいつ『どうだ見たか! 俺は弱くなんかねぇ!』ってすっげー嬉しそうに燥ぎ出してさ。初心者倒して弱くねぇとか言ってんだぜ? 絶対雑魚だよあいつ」
嫌そうにしつつも、何だかんだ教えてくれるモブ男、やっぱ良い奴だなこいつ。誰だこんな良い奴を弄り倒した奴は。尻尾フリフリ。
「なるほどの~。誰にも相手にされなくて、こんな事詰まらん事をしとるのか、あやつは」
「多分ね。スキル構成が悪いんじゃない? それでもレベルと装備の差でどうしようも無いけど」
それで、あのアンバランスな装備の訳か、単純に防御が高ければ性能差で自分は負けないし、攻撃に関しても当てれば勝てる訳だから、比較的早くて当て易い短剣を使ってるんだろう。速度で逃しそうになれば盾スキルを使って捕まえる……と。
アホっぽい奴だが、一応考えてはいる様だ。ただ、そうなると今回の為に態々装備を変更した事になるから、武術系スキルに関してはレベルが低いのかもしれない。モブ男の話しを聞いて、周りのプレイヤーも嫌そうにしている。単純な性能差によるゴリ押しは、始めたばかりのこちらにとってはどうしようもないからだ。
ただなぁ~。グー助が弱いのはスキル構成だけが原因じゃ無い様に思える。そう思い、俺は再度グー助を見る。未だに奴の横を抜けようと、試行錯誤しているプレイヤーが散発的に出るが、その試みは成功せずグー助は楽しそうに嗤っていた。
「死ね糞グール!『強剣!』
「あめぇ!『シールドバッシュ!』。
「くっ!?」
「がら空きだぜぇ、はっはーー!!」
「ぐはっ!?」
正面から向かってくるプレイヤーの武技に対しては、シールドバッシュという武技で弾き、その隙に短剣で倒している様だ。武技には武技で迎い、魔術は盾に隠れ、逃げようとする者は鎖で捕まえる。どうやら、既にパターン化している様だが、その動きに違和感を覚える。単純に装備を変えたばかりなのが原因の可能性もあるが……。
「まぁ、折角の機会じゃ、ワシも一当てしてくるかの」
「無駄だと思うよ? まぁ、別に止めないけど。どうせすぐ復活するし、まだ死亡に因る罰則も無いし」
「そうなのか? なら尚の事、行かん理由が無いの。ちょっと遊んで来るわい」
そう言って俺は気楽に片手を振りながら、モブ男に一時の別れを告げる。モブ男は呆れた顔を見せ、他のプレイヤーは取り敢えず静観する構えの様だ。
因みに、死亡罰則はLv.10から発生するらしい。所持金の10%分をその場にドロップと、一時間の全ステータスの大幅ダウンだ。経験値が減ったりはしないとの事。
ステータスが下がっている間はほぼ戦闘は出来ないと思った方が良いらしく、この効果はログアウト中も時間経過する。死んでしまう様な時は脳が疲れてる場合も多いので、その間ログアウトして休憩する人も多いとの事。現実だと30分とはいえ結構重いな。閑話休題。
まずはゆっくりと歩いて近付いていく、直ぐにグー助はこちらに気付きニヤリと嫌な笑みを浮かべた。楽しそうにしとるの。まぁ、こちらの御尻尾様も楽しそうに揺らめいているが。俺もニヤリと笑い、グー助に話し掛ける。
「随分と楽しそうじゃのう、グー助。少しワシも混ぜてくれんか?」
「グースケって何だよ。楽しいぜぇ~? お前も可愛がってやるから掛かって来いよぉ」
お前の事だよ、グー助。
グー助はそう言うと、見せびらかす様に短剣を顔の前まで掲げゆらゆらと動かす。それに合わせて俺の尻尾もゆらゆら揺れた。俺達のやり取りを見て、グー助を取り囲んでいたプレイヤー達は一歩引き、こちらも静観する構えだ。実に好都合、色々と試せるな!
「では、可愛がって貰うとしようか、の!」
そう言い、俺は一気に加速し左手に爪を展開する。グー助は一瞬目を見開いたが、俺の速度を見て横を抜けようとすると思ったのか、盾の武技を発動させる。まず、捕まえに来るか。堅実ではあるが臆病な奴だな。
『タウント!』
グー助が右手の短剣で盾を打てば、盾から鎖が飛び出し、真っ直ぐにこちらへと向かって飛んで来る。思った以上にゆっくりと飛んで来る鎖に拍子抜けするが、取り敢えずこの武技についても検証したいので、避けずに右手で受けておく。どういう効果かな? ワクワク。取り敢えずダメージは無い様だ。
「はっ!」
グー助の前まで辿り着いた俺は、挨拶代わりにと左手の爪でカチ上げる様に盾の側面を切り付ける。だがガキン! という金属音を残すだけでビクともしなかった。この辺は筋力の無さが原因かな? 貧弱ハクちゃんには敵の盾を打ち上げる事は出来ない様だ。つらたん。
「効くかよ!」
その攻撃を受けグー助はニヤリと笑い、短剣で綺麗に真っ直ぐと切り付けて来る。だが防がれる事も想定内なので、特段驚く事も無くすぐに一旦下がる。切り付けて来る速度は結構速かったので、やはりレベル差に因る彼我の差は大きい様だ。
取り敢えず初戦闘だからと思い切り下がったのだが、グー助から3m程離れた所で右手に繋がった鎖によって、ジャラリと動きを止められる。一応引っ張ってみるがビクともしない。筋力が高ければ何か出来るんだろうか? まぁ、貧弱ハクちゃんには関係無いな。
俺がピンピンと鎖を引っ張っていると、グー助が盾毎、鎖を引っ張りこちらを引き寄せようとしてくる。まぁそういう使い方も見ていたので、力が乗る前に一歩前に出て力を逃がす。グー助はそれをキョトンとした顔で見ていた。……んん~~~、こいつ。俺の尻尾はやや元気を失った。だが取り敢えず鎖の検証だと気合を入れ直し、俺は煽る様に鎖を縄跳びの様にブンブンと振り回す。
「ほ~れほ~れ。どうした~。ワシを可愛がってくれるんじゃ無かったかの~グー助ぇ」
「糞が! 雑魚が調子に乗るんじゃねぇ!」
それに顔をしかめたグー助は再度鎖を引っ張るが、弛んでいる鎖で引っ張られる筈もなく、鎖は二人の間でピーン! と張り詰められるだけだった。ちょっと面白いの止めろよ。周りからも忍び笑いが聞こえてくる。尻尾フリフリ。
そうして遊んでいる内に、鎖はゆっくりと姿を消した。大体5秒位かな? 長い様な、短い様な? グー助のスキルレベルの低さもあるかもしれないな。それに物理的に繋がるだけで、無理矢理引き寄せる様な効果も無い様だ。これなら、繋がっていても範囲内なら気にする必要は無いな。
「なんじゃ、もう消えるのか。思ったよりも詰まらん武技じゃて」
俺は両手を顔の横で広げ、ヤレヤレと首を振る。俺の煽りを受けて、グー助は顔を顰めながら再度、武技を発動させる。
「こんなしょぼい武技なんざ、幾らでも使えるんだよ!『タウント!』」
お前、さっきまでそのしょぼい武技に頼って散々嗤ってただろうに。それに別にしょぼくもない。敵の攻撃から味方を守る防衛職にとっては、とても有用な武技だろう。別のゲームでは敵からの敵意を上げ、自分を狙わせるスキル等も有るが、対プレイヤー戦に於いては無意味だ、そんなのは無視すれば良いのだから。だが、こうやって鎖で繋がれてしまっては無視も出来ない。よく考えられた武技だと思う。
「よっ、と」
グー助が盾を打てば、またもやこちらに真っ直ぐと鎖は飛んで来る。今度は受けずに体を少し逸らして避けてみる。少し早目に避けて見たが鎖がこちらを追い掛けて来る事も無く、鎖は後方へと飛んで行き、対象を失った後は直ぐ様消えてしまった。
「ぷふーー、クスクス。何処狙っとるんかの~。もっとちゃんと相手してくれんかの~グー助ぇ」
「グー助じゃねぇぇぇーーー!『タウントォォォ!』」
早くも顔真っ赤なグー助は再度、盾を打ち、武技を使ってくる、感情が乗ってるせいかさっきよりもやや速い。それでも来る事が解っているので、今度は後ろへと飛び退いてみる。やはり真っ直ぐと飛んで来るそれは、俺の眼前ギリギリの所で止まり、髪に僅かに掠るだけで動きを止める。
グー助との距離は3mから一歩離れた位置だ。俺は眼前のそれを指でツンツンとするが、それで繋がれる事も無い。しっかりと刺さらなければ効果は出ない様だ。その様子に、周りのプレイヤーから僅かな騒めきが聞こえる。尻尾フリフリ。
「ふむ、捕獲の効果範囲もやはりこの距離か。これでは脅威にはならんの~グー助ぇ?」
「なっ!?」
取り敢えず、グー助を煽るのは忘れない。流石に誰彼構わず煽る訳では無いが、こんな詰まらない事をしているPKなら別に良いだろ。モブ男? あいつはポンコツに似てるからノーカン。グー助は俺がキッチリ鎖の効果範囲を見切り、鎖をツンツンしている様を見て、やや呆けている様だ。……ダメだなこいつ、雑魚だわ。他のプレイヤーとやってる時に眺めていて思ったが、動作が綺麗過ぎるのだ。
多分こいつは、器用のステータスが高い。そうやって戦闘はSWの戦闘アシストに任せて、工夫を一切していないのだ。鎖の武技はまるで動画でも見ている様に、同じ動作をした後に撃ち出され、真っ直ぐと飛んで来る。短剣での攻撃も真っ直ぐに向かって来ていて、こちらが避けても微動だにしなかった。グー助が激高して使った鎖の武技が速くなった事からも、本来もっと自由度は高い筈だ。自分と繋がっているんだから、途中で曲げる事だって出来るのかもしれない。
だが、こいつはそれらを一切やらない。それはまるで、画面の前で攻撃ボタンの連打ばかりしている様な愚行だ。もしかしたら、グー助は余り運動が得意では無いのかも知れない。それがバレているからこそ他の一期組にも勝てず、彼はこんな所にまで来てしまったのだろう。
確かに、レベル差も有って俊敏特化のこちらよりも僅かに速いので油断出来る訳じゃ無い。だが、攻撃が馬鹿正直過ぎるので動き出しと視線で狙いを読めれば、避けられない訳でも無さそうだ。まぁ、最初の練習相手としてはベストなのかも知れないな、余計な事を考えなくて済む。器用を上げ過ぎているせいで、他のステータス差は思ったより無さそうだし。
そうと解れば、折角なので練習に付き合って貰おう。可愛がってくれるって言ったしな! 言質は取っているのだ! 俊敏でも負けてるから油断は出来ないから良い緊張感を保てるし、耐久力は高いからサンドバッグに最適だ! 俺の尻尾は思ったより相手が弱そうな事にしゅんと落ち着きを取り戻していたが、気持ちを切り替えた事で再度フリフリと動き出す。
「よし! 知りたい事は大体解った! これ以上はお主では解りそうに無いしの! 次はワシの練習に付き合ってくれ! サンドバッグー助!」
「サンドバッグ―助ぇ!? 誰がサンドバッグだ! まだ一度も攻撃出来てもねー雑魚が! 調子に乗るんじゃねぇ!」
「またそれか……、語彙が貧弱では頭の悪さがバレるぞ? グー助よ」
「て、てめぇぇぇーーー!!!」
おうおう、面白い様に怒るな。ウケる。
俺は再度ヤレヤレをした後に、怒りで顔を真っ赤にしたグー助に突貫する。またもや鎖が飛んで来るが、今度は離れるつもりも無いので無視だ無視。右肩に刺さったそれを無視し、距離を詰める。まずは右爪で盾を切り裂く、それは僅かな傷を残すだけで大した意味は無い。
お返しとばかりに、今度はグー助が右手のナイフを逆袈裟に切り上げて来るが、それを体を右に傾け寸での所で避ける。ナイフの動きに合わせこちらも左爪を振り上げ、右脇腹を逆袈裟に切り裂く。だがしかし、それも服の下に来た金属鎧に弾かれダメージに成らない。
「くそっ!」
だが、攻撃を当てられないまま二度も攻撃された事に焦ったのか、グー助はそこで初めて短剣の武技を発動させる。
『スラッシュ!』
グー助が振り上がったナイフで、今まで見せなかった短剣による武技を発動させる。ここに来て初めて見せる武技だ。だが残念な事にとても解り易い技名をしている。どうせそのまま素早く切り裂くんだろ? 俺は技名って結構大事なんだなと思いつつ、武技によって光を纏い始めたナイフを、目を見開き凝視しニヤリと不敵に笑う。
息を吐きながら集中力を高める。ナイフは光を纏いながら、目にも止まらない速さで振り下ろされた。紙耐久のハクちゃんが食らえば余裕でHPが吹き飛ぶだろう。
だがしかし! 当たらなければ!! どうと言う事は!!!
光の集まり方でタイミングに当りを付け、刃の角度から軌道を見極める。そうして予想した経路から、僅かに体を逸らしながら右に避ける。ブワッ!という風切り音を左耳で聞きながら、俺は髪と胸当てを薄く切られつつも、何とかギリギリで避ける事が出来た。やっべちょっと当たった! めっちゃギリギリじゃねーか! あっぶねぇ!
「そら!」
俺は避けられた事に驚いているグー助の顔に、お返しだと右爪でグー助の左頬を切り付ける。今度は兜に防がれた。その衝撃に気を取り戻したグー助は、振り下ろされたナイフを引き絞り、今度は真っ直ぐ胸目掛け突き込んできた。僅かに皮の胸当てを切り裂かれながらも、バク転しながら避け左足で突き入れられた手首を蹴り上げる。
腕が僅かに上に逸れた隙に、着地した瞬間左足に力を入れ一歩踏み込む。グー助の右手を右手で抑え巻き込みながらグー助の懐に入ると、ふっと息を吐きながら自分を抱きしめる様な形で左腕を交差させる。左の人差し指をグー助の驚いた顔へと向け、無詠唱で『ウィンドスラッシュ』を細く鋭く撃ち出した!
「ぐがっ!」
打ち上げられる様にグー助が顔を仰け反らせた隙に、無詠唱で『強爪』を発動させ武技の溜め時間を稼ぎつつも、俺はワザと技名を叫ぶ。
「お返しだ!『強爪!!』」
右爪に光を纏わせながら、体を反転させ右腕を解り易く構える。このまま無詠唱で『強爪』を使ってもグー助の反応が遅れ、慌てたグー助は普通に盾で防ぐだろう。それでは意味が無い。グー助が仰け反って出来た隙は、武技の溜め時間で既に消費されている。だから、技を当てる為にはもう一度隙を作る必要が有った。その為、俺は敢えて技名を口にしたのだ、グー助に準備する暇を与える為に。
グー助は武技には盾の武技で対応していた。今回はそれを利用する。案の定、俺が武技を使う事を察したグー助は、盾を構え迎え撃つ準備をする。それを見て俺はニヤリとほくそ笑み、強爪の『溜め⇒切り払い』が行われる約二秒の時間が経つ前に、右手の爪を突き入れる。
『シールドバッシュ!』
グー助はそれを武技を使って迎え撃つ、その結果俺の右爪は弾かれ、俺は体を開かれ隙を晒す事になる。だがそれも予定通りだ。勝利を確信してニヤリと嗤い、腰溜めにナイフを構えるグー助を前に、俺もニヤリと笑い、更に一歩前に出る。
グー助が弾いたのは俺の武技では無く、その前に行った唯の突き攻撃だ。突きでは武技が発動しない事は確認していた。今にも飛び出さんと構えられたグー助のナイフよりも、発動寸前の俺の武技の方が僅かに速い! それは瞬きをする暇も無く輝きを増し、五本の残光を残しながらグー助の胴体を強く! 袈裟懸けに切り裂いた!
「はぁ!!」
「ぐはぁっ!?」
だがしかし、やはりそれはガギン! という強い金属音を響かせグー助を押し退けるに留まり、グー助を驚かせただけで、大したダメージを与える事は出来なかった様だ。まぁやはり不満は残るが、実戦で思い通りに動く事が出来て、めちゃめちゃ楽しかったから良いんだけどね! そもそも倒せるとも思っていない!尻尾ブンブン。
少し距離が空いた事で、一旦仕切り直す。僅かの後に、肩に刺さっていた鎖は何の効果も示す事無く姿を消した。それを眺めながら、グー助が驚いている隙に戦闘ログを確かめる。SWでは意識する事で、自分が出したダメージ量を確認する事が出来る。
「……ふむ。まぁ、こんなもんかの~」
そこで、確認出来たダメージ量は『0,0,1,1,0,10,10』というカスダメージ。ウィンドスラッシュを防具の無い顔に当てた時は思いの外ダメージが通っているが、強爪で防具に当てた攻撃は10と、ウィンドスラッシュと同じ結果に終わっている。強爪の方が遥かに強い筈なのになぁ~。まぁ防具に阻まれたから仕方ないだろう。『風刃爪』を使えばもっとダメージは出るんだろうが、あれは現状俺の切り札だ。こんな大勢の前で使う気は更々無い。
盾に当てた分と、腕を蹴り上げたダメージに関しては0ダメージだった。さもありなん。因みにこちらは、『スラッシュ』の時に掠っただけのあれでも、30のダメージを負っていた。突きとシールドバッシュではダメージを負っていない。凡そ二割、掠っただけのあの攻撃でも後四回食らえば死ぬらしい。ハクちゃんマジ紙耐久。
物理面が死んでるハクちゃんでもHPは100を超えているので、このままグー助を倒すのは現実的では無いだろう。多分体力は上げてあるだろうし、やっぱサンドバッグにするしか無いな。それにしても、ナイフによる攻撃を避けるのは思ったよりも簡単だった。突きに関しては少し難しかったが、斬り付ける動作に関しては刃の角度から攻撃する角度がモロばれだったのだ。
普通なら誤魔化したりするのだろうが、グー助の動きはNPCの様に既定の動作をする。それはつまり、攻撃する前に無駄に一瞬溜めを作るのだ。他のゲームでも見られる、『今から攻撃しますよ』とプレイヤーに教えるかの様な無駄なあれ。短剣だからこそその溜めは短いが、それでも近くで見るからまぁ解る解る。しかもグー助は軌道を変えない。そんなん避けるわ。
「まずまずじゃな。どうしたグー助よ。こちらが四回攻撃する間に、一度しか当てられてはおらぬでは無いか。やはりサンドバッグ―助じゃなぁ」
「ぐっ! サンドバッグじゃねぇ。ちょっと上手く行ったからって、調子に乗るんじゃねぇ!」
「はっはっは、本当にそれしか言えんのじゃなぁ。哀れなグー助じゃ」
「てっめぇ……」
俺は尻尾を振りながら、グー助を煽る。グー助は最初の勢いは無くなっているが、まだまだヤル気はある様だ。良かった良かった、まだまだ練習したかったので、すぐヤル気を無くされても困る。一連のやり取りに、周りのプレイヤーも俄かに騷つき出す。
「はっえ~、何だ今の。始めたばかりで良くあそこまで動けるな」
「俺も俊敏特化だけど、行き成りあんな動けねーよ。怖ぇだろ普通」
「大体、ナイフ持った相手にツッコむのだって怖いだろ。だから皆尻込みしてんのに……。頭おかしーんじゃねぇのあいつ」
「はわぁ~、お姉さま、格好良いです~」
別に怖くないが? 別に頭可笑しくないがぁ??
怖がってたって仕方ないだろうが! オレハ、オカシクネェ!
最後の子はさっき必死で罵倒に加わってた子だな、ユルい。
あとお姉さまじゃないです。ごめんね?
「……さて、やっと少し慣れて来た所じゃ、続きと行こうかのう。可愛がってくれるんじゃろう? グー助?」
俺はニヤリと尻尾を振りながら笑い、グー助に問い掛ける。グー助は頬を引き攣らせている様な気もするが、きっと気のせいだろう、こんな所まで新人を歓迎しに来てくれる様な先人が、この程度で心折れる訳無いよなぁ! だが、それに何かを感じたのかグー助は巫山戯た事を宣う。
「い、いや。……俺も大人げなかったし、今日はこの位にして、そろそろ帰――」
「カエスワケ、ナカロウガ」
「ひっ!」
折角、気分良く嬲れ……、元い。
思う存分虐められ……、でもなく。
練習に付き合ってくれる心優しき先輩を、そう易々と逃がす訳が無い。
それから暫くの間、朽ち果てた神殿には泣き叫ぶ様に必死に汚い声を上げながら抵抗する屍食鬼と、何がそんなに楽しいのか、何度死につつも復活した瞬間に狂った様に笑いながら突貫していく、不死者の可憐な嗤い声が響き渡っていたという。
周りのプレイヤーは、只々、その様を眺める事しか出来なかったとかなんとか。
「やっべぇな頭イカレてるわ、関わらんとこ」
その呟きは誰の物だったかは解らないが、多くのプレイヤーが静かに頷くのだった。
グ「もう許じてー! おがぁちゃーん!!」
ハ「ハーーイ。ワタシガ、ママヨーー!!」