004 加護とステータス
漸くキャラメイク終了ですが、まだ旅立ちません。遅くな~い?
か、堪忍やで!!
「はぁ。……まぁ良いです。作ったの私じゃないし、私はすぐに連絡したし、待ってくれなかった人のせいだし。ワタシモ、ワルクネェ!」
「そうだそうだ、割り切る事も大事だぞ!」
一通り騒いで満足したのか、アイシャは次第に落ち着きを取り戻す。
「スキルも決まった事ですし、ちゃっちゃと終わらせましょう。後は加護とステータス振りです」
「加護?」
「まだ説明してませんでしたね。『SEVEN'S WALKER』には七つの大陸、七つの種族、そして、七柱の神々が居るんです。この世界に生きる人々は産まれた時に一人の例外も無く、その神々から一つの加護を賜るんですよ」
「皆貰えるのか、気前の良い神様だな~」
「ですね~。この世界の人達はランダムで貰えるんですけど、それを今から選んで下さい。効果としてはスキルと似た様な物ですね~、スキルに無い効果の物も有りますよ。ただ、これはスキルと違って一人一つで、増える事も有りませんし、変えようと思っても簡単には変えられないので、注意して下さいね~」
簡単に変えられないなら、適当に選ぶ訳にもいかないか。それを聞き、本を手に取り加護の項目を確認する。そこには七つのタブが神毎に分かれており、それぞれにズラリと加護の一覧が並んでいて……。
「……一々、多過ぎだろ」
「……まぁ、その為に私が居る所もありますので」
運営も自覚していて、サポートAIを配置したのか……。
なら、アイシャに丸投げしよう。
「そうだなぁ……。じゃあスキルには無かったけど、テイムした仲間を強化出来る加護はないか?」
「有りますよ~。憑依術であればこれですね~」
そう言って、アイシャは加護を指し示す。
彼女の指先を追えば、そこには『フェンリシアの寵愛』という一つの加護が有った。
――フェンリシア・モア。それは命と狩猟を司る女神。
主に獣人族から信仰されており、彼女は全ての命を尊び慈しむ。しかし狩猟が示す通り、命を奪う行為全てを禁止している訳ではなく、生物が生きる為に生き物を狩る行為は自然の営みとして認めている。彼女の教えは過度に命を奪う行為を禁忌とし、狩りをする時も命に敬意を払う様教えているのだ。
命を司る彼女の加護には、テイムしたモンスターを強化する加護がいくつもある。その中の一つが『フェンリシアの寵愛』だ。その効果はテイムしたモンスター、一体に限り全ての能力を100%アップするという破格の性能を誇り、テイム出来る仲間の数が一体だけしか居ない憑依術にとっては正に相性の良い加護だろう。
自身の能力を上げる訳では無いが、そういった加護は何か一つの能力を100%アップする物が殆どだ。それに比べて、テイムモンスターの能力を上げるフェンリシアの加護は、仲間の全ての能力をアップする。そのアップした能力を、一時的とは言え憑依術を使う事で自分の能力に加算する事が出来るのだ。
追い詰められた状況で憑依し、一気に逆転! 絶対に楽しい!
「流石アイシャ!『アイちゃんです!』これにしよう!」
最早アイシャの押しにも慣れ、動じる事無くスルーしたがアイシャは満足そうだ。期待した以上の効果に文句がある筈もなく、俺は尻尾をブンブンと振りながら加護を決めた。
「では最後にステータスですね~」
そう言って、アイシャはステータスの各項目について軽く説明を始める。
・HP:生命力でこれが0になればプレイヤーは倒れ、所定の場所で復活する。
・SP:主に物理系の武技や技巧で使用される。
・MP:主に魔法系の魔術や技巧で使用される。
・筋力:物理攻撃力と時間経過によるSP回復力に影響する。金属系装備に必要。
・体力:物理系耐久力と状態異常に対する耐性、時間経過によるHP回復力に影響。
・器用:物理系遠距離武器の命中率と、生産系スキルの成功率に影響する。
・俊敏:斬撃系物理攻撃と、移動速度、行動速度に影響する。
・魔力:魔法攻撃力に影響する。魔法装備に必要。
・精神:魔法系耐久力と状態異常に対する耐性、時間経過によるMP回復力に影響。
・知力:魔法の操作性と発動速度に影響する。
・幸運:アイテムのドロップ率と生産系スキル、一部特殊スキルの成功率に影響。
「それと、回復魔法の回復力については精神の値が影響しますね。他者との共感性によって効果を上げる形ですね」
そのアイシャの言葉を最後に、ステータスについての説明が終わった。どうやら物理と魔法でそれぞれに影響する項目が分かれている様で、攻撃力であれば筋力と魔力が、防御力であれば体力と精神が、命中率等の使い勝手であれば器用と知力がそれぞれ対応する様だ。魔法については攻撃魔法で有れば魔力が、補助や結界等の守りであれば精神の項目が関わる様だった。
またHPとSPについては、体力>筋力>俊敏の順に加算され。
MPについては、精神>魔力>知力の順に加算されるらしい。
それらを踏まえて、獣人族の基礎ステータスを確認する。
HP:116
SP:116
MP: 77
筋力: 12 [+-]
体力: 13 [+-]
器用: 10 [+-]
俊敏: 15 [+-]
魔力: 8 [+-]
精神: 9 [+-]
知力: 8 [+-]
幸運: 5 [+-]
残り:20ポイント
「ステは聞いた通り、俊敏と物理が高くて魔法が低いんだな」
それは、種族を選ぶ時に聞いた通りなので問題無い。……問題は無いんだが、ステータス横の『-』ボタンがグレーアウトしてないのはそういう仕様かな?
俺は筋力の所に有る『-』ボタンをポチリと押す。そうすれば筋力の値はしっかりと11になり、残りポイントは21になっていた。……そういう仕様だな? いや、減らせんのかよ!
「……種族説明の時に聞いた説明は何だったんだよ! 初期ステータスも変えられるんじゃねーか!」
「自由がコンセプトなので! 初期値は雰囲気作りですよ! 自由にやっちゃって下さい! ヤッタネ、ハクちゃん! ステータスが増えr『おいやめろ』フフフ♪」
「……全く、楽しそうにしやがって。まぁ好きに弄れるんだから別に良いけど。ホント自由だなこのゲーム、極振りしろと言わんばかり……、というか実際そうなんだろうな」
「そこはまぁご自由に、とだけですね」
ステータスもスキルも加護も、その全てを攻撃に全振りすればかなりのダメージを出せるだろう。それが使い易いかは別として、先に攻撃を当てた方が勝ちなんてそんな世紀末な……。いや、ある意味リアルか? 普通はナイフで斬り合い何てそうそう無いだろう、まともに一発入ればそれで終わりの筈だ。
まぁ、そこまで極端な振り方はしないか、そもそも俊敏が無ければどちらも攻撃が当たらずクソゲーまっしぐらだ。
とは言えある程度は尖らせたい。という訳で必要の無い筋力、体力、器用、幸運を全て1にする。0には出来なかった。すると、アイシャが少し驚いた様に口を挟んでくる。
「え? 器用も1にしちゃうんですか?」
「ん? 拙い?」
遠距離武器使う訳じゃ無いし生産も当分はしないから、要らないと思ったんだけど……。そう思ったのだが、アイシャは少し首を掲げながら答える。
「俊敏上げるんですよね? それだとかなり速くなるので、器用さ無いと大変かもですよ?」
「んん? ……近接攻撃の時にも命中補正が入るのか?」
「命中補正、というと少し違いますね。器用が上がると『SEVEN'S WALKER』に搭載されている戦闘アシスト機能の適用値が高くなっていくんです。なので体の動きが良くなって、攻撃したい所に自然と当たる様になるんです。日常的に戦ってる人何て、日本にはそうそう居ませんからねぇ~、言ってませんでしたっけ?」
そう言い、アイシャはテヘっと舌を出す。このポンコツめ!
「言ってねぇよ。それに日本人だって、毎日何かと戦ってるっての」
嫌な上司や理不尽な客からの要求とかな!
というか、戦闘アシスト機能なんて有るのか、それも脳波を精査してるから出来る事なのだろうが……。凄い様な怖い様な……。
「んん~~。……じゃあ、補助が無いだけで、頑張れば何とかなるか?」
「頑張れば、ならなくは無いですね。練習がかなり必要だとは思いますけど」
「じゃあ、ガンバル!」
「アッハイ。……いや、根性論だけでどうにかなりますかね?」
「すっごく、ガンバル!」
「いや、答えになってないんですけど……」
アイシャはそう言って呆れた顔をする。
その顔を見て、俺は満足したので巫山戯るのを辞めた。
「真面目な話、レベルが上がった時に勝手に上がるだろ、最初は1で良いよ。無理そうならスキルの俊敏外して、器用を取ってどうにかする」
「なるほど、一応考えが有るなら良いです」
無いと思っていたのか? こいつ! ポンコツの癖に!
まぁ、無かったけどね、適当に誤魔化しただけなんですけどね。
「幸運も1で良いんですか? ドロップ率落ちますよ?」
「と言っても初期値5って事はそこまで影響無いんだろ? だったら別に良いよ。1も5も変わらんだろ」
「まぁ、良いなら別に良いですけど」
器用については良いとして、魔法関連は風魔法で牽制と俊敏バフを使う為に、発動速度を上げる知力には振っておきたい。頻繁に使う訳では無いので、魔力と精神は控え目で良いだろう。他の種族のステータスも参考にしながら決め、残り全てを俊敏に割り振る。
そうして遂に全ての設定を終え、完成したステータスがこれだ。
名前 :ハク
種族 :獣人族
タイプ:ホッキョクオオカミ
称号 :無し
加護 :『フェンリシアの寵愛』★☆☆☆☆☆☆
スキル:獣爪術 _Lv.1
風魔法 _Lv.1
憑依術 _Lv.1
俊敏強化_Lv.1
格闘強化_Lv.1
◆ステータス
Lv: 1
HP:130
SP:130
MP: 95
筋力: 1
体力: 1
器用: 1
俊敏: 61(122)
魔力: 10
精神: 10
知力: 15
幸運: 1
物理が皆無で魔法が得意な、俊敏以外は完全に獣人族から逆行した形となった。因みに、俊敏の括弧内の数字はスキルで強化された数字であり、HPとSPはそちらの値を参照した数字になっている。俺のキャラクリが終わった事で、アイシャが話を進める。
「それじゃあ、設定も終わったのでアバターに適応しますね~。それと、初期装備もプレゼントです!」
そう言って、アイシャがこちらに向かって両手を広げる様に差し出すと、そこから光が溢れ俺の体を包み込む。軽やかな音と共に光が弾けると、俺の恰好が質素な麻の服から変わっていた。
上は真っ白な襟付きのシャツと皮の胸当て、それと左手首には木製の簡素なブレスレットと、もう一つ細く丸い形をして、小さな緑の宝石が埋め込まれたツルリとしたデザインの金属製ブレスレットの二つが有る。下は厚手の生地で出来た茶色のショートパンツと、黒のニーソックスに皮のブーツと、シンプルだが可愛らしい恰好だった。俺の尻尾はブンブンと揺れる。
「おお~~、良いね!♪ 駆け出し冒険者って感じだ!」
「ふふ~~ん♪ そうでしょうそうでしょう? まぁ飽く迄も初心者装備なので、デザインはシンプルな物ですが。それと本来ならスキルに合わせて武器も渡すんですけど、ハクちゃんは武器を使えないので、代わりに木製のアクセサリを渡しておきました。効果は俊敏を少し上げる物ですね」
「成程、これは武器分の装備な訳ね」
そう言って、左手のブレスレットを見る。初心者装備らしくシンプルなデザインだ。
「もう一つのブレスレットは『セブンスリング』というアイテムで、メニュー画面を開く為のデバイスですね~。リングを指で触ると、メニューが開きますよ。あと、設定でデザインの変更も出来ます」
言われた通り右の人差し指で触ると、埋め込まれた宝石から光が放たれメニュー画面のホログラムが空中に描き出された。取り敢えずログアウトは有る様だ、デスゲームは始まらない。
設定の中に『セブンスリング』の項目が有り、見てみるとデザイン以外にも指輪やイヤリング等、他のアクセサリにしたり、入れ墨やメニューを意識した時だけリングを表示する事も出来る様で、アクセサリが苦手な人にも配慮されている様だ。せっかくなので、宝石の色を緑から瞳の色と同じ青色に変更して、メニューを閉じる。
「それと、ステータスやスキルも反映されてるので、少し試してみて下さい。ハクちゃんは俊敏が高いので! 思いっきり走ればすっごく楽しいと思いますよ!」
「いいね♪ ちょっと試してみるか」
アイシャがニコニコとしながら走る事を勧めてくるので、取り敢えず丘を下った所に有る村へと向かって走ってみる事にする。軽く伸びをしてから右足に力を溜め、一気に飛び出す様に走り出す! 初期値の何倍にもなる俊敏は遺憾なくその実力を発揮し、一瞬の内にまるで車で走る様な速度を叩き出した! その現実では有り得ない運動能力に、俺のワクワクも加速する!
「ふぎゃ!」
そして、瞬く間に俺は見えない壁に叩きつけられた。
少し離れた位置から、アイシャの馬鹿笑いが聞こえてくる……。
「あっはは! 一瞬で! 一瞬でビターーーン! って! ふぎゃ! って! ぶはっ!」
「……アァァァイシャァァァァァーーーーー!!」
「ぐふっげほっ! アイちゃ! げほっげほっあっはははっ! ん゛ん゛でぇぇぇーーっす! あっははーー!♪」
「めちゃめちゃご機嫌じゃねーーか! ふざけんなーーー! 絶っっ対! わざと焚き付けただろお前ぇぇ!」
「あそこまで、くふっ、全力で行くとは思いませんでしたよ! あははっ♪」
「壁が有るなんて思わねぇわ! それにあんな一瞬じゃ! ちっとも楽しくなかったぞ!」
「私は、あんな一瞬で! すごく楽しかったですよ!」
「お前がかよ! 良かったな! このポンコツAI!」
ゆっくりと歩いてアイシャの元へ戻ると、ポンコツAIは腹を抱えて笑っていた。楽しそうで何よりだよ! 全く!
まぁ、別に痛くも痒くも無く、吃驚しただけだったから別に良いけどよ!
アイシャは一頻り笑って満足すると、顔を上げ涙を拭う。
「と、この様に、身体能力がとても高くなるので、気を付けて下さいね!」
「この様に、じゃねぇわぼけぇ! てか何だよあの壁は!」
「あれはですねぇ、今は飽く迄もキャラメイクをする時間なので、移動範囲が制限されてるんですよ」
「じゃあ、終わったら行ける様になるのか?」
「すぐには無理ですね。ここにまた辿り着ける様、頑張って下さいね」
そう言って、アイシャは微笑む。
「スキルの方も試してみたらどうですか? レベル毎に技が増えていくので、どちらもまだ一つずつしか技が使えませんけど」
「どうやって使うんだよ」
俺は若干、不貞腐れながら聞く。
「武技も魔術も技名を口にすれば発動しますよ~。獣爪術のLv.1は『強爪』ですね、僅かな溜めの後、強く切りつけます!」
アイシャは言いながら右手を肩の上に構え、手で鉤爪を作りながら言葉と共に振り下ろす。
「風魔法は『ウィンドスラッシュ』で、前方に風の刃を出しますよ!」
今度は右半身を突き出す様に向きを変え、右手をバッ!と突き出した。
「因みに、爪は意識すると出てきますよ~。あと、技名はメニューの『スキル』から確認出来ます」
それを聞き、取り敢えず甲を上にして右手を前に突き出す。先程見た爪を意識すれば手の甲に素早く紋章が描かれ、光と共に爪が飛び出す。
「やっばい、これ楽しいな♪」
尻尾をブンブンと振りながら、まずは『強爪』を試す。『強爪!』と言いながら右手を構えると、爪に光が集まった後、自動で袈裟懸けに振り下ろされた。それは、僅かな光のエフェクトを散らしながら五本分の軌跡を描き出し、一拍の後に消えていった。
「おお~~、かっこいい! てか勝手に動いたな、これがスキルのアシスト効果か」
「ですね~。何も考えずに技を使うと規定の動作を実行します。意識すればある程度、自由が効きますよ~」
そう言われ、今度は動かない様に意識しながら実行する。爪に光が集まり、振り下ろされ無い様に耐えるが、凡そ二秒程度で振り下ろされた。
「成程……、ある程度は、ね」
「ですね~。魔術や一部の武技なんかはコストを払う事で、待機状態を維持出来たりもしますが、基本的に武技はすぐ発動しますね」
「成程、成程」
次に、角度を変えられるかを検証してみる。基本は右上からの袈裟切りの様だが、意識すればジャンプからの振り下ろしや、勢いを付けて広範囲の切り払い。また左手を使っての逆袈裟等、かなり自由が効く様だが両手同時には出来なかった。ただ、突き刺す様な動作をした所、突き刺す際にエフェクトは表示されず、突き刺した後、自動で切下げられた。
「成程ね。『溜め⇒切り払い』動作のスキルって感じなのか」
「……凄いですね。余り最初からそこに気付く人は居ませんよ?」
「気になったら確かめたくなる質なんだよ」
尻尾をフリフリ答える。一通り気が済んだので、次はお待ちかねの魔法だ!
俺は何も無い方へ向かって、右手を開いた状態で前に突き出す。
『ウィンドスラッシュ!』
すると、右手前方に緑色の光が集まり、それは50cm程の三日月形をした緑の刃となって射出される。
「おおーーー!!」
俺は遂に! 魔法使いになったのだ! 変な意味じゃ無く!! 俺の背後では尻尾がブンブンと勢い良く振られている。
それからこちらについても、色々と検証を重ねてみる事にした。
指先から撃ったり、手を出さずに撃ったり、爪の時と同じ様に左手を振り上げながら斜めに撃ってみたり、と。そこで解ったのは、何かしら動作を加えた方が制御し易い、という事だ。何の動作もしなかった場合は変化を付けるのが難しく、発動までに少し時間が掛かっていた。
指先から撃てば細く速く撃ち易くなり、手を振りながらであれば角度の変更と刃の長さを長くし易かった。アイシャによれば小さくすれば強く、大きくすれば弱くなり、全体のダメージとしては変わらないとの事。
「うんうん! いいねいいね~~♪」
「楽しんで頂けて何よりです~♪」
正直、めちゃめちゃ楽しい!
俺は腕を組み、頷きながら尻尾をフリフリする。そこでふと、思い付いた事を実行に移す事にする。魔法を使っていて思ったが、魔法はイメージによってかなり結果が変わる。それはこの世界が、常にプレイヤーの脳と情報のやりとりをしているからだろう。だからまずは成功した時のイメージだ。動作から結果へのイメージ。成功した時の光景を頭の中で何度も繰り返す。
イメージイメージイメージ……。
イケる! と思ったイメージが消えない内に行動を実行に移す。俺はもう一度、何も無い方を向いて右足を引き、僅かに腰を落とす。そこから右手で鉤爪の形を作り構えた。
イメージだ! 全身を使ってイメージを実行しろ!!
俺の突然の行動に、アイシャが僅かに身を固くする。
『強爪!』
俺はイメージを後押しする様に強く! 武技名を口にする。その言葉を受け右手の爪に光が集まる。その光は今までと比べ僅かに強く光っていた。切り払いが実行されるまでの約二秒の間に、俺は更に言葉を重ねる!
『ウィンドスラッシュ!!』
すると、右爪に集まっていた光は鮮やかな翡翠色へと色を変えた。それに伴い爪はより強く光を放ち、辺りに風が巻き起こる!
「オ゛ォォラ゛ア゛ァァァァァ!!!」
俺は左手を引き胸を張りながら、咆哮と共に一歩踏み込み右手を地面を抉る様に振り上げる! 爪は五本の軌跡を描き出し、それがそのまま1m程の風の刃となって、地面に五本の傷を残しながら前方へと飛んで行った。
「っっっしゃあ! 出来たぁぁぁーーー! 最高かよ! このゲーム!♪」
俺はピョンピョンと飛びながら、大はしゃぎでテンションを上げる!
俺の尻尾は今! 最高速でビートを刻んでいる!♪
出来るかな? と思って実行した事が出来なくても『まぁ仕方ないか』と思うだけだが、それが出来た時の快感が堪らない!
最高だよ! このゲーム!♪ いやっふぅーー!!!
俺は一人、テンションMAXで燥ぎ回る。
傍らで俺の様子を眺めていたアイシャは、茫然と風の刃が飛んで行った方を見ているのだった。
ハ「ひゃっふぅぅぅぅぅ!♪」
ア「…………( ゜Д゜ )」




