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045 哀れな方の子羊

め”え”ぇ~~

「「「メ゛エ゛ェ~♪」」」

「「「スンスン(何だこいつ)スンスン(何だこいつ)」」」

「「「「…………」」」」

「あはは!♪」

「キャン!♪キャン!♪」


 俺達が狼に群がられる三匹の羊に微妙な思いを馳せる中、メルルとシロは二人で楽しそうに声を上げている。


 そんな哀れじゃない羊達は、メルルのテイムモンスターだ。メルルは『調教術』スキルを持ち、テイマーとして活動している。因みに以前教会前で別れる時に、彼女が羊と遊んで来ると言っていたのはどうやらテイムモンスターを探しに行っていたらしく、俺と別れた後すぐにテイムに成功したらしい。


 また、それに合わせて彼女の装備も変わっていて、今は杖の先端が輪っか状になりその中に黄金のベルが付いた杖を使っている。服装は髪と同じく淡いクリーム色をした麻の服の上に、所々金糸で装飾された鮮やかな緑色の可愛らしいエプロンドレスを着ていた。


 彼女自身は余り運動が得意では無いらしく、(もっぱ)ら戦闘は彼等に任せているらしい。その為彼女の戦闘力自体は余り高く無い。だが彼女のテイムモンスターは三匹供がレア種であり、その戦力は決して侮れる物では無かった。


 一匹目の名前はモココ、白い体毛に黒い地肌、側頭部に白い巻角が生えている。

 二匹目の名前はロココ、黒い体毛に白い地肌で角は真っ黒だ。

 三匹目の名前はノココ、灰色の体毛に灰色の地肌、角も灰色をしている。


 三匹共、その目はまるで寝むっているかの様に閉じられていた。


 スキルが『調教術』の為憑依術の様な補正等は無く、一体一体のステータスはシロよりも低いが、彼等はそれぞれが補う合う様に連携を得意としている。彼等は通称『トライシープ』と言われる極レアのモンスター達だ。


 光魔法を使い回復役(ヒーラー)補助役(バッファー)となる『ライトシープ』のモココ。

 闇魔法を使い魔法攻撃役(メイジ)阻害役(デバッファー)を兼任する『ダークシープ』のロココ。

 無魔法を使い前衛役(アタッカー)防御役(タンク)を熟す『ノートシープ』のノココ。


 彼等は三体セットという珍しいタイプのモンスターだ。


 そんな彼等の様子を眺めていたが、遂に狼達が我慢出来なくなったのか羊達に体当たりを仕掛け始める。だがしかし、それに羊達は一切同じる事無く受けて立った。というよりも微動だにせず、ただ立っているだけだった。それだけで彼等の豊かな体毛に阻まれ、狼達の体当たりはボヨンッと音がしそうな様子で跳ね返されている。


「「「メ゛エ゛エ゛ェェ~~♪♪」」」

「「「バウバウッ(何だこいつ)!♪バウバウッ(何だこいつ)!♪」」」


 狼達(我が子達)もそれが楽しかったのか、次々と尻尾を振りながら体当たりしてはコロコロと転がされている。良く見れば羊達も楽しそうに尻尾をフリフリと振っていた。どうやら本当に楽しんでいらっしゃる御様子。


「「「「…………」」」」

「あはは!♪ モココちゃん達楽しそうです!♪」

「キャン!♪キャン!♪」


 俺達が状況の変化に絶句し、メルルが自分のテイムモンスターがパッと見リンチにされているにも関わらず楽しそうに燥いでいる。ウチのシロも遂に耐え切れなくなったのか、俺の頭上から飛び降りて混ざりに行ってしまった。……あ、弾かれてコロコロ転がってる。シロも楽しかった様で尻尾をプリプリ振ってらっしゃる。ウチの子カワイ、尻尾フリフリ。


 そんな様子を眺めながら、俺はあの羊達について話題を振る。


「にしても、あれはかなりのレア種なんじゃろう? それを三体供テイム出来るとはのう。メルルは幸運の値が高いのかの?」

「いいえハクお姉さま! メルルは幸運は変えてないです! あの子達と出会えたのは本当にラッキーでした!♪」

「……あの子達に出会うだけでも、かなりの幸運なんだけどね。……しかもそれを一度で三匹共テイム出来ちゃうんだから、ホントにメルルちゃんは運良いよね」


 レア種をあっさりとテイム出来ている当り、幸運の値を上げているのかと思い問えばメルルの幸運は初期値である5のままらしい。まぁそんな事も有るかと思い聞いていたが、そのメルルの返答に、カノンは微妙な顔をしながら言葉を発した。俺はカノンの言葉も深く考えずに聞き、メルルに良かったなと言葉を贈る。そうすれば彼女は嬉しそうに返事を返してきた。


「ほほ~、ならばメルルが本当に運が良いんじゃなぁ。仲間に出来て良かったのうメルル」

「はいハクお姉さま! 無事にテイム出来て、メルルはとっても幸せです!♪」

「…………メルルちゃんは運が良いなんてレベルじゃ無いんですよ、ハクお姉さん。そもそもあの子達をテイムした時だって――」


 どうやらカノンはメルルの運の良さについて一言物申したい様で、若干の不満を滲ませながらカノンはメルルがモココ達をテイムした時の様子を語ってくれた。最初、彼女達は別のレア種である『グランドシープ』という一回り大きな羊を狙っていたらしい。だがそこで同じく羊のレア種を狙っている一期組の男性と現場で出会ったらしく、その彼に色々と話しを聞く事が出来た様だ。




『――僕が狙ってるのはトライシープって言われている、レア種の中でも特にレアなモンスターで、三体セットのモンスターが居るんだよ。と言っても出て来る時は一体ずつで、僕もまだ10体位しか出会えて無いんだけどね。しかもレア種は只でさえテイム率が低いんだけど、トライシープはレア中のレアだから更にテイム率が低くてね。未だに一体もテイム出来ていないんだよ~。まぁ焦っても仕方ないから、気長にのんびりやるつもりなんだけどね』

『そんなモンスターが居るんですね、知りませんでした。…………どうする? メルルちゃん』

『はい! メルルも是非その子達を仲間にしたいです! あ、もしかしてこの子達ですか! お兄さん!』


『…………』

『え? た、確かにその子達だけど……、同時に三体出て来る事何てあるんだ。一か月やってて始めてみたよ……。って、ん? まぁ、まずは体力を減らして、それからこのアイテムを――』

『そうなんですね! じゃあ早速試してみますね!『調教(テイム)』! ……あ、出来ました! やったー♪ 皆仲間になってくれましたよ! お兄さん! それじゃあ貴方がモココちゃんで! 貴方は――』


『え? え?? え??? う、噓でしょ? ……もうトライシープ揃えたって事? ……え???? た、体力減らしてすら無いよね? 僕の一か月は一体……』

『あ、あの、すいません……。メルルはこういう事良くある子で……、悪気は無いんですけど……、だからこそ悪いっていうか……。あの、本当にすいません。お兄さん……』


『い、いや……。全然良いんだよ? 気にしないで? ……は、はは、ははは。…………ごめん、僕今日は落ちるね。彼女にはおめでとうって言っておいて? ……それじゃ』

『……はい』

『――んーっと、んーっと。それじゃあ貴方はノココちゃんです! 皆の名前が決まりました! お兄さん!! ……あれ? カノンちゃん、あのお兄さんは?』


『あ、うん。今日はもう遅いから落ちるって。おめでとうって言ってたよ。うん……』

『そうなんですね! 解りました! じゃあ今度会った時にこの子達を紹介する事にします!』


『あ、いや……。当分は声掛けない方が良いんじゃないかな? うん……』

『そうですか? 解りました!――』




「――っていう事が有りまして。メルルは物凄く運が良いんです。このゲームだって私がやってるのを知って、自分もやりたい!って言ったメルルは、当たり前みたいに懸賞で当てちゃったんですから。……私、メルルとはもうソーシャルゲームをやるつもりはありません」

「なんでですか!? また一緒にやりましょうよ! カノンちゃん!♪」

「「「…………」」」


 ……カノンの話しが終わり、俺達の間には微妙な空気が流れている。どうやらメルルのテイム劇の裏にはもう一匹の『哀れな子羊()』が居たらしい。その子羊が良い人なのが余計に哀愁を誘うな。尻尾フリフリ。


 最後に付け加えられたカノンの言葉には実感が篭っていて、彼女は何処か遠い目をしている。それが更にメルルの幸運を印象付ける事に成ったが、メルル(当の本人)はそれに気付かず元気にカノンに話し掛けている。ソシャゲはガチャで大外れ(爆死)した横で大当たり(神引き)された日には人間関係にヒビが入るからな。一、二回ならまだしも、それを何度も繰り返されたらやってられないだろう。


 恐らくそんな事が実際に起こり、カノンはメルルとの関係性を保つ為にそれを避けたのだ。実に英断だと思う。ってかあの懸賞当てたのメルルかよ。確か景品一つに海外からも応募が殺到して、結局何十万って集まったとか聞いた気がするが……、そりゃあカノンも微妙な顔しますわ。リアルラックカンストしてんじゃねーかメルル。


 カノンの話しが終わった後、少しの間を置き各々話し始める。


「……リアルラックがバグっとるんじゃなぁ」

「……マジかよ、その運少し分けて欲しいぜ」

「……メルルちゃん幸運オバケだったんだね」

「……本人は当たり前の顔して幸運を引き寄せるので、結構ダメージを負うんですよね」

「そんな事無いです! 普通ですよ! ハクお姉さま!♪」


「「「……なるほどね」」」

「……はい」


 こんなに無邪気に見せ付けられると、文句も言えないしな。少し微妙な空気が流れるが、ゼンが空気を変える様に話しを振って来た。鈍感系主人公でもこの空気は読めたらしい。


「ま、まぁそれにしてもよ、まさかもうレベルもスキルも追い付かれる何てな。お陰で気兼ね無く戦えるんだけどよ。速過ぎだろハク」

「う、うむ。あちこち走り回ったからのう~。シロも燥いでおったからつい張り切ってしまったわい」

「そ、そういえば一度見掛けたけど、物凄く燥いでたねシロちゃん。ハクちゃんも楽しそうに笑ってたけど」

「はいはい! メルル達も一度見ました! ハクお姉さますっごく速くて楽しそうでした!♪」

「シロちゃんと一緒に楽しそうでしたねハクお姉さん。声掛けようとしたんですけどあっという間でした」


 ゼンが言う様に俺とシロのレベルは上がり現在レベル11に、スキルは俺が大体レベル4でシロが3に上がっている。そして追い付いたと言っている事から解る様に、二人一緒にプレイしているゼンとオトネは勿論の事、メルルも今はレベル11らしい。その為奇しくも今ここに居る二期組は全員のレベルが同じだった。因みに唯一の一期組であるカノンは現在レベル28らしい。


 カリィの時から四日で2レベルというと少ない様に感じるかも知れないが、ゲーム内は時間が二倍の速さで流れ、俺がログアウトしている間も時間は当然経過する。その為、実際のプレイ時間は三分の一程度だ。そしてその間、俺はゼン達に追い付くべく、あちこち走り回っては敵を倒しまくっていた。


 普通に歩いていては五分に一回程度しか敵と遭遇しないのだ。そしてゲーム内では幾ら走っても体力を消耗しない。そういった事もあり、自らの速さを生かしこの四日間はレベル上げに勤しんでいた。その時彼女達も言っている様に、シロがハールマーからの帰りと同じ様に燥いでいたので、俺もつい楽しくなり、張り切ってしまったのはご愛敬。


 だってシロが可愛いんだもの! 尻尾ブンブン!


 俺がレベル上げに張り切ったのは、ゼンに煽られたからというのもある。模擬戦でゼンに負けた際、奴は俺に『レベル差が有るから気にすんなよ♪』等とほざきやがったのだ。それに対して紳士な俺は『同レベルにして完膚なきまでにボッコボコにしてやらぁ!!』と返し、レベル上げに走った(ガチ)のだ。そして今回見事に勝利を収める事で勝ち越し、俺の方が強い事の証明を完了させたのである。尻尾フリフリ♪


 俺がこの四日間の事に思いを馳せているとオトネが疑問を口にし、それにカノンが答える事で二人が会話に夢中になる。


「でもレベルはまだしも、スキルレベル上がるの速過ぎない?」

「スキルレベルは多分、ハクお姉さんのプレイスタイルが原因だと思いますよ。オトネさん」


「そうなの? カノンちゃん。……あ~ハクちゃんが魔技(マジックアーツ)を使い熟してるからって事?」

「それも有りますね。例えばゴブリンを倒す時に魔術(スペル)一発で倒したとしたら経験値は魔法スキルに一回分の経験値が入るだけですけど、ハクお姉さんの場合はゴブリンを倒すのにも態々魔技(マジックアーツ)を使っているみたいなので、複合した分の経験値が一度に入る事になるんですよ」


「はえ~~。じゃあさっきゼンと戦ってた時みたいに三つも複合すれば、全部で三回分の経験値が入るんだね。そりゃ速い筈だよ~~三倍じゃん! ウチも今度からドンドン高等魔術(ハイスペル)を使っていこ!」

「あ、もうドンドン使えちゃうんですね……。はい、ドンドン使っちゃった方が良いと思いますよ、オトネさん。それとハクお姉さんの経験値が多いのは他にも有りますね。同じ技でも経験値の入り方に差が出るんですよ。ハクお姉さんやゼンさんは良く急所を狙いますよね? 急所に入った攻撃はクリティカルになってて、その場合得られる経験値にボーナスが付くんです」


「そうなんだ! じゃあゼンも経験値の増え方多いんだね~。それにハクちゃんは魔技(マジックアーツ)を使うから、普通に戦ってるウチより何倍も経験値が多いんだね。ウチも頑張らないと二人に置いて行かれちゃう! 教えてくれて有難うね! カノンちゃん!」

「ア、ハイ。普通かは解りませんが、頑張って下さいオトネさん」

「メルルも頑張って高等魔術(ハイスペル)使える様に頑張ります! 少しでもハクお姉さまみたいになりたいです!」


「うんうん! 一緒に頑張ろうね! メルルちゃん!♪」

「はい! オトネさん!♪」

「……うん。私も頑張ろう」


「……なぁ、あれって普通だと思うか?」

「いや全く? じゃが面白そうじゃから、あのままでよかろうよ」


 (中身が)男二人は女子会には混ざらずに聞いていたのだが、普段から自分が普通な事を気にしつつも、中々普通である事から踏み出せないオトネが、しれっと普通じゃない事をしつつ有る事に気付いていない様なので、それを黙って見守る事にする。カノンも気付いている様だが、興奮して難聴系スキルを発動させているオトネには届いていない様だ。どうなるか実に楽しみである。尻尾フリフリ♪


 ゼンによれば、オトネが自分を普通な人間で有ると思い込んでいるのは、彼女の剣術の師範である母親に幼少の頃から厳しく鍛えられた事が原因らしい。まぁ、俺はそこに剣術バカ(ゼン)も加わっていると思っているが。幼い頃から身近に居る二人が自分よりも遥かに強い為、自分の事を普通な人間だと思い込み悩んでしまっているのだろう。


 俺から見れば善良で魅力的な人物だと思うのだが、まぁ結局は自分がどう思うかなのでこればかりは難しい。そんな彼女が意識しないまま逸脱しようとしているので、良い刺激になるのではないかと思って放置しているのだ。


 決して! 面白そうだからではない! 決して!! 尻尾フリフリ♪


 そんな彼女は『SEVEN'S WALKER』を始めるにあたって、せめて種族を変えようと森人族(エルフ)にしたらしい。だが結局逸脱する事を恐れて、森人族(エルフ)の象徴でもある長い耳を短くし、無人族の様な見た目になってしまっているのだ。そして彼女のステータスやスキル構成も特に変わった物では無い。


 彼女の話によればステータスは魔法系が少し高いだけで、割と平均的に振っているらしい。そしてスキルも杖術に魔法とパッシブスキルを二つずつと、まぁ普通の構成だ。加護に関しても全ステータスを20%アップする『ティエンの友愛』という加護を選んでいるらしく、効果自体は合計すれば160%と高いが、突出した物の無い構成は確かに戦い辛さを余り感じない。まぁそれでも、強化スキルによって魔力はそれなりに高くなっているので十分脅威ではあるのだが。


 そんなアバターも構成も普通なオトネは、自分が既に高等魔術(ハイスペル)を使える様になっている事を普通だと思っている様だ。だが先日カリィが見た事が無いと言っていた様に、この技術は一期組だって使える者がまだ少ない技術なのだ。カノンは使える様で彼女の高等魔術(ハイスペル)も一度見せて貰ったが、他のプレイヤーはこの技術の存在自体、知らない可能性も有る。


 その可能性も考慮し、俺はこれらの技術を切り札として秘匿している。レベル上げに奔走した時も極力見られない様には気を付けたのだ。その為、見た事が有るプレイヤーは彼等四人とカリィにヨーゼフ殿位だ。……あ、後グー助も一応知ってるな。見た瞬間に首が飛んだので理解出来たかは別だが。


 その為、割と非常識な技術になると思われるが、常識に縛られ普通で有る事に悩むオトネの周りには、その非常識を会った時から当たり前に使う俺とカノン、武技(アーツ)魔術(スペル)を持っていない非常識なゼンしか居ない。今はメルルも居るが彼女とはまだ会ったばかりであり、また彼女は調教師(テイマー)だ。自分で戦うタイプでは無いメルルは、オトネの中では例外に位置するのだろう。


 オトネを囲う非常識(俺達)のせいで、彼女は自分の持つこの世界での常識が、非常識に侵食されている事に気付いていないのだ。実に由々しき事態である! 尻尾フリフリ♪


 俺はオトネの常識が死に掛けている事を尻尾を振りながら深刻に考えつつ、シロ達の様子を見遣る。


「「「メ゛エ゛エ゛エ゛ェェェ~~~♪♪♪」」」

「「「バウバウッ(何だこいつ)!♪バウバウッ(何だこいつ)!♪バウバウッ(何だこいつ)!♪」」」

「キャン!♪キャン!♪キャン!♪」


 彼等は未だに突進トランポリンを楽しんでおられる様だ。突進トランポリンって何だ。シロもボヨンと弾かれては何度も突進を繰り返している。その際、周りの狼達が鼻先でシロが立ち上がるのをサポートし、シロもそれを大人しく受け入れる。そうして起き上がっては、嬉しそうに尻尾を振り乱しながら彼等に鼻先を合わせる事でお礼をしていた。


 ウチの子が! 可愛すぎる!! 楽園はここにあったのだ!!! 尻尾ブンブン♪


 尚、あの場で一番強いのは俺の憑依スキルと加護により、ステータスが三倍に膨れ上がっているシロである。一番可愛がられているシロが一番凶悪なのが笑えるな。実際シロが突進する時にはモココ達はシロにバレない様にちょっと踏ん張っているのだ。お姉さん達は末っ子に恰好を付けたいらしい。健気だな。尻尾フリフリ。


 俺が彼等の様子を見ながら尻尾をフリフリしていると、お喋りが一段落したのかオトネが俺の方をチラリと見てから何時もの噂話をし始めた。……何だ?


「……実は今、ハルリアで一つの噂話が上がっているんだけどね?」


 俺達は彼女の噂話に大人しく耳を貸す。彼女は何処で調査しているのかは知らないが、色々な噂話を良く教えてくれるのだ。それは下らない噂話から、お得な攻略情報までと多岐に渡る。本来、攻略情報についての情報規制が激しい『SEVEN'S WALKER』の世界において、そんなに簡単に調べれる物でも無く、だからこそオロバスの様な情報屋が産まれる世界なのだが……。


 飽く迄も噂話に留まる為真贋入り乱れているが、それでも参考には成る為無視は出来ない。まぁ、そもそも友達の話しを無視するつもりも無いが。只、今回の彼女の話しは何時もの噂話とは少し毛色が違った様だ。彼女は俺達を見回し、全員が耳を傾けている事を確認すると静かに語り出す。


「……それは月が良く見える、……静かで晴れた夜の出来事だったらしいの」


 彼女のいつもの明るさは鳴りを潜め、表情は暗く声は沈んでいて、それでいて不思議と良く通る声だった。それはこの場の陽気を打ち消すかの様に、とても静かな語り出しで始まる。その突然変わった雰囲気に口を挟む事も出来ず、俺達は思わずゴクリと生唾を飲み込む事しか出来なかった。


 ……え? 何急に、怪談始まっちゃうの? わくわく♪

オ「怖いなぁ~、怖いなぁ~……と思いながら近付くと――」

ハ「いや、稲川〇二!」

オ「テヘ♪」

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