クラスのギャルに嘘告白されたのでウケ狙いでOKしたらなぜか付き合うことになった件
「オタクくんさあ、ウチと付き合わない? ウチ、結構アンタのこといいって思ってたんだよね~」
校舎裏に呼び出された俺は、クラスのギャルから嘘告白を受けていた。
なぜ最初から嘘だと断定したか?
そんなのは決まってる。
俺がこのギャルこと、城ヶ崎陽子に惚れられる理由など、何一つないからだ。
中肉中背。顔は自称中の下。趣味はアニメと漫画。要はオタク。
だが、これでも勉強はできる。
偏差値五十ちょいの平凡な高校だが、定期テストは常に学年トップクラス、具体的には学年二位をキープしている。
なぜなら、誰かに負けるのが嫌だから。
だが、俺は協調性がない。コミュ力がない。
見た目にも気を使わない。ワックスなんて触ったこともない。
そんなだから、当然彼女いない歴=年齢。
生まれてこの方、俺に好きと言ってくれた異性なんて、姪っ子のアヤちゃん(2歳)くらいなものだ。
ちなみに『オタクくん』というのは本名の大田國光のもじり。
見た目がオタクっぽいからという由来ではないと信じたい。
対して城ヶ崎のスペックは極めて高い。
学年有数の美人で、俺の独断と偏見に基づくクラスカーストは堂々の一位。
故に、あらゆる振る舞いが「城ヶ崎だから」という理由で許される。
陰キャをいじろうが、ネタにしようが、ピエロ扱いしようが、誰も彼女を咎めない。
そして何より許せないのが、俺よりも勉強ができる。
いかにもなギャルのくせに、常に定期テストは学年一位なのだ。
何故だ!? 毎日家に帰ったら机にかじりついてる俺より、何故この友だちとスイーツの食べ歩きとかしてそうなギャルのほうが頭がいいんだ!?
見た目でも勉強でもコミュ力でも負けていたら、それは人間として負けているってことじゃないか!
あああ許せん! そんなのは認められない!
勝たなくては! 何か一つでも、俺はこいつに勝利しなくてはならない!
じゃないと、俺はこの先生きていく価値すら見出だせない!
故に、こいつが俺に告ってくるってことは、それは嘘告白で俺を笑い者にするため以外にありえない!
Q.E.D。証明終了。
「ねー、どうなの? オタクくんはさあ、ウチのことどう思ってんの?」
城ヶ崎がニシャニシャといたずらっぽい笑みを浮かべる。
さて、どう答えたものか。
きっと、どこかでこの告白風景は録画されていて、後にSNSで拡散されるに違いない。
そうでないとしても、陽キャの仲間内で晒し者にされるのは避けられないだろう。
ターゲットにされた時点で、ダメージを負うことは必至。
考えてみれば、もはやテロに等しい凶悪な行為だ。
そんな残虐非道な行いを働く女に、一杯食わせてやりたいという思いはないではない。
たとえば、
『お前なんか何とも思ってねえよブスがっ!』
とでも吐き捨ててやるとか。
しかし、ここでつまらない復讐心を満たしたところで、特に利点はない。
むしろ、今後の高校生活に大きな支障をきたすのは確実。
陽キャは傲慢だ。
ナチュラルに人間に順位をつけている。
自分より『下』の奴は、どういじってもいいと思っている。
その結果、いじられた奴がどんな感情を抱くかなんて、想像すらしたこともないだろう。
くっそおおおまたムカついてきたあああ!
俺は今、こいつに負けている! 見下されている!
このままでいいのか!? このまま侮辱されていていいのか!?
「ねえ、どしたの? 照れんなって。ほら、正直に言ってみ? ウチのことどう思ってんのか」
くっ……! なんて汚い女だ。あくまで俺から告白の言葉を引きずり出そうというハラか。
ならば、いいだろう。乗ってやる!
存分に笑え、陽キャども! これが陰キャの戦い方だ!
「正直――めちゃくちゃ可愛いと思ってるっ!」
「へええっ!?」
ふっ、勝った! 精神的に勝利した!
明らかに城ヶ崎は意表を突かれた様子で、目をまんまるにしている。
まさしく乾坤一擲。一寸の虫にも五分の魂だ!
見たか、クソビッチめ!
不意打ちが決まってハイになった俺は、その勢いで土下座した。
「俺も、ずっと前からあなたのことが好きでした、付き合ってください!」
決まった……完全な道化っぷりだ。
陽キャからの嘘告白を本気にした陰キャが、テンパった挙げ句にとんでもない奇行をかます。
これは万バズものの爆笑ネタだろう。さぞかし俺は陽キャたちの笑いものになるに違いない。
だが、そう思っているのは陽キャだけだ。
俺はお前らを笑わせたんだ。笑われたんじゃない!
俺が、俺の意思でお前らを楽しませてやったんだ!
相手の手のひらの上で踊ってるのは俺じゃない、お前らなんだからな!
勝利したのは、この俺だあああ――!
「返事は明日でもいいです! じゃあ、さよなら!」
城ヶ崎がリアクションをする前に、俺はダッシュでその場を後にした。
幸い、校門を出るまで、クラスメイトたちと遭遇することはなく、俺は無事家までたどり着くことができた。
陽キャ相手に勝利を収めた爽快感を味わいながら、俺は夕食をとり、ぐっすりと眠りについた。
◆
「あの、母さん。今日腹痛いから学校休みたいんだけど」
「トイレ行った?」
「いや、そういうんじゃないから。それになんか、熱もあるし、ほら」
「ないじゃない。ほら、お母さんもうパート行くから、アンタも支度しなさい」
「頼む母さん! マジで腹痛いし熱もあるし、ほら手も震えてるでしょ!? 俺、今日学校行ったら死ぬよ! 本当に!」
「はいはい。アンタ仮病使うときいっつもそれじゃない。どうせまたろくでもないことやらかしたんでしょ」
「違うんだって! 母さん、俺が死んでもいいの!?」
「それでバカが治るならいくらでも死ねばいいわ」
「ひどいっ!」
非情な母さんは、俺に家の鍵を託して、さっさと玄関を出ていった。
息子の心の悲鳴に耳を傾けないなんて、あの人は本当に俺の母親なんだろうか。
今度、戸籍を取り寄せてみようと思う。
「はあ……久々にやってしまったなあ……」
学校までの道のりを、俺はトボトボと歩いていた。
勝ち負けが絡むと俺はいつもこうだ。
自分でも訳が分からないほどの衝動に支配され、相手に勝つことだけが行動原理の全てになってしまう。
中学時代は、それでいつも色々な意味で痛い思いをしていたから、勉強だけなら確実にトップに入れる、この市立高校に進学した。
勉強だけでも勝っていると思えば、冷静になれる。
どんないじられ方をしようが『でも俺、こいつより頭いいし』と考えれば、精神的に勝利できる。
だが、城ヶ崎陽子だけは別だ。
俺はあいつに全てにおいて負けている。
それがどうしても辛抱ならなくて、一年の頃はなるべく視界に入れないように過ごしてきた。
しかし、二年になってからは同じクラスになったせいで、否応なしに視界に入れざるを得なくなった。
否、俺があいつの視界に入ってしまったのだ。
常にテストで自分の足元に食らいついてくる、ザ・ガリ勉オタクの陰キャが同じクラスにいたら、バカにしたくなっても仕方ないだろう。
二年生に進級したその日から、俺の地獄は始まった。
毎日毎日、大した用もないのに絡んできては、揚げ足を取って笑いものにしてくる。
俺にオタクくんというあだ名をつけたのも城ヶ崎だ。
今ではクラスメイトどころか、担任の先生すら俺をこのあだ名で呼んでいる始末。
そんな現状を変えたくて、つい昨日は無駄に一念発起してしまったのだ。
溜まっていた鬱憤がついに爆発して、城ヶ崎に勝利したいという思いが、理性を超えてしまったのだ。
……そして、俺の日常は終わった。
今日からは、さらなる凶悪なイジりが俺を待っていることだろう。
あと一年半以上、俺はこの責め苦に耐え続けなくてはならないのか……。
はあ、憂鬱だ。死にたい。
そんなネガティブ思考に没頭していると、いつの間にか教室の前までやって来ていた。
始業時間ギリギリなので、すでに教室内にはクラスメイトがほぼ勢ぞろいしている。
うう、入りたくないなあ……でも遅刻はしたくない……。
ええい、ままよ!
俺は勇気を振り絞って教室に飛び込んだ。
『よっ、彼氏クン登場~~~~~!!』
『やるねえオタクくぅ~~ん!』
『昨日の動画、もう再生数五十万超えとか、ヤバすぎんだろ~~~!』
『お前アカウント作れや! 絶対インフルエンサーなれるって~~~!』
ぐわあああ! 尊厳が! 俺の尊厳がもてあそばれている!
「あ、あはは……あれはちょっと、俺もビビったっていうかなんていうか」
適当な言い訳をしながら、俺は陽キャたちからの精神攻撃に耐える。
こらえろ! こらえるんだ!
俺はこいつらより頭がいい! 偏差値が高い! だから負けてない、負けてないんだあああ!
「……ちょっと、オタク。面貸して」
ここでついに真打ち・城ヶ崎の登場。
とっさに身構える俺に、城ヶ崎は人混みをかき分けながら、ずんずんと迫ってくる。
『ヘーイ、ヨーコちゃーん! もう彼氏とはキスしたん~~?』
『付き合ってあげなよ、あんなに大声で告られちゃったんだからさ~~』
「うっさい、死ね!」
『うっひょ~~修羅場~~』
いつもはイジる側の城ヶ崎が、なんとイジられる側に回っている。
一瞬、嗜虐的な愉悦を得た俺だったが、城ヶ崎の目を見た瞬間、背筋が凍りついた。
ヤバい。こいつ、マジでキレてる。
ああ、俺今日、死ぬんだ……。
「あ、あ、で、でも、これから、ショートホームルーム……」
「パス。よっちんだから余裕」
ちなみによっちんとは、新卒二年目のうちの担任のことである。
この扱いからも分かる通り、死ぬほど生徒から舐められている。
(母さん。さよなら……親不孝でごめん……)
俺はグワシと城ヶ崎に首根っこを捕まれ、ズルズルと引きずられていった。
◆
「本当にごめんなさい」
引きずられていった先は、屋上へ続く階段の踊り場だった。
ホコリっぽい床に這いつくばり、俺は最速の土下座をぶちかます。
だが、この程度で城ヶ崎大明神の怒りは収まらないようだった。
「オタクさあ……ほんとありえない。マジでない。光の粒になって消えてほしい」
「ごめん……」
それは無理。
城ヶ崎は茶髪の頭をガリガリと掻きむしった。
「アンタがミョーなこと言ったせいでさあ~~なんかウチまで変な声出ちゃったじゃん? それでマジ昨日からバチボコにイジられてんの皆に。分かる?」
「で、でも、お前だって普段俺のことイジってるし、おあいこだろ……」
「ぜんっぜん違うから! アンタはイジられキャラだからいいかもしんないけどさあ~~ウチは違うわけ! ウチはもっとこう……君臨してなきゃいけないの! 女王様じゃないとダメなの!」
「……君臨ならしてるだろ。テストで」
「こんなバカ高校でてっぺんとったって何の意味もないでしょ。高校なんかある程度のレベルならどこでもいいし。ウチ、近いからここ選んだだけだし」
こ、この女~~! 俺が目ん玉血走らせて目指してる玉座が無価値だと!?
許せねえ、また俺は侮辱された! 尊厳を傷つけられた!
勝たないと! 俺はこの女に勝たないといけない!
「もうホントムカつく。全部アンタのせいだからね! どうしてくれんのマジで。責任とってくんない?」
「分かった。責任とって俺がお前と付き合ってやる」
「ふぇええっ!?」
っしゃ勝ったあああ! またこいつ変な声出したぞおおお!
城ヶ崎が顔を真っ赤にして食って掛かってくる。
「は、はあ!? 意味わかんない! ガチでキモい! 何でアンタごときがウチと付き合うのが責任とることになるわけ!?」
「ビビってんのか?」
「は?」
「お前が言い出したことだろ、そもそも。自分から告白しておいて、いざオーケーされたら尻込みするとか、完全にビビってんだろ。俺に敗北したってことだろ、なあ!? そうだよなあ、負けてるよなあ、お前は俺になあ!?」
「は、はあああ~~~!? 負けてないし! ぜんっぜん一ミリもアンタなんかに負けてないから! 実際、アンタ一回もウチにテスト勝ててないじゃん!」
「だが、今俺はお前に勝った! お前は自分の言ったことを曲げた! 口論に負けた! つまり、敗北者はお前の方だ! 女王様が聞いて呆れるぜえ!」
「負けてない負けてない負けてない! ウチがアンタなんかに負けるわけない!」
ふはははは! 気持ちがいいぜ、負け犬の遠吠えはよお!
高級ヘッドホンで聞くハイレゾ音源のように心地よく鼓膜に響くぜ~~!!
「む~~~~!」
気がつけば、城ヶ崎は目尻に涙を浮かべ、プルプルと震えていた。
……はっ、何してんだ俺は。
またか? またやっちまったのか?
ぬわあああ最悪だあああ!
嘘告白に乗っかるだけならまだしも、真っ向から城ヶ崎を煽り散らして、あまつさえ勝利宣言までかましちまうなんて、痛々しいにも程がある!
何やってんだ國光ううう!!
パニック状態に陥った俺は、そそくさとその場を後にしようとした。
「じゃ、じゃあそういうことで」
「待ちな」
スケバンみたいな口調で、城ヶ崎は俺の襟元を掴んだ。
「どうやら、アンタもウチと『同じ』みたいね」
「お、同じ? どこが?」
城ヶ崎は飢えた肉食獣のような目つきで吠えた。
「従いたくないの。負けたくないの。下につきたくないの! アンタに見下されたって事実が許せないの!」
「そ、それにつきましては、謹んで謝罪申し上げます……あなた様は私めよりも格上でございます……」
「口先だけの敗北宣言なんていらない。ウチ、決めたから。アンタの存在そのものを、魂まで完全に敗北させてやるって……!」
「お、おおお俺に何しろってんだよおお――!」
吊らされるのか!? 沈められるのか!? 刻まれるのか!?
本気で怒ったこいつ、マジで怖い!
「一度口にしたことを曲げたら口論では負け。なら、ウチは曲げない。アンタと付き合って、完璧に落としきって、死ぬまでウチ以外を好きになれない身体にしてやる!」
「はあ!?」
な、何言ってんだこいつは!
そんな理由で、本気で俺と付き合うつもりなのか!?
冷静になれ!
そう城ヶ崎に言ってやろうとして、
「そうすれば、アンタはウチに勝てなくなる! アンタはウチにとって、永遠の敗北者になるのよ!」
「ハア……ハア……敗北者……? この俺が……?」
再び怒りが再燃し、俺は売り言葉に買い言葉で叫んだ。
「やってやろうじゃねえか! 吐いたツバ、二度と飲むんじゃねえぞ!」
「上等! こちとら命がけで君臨してんのよ、アンタとは覚悟が違うんだから!」
「負けられねえのは俺も同じだ! こうなりゃ俺だってお前を負かしてやる! テストでも恋愛でも、完膚なきまでに敗北させてやっからなああああ!」
「できるもんならやってみなさいよ、このバカオタク!!!!」
怒鳴るだけ怒鳴ると、城ヶ崎は俺を突き飛ばして走り去っていった。
取り残された俺は、呼吸を整えるために、何度か深呼吸をした。
……あれ、どうしてこうなった?
◆
ふふ……ちょっと、よ、予想外の展開になったけど、いちおう目的は達成できそうね。
だいたい、ずっと前から気に入らなかったのよ、あのオタク。
ウチみたいな完璧美少女は、学年の全男子に惚れられるくらい当然のことのはずなのに。
なぜかあのオタクだけは、ちっともウチになびかなかった。
何回ちょっかいをかけても、そのたびに不機嫌そうにするだけで、まったく嬉しそうにしなかった!
せっかくあだ名までつけてやったのに! ウチ自ら積極的に浸透させて、クラス内に認知させたのに!
おかしくない? こんなに可愛くて、おまけに頭までよくて、しかもコミュ強の陽キャなのによ? 惚れられる要素全力全開よ?
そんなの許せない! ありえない!
ウチは森羅万象全てに愛されて、あまねく宇宙に君臨していないといけないのに!
君臨するべくして生まれたウチを、愛し敬わない生物がいるという事実が、私のプライドを傷つける!
これはもう、生まれつきね。本能が許容できないの。
でも、これであのオタクもイチコロに決まってるわ。
童貞臭さが全身からムンムンしてるあいつなら、この私がちょいと本気を出すだけでコロッとドングリみたいに転がるに決まってるわ!
見てなさい、アンタのことなんか別に、ぜんっぜん好きじゃないけど、メロメロの骨抜きにしてやるんだから!
……で、でも、いきなりあいつ、ドキッとするようなこと、ストレートに言ってくるから、それだけは要注意ね!
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【連載版】ギャルに嘘告白されたのでウケ狙いでOKしたらなぜか付き合うことになった件
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