040 ホントだヨ?
話は再度ハルリアへ、ちょっとした日常回。
「……やはり高いのう~シロ」
「……ワフゥ」
俺達は山間の村『ハールマー』から無事に帰り、今はハルリアの露店や店舗を巡りSP、MPのポーションを見ている所だ。因みに帰りは特に問題無く帰って来られた。それ処か街道に魔物が出て来る頻度も格段に落ちていた位だ。どうやら護衛依頼中はプレイヤーを飽きさせない様に、敵のポップ率が上がっているらしい。
結局途中で普通に歩く事に飽きた俺は、シロを頭に乗せてどれ位走り続ける事が出来るか試す事にした。薄々気付いてはいたが、どうやらどれだけ運動してもこの世界では疲れる事もシステム的に走れなくなる事も無い様だ。その結果楽しくなった俺は町まで走り切り、帰りは30分と掛からずに帰ってくる事が出来た。
『キャン!♪キャン!♪ キャーーーン!♪♪』
『はーっはっはっはー!♪ 楽しいかーー! シローーー!♪♪』
帰って来る時、その速さが楽しかった様でシロは大喜びで尻尾を振り乱しながら吠え、シロが喜んでいる事で俺も大喜びで尻尾を振り乱し、笑いながら走っていた。途中何度か擦れ違った人達が俺の事を奇異の目で見ていた気もするが、きっと些細な事だろう。……些細な事だろう!!
そんな事をしながらさっさと帰って来た俺は、そのまま露店を巡りポーションを探して回った。とはいえ既に買い物は済ませている。色々見て回ったが、結局5万が最安値だったのだ。なので下級SPポーション(SP300回復)と、下級MPポーション(MP300回復)をそれぞれ予定通りに三本ずつ買い、俺の財布は30万Y分軽くなってしまった。……尻尾しょぼ~ん。
因みに、一本10万超えで売っている店もあった。効果が高いのかと思い見てみれば寧ろ効果は低く、回復量としては150程度と糞みたいなポーションだった。効果は半分で値段は倍って詐欺かよ、絶対売れないだろ。騙されて買いそうな初心者はあれを買えるだけの余裕は無いだろうし、あれを買うだけの余裕が有るプレイヤーなら恐らく騙されない。
その時に『ブラックリスト』機能が有る事に気付き、俺は黙ってその店の店主をブラックリストに登録し店を後にした。ブラックリストへの登録は簡単に出来る。『セブンスリング』を操作するまでも無く、相手を見て登録したいと思うだけで確認画面が開くのでそのまま登録するだけだ。これで相手の頭上には黒く『◆』マークが追加され、相手は基本的に此方に干渉出来なくなる。
まぁ、犯罪者入り覚悟であれば干渉出来る様なので、PK等には使えない様だが……。今度カノン達にも教えておくか、あの子はそもそも帽子でキモブが見えて無かっただろうし、性格上登録する事に躊躇しそうだ。気にせずガンガン登録してしまえと言っておこう。メルルはそもそも余り気にしなさそうだけどな。
俺はレッグストラップに差していた、支給品最後の低級HPポーションと下級ポーション一本をポーチに移し、購入したSP,MPポーションはそれぞれ足のベルトと、ポーチ、インベントリに一本ずつ分けて収納した。これでレッグストラップには一種類ずつの合計3本と、ポーチにはHPポーション4本とSP,MPが一本ずつの計6本分満載された事になる。これで取り敢えず装備は整ったかな?
ポーチにはまだ、ポーション四本分を合わせたスペースが残っているので、そこに何を入れようかと悩む。ミコトにお願いして仕切りを追加しポーションを増やすのも有りだし、シーフが最後に使った様な爆弾を入れるのもありだな。こうやってあれこれ考えるだけでも楽しく、俺は無意識に頬を緩めながら尻尾を振っていた。
アクセサリ枠については二つまで装備出来、一つはミコトに作って貰った『氷精樹のブレスレット』を付けているが、もう一つは最初にアイシャから武器の代わりに貰った木製のブレスレットをまだ付けている。因みにこのブレスレット、名前は『アイシャのブレスレット』である。
……変なとこで主張してくんなよアイシャァァァ!!
俺は頭の中で『アイちゃんでぇす!♪』という、嬉しそうなアイシャの幻聴を努めて聞き流す。……ただこれ、武器の代わりだからなんだろうが意外と性能が良いんだよな。効果としては『俊敏+5』と高くは無いが、店売りの物を眺めても俊敏を5以上、上げる物が無かったのだ。
因みにその詳細は――
『◆アイシャのブレスレット
等級:★★★☆☆☆☆
説明:サポートAIアイシャがハク用に作った木製のブレスレット。
僅かに俊敏を上げる効果が有る。
効果:俊敏+5 』
――となっている。初期装備としてはレアリティがかなり高いが、そもそもステータスを上げる様な、魔法的加工がされたアクセサリー自体レアリティが星三以上だ。その為、物自体も滅多に見掛ける事が無いので未だに使い続けているのだが……。まぁ、他の装備は整っているので急ぐ必要も無いだろう。
「これ以上は探しても仕方ないのう、少しのんびりするとしようかの、シロ」
「ワフ!ワフ!♪」
一通り露店を巡り満足したので、シロと少しのんびりしようと思い提案する。そうすれば、シロは嬉しそうに尻尾を振り回して『やったー!♪』とばかりに返事をした。シロかわよ、尻尾フリフリ。
俺はシロを頭に乗せて広場へと行き、広場の露店でコーヒーとミルクを一つずつ、ケーキを二つ買い開いてる席へ行き、シロをテーブルに乗せる。
「ワフ!ワフ!♪」
「待て待て、直ぐに用意するでの」
シロは『早く早く♪』という様に、尻尾をブンブン振り回しながら催促してくる。俺はそれに苦笑を浮かべながら席に付き腰を落ち着けてから、シロの前にケーキとシロ用の木の器を出し、ミルクの中身を移し替える。そうすればミルクの入っていたコップは砕けて消えるので、ゴミは残らない。その為、広場はかなりの利用者が居る割にゴミ一つ落ちてはいないのだ。
シロがケーキの前で涎を垂らしながら、お利口にお座りして待っているのを微笑ましく思い、横目に見つつ自分の分も用意して準備を整える。普通の犬に人間用のケーキは非常によろしくないが、まぁここはゲームの世界だしシロは精霊だ、別に問題もないだろう。そう思いながら手を合わせ挨拶をする。尻尾フリフリ。
「頂きます」
「ワフワ、ハグッ!♪」
シロも一緒に挨拶をするが、言い切らないままケーキに顔を突っ込んだ。間違いなく顔はべちゃべちゃだろう。その様子も楽しみつつ俺も自分のケーキに手を付ける。ケーキは柑橘系のショートケーキで、酸味と甘みのバランスが良くとても美味しい。その甘みを口に残したままコーヒーを含み、苦みと甘みの調和を楽しむ。ケーキにはフォークと皿も付いているが、これも食べ終われば消えてしまう付属品だ。
「ふふっ♪ おいしいか? シロ」
「キャン!♪キャン!♪ ハグハグハグ!♪♪」
ケーキを楽しみつつシロに声を掛ければ、シロは案の定クリームでべちゃべちゃになった顔を持ち上げて嬉しそうに一吠えし、直ぐ様ケーキへと戻る。その後ろでは絶えず尻尾が振り乱されていた。その様子を見て俺も微笑みながら尻尾を振り回す。シロかわい♪ 尻尾ブンブン♪
シロの様子をコーヒーを飲みながら眺めていると、ケーキを食べ終えたシロが今度は間髪入れずにミルクへドボン! と豪快に顔を突っ込んだ。
「ぶっw」
「ワフゥ?」
その光景に思わず笑うと、シロは一度顔を上げ不思議そうに顔を傾げる。その顔からは、ナイアガラの滝の如くミルクが滴っていた。その様子に再度笑いつつ『何でもない』と返せば、また直ぐにミルクへと豪快に顔を突っ込む。ウチの子は随分と食いしん坊の様だ。尻尾ブンブン♪
「ほれシロ、ア~ン」
「ワゥ? アン!♪ ハグハグ!♪」
俺はコーヒーを飲みつつ最後の一欠けのケーキをフォークに刺し、言葉と共にシロへと献上する。ミルクから顔を上げたシロは、顔からミルクをボタボタと垂らしつつ首を再度掲げる。最初は解らなかった様だが、目の前に差し出されたケーキを見ると直ぐ様フォーク毎咥え、口を引き抜くとハグハグと最後のケーキを楽しんでいた。この光景はいくらでも楽しめそうだなと眺めながら、コーヒーの香りを楽む。尻尾ブンブン♪
「キャン!♪キャン!♪」
「そうかそうか、美味しかったか~シロ♪」
シロはミルクも飲み終えると顔を上げ、『美味しかった!♪』という様に声を上げる。その瞬間にケーキの器は消え、ミルクの入っていた皿とシロの顔も綺麗になる。便利な世界だな~ホント。
シロの顔が直ぐに元通りになった事を少し残念に思いながらも、綺麗になったシロの顔を言葉と共に撫で繰り回す。シロはそれに大喜びし、直ぐ様腹を見せてはテーブルの上でクネクネしつつ尻尾を振り回していた。カワユイカワユイ♪ 尻尾ブンブン♪
一通り撫でて満足したので、インベントリから干し肉を一つ取り出し、小さなシロに合わせる様に千切りながらシロへと与える。それも美味しそうに食べるシロを見て、護衛依頼での出来事で疲れた気持ちが癒されるのを感じていた。……どんなポーションよりも、ウチの子は凄い回復役だな。尻尾フリフリ♪
「さて! レベル上げにでも行こうかの! シロ!!」
「ワン!ワン!♪」
シロに癒され満足したので、まだ時間に余裕も有る事からレベル上げをしようと思い席を立つ。シロもヤル気十分の様で、その小さな四肢で力強く立ち上がり、『頑張るよ!♪』とばかりに吠えていた。そんなシロに笑顔を返し、シロを持ち上げ肩へと乗せる。そうすればシロは自らフードの中へと移動し、フードを足場にしながら俺の肩に寝そべる様にしながら立ち上がり前を見ていた。
「ではゆくぞ~! シロ!」
「ワフ!ワフ!」
シロを搭乗者に添えハクロボットは進撃を開始する、目指すは西の草原だ。小鬼の森でも良いのだが、今はちょっとゴブリンに会いたくなかったのでまだ行っていない西へと向かう。そちらには見渡す限りの草原に、馬や鼠、羊などに似た魔物が長閑に闊歩している。余り積極的には此方を襲って来ない為初心者向きで有り、東の平原に居る個体よりは少しレベルが高いので、レベル上げとしても丁度良いのだ。そう思い西の草原に向けて大通りを歩く。
それから通りを半分位来た辺りで、裏路地へと入る人影が目につく。そういえば以前、路地裏で掘り出し物でも探そうと思ったまま行っていなかったな……、と思い興味が湧く。
「シロ、ちょっと路地裏を見に行っても良いじゃろうか」
「ワフ!ワフ!♪」
肩越しにシロに問えば『路地裏楽しそう!♪』とでも言う様に元気な返事が返って来た。その答えに気を良くし、左手の路地裏へ向けて小さな冒険へと繰り出す事にする。尻尾フリフリ♪
「思ったよりも綺麗じゃの~シロ」
「ワフ!ワフ!」
裏路地に入ればそこは別に寂れた場所という訳でもなく、建物が近い為少し影は多いが薄汚れているという事も無かった。表通りから外れる事で喧騒は薄れ、影が多い事で涼し気な空気が漂っていて落ち着いた雰囲気を漂わせていた。もっとスラムの様になっているかと思ったが、そうでも無いらしい。まぁ、流石に初心者が集まる最初の町でスラム街は作らないかと思い直す。
当然、通りから外れた事で露店の数は格段に減ったが無くなった訳でも無く、少し開けた所にポツポツと見掛ける事が出来た。そしてこの辺りでは、露店も含めて魔法系の道具を扱う店が多い様だ。そういえば、南西エリアには魔術ギルドが有るんだったか。であれば、このエリアには魔法関係の建物が多いのだろう。もしかしたら、ポーションを扱う専門店や魔法的な面白い道具もあるかも知れないと気持ちを昂らせる。
「何か面白い物でもないかの~シロ」
「ワウワウ~♪」
シロとお喋りしながら通りを練り歩く、露店や店に並ぶ商品は正に魔道具と言った代物達だった。MPを消費する事で水を出したり、火を起こす様な野営用のアイテムから、攻撃に使える過激な物まで多種多様だ。風魔法を利用して、桜が舞う広場の様子を再現した囲いの無いスノードームの様なオブジェも有り、路地裏では冒険に使う以外の娯楽用品も有る様で中々に見ていて楽しかった。
「裏通りは娯楽用品が多い様じゃな~シロ」
「ワフ!ワフ!♪」
魔術区画には他にも、スキルショップとカードショップが有った。どちらも読んで字の如くだ。ここはオロバスも言っていた様に始まりの町であり、恐らく売っているのは初めから手に入るスキルだろうと思い中には入らなかった。中に入っちゃうと余計な物が欲しくなっちゃうからね。
それでも外から眺めた店内には、巻物やカラフルな表紙に魔法陣が描かれた魔導書が並べられていて、まるで異世界にでも来た様な感覚を味わう事が出来てとても楽しかった。いつか拠点が出来た時には、ああいった魔導書を家に飾るのも楽しそうだと思いを馳せながら後にする。
カードショップは、俺も二枚持っているカードを扱うお店だ。
此方も中には入っていない、中に入っちゃうと(以下同文。
お店の窓には外からでも見える様に商品が飾られ、そこにはゼンも持っていると言っていた☆1のゴブリンカードも売られていた。同じカードでも種類が有るらしく、ゴブリンのカードは筋力か体力のどちらかを+1してくれる様だ。そしてお値段は驚きの5万Yだ。高い。
まぁ滅多に出る物では無いらしいし、僅かでもステータスを上げてくれる貴重な代物だ。正直買っても良かったんだが、1上げても仕方ないので結局止めた。別に焦る必要も無いだろう。一枚は使えないとはいえ既に三枚も高レアのカードを手に入れているのだ。何時か、自力で五枚揃える事を夢見るのも楽しいだろう。
因みに、☆2のカードは50万Yと☆1から十倍の値段に跳ね上がっていた。もうこの時点で既に買えない……。そして、俺も二枚持っている☆3のカードは更に十倍の500万Y……。店売りだと十分の一にしかならないが、手数料を払い自分で露店を開けば500万で売れるカードが二枚あるのだ。
その事に気付きゴクリと喉を鳴らすが、シロと契約した記念品の精霊カードを売るつもりは毛頭無いし、悪鬼のカードも何か祟られそうだから手放すつもりは無い。……というか、最高レアであるフルール殿のカード何て一体いくらで売れるんだ。
仮に売るとしても露店じゃなく、何処かに有るだろうオークションになるだろう。下手すれば億超え……、いや、下手しなくても確実に超えるだろう。そんな物を持っている事に若干ビビりつつ、僅かな優越感に浸る。尻尾フリフリ。
まぁ絶対に売らないし、何なら持ってる事がバレても絶対に面倒な事になるから、人にも言わない事を固く決意する。ゼン達は知ってるけどまぁ彼等なら大丈夫だろう、多分。
お前には絶対に教えないからなぁ! オロバスゥ!!
そうやって店舗を冷やかしながら歩いていると、嗅ぎ慣れた匂いが漂ってくる。ポポルの実の匂いだ。俺は以前ギルドで見掛けたポポルの実の納品依頼を思い出し、ここにスイーツ店でも有るのかと匂いの元を辿って行く。その時は精霊とはいえ狼型のシロの鼻が大いに役立ってくれ、辺りの匂いをクンクンと嗅いでは匂いのする方へと吠えて教えてくれた。狼少女ハクちゃんは別に鼻が良い訳ではないのだ。
嘘じゃないヨ? ホントだヨ??
『五感強化』というスキルを取れば鼻は良くなるが、そういったスキルを持っていない限り基本的に種族による差は無いのだ。まぁ、そういう意味ではシロもそこまで鼻が良い訳ではないんだけどな。そうやって二人で匂いの元を辿れば、匂いはドンドンと人気の少ない方へと続いていく。通りから人の気配は消え、それを示すかの様に辺りも薄暗さを増していく。どうやら南西の外壁に向かって行っている様だ。人気がドンドンと無くなるが、それでも構わず複雑な路地を進み続ける。
すると唐突に視界が開けた。
そこは人気も無く開けた土地で、正面には町を囲う壁が聳え、正面中央には一件の民家がポツリと建ち、その煙突からは煮炊きの煙が立ち昇っていた。民家の外壁には色取り取りの花々が色鮮やかに花弁を咲かせ、人気も無く寂しい筈のこの裏路地に彩を与えている。周囲には綺麗に整備された畑が並び、そこでは誰かが黒い日傘を差しながら屈み、何かを採取している様だった。
俺達が現れた事に気付いたその人物は、傘を差したまま立ち上がり俺達の方へと体を向ける。
そこに居たのは、黒いワンピースに身を包み、眠たそうな目で此方を見遣る鹿獣人の少女だった。
鹿「ぽへぇ~」
ハ「何か……眠そうじゃの」
シ「ワフ!♪ワフ!♪」




