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042 ほ~れほれ、食べて良いぞ~♪

「……私はカリスト。カリスト・レインディア、だよ。……カリィって呼んで」


 お互いに名乗り有った事で、俺は早速先程のポーションについての商談を始める。効果の高いポーションは出来る事なら手に入れたいのだ。


「うむ、宜しくのう。……して、先程のポーションを売って貰えるのであれば、また来る分には構わんが。あれは売り物じゃろうか?」

「……ううん。今のはお試し用。普段はSPとMPを500回復する物を売ってる。……全部同時に500回復する物も有る、よ」


「なっ!? 全部とはHPも含めて全てと言う事か? かなり見て回ったが、そんな物は一度も見ておらんぞ?」

「ワウワウ!♪」

「……ふふん♪ 作れるの私だけ。作り方は内緒。でも、余り数が作れない、の」


 そうして気軽な気持ちで始めた商談に、彼女は爆弾を投下する事で答えた。俺の驚いた様子がシロは楽しかった様だ。以前にも話したが、ポーションは連続して使用する事が出来ない。使用した後に効果の現れない冷却期間(クールタイム)が10秒程存在するからだ。この期間中に追加でポーションを服用した所で、その効果が発揮される事は無い。


 そしてこの冷却期間(クールタイム)だが、全てのポーションで時間が共有されるのだ。つまりHPポーションを飲んだ後、直ぐにSPポーションを飲んでも回復はされない。それぞれを回復したい場合は、その都度冷却期間(クールタイム)が終わるのを待つ必要が有るのだ。


 その点、彼女の言う全部を回復するポーションは、一度の服用で全てのステータスを回復する事が出来る為、大幅な時間短縮となり戦況に大きく影響する事だろう。俺だってホブゴブリン戦の際にHPポーションを使用したが、その冷却期間(クールタイム)が明けたのは結局戦闘が終わった後だったのだ。


 もし仮に、あの時そのポーションを使っていれば、武技(アーツ)魔術(スペル)をもっと使う余裕が生まれ、あの戦いはずっと楽に終わっていた事だろう。或いは彼等に逃げられ憂いを残す事も無かったかも知れない。


 これは是が非でも欲しいが、そんなアイテムは当然誰もが欲しがる物だ。SPやMP単体を回復するポーションでさえ高騰している現状、それはどれだけ高くなっていても可笑しくない。俺はそう思いながら彼女に恐る恐る尋ねた。


「うう~む、それはかなり欲しいが。……当然高いじゃろう?」

「ワウワウ~」

「……うん。SPとMPの方は一つ10万Y(ユグル)。全部回復するのは50万Y(ユグル)だ、よ。……これでも売れるから値下げはしない、よ?」


「……やはり高いのう。今の手持ちでは買えんわい」

「……ワウ~」

「……こればっかりは、シロちゃんが可愛くても、ダメ」


 恐る恐る聞けばやはり値段は高く、それを聞いたシロも落ち込む様な声を出していた。それを見てカリィは少し気まずそうにしていたが、それでも商売については妥協する気はないらしい。その姿勢にはプロとしての拘りが伺え、寧ろ好感が持てるので俺としても無理に値切るつもりは無い。俺はその答えを聞き、腕を組み顎を触りながら考える。


 1.6倍の効果で値段は倍になっているが、半分の効果で同じ値段で売っていた詐欺師も居たので全然良心的に見える。というよりも実際良心的な値段設定だろう。ポーションに冷却期間(クールタイム)が有る以上、一度の服用で多く回復する物が求められる。そうなれば需要は増え、効果が上がる毎に値段は跳ね上がって行く事だろう。


 また全項目を同時に回復するポーションに関しても、各ポーションを合わせた値段の倍以上になっているが、これもそこまで高くないだろう。俺は先程話したホブゴブリン戦で、大体100万近い利益を得る事が出来ている。


 もしこのポーションを使い、リーダーとシーフを逃がす事無く仕留められて居れば、ドロップ品とイベント評価の関係から得られる利益は、更に倍以上になっていた可能性が有るのだ。そうなれば利益は100万以上増える事になるので、50万出費が増えていても黒字になる。結局は使う状況次第なのだ。


 それにMPが500回復するのであれば、シロとの憑依時間も50秒伸びる事になる。全力戦闘で考えれば当然短くなるが、冷却期間(クールタイム)の10秒位はギリギリ持つだろう。そうなれば極論、憑依状態を維持したままの戦闘が可能になるのだ。まぁ、お金が湯水の如く吹っ飛ぶ事を考えれば、当然常用は出来ないが……。つらたん。何処かに油田でも無いだろうか?


 ポーションを買う前で有れば75万Y(ユグル)有ったので、ギリギリ一本ずつ買えたんだがな~と思いつつ考えを巡らせる。とはいえ諦めるかどうかは話が別だ。俺の目的は金を出して買う事じゃない、ポーションを手に入れる事だ。お互いが納得出来る形で取引が出来るのであれば、無理に金を使った取引に拘る必要は無いのだから。


 そこでふと、以前冒険者ギルドで見掛けた依頼を思い出す。ポポルとフェリアの実を、通常の倍の値段で買い取るという納品依頼だ。その値段設定の類似性から、俺はあの依頼は恐らく同じ人物から出された物だろうと考えている。仮に彼女が依頼者だったとして、彼女ならば()に倍の値段を出した所で大きく利益を得られるだろう。そして、先程ポーションを飲んだ時のシロのリアクション……。


 シロの嫌いなポポルの実が使われているにも拘らず、シロははっきりとは拒否しなかった。もしかして、シロの好物であるフェリアの実も使われていたんじゃないだろうか? ポポルの実(嫌いな物)フェリアの実(好きな物)を同時に味わった事で、結果微妙なリアクションになったのでは? 或いはフェリアの実(好きな物)ポポルの実(嫌いな物)で台無しにされたのが悲しかったのかもしれない。


 もし、このポーションを作るのにどちらも数が必要なので有れば、俺は今そのどちらもそれなりに数を持っている。態々(わざわざ)倍の値段で依頼を出している辺り、物が手に入らなくて彼女も困っているのだろう。そして、シロと契約したあの場所はそのどちらも数が取れる穴場だ。他のプレイヤーよりも、俺は圧倒的に仕入れるのが楽だろう。あそこはフェリアの実が多く取れるから、シロに渡す分も確保出来る。


 そしてフェリアの実は、大体ポポルの実100個に対して1つ取れる位の割合だ。納品依頼も100個と1つの比率だった。この割合がもしレシピに関係しているのだとしたら……


「……ふむ。時にカリィよ。ギルドにポポルの実の納品依頼を出しておるのはもしやお主か?」

「……うん、そう。あれでも中々集まらないから、数が作れない、の」


「……ならばもしや、このポーションにはフェリアの実も使っておるのではないか?」

「……むぅ。作り方は教えない、の」


 問えばやはり依頼主はカリィだった様だ。フェリアの実についても問うが、此方は嫌そうな顔をして拒否されてしまったのでアプローチを変える。別にレシピが知りたい訳では無いのだ。


「……ふむ。……これは独り言何じゃが、ワシはフェリアの実をそれなりに手に入れる事が出来てのう。今もインベントリに8個程有るんじゃが、誰かこの実と特製ポーションを交換してくれる者はおらんじゃろうかなぁ。ポポルの実も今なら700個程持っとるんじゃがな~」

「ワフ!ワフ!♪」

「……!?」


 俺の独り言にシロはただ『そうだね!♪』という様な同意の意思を返し、彼女は眠そうな目を見開き解り易く反応を返してくれる。その事に気分を良くした俺はシロを地面に降ろしながら、彼女を煽る為にシロに一つフェリアの実を与える事にする。尻尾ゆらゆら。


「うむ? なんじゃシロ。フェリアの実が欲しいのか? ほ~れほれ、食べてよいぞ~♪」

「ワフ!♪ワフ!♪ ハグハグハグ♪♪」

「……!?!?」


 シロは全くそんな事は言っていないが、好物のフェリアの実を出された事で迷い無く、嬉しそうに食らい付いた。俺はそんな可愛いシロを撫でつつ、彼女の様子をチラリと伺う。


 俺はフェリアの実を一杯持ってるけど、別に死蔵している訳では無いんですよ~? 尻尾フリフリ♪


「おっと、これでフェリアの実は残り7個になってしまったのう。シロはこれが大好物じゃからなぁ~。まぁ無くなればまた取りに行けば良いだけじゃ。直ぐにまた集めてやるからの~シロ♪」

「キャン!♪キャン!♪ ハグハグハグ♪♪」

「……!?!?!?」


 ああ~これで数が減っちゃったけどシロの為なら惜しくないし、別に珍しい物でも無いから何時でも集めてあげるからね~♪♪


 そんな俺の胡散臭いやり取りにシロは気付く事無く、大喜びで実を食べ続ける。それを横で聞いていた彼女は大層良いリアクションを見せてくれた。尻尾ブンブン♪


 彼女のリアクションに俺は自分の考えが正しい事を確信し、ワザとらしく取引を持ち掛ける。


「あ~~、何処かにポポルの実100個とフェリアの実1個の2セット分と、ポーション一つを交換してくれる可愛い女の子はおらんかの~~♪」

「ワフ!ワフ!♪」

「……むぅ。もう良いの。バレたのは解ったから、もう下手な芝居はしなくて良いの」


 俺の考えは合っていたらしく、彼女は諦めた様に肩を落とし言葉を放つ。どうやら数も合っていた様だな。俺は別に彼女との関係を悪くしたい訳では無いので、対等な関係になれる様に半分ずつで分けてくれないか? と提案をしたのだ。


 俺が実を集めてくる代わりに、彼女はその実で作ったポーションの半分を俺に返し、残りの半分で利益を出すのだ。彼女は待つだけで実が手に入るので、悪くは無い取引だろう。


 俺だって不良在庫が貴重なポーションになるのだからWin-Winな関係だな!

 HAHHAHHA! ハクちゃん賢い!♪ 尻尾フリフリ♪


「はっはっは♪ 何の事やらさっぱりじゃな~シロォ?♪」

「ワウワ~~ウ♪♪」

「……むぅ。シロちゃん可愛くてズルいの。抱っこさせて?」


「うむ、それはシロに聞いておくれ、ワシが勝手に決めるつもりは無いでの」

「……むぅ。シロちゃん、抱っこして良い?」

「キャン!♪キャン!♪」


 思惑が上手く行って無駄に勝ち誇る俺に対して、自分の秘蔵のレシピがバレ掛けている事で彼女は若干不機嫌そうに顔を膨らませ、少しでも取り返そうとシロの抱っこを要求してくる。確かにシロは俺のテイムモンスターだが、俺はシロを相棒として見ている。なので俺の一存でシロの事を決めるつもりは無い。シロに直接聞く様に促せば彼女はシロの目を見て問い掛け、シロは『いいよ!♪』という様に嬉しそうに吠えていた。


「ふふ。よいそうじゃよ。思う存分可愛がってやっておくれ」

「キャン!♪キャン!♪」

「……うん。ありがと。シロちゃん可愛い♪」


 シロの了承の意を受け、俺はシロが乗っている肩をカリィに近付ける。そうすれば彼女は両手で大事そうにシロを受け取る。その時後ろから見えたシロの尻尾はブンブンと振り回されていた。ウチの子カワイ♪ 尻尾フリフリ。


「そうじゃろう、そうじゃろう♪ ウチの子は世界一可愛いからのう」

「……うん。シロちゃん、宇宙一可愛い♪」

「キャン!♪キャン!♪」


「はっはっは♪ その通りじゃとも!♪」


 そのまま彼女はシロを胸に抱き、眠たそうな目をしたまま嬉しそうにシロの事をゆっくりと撫でていた。シロもとても満足そうである。そんな二人を眺めつつ、俺とカリィはシロの可愛さに酔いしれるのだった。そうして少し彼女の自由にさせた後、そのままカリィに商談の続きを促す。


「それで、取引は受けて貰えるんじゃろうかの?」

「……うん。いいよ。さっきの内容なら損しないか、ら」


「うむうむ、それは何よりじゃ。それでは手持ちの7セット分を渡してしまおうかのう。それで三つ分のポーションが欲しいんじゃが、よいじゃろうか?」

「……うん? それだと1つ分私の方が多い、よ?」


 俺は今、手持ちに丁度ポポルの実700個とフェリアの実が7個あった為、悪巫山戯をした詫びとして余りの1セット分彼女に多く渡す事を提案する。どうせ狼の森に行けばそれなりに数は集まるのだ。下手に彼女との関係を拗らせたままにするよりも、礼を兼ねて今回は彼女との関係を友好な物にするべく、身銭を切る事にする。まぁ身銭を切ると言っても、これでも全然取引としてはプラスになるので、損をする訳でもないが。


「なに、構わんよ。無理に聞き出す様な真似をしてしまった詫びじゃ。どうか気にせず受け取ってはくれぬかの? カリィよ」

「……むぅ。解った。ありがとうハク。それでどうする、の? ……全部回復するのは、1セットで三つしか出来ないけど。他は1セットで10個出来る、よ?」


「ほお、思いの外出来るんじゃな。……そうじゃなぁ、丁度三つ分じゃから、それぞれ一セットずつ貰えるじゃろうか?」

「……うん。解った。それじゃあ交換(トレード)申請する、ね?」


 三つ分全てを、全部回復するALLポーションに変えても良かったが、正直これはいざという時に使う物になる為逆に使い辛い。という訳でHPポーション以外の三品種を、それぞれ1セット分交換して貰う事にする。因みに彼女がHPポーションは扱っていないと言ったのは、HPポーションは普通に店売りされていて高騰しておらず、儲けが少ないからだ。同じ材料を使って、態々利益の出ない物を作る必要も無いだろう。


「うむうむ♪ 宜しく頼むぞ。……そうじゃこれも使うのではないか?」

「……むぅ。そう。もうほとんどバレてる。でも製法は教えない、よ」


 彼女から取引申請が届き、いざ交換画面に二つの実を登録している時に、同じく狼の森で採取した各種薬草類が目に付いた。ふと周りの畑や、彼女が最初に持っていて未だに放置されている籠を見遣れば、そこからは見覚えの有る薬草類が顔を出している。恐らくそれらも使うのだろうと思い、どうせだからと手持ちのそれらも全て取引画面に突っ込んで登録ボタンを押した。


「別に構わんよ。ワシが持っていても仕方ないからの。使うのであれば役立てて貰った方が良かろうて。貰っておくれ」

「……むぅ、解った。それならこれ上げ、る」


 どうやらまだポーションの製造には秘密が有る様だが、別に聞き出す必要も無いので聞き流す。そうすれば彼女からお返しにと、今追加で登録した『デポク草』を使った『下級解毒ポーション』が、10個交換画面に追加された。これは『物毒』の異常値を50下げてくれるポーションだ。解毒薬については後回しにしていて、まだ持っていなかったので有難く頂く事にする。


「うむ? おお! そういえばまだ持っておらなんだな、助かるぞカリィ」

「……ふふん♪ 私は出来る鹿な、の♪」


「うむうむ、カリィはまるでプレゼントを運ぶトナカイの様じゃな!」

「……そぅ、カリィは一流のトナカイを目指す、の♪」

「キャン!♪キャン!♪」


 俺が喜び感謝の言葉を告げれば、彼女は胸を張り眠そうな目をしたままドヤ顔を晒す、器用な表情をしながら言葉を返して来た。どうやら彼女は、自身が鹿で有る事に何やら思い入れが有るらしく随分と強調している。


 俺達は軽く巫山戯合いながら、取引を完了させた。シロもその雰囲気を察して『ボクは一流の狼になる!♪』とでも言う様に楽しそうに吠えていた。


 二人で一緒に一流の狼になろうな~シロ♪ 尻尾ブンブン♪

シ「キャンキャン!♪(精霊王に、ボクはなる!)」

ハ「待つんじゃシロ! 何か良くない言い回しをしておる気がするぞ!」

カ「……トナカイ王に、私はなる、の♪」

ハ「待たぬかーー!?」

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