020 ホブ蔵との遊び方
作者の文章力と読者の読解力が試される、色んな意味での戦闘回。
書いてる途中何度も『???』となりながら書き直しまくった……。
文章力……たったの5か……ゴミ作者め……
「では、さっさと終わらせるとするかのう」
「ハクちゃん頑張ってー!」
「負けたら指差して笑ってやるからなぁ」
「わふぅ……」
俺は二人の声を背に受けながら、ホブ蔵相手に気負う事無く歩み寄る。歩きながら、何時かゼンが無様に負けた時は煽り倒す事を決意する。子犬様は尻尾を股に挟み、木の洞に頭を入れてプルプルしておられる。その様は完全に毛玉様だ。かわい。
ホブ蔵は見るからにパワータイプ、これがプレイヤーなら見た目が関係無いから警戒に値するが、NPCに於いてはそれ程気にしなくて良いだろう。こいつもカバーストーリーが当てられている筈なので、どんなスキルを持っているか解らないから絶対では無いが。先程の攻撃も別段速くは無かった、ゼンの時の様に挨拶という訳でも無いだろうから、スピードタイプのハクちゃんに取っては相性の良い相手だろう。
とはいえ、油断した結果がゼンとの開幕戦なので気を引き締める。まずは『迅爪』を使いながら、武器を持っていない左半身に一当てするか。相手の反応も見たいので左手を構えて腰を落とし、武技名を口にし左爪に発動する。
『迅爪!』
「グガァ!」
俺の武技に反応する様にホブ蔵が吠える。俺の動き出しに反応し右手の大剣を振り上げ叩き付けるが、その頃にはとっくにホブ蔵の左手側を通り、ホブ蔵の背後へと駆け抜け距離を取った後だ。下げた剣でそのまま切り上げて来ずに、態々振り上げる辺り、余り賢くも無い様だな。多分、今まで叩き付けるだけで決着が着いていたんだろう。
「ガァ!?」
俺が後ろから様子を眺めていると、自身の異常に気付いたホブ蔵が、呻き声を上げ膝を着き左足を見る。そこには、俺が駆け抜けながら付けた五本の傷が、しっかりと残っていた。
おい、良いんか? 隙だらけやぞ?
特に焦って攻撃する必要も無さそうなので、適当に煽りながら倒す事にする。子犬様との一時を邪魔されたからなぁ!
俺はホブ蔵の後ろで両手を腰に当て、足で地面をトントンと叩きながら、その様をニヤニヤと眺めていた。膝を着き傷を見た時に、俺が後ろに居る事に気付いたホブ蔵は、悔しそうに此方を睨んできた。何かぁ~? 尻尾フリフリ。
「おいおい、どうしたホブ蔵ぅ~。全く反応出来ておらんではないかぁ」
「めっちゃ煽ってんな」
「凄く楽しそうだね。……ハクちゃん」
凄く楽しいです!
「グガァ!」
俺の煽りを受け、ホブ蔵は一言気合を入れ此方を向きながら立ち上がる。しかし左足は若干震えており、余り力は入らない様だ。一応機動力を削ぐ狙いでまず足を狙ったが、ちゃんと効果が有る様だ。ホント面白いゲームだな。そのホブ蔵の悔しさが混じった声に、事態の変化を察したのか毛玉様から顔が生え、此方を恐る恐る覗いていた。無事、子犬様へと帰還を果したようだ。その眼は少し潤んでいた。かわよ~。でも子犬様を泣かしたのでホブ蔵は抹殺である。
さっきの反応速度なら、武技も余り必要無さそうだ。とはいえ、組み立ても色々と試したい。開始一週間にして初のNPC戦だ。NPCの様子を確かめつつ余り温い戦闘をしても勘が鈍ると思い、当て逃げ戦法ではなく、ギリギリの戦いを求めて近距離戦闘で戦う事にする。そうと決まれば早速突撃だ、あんまり速く死ぬなよホブ蔵!
「行くぞホブ蔵!」
「ゴガァ!」
俺は敢えてホブ蔵に声を掛けつつ、遅めの速度で駆け始める。ホブ蔵は俺の声に応え、迎え撃つ様に刃を振り上げた。やっぱりそれか。俺はホブ蔵がまた刃を叩き付けて来る事を期待していたので、振り上げた始めた瞬間に一気に加速し、駆け抜け様に右爪でホブ蔵の右足に一撃を入れホブ蔵の背後で左足に力を入れ止まる。そこから、振り返り様にホブ蔵の背中を左爪で切り上げた。
「はっ!」
「ガァ!?」
ホブ蔵は呻き声を上げつつも、振り上げた刃を右に振り向きながら振り抜く。その刃を前宙する様に飛びながら刃の側面に両手を付き、足を振り上げながら両腕で反時計回りに捻りを加えつつ、両足でも回転力を付けながら体を押し上げ飛び上がる。
飛び上がりながら右爪でホブ蔵の顔を切り付け、上下反転した世界の中で手足で加えた回転力を使い素早く横に一回転し、今度は左爪でホブ蔵の顔に横薙ぎの一撃を入れる。顔を二度切り裂かれたホブ蔵は、咄嗟に空いた左手で顔を覆った。
左爪を振り抜いた事でホブ蔵に向けて、正面を向けた形で捻りは止まり、そのままの形で側宙する事になった。視界の上下が再度入れ替わりつつ体が落下し始めたので、側宙の勢いを生かしながら、左爪でホブ蔵の胴体を左上から右下に向けて、袈裟懸けに切り付ける。左爪を振り抜いた勢いで体は右に回転しながら、右爪に『強爪』を発動しつつ地面に左足で先に着地する。
体が流れる力と右回転の勢いを殺さぬ様に、左足を軸に力を込め、体を右に反転させながら体を開く様に右足を動かし、腕は自分を抱きしめる形にする事で回転する速度を上げる。回転する速度を上げながら、今度はホブ蔵のがら空きな腹に、自らを抱きしめていた右腕を解き放つように、溜め込んだ回転力と強爪の力を全て込め、右爪を逆袈裟に振り払った。
「おらぁ!」
「ゴブギャァ!?」
溜め込んだ回転力と強爪の一撃で深手を負ったホブ蔵は、痛みに耐える様に大きな隙を晒す。そこで俺の体が大の字に開く形になっていたので、物は試しと右足に力を入れ左足を踏み出しながら、両腕の爪をホブ蔵の腹に突き立てた。
「そら!」
しかし、その一撃は斬撃とは違い全くダメージに成らず、少し突き刺さっただけで止まってしまう。突きは筋力の参照値が高いのだ。貧弱ハクちゃんでは、突きは使い物になりそうに無いな……。解っていた事だが残念に思っている所、ホブ蔵の肉に爪が埋まり抜けなくなった事で、ホブ蔵が左手で此方に掴み掛かって来た。
「ガァ!」
「ちぃ!」
その腕が此方に届く前に、右足をホブ蔵の腹に乗せ力を込め、バク宙する形で爪を抜きながらホブ蔵から距離を取る。そこに、ホブ蔵が右手の大剣を切り上げる様に追撃を仕掛けて来たので、左手の人差し指をホブ蔵の顔に向け、『ウィンドスラッシュ』を細く強く撃ち出す。その一撃によってホブ蔵は顔を仰け反らせ、大剣による反撃を中断する事になった。大剣を振り上げずに、そのまま切り上げて来るなんて、成長したなぁ! ホブ蔵! まぁ止めたんですけどね。尻尾ゆらゆら。
「少しは成長したでは無いかホブ蔵、褒めてやろうぞ」
取り敢えず、距離も出来たので一旦尻尾を揺らしながら様子を見る。今の攻防を見ていた子犬様は、その大きな瞳をキラキラと輝かせていた。かっわっゆ!♪ 俺が子犬様の様子に尻尾をブンブンさせていると、ゼン達の会話が聞こえて来た。
「相変わらず、攻撃回数がえげつねぇなぁ、雑技団かよ。広場でやれば金取れんじゃねぇか? あれ」
「……ホント、ゼンはハクちゃんと良く戦えたね。今、何回攻撃したのか良く解らなかったんだけど。気付いたらゴブリン全身血まみれ何だけど。ちょっとホラーなんだけど、ハクちゃん」
「八回じゃねぇか? 突き刺しを別々にカウントするなら九回だな」
「え!? そんなに!? ウチ、5.6回位かと思ったよ……。ゼンは何で見えてんのよ……」
「音と体運びで何となくだな。目だけだとちょっときついわ」
「……ゼンはやっぱり本能で生きてるね」
「やっぱりって何だよ。それよか、やっぱ詠唱してねぇよな。武技も魔術も、どっちも黙って使ってやがる。他に出来る奴見た事ねぇなぁ」
「え!? そ、そういえば。どっちも口にしてなかった様な……。ハクちゃん、そんな事出来るんだ。あの速度で黙って使われたら対処しようが無いよ……。やっぱりハクちゃんボスなんじゃ……」
「俺は何とかなったぞ? 結局、最後は駄目だったけどなぁ」
「ゼンと一緒にしないで! 普通、行き成りやられたら無理だから!」
「そうかぁ?」
「……全く、ゼンもハクちゃんも戦闘狂が過ぎるよ。どうせそれも本能で対処したんでしょ」
「まぁ……、何かやべぇなって」
「ほらぁ! やっぱりぃ!」
何か夫婦漫才を繰り広げておられる。式には何着て行こうかな? 尻尾ゆらゆら。
そんな事を考えながらホブ蔵を見る。確かにホブ蔵は全身血まみれだが、武技を使って入れた二発以外は既に血は止まっている。最後の強爪分はそれなりに大きな傷になっているが、それでもまだまだ健在だ。やはりパワータイプ、レベル差も有る事からまだ余裕が有りそうだ。
それと、最後に入れたウィンドスラッシュは思ったよりも仰け反りしていた。やっぱり、物理よりも魔法の方が効果が有るか。そういえば、まだ試して無かった事が有ったな……。丁度良いので実践でのテストを兼ねて、ホブ蔵に試す事にする。ホブ蔵は先程の攻防で少し此方にビビっているのか、自分から近付いて来ようとはしていないのでやるなら今だな。
そう思い、俺は右手の甲を上に向けた状態で握り拳を作り、右爪をホブ蔵に向ける。ホブ蔵はそれに一瞬ビクッ!としつつ大剣を掲げ構えを取る。まだまだ戦意は有る様だ。まぁ、向かってくるのが正解だったんですけどね。小鬼の森で敵が居なかったのか、どうにもホブ蔵は敵に対する判断が遅い。実に好都合で有る。ゼン達も俺が何かする事を察してか、お喋りを止めている。子犬様の目も輝きを増した。
子犬様見てて! ハクちゃん頑張っちゃうから!! オラ燃えて来たゾォーーー!!!
俺は結果をイメージしつつ、滾る心を乗せる様に武技を発動させる。
『強爪!』
俺の構えた右爪に光が宿った、その輝きは、何時もよりも幾分強く思える。これが子犬様の御加護か! 俺は、更に楽しく迸って来た想いを加速させる様に、まだ、試していない組み合わせを重ねる。
『ウィンドサークル!!』
その魔術名を唱えると同時、右爪の光は翡翠色に変わり、光はその輝きを増し、辺りに風が吹き荒れる。その様子にホブ蔵は最早怯え、ゼン達は目を見開き、子犬様の目は光を反射してその可愛いお目々を翡翠色に煌めかせ、興奮するかの様に口を開け呼吸を荒くする。
かぁいい!♪ お母ちゃん! 頑張るからね!!
イメージするのは乱れ狂う風刃爪の刃、今回ウィンドスラッシュは乗せなかった。そこまですると、魔法が後一発しか撃てなくなるし、今回はお試しなので成功率を上げる為に自重したのだ。念の為である。そうして、今か今かと輝きを増す翡翠色の爪に、新たな名前を与え、解き放つ。
『裂風陣!!!』
名を与えられた事で輝きは力強さを増す。集まる風達も、心なしか楽しそうに明滅を繰り返した。俺は右腕を一度引き、左足を一歩踏み込みながら、翡翠色の残光を残しつつホブ蔵に向けて五本の刃を薙ぎ払う!
そうすれば右爪から、魔技は轟と音を響かせ解き放たれた。五本の翡翠の刃はまるで競い合う様に入り乱れながら、ホブ蔵の僅か左へ向けて飛び立った。五本の刃はホブ蔵の元へ辿り着くと、ホブ蔵を囲う様にバラバラに周り始める。ホブ蔵はそれにどうする事も出来ず、ただ、視線を右往左往させるだけだ。
五本の刃に呼応する様に、ホブ蔵に群がる緑色に輝く風が集まり始める。それらは、輝きを増すと、一気にホブ蔵に向けて殺到する。それに合わせ、五本の刃もホブ蔵へ向けて再度飛び立った。ホブ蔵はどうする事も出来ず、只々無防備に全周囲から風の刃をその身に受けた。風の刃達は数舜、ホブ蔵の身をズタズタに引き裂くと、仕上げとばかりに小さな竜巻を中心に作り上げ、一気に空へと向けて駆け抜け辺りに散って行った。
後に残ったのは無数に刃傷を残す地面と、俺の一連の攻撃など比に成らない程に、全身をボロボロに引き裂かれ、崩れ落ちる様に膝を着くホブ蔵の姿だけだった。
その無残な結果を残し、辺りには静けさが取り戻される。ホブ蔵は只々、ゴフゴフと荒い呼吸を繰り返す。流石にまだ死ななかったか。この結果にゼン達は呆れ、子犬様は遂に天岩戸から御出でになり、溢れんばかりにその目を輝かせ、これでもかと尻尾をブンブンと御振りになられる。
世界に光が取り戻された! 喜んで頂けて何より!! 尻尾ブンブン!♪
俺が結果に満足し、子犬様と心を通わせながら尻尾を振り合っていると、ゼン達も子犬様の様子に気付いた様で、子犬様を見遣りながら喋り始める。
「……何か武技の種類が多いと思ってたけど、……自分で作り出してんのかよ。魔術まで組み込むなんざ、マジでやべぇな、ハク」
「ハクちゃん、レベル1だよね? じゃあ、あれって自力? そんな事出来るんだね……。知らなかったよ、ハクちゃん」
何か二人に呆れられている気がするが、そんな些細な事気にしない!
子犬様に喜んで頂けたから良いの!! 尻尾ブンブン!!
「さて、実験も成功したし、ホブ蔵も最早虫の息じゃ。楽にしてやるとするかのう」
俺はホブ蔵に止めを刺すべく、『強爪』を発動しながら走り出す。これで終いだとどこか安堵しながら右爪を振り上げたその時、俺は自分の失敗を悟る。最後に見たホブ蔵の目は、まだ死んではいなかったのだ。
「!? しまっ」
止めを急ぐがもう遅い、ホブ蔵は両膝を着きながらも全身に力を入れ、その口から有らん限りの咆哮を吐き出した。
『グガァァァァァァ!!!!』
その咆哮は俺の体を震わせ、辺りに衝撃波が駆け抜ける。傍にいた子犬様が恐怖にピタリと動きを止めると同時、俺の体も爪を振り上げた姿勢のまま、ホブ蔵の前で無様に隙を晒す。当然、そんな隙をホブ蔵が見逃す筈も無く、右手の大剣を横薙ぎに振り払ってきた。重ねたダメージのお陰か、その振りに力は無く、ほんの僅かな差で、俺の体は動きを取り戻す事が出来たが、左爪を間に差し込むのが精一杯だった。
「ガァァァ!!!」
「ぐっ!?」
「ハク!?」
「ハクちゃん!?」
俺の体はくの字に曲がり、地面と水平に彼方へと吹き飛んで行く。何度か地面を跳ねた後、俺は地面に爪を立て、引き釣りながら体勢を立て直す。俺の体は丁度森に向けて吹き飛んだ様で、目の前には離れたて小さくなった大木が見えた。ギリギリで自ら飛んだ事も有り俺は一撃死を免れたが、HPは8割以上が消し飛んでいる。爪の盾と自ら飛んだ事、そのどちらが欠けていても俺はやられていただろう。ゲームを始めて以来、一番の大ダメージだ。
「くそ! 抜かった!!」
手負いの獣には油断してはいけないという。俺はまた自分が油断した事に腹を立てつつ、ホブ蔵を睨み付け、さっさと止めを刺す事に決める。だがホブ蔵は、俺の遅すぎる決断を嘲笑うかの様に、此方に嫌らしい笑みを向けていた。
何だ? 確かに大ダメージだが、死んでいない以上、勝ち誇るにはまだ早いだろう?
だが、俺は直ぐに自分の勘違いを悟る事になる。ホブ蔵は俺に構う事無く、振り返り子犬様へと体を向けたのだ。
こいつ!? まさか先に子犬を!?
俺は焦るが状況は最悪だ。俺は子犬様に対して、ホブ蔵を挟んで一番遠い反対側に吹き飛んでいる。幾らホブ蔵が手負いとはいえ、此処からでは迅爪を使っても一歩間に合わない。ゼン達の位置も悪い。ゼンは既に走り出しているが、彼等は観戦する為少し離れていたので彼の速さでもこちらも一手間に合わないだろう。オトネは魔法の準備をして彼女の周りに風が渦巻いているが、あれも厳しい。間に合う様な初級の魔術では威力が足りず、威力を出そうとすれば間に合わない筈だ。
最悪だ。このままでは子犬はホブ蔵の振り上げた刃によって……
違う!!!
今必要なのは、そんな最悪なイメージでは断じて無い!
脳波を読み取り、それを現実とするこの世界でそのイメージは致命傷だ!!
それを考えてしまえば、それはきっと現実の物となる!! 考えるな!!!
俺は目を見開き神経を研ぎ澄ませ、深く息を吐き出す。
意識を深く深く沈める様に、不要な全ての雑音を排除する為に。
姿勢は低く左手を地面に軽く付け、右腕は掲げ構えを取り爪を出す。今爪は五本も必要無い、真ん中の一つを残し、その一本に全てを託す。何時でも走り出せる様、右足に力を漲らせるが今はまだ走らない。
集中が乱れてイメージの邪魔だ! 集中しろ!! 殺意を研ぎ澄ませ!!!
今求めるのは、何者にも捉える事の出来無い揺るぎない速さだ。幸い、風魔法のレベルが上がった事で新しい魔法を覚えている。それは今の状況に最も適した物だ。MPに余力を残した事で、あいつを仕留めるだけの手立ても残っている。
集中しろ! あいつを一瞬で屠り、奴が倒れ行く様を!!
あいつに何をさせる暇なく滅ぼす一瞬を!!!
『風刃爪!!!』
俺は想いを乗せる為、敢えて魔技を口にする。強爪から始める時間はもう無い、ホブ蔵は子犬様の目の前だ。それに強爪から始めては、二つ目の魔術を乗せる前に強爪が発動してしまう。
三つ目の魔術は『ファスト』。
対象の俊敏を上げる補助魔術だ。
この世界ではイメージが力になる。
ウィンドスラッシュが小さく強くなる様に、細く鋭くなる様に。
ならバフ魔術はどうなる? 何も変えられないのか?
否! この世界ならば! きっと変えられる筈だ!
今長時間、少し俊敏を上げた所で意味は無い。
今求めるのは、ほんの一瞬で込められた全ての魔力を貪り尽くす様な、一瞬の暴力だ!!
『ファスト!!!』
俺はその魔術に全てを託し口にする。そうすれば爪の輝きは先程よりも鮮やかな翡翠色に変わり力を増し、刃から漏れる風も、その速さを示す様に鋭く速く辺りを蹂躙する。その風達からは、まるで俺の背中を押し応援してくれる様な力強さを感じた。
俺は静かに息を吐き殺意を込める。
刃はその殺意に呼応する様に、その身をギチギチと軋ませ鋭さを増した。
新たな魔技に名と力を与え発動すれば、
その魔技は思いの外、静かに発動した。
『瞬刃葬!!!!』
瞬間、全ては置き去りにされる。
体をギシリと軋ませつつも、景色は糸引く様に流れる。今正に、刃を振り下ろさんとするホブ蔵の横を擦れ違い様に一閃する。気付けば俺の前には、怯える様に尻尾を股に挟み蹲りながらも、今はポカンとした表情を見せる子犬様の姿。その表情と、間に合った事に対する安堵で数舜微笑む。
俺は後ろを振り返りながら右腕を振り払い爪を消す。
それはまるで、残り香の様な魔技の燐光を辺りに撒き散らした。
「お主にこの子は渡さんよ、ホブ蔵」
まるでそれを合図にしたかの様にホブ蔵はその首を落とし、自らの頭と泣き別れした胴体はゆっくりと後ろへ倒れ、その重量を辺りに響かせ煙を上げる。
辺りには此方に駆け付けようとしていたゼン達の茫然とした姿と、
ポカンとした表情を見せながらも、ゆっくりと尻尾を振り始めた子犬様の姿が有った。
ゼ「気が付いたら目の前に居た。わくわく」
オ「気が付いたら首が落ちてた。コワイ」
子&ハ:ブンブンブンブン!♪




