010 Goodbye グー助
漸く外へと向かいます。
なげぇな~
スキル経験値を稼ぎつつ、恨みを晴らさんと新人達が何度もやられながら突貫する。襲い来る狂人の集団をバッタバッタと薙ぎ倒しているにも係わらず、絶賛ガン泣き中のサンドバッグ。やっぱりこの場はカオスに満ちていた。
本来、静謐である筈の神殿で、ここは常に混沌としている。初めはPKが暴れ狂い、新人が倒されては嘆き。次いで一匹の狼が何故か勝ち誇り笑い、モブ男が自身のモブっぷりを嘆いた。更に、一体の不死者が笑いながら突貫しては、屍食鬼が半泣きで嘆き、今は多数の狂人が目を血走らせながら経験値を貪り、哀れなグー助が自らの行いを嘆いている。
「ふむ、ここは嘆きの神殿じゃったか。神聖な場所に見えるが、実は呪われた場所なんじゃろうな」
「いや、半分以上あんたが原因じゃねぇか」
うるさいよ!
俺の呟きに、復活してきたプレイヤーが遠慮無くツッコみを入れて来る。俺は今少し離れた位置から、阿鼻叫喚の激戦地を眺めていた。実は一回死んでしまったのだ。グー助の攻撃をモロに食らって普通に落ちてしまった。
というのも、レベルの上がった『獣爪術』と『風魔法』の新しいスキルを試そうと思って俺も混ざる事にしたのだ。『風魔法』については試していない。『ウィンドサークル』という範囲攻撃だったので、今の乱戦状況では他のプレイヤーを巻き込みそうで撃てなかった。
なので取り敢えず、『獣爪術』Lv.2の『迅爪』という武技を試す事にした。読んで字の如く、素早く相手に近付き素早く切り付ける武技だ。ダメージ補正は低いが発動から結果までが速いので、命中率の高い武技になっている。折角なので、グー助を驚かs……ん゛ん゛、喜ばせて上げようと、真正面から一気に近付く事にしたのだが。
その結果、俊敏が上がった事もありほぼ一瞬でグー助の目の前に辿り着く事が出来た。ちょっと吃驚させつつ切り付けて逃げようと思っていたのだが、俺の突然の登場に思いの外グー助が大喜びしてくれたのだ。目の前で成人男性にガチ泣きしながら『あびゃぁぁぁぁぁーーー!!』何て言われた日にはもうね? 俺は見事、その場で腹を抱えて崩れ落ちる事になってしまったのだ。その瞬間、俺の爪から武技の光は消えた。気が散ったらキャンセルされる何て初めて知ったぞ。グー助。
パニックを起こして、ナイフを振り回すグー助の一撃をモロに浴び、結果、俺は死んでしまいましたとさ。まる。グー助の癖に、あんな切り札を持っている何て生意気だ、中々やるじゃないか。その時、一緒に周りのプレイヤーも落とされていた。動きが止まっていたから多分、俺と同じ状況だろう。マジすまん。でもあれはズルいよな? 因みに、復活後も暫く爆笑していた。他にも何人か爆笑していた。俺達は仲間だ。
そういえば、今俺の前には一つのウィンドウが開いている。画面には『プレイヤーの攻撃によって死亡しました。通報しますか? プレイヤー名:「グーゲイル・スケイル」 YES/NO』の文字とグー助の画像が付いている。SWでは、PKされても自動で相手が犯罪者になる訳じゃ無い。パーティメンバーでも攻撃は当たるので、誤射の可能性が有るからだ。その為、復活後に個々で判断する事になる。ってかグー助よ。お前ホントにグー助じゃねーか、ウケる。
逆恨みで通報する奴もいるが、無実を訴えればAIがログを調べて判断してくれる。まぁ、事実なら当然レッドネームだが。通報の数が増えれば増えるだけ、PKに掛けられる賞金が増えるシステムだ。因みに、プレイヤー名は相手から名乗られた後、その相手を認識した状態で顔を見た時に、相手の頭上に表示されるシステムとなっている。なので、モブ男の頭上には現在『アレクサンダー』としっかり表示されている。誰だそいつ。俺のダチはモブ男だぞ。
名前を知らない相手は何も表示されないし、名前を知っていても相手が顔を隠す等して認識出来ない場合も表示されない。相手が偽名を名乗った場合はその名前が表示される。ロールプレイし易い環境だ。因みにPKの顔は至る所に張り出されていて、それを一度でも見ていれば例え覚えていなくても、相手の顔を見た時に赤字で名前が表示される。それ故に、PKプレイヤーと呼ばれるのだ。
名前の色は通常の白と犯罪者の赤以外に、フレンドの水色、パーティメンバーの緑と。刑期を終えた、或いは被害者が許した明るいオレンジが有る。そこで、俺はグー助の名前を見る、そこにはオレンジ色で『グーゲイル・スケイル』と表示されていた。グー助ぇぇ! お前許されてんじゃねーか! 笑うわこんなの。
あれだけ、ガチ泣きしてればそりゃ許すか。先に行ったプレイヤーは、恐らくそもそもグー助にやられていないんだろう。グー助は最初、ここでプレイヤーを倒した時に『俺は弱くねぇ!』と言ってたらしいので、ここに来た時も赤では無かったのかもしれない。PKになりたくて態々初心者狩りした挙句、ガチ泣きさせられて許されるって最早こっちまで泣けてくる。
俺は当然、目の前のウィンドウの『NO』をタップし画面を閉じる。
……仕方ないから、俺だけはお前を許してやるよ……グー助。プークスクス。尻尾フリフリ♪
「それにしても、グー助は魔術を使わんのう。持っとらんのじゃろうか?」
そう、俺はグー助からの魔術を期待していたのだ。にも拘らず一向に使う気配が無いので、諦めてタコ殴りにしていたんだが……。折角まともに食らって死んでも問題無い環境に居るので、経験出来る事は出来るだけしておきたかったんだけど……、持ってないんだろうか? 意外と硬派だったんだなグー助。物理暗殺者スタイルにでも拘りが有ったんだろう。
……いや、それだとあんな大盾何か持って来ないよな。新人相手だからと油断して外して来たのか? それとも、使う前にパニックを起こして忘れてるだけだろうか。……まさか、器用に振り過ぎて魔法系にステータスを振る余裕が無かった、何て事は無いよなグー助? ……う、うん! この事について考えるのは止めておこう! うん!
俺は解らない事を考えても仕方ないので、そろそろ行くかと決意する。
「さて、ワシもそろそろ行こうかの」
誰に言う訳でもないが、そう一人呟く。ホントは新しい武技ももっと試しておきたかったのだが、グー助の『あびゃぁー!』にヤル気を削がれ、完全に集中が切れてしまった。結構楽しんだし、後は皆に譲るとしよう。強く生きろよ。サンドバッグー助。モブ男とはフレンドになっておきたかったが、今は忙しそうだし何れ何処かで会えるだろう。
俺はゆっくりと出口に向かって歩きだした。まだまだ、みんな元気にスキル上げに励んでいる。出口に着くと振り返り、辺りを見渡す。何だかんだここにも結構居たな。本来そんな長く居る場所じゃないだろ……、マジで。そんな事を思いながら、最奥に並び立つ七体の石像を眺める。
そこには、ここへやって来た旅人を見守る様に、神々の像が並んでいた。結局あれもちゃんとは見なかったな。そう思いながらも、まぁまたいつか来れば良いかと視線を下す。
そこには、何度死にながらも元気に突貫を繰り返すプレイヤー達と、皆に相手をして貰って泣く程嬉しそうなグー助の姿が有った。俺は片手を上げ、気軽に別れの挨拶をする。
「ではまたの。みな、程々にするんじゃぞ~」
「あ、お疲れ様で~す」
俺の言葉に真っ先に返事を返すモブ男、やっぱあいつ良い奴だわ。モブ男の挨拶を皮切りに、他にも何人かが「お疲れ~」と気軽に返して来る。お前ら良い奴だな、結構楽しかったぞ。緩いあの子は「お疲れ様です! お姉さま!」と元気に緩く無い返事を返してくれた。お姉さまじゃないんです~。ホントごめんな? 俺が程々にと言った事に光明を見たのか、グー助は「助けてぇー!」とか言ってるが知らん。お前はしっかりと罪を償え。
その時強い視線を感じ、視線の方へと目を向ける。そこには何度か見た渋い無人族の男性が、じっ……と、何をする訳でも無くこちらを見ていた。俺はそれに首を掲げつつも、この場を後にする。
「なんじゃろう? まぁ、よいか」
そう言い、後ろを振り返るとそこは窓も無く、薄暗くて少し長い廊下になっていた。暗かったから気付かなかったが、入口近くの影の中に一人の小柄な少女が立っていた様だ。彼女を見て俺は少し身構える。またPKか? と思ったが流石に無いか、グー助の仲間って事も無いだろう。あいつ今ガン泣きだし。あの状況で助けに入らないなら、間違いなく仲間ではない。
その少女は、濃い紫の生地に金や白の糸で装飾されたローブを頭からすっぽりと被り、俯く様に立っていた。フードを深く被っているので顔は良く解らないが、少し幼い印象を受ける。肌の色は良くないから幽人族だろう。というか少し透けている様な? リッチ系かな?
そして、両手で抱く様に身の丈を超える様な大きな鎌を持っていた。完全に死神である。ぶっちゃけちょっとビビった。やり過ぎたからお迎えが来たのかと……。
まぁ、そんな冗談はさておき。鎌は植物の装飾が施された黒い柄と、二本の鈴蘭の花が根本から刃先の方へと入り乱れる様に浮彫された紫の刃を持つ、少女が持つのに相応しい美しい大鎌だった。鈴蘭の何ヶ所かは、紫色の宝石で出来ているらしい。確か鈴蘭は毒が有るんだったか? 紫色なのと相まって一見禍々しい印象を受けるが、少女の雰囲気と合わせると一種の神秘性を醸し出していた。鈴蘭の頭を垂れた花が、まるで俯き立つ彼女の様を思い起こさせる。
だが、開けたローブの下に来ている服は色こそ紫で合わせているが、ローブや鎌に比べると質素な作りの様に見える。まだ作っている途中なんだろうか? 少々アンバランスで勿体無いが、それでも随分と雰囲気の有る少女だ。ぶっちゃけ滅茶苦茶友達になりたいが、中身おっさんが行き成り少女に対して『友達になろうぜ!』は余裕で事案だろう。今はハクちゃんだし良いかな? いや、自重しよう。怖がらせたくない。
少女は特に何かをする様子も無いので、俺は静かに横を通り過ぎようとする。すると、何処か熱に浮かされた様な……、妙に熱の篭った視線がこちらを追ってくる。
どうした? 大丈夫? 友達になる?
……まぁ、そんな訳も無いか、……自重しよう。
俺が少し通り過ぎた所で、少女が静かな声でポツポツと話し掛けて来た。それでもその声ははっきりと聞こえる、鈴の鳴る様な少女らしく可愛らしい声だった。
「……あなたは、……凄いですね」
「……うん? そうかの? 少々張り切り過ぎてしまったが、そう言って貰えると嬉しいのぅ」
「……本当に、凄いです。……お陰で、私はどうすれば良いのかが、……やっと、解りました」
「うむうむ、若者に道を示すのも先行く者の務めじゃからな! ……進むべき道が見えたのなら、後は光に向かって突き進むだけじゃ! 頑張るのじゃぞ!」
「はい。……頑張ります。……有難う御座いました」
「……うむ。……ではな!」
俺はこの時、大きな勘違いをしていた。
彼女は俺とグー助の戦いをここから見ていて、それを凄いと言ってくれたのだと。
或いはモブ男との会話を聞いて、何か彼女なりの答えを得る手伝いが出来たのだろう……と。
なまじ、モブ男の悩みを曲りなりにも解決していた事が、それを余計に助長していた。
……くそが。……もっと出来る事が有っただろうが。
……もっとちゃんと、……話しを聞けただろうが。
俺は彼女の視線に何処か可笑しな物を感じていたんだ。それなのに自分の事を考えて、自重すべきだなんて嘯いて、それを見ない振りをした。感じた違和感に『光に向かって進め』何て中途半端な言葉で、何かをした気で誤魔化したんだ。……本当にクソッタレだ。
――結局、何も変わらなかったかもしれない。
――結局、何も止められなかったかもしれない。
それでも、……何も出来なくは無かった筈だから。
そうすればきっと、彼女があそこまで思い詰める事も無かった筈だから。
だから俺は、きっとこの時の事を忘れない。
二度と、自分を誤魔化して見ない振りをしない様に。
もう二度と、……クソッタレな馬鹿野郎に成らずに済む様に。
俺は彼女に別れを告げながら片手を上げ、出口へと向かう。
彼女はそれを少し見送った後、視線を広場へと戻す。その視線には妙な熱が篭り、未だに泣き叫びながら新人達の相手をさせられているグー助へとじっと向けられる。
「……同じなんだ。……PKだって、……苦しむんだ。
……ずっと、……自分とは別の生き物なんだって、……思ってた。
……同じなんだ、……あいつらも、……同じ様に――」
彼女の瞳の熱は、言葉を重ねる毎に刻一刻と昏さを増していく。
まるで、グー助と誰かを重ねる様に。
まるで……、その誰かを苦しめる方法を必死で探すかの様に。
彼女は何時までも、何時までも……。
飽きる事など無い様に、じっとPKの泣き叫ぶ姿を見続ける。
「――苦しめてやれば良いんだ」
彼女の溢した呟きが、……結局誰かに届く事は無かった。
グ「戻って来てーー!? こいつら止めてくれーー!?」
ハ「……あの子、大丈夫じゃろうか?」
?「PKぶっ〇す」
グ「もう忘れられてる!?!?」




