003 スキル構成
スキルについての説明回
なるべく駆け足で説明してますがどうしても長くなってしまう
決して無駄にボケてるせいではない筈!
「では早速! アバターを反映しますね!」
俺の決意を受け、逃すものかと言わんばかりにポンコツは行動に移す。もうちょっと説明しろ、とか。最終確認位取れよ、等の言葉を挟む暇も無く、その結果は齎される。手にした本の上に、僅かに浮いた形で存在していたアバターは、軽やかな音と共に光を残し消え、その光は俺に集まり俺は光に包まれた。
僅かな時間を置いて光が弾ける様に消えると、俺は先程作成した美少女と同じ姿をしていた。服装は、麻で出来た七分丈のシャツとズボンという質素な恰好だ。
「……お前な、行き成りやるなよ。びっくりすんだろ」
「ちゃんと可愛いですよ?」
「そんな事聞いてねぇよ!」
アイシャは悪びれた様子も無く、キョトンとした顔で小首を掲げながら宣う。俺はそれに呆れながらも、軽くツッコみを入れる。
「一応、確認されますか?」
アイシャはそう言うと右手を軽く振る。すると目の前に、下の方から光が集まる様にして大きな一枚の鏡が現れた。それに合わせる様に、手の中の本はゆっくりと離れていき両手が空く。
「おぉ、確かにちゃんと出来てるな」
そう言って俺は、鏡の前で軽く体を捻り、色々な角度から新しい体を確認する。どの角度から見ても、特に違和感を感じる事も無く、その完璧な仕上がりに思わず頬を緩ませる。元の姿であればニヤニヤとした笑顔は気持ちの悪い代物だったかもしれないが、このアバターであればそんな顔もとても可愛らしい代物だった。
「女の子を見てニヤニヤする……。元の姿で有れば軽く事案ですね!」
「うっさいわ! 勧めてきたのはお前だろ!」
「それはそれです!」
余計な事を良い笑顔で宣うサポートAI。サポートする筈の存在に軽く辱められながらも、俺は新しい体に満足していた。その気持ちを表す様に、鏡に映る自分の後ろでは大きな白い尻尾がブンブンと振られていた。それに気付き、俺は自分の後ろを見る。
「……めっちゃ、動いてるな」
「脳波をスキャンしてますからね。耳も動きますよ」
俺が前を向くと同時に、アイシャは手を叩きパン!っと音を鳴らす。その瞬間、鏡に映っていた俺の頭上に有るケモ耳はピクリと動き、尻尾はピンと立っていた。
「おお~すげぇ~。って脳波をって事は、俺の感情が周りにモロばれなのか」
その事を少し不安に思うと、今度は耳も尻尾も垂れた。鏡に映るそれらと、少し不安そうな少女の顔を見てちょっと可愛いな、と思うと垂れたままの尻尾が僅かに揺れる。
「いや、めっちゃ詳細に動く! ちょっと恥ずかしいなこれ!」
「ふっふっふ、一応設定でオフにする事も出来ますよ? どうします?」
俺の動揺を見て、アイシャがニヤニヤと挑戦的に聞いて来る。
くっ! いやこれ、普通オフにするだろ! 人間関係にも影響出るぞこれ!
だがしかし、ここでオフにするのも何かポンコツに負けた気がするし……。
俺は謎の負けん気を出し、オフにする事無くプレイする事を決める。
「まぁ? 一、犬好きとしては? このままにするべきかなってね?」
「狼ですけどねぇ~」
うっさいよ! えぇ、犬獣人にすると言いつつノータイムで狼獣人にしましたよ! 似た様なもんだろ!
ニヤニヤとするアイシャを、ぐぬぬっ!と睨み付ける俺の耳と尻尾はピンと立っていた。
「ふっふっふ♪ まぁお客様のアバターも決まりましたし、そろそろキャラメイクの続きへと戻りましょうか。名前はどうされます? いつまでもお客様と呼ぶのも面倒ですし」
「お前はもうちょっとしっかりしろ、サポートAI。こちとら紛う方無き、お客様やぞ」
こいつもう色々とぶっちゃけてんなぁ……。喋り方も最初の方と比べて大分緩くなってるし……。まぁこっちも喋り易いから良いけど。それにしても名前か。
「ハクで!」
「……一応理由を聞い『白いから!』アッハイ」
こういうのはインスピレーションが大事だ! 決して手抜きでは無い!
呆れた表情のアイシャを前に、俺は無駄に勝ち誇りフンスっ!と腕を組む。
その背後では嬉しそうに尻尾がブンブンと振られていた。
「では、次にスキルを五つ、選んで下さい。スキルの数が非常に多いので、確認はそちらでお願いします」
若干投げやりになったアイシャは、宙に浮かぶ本を指しながら言う。俺は再度本を手にし、スキルを確認していった。その時ふと一つ、気になった事があるのでアイシャに質問する。
「行き成りスキルを選ぶんだな。まずジョブを選んだりはしないのか?」
「そういえば、その説明がまだでしたね! アイちゃんうっかり!」
「ははっ、うっかりさんめ!」
決して、作者が説明を忘れて先を書き続けていたのでは無いと思いたい。
登場人物に責任を押し付けて、作者は説明を続ける。
いや違う、超絶可愛いAIは説明を続ける。媚びてない。
「『SEVEN'S WALKER』では、一般的なジョブシステムは使っていませんね。スキルが無駄に一杯ありますので、それらを組み合わせて表現します。
例えば、剣士であれば剣技をメインとして、その剣技を強化する様なスキル構成にしたりですね。ここから防衛職にするのであれば、盾技や体力強化スキルと入れ替えたり。魔法剣士にするのであれば、火魔法と魔力強化スキル何かを組み込んだりするんですよ」
「なるほどなぁ。ある意味、ジョブすらもプレイヤーの自由なのか。じゃあ、色んな武器スキルを取って、武器を切り替えながら戦う!ってのも有りなんだな」
「有りですね~。ただ、セット出来るスキルの数に限りが有るので、それだと強化スキルが付けられなくて器用貧乏になっちゃいますけどね~」
「ロマンを追い求めるか、実用性を求めるか……か。逆に、武器スキルは無いと武器は使えないのか?」
「使えますよ? ただ、武器スキルには動きを補正してくれる効果もあるので、現実以上の身体能力を発揮出来るこの世界では取り敢えず取っておいた方が無難ですし、スキルを取る事で使える様になる技には強力な物が多いので、そういった意味でもやっぱり、対応した武器スキルは持っておいた方が良いですね~。武器スキルも無く、強化スキルだけで戦おう何て、よっぽどの戦闘狂くらいなものですよ~」
「それもそうかぁ。態々、魔法も必殺技も有る世界に来てまで、そんな事しないかぁ」
「そうですよ~」
「「はっはっは」」
なお、そんな戦闘狂に出会うのは少し先の話である。
ジョブについても聞き終えたので、スキルについての確認を再開する。因みに、今取得出来るスキルは飽く迄も基本的なスキルであり、ゲームをプレイしなければ手に入らないスキルもまだまだ有るらしい。
また、ここで取れるスキルは、それぞれ対応する施設に行けば、ゲーム内通貨を支払う事で、別途、習得する事が出来るらしく。例え、ここで選んだスキルが気に入らなくても、変えたくなった時には変えられるとの事、なので余り深く悩む必要は無い。
スキルは大別して、幾つかの種類に分けられる。
まず、剣技や槍技等の武術系スキル。
武器を使った物理系のスキルであり、このスキルを習得する事で使える様になる技は武技と呼ばれる。
次に、火魔法や水魔法等の魔法系スキル。
魔力を用いて使用する魔法スキルで、こちらの技は魔術と呼ばれる。
次に、鍛冶や錬金術といった生産系スキル。
武器や防具等の装備を作ったり、消費アイテムや、果ては家具何かを作る事が出来る様になるスキルだ。SWでは生産もかなり自由に出来るらしく、リアルと同じ様に一から作る事も出来るし、手に入れたアイテムからデザインを抜き出して、張り合わせる様にし装備を作る事も出来るらしい。因みに、個人製作のアイテムからは相手の許可が無い限り、デザインの抜き出しは出来ない。
このスキルは拠点や街中で使う物であり、街中で有れば取得したスキルは自由に変更出来る為、最初から生産活動をするので無ければ今覚える必要は無いらしい。
次に、調教や隠密等の特殊系スキル。
上記三種類に分類されない様な、アクティブ系のスキルが纏められており、その内容は多岐に渡る。また、生産系や特殊系スキルで使える様になる技は、技巧というらしい。
そして、武技、魔術、技巧の総称が技術と呼称され、各技術にもそれぞれにレベルが存在している。そのレベルを上げる事で威力が上がったり使い勝手が良くなったりと、技術毎にも成長していくのだ。
最後に、身体強化等のパッシブ系スキル。
このスキルの存在が以前、種族についてアイシャが話していた時に、種族適正は関係無くキャラを作れる、と言った原因である。
このスキルを取得すると対応する項目が常時、強化される事になる。その強化率は、一つのスキルで複数項目を強化する様な汎用スキルで有れば10%~20%程となるが。何か一つの物を強化する専用スキルで有れば、その強化率は100%を誇る物が殆どで、場合によっては100%を越える物さえある程だ。これらのパッシブスキルの存在によって種族毎の優劣は狭くなり、どの種族であっても自由にプレイスタイルを決められるらしい。
ただし強化率の高いスキルの存在は、このゲームが所謂極振り型のステータスが本領を発揮され易い事を示しているだろう。一点特化の構成にしていけば、超火力による殲滅も可能かもしれない。逆に防御特化の構成で有れば、その一撃でさえも防いで見せるかもしれない。実にロマン溢れるゲームで有る。一歩、間違えればクソゲーになりそうな気もするが……。
「さて、どうするか」
鏡の中の自分を見ながら考える。というか、この鏡まだ有ったんだな。超火力ロマンも捨てがたいが、狼獣人であればやはり素早さを生かした戦い方をしたい所だ。当たらなければどうという事はないのだよ! と言いたい。
という訳で、まず素早さを上げる『俊敏強化』は確定。そしてやっぱり、魔法が有るなら使いたい。強化スキルまで今取るかは別として、取り敢えず武術スキル、魔法スキル、俊敏強化で三つが確定だ。後二つをどうするか……。
「相棒が欲しいなぁ」
「相棒ですか? すいませんがアイちゃんは皆のアイちゃんなので。ハクちゃんの想いに答える事は……」
「ポンコツじゃない。俺が振られたみたいにするんじゃねぇよ。後、人をちゃん付けするな」
「つまり、私を調教したいt」
「言ってねぇよ! ボケラッシュやめろぉ!」
俺の突っ込みを聞き、アイシャはクスクスと楽しそうに笑う。こいつぅ!!
「私を調教……とか言ってんだから、解って言ってんだろ? 家がペット禁止で犬飼えないから、せっかくだし仲間にしたいんだよ!」
俺がじとりとした目で問えば、アイシャは当然です! と言わんばかりに一つ頷き答えた。
「モンスターを仲間にするスキルでしたら、召喚術、調教術、憑依術の三つですね」
「召喚と調教は解るけど……憑依術?」
「順に説明するとですね~」
アイシャの、のんびりとした説明をまとめると以下になる。最早、アイシャに最初の頃の凛々しさは無い。
まず召喚術。これはモンスターと契約を交わし、必要な時に自身の最大MPを使って仮初の体を作りモンスターを呼び出す。その為モンスターとしては本来の能力を発揮出来ず、三つのスキルの中では一番能力が低くなる。一体辺りの能力としては、大体半分位になるそうだ。
また、最大MPを使って呼び出す事になるので、召喚中は常に最大MPが削れた状態となり、これは当然アイテム等で回復させる事も出来ない。その為、最大MPの値が同時に召喚出来るモンスターの数、という制約を受けるが、逆にMP次第では幾らでもモンスターを召喚出来る、という事でもある。
個々のステータスは低いが、数の暴力で戦争を仕掛けるのが召喚術である。
次に調教術。これはモンスターを手懐け、生身のまま使役するスキルである。こちらは召喚と違い、本体を連れ歩くので能力の低下等は起きず、モンスター本来の能力を発揮出来る。ただしスキルの力によって一度に制御出来るのは三体までであり、モンスターが倒れた場合は治療するまで戦線から離脱する事になる。
因みに、倒れたモンスターは正八面体のクリスタルとなり、アイテムとして保管される。アイテム名は『モンスタークリスタル』でありボールでは無い。黄色い鼠などいないのだ。
モンスター本来の能力で、そこそこの数を使役出来る。バランス型が調教術である。
最後に憑依術。これは一体のモンスターと契約を交わし、お互いの魂に繋がりを持つスキルだ。このスキルで仲間に出来るのは一体だけであり、魂の繋がりに因って契約したモンスターはプレイヤーからスキルの影響を受ける。また他二つのスキルと違い、複数の対象に分けられるスキルが保有するエネルギーが一体に集約され、余剰エネルギーによる強化が行われる為、本来の能力から凡そ倍近い能力を得る事が出来る。
また、このスキルには名前が示す通りの、他のスキルには無い専用の能力が有り(当然、他のスキルにも専用の能力は有る)、モンスターをプレイヤーに憑依、又はその逆をする事によって、互いのステータスを合算する事が出来るのだ。
高い能力のモンスターを使役し、憑依する事で更に一時的に高い力を発揮する。一点特化型が憑依術である。
一度に使役出来る数が多いのが、召喚>調教>憑依の順となり、
一体辺りの性能が高くなるのが、憑依>調教>召喚の順になる様だ。
「よし! 憑依術にしよう!」
「死んでも私に憑りつかないで下さいね!」
「憑かねーわ、殺すな」
数の暴力が強いのは解る。でも俺が欲しいのは信頼出来る一人の相棒なのだ。しかも、憑依術で有ればその相棒を強くする事が出来、更に自分に憑依させれば能力次第では超火力ロマンも出来るかもしれない。
こんなの! 選ぶしかないじゃない!!
「因みに、憑依は契約解除すれば新しい子と契約出来ますよ。前の子には二度と会えませんけどね!」
「しねーわ、俺は割と愛着を抱くタイプなんだよ」
「テイムした子は専用AIが適応されるので、状況次第ではすごく懐いてくれますよ! そんな子を捨てるなんてひどい! 鬼畜! 頭ナスの味噌煮込み!」
「絶っっっ対にしねーわ!! そんなの鬼だろマジで! あとナスの味噌煮込みって何だよ! 美味そうだなぁ!」
「脳味噌の味噌です」
「サイコパスかよ……。やばすぎるわボケナス」
あ、ナスってそのナスか? ボケナス頭の脳味噌煮込んでんの? シンプルに怖ぇわ。
現実的なこの世界で懐いてくれた子と別れるとか、ガチ泣きする自信有るぞ。別れる位なら他のスキルで契約するか、いっそ隠居して生産スキルを取得し、農業王に俺はなる。
取り敢えずスキルは二つ決まった。
魔法についてサイコパスに聞けば、風魔法に素早さを上げるバフが有るらしいので風魔法に決める。
残り二つ。
武術スキルについては、素早さ特化にするなら斬撃系、特に短剣が良いらしい。
それを聞きながらスキルを眺めていると、気になる物を見付ける。
「爪術と獣爪術?」
「爪で攻撃するスキルですね。違いは武器を使うか、自分の爪で戦うか、です。と言っても、ホントに自分の爪だと種族に因っては表面を引っ搔くだけですごく使い辛いので、ちょっと特殊ですけど」
そう言って、アイシャは右手の甲をこちらに見せる様に顔の高さまで持ち上げる。するとアイシャの手の甲から、まるで獣の手をデフォルメした紋章の様なデザインの青白い光の模様が現れる。それは紋章を描き終わると僅かに浮き、軽い音と共に光り、その紋章の指に見える部分から同じ色の光の刃が五本伸びていた。その刃は、指の付け根辺りから生える10cm程の長さの爪だった。
「かっけぇなぁそれ!」
「ふっふっふ♪ そうでしょうそうでしょう! 因みに爪攻撃も斬撃属性なので、ハクちゃんと相性良いですよ!」
「良いね良いね!♪ ならそれにしよう!」
狼獣人なうちの子に似合いそうだしなぁ! 素早さ特化とも相性が良いならバッチリだ!
俺は尻尾をブンブンと振りながら、『獣爪術』スキルを登録する。俺の言葉に気を良くしたアイシャは両手に爪を生やし、ドヤ顔でジャキジャキと動かしている。シ〇ーハンズかよ。
「因みに、獣爪術は武器を使えない分スキルでダメージ補正が入りますよ。と言っても当然、武器を使うよりはダメージが出ないですけどね。ただ武器を持たない分、素早さの参照値が高いのと、攻撃速度が少し早くなるので、プレイスタイルによってはメリットにもなりますけど」
ダメージの補正としては100%アップするらしい、これだけ聞くとかなりの強スキルに聞こえる。だが例えば、爪術スキル持ちがHP100の敵に対し、武器を使って30ダメージを出す時、素手だと10ダメージ程度になるとする。それが獣爪術だと補正が入り20ダメージになる、といった具合だ。ダメージが落ちる代わりに手数が増える事になるので、一長一短ではあるが。
因みに、この補正は『武器を装備していない場合』に発揮されるので、両方のスキルを取得して武器を使ってもダメージが増える事はない。
さて、これで残るスキルは後一つだ。最後は何にするか……。アクティブ系のスキルは『獣爪術』『風魔法』『憑依術』と既に三つも取っているので、これ以上取ればさっき話していた様に器用貧乏になってしまうだろう。となれば、パッシブ系でダメージを伸ばす方向で考えたい。耐久面については考えない、高い素早さで避ける予定なので。当たらなければ! どうという事は! ないのだ!
因みに、爪での攻撃では斬るか突き刺す事になり、突き刺すのは筋力のステータスが重視されるらしい。だが斬攻撃をメインにするのであれば、重たい武器を持つ訳では無いので筋力は余り必要ないらしい。まぁ無意味では無いのだが、素早さを上げた方がダメージが上がる、との事。
『俊敏強化』のスキルは既に取っているので、『筋力強化』スキルを取るのも有りっちゃ有り。もしくは『風魔法』を生かす為に、『魔力強化』を取っても良い。ただ、どちらもダメージの伸びがいまいちになりそうだ。戦闘スタイルは獣爪術メインの近接戦になるだろう、そうなれば魔法を撃つ機会はそこまで無いだろう事を考えると、今無理に『魔力強化』を取る必要は無い。
テイムした仲間を強化するスキルでも有れば取ったんだが、それも無い様だし……。
どれも決定打に掛けるな、と思いながらスキルを見て居ると、気になるスキルを発見した。……いやでも、これは関係無いか? 困った時のポンコツAIだな。
「なぁ、アイシャ『アイちゃんでぇす!』、……このスキルって爪攻撃に乗る?」
押しの強いAIのアピールを無視しつつ、スキルを指差し問い掛ける。アイシャは覗き込む様にそのスキルを確認する。なお、未だにシ〇ーハンズ状態で有る。余り近寄るな、爪が当たる。
「……んん~~~? ……これは、……殴り合いしたい人向け、のスキルなんですけど。……乗るみたいですねぇ。良いのかな? これ?? ……ちょっと待って下さい」
頬に右指を当てながら首を掲げるシ〇ーハンズは、そう言ってどこかに確認を取り始める。
おや? これは? ……もしかしてチャンスなのでは?
そう思い、俺は直ぐ様そのスキルを登録し、スパァン!と確定ボタンをタップする。これで五つのスキルが決まった。俺はやっと決まったと本を眺める。その内容は――
・獣爪術 Lv.1
・風魔法 Lv.1
・憑依術 Lv.1
・俊敏強化 Lv.1
・格闘強化 Lv.1 ←NEW!!
――である。格闘強化は本来、空手やボクシング等の武器など邪道だ、と言う様な素手での戦闘に拘る人向けのスキルである。その効果は『武器を装備していない時』のダメージ強化。割と最近聞いた話である。
武器を装備しない状態では当然、攻撃力は落ちる。それでもなお素手での戦闘に拘る人が前線で戦える様、配慮されたのが格闘強化スキルなのだ。ただし本来武器を持てば済む所をスキル枠一つを消費する上、それでもやはり武器を持つよりダメージは弱くなるので、飽く迄も救済スキルである。
ただしこちらは強化するだけのスキルなので、補正値は200%と獣爪術よりも高い。その為獣爪術と合わせれば300%アップの補正となり、先程のダメージの話で言えば40ダメージ出せる事になるので、武器持ちのダメージを超えるのだ。しかも速さもこちらが上である。
まぁ実際の所、武器には特殊効果が付いた物も有るだろうし、武器持ちはこちらが格闘強化に使ったスキル枠を他のスキルに使えるので、必ずしも強いとは言えない。ただアイシャの反応を見るに、この組み合わせは運営の想定外、それが吉と出るか凶と出るか……。
スキルにはレベルが有るので、後は実際に育てた時にどうなるか。とても楽しみである。
俺が一人スキルの組み合わせに満足して、腕を組み尻尾をゆらゆらしていると。スキル決めが既に終わっている事に気付いたアイシャが騒ぎ出す。
「ああ!? ちょっと何してるんですか! 待ってくれって言ったじゃないですかぁ!!」
「ええい、寄るなシ〇ーハンズ! お前は人に寄りたくても寄れない心優しき怪物だろうが! チャキチャキと爪が当たりそうで怖いんだよ!」
「何の話ですか! 何の!」
映画の話だよ。シ〇ーハンズはやっと爪を消し、人の姿に戻る。だが時既に遅し、俺は確定ボタンを押した後だ。
「まぁ、ホントに拙ければ修正するだろ。気にすんな」
「あなたは気にして下さいよ……。今、担当から連絡が来ましたが、既にその組み合わせで登録しているプレイヤーが居るから、修正はしないそうです。因みに、登録してるプレイヤーの数は一人、だそうです」
「ひゃっほぃ! 間に合ったZE☆!」
「間に合ったぜ! じゃないですよ! どうするんですか! 私が怒られるじゃないですか!」
「そこかよ、ぶれねぇな」
「そこが! 一番大事!」
お前は一回怒られろ、ポンコツAI。AIですら怒られるなんて、世知辛い世の中だぜまったく。ギャーギャー喚くアイシャを横目に、俺はドヤ顔で尻尾を揺らす。
「というか実際、ぶっ壊れ性能になるかな? アイシャも微妙そうだったじゃねぇか。それにそういう仕様にした運営が悪い。オレハ、ワルクネェ!」
「アイちゃんですぅ……。性能についてはこれから調べるらしいので何とも。仕様なのは開発担当が別々の人で、情報共有出来てなくて……。爪術が有ったせいで、獣爪が素手だと言う認識も低く……」
「つまり人的ミスか、良くある良くある! 仕方ねぇよ、気にすんな! ヤッパリ、オレハ、ワルクネェ!♪」
「ちょっとは悪びれろぉーーー!」
はっはっは♪ すまんな。
慌てふためく他人を見る事の何と楽しき事よ。愉悦♪愉悦♪
尻尾を振りながら笑顔で言い切った俺に、アイシャは吠える様にツッコんだ。
おお、サポートAIが遂に敬語もやめたか。ウケる。
気にせず笑っている俺を見て、アイシャは只々ため息を吐くしか出来ないのだった。
ハ「やったZE☆!」
ア「ハクちゃんも一緒に怒られて下さい!」
ハ「だが断る!!」
映画『シザーハンズ』は1990年ジョニー・デップ主演のアメリカ映画です。
昔は冬になるとテレビで良く放映してた気がするけど何時からか見なくなったな~。
内容としては両手がハサミの人造人間と少女の恋愛物だったはず。気になる方は是非。