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018 ボケェェェェェ!!!!

ア「はっ! 何か寒気が!?」

「ァァアァイシャアアアァァァァァァ!!!!!」


 俺の突然の咆哮が森に轟く。


 確かに! 確かに十分考えられた事だったけども!!

 それでも、何か言えよアイシャァァァ!


 『アイちゃんでぇぇす!』という幻聴と『ワタシハ、ワルクネェ!』という声が聞こえる気がするが、それを努めて無視をする。お前! 俺がテイムする事も幸運1にしたのも知ってただろうがぁぁぁ!


 俺のこの一週間は何だったんだ……。

 無駄に凹みまくっただけじゃねぇか……。


 あいつは、何時か必ず助走付けてぶん殴る。俺は、決死の覚悟を決め現状について考えた。何時までもウダウダ考えた所で仕方ない。


「どうしたもんかの……これは。取り敢えず幸運スキルを取って、レベルを上げてから再挑戦するしか無いかのう……」

「テイム成功率を上げるスキルも有ったから、それも取った方が良いんじゃねぇか?」

「アクセサリにも運と成功率を上げる装備が有るから、それも使った方が良いだろうね」


「はぁ……、色々有るんじゃな。ワシは一週間……、何しとったんじゃろう」

「……考えても仕方ねぇよ。てかまさか、レベル上げもしてないのか?」

「それは無いでしょ? ここでも敵は出るんだから」


 そんなオトネの無慈悲な感想に、俺は衝撃の事実を告げる。笑劇だって? HAHAHA。


「……上げとらんよ。ここには狼しか出てこんからな。狼を仲間にしようとしておるのに、向かってこん子らを殺せんよ。因みに、レベルが上がる処かワシはこの世界に来てまだ一度も敵を倒しておらん。倒したのはゼンだけじゃ!」

「俺だけかよ!? それだと俺が弱いみてぇじゃねーか! ……ったくよぉ、じゃあレベル1のままか。俺達はもうすぐ10になるぜ。そうなるとスキルも上がってないんだろ? もう最初の二期組も皆レベル3まで上がってんじゃねぇか?」

「……少なくとも、ウチは上がったよハクちゃん」


「HAHAHA」


 もう笑うしかねーな!


 にしてもまだ10まで上がってないのか、結構上がり難いんだなこのゲーム。一応森を歩きながら果実を取る為に風魔法は使っていたので、風魔法のレベルは上がって3になっている。その為新しい魔術(スペル)は覚えているが……、言っても虚しいだけなので言わない。お陰でインベントリの中にはポポルの実が500個近く溜まっているので、急ぎでなければ当分は回復アイテムに困らないだろう。回復量10だけどな。


 因みに、ただ森を歩きながら実を採取したり、狼達から親殺しと無駄に吠えられ続けただけではなく、重く体を動かす練習をしたりもしていた。重くである、軽くは無い、ガッツリやったので! 折角森の中に居るのだからと、現実以上に動く事が出来て尚且つ俊敏特化のハクちゃんであれば、もしや木々の間を飛び回れるのでは? 森に潜む怪人的な事が出来るのでは? と思い実行に移したのだ。


 テイムの失敗に疲れて、気分転換を兼ねていたのもあるがこれがまぁ楽しかった。森の中を颯爽と飛び回り、木の枝を鉄棒に見立てて回ってから他の枝に飛び移ったり、木々を蹴って三角跳びする様に木を登ってはポポルの実を採取し齧っていた。俺は狼から猿に進化したのだ! ……進化か? いや、退化だな。(断言)


 ただし、当然最初は失敗の連続だった。痛みは無いので慣れてしまえば怖くも無いのだが、ダメージは当然ある。程々に食らったら休憩しつつ森を探索し、回復したら練習を続けていた。そしてそれなりに上達した時、それは起きた。まぁ、起きるべくして起きた事だろうが……。


 三角跳びで木を登りつつバク転して上下を入れ替えたり、体を無駄に捻ったりとアクロバティックに飛び回っている時に、幹への着地で足を滑らせて落ちたのだ。それなりに高さが有った事で、ダメージはかなり高かった。HPの九割が消し飛ぶ大事故だ。


 だが問題はそこじゃない、問題は俺が碌に体勢を立て直す事が出来ないまま、首からグキりと地面に落ちた事だ。当然痛みは無いのだが、体に受ける衝撃と肌へと感触、それに視界から入る情報など、痛み以外は現実と変わらない。


 その為、俺はその事故で()()()()()()()を幻視してしまったのだ。


 ……正直、滅茶苦茶ビビった。リアル過ぎるこの世界で、俺は完全に自分が死んだと錯覚したのだ。その事故の直後はまともに動く事が出来なかった。地面に這い(つくば)り呼吸を荒くし、自分の荒ぶる心臓と吐き気が収まるのを只々待つ事しか出来なかった。危うく、システムによって強制ログアウトを食らい掛けた程だ。


 そうやって俺が藻掻き苦しみ、ちょっと立ち直れないかも……、と思っていた時、白い狼様が現れた。その狼様は、どうやら俺が以前テイムに失敗した個体だった様で、地面を這い蹲る此方を最初からゴミを見る様な目で眺め、唾を吐き掛けて来た。……這い蹲る俺の顔面に。


 うっそだろお前?

 今追い打ち掛けてくるのぉ??

 何でよりによって今なのぉ???


 ……俺は泣いた、……それはもう、……ガチ泣きした。


 その狼様はその様子に満足して去って行ったが、自分の死を幻視するという臨死体験のショックは、その狼様に齎されたショックによる上書きで誤魔化された。俺は凹みまくって泣いている間に、結局いつの間にか立ち直る事が出来ていたのだ。泣いてスッキリ出来たのが良かったのだろう。狼様々である。……ほんとぉ???


 その後、俺は性懲りも無く練習を再開する事が出来た。

 当然……、低い所から。……怖かったんだよ。


 閑話休題。


 このままここに居ても仕方ないので、一度町に帰る事にする。実に一週間ぶりの帰還だ。森に居る間に薬草など色々採取して溜め込んでいるので、ギルドのクエスト報酬や大量に持っているポポルの実を売れば多分アイテムも買えるだろう。……買えると良いなぁ。じゃないとマジで虚しくなってくる。


 ポポルの実のレアアイテムっぽいのも何個か拾ったから多分いけるだろ。でもあれ、何の効果が有るか解らないんだよな……。アイテム説明を見ても、稀に狼の森に実ってるって事しか書いてないし、試しに食べてみたけど何も回復しなかった。ステータス変化も無し。見た目は片手で何とか持てる程大きな白い球体で、食感は大きな葡萄の様な瑞々しさが有り、味はサイダーで炭酸っぽい刺激も有った。めっちゃ美味かったのは確かだ。


「……はぁ、このままおっても仕方ないから、一度町に帰るとするわい。お主らが来てくれて助かったぞ、でなければワシはずっとこのまま森で彷徨う所じゃった」

「構わねぇよ、気まぐれで来ただけだしな。それに、流石にずっとはいないだろ?」


「いや、最早意地になっておったからな、当分はおったじゃろう」

「ハクちゃん、やっぱり狂戦士(バーサーカー)だね……」


 オトネが何か言っているが、気にしてはいけない。さて帰るかと思った所で、又もや草むらが揺れ動く、そこに現れたのはまたしても白い狼だった。逃げようとする親の仇を討ちに来たのかもしれない。最早、帰る気満々だったので気にもならなくなっていたが。因みに種族名は『ホワイトウルフ』だ、ドストレート。


 レア種の再登場に、ゼン達は驚き口を開く。


「え? またホワイトウルフかよ。出過ぎじゃねぇか?」

「そうだね……。一時間に一回、出るかどうかじゃなかったっけ? 無くは無いんだろうけど」


 その二人の疑問に推測で答える。


「恐らくそれもワシの種族の影響じゃろう。狼系じゃからか案外出るぞ? 30分に一回位かのう~。連続して出て来る事も何度かあったわい。……連続して凹む事になったがの」

「ああ……」

「それは……、何というか……」


 俺の答えに微妙な顔をする二人。俺はもう帰るつもりなので、技巧(フィネス)を試す気にもならなかった。そこでふと、ポポルの実のレア種で有るアイテムの唯一解っている効果を思い出し、狼をさっさと追い払う事にする。俺はインベントリを操作し、アイテムを取り出し狼へと掲げる様に差し出す。


 少し話は変わるが、敵意(ヘイト)を向けられているとインベントリは開けない。今狼は出て来ただけで、敵意(ヘイト)を向けている訳では無いので取り出せたが、通常ならば防衛職(タンク)敵意(ヘイト)を稼ぐなどしないといけないのだ。大勢の新人から敵意(ヘイト)を向けられていたグー助は、そのせいで大盾を仕舞えず逃げられないでいた。ウケる。


 ポポルの実とは違うアイテムを取り出した事で、オトネがそれについて尋ねて来る。


「なにそれ? さっきのと違うよね?」

「これは『フェリアの実』という。なに、見ておれば直ぐに解るよ」


 俺の言葉通り、変化は直ぐに訪れた。俺の方を見て狼が吠え始め、直ぐに森へと帰って行ったのだ。


【条件を達成したので、称号:『狼の知人』を獲得しました。】


「お、何か称号を獲得したのう」

「そうなんだ、どんなの?」


「『狼の知人』という奴じゃな、効果は狼系モンスターに対する友好度の微増だそうじゃ」

「友好度なんて有んのか……。じゃあ、ハクの種族にもその補正が有りそうだな」


「そうじゃの~。友好度が上がるならテイムもし易くなろう。助かるわい」

「それでも、一度帰ってから準備した方がいいね。今ので丁度100体目なんだっけ? レア種の遭遇数が条件なのかな? 他のモンスターでも有りそうだね」


 オトネの言葉に一度メニューから『アーカイブ』を確認する。そこには様々な情報が乗っており、出会ったモンスターの名前や解った事についてや、遭遇数、討伐数なんかも記載される。それを確認すれば『ホワイトウルフ』は今ので丁度、遭遇数:100、討伐数:0になっていた。因みに、決闘(デュエル)の欄は1戦1勝0敗で勝率100%だ。PKは5敗0%なのが少し面白い。まるでゼンが弱く、グー助が強かったみたいに見えるな。尻尾フリフリ。


「今ので丁度100じゃな。称号は知人になっておるから、遭遇数では無く倒さなかった数かもしれんの」

「それなら結構レアな称号なのかもね」


「かもしれんのぉ」


 因みに、『SEVEN'S WALKER』に於いて称号は対した効果は無い。称号を取得した時から常時効果は発揮されるが、滅多に取れる物でもない上、基本的には何かが1上がる程度で本当に唯のコレクター向けのシステムらしい。今回の称号は戦闘に直接関係無いからか上昇値は5と高いが、ベースが解らないのでどの程度の効果が有るかも解らない。戦闘をせずに、ほのぼのプレイをしたい人向けなら案外高いかもしれないな。本来この称号を取れるのは戦闘しない人だろうし。


「さっきの実は、狼避けのアイテムなんだね」

「ちょっと違うのう。さっきの技巧(フィネス)と同じじゃよ。ワシが使うと敵意(ヘイト)は上がるが、攻撃する程じゃないので帰って行ったんじゃよ。他のプレイヤーが使っていた時はその者が重点的に狙われておったわ」

「なら防衛職(タンク)用のアイテムか」


「まぁ、そんな所じゃな。食えば美味いが効果は無いしの。食うてみるか?」


 そう言いながら二人に一つずつ渡す。ついでなのでさっき出した物は自分で食べる事にする。レアでは有るが、ポポルの実100個に対して一つ位の割合で出るので少し持っていたのだ。全部で5つ持っていたが、自分で二つと二人に一つずつで四つ食ってしまったが、今はレアアイテムよりも疲れた心を癒したかった。一つ有れば十分だろう。これは売らずに取っておく事にする。


 そうやって三人でフェリアの実を食べていると、又もや草木が騒ぎ出す。いつもより小さい様な……、いつもより騒がしい様な? 通常種が群れで来たかな?


「またか? もしかしたら、実を三つ出した事で敵意(ヘイト)が上がり過ぎたのかもしれん。今更、倒したく無いんじゃがなぁ……」

「それならウチが追い払うよ。二人が攻撃したら切っちゃうし、ウチなら打撃で追い払えるからね」


 そう言って、オトネは食べ掛けのフェリアの実をゼンに無言で預けていた。ゼンもそれを当然の様に黙って受け取る。その無言のやり取りを俺はニヤニヤと気付かれない様に眺めた。こいつらやっぱお似合いだな、式には呼んでくれ。尻尾フリフリ♪


「スマンが頼めるか。ワシは子供らを傷付けたくは無いんじゃ」

「もう完全に母性に目覚めてんじゃねぇか……」


 ゼンが何か言って来るが聞こえない。俺も難聴系を目指すのだ! そもそもあの子達が牙を剝き吠え立てるのは、曲りなりにも技巧(フィネス)を使って此方が攻撃しているからだ。


 あの子達はそれに驚いているだけ! あの子達は悪くないの!! 子供達を傷付けないで!!!


 そんなアホな事を考えつつフェリアの実をモグモグ食べながら待っていると、オトネは俺達の一歩前に進み出て棍を一振りするとスッと腰溜めに構える。それは随分と堂に入った物で俺は思わず感嘆の声を漏らした。


「ほお~。随分しっかりとした構えじゃのう」

「ん? ああ、俺達は同じ道場に通ってるって言ったろ? オトネはそこの一人娘なんだよ。こっちだと中途半端な構成になってるからそこまで強くねぇけど……、現実だとかなり強いぜ? 本人は子供の頃から御袋さんにしごかれてるから、自分の事を弱いと思ってるみたいだけどな」


「そうなんじゃな。それは難儀な事じゃて」


 再度狼が出て来るのをゼンと話しながら待つ。程なくして、それは左側の草叢(くさむら)から飛び出してきた。そしてそれは……、又しても白い毛並みを持って姿を現したのだ。


「は???」


 飛び出して来たそいつを見て、俺は暫し驚き呆けてしまった。三回連続でレア種が出たから……、()()()()。その体が余りにも小さく、そして初めて見た生き物だったからだ。


「わふ?」


 は?なに??ちっちゃ、目おっき、手みじか、毛ふわふわ、声かわよ。ダイスキ。


 俺の疲れた脳がショートしている間に、その子犬様は反対側の草叢に飛び込んで消えてしまった。


 ちょっと待てぇ!! 絶っっっ対連れ帰る!! テイム出来なくても連れ帰る!! 拉致監禁して成功するまで技巧(フィネス)を使い続けてやらぁ!!!!


 俺がそう決意を固め、地の果てまで追い掛ける志で右の草叢に向けて飛び込もうとしたその時、再度左側の草叢が音を立て何かが集団で飛び出して来た。


 そういえば音は騒がしかった! まさかあの子犬様が集団で!?


 俺はそう思い、子犬様の集団が愛らしく尻尾を振る光景を夢想しながらバッ!と音を立て振り返る。


「はぁ??」


 そこには確かに今回初めて見る生き物が居た。思っていた光景とは全然違ったが……。それは緑色の肌をした小鬼糞虫、幾つもの物語で雑魚として知れ渡っているゴブリンだった。そいつらは例に漏れず、汚く貧相な恰好をして、片手に棍棒や弓を携えながら此方を見ていた。


「グギャ?」


 はぁ?何だお前??きたな、目汚、腕ほっそ、ハゲじゃん、声ぶっさ。コロスゾ。


 俺の脳があんまりな光景に再度ショートしている間に、小鬼糞虫集団は此方を一瞥した後、まるで子犬様を追う様に反対側の草叢へと雪崩れ込んで行った。


 ちょっと待て。絶対コロス。あの子犬様をテイム出来なくなったとしもコロス。拉致監禁してミンチになるまでぶっ殺してやらぁ!!!!


「待てゴラァ小鬼糞虫ィィィィ!! お前ら如きが何、子犬様を追い掛け回してんだボケェェェェェ!!!!」

「あんたもキャラ崩壊してんじゃねぇか……」

「ハクちゃん……、どぎつい地が出ちゃってるよ……」


 俺はそう殺意を固め、地の果てまで追い掛け磨り潰す志で右の草叢に向けて咆哮を上げながら今度こそ飛び込む。後ろからはゼン達の声が聞こえた気がしたが、この時の俺にはもう何も聞こえてはいなかった。


「取り敢えず、食ってから追い掛けるか。もぐもぐ」

「そだね。はむはむ」

子「わふっわふっ」

鬼「グ、グギャ?」

ハ「ブッコロ」


ゼ&オ「「うまうま」」

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