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037 すまんシロ

「ガァァ!」


 俺達の決意に先んじる様に状況は動き出す。リーダーは更に強化された速度で直ぐ様斬り掛かって来た。しっかりと武技(アーツ)が乗ったそれを、俺は咄嗟に使い慣れた氷盾爪と氷迅爪を発動して対処する。


「ちぃ!」

『ガウ!』


 再度振り下ろされたそれを今度は盾を壊されない様に、しっかりと体ごと左に回転しながら受け流す。盾の持続時間は5秒弱、残りMPの少ない今、これを最大限生かしたいのだ。


 だがこれは失敗だった。彼はシロのアイスランスを切り払った時と同様、地面に叩き付けた刃を直ぐ様切り上げて来たのだ。その刃にはまだ武技(アーツ)の光が輝いている。切り返しまでがセットになった武技(アーツ)なのだろう。


 だがその刃は、地面とぶつかっている事で一拍の遅れが生じる。下からカチ上げる様に逆袈裟に振り上げられる刃を、俺は攻撃を受け流した際の勢いそのままに、体を左へと捻りながら前方へと飛び、前宙する形で回避する。だがそれはギリギリで間に合わず、出遅れた足に僅かな切り傷を作る結果となった。貧弱ハクちゃんでは、こんなかすり傷が致命傷に繋がり兼ねない。


 上下が反転した視界の中、捻る勢いのままに体を素早く横に一回転させる。そのまま刃を振り上げた事でガラ空きの胴体へ右腕の氷迅爪で切り付けるが、咄嗟の事で体勢が悪かった事も有り鎧に阻まれ傷は浅くなった。だが先程付けた傷と合わせ彼の鎧には×字の傷が入り、傷が交差する部分に僅かに穴が開いた事を視界の端で捉える。


 空中に居る俺に対して、彼は直ぐに振り上げた状態の刃を袈裟懸けに振り下ろす。それを見て彼の右肩を右足で蹴り付けその反動で落下速度を加速させ、左手の盾を犠牲にしつつも彼の追撃を躱し、右手で彼に向けて高等魔術(ハイスペル)を解き放つ。


『ストームブリーズ!!』

『ワォォォーーーン!!』

『ガァァアア!!』


 だが間近で放たれたそれを、彼は紅いオーラを声に乗せ気合の怒号で弾き飛ばした。憑依によって俺の魔術(スペル)は強化されているが、彼も紅いオーラによって幾度となく強化されている。最早、高等魔術(ハイスペル)等という生温い攻撃では彼を仕留める事は出来くなった様だ。やはり彼を仕留める為には、限界を超える魔技(マジックアーツ)が要る。


「ちぃ!」

『ワン!ワン!』

『グガァァアア!!』


 氷盾爪で弾いたとはいえ、地面に叩き付けられる形となった反動で次への動作が僅かに遅れる。その若干の隙を、目の前に居る彼は見逃してはくれなかった。先程声にオーラを乗せた様に、今度は彼が両手で持ち上段に構えた長剣に、武技(アーツ)の光と共に真紅のオーラが纏わり輝きを増す。


 その様はまるで、炎を纏い全てを焼き切る地獄の魔剣の様ですらあった。


(あれは拙い!!)


 地面に沈み込みながら合わせる様に息を吐き、意識を深く深く沈めて行く。

 集中は高まり、それと同時に世界の色は褪せ、その鮮やかさを失う。

 それはまるで、世界全てが凍て付き滅んでしまったかの様だった。


 ――回避する余裕は無い、氷盾爪で防いだ所であれはそんな物を意に介さずに焼き切る事だろう。そしてあの脅威を凌ぐには一手では足らず、二手打つには普通にやっていては到底間に合わない。



 ――俺の武器はその速さだ、ホブゴブリン如きの一撃に負けてなどいられるか!


 ――硬く素早く、一度で足りないのなら二度の攻撃を持って!!


 ――この危地を凌いで見せる!!!



 凍て付き停止したこの世界の中、俺達は即座に新しい魔技(マジックアーツ)を産み落とす。


氷籠連牙(ひょうろうれんが)!!!』

『ア゛オ゛オ゛ォォォォーン!!!』


 それは『強爪+迅爪+連爪』という、今までの限界である三つの複合スキルにもう一つ、『バリア』を加えた四重奏魔技(カルテットアーツ)。その新しい魔技は俺達の想いを受け即座に発動し、迫り来る魔剣に負けない蒼き輝きを解き放つ。その輝きからはまるで、俺達を守ろうとする様な力強い思いを感じた。


 堅牢な籠手と共に右手に顕現した強靭な五本の刃は、深海を思わせる様な底知れない蒼と包容力をその身に秘め、地獄の魔剣を迎え撃つ。


「ガア゛ア゛ァァァ!!!」

「破あ゛あ゛ぁぁぁ!!!」

『アオ゛オ゛ォォォン!!』


 三人の間で紅と蒼がぶつかり火花を散らす。均衡を保ったかに見えた五本の爪は、然れども一瞬受け止めただけに過ぎず、直ぐ様断ち切られた。だがそれで充分だ。憑依で強化されているとはいえ、物理が苦手な俺達が真正面から立ち向かえる等初めから思ってはいない。初撃は飽く迄も勢いを緩める為の一撃、一瞬とはいえ受け止めてくれたのは寧ろ僥倖ですらあった。


「まだまだあ゛あ゛ぁぁぁ!!!」

『ワ゛ンワ゛ァァァァァン!!!』


 右爪が断ち切られ破壊された事で、連爪の効果により即座に左爪にも同じ籠手と繋がった五本の刃が現れる。それは迅爪の加速により間髪入れずに振るわれ、迫り来る魔剣の側面を打ち付ける。そのまま体に捻りを加えながら受け流しつつ軌道を変え、爪と共に地面へと叩き付けた。


 瞬間、地面が爆炎と共に猛り爆ぜる。


「ぐっ! くぅぅ!!」

『アオオォォォォン!』

「グオォォォォォォ!」


 俺はその爆撃を、地面に爪を刺す事で固定した盾に隠れてやり過ごす。その瞬間盾はシロから干渉を受け、俺達の身を隠す様に大きく強固に変化した。直撃を避けたにも拘わらず、それは100近い大ダメージを俺達に齎し、残りのHPは20と少ししか残っていない。先程ポーションを飲んでいなければ即死である。


 あっぶねぇぇぇぇ! 有難うアイシャァァァ!


 俺は『アイちゃんでぇす!』という走馬灯を砕け散る盾と共に見ながらも。大技を放った事でほんの少しの隙を晒している彼との決着を着けるべく、即座に右に反転しながら左手を掲げ一歩踏み出す。


 その際、切り落とされた右爪を再生成しようとしたが、シロと憑依している事で最大HPが上がり、再生成に必要な5%分のHPを支払う事が出来なかった。憑依によるデメリットが有った事に気付き顔を顰めるが、今はそんな事を気にしていられない。


 SPもかなり減り、MPに至っては最早枯渇寸前。もう一回分の魔技(マジックアーツ)を使うだけの値しか残されてはいない。そして今は幸か不幸か、爆炎の砂煙に紛れる事で此方の動きは察知され難い状況。


 千載一遇のチャンス到来! これが最後のチャンスだ集中しろ!!


「ふっ」


 ――俺は再度深く意識を沈め、氷の支配する世界へ没入する。


 幾らチャンスとは言え、余裕が有るなどとは口が裂けても言えない状況だ。彼には高い再生能力がある。半端な攻撃は意味が無く、それに対抗するには凍結の状態異常が有効だった。だが浅い所を凍結させた所で、紅いオーラに邪魔されて無意味に終わるだろう。


 ――深く深く。


 ――体の奥深くを凍て付かせるのだ。


 だが彼には強化な鎧があり、また貧弱魔王ハクちゃんでは筋力が足りず、氷迅爪だけでは深く穿つ事が出来ない。また、それに強爪を加えても強爪は切り付け攻撃だ。刺し穿つには使えない。高等魔術(ハイスペル)でも倒せない、幾ら魔術(スペル)を複合しても威力が足りないだろう。『獣爪術』と『格闘強化』の補正効果を乗せる為にも、彼を屠るには魔技(マジックアーツ)でなければならないのだ。


 だが俺には、シロと憑依した事で使える様になった技がまだ一つ残されている。


 ――獣爪術のLv.4『刺爪』。


 読んで字の如く、刺し穿つ事に特化したその新しい武技(アーツ)。それをベースとし、刺突にも使える迅爪と、貫通力のあるアイスランスを合わせた刺突特化技。更にそこに四つ目となる、奴の自己再生能力を阻害する為のフロストバイトを合わせた四重奏魔技(カルテットアーツ)を放つのだ。どれか一つでも欠ければ勝利は成し得ないだろう。


 幾ら憑依して魔技(マジックアーツ)が使い易くなったとはいえ、四重奏(カルテット)は簡単に使える代物じゃない。それでも、俺は確信を持って魔技(マジックアーツ)を発動させる。脳波を読み取るこの世界で、迷いは失敗と同義だ。俺は唯々自分自身を――何よりも、最高に頼りになる相棒を信じて、結果をイメージする事に意識を研ぎ澄ます。


 イメージするのは何にも阻まれる事のない、鋭く強固な一本の槍だ。


『アオーーーーン!!!』


 シロの咆哮を受け、俺の掲げた左手に魔術(スペル)『アイスランス』と『フロストバイト』が複合された高等魔術(ハイスペル)が顕現する。それが暴れない様、『制御は任せて!!』というシロの強い意志が伝わって来る。俺は頼もしい相棒の意思を受け取り、微塵も不安に思う事など無く不敵に嗤う。


 今回は強爪を使えない。それ故に、まずは溜め時間が発生する魔術(スペル)から使う必要が有った。左手に蒼白く光り輝く光球が産み落とされ、それはこの戦いを終わらせんとする、俺達の意思を乗せた力強さを辺りに撒き散す。蒼白い冷気が飛び散り風は乱れ砂煙が吹き飛んで行く。砂煙が吹き飛んだ事でリーダーが此方に気付き目を見開いた。


 その表情を横目に、俺は勝利の確信を添えて更に一歩踏み出す。


「グガアァァ!!」

「くっ!!」

『ガウ!!』


 間近に現れた脅威に気付いた彼は、咄嗟に右手で長剣を水平に振るってくる。苦し紛れに放たれたそれを、屈む事でギリギリ避ければ頭上を暴風が通り過ぎて行く。だがあれは直ぐに帰って来る事だろう、そうなれば俺達は終わりだ。そう思いつつも彼の懐へと躊躇なく飛び込む。


 ――此処は死地だ。


 失敗すれば戻って来た刃に俺達はあっけなくやられてしまう事だろう。

 だがそれでも……。俺達は其処に飛び込む事に微塵も不安は無かった。


 目の前には二度の攻撃により引き裂かれ、僅かに口を開ける鎧の姿。そこに力の全てを打ち込むべく、足に力を込め右足を踏み込んだ。踏み込むと同時、俺は左手の高等魔術(ハイスペル)を握り潰す。蒼き光球に閉じ込められた暴威はその姿を変え、俺の左腕を覆う爪の紋章が蒼き輝きを解き放つ。


 俺は成功の確信を持って、武技(アーツ)『迅爪』と『刺爪』を無詠唱で同時に発動し、その力に新たな名前を授ける。その名に全てを託し、俺達は魂を震わせ咆哮を上げた。


穿煌爪牙(せんこうそうが)ぁぁぁ!!!!』

『ア゛オ゛ォォン!!!!』


 言葉と同時、左手には蒼く輝く一本の槍が生み出される。


 それは細く鋭く、それでいて肉を引き裂く様に、幾重にも返しの付いた鋸の様な刃だった。


 その刃は産み出された瞬間、迅爪の効果によって鎧の隙間へと吸い込まれる。その加速はアイスランスと刺爪の突破力を以って、邪魔される事無く彼の肉を引き裂き、その筋骨隆々な肉体に深く異物を刺し出した。俺はその結果を確認する事無く、即座に爪を切り離しこの場を離脱する。


 その瞬間、俺達の憑依は(ほど)け、そこには元の姿に戻った俺とシロの姿があった。シロは何時でも動ける様、リーダーを睨みながらその小さな四肢に力を込めている。俺達は並び立ち、油断なくその結末を見届けていた。


 憑依が解けた事で俺達の残りMPは共に無く、また左爪を切り離した事で俺は両手の爪を失った。だが憑依が解けた事で最大HPが減り、再生成に掛かるコストは下がりギリギリで右手の爪を生成する事が出来た。だがその結果HPは残り一桁になっている。最早石一つ掠るだけでも死にそうだな。


「グオォォオォォォオォオォ!?!?」


 彼の内部深くへと刺し込まれた異物は、閉じられた空間の中で最大限の効果を発揮する。内部で解き放たれたブリーズが、アイスランスの力も乗せながら冷気を撒き散らし、彼の大柄な肉体をその内部から蹂躙する。彼の肉体は異物を刺し込まれた右側面から見る見る内に凍結し、彼の再生能力すらも封じ込めて行く。


「グッッ! ガアァァァ!?」

「無駄じゃよ、それを取り出す事は出来ぬぞ」

「ワン!ワン!」


 彼は即座に異物を取り出そうとしたが、返しの付いた刃がそれを阻害する。それ処か刃に触れた左手が即座に凍てつき、引き抜こうとした事で砕け散る始末だ。彼の纏う鎧はその急激な温度変化に耐え切れず、傷口から徐々に砕けて行く。


 遂には彼の右腕さえも凍り付き、支えきれなくなった長剣は零れ、地面へと突き立った。彼は俺の一撃で両手を失い、その高い攻撃力を発揮する事無く全てを失ったのだ。


 ……まぁ貧弱氷結魔王ハクちゃんでは、発揮された時点で即死するので当たり前なのだが。


「グ……、ゴァァ……」


 彼は最早どうにもならない事を悟り、小さく声を漏らす。それでも彼が膝を着く事は無く、此方を睨み付けていた。それと同時に刺し込まれた異物は砕け、彼の体からも紅いオーラが輝きを失った。どうやら彼にとっても時間は余り無かった様だ。


 俺は彼に止めを刺すべく右腕を構え、『強爪』と『迅爪』を発動させながら歩み寄る。念の為ポーションで回復したい所だが、まだ冷却期間(クールタイム)が終わっていない為使えない。


「実に気高く、勇敢で、……素晴らしき戦いであったぞ、リーダー殿。ワシはお主達全員に最大限の敬意を表わそう」

「ワフ!ワフ!」

「グ……、ガッ」


 俺の言葉にシロは同意する様に鳴き声を上げたが、彼は唾でも吐き掛けそうな程に嫌そうな顔をしていた。俺はその反応に苦笑を返す事しか出来ない。確かに彼の仲間を全て屠ったのは俺だが、思えば彼等は初めから俺に対して憎悪の念を向けていた様に思う。一体何故そこまで恨まれているのか……、聞いてみたい気もするが、言葉が交わせない以上それは叶わない望みだろう。


 俺はこの戦いに終止符を打つべく、右手の刃を振り上げる。


「ガァ!」


 俺が彼に止めを刺そうとした正にその瞬間、彼が最後の力を振り絞り短く咆哮を上げる。その光景に、俺はホブ蔵戦の時の『咆哮』スキルを思い出し警戒する。


 まさかまだ何か有るのか?

 だが此方にも余力がない以上やる事は変わらない!


 これ以上余計な事をされる前に仕留めようとするが、その咆哮に一瞬の警戒を向けた意識の隙間に差し込む様に、背後に気配が現れた。


 彼等の最後の生き残りであるシーフだ。


「ガウガウ!」


 シロが警告する様に吠えるがそれは間に合わなかった。シーフは俺が油断する最後の瞬間を狙っていたのだ。それを援護する様にリーダーが俺の注意を引き、見事に彼はそれに応えて見せた。振り向きながら放たれた俺の苦し紛れの一撃を、彼は嘲笑うかの様に最小限の動作で屈んで避ける。


 振るわれた一本の爪は彼の右目を切り裂いただけに終わり、シーフは残された左腕でプリーストの遺した形見のナイフを俺の首目掛けて振り払う。空振りに終わった武技(アーツ)の光は、俺の運命を示すかの様に輝きを失っていった。


 ――それは完璧な一撃だった。


 彼の一撃が素晴らしかったのも勿論ある。だがそれだけじゃない、負傷し強化を失った彼では、俺達とリーダーの戦いに混ざった所で意味が無い。彼は自分の無力さと仲間が傷付く姿にも耐え、俺達の憑依が解けるまで気配を消して只管に待ち、戦いが終わる予感に俺が僅かに安堵した瞬間、リーダーと呼吸を合わせ俺達の隙を突いたのだ。


 ――それは彼等の信頼が成せる……、完璧な一撃だった。


 俺は最後の最後で僅かに油断した自分の間抜けさに対する慚愧(ざんき)の念を抱き、それ以上に、彼等の執念に尊敬の念を送り結末を受け入れる。視界の端ではシロが此方に向かって吠えながら走り出していた。



 ――すまんシロ……、俺達の負けだ。



 俺は僅かな後悔を抱え、それでも清々しい気持ちで最後の時を待つ。



 ――だが、俺が予想した最後の瞬間が、この場に訪れる事は無かった。



 俺の首に彼の振るうナイフが振れる正にその瞬間、目の前に居た彼の頭が弾ける様に動き、俺の後方へと吹き飛んで行ったのだ。そして一拍遅れて、遠くから何かが弾けた音が響いて来た。



 目の前から彼が消え、開けた視界には俺達の進むべき街道が見える。


 その道の遥か先、僅かな傾斜を登った(いただ)き。



 ――そこには()の紅き鬼の姿が在った。



 彼女の傍らには黒く大きな十字架が聳え、変わらず纏う黒い修道服に丈の長い細身のコート。口に咥えた煙草からは紫煙が昇り、そこに彼女の細い左手が添えられている。此方に向かって伸ばした右手には、あの日テッシンの店で見た黒く美しい拳銃が日の煌めきを映し、その銃口からは煙草と同じ様に僅かな煙が立ち上っていた。



 彼女は無表情のまま左手で煙草を持ち、煙を薄く吐き出す。



 俺は思わぬ助っ人の登場に一瞬呆けるが、直ぐ様シーフを仕留めるべく動き出す。俺は素早い彼に確実に止めを刺す為に、『迅爪』を発動させる。


「悪いがこれも時の運じゃ! 勝たせて貰うぞ! シーフ殿!!」

「ワン!ワン!」


 彼は瀕死の体を動かし自身の首を左腕で守る。何度も行われた俺の首狩りに対する為だ。だが瀕死の彼の首を無理に狙う必要は無い。俺はそのガラ空きの胴体目掛けて、右手の爪を袈裟懸けに振り払った。


「グ!? ガァウ!!」

「な!?」


 五本の刃は狙い違わず彼の胴体に叩き込まれる。だがここでも予想外の事が起こった。瀕死だった筈の彼はその一撃に耐えてみせたのだ。俺が一瞬訳も判らず混乱している隙に、彼は懐から何かを取り出し此方に向かって走るシロに向けて放り投げた。投げられたそれは放物線を描き、シロへと正確に飛んで行く。


 それは導火線に火が付き、今にも爆発しそうな小さな爆弾だ。


「ガァ!」

「くそ! シロ!!」

「キャン!?」


 シロも俺に劣らず物理に関しては貧弱だ。たとえ小型とはいえ間近で爆弾なんて受けてしまっては一溜りも無い。そして狼型故に俊敏が高いとはいえ、シロは飽く迄も精霊だ。あの爆弾から自力で逃れるだけの速さは無い。


 俺はシロを救うべく即座に迅爪を発動させる。俺は焦りながらも此方へ駆け寄る小さなシロを腕に攫い、そのままその場を離れ反転しながら地面を滑る様に動きを止め、爆弾を警戒する。


 瞬間、爆弾は破裂し辺りに紫色の煙が立ち込めた。


「まさか毒か!?」

「ワン!ワン!」


 俺の疑問に胸に抱くシロが警告を告げる。


 俺はその警告を受け煙から更に距離を取った。今の俺は本当にHPが残り僅かなのだ。毒とはいえ、ほんの少しでも食らえば即座に教会送りである。


 ……おお、ハクちゃんよ。毒で死んでしまうとはプッフゥ~♪ クスクス! とは言われたくない。言った奴の首を即座に刎ねる自信がある。


 そして僅かな時間を掛け煙が晴れると、そこにはもう二人の姿は無かった。

神父ワルゼン「は!? い、今何か首に寒気が!?」

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