039 山間の村『ハールマー』
エログロでは無いんだけど……、ちょっと閲覧注意……かな?
人に寄っては余計な棘が刺さる可能性が有るので、不快に感じたら後書きまで飛ばして下さい。
一応ざっくりとした内容を記載しておきます。
「山間の村、『ハールマー』へようこそ冒険者殿。お帰りなさいゼフさん、ミリカちゃん。無事帰って来て良かったよ」
「ただいま、ヨシキさん!」
「ふぉっふぉっふぉ、何とか無事に帰って来られましたぞ、ヨシキ君。お勤めご苦労様ですじゃ。ふぉっふぉ」
「うむ、ワシはハクじゃ、この子はシロという。少しの間お邪魔するぞ、ヨシキ殿」
「ワフ!ワフ!」
「ああ、ここは鉱山しか無いしがない村だが歓迎するよハクさん、シロ。俺は『ヨシキ』だ。何かあったら遠慮無く行ってくれよな!」
「うむ、何かあれば是非頼らせて貰うとしよう。それではのう、ヨシキ殿」
「ワフ!ワフ!」
「ヨシキさん! またね~!」
「ふぉっふぉ、それではのうヨシキ君」
「……」
「……」
そういって俺達は、村の入口に立っていた門番の一人に挨拶をし村の中へと入る。別れ際、俺は門番の彼を少し観察していたが、彼も同様に俺の事を観察していた。村の境には簡素な木の柵と細い丸太で出来た簡単な門があり、俺達は今そこを潜った所だ。これで俺達の護衛依頼は無事に完了した事になる。
村はヨシキ殿の言った様に、これと言って特に変わった所の無い普通の村だった。とはいえ寂れた村、という訳でも無い。門を潜ってすぐの所では森を切り開き、山を削った段々畑が広がっているが、少し奥へと進めば都会とは言えないが道は整備され、掃除は行き届いている様で景観は綺麗に保たれている。並び建つ家々もしっかりとしたレンガ作りをしており、中には日本でも見かける様なコンクリート造りの家や和風の建物もある程だ。
街行く人達も特に変わった格好をしている訳でも無く、村人達は麦わら帽を被ってこれから畑仕事でもするのか農機具を持って出掛ける者や、大柄な体格をして首にタオルを掛けつるはしを担ぐ者。道端で井戸端会議をする奥様方や、その近くを元気に走り回る子供達の姿も見えた。
「……」
冒険者の様に武器を持って、物騒な恰好をした者は殆ど見掛けない。見掛けたとしても衛兵である場合が殆どで、そんな彼等も別に全身鎧を着ているという訳でも無く、お揃いの簡素な革鎧と短剣を腰に掲げ、此方を見て来るだけだ。そんな彼等に軽く手を上げ挨拶をすれば、彼等も軽く手を上げ挨拶を返してくれる。
村を見ている間も、ミリカが嬉しそうにどこのパンが美味しいとか、不機嫌そうな顔をしながらどこの男の子が意地悪だと、色々な話しをしてくれた。彼女は本当にこの村が好きな様で、嫌そうな顔をする時も話す声はどこか楽しげだ。そんな彼女の様子をゼフ殿は微笑みながら眺め、また一瞬寂しそうな顔をする。
――そこは確かにしがない普通の村だった。
ゼフ殿は村にある冒険者ギルドの前まで行くと馬車を止め、一枚の木札を俺に渡して来た。それは依頼完了を示すアイテムだ。それを受け取り視線を合わせれば、その詳細がウィンドウで表示され、俺も間違いがない事を確認してポケットに入れる。それから結局、ここまで俺の上で話し続けていたミリカをゼフ殿の隣に降ろし、シロを頭に乗せて馬車を降りる。
「お姉ちゃん行っちゃうのー!? ミリカのおウチで一緒に遊ぼうよーー!」
「ふぉっふぉっふぉ、こりゃミリカ、ハク殿を困らせてはいかんよ。ハク殿、シロ殿。ここまでの護衛、本当に助かりましたわい。お陰で無事に孫と共に帰って来れました。ふぉっふぉっふぉ」
「うむ、ワシは自分の役目を果しただけじゃ、ワシも無事に二人を届ける事が出来て一安心じゃよ。ミリカ、父上殿に元気な姿を見せるのじゃろう? ワシもまた来るから、遊ぶのはその時までの楽しみにしておくとしよう。のう? シロ」
「ワフ!♪ワフ!♪」
「う゛う゛う゛、絶対だよ!! 絶対ミリカと遊んでね!?」
「うむうむ、必ずまた来るから安心するとよい。その時まで良い子にしておるんじゃよ? ミリカ」
「うん!♪ ミリカ良い子にしてるよ! だから今度は遊んでね!」
「うむ! 約束じゃ! それまで元気でのう、ミリカ! ゼフ殿!」
「キャン!♪キャン!♪」
「うん! 約束だよ! ハクお姉ちゃん! シロちゃん!!」
「ふぉっふぉっふぉ、是非またお会いしましょう、ハク殿、シロ殿。それではまた何時か。ふぉっふぉっふぉ~」
そう言って、俺達は手を振りながら二人と別れた。ミリカは何時までも一生懸命に、此方に向けて手を振ってくれている。俺はそんな彼女の頭上を見遣る。そこには彼女の名前である『ミリカ』の文字が有り、その横にはNPCで有る事を示す『N』のマークが有る。
――それは、ゼフ殿には無いマークだった。
そう、『ヨーゼフ』殿の名に『N』のマークは無い。
彼はNPCでは無く、一人のプレイヤーなのだ。
――ここは『SEVEN'S WALKER』のゲームの世界だ。
――ここは……、脳波を読み取る事さえ出来れば、自由に暮らせる世界なのだ。
彼の容姿に作られた完璧さは無く、また彼はここがゲームの世界で有るにも関わらず、時折手足や腰を庇う様な仕草を見せては、戸惑う様な表情を見せていた。
そしてその仕草は、ここの村人にも見れる仕草だった。
容姿は様々だ。お年寄りの姿をしている人も居れば、若い姿をした人も当然居る。だがそれらの人々は、まるで癖の様に腰に手を当てたり壁に手を着いたりして自らを支えていた。恐らく現実の体ではそうする事が当たり前なのだろう。
――ここは確かにしがない普通の村だった。
――だがそれは、現実の日本での話しだ。
――ここは……、普通過ぎるのだ。
「……」
きっとここは、楽園なのだろう。
――甘くて優しい
――猛毒の様な楽園だ。
きっとその毒に侵されれば、死ぬまで抜け出す事は出来ないだろう。
だからと言って、他人の俺がどうこう言って良い話じゃ無い。
触れてはならない……、禁断の園だ。
ヨーゼフ殿は、ミリカをまるで本当の孫の様に扱っていた。彼女がNPCで有る事を解った上で、それでも尚、本当に愛おしそうにしていたのだ。
……彼が彼女を見る時に見せたあの寂しそうな表情が、一体何を意味していたのか。
……俺には解らない。……他人が安易に聞いて良い話では無い様に思えるのだ。
――ここは……、『SEVEN'S WALKER』のゲームの世界だ。
俺がハクを作る時に体験した様に、このゲームでは人の脳波を読み取る事で望み通りのアバターを作る事が出来る。だがそれは……、自分のアバターだけに収まる物だろうか?
脳波を読み取る事で望んだ人物を作る事が出来るというのなら、
それはきっと――
世の中には不幸な出来事が溢れている。
子供を事故で無くすなんて……、きっとそんなに珍しい話でも無いのだろう。
……或いは、……病気で。
……或いは、…………自らの過失で。
他人が聞いて良い話では断じて無いのだ。
見方によっては此処は地獄だろう。
死に行く者が望む物を魅せ付けて離さない牢獄。
だがそれと同時に、不自由な体から受けるストレスから解放し、
現実では成し得ない望みを叶えてくれる楽園だ。
何が正しいのかなんて……、まだまだ猶予の有る俺には到底答えは出せないし、出せると思う事自体が傲慢だ。
「ふぅ……、考えても仕方がないのう」
「ワフゥ?」
俺はそこまで考えて頭を振り払う。結局、俺にはどうしようもないしどうするべきでも無いのだから。ミリカにはああ言ったが、俺達が此処に来る事は余り無いだろう。二人の時間をあまり邪魔すべきではないと思うと同時、ここは少々……、色々と考えさせられ過ぎるから。その内、余計な事をしでかしてしまいそうな気がするのだ。
俺が暫し茫然と立ち尽くしていた事で、衛兵が此方を気にする様に見ている。彼等衛兵も、門番である『ヨシキ』殿と同じプレイヤーだろう。彼等は本当の意味で、ここの住人を守る為に配置されているのだ。
或いは、ヨシキ殿も言っていた様に何かあった時即座に対応する為に。
ここに住む人達をなるべく刺激しない様な恰好をして……。
彼等は皆、余所者である俺が余計な事をしない様に鋭い視線を向けていた。
そうまでするのなら一層の事隔離すればとも思うが……、それはそれで不健全なのだろう。他人との交流を求める人も居るだろうし、或いは単純に、費用の問題か彼等がこの世界の住人になる事が条件で、ここに居られる場合も有るのかも知れない。
「いや、何でもないわい。依頼を終わらせようかの、シロ」
「ワン!♪」
結局、これも考えても仕方がない事だと思い、気持ちを切り替えて冒険者ギルドへと入ろうとすると視界の端に煌めく何かが映る。それが気になり視線を向ければ、それは凡そ村の中央に位置するレンガで出来た小さな塔だった。その塔の最上部は壁の無い作りになっており、その中では台座に置かれた輝く大きな石が微かな煌めきを放っていた。
「うむ? 何じゃろうな……、あれは」
「ワフゥ?」
「あれは『聖護の塔』だよ。村や町には必ず設置されていて、魔物の侵入を防ぐ働きが有るんだ」
「おお? そうなんじゃな、その様な物が有るとは知らなんだ。教えてくれて感謝するわい」
「キャン!♪キャン!♪」
「良いって事よ。何かあれば気軽に声を掛けてくれ」
俺の溢した疑問を拾った衛兵が親切に教えてくれる。余所者の俺に警戒して意識を向けていたのだろうが、此方としては助かったので素直に礼を告げれば。彼は片手を上げて去って行った。どうやらあの塔の存在により村は守られている様だ。村に入る時に見た防壁が随分と簡素な作りだった事が疑問だったが、あれは恐らく野生動物に対する物だったのだろう。
疑問も解けたので予定通りギルドへと入る事にする。ギルドはハルリアと比べてとても小さく簡素な作りをしており、人も疎らだった。俺達はさっさと受付で依頼完了の手続きを済ませ、今回の護衛に関する依頼料を手に入れた。
「はい、依頼の達成を確認致しました。護衛依頼、お疲れ様でした。ハク様」
「うむ、世話になったのう。それではさらばじゃ」
「ワフ!ワフ!♪」
今回の依頼は二ツ星の依頼で、報酬は12,500Yと結構な額になった。因みにこれ、全額をゼフ殿が支払っている訳では無い。ゼフ殿がギルドに支払っている額としては5,000Y程度だ。
ゲーム側としては、プレイヤーにもギルドへの依頼を率先して行って貰いたい。そうする事でゲームがよりリアルになり、多様性も生まれるからだ。だがその際に依頼料が高くなれば利用する人は減るし、少なくしては依頼を受ける人が減ってしまう。それを回避する為に依頼する際は料金を安くし、それに国やギルドからの補助金という名目で報酬を増やす事で、依頼を受ける側のメリットも生み出しているのだ。
今回のパターンで言えば、まずゼフ殿がギルドに依頼し5,000Yを払う。そこにまず国から同額の5,000Yが補填される。そして護衛依頼で有る以上は、直ぐに受けて貰えなければ依頼する側が困ってしまう。まぁそれに関しては、依頼側の判断で即座に受けて貰う事も可能だ。ただし、その場合はNPCが依頼を受ける形となり、戦力としては最低限になる。
ミリカがハルリアに訪れる際に、冒険者がゴブリンと接戦していて怖かった、と言っていたのはそれが原因である。その為ゼフ殿はミリカを怖がらせない様に、帰りはプレイヤーが受けるのを待っていたのだろう。まぁ、それを受けたのがPTでは無く、ソロの俺達だったのは予想外だったかもしれないが。
そして、護衛依頼を直ぐにプレイヤーに受けて貰う為、プレイヤーが発注した依頼をプレイヤーが受けた場合、今度はギルドからの補填という形で報酬が25%程上乗せされ、更に次のランクへ上がる為の依頼達成回数が二回分カウントされる事になる。護衛依頼に関しては拘束時間が長い事も有り、プレイヤーに率先して受けて貰う為に色々と優遇措置が取られているのだ。
その後護衛依頼に加えて、道中で倒したゴブリンとコボルトの討伐部位を納品した。此方は一ツ星の依頼なのでランクアップの回数には数えられない。これとドロップ品を売却した事で、追加で七千Y程を得たので、護衛依頼での収入としては二万Y程の収入だ。一時間の活動でこの収入なので悪くないだろう。
そしてこれとは別に、再度発生した特殊イベントから得られた利益が有る。ホブゴブリンの討伐部位である『鬼の角』は前回同様、三ツ星の依頼なのでまた倉庫の肥やしだ。ホブ蔵分と合わせて42個が現在インベントリに入っている。
それとは別にドロップした、ホブゴブリン達の装備品と換金アイテムの『古代の金貨』は全て売却した。プリーストの装備については、一旦保留として倉庫に残している。何か店売りする事に抵抗を感じたのだ。一応、布装備でデザインも悪く無いので自分で使えなくも無いしな。
店売りに関しては、店で買う場合の十分の一程の値段で売れる。鉄の剣で言えば買う場合は5万だが店売りだと5千にしかならなかった。一瞬露店を開いて自分で売ろうかとも思ったが、店員に聞いてみれば初心者装備と然程変わらないので、売り切るには時間が掛かるだろうとの事だった。なので結局全て売り払う事にしたのだ。コバルト装備については素材としてもレア素材らしいので残してある。
それでも特殊イベントのお陰で全ての装備がドロップしており、それが評価により四倍となっているので数だけは大量にあった。その為、装備と金貨を売った分で74万程になり、クエスト報酬と元からの所持金と合わせて現在は78万程を手にする事が出来たのだ。ハクちゃん大金持ちである! 尻尾ブンブン!♪
「シロ~!♪ 大金が手に入ったぞ~♪ 帰ったら旨い物でも食べるような~~♪♪」
「キャン!♪キャーーン!♪」
俺は大金が手に入った事で、シロを抱えてクルクルと回りながら二人で大いに燥ぎ回った。
周りの目が生暖かいが知った事か!
俺は今シロと喜びを共有する事で忙しいんだよ!! 尻尾ブンブン♪
その様子を見て、鋭かった衛兵の視線がとても穏やかになったので狙い通りである。繰り返す! 狙い通りでアール!!
因みに、売らなかった分も含めると100万を超える利益になっていた。仮にリーダーとシーフを討伐して彼等のドロップ品と、それにより評価が上がっていれば利益は200万を超えていただろう。実に惜しい事をした。
まぁ、あの時シーフにやられていれば、1Yも手に入らなかった事を考えれば大いに満足である。特殊イベントは大変だが、それに見合うだけの利益が見込めるのでハイリスクハイリターンだ。まぁ狙って発生させられる物でも無いので、出会えるかは運次第だが。
「とりあえず、ポーションの補充をせねばな」
「ワン!ワン!」
「まぁいどありぃぃーー!!」
という訳でそのままギルドの売店で、下級HPポーション(HP300回復)5本を購入し、25,000Yを支払う。一本5千Yだ。消耗品である事を考えると結構高いが、このお陰で命拾いしたので安い物だろう。因みにSP、MPのポーションは店売りされていない。だから高騰していくのだ。
こちらに関しては専用の店に行くかプレイヤーの露店で買うしか無く、ハルリアで見掛けた時は下級でも一本5万Yとバカ高かった為買えなかったのだ。とりえあず其方も3本ずつ買う事を考えると、それだけで30万が吹っ飛ぶ事になる。背に腹は代えられないとはいえ、早くも財産の半分近い出費だ。切実に補給手段が欲しい……。尻尾しょぼ~ん。
俺は購入した内二本を足のベルトにセットし、二本を腰に付けたポーチにある仕切りの中にセットした。最後の一本については一応インベントリの中だ。体に身に着けている物に関して、これは別に保護されている訳では無い。この部分に攻撃を受けると、普通に入れ物が割れてロストしてしまうのだ。その為、一本は念の為にインベントリに残す事にした。
まぁ攻撃されるとロストするとはいえ、範囲攻撃ではそうそう割れない。そして俊敏特化ハクちゃんは基本動き回っているので、ここを狙って攻撃出来る相手は限られるし、それが出来る相手であれば結局勝てない可能性が高いだろう。過度に気にしても意味が無いのだ。
俺はシーフとリーダーを取り逃がして、彼等がまだ近くに居る可能性が有る事と、カードに書いてあった白い鬼に遭遇する可能性を考慮して、残りの75万の内70万Yをギルドに預けた。もしこの金を持ったまま死ねば10%の7万Yを失う事になるからな。
まぁ、まだレベル10になっていないので死亡罰則は発生しないが、もうじき上がりそうなのだ。最悪ハルリアに帰る途中で上がって、その後に出会う可能性が有る。ギルドに預けたお金は『セブンスリング』に履歴が残るので、どのギルドでも卸せるからここで預けてしまっても問題は無いのだ。
「お気を付けて行ってらっしゃいませ」
「うむ、それではの~」
「ワウワウ~♪」
そして、ハルリアに帰る前に依頼を見ておく事にする。一応また護衛依頼でもあれば受けた方がお得だしな。だが内容はハルリアの物と然程変わらず、違うのは鉱山関係の物ばかりだった。正直今は余計な事を考えてしまったせいで、この村で活動する気が余り無い。鉱山は浅い所で有れば二ツ星、深い所で有れば三ツ星のエリアになる様だ。レベル帯としては丁度良いんだけどなぁ。
「特に目ぼしい物も無いようじゃし、このままハルリアに――」
帰るとするか。そう言い掛けながら横を見ると、そこにはプレイヤーキル等の犯罪者の手配書が貼ってあったので少し見ていく事にする。手配書には簡単な罪状と名前、懸賞額に本人の顔写真が掲載されている。
懸賞額が低い小者などは小さく飾られているだけだが、重罪を犯している者など懸賞額が高い者については二つ名と共に大きく掲示されていた。因みにグー助は小物過ぎて飾られていない。寧ろ奴は許された者で有る可能性が高いしな。尻尾フリフリ。
そこに飾られた幾つかを見ると――
『食い散らす空賊
ガルバノス・ローガン【N】
罪状 :窃盗
懸賞金:$1,000,000Y 』
『笑う砲弾
ニケ・ポラリス
罪状 :殺人
懸賞額:$1,500,000Y』
『朧月の怪盗
バミュード・ラ・カンブリオール
罪状 :窃盗
懸賞額:$2,000,000Y 』
『嘲嗤う頭目
パガパド
罪状 :殺人
懸賞額:$3,000,000Y』
――と、かなりの高額な懸賞金を掛けられている者も居る様だ。特に最後のパガパドは額が他と比べて跳ね上がっている。しかも此奴には他に5人の仲間が要る様で、仲間の方も30万~50万とボスに比べて額は少ないが結構な懸賞金を掛けられているので、一味総額で500万Yにもなる。
此奴等は『フォーザロルズ』というクランを組んで活動している様だ。それぞれの顔についてはっきりとは伺えない。彼等六人は頭からターバンの様な物を巻いて、顔を覆っているからだ。
前三人については顔ははっきりと映っている。……まぁ、二人は少々はっきりし過ぎなんだが。
最初のガルバノスは名前の横に【N】の文字が有り、どうやらNPCの賞金首らしい。こいつはそもそも用意されたキャラクターなのだろう。他にもNPCの賞金首は複数いて、賞金稼ぎとしてプレイしたいユーザーの要望に応える為のキャラなんだろうな。彼等は総じてそこまで賞金が高く無い。逆に賞金首になりたいプレイヤーにとって、余りに賞金額の高いNPCが居ても面白くないからだろう。
その中でも一番高いのがガルバノスだ。彼は各地で略奪を繰り返す空賊らしいので、まず出会う事自体が難しいだろう。そんな彼の顔写真もはっきりと映っているが、NPCで有る以上それは別に良い。中にはワザと判り難い画像の物も有るが、それも楽しみ方の一つなのだろう。
「空賊なんて奴らがおるそうじゃぞ! シロ! ワシらも何時か船を手に入れたいの~~♪ いっそこいつから奪えんじゃろうか!♪」
「キャン!♪キャン!♪」
それにしても空賊だ! つまり飛行船か何かは知らないが、空を移動する手段がこの世界には有るという事に他ならない!
いいな~~♪ 楽しそうだな~~!♪
俺も何時かはこの大空を自由に駆けてみたい物である! 尻尾ブンブン♪
気分を取り直して三人目のバミュードだ。彼はまぁ、簡単に言って怪盗紳士と言った風貌。全体的に白いスーツを着てマントで背を覆い、白いシルクハットとモノクルを付けたニヒルに笑うイケオジだ。白髪交じりの金髪に、クルリと巻いた口髭がとてもチャーミングで有る。
そしてその写真は夜空に屋根の上で、満月をバックにしたカメラ目線でウィンクを決めている。姿勢は屋根に片足を上げた状態で、少し斜めの位置から撮っていた。……何だこれ? まさか自分で撮ったんじゃないだろうな。そう思う程にはポーズが決まっているのだ。随分とゲームを楽しんでおられる様で何よりである。
そして、最後の一人ニケ・ポラリス。此奴についてはもう言う事が無い。満面の笑顔どアップで写真が埋め尽くされているのだ。どアップ過ぎてピントがボケているのが精々の説明ポイントか。こいつの罪状が殺人になっているのが何だか納得行かないのだが、まぁ事実なのだろう。
ニケについては二つ名も意味が解らない。何だよ笑う砲弾って。
笑い茸でも仕込んだバズーカでも撃つのか?
それで笑い死にすんの?? だから本人も笑顔なの???
ちょっとその死に方は経験してみたい気もするが、殺人を犯した犯罪者なのは確かなのだ。しかも結構な懸賞額。怖い怖い、近寄らんトコ。尻尾フリフリ。
「ふむ……、色々な奴がおるんじゃな~シロ」
「ワフワフ!」
シロに問えば『そうだね!』という様にシロは吠えていた。俺はシロに話し掛けながら、さり気無く周りを見遣る。手配書を見た事で、顔の認識さえ出来れば犯罪者を見た時に相手の名前が表示される様になるのだ。そう思い一応周りを見渡してみたが、当然こんな所に居る訳もなく、全員名前は非表示のままだった。精々受付の名前が表示されているだけである。
「流石におらんか。つまらんの~シロ」
「ワフワフ♪」
俺の問いにシロは『そうだね♪』とでも言う様に楽しそうに吠えていた。まぁシロもこんな所に犯罪者が居るとは思っていないのだ。俺はそんなシロを頭に乗せたまま、ギルドを後にする。
「……」
そんな俺達を鋭く見遣る視線が有る事に、結局最後まで俺達が気付く事は無かった。
ギルドを出て、ゼフ殿達が去って行った方向を見遣る。俺は彼等に対して何とも言えない気持ちを抱きながら、ハルリアへ向かう為に逆方向へと歩き出す。何時かはミリカにも会いに来るつもりだが、それは当分先の事だろう。
まずは無事にハルリアへ戻る事だ。そうしたらポーションを探して、会う事が出来たら紅い鬼の彼女にも礼を言おう。きっとテッシンの店にでも入り浸っていれば、その内会う事もあるだろうから。俺は今後の事を考えながら、ハールマーの長閑な町並みを歩いていく。町行く彼等に複雑な思いを抱きながら、時折擦れ違う衛兵に軽く手を上げ挨拶をする。
この時の俺は、ゼフ殿達との再会が思いの外早くなるとは思ってもいなかった。
――ただそれは、もう少し先の話し。
彼等との再会に思いを馳せ、一路ハルリアへと歩き行くのだった。
ミ「お姉ちゃん達にまた会えると良いね! おじいちゃん!」
ヨ「ふぉっふぉっふぉ。そうじゃの~ミリカ」
◆以下読み飛ばした人用ざっくり内容
・脳波を読み取るだけでプレイ出来るなら、体に不自由を抱える人でも普通に過ごせるよねという話
・この村はそういった人達を集めた治験的な村ではないか
・ヨーゼフはプレイヤーであり、ミリカはNPCである
・この村に配置されている衛兵にはプレイヤーが多く配置されている
◆以下ゲーム的な内容
・村や町には『聖護の塔』と言われる、大きな石を使った防衛装置がある
(『聖護の塔』で検索し、そこから読めば何時もの様な話になります。)
・プレイヤーがギルドに依頼する場合は安く、受ける側は国が増額するのでWin-Win
・護衛依頼は時短の為、更にギルドが増額し、ランクアップの為の依頼数が+1される
・護衛依頼では道中の雑魚ドロップ含めて、一時間で二万位の収入
・特殊イベントのドロップ品を一部売り、全体の収入は80万弱
・特殊イベントの収入自体は大体100万。逃げられてなければ200万行ってたかも?
・HPポーションを5本買うが、SPやMPは店売りされていないので保留
・SPMPポーションを各三本ずつ買えば30万近くは散財する事になりそう
・賞金首は今の所高い奴で100万~300万位
・賞金首にもNPC含め色んな奴が居る。空賊まで居るじゃん! 楽しそう! ひゃっはー!
・ハルリアを目指して帰路へ




