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028 嘆きの工房

オ「シロ様可愛らしかったですね……」

「ふむ……、何じゃろうな。何か盛大な勘違いをしている気もするが……、まぁ別に問題は無かろう! のうシロ! 美味いか~~♪」

「キャン!♪キャン!♪」


 オロバスと別れて程なく、現在シロは俺の腕の中で尻尾をブンブンと振りながら、干し肉をハグハグと食べている。尻尾はご機嫌に俺の腕と脇を交互にビンタしていた。


 世の中にこんなにも幸せなビンタが有っただなんて! 素晴らしい(ハラショー)


 因みにこの干し肉、前に貰った物とは別物だ。幾ら工房エリアとは言え、装備類だけを扱っている訳では無い。また干し肉を扱っている店が有ったのだが、それにシロが過剰に反応を見せたのだ。それはもう、目から星屑のビームでも撃てるんじゃないかと言う程にキラキラとさせ、尻尾を乱舞し俺の頭の上で再度ピーン! と両手を突っ張っていた。


 そんなものを正面から浴びた店主は無事、その攻撃によって撃沈する事になった。胸を押さえていたのでどうやら心臓を撃ち抜かれた様だ。ウチの子マジスナイパー、みんなのハートを撃ち抜くZE!


 尚、前回シロから下賜(かし)して頂いた(祝福)はもう十分堪能したので、干し肉を差し出す店主に俺はシロを頭から降ろし、両手で持って掲げた。そして無事、シロはパクっ!♪と干し肉にありつけたのだ。その瞬間尻尾は踊り狂っていた。店主はそんなシロにほっこりしていたし、当然俺もほっこりしてシロを眺める。世界は今日もとても平和である。尻尾フリフリ。


 そんな訳で今シロは俺の腕の中に居るのだ。俺はそんなシロの首裏辺りを掻く様に撫でている。尚、その店でお礼として俺は干し肉10個入りの袋を一つ買っておいた。一つ100Y(ユグル)と安かったので、シロが気に入る様ならまた買いに来よう。


 俺は店主に軽く挨拶して別れ工房を目指す。オロバスに聞いた工房だ。オロバスに対しては適当にクレームを付けていたが、一応少し覗く事にしたのだ。やっぱり少し気になるしな。だが買い物はしない、ただの冷やかしである。


 その店には直ぐに辿り着いた。外観は白一色の外壁に汚れは一つも無く、純白の輝きは遺憾なく清潔感を演出する。壁には大きな硝子窓が嵌められ、店内の様子がディスプレイ越しに伺えると同時に、工房の商品をキラキラと輝かせ見る物を魅了するかの様だ。入口は大きく作られ人が入り易い様になっていた。その頭上には大きな看板が設置され、この店の存在を主張する。


 看板にはこの店の名前である『白馬の蹄鉄』という文字がオシャレに描かれていた。装備を扱っているのに蹄鉄? とは思ったが、まぁ覚えやすければ何でも良いだろう。多分オロバスと繋がっているので、名前を覚えるのは避ける為だが。そういえば、オロバスは馬の獣人族だったか、オロバスの足に敷かれてるって事か? やっぱ信用ならないな。


「邪魔するぞ~」

「ハッハッハ!」

「いらっしゃいませ」


 俺はそう言いながら店を冷やかす為に入る。店員も反応を返すが、客に張り付いて来る様なスタイルでは無い様だ。中もやはり清潔感溢れる作りになっていて、間にある棚は背が低く、視界も開けているので室内という圧迫感は無い。通りに面する位置に大きな硝子が嵌っているので、まだ日が明るい時間の今は、店内の明るさも確保されている。まるで携帯ショップの様だな。


 俺は店内の様子を眺めながら、近くの棚へと歩み寄る。そこには多種多様な短剣が置かれており、装飾の無い、然れどもしっかりした作りのシンプルな物から、華美にならない程度に装飾が施されたセンスの良いデザインの物まで種類は豊富だ。……あれ? ここ普通に良いぞ?


 いや、当たり前か。オロバスは情報屋だ。当然質の良い物を知っているし、あの時は俺の好感度を稼ぎたかったんだから下手な店は紹介出来ないよな。俺の印象が悪いのは、飽く迄もオロバスと繋がってそう、という思い込みが有るからだ。


 そこで、チラと店員に視線を向ける。店員は俺を見ていた様で、俺の視線に気付いてニコリと微笑んだ。彼は金髪碧眼にショートヘアの無人族男性でカッターシャツに茶色のベストと黒いパンツを履いた、まぁ普通のイケメンだ。モブ男三号である。そういえばモブ男初号機はどうしてるかな、まぁ元気にモブ街道を歩んでいる事だろう。尻尾フリフリ。


「何かお探しですか?」

「いや、何が有るのかと冷やかしているだけじゃよ。今は金も無いしの」

「ハッハッハ!」


「左様で御座いましたか。それではどうぞ、心行くまで御覧になって行って下さい」

「うむ、そうさせて貰うとしようかの」

「ハッハッハ!」


 視線が有った事で彼が話し掛けて来る。彼の反応はまぁ店員としては普通なんだろうが、オロバスと繋がっていそう、という思いが有るのでどうしても胡散臭く見えてしまう。とりあえず、解り易く金がないと言う事で店員を追い払った。シロも特に反応していないので、彼自身は別に裏が有る訳でも無いのだろうが……。


 やっぱ駄目だな。気になって仕方がないから、ここでの買い物は止めよう。オロバスに言われて思ったが、オーダーメイドにはしたいのだ。イベントで手に入ったアイテムを使って装備を作りたい。だがここだと、そのアイテム情報がオロバスに流れてしまいそうで嫌だ。オロバスに知られても良い様な買い物をする時に来るとしよう。


「ご来店、有難う御座いました」


 そうと決め、一通りグルっと見て回り店を後にする。マップを確認すればこの店も追記されていたので、また何時でも来られるだろう。


 そこでふと視線を上げれば、目の前には今出た店とは対極な様に武骨で暗い印象を受ける、然れどもそれが大人の魅力を感じさせる様な、シックな店構えをしたガンショップがそこにはあった。


 壁は全体的に暗めな印象を受けるレンガ造りになっていて、その壁には木枠で作られた小さな窓が並び、中には赤いカーペットを敷かれたディスプレイにハンドガンが展示されている。そのディスプレイには上部の壁から迫り出す様に照明が設置され、中に展示されているハンドガンを重厚に照らし出している。


 ディスプレイから中の様子は伺えず、中が見える様な窓は設置されてない様だ。新規の客が入りずらい、一見さんお断りと言わんばかりの玄人な雰囲気が実に良い。扉はシックな木製の一枚扉で、その上部には照明が設置された看板に、『KANASHIKI工房』と木板に金属の文字が打ち付けてあった。


 良いな~、実に良い。尻尾フリフリ。


 日本で現実には見られないガンショップという非現実感があり、人を遠ざけつつもしっかりと存在を主張していて、大人の魅力を漂わせている。ここなら、オロバスへの情報漏洩も無さそうな気がする。まぁガンショップだから、俺の作りたい物は恐らく作ってはくれないだろうが、そもそもガンショップ自体に興味がある。資金に余裕が出来たら一丁位は欲しいな。


 そして何より、店の名前が良い。『()()()工房』だなんて、この嘆きの神殿溢れるゲームに於いては、実に世界観にマッチした素晴らしい名前だと思う。


「よしシロ! 次はあの店にゆくぞ!」

「ワフ!ワフ!」


 俺はもう、一瞬でその店に魅了されてしまったので、一見さんお断りっぽい雰囲気とか関係ねぇ! とばかりに突撃を敢行する。ドアノブに右手をやり重厚な扉を押し開けば、内側にはドアベルが付けられていた様で、カランカランと軽やかな鐘の音が店内に響き渡った。


「邪魔するぞ~」

「ワフ!ワフ!」

「……は……」

「…………が」


 店内に声を掛けながら突撃してみれば、今度は店員から声を掛けられる事も無かった。ただ、微かに人の話し声がする。店内は外壁の様子と違わず少し薄暗く、煤けた印象を受ける内装だ。入口からは真っ直ぐにカウンターが見え、道を作る様にその両隣には嵌め殺しの棚が(しつら)えてあり、その中には無数に銃器が飾られている。その動かす気の無い内装には、深い拘りを感じるばかりだ。


 俺は木と鉄と火薬の匂いが漂う店内の空気を、胸いっぱいに堪能する。俺のその様子を見て、シロも同じ様に胸を張り息を吸っていた。かわよ~。尻尾フリフリ。


 店の空気を堪能し視線を戻す。視線のその先、銃器の展示場が立ち並ぶ通路の先にあるカウンター。そこでは今、二人の人物が何やら話しをしてる様だった。


 一人はカウンターの奥から此方に向かって立っている地人族(ドワーフ)の男性、地人族(ドワーフ)としては高めの180cm近い身長をしており、その体は地人族(ドワーフ)らいし筋肉に溢れた、褐色の肌を持つ筋骨隆々の偉丈夫だ。


 目は濃い灰色をしていて髪も濃い灰色で短髪、ツンツンと尖った髪が天を突かんと立ち上がっていて、髭は一切無く清潔感が有る。服装は白い繋ぎをラフに着こなし、所々油で汚れていた。地人族(ドワーフ)らしくない身長をした、地人族(ドワーフ)らしいガテン系の男臭い男性だった。


 もう一人は、此方からは背中しか見えないので種族は解らないが、背の高い地人族(ドワーフ)の彼と同じ位に高い背をしていて、鮮やかな紅いショートヘアをした恐らく女性。彼女はその細いウエストの判る様な、細身の黒いケープ付きロングコートを着ていて、首元からは白い布が首を覆う様に出ていた。足元には少しヒールの付いた濃茶のブーツを履いた、まるでモデルの様な女性だった。


 彼女の傍らにはカウンターに立て掛ける様に、四角く大きな黒い光沢の有るケースが置いてあり、一部が左右対称に出っ張る様な歪な形をしていた。サイズは幅80cm程、高さ1.5m程とかなり大きい。その中心部には縦に黒いベルトが付いていて、肩に掛けれる様になっている。女性が持つにはかなり大きな代物だ。


「……から…………をもう少し…………ってくれ」

「それはい…………をすれば………………なるぞ」


 彼等の間のカウンターには、黒をベースとして白いラインの入った一丁の拳銃が置いてある。どうやら今は、その銃について話しをしている様だ。二人の会話を新参者が邪魔しても悪いので、その様子を棚に飾ってある銃を眺めながら横目に観察していた。二人の話しは直ぐに終わった様で、女性が代金の入った袋を右手でカウンターに置き、左手で黒いケースを肩に掛け、片手を上げて立ち去る。


「じゃあ、明日取りに来るから宜しく」

「ああ、任せときな完璧に仕上げとくよ」


 そうする事でケースの表面が此方に向く。ケースには黒く光沢のある表面に、白のラインで植物の装飾が精緻に施されケースを縁取っていた。そしてその中心には白い十文字が描かれている。どうやらケースは十字架を模していた様だ。そうして彼女は店を後にする為、此方に正面を向け入口へと歩き出す。彼女が此方に向いた事で色々と見える様になった。


 彼女はどうやら巨人族の女性だったらしい。大柄な種族を纏めた巨人族にも幾つかの種類が有る。その中にある一つの種族、日本で古来より多くの物語で語られ続け、その多くが恐怖の敵として、時には心強い味方として描かれてきた力強き武士(もののふ)たる怪物。


 ――鬼。


 彼女は鬼人族の女性だったのだ。


 彼女はモデルの様にスラリとして背は高いが、巨人族としては小柄な部類だろう。しかし、その力強さを示すかの様に、額の中央には鬼の象徴である角が小さく生えていた。角は3cm程の高さと比較的に小さいが、それは彼女の髪と同じ様に鮮やかな緋色をしており、それはまるで水晶の様に薄っすらと透き通っていた。肌は白く眼は紅い色をしていて、左目は前髪で覆われていた。


 また、ロングコートの前は開かれていた為、その中も伺う事が出来た。首を覆っていた白い布は、修道服などで見られるヨークだった様で、胸元から上を白く装飾し、その下には正に黒い修道服を着ていた。一見敬虔な信徒に見える服装だが、首から下げられたネックレスには逆さになった十字架がぶら下がっている。


 本来それに反キリスト的な意味合いは無いが、彼女は敢えてそうしている様に見えた。彼女もまた、随分と作り込まれた印象深い姿をしている。俺は素直に彼女の事を格好良いと思ったのだ。


 彼女が大きなケースを肩に掛け、その重さを感じさせない様に飄々と靴を鳴らし歩く中、横を通り過ぎる時にふと視線が交差する。彼女はそのまま通り過ぎ入口に着いた所で、思い出した様に話し掛けて来た。


「ああ、あんたが噂の白い子かい。噂に聞く印象と違って、随分と可愛らしい子だね」

「なんじゃ、噂になっておるらしいのう。別に大した事はしておらん、只の美少女じゃよ」

「ワフ!ワフ!」


 彼女の飄々とした言葉に、俺は堂々と胸を張り軽口で返答した。何だか彼女には、ハクとしてきちんと向き合うべきだと思えたのだ。丁寧な取り繕った言葉も、そこらの通行人にする様な、適当な言葉も用いるべきでは無いだろう。誰よりも印象深い彼女の印象に、俺も少しでも残りたかったのだ。俺の軽口にシロは『そんな事無いよ』とでも言う様に吠えている。


「くくっ、そうかい、只の美少女かい。何にせよ、あんたの噂は面白い物が多いからね、歓迎するよ新人さん。思う存分、この世界を楽しむと良い」

「うむ! 存分に楽しませて貰っておるよ。可愛いこの子とも出会えたしのう!」

「キャン!♪キャン!♪」


 俺の言葉に彼女はくつくつと笑い続きを口にする。最後には歓迎すると激励の言葉を加えて。俺はそれに、腰に両手を当て胸を張り、堂々と答える。シロは俺の言葉に大喜びだ!


「ふふっ、確かに可愛らしいね。それじゃあ私は行くよ、邪魔したね白い狼ちゃん」

「いや、素晴らしき出会いであった。また会おうぞ、赤き鬼殿」

「キャン!♪キャン!♪」


 その様子を見た彼女は、更に笑顔を見せ別れを告げる。それに俺はまた会おうと本心からの別れを返した。シロもそれに同意する様に元気に尻尾を振りながら別れを伝えていた。


 別れを告げて、彼女は扉を開け出て行く。


 ドアベルの音が鳴り響き、薄暗かった店内に光が差し込まれる。まだまだ明るい時間帯の良く晴れた外の風景は、薄暗い店内からはまるで切り取られた一枚の絵画の様だった。光に満たされた世界で町行く人々が通り過ぎるなか、真っ黒な服装の彼女だけが、切り絵の様に姿をはっきりと見せる。


 その一瞬の光景に目を奪われるなか、扉はその光景を惜しむ様に、ゆっくりと自らの役目を果す。扉が閉まり行くその一瞬、振り返った彼女は無表情に右目で此方を見ながら、右手に持ったケースから煙草を口に咥える所だった。扉はガチャリと音を立て自身の任務を完了させる。薄暗さの戻った店内には、ドアベルの音だけが鳴り響いていた。

カランカラァン

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