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001 Hello World

おじさんですが処女作を投稿するので実質処女です(?)


宜しくお願いしまぁぁぁぁぁす!!

ひゃっふぅぅぅぅぅぅぅーーーーー…………

 

 ――ザブン


 と、水に何か大きな物が落とされた音が耳を打つ、落とされたのは他でもない自分自身だ。視界には大小様々な気泡が昇っていくのが映り、真っ暗なはずのその空間で、不思議と彼らはその存在を主張する。それはまるで、夜空に輝く星々の様に鮮やかだった。


 息苦しさは無い。落とされたのは水の中では無くこの世界に、だからだ。そもそも、ここは現実世界では無く仮想世界である為、呼吸を必要とはしていない。肌に伝わる感触も、ここが水中だとは伝えて来ていない。


 体はゆっくりと沈んで行く……


 泡の星々はすでに遠く離れており、この寂しい世界で自分一人、置いて行かれてしまった様な僅かな寂しさを覚えた。少しずつ沈み行く中、自分の意志とは無関係にゆっくりと体の向きが反転していく……。視界の先、遥か遠くでは一つの小さな光が、弱々しく輝いていた。


 ――トクン


 と、音が鳴った。


 音に合わせ光は輝きを放ち、世界を光の波が駆け抜ける。


 また一つ、……音が鳴る。


 音が鳴る度に小さな光はその存在を主張し、光の波は世界を駆ける。その間隔は徐々に狭く、速くなっていく。鼓動の様に、或いは新たな世界の誕生を祝う様に、音と光はリズムを上げる。鼓動の波は最早荒波の如く駆け巡り、世界を光に染め上げていく。


 一際大きく、鼓動が脈打つ。


 視界は光に埋め尽くされ、強い光が体を駆け抜けると同時、世界はその姿を現していった。



 ………………


 …………


 ……



「……すげぇ」


 俺は只々、目の前の世界に感動する事しか出来なかった。足元には草原が広がり、草を踏みしめた感触が足に伝る。時折吹く風が草花の匂いと共に草を揺らす音を耳に届け、頬を撫でて行く。


 今居る場所は丘の上にある様で、遠く、広く、見渡す事が出来た。背後には大きな木が一本生え、今居る場所に穏やかに木陰を落としている。丘を下った先には木々が生え、傍には幾つかの建物が見える為、ここが小さな村の傍で有る事が伺えた、村の近くには小さな川も流れている様だ。


 更に視線を遠くに移せば、山々が今居る場所を中心としてこの場を囲う様に連なっていた。どうやらここは盆地にあるらしい。山々の向こう側はその全てが雲で満たされており、雲の白と空の青がどこまでも遠く見渡せた。だがそこには、今居る場所が仮想の世界なのだと思い出させる、幾つかの存在があった。


 一つは、雲海の上空を鯨に似た何かが、優雅に、ゆっくりと泳いでいる。それは、澄み渡った深い空を思わせる藍色をベースとして、白い模様が頭の先端から後ろの方へと流れる様に幾つも描かれている。その傍らには……、あれは鳥だろうか? 大きく羽ばたくその様はとても小さな物には思えず、そのシルエットは幾つもの物語やゲームに登場するワイバーンの様にも見えるのだが……。だとすれば、それがまるで小鳥の様に見えるあの鯨は一体どれ程の大きさになるというのか……。


 そして、その遥か向こうには巨大な雲の柱が聳え立っていた。先程の鯨でさえも存在を忘れる様なその巨大な柱は、ゆっくりと、ゆっくりと、雲海へと降り注いでいるらしい。こんな物が存在しているのなら、そりゃあ辺り一面雲で満たされもするだろう。その雲を更に上へと見上げれば、上空には何か透明な膜の様な物があり、その膜が集まっては雲となって流れ落ちている様だ。


 ……雲だ雲海だと思っていたが、もしかしたら違うのかもしれない。まぁ、それらはその内解るかもしれないから、今は考えても仕方がないだろう。


 遥か上空に存在する透明な膜、の()()()()()()()。そこには、逆さまに映るもう一つの世界が広がっていた。


 それは巨大な惑星の様で、今居るこの場所はあの星の衛星で有る事を思わせる程の大きさだ。見上げた惑星の中心部分は森になっている様で、その地表は青々とした木々で埋め尽くされており、それを囲う様に海の青が広がっていた、端の方には幾つかの大陸がぼんやりと姿を見せている。


「……すげぇなぁ」


 語彙力、無事死亡。

 俺はそのもう一つの世界を見上げながら、感慨に耽っていた。


 今居るこの場所は仮想世界(ゲーム)の世界だ。日本のSaber社が研究、開発した脳とコンピューターを繋ぐ夢のマシン、通称BCI(Brain-computer Interface)装置の完成によって、遂に人の意識を仮想世界へと投入する事に成功した。


 完全フルダイブ型、新作オンラインRPG

 『SEVEN'S WALKER』(通称SW)の世界だ。


 世界中のゲーマーが待ち望み、完成の知らせに歓喜したそのフルダイブ型ゲームは、初めての試みでも有る事からまずは日本での限定販売となった。初回生産数は一万台。当然、抽選販売となったそれには日本限定販売にも係わらず、世界中から応募が殺到したらしい。そうして幸運な1万人へ商品の発送が終わり、満を持して今年の10月にサービス開始となった。


 俺は初回生産分の抽選こそ逃してしまったものの、この度、見事に第二ロットの生産分である一万台分の抽選に当選する事が出来た。抽選の連絡が来た時ははしゃぎ過ぎて、お隣さんから祝いの壁ドンを頂いたりもしたが……。兎にも角にも、待ちに待った今日、全国の当選者に一斉発送されたそれが届いてすぐに諸々の設定を済ませ、無事、俺は今この世界に立っている。

 

 草を踏む感触も、風が運ぶ匂いも、草木の奏でる演奏も。見渡す限りの現実では在り得ない光景でさえも、その全てが現実としか思えない。だがしかし、ここは紛れもなくゲームの中なのだ。遂に仮想ゲーム現実リアルに追い付いた。それを今、如何しようも無く五感で感じ取っている現実が嬉しくて堪らない。


 俺は目を閉じ、深呼吸をして……、ゆっくりとこの世界を堪能していた。その時後ろの方から、草を踏み、誰かが近づいて来る音がする。今はこの世界を堪能する事に忙しいので軽くスルーしていたが、足音の主はすぐに笑いながら声を掛けてきた。


「ふふっ、随分とお気に召して頂けた様で、何よりです」


 声を掛けられては流石に無視する訳にもいかず、振り返るとそこにはとても楽しそうに微笑む、一人の少女が居た。


「めちゃめちゃお気に召しましたよ!」


 俺はややテンション高く、気軽に笑顔でそう返す。


 ……いや別に、俺は愛想が良い訳ではないんだ。

 ……単にワクワクし過ぎて、想いが溢れてしまっただけで。


 ちょっと恥ずかしい気もするが、やっちまったもんは仕方がない、気にしたら負けだ!


 少女には、どうやらその返答もお気に召して頂けた様で、軽く握った右手を口元に添え、楽しそうにクスクスと笑っていた。……そういうリアクションをされると、余計に恥ずかしいんだけどなぁ!


 その少女は年の頃は17.8歳位で、腰辺りまで伸びた癖の無い真っ直ぐな金髪と、優し気な瞳に碧眼を持つ、正に絵に描いた様な美少女だった。服装は質素な白のワンピースと、サンダルに麦わら帽子という『ちょっと散歩行って来る!』とでも言いそうな恰好だったが……。まぁ、似合っていない何て訳もなく、美人だからこそ質素な恰好が良く映えていた。


 彼女は笑いを止め、微笑みながらこちらに視線を向けると、淀みなく口を開く。


「とても楽しそうでしたので、いつお声掛けをしようかと迷ってしまいました。本日はSaber社のお送りする『SEVEN'S WALKER』をご利用頂き、誠に有難う御座います。私は皆様のサポートを担当させて頂きます、サポートAIのアイシャと申します。気軽にアイシャ、又はアイちゃん! 何て呼んで下さいね」


「ん゛んっ!う゛んっ!! ちょっとテンション上がっちゃってね……。まぁよろしくな、アイシャさん」


 ()()()楽しそうとか言うな、恥ずかしいだろ! 解ってて言ってそうな気がするから絶対ツッコまないけどなぁ! 俺は誤魔化す様に咳をし、一人密かに悶えていたがアイシャは気にせず話しを続ける。


「はい、こちらこそ宜しくお願いしますね。敬称は不要です、アイちゃんで構いませんよ?」


 アイシャは小首を傾げつつ、微笑みながらそうのたまった。

 ……敬称は要らないと言いつつ、ちゃん付けを要求するのか。

 結構押しが強いなこのAI、言わんぞ?


 (ちな)みに、SWではこの人工知能(AI)が多岐に渡って使用されている。ゲームの開発時点で既に多くの部分をAIが作成しており、特に人が五感で感じる部分の膨大な情報の殆どはAIが作っているらしい。またゲームプレイ時も魔法や技の制御や、NPC、果ては一部のイベントモンスターにも専用のAIが使われているとか何とか。


 人工知能(AI)によって既に人間と変わらずに見えるNPCは、果たしてNPCと呼ぶべきなのだろうか?


「お客様は今回初めてのログインとなりますので、これから当ゲーム内にて使用するキャラクターを作成して頂きます。まずはこちらをお受け取り下さい」


 アイシャはそう言うと、軽く右手をこちらに差し出す様な動きをする。すると右手から小さな光が飛び出し、それは俺の目の前まで来ると軽やかな音を立てて弾けた。弾けた光は直ぐ様集まると、それは一冊の古びた本へと姿を変える。


 それは落ちる事無く、ゆっくりと宙を漂っている。その本を取ろうと左手を差し出せば、本は独りでに動き出し、手に収まるとパラパラと捲れていく。それは丁度、半分程のページが捲れた所でピタリと動きを止めた。すると左のページから少し浮いた位置に、立った状態の人間のホログラムが描き出される。


 それはマネキンの様な、()(さら)な男性の姿だった。


「当『SEVEN'S WALKER』ではSaber社が開発に成功したBrain-Computer Interface、通称BCI技術を用いる事により、お客様の脳波を精査する事で情報のやり取りを行い、この仮想世界へのフルダイブを可能としております。またこの技術とAIを用いる事で、お客様への様々なサポートも行われます」


 アイシャの説明を聞き、俺は空いている右手を握ったり開いたりする。

 それは現実と変わらず違和感無く行われ、また少し、俺はワクワクしていた。


「このサポートの一環として、キャラメイクの補助も行われます。先程お渡しした本に表示されているアバターを見ながら、ご自身の姿をイメージして下さい」


 言われた通り、俺はマネキンの様な禿げ頭を見ながら自身の姿を思い出していると、アバターはゆっくりと回転を始める。それは少しずつ変化を始め、段々と俺の姿に似た形へと変わっていく。最後にポンッという軽やかな音と共に、禿げ頭から髪がバサッと飛び出す様に生え、変化を終わらせた。


 ……いや何だよその演出。人の見た目でちょっと面白くするのやめろぉ!


「……へ、へぇ。こんなあっさり自分のアバターが出来るのか」


 俺は演出に吹き出しそうになるのを抑えつつ、アバターを見遣る。時間としてはほんの数秒程度、そこには紛れもなく俺の分身が居た。少し美化されている気がしないでもないが……。


「でもこれって、もしかして俺の記憶を覗いてるのか? だとしたらちょっと……、いやかなり問題じゃないか? これ」


 そう問われる事は想定済みだったのか、アイシャは微笑みながら一つ頷き、答える。


「当技術を用いて、お客様の記憶領域へとアクセスする事は、法律で禁止されております。ですのでどうか御安心下さい。


 先程作成したアバターは、モデルを見ながらイメージして頂く事で、お客様のモデルに対する違和感をシステムが検知し、それを随時修正する事で、よりお客様のイメージに合った形へと変化する様プログラムされております。


 ですので、お客様の記憶から直接作成した訳では無く、飽く迄もお客様がイメージするご自身の姿となります。その為少々美化される事もあり、正確にお客様の姿という訳では有りません」


 その説明に俺は驚かされた。


 ゲームのアバターを作る際特別な技術や絵心の無い俺では、今までどんなに長い時間を掛けてアバターを作成し、会心の出来だ! と思っても、正面以外から見た時に妙に平坦だったり、逆に尖っていたりとバランスが崩れ、『何か違う』となる事が多かったのだ。


 それを修正しようとすれば別の場所が変になり、それを直そうとすればまたどこかが可笑しくなる……。まるで無間地獄に落ちた亡者が如く、終わりのない修正を繰り返しては結局どこかで妥協していた。


 それがこのSWでは、特別な技術や絵心も、膨大な時間を掛ける必要もなく。システムがプレイヤーの感じた『何か違う』を感じ取り、自動で修正してアバターを作成する。きっとアバターがくるくる回っているのにも意味が有り、色々な角度から見せる事でどの角度から見ても完璧に仕上がる様になっているのだろう。そうして出来上がったアバターは、どこから見ても違和感が無く完璧で、プレイヤーは理想のキャラクターでゲームをプレイする事が出来る。


 ……そんなの、滅茶苦茶楽しいじゃん!

 今まで妥協して来た色々なアバターが完璧に作りまくれるぜ! ひゃっほぃ!


 ……いや待て、一旦落ち着こう。やはりあの姿は美化されており俺はあんなにイケメンでは、って違うそうじゃない。


 アイシャは記憶領域へのアクセスは禁止されている、と言っていた。

 それはつまり、やろうと思えば出来るという事で……。


 そこで俺はアイシャの方をちらりと見遣る。

 彼女はそれに気付き、楽しそうに微笑んでいた。

 ……胡散臭ぇ。


 その時、ふわりと風が通り抜けていく。

 俺はそれを追う様に視線を変え、遠くを眺めた。

 そこには巨大な雲の柱が、この世界を支える様に泰然と聳え立っていて……。


 (――考えるまでも無いか。)


 俺はもう、この世界に降り立った時から、この世界に魅了されているのだから。今更、何かリスクが有った所で辞められる訳が無い。それにもし! 記憶を見れるんだったのなら、この世界に入った時点で既に手遅れだろうしな!


 俺は半ば諦めの気持ちと共に、アイシャへと視線を戻す。


「まぁ、精々この世界を楽しむとするよ! アイシャ!」


 その答えを聞いて、彼女はとても穏やかな表情で微笑んでいた。


「アイちゃんで構いませんよ?」


 彼女は楽しそうにそう答える。

 ……ぜってぇ言わねぇからなぁ!


 この時、俺は既に敗北する予感を犇々(ひしひし)と感じていた。

前書きから冒頭に繋げて読むとちょっと意味が違って見えておもろい。



……おもろく無い?



……そっかぁ(・ω・`)

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