012 常春の町『ハルリア』
ようやく最初の町へと到着
俺は長閑な木陰が続く、森の中の道を歩き続けた。途中でモンスターに出くわす訳でも無く、また、オロバス以来人と出会う事も無い。先程までの濃い時間と違い、随分と穏やかな時間だ。時折、小鳥の囀りさえ聞こえて来る程で、こういうのも悪く無いな、と頬を緩ませ尻尾をゆらゆら、急ぐ事無く歩いて行く。と言っても、それ程長くは無い。五分と経たずに森を抜けると、視界は一気に開け世界がその姿を現した。
「おおーー! 馬鹿でかいのぉ~」
道はやや下っていて、眼下には大きな町が見える。その町は大きな川を取り込む形で作られており、周囲は外壁で囲われている。海外で見掛ける様なその町の周りには草原が広がっている様だ。しかし、俺が馬鹿でかいと言ったのはもっと遠く、遥か先だ。そこには、余りにも遠いからか、薄く青く霞む様に、一本の巨大な木が聳え立っていた。
遥か遠くに有る筈のそれは、それでも尚、町の傍に有る山々よりも大きく、その枝葉を広げている。あれだと屋外で有れば殆ど、何処からでも見えるんじゃないだろうか。最早、どれだけ大きいのかも検討が付かない。知る限りの言葉を付け加えた所で、きっと正しくは言い表せないだろう。結局の所、馬鹿でかい、だ。
その真上には、現実よりも遥かに大きな月も見える。……雲海は見えないな? キャラクリの時に見えた世界はこちらの世界だった筈なので、こちらからも見えると思っていたんだが……。まぁ、考えても仕方ないか、ここに無いので有れば別の所に有るんだろう、もしかしたら、夜になれば見れるのかもしれないしな。
「楽しい冒険になりそうじゃ」
俺はこれからの出来事に思いを馳せながら。尻尾をフリフリ野原を歩き行く。周りを見渡せば、ポツポツと動物の姿が見える。中には、プレイヤーと思しき人間が戦っている物も有った。装備に見覚えが有るので、どうやら俺と同じ二期組の様だ。全員がグー助の悪事に捕まっていた訳でも無かったらしい。
俺は結構キャラメイクの所に居たからな、グー助も初めからあそこで待ち伏せていた訳でも無い様だ。……あ、さっきのプレイヤーが死んだ。まぁ、行き成り武器持って野生動物とタイマンしろ、ってのと同じだからな。中々難しいだろう。無理そうなら魔法や弓なんかの遠距離攻撃主体に切り替えれば良い訳だし、現実でだって大体が銃だろう。
そんな風に周りを観察しながら歩いていると、直ぐに町の入口に辿り着く。壁は見上げる程に大きく、高さは10mは有り、厚みも5mは有ってとても頑丈そうだ。魔物の居る世界だから少し厚く作っているのだろう。視線を下せば門は開いており、その両脇にはそれぞれ一人ずつ兵士が立っていた。彼等は怠ける事無く真っ直ぐと立っており、その内の一人が話し掛けて来る。
「常春の町『ハルリア』へようこそ、雲海人よ。あなたの来訪を歓迎します」
「歓迎に感謝しよう、ワシはハクじゃ。して、雲海人とはなんじゃろう?」
「あなたは、森に有る神殿からやって来たのでしょう? あそこからジン様が訪れて以来、時折迷い人がやって来る様になったのです。その彼らは一様に、『雲で満たされた場所から来た』というので、我々は雲海人、或いは雲人と呼び歓迎しています」
「成程、確かに雲海が広がる素晴らしい場所じゃった。町に入るのに何か必要じゃろうか?」
「本来、町に入るには税が掛かりますが、森からやって来た雲海人からは税を取ってはいません。ただ、他の門から出入りする際には税が必要になってきますので、町から出る前に、ギルドで会員証の発行をお勧めしています。会員証が身分証の代わりとなり、必要な税金はギルドから徴収されますので、門を通る時に税を払う必要が無くなります」
ゲームでまで税金を払わされるのか……、世知辛い。
そこまでの説明を聞いた所で、ピコン!という電子音と共にウィンドウが表示された。
【チュートリアルクエスト:『ギルドに行こう。』が受注されました。
メニューの「クエスト」からご確認下さい。】
どうやら、今の会話によってクエストが発生した様だ。
受注についての確認が無かったので、チュートリアルクエストは自動で受注されるらしい。
「相分かった。忠告に感謝する。それではの」
そう言って彼らに別れを告げ、少し行った通路の途中で先程のウィンドウを再度確認する。その中に有る『クエスト』の部分がボタン状になっているので、取り敢えずタップしてみればそのままクエストを確認する事が出来た。
【『ギルドに行こう。』
チュートリアルクエスト
概要 :何れかのギルドに行き、会員証の発行をする。
達成条件:冒険者ギルド、魔術ギルド、商人ギルド、生産ギルド、
職業ギルド、教会の何れかで会員証を発行する。0/1
報酬 :1,000Y
『マップ』『破棄』】
――どうやら、会員証の発行には幾つか種類が有り、そのどれか一つで登録すれば良いらしい。それと、受注の確認は無かったが破棄は出来る様だ。報酬は恐らくゲーム内通貨だろう。単位はYらしい。取り敢えず『マップ』をタップすると、この町の地図が表示され上部中央に『常春の町 ハルリア』の文字と、地図の各部にそれぞれのギルド名と赤い矢印が表示された。
この町は五つの区間に分かれているらしく、円形の全体像に漢字の『大』の様な形で大きな道が通っている。その右上から時計周りの順に、商人、冒険者、生産、魔法、職業ギルドが有る様だ。今居る場所は北の入口で、川も北側から入り、幾つかに分れ南に向かって町の中を流れている。町の中心は広場になっている様で、各ギルドはその広場に有るらしい。北から入って正面に教会が建っているので、生産ギルドだけは少し端に追いやられているが。
取り敢えず当分は戦闘がメインになるから、無難に冒険者ギルドで良いだろう。俺はこの町をブラブラと観光しながら、南東にある冒険者ギルドへ向かう事にし通路を抜ける。するとそこには、海外で見る様な赤いレンガと真っ白な繋ぎ目で出来た建物が並ぶ、綺麗な街並みが広がっていた。
「おお~~。美しい街並みじゃの~~」
地面は白く舗装され、凹凸無く造られている。巨人族が居る事も有り、幅はとても広く作られていて、人と馬車が頻繁に行き交っていた。馬車と言っても、馬も居れば筋肉質で体格の良いヌーの様な魔物から、ダチョウを大きくした様な体格で、しかし首と足は短く頭と嘴は大きい、それでいて鶏冠がサラサラヘアーな変な鳥の魔物も居た。目が血走っている。怖い。
因みに、大きな体格の割に一番早いので迫力が有る。ただし、走りながら『コェーコェー』と頻繁に鳴いているのが結構煩い。何が怖えのか、怖えのはお前の方だ。
道は真っ直ぐと広場まで繋がっており、端の方には所々に街路樹が植えられ、鮮やかな彩りを生み出していた。道行く人達の人種も様々で、巨大な大剣を背負った4mを超える巨人から、大きな鞄を背負い歩く1mを下回る小人達。多種多様な獣人族に、ふよふよと浮いて移動するフェアリーやレイスなど、本当に様々で見ているだけで当分飽きそうに無い。テイムモンスターなのか、多種多様な魔物を連れ歩いている人も見掛ける。俺も早く相棒を連れ歩きたい所だ。
そんな人達や街並みを眺めながら、通りを歩く。通りには飲食店等も有る様で、あちこちから良い匂いが漂ってくる。……お腹空いてきたな。
因みにこのゲーム。普通に味もするし食感もちゃんとあるらしく、それでいてカロリーゼロ。最早、それだけでこのゲームをする価値が有る。幾ら美味しい物を食べても、太る事を気にしなくて良いのだ!
ただし当然、満腹感は得られないので、ゲームを止めた時に滅茶苦茶お腹が空くらしく、その結果、ついつい食べ過ぎて太ってしまう人も居るとか何とか。今はゲーム内通貨も持っておらず、食べ歩く事も出来ないので無視して先を急ぐ、早くお金を稼いで食い倒れなくては。いや違う、まずは相棒探しだ。危ない危ない。
そんな事を考えながら歩き、遂に広場へと辿り着く。
「おお~~、素晴らしい。実に見事な桜じゃなぁ」
その中心には、円く人が腰かけられそうな段差が作られ、中には緑に覆われた土と、見上げる程大きな一本の桜の木が生えていた。確か常春の町だったか、ならこの木はこの町のシンボルなのだろう。その大木がこの場に広く木陰を広げ、過ごし易い気温となっている。広場のあちこちにはテーブルが置いてあり、昼間から酒を飲んでは騒いでいる者達も居る程だ。大木の傍の段差には小さな魔女っ娘が腰掛け、新人装備のイケメンと話しをしている。また特徴の無いイケメンだ、モブ男二号かな? モブ太と呼ぼう。
広場はかなり広く作られていて、中心寄りに人々が屯していて、その周りを馬車や人々が行き交う。正面には大きく荘厳な教会が建っており、一本の大樹を囲う様に七つの星が大中小と三列、計二十一の星が交互に飾られたシンボルを掲げている。あの木は森を抜けた時に見た大樹だろう、というか今も見えている。あれだけデカければ、そりゃ信仰の対象にもなるか。教会の後ろに見えているので、この町からは南に位置するらしい。
取り敢えず教会に用は無い。まずは冒険者ギルドだと、左前方に向かい歩き出す。テーブルに座り飲み食いしてる所を横切った時に、また良い匂いがしてくる。くぅ~、お腹空いたぁ!
数々の料理から逃げる様に視線を大木の方へ視線を向ければ、モブ太が楽しそうに話している。その前に座っている少女は魔女が被る様な黒く尖がった鍔広の帽子を被っていて、背中を向けている事も有り顔は伺えない。声も周りの騒音に紛れて聞こえては来なかった。
そんな風景を横目に歩き、冒険者ギルドへと辿り着く。ギルドには盾の前に二本の剣が交差した、解り易いシンボルが掲げられている。まぁ、こういうのは解り易く無いと意味ないよな。入口には頑丈そうな扉が付いており、今は開けられている。壁も厚く頑丈そうな事から、有事の際の避難所にもなっているのかもしれない。
「邪魔するぞ~」
そう言いながら中に入ると、中は正に冒険者ギルド、と言った有様。中は広く作られており、思いの外閑散としている。右手には酒場が併設されているが、今は数人しか客は入っていない。まぁ天気も良いし、折角なら外で飲むか。少し視線を左にやれば掲示板があり、数々の依頼が雑多に張られている。中には長い間張られているのか、日に焼けて色が褪せている物もある。良いね良いね、実に雰囲気が有って素晴らしい。
ゲームのリアルさも有って、まるで異世界に来た様だ。もしかして、誰かに絡まれちゃう? 異世界の定番を経験しちゃうの? 『お前みたいな嬢ちゃんが来る場所じゃねぇ』とか『可愛いねぇちゃんだ、酒を注げギャハハ』とか言われるんじゃろうか? はよ来い、尻尾ブンブン♪
しかし、少し待っても誰も絡んでこない。
ギルドの中は静かなものだった。尻尾しょぼ~ん……。
仕方ない、絡みに行くか。『飯食いてぇから金を寄越せ』とか『おうおう先輩。可愛い後輩に金を恵んでくれよグヘヘ』とかイっとくか。……いや無いな、それは無い。ハクちゃんにそんなダサい真似はさせられない。俺は自分の欲望をぐっと堪えつつ、正面の受付へと向かう。受付にはショートヘアの綺麗な女性が座っていた。可愛いねぇちゃんだ、酒を注げグヘヘ。
「登録をしたいんじゃが、場所はここで有っとるじゃろうか」
「はい、こちらで大丈夫ですよ。こちらの用紙に必要事項をご記入下さい」
そう言って、受付嬢は一枚の紙を差し出して来た。
それを見た瞬間に、又もやウィンドウがポップアップされる。
【名前:ハク [変更]
年齢:16 [変更]
種族:獣人族[変更]
これで宜しいですか? YES/NO】
おおう、簡略化されてるんだな。とても新設設計である。そして全部変えられるらしい、偽名での登録や種族を誤魔化して登録出来る何て、ホント、ロールプレイに配慮されたゲームだな。偽名で登録してお忍びの王子様を装ったり、迫害された種族が種族を装って~何て事をしているプレイヤーも居る事だろう。単純に、犯罪者が変装して紛れ込んでいるかもしれない。たかが紙一枚で、実にワクワクさせてくれるゲームだ。尻尾フリフリ。
一瞬、『名前:アイちゃん、種族:ポンコツAI』とかしてやろうかと思ったが、流石に自重する。特に変更する事も無いので『YES』を押すと、紙に一瞬で見た事の無い文字が光と共に書かれ、受付嬢がそれを受け取る。受付嬢は内容を確認すると、左手にある端末を指し示しながら言葉を告げる。端末は5cm角の黒い土台に、2cm程の緑色の宝石が埋め込まれた、簡素な代物だった。
「問題ありませんね。それではそちらの端末に、左手の『セブンスリング』を翳して下さい」
「ふむ、これで良いかの?」
言われた通りに、俺は左手に有る金属のリングを端末に近付ける。
「はい、大丈夫ですよ。それでは、そのまま少々お待ち下さい」
「相分かった」
受付嬢はそういうと何かを操作し、その途端またウィンドウが表示された。
【クエスト達成!
『ギルドに行こう。』
チュートリアルクエスト
概要 :何れかのギルドに行き、会員証の発行をする。
達成条件:冒険者ギルド、魔術ギルド、商人ギルド、生産ギルド、
職業ギルド、教会の何れかで会員証を発行する。1/1
報酬 :1,000Y】
【チュートリアルクエスト:『教会に行こう。』が受注されました。
メニューの「クエスト」からご確認下さい。】
「これで登録が完了致しました。ハク様は雲海人でいらっしゃるのですね。雲海人の方が初めて登録された際には、国から補助金が出る事になっておりますので、こちらをお受け取り下さい」
「ほほう、補助金とな。それは助かるの~。有難く頂くとするわい」
そう言って、受付嬢は小さな革袋を差し出して来たので、遠慮する事無く受け取る。中を確認すると一枚の銀貨が入っていた。片面には教会のシンボルと同じ、大樹と七ツ星が描かれ、片面には文字らしき物が一字書かれていた。多分数字かな? 漢字の『千』みたいな物だろう。
革袋毎インベントリに仕舞うと、インベントリの下部に有った数字が0Yから1,000Yに変わった。単位の右には[取出]ボタンが有るので、ここから取り出せるらしい。クエストをクリアした事で新しいクエストを受注した様だが、取り敢えず受付の話しを聞きたいので確認せずに一旦消す。次は教会か……、加護をくれた神様関係のイベントかな?
「依頼については、右手の掲示板から直接受注出来ます。ハク様は現在一ツ星ですので、一ツ星の依頼のみ受注が可能です。依頼を達成されましたら、受付までお越し下さい。受付にて報酬をお支払致します。モンスターや植物、周辺の地図については二階の資料室か受付にてご確認頂けます。説明は以上になります。何かご質問は御座いますか?」
「いや、今は特に無いのぅ。世話になった。それではさらばじゃ」
そう言って、片手を振り別れる。受付嬢は軽く頭を下げた後、小さく手を振り返してくれた。可愛い、グヘヘ。尻尾フリフリ。そして、モンスターについては本当にギルドで確認出来るんだな、おのれオロバス!
俺は受付と別れた後、一応掲示板を覗く。依頼書の内容は見覚えの無い字で書かれていて、読めるのか疑問に思いながら近付いて行く。ある程度近付くと依頼の一覧と、視線を合わせた依頼書の内容がウィンドウで表示された。成程、こういう形式か。異世界の雰囲気を残しつつ、ユーザーに配慮されていてとても良いな。
内容を確認すると、定番のゴブリン退治や薬草採取、人類未踏の地の調査やドラゴン退治まで、実に様々だ。狼の森についての依頼も有ったが等級が『二ツ星』になっていて受注出来なかった。二ツ星か、まぁ初期は上がり易いだろうし、そこまで難易度が高い事も無いだろう。オロバスも何も言わなかったのでイケるイケる。駄目そうだったらその時考えよう。
依頼書の中で一番色褪せた依頼を見ると、等級は七ツ星で『七天龍の調査』となっていた。報酬も莫大だ。……おおぅ、お天気龍さんか。一応知り合いだし達成出来ないかな? まぁ、そもそも受注出来ないんですけどね。取り敢えず受注数に制限は有るが、期限が有る訳でも無いのでゴブリンや薬草等の一ツ星で受けれる依頼を一通り受けておく。
やる事もやったし、まずは相棒を探したいので探検は後で良いだろう。食事も今は我慢だ。ならば、善は急げと東の『狼の森』に行く事にしギルドを後にする。
ギルドを出て右手の大通りから東門に行こうとした時、ふと違和感を感じ広場に目を向ける。そこではテーブルに着き、食事をしている人達の何人かが不快そうに同じ方向に視線を向けていた。その視線を追えば、先程見たモブ太と魔女っ娘の少女。今度は少女の正面から見る事が出来たので、その顔を伺い見る事が出来た。
そこには、不安そうに自らの杖をギュッと抱きしめ、
今にも泣き出しそうな顔を見せながら俯く少女の姿が有った。
受「ニコニコ尻尾振ってて可愛い子だった」
ハ「女の子が手を振ってくれたぜ。グヘヘ」




