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034 帰って良いかなぁ!?

おや? 飛び立った弾丸の様子が?

「ふむ、『蒼光弾(そうこうだん)』と言った所かのう」

「ワフ!♪ワフ!♪」


 俺が暢気に新技に名前を与えシロが喜び吠える中、ヘッドショットされたホブゴブが倒れ行く。頭を貫通した蒼い弾丸はその背後にあった大木に突き刺さり、一瞬の煌めきを放ったかと思えば大木を袈裟懸けに両断していた。大木はバキバキと枝を折る音を辺りに響かせながらゆっくりと倒れ、ズシンという音と共に土煙を上げる。その様子に、ホブゴブ達は俺をより警戒した様だ。


 ……そういえば、強爪は斬撃攻撃だったな。……つまり、強化された加速力と貫通力だけでホブゴブの頭を兜毎ぶち抜いたのか? ……その後、木に刺さり効果時間が来た事で斬撃が発生した、と。……なるほどね?


 ……ね、狙い通りだな、うん! あ、あの木が邪魔だったんだよね! うんうん!


『ゴガゥガァ!!』


 俺が自身が行った自然破壊に内心で焦っている事など露と知らず、リーダーは俺が放った魔技(マジックアーツ)を見て直ぐ様号令を出していた。その瞬間、ホブゴブ達は眉間を守る様に盾を構えながら、片目で此方を覗き見る。構えた盾にも少し角度を付け、貫通されない様にする徹底っぷりだ。


 いやいやいや、判断がはやぁぁぁい! 有能過ぎんだろお前ぇぇ!!


 俺はこのまま同じ技でもう一人位落とせるかと思ったのだが、リーダーは直ぐ様対策を講じて来た。これでは直接頭を狙い難い上、盾に当たったとしても角度が付いている為、そのまま貫通出来るかは怪しい。仮に貫通したとしても威力は格段に落ちるだろうし、ワンクッション増える事で避ける猶予が僅かに生まれるし、弾道も大幅にブレる事になるだろう。


 これならいっそ、他のダメージを負っていないホブゴブに撃って倒した方が良かったか? いや、それでもし倒し切れなければ目も当てられないな。一体倒せたんだから結果オーライだ。何にせよ敵は今2:3で分かれている。合流されて更に密集される前に左の二体を落とそう。


 今の三体を落とすまでに、MPは半分使ってしまっている。実は氷結魔法は実体を伴う為、余りMPの消費効率が良くは無いのだ。それに対してSPは三分の一使った位。まずは数を減らしたかったので仕方ないが、左の二体については武技(アーツ)メインで倒す事にする。そうと決まれば、合流されて五体による密集陣形を組まれる前にさっさと突貫する。


「シロ!」

「ワン!『アオーーーーン!!』」


 俺はシロの名前を呼ぶと同時に、『蒼光弾』で消費した爪を再生成する為、再度HP5%分のコストを支払い、右爪を生成しながら左の二体に向けて走り出す。これで俺は5%×二回分のダメージと、自分の魔法と石片を掠めた分のダメージを負った事になる。殆ど自傷ダメージだな。


 シロは『解ってる!』と言わんばかりに一言吠え、右の三体に向かって氷の波動を叩き付けた。これは冷気による直線帯状の範囲攻撃になる。その為、ダメージ自体はアイスランスに劣るが、『凍結』の状態異常値が高い攻撃なのだ。その攻撃によって、右の集団が此方に向かってくる移動速度が僅かに落ちた。


「ゴガァ!」

「ゴブゥ!」


 俺が走り出した事によって、左の二体が『掛かって来い!』とばかりに吠えて来る。彼等は互いを守る様に密集している。二人の間に攻め入る隙は無く、もう一度飛んで上から攻めても、一度見せた攻撃が再度通用するとは思わない方が良いだろう。武技(アーツ)を使っても貧弱ハクちゃんでは彼等の盾を弾く事も出来ない。なので無難に左右から攻めるしかないだろう。


 という訳で二人の隙間に飛び込むか。……ん? 何か?


 幾ら密集しているとはいえ、彼等の太い腕を振る程度の隙間は有るのだ。その為、彼等の足元には僅かな隙間があり、また彼等は警戒する様に盾を構えている為、下方向の視界が悪い状態だ。そして160cm程度で細身のハクちゃんにとって、180cm程で大柄な彼等の隙間は十分広かった。


 俺は彼等に近付いた所で、一気に姿勢を低くしてから右手に『迅爪』を発動し、狭い二人の隙間に頭から飛び込んだ。彼等には俺が一瞬消えた様に見えた筈だ。


「疾っ!」


 そして彼等は今密集している事により、一振りで二人とも攻撃出来る範囲にいる。体を捻りながら彼等の足の隙間を超え、その瞬間に地面に左手を着く事で、上半身にブレーキを掛ける。そのまま体を前後反転させ、右手の迅爪で彼等のアキレス腱を断ち切った。俺はそのまま左手と両足で地面を滑る様にブレーキを掛け、そのまま右腕を構え意識を沈める様に集中する。


「「ゴガァ!?」」


 突然アキレス腱を切られた事によって、彼等は仲良く膝を地に着く。


 ――大柄な彼等が膝を着くという事、


 ――それは実に、首が狩り易い高さに来るという事を意味する。


 シャラン――という空気を裂くような綺麗な音がした瞬間、彼等の首は自らの体と永遠に別れる事になった。


 『強爪+迅爪+アイスランス』を合わせ、一本の刃に全てを込めた魔技(マジックアーツ)


 『氷迅葬爪(ひょうじんそうそう)』による、一撃だ。


 俺の前で二体のホブゴブは正座する様に両膝を着き、在りもしない(こうべ)を垂れる。首を狩る為に振るった右腕を、血振りする様に右下に払えば彼等は砕け、それと同時に魔技(マジックアーツ)の砕けた青白い燐光が、冷気を撒き散らしながら辺りを漂う。


「これで前衛は残り三体じゃな。この分では直ぐに終わってしまいそうじゃのう。リーダー殿?」


 俺はニヤリと嗤いながらリーダーを煽る。


 始めから此方に対して怒りをぶつけつつも、常に戦場を冷静に観察し、俺の攻撃にも直ぐに対処してきた一番の厄介者。そんな彼に何時までも冷静なままで居られると、下手をすればこっちがやられかねないのだ。


 そして、俺の煽りは予想以上にその効果を発揮した。


「ゴガァァァアァアァアアァァ!!!」


 煽りを受けたリーダーが怒りの咆哮を上げたのだ。ずっと冷静だった彼も部下を半分以上失い、しかもその仇からの挑発を受けては我慢出来なくなったらしい。これで少しは冷静さを失ってくれればいいが。そうそう上手くは行かないだろう。


 幾ら冷静さを欠いたとはいえ、彼が守るプリーストもまだ残っているし、それに前衛の三体だって油断は出来ない。何よりも、一人明らかに練度の高いリーダーがまだ残っているのだ。戦いはより激しさを増す事だろう、俺はまだまだ楽しめそうだなと尻尾を振るう。


 まずはプリーストを落としたいが、あのリーダーの守りは堅い、下手に拘っても此方がジリ貧になるだけだ。ならば今まで通り前衛を確実に一体ずつ落としていく。敵はまず合流を目指すだろうから、その前に一人でも多くの前衛を落とさなければ。


 そんな事を考えていると戦況は突然動き出した。リーダーが急に此方に向けて走り出したのだ。それは今まで陣形を駆使し、此方の攻撃にも即座に対処してきたあのリーダーからは考えられない行動だった。


 その動きは前衛の三体との合流を目指す訳でも無く、リーダーはまるで癇癪を起した子供の様に、がむしゃらに此方へと向けて走り続ける。その速度は驚異の一言だったが、幾ら速いとはいえ俊敏特化なハクちゃんの方がまだまだ速い。リーダーのその突然の行動に、前衛の三体は慌てて追い縋る。()()()()()()()プリーストも必死で後を追っていた。


 ……そう、置いて行かれているのだ。こんなチャンスを逃す訳が無い。


 その事を少し残念に思いながらも、だからといって手を抜くつもりも無い。俺は自分の策が効き過ぎた事に、少し複雑な思いを抱きながら。魔技(マジックアーツ)『氷迅葬爪』を再度発動させ、此方に向かってくるリーダーを無視し、瞬時にプリーストの元へと向かう。彼は懐に何かを隠し持っている為、何をさせる事も無く倒す必要がある。


 プリーストの目の前まで辿り着くのに、時間は一瞬と掛からなかった。ノタノタと走る魔法型のプリーストでは、俺の攻撃を避ける事など出来る筈も無い。突然目の前に現れた俺に驚いた彼が反射で身を引いた時、被っていたクーコリが揺れ、その顔が伺い知れた。俺はその顔に少し驚くも、躊躇なくプリーストの首に刃を振るう。


 だが首を刎ね様とする正にその瞬間、森から一本の矢が飛んできた。


「ちっ!」

「ゴブゥ!?」


 ただしその矢は慌てて撃ったのか、何の武技(アーツ)も乗ってはおらず。また今回は念の為、森に対して少し注意を払っていたのもあり、ギリギリで避ける事が出来た。だがその結果、首を刎ねる筈だった刃は軌道が逸れ、無理矢理当てに行った事で、彼女の胸に突き刺さる形となった。


 ――そう、プリーストは女性型のホブゴブリンだったのだ。


 首は刎ね損ねたが結果は変わらない。俺の一撃は十分に致命傷だった様で、彼女は杖を手放しそのまま俺に向かって倒れ掛かって来た。その時に被っていたクーコリは勢いで脱げてしまい、隠れていた顔が露になっている。近くで見たその体は、意外と小柄で俺とそれ程変わらない。体も思いの外柔らかく、その体からは微かに薬草の匂いがした。


 俺はプリーストが女性だった事と、その意外にも人間的な顔の作りに意表を突かれ、思わず彼女の体を抱き留めてしまう。瀕死の彼女は右手で俺の服をきつく握りしめながらも、最後の力を振り絞りまだ自分の足で立っていた。


 それは何処か、まだやり残した事でも有るかの様な必死さを思わせる。


「グッ……、ギャァ!」

「!?」


 次の瞬間、俺の右腕に衝撃が走る。彼女が腰に差していたナイフを自分の体で隠しながら、左手で抜き直ぐ様俺に刺して来たのだ。俺は直ぐ様彼女を左手で突き放し、まだ刺さっていた右爪を抜きながら、そのまま左爪を袈裟懸けに切り払う。彼女は体を切られ倒れながらも、此方を見詰めるその表情は一矢報いてやったとばかりに澱んだ笑顔を見せていた。


 ……何なんだよ、……一体。


「グギャ、ギャ」

「…………」


 倒れ行く彼女は不敵に嗤う。それでもまだHPが残っているのか、倒れた彼女が直ぐ様ポリゴンになる事は無かった。それでも出血ダメージで直ぐに死ぬだろう。倒れた衝撃で彼女の破れた司祭服からは、彼女が隠し持っていた何かが零れ落ちて来た。それは何かの道具でも切り札でも何でもない、只のポポルの実だったのだ。


 俺がその光景を黙って見ていると、森から何かが飛び出し右手に持ったナイフで斬り掛かって来る。その速度はリーダーよりも速い物だったが、俺は茫然とはしつつも油断はしていなかったので、寸での所で右に避け、逆に右爪で隙だらけのそいつの左腕を切り付け一歩下がった。


「グギャア!!」

「ちっ!」


 そいつは腕を切られながらも更に追撃して来たので、今度は大きく下がる。そうすれば今度は追撃して来る事はなかった。どうやら俺をその場から追い払いたかっただけの様だ。下がって見たそいつは少し小柄で、恰好はまるで盗賊の様な恰好をしていた。差し詰めシーフと言った所か。そいつは切られた左手をダラリと垂らしながらも、右手のナイフで此方を牽制してくる。


 速さに秀でる相手に迂闊に飛び込む訳にもいかず、またプリーストの事での動揺も有ったので少し様子見をする事に決める。シーフを切り付けた時は武技(アーツ)を使う余裕が無かった為ダメージはそれ程高くないが、相手も俊敏タイプで装甲は薄く、腕をダランとさせている。回復役の彼女が落ちた事で、この場でその腕を振るう事はもう出来ないだろう。


「ガアギャァァァァウ!!!!」


 俺達が睨み合っていると、リーダーが咆哮を上げ戻って来た。俺は遂に彼との闘いだと身構えたが、彼は此方を一瞥する事も無く、倒れたプリーストの元へと向かう。彼は倒れた彼女を抱き起すと、縋りつく様に泣き始めてしまった。そこへ残りの前衛組三体も合流するが、彼等は此方をきつく睨み付けた後、彼等もプリーストの元へと向かってしまった。


 …………本当に何なんだ、……こいつらは。


 俺に向かってシーフが油断なく睨み付けているとはいえ、正直隙だらけだ。今彼等は一つに集まり、プリーストの死に逝く様を悲しんでいる。そこへ『ストームブリーズ』でも放ちながら暴れれば一体二体は落とせるだろう。……だがしかし、幾ら魔物とはいえそこまで鬼畜な事は正直やりたくない。俺は唯々、茫然とその様子を見守る事しか出来なかった。


「ええ……。本当に何なんじゃ、この状況は……」

「ワフゥ……」


 その声に足元を見ればそこにはシロが居た。シロも此方へとやって来た様で、困惑した表情で彼等を見ていた。敵の数は半分近くに減り、全員が最奥へと移動し馬車との距離が離れた事で、馬車の危険は無いと判断しやって来たのだろう。


 その判断が間違っているとも思わないので、俺はそのまま腕を組みシロと二人で状況を見守る。ちらと馬車の方に目を向けるとシロが頭に乗って魔法を使っていた馬が、頭に乗った雪を首を振る事で落とす所だった。……なんかスマン、馬吉。


 視線を戻せば彼女はまだ息が有る様で、リーダーに向けて何か言葉を話しながら右手を伸ばす。リーダーは涙ながらにその手を力強く握り、必死で彼女を見詰め彼女の言葉を一言一句聞き逃すまいと話しを聞いていた。前衛三体も彼女を囲む様に膝を着き、涙ながらに彼女の話しを聞く。彼等の様子は、まるで死に行く親に縋りつく子供の様だった。


 ……ええ


 ……またかよ。


 ……また何か親殺しをしたみたいなんですけどぉ。


 彼等の様子から、俺はまた特殊イベントを引いたのだと確信しトラウマが蘇る。このゲームの特殊イベントは、プレイヤーの心を抉りに来ないと気が済まないのだろうか? 開発陣は頭が可笑しいのか?? ぶっちゃけ何よりも効くんで本当に止めて欲しいんですがぁ???


 彼等は未だにプリーストを囲んで嘆き悲しんでいるが、遂にその時が訪れる。


 彼女は最後にリーダーに微笑みかけ、『ゲブギゲゲ、……ゴブガゲグ』と言葉を残し、その場に杖とナイフ、そしてポポルの実だけを残して光となって消えたのだ。天へと昇るその光に追い縋る様に、リーダーは泣きながら手を伸ばし咆哮を上げた。


「ガアギャァァァァウ!!!!」


 そう言って、彼は天を見詰めたままぺたりとその場に座り込んでしまった。前衛三体は正座する形で座り、膝の上で握り拳を作って只々泣いていた。目の前に居るシーフも彼女が逝った事に気付いて一瞬後ろに視線をやり、悲しんだ表情を見せた後直ぐに此方を睨み付けて来た。その眼には先程よりも、強い憎悪の念が込められている様に感じる。


「ホントもう……、無視して行っても良いじゃろうか、こいつら……」

「クゥ~ン……」


 滅茶苦茶やり辛いんですがぁ!?

 ほんっっともう帰って良いかなぁ!? マジで!!!


 俺はもう本当に帰りたい気持ちで溢れているが、そういう訳にもいかない。俺達は今ギルドから受けた護衛依頼の最中であり、目指す先は彼等を越えた向こう側なのだ。彼等が街道を遮っている以上、無視して進む事も出来ない。そもそも、護衛対象を魔物の傍に近付ける訳にも行かないが。


「ゴッガガギゲギャブゥゥゥゥゥ!!!!」


 俺がマジでどうしよう、と思っていると遂に状況は動き出す。


 リーダーが突然、残された杖を掴み立ち上がって全身に力を込めて叫んだかと思うと、その瞬間に杖は砕け散り、彼は全身に赤いオーラを纏ったのだ。


「はっ!?」

「ワフ!?」


 どう見ても主人公覚醒イベントです!

 本当に有難う御座いました!! クソがぁ!!!


「「「「ゴガアァァァァァ!!!」」」」


 しかも、オーラを纏っているのはリーダーだけでは無い。シーフを含めた四体のホブゴブ達全員が咆哮を上げると同時に赤いオーラを纏ったのだ。良く見ればシーフに付けた左腕の傷が見る見るうちに塞がって行く。


「自己再生能力じゃと!? いかんぞシロ!」

「ガウ!ガウ!」


 目の前に居たシーフは素早くバックステップし、一旦仲間の元に下がりしゃがみ込む。すると落ちていたナイフを拾い、直ぐ様()()で斬り掛かって来た。俺はそれを右爪で受けつつ左へと受け流す。俺はシーフに左爪で切り返すが、彼はそれを再度バックステップで避け、此方の射程外から背後へと回り込む様に移動を開始する。


「くっ!? 先程よりも速さが上がっておる! このままではジリ貧じゃ!」

「ガウ!ガウ!」


 今は何とか対応出来たが、彼の強化によってギリギリ素早さも負けてしまっている。今は風魔法も外したのでバフを掛ける事も出来ず、このまま挟み撃ちにされれば確実にやられてしまうだろう。そうなれば、残されたミリカとゼフ殿がどうなるかも判らない。


 シーフの強化率を考えれば、撤退しても逃げ切れないだろう。また前衛三体も最早侮れる相手ではなくなり、リーダーに至っては確実に格上の存在になってしまった。そして、シーフの時間稼ぎによって、後ろにいたリーダー含めた四体は装備を整え、咆哮を上げ此方へと進撃を開始する。


「「「「ゴガァァァアァアァアアァァ!!!!」」」」


 彼等はリーダーを中心に、彼を守る様に三体が前面に隊列を組みやってくる。最早、俺達に切れる手札は一つしか残されていなかった。そしてもう愚図愚図と他の手を考えている暇も無い。俺はここで切り札を切る事を決め、強い意志と共にシロへと手を伸ばし呼び掛けた。


「此方も切り札を切るぞ! シロ!!」

「ワン!ワン!」


 シロも最早状況が最悪な事を悟り、直ぐ様同意の声を上げる。


 シロは俺の前で頼もしいその小さな背中を見せ、迫り来る強敵達を正面に見据え、堂々と待ち構えていた。俺はその背を見て、何も不安に思う必要など無いのだと確信を抱き不敵に笑う。



 シロの後ろで俺は左腕を掲げ、それを右手で掴み気合を入れる。

 俺とシロを繋ぐ青白い光の鎖が現れ、俺達を中心に青白い魔力の光が溢れた。

 迫り来る敵を退けるが如く、辺りには風が吹き荒れ唸りを上げる。



 どんな脅威だろうと、決して諦める必要など無い!


 どんな脅威だろうと、その悉くを打ち砕いてみせよう!!


 お前達にどんな想いが有ろうとも、俺達にだって譲れない想いが有るのだ!!!



 背後には忍び寄り殺意を研ぎ澄ませるシーフを

 眼前には鬼気迫り怒気を露にする戦士達を前に

 俺達は不倒の決意を込めてその技巧(フィネス)を口にする



()くぞ! シロ!『纏魔(てんま)! 憑依(ひょうい)!!』」

『アオーーーーン!!』



 瞬間、重く響く重低音を辺りに響かせ、天を突く程の青白い光の柱が世界に現れた。

?『みんな、どうか無事で……』

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