035 憑依術
雰囲気壊したく無い時は前書き、後書きは控えるかも。
天を突く程の青白い光の柱に世界は蹂躙され、彼等もそれを警戒してか一拍、戦場に静寂が訪れる。
光が収まったそこに居たのは、目を閉じて佇む一人の少女だった。
彼女は青白い冷気を纏い、周囲には同色の燐光がまるでダイヤモンドダストの様に漂う。髪は少し伸び青白く変化し、その毛先は陽炎の様に揺れながら空へと溶けていた。両手の甲に有った爪の紋章はその色を青白く変え、今や肘の辺りまで伸び輝きは力強さを増している。背後には青白く変化した豊かな尻尾が、その存在を主張する度に雪の様な結晶を辺りに撒き散らしていた。
少女はゆっくりとその眼を開く――
そこにはまるで、蒼穹を氷で閉じ込めたかの様な、蒼く輝く美しい瞳があった。
瞬間、その姿が掻き消える。
それと同時、前方左端に居たホブゴブリンの首が宙へと投げ出された。背後には先程の美しい少女が、一本の青白い刃と共に姿を現わしている。首を失ったホブゴブリンは力無く膝を着き、倒れた瞬間光となって砕け散る。それを成した刃は直ぐ様、氷の欠片となって辺りに燐光を撒き散らした。
彼女は右肩越しに彼等を見据え、残された鬼達に告げる。
「悪いが時間は掛けられぬ、速攻で方を付けさせて貰うでの」
そこに居たのは、憑依術によって精霊シロをその身に宿したハクだった――
『ワン!♪ワン!♪』
――頭の中ではシロの楽しそうに吠える声が聞こえて来る。俺は今シロを自身に憑依させ、まずは一体を仕留める為、最高速度を出せる『氷迅葬爪』を使って速攻で一体のホブゴブを片付けた。技巧『纏魔憑依』を使うとその瞬間からMPが常時消費され続ける。このスキルを使った以上はもう時間を掛けられないのだ。それは一秒当りに10程消費され、瞬く間にMPを貪り食っていく。
俺の最大MPは現在600弱程度、更に今は戦闘で半分以上を消費し、憑依する為にもMPを30程使っている。何もしなくても30秒と持たずに俺のMPは底を尽き憑依は解除されるだろう。更に憑依中も当然魔術を使えば消費されるので、全力で戦闘をすれば10秒と持たない。憑依が解除された時には全てのMPが無くなっているので、この強敵達相手に勝利は絶望的となるだろう。
だがそれは、憑依する前の話しだ。
現在俺のステータスは、俺の加護によって倍増したシロのステータスがそのまま加算され、爆上がりした状態となっている。内容については細かく話しても仕方ないので、一度見せた方が早いだろう。
憑依した俺達の今のステータスは――
スキル:獣爪術 _Lv.4(+1)
氷結魔法_Lv.4(+1)
憑依術 _Lv.2
俊敏強化_Lv.3
格闘強化_Lv.3
氷結属性_Lv.2(New!)
魔力強化_Lv.2(New!)
擬態 (New!)
◆ステータス
HP:541/ 697(+ 317)
SP:436/ 697(+ 317)
MP:998/2040(+1451)
筋力: 13(+ 12)
体力: 59(+ 35)
器用: 17(+ 16)
俊敏:363(+106)
魔力:398(+312)
精神:158(+ 96)
知力: 56(+ 35)
幸運: 17(+ 16)
――となる。
俊敏特化ハクちゃんにとって重要な俊敏もかなり上がっているが、それよりも何より魔力爆上がりである。元のステータスから言えばざっと4.5倍だ。俊敏特化の筈のハクちゃんが最早魔力の方が上になるのだ。そこにシロが持っている『氷結属性』スキルが追加されているので、魔術と魔技による攻撃力は5割増しになり、魔術による攻撃力は凡そ7倍になる。
そして俺が持つ『獣爪術』『格闘強化』には、『素手攻撃時にダメージUP』効果がある。これは例え素手でも本来魔術には乗らないが、魔技を使う事で『爪による素手攻撃』扱いとなり、此方の効果も魔術ダメージ分に影響する。
現在スキルレベルが上がっている事も有り、効果は二つ合わせて370%増加。氷結属性効果を合わせれば425%アップする。魔力爆上がりの効果と合わせる事で、素の状態で使う魔術に比べて、魔技を使えばその威力は驚異の23倍である。
最早何者をも寄せ付けず、全てを凍てつかせる魔王である。
今ここに! 美少女氷結魔王!! ハクちゃんが誕生したのである!!!
ドカーーーン!!!!(あ、しつこい?)
何故こんな事になるのかというと、憑依した際に加算されるのがステータスだけでは無く、スキルも加算される事にある。シロが持っている『魔力強化』、これが憑依した際に俺のスキルに加わるのだが、これ何と二重取りしているのだ。
どういう意味かといえば、シロが持っている時は当然シロにこのスキルは適応されている。その補正後の数値が憑依で俺に加算された後、そのスキルが俺にも加わる事でもう一度スキルによる補正が入るのだ。このスキルを俺が元々持っていれば、スキルレベルが上がるだけで上昇割合はそこまで大きくはならないのだが、今回は俺が持っていないスキルが加算された事で爆上がりしたらしい。
それに伴い最大MPも爆上がりしているが、これは元々俺とシロに残っているMPが合計される形になるので、今回効果としては余り意味は無い、まぁシロの残りMPが加算された事により憑依時間は伸びるし、憑依後にMPを割合で回復するアイテムでも使えば効果が上がるので、その時には存分に力を発揮してくれるだろう。俺は今HPを100回復するポーションしか持っていないので関係無いが。
今の残存MPであれば、魔術を使用しながらの戦闘でも恐らく30秒程は持つだろう。強化されたホブゴブリンとはいえ、五体相手であれば十分な時間だ。魔術を使わずに武技だけで戦えば時間はもっと稼げるが、それでは折角威力が爆上がりした氷結魔法が使えないのでやる意味は無いだろう。
それから『擬態』については戦闘において殆ど関係はないが、『獣爪術』と『氷結魔法』のレベルが憑依中限定だがレベルが1上がっている。これは、シロの持っていた『獣爪』と『精霊魔法』がそれぞれ統合された結果だ。この二つのスキルは、プレイヤーには関係の無いスキルだ。それが憑依する際にプレイヤーに合わせた形で変換され、それぞれのスキルに統合される形となった。
これは単純にレベルが足し算された訳では無く、シロが抱えていたスキル経験値が俺のスキル経験値に加算された形になる。なので今後シロのスキルが3~4と上がって行ったとしても、憑依した際には一つも上がらない可能性はあるのだ。まぁシロとは今後も一緒に戦っていくので、シロも経験値は稼ぐから最低でも1レベルは上がるだろうが。
それと、魔技についてもかなり使い易くなっている。恐らく関係するスキルレベルが上がった事と、魔法の操作性と発動速度に関係する『知力』が上がったからだろう。何より精霊であるシロが憑依中は魔術の制御を手伝ってくれるので、格段に魔技の制御が楽になるのだ。物理面に関しては相変わらずの貧弱氷結魔王ハクちゃんだが、まぁそこは俺もシロも魔法型なので考えた所で仕方ないだろう。
因みに、グー助戦で初めて『纏魔憑依』を使って本気を出した時は、グー助の首を盾毎切り飛ばした。その時の彼は驚くと同時に、解放される安堵から安らいだ表情をしていた気がしないでもない。
多分! きっと! 気のせいだ!!
まさか大盾毎切れるとは思っていなかったので吃驚したが、斬り飛ばした大盾は木に薄い鉄板が貼ってあるだけの、簡素な代物だったので拍子抜けした。初心者相手だから手を抜いたんだろうが、細かい所で抜けている奴である。
……まさか金が無かった訳じゃないよな? グー助。
……深く考えてはいけないな! うん!
閑話休題
今はホブゴブリン戦の真っ只中である。
俺は彼等に半身を向けて、左手のそれを隠しながら、彼等の動きを伺う。
「ゴガアァァァァァ!!」
リーダーが咆哮を上げた瞬間、残りの四体全てのオーラが輝きを強くする。どうやら一人落ちた事で更に強化されたらしい。仲間をやられた事による強化か、或いはリソースが一人減った事により一人一人の割合が高まったのか。どちらにしても一筋縄ではいかなそうだと嫌になる。尻尾フリフリ、燐光キラキラ。
敵の数が減る程強くなるのなら出来ればリーダーから落としたい所だが、他の三人がそれをさせてはくれないだろう。特にシーフの素早さは馬鹿に出来ない。結局の所、数を減らしてからのリーダーだろう。
前後を挟まれた状態から俺が前方に動いた事で、距離が離れたシーフは直ぐに距離を詰めて来た。そしてそのまま俺へと斬り掛かって来る。恐らく彼も状況が悪いと判断し速攻を仕掛け、速度に優れる彼が此方を攪乱するつもりなのだろう。だがそれは今回は悪手だ。
結果としてシーフを含めて、全員が効果範囲に入ってしまったのだから。今俺の握られた左手の中には、チャージしていた『ストームブリーズ』が今か今かと解き放たれる時を待っていた。彼等からは体に隠れて、漏れ出る光さえ見えなかった筈だ。
「まだまだ楽しませてくれそうじゃ、の!!」
『ワフゥ!♪』
俺は頭の中でシロの声を聞きながら、迫り来るシーフに向け左手を握ったまま差し出す。そして彼の目の前で、まるで手品の種明かしでもする様に手を開く。そこには青白く光り輝く光の球体が存在していた。シーフはそれを見て、目を見開き驚いた表情を見せている。
まさかこの距離で、範囲魔法を使ってくるとは思っていなかったのだろう。その顔を見て俺はニヤリと笑い、左手の高等魔術をその場で解き放った。彼はその魔術にモロに突っ込む形になってしまったのだ。
幾ら俺の速さが上がったとはいえ、それは彼も同じである。彼等の赤いオーラが何処までの強化率を誇るのかは判らないが、このゲームの特性上、それが僅かな強化とはならないだろう。倒せば倒す程敵が強化される現状、手が付けられなくなる前に速さに優れる彼を真っ先に落としたかったのだ。
そして、満を持して解き放たれたその暴威は、憑依前に放った時の比では無かった。
「「「「ゴガアァァァァ!?」」」」
その場に氷の暴力が吹き荒れる。俺は元々氷結属性に対しては60%近い耐性を持っていて、そこに氷の精霊であるシロと憑依した事で『氷結属性』スキルが加わり、憑依中であれば俺の氷結耐性は100%を超えるのだ。その結果、自分の魔術でダメージを負う事が無くなったのだが、当然それは俺だけの話しだ。
その氷の嵐に、ホブゴブリンである彼等には成す術など無い。その魔術を目の前で受ける事になったシーフは、逃げる事も出来ずその場でモロに浴びる事となる。これでまずは厄介なシーフを始末する事が出来た。そう思ったのだが、その彼を救う者が現れる。
前衛組の一体である彼はその身を凍らせながらも、シーフの襟首を左手で掴むと自身の後方へと投げた。その際凍った左腕は折れてしまった様だ。そして自身の身で魔術の暴風を遮る盾にしながら、武技を剣に纏わせそのまま俺に斬り掛かって来る。その余りに予想外の行動に、俺は慌てて一歩下がる事で対処した。
だが彼の狙いは俺では無かった様だ。彼はそのまま、魔術の起点となっていた光球を断ち切ってしまったのだ。その瞬間暴威は止まり辺りに静寂が戻って来る。だが当然その代償を彼は支払う事になる。起点の最も近くまで行った彼の右腕は凍り付き、そのまま振り抜いた事で腕は折れ、地面にぶつかると同時、剣と共にポリゴンとなって弾けて消える。
腕の持ち主である彼も、魔術を浴びながら中心点に近付いた事で、剣を振り抜いた姿で凍ったまま、既に事切れていた。両手を失い満身創痍なその姿だが、その表情には一片の怯えも無く、只々此方を睨み付けて立つその様はまるで彼の有名な弁慶の様だ。その背後には彼が守り抜いたシーフが、目を見開いた表情で彼の事を見詰めていた。
一拍の間を置き、凍り付いた彼はポリゴンとなって砕け散る。
俺は彼の己が身を顧みず味方を救うその勇姿に、僅かな間感嘆の念を抱きその光を見送った。
「……お主らは本当に、素晴らしき戦士じゃのう」
『アオーーーーン!』
彼等の高い戦意と有志を解っていたつもりだったが、それでもあの死地の中、自分の身を捨ててまで味方を救う何てな……。本当に格好良いよお前ら。シロも俺の意見に賛同する様に、彼の勇姿を讃え遠吠えを上げていた。
それにまさか、高等魔術が切られるとは思わなかった。以前ゼンも俺のウィンドスラッシュを切り払っていたが、あれは初歩も初歩の魔術を慌てて工夫もせずに撃った代物だ。今回のそれとは全くの別物だったのだが、どうやら強力な魔術であっても、中心を叩く事が出来れば断ち切る事も可能らしい。憑依しているからと過信は出来ないな。
「ゴガアァァァァァ!!」
暫し茫然としていた俺を正気に戻したのはリーダーの咆哮だった。彼を見れば赤いオーラは更にその力強さを増している。俺は仕留め損ねたシーフを見遣るが、彼は魔術をモロに浴びた影響で、ナイフを振り抜こうとしていた右腕はナイフ諸共砕け散り、その体も『凍結』の状態異常を受け直ぐには動けそうに無い。残った最後の一体も同じ様に満身創痍の状態だった。
上手く行けばリーダー以外の三体は落とせるかと思っていたのに、結果倒せたのは勇壮なる彼だけだったか……。本当に勇ましい最後だった。
オーラには自己再生能力が有るが、それは飽く迄もステータス強化のおまけの様で、オーラが強くなっても効果が上がっている様には見えず、動ける様になるにはまだまだ時間が掛かりそうだ。下手に彼等に止めを刺してもリーダーを強化する事になるので、一旦彼等を捨て置き、遂にリーダーとの直接対決を行う事にする。
「漸くお主と戦えるようじゃのう、リーダー殿。準備は良いか?」
『ワフ!ワフ!』
俺は遂に本命だとリーダーに向き合う、これ以上小細工は必要無い。きっと彼等の赤いオーラもそれ程長く続く物では無いだろう。既にお互いが切り札を切っているのだ。ならば後は語り合うだけである。シロも『何時でも行けるよ!』とばかりに吠え戦意を漲らせている。
「まぁ……」
深く腰を落とし、彼を真っ向から見据える。
左手には『氷盾爪』を発動し、肘まで覆う程の氷の籠手を纏い、
右手には圧縮され、蒼白く光り輝く『氷迅爪』の刀を携えた。
遂に始まる本命との闘い、彼は赤いオーラを漲らせ、俺は蒼い冷気で周囲を凍てつかせる。
互いのオーラは開幕の時が近い事を悟るかの様に、刻一刻とその輝きを力強く煌めかせた。
「良く無くても行くんじゃが、の!!」
『アオーーーーン!』
「ゴゥガァァァ!!!」
俺の言葉にシロが気魄の咆哮で応え、リーダーは全身に力を漲らせながら掛かって来いと怒声を上げる。
俺達は奇しくも、互いに左手に盾を持ち、右手には一本の刃を持って戦いを始めるのだった。
シーフ『くそっ! くそぉぉぉ!!』




