主人公から負けヒロインをお裾分けして貰おう!If
前作が400人以上に読んで貰えていたみたいなので、Ifルートです。もし、御都合 京絵がやり過ぎで父に怒られて自重期間で、もし、成上君がもっと主人公してて、もし、雪雨さんがもっとチョロかったらの世界線です。
僕の名前は、榊間 慎吾。ぱっとしない高校生だ。唯一特徴があるとすれば、今、他人の告白現場を窓から覗いてニヤニヤしている、御都合 天華こいつの友人だということだ。
突然だが、ありとあらゆる主人公には、主人公補正やら御都合主義補正やらがついているそうだ。その補正効果によって、あの様な主人公ムーヴができていんだとか。
だが、それら補正というのは往々にして1~5%程度のもの。そのくらいがちょうど良いかららしい。
逆に、それ以上の場合、補正が効きすぎて面白くなくなるんだそうだ。
因みに、補正15%辺りだと、周囲の人が勝手にフラグを建て始め、隕石でも降ってこねぇかなぁと窓の外を眺めれば隕石が降り、止めるために魔法少女になりたいと思えば魔法少女になるらしい。男だろうと。
そういうストーリーならばいいのだろうけど、ただのラブコメやバトル漫画でそんなことになったらたまったもんじゃない。
で、なんでこんな話をしたかって?あの友人の名前を聞けば分かるだろう。御都合 天華、この世で二番目に主人公補正が高い男だ。
主人公補正率88.8%、御都合主義補正率95.8%、ライバル補正率67%等々、高過ぎるせいで普段は抑えているらしい。一瞬でも使うとハーレムになるから。
因みに、一番は弟の御都合 秀義君だそうだ。補正率は100%。名前からして勝てる気がしない。
さて、友人の紹介はもう良いだろう。話を戻して、天華の奴がなんで覗いているか何だが、、、どうも告白する男が主人公らしく、ここで俗に言う負けヒロインが出現するからだそうだ。因みに負けヒロインは天華の隣で一緒に覗いている雪雨 冬佳さんだろう。
とても不安そうに良い感じの二人に見入っている。
黒髪ロングのつり目。冷徹そうな印象と共に、どこか高嶺の花を思わせる顔立ち。すらっとした美脚に、透き通るように白い肌、指の先まで美しさの塊のようだ。普段からあまり笑わず、いつも殆ど顔に出さない彼女だけど、笑った姿はまるで雪解けのようだ。
天華曰く僕でも落とせるらしいけど、落とせたとて、僕では釣り合わないとしか思えない。
でも、、、そう思い窓の外を見る。中庭にたつ、茶髪の男子、成上 皇正君。成績優秀スポーツ万能。勿論イケメン。嫌みに成る程の鈍感野郎。典型的な主人公だ。
「やろうとすれば寝取れるだろうけど、姉に殺されるからNTRは絶対にしない」
天華に言わせればその程度の主人公なんだけど、それでも僕みたいなのからすれば天の上の人、それが成上君だ。
その成上君に告白されそうになっているのが転校生の桃井 愛莉さん。
ピンク色のツインテールに天真爛漫な笑顔。自由奔放な言動、強いていうなら雪雨さんとは真逆のタイプだろう。加えて成上君の小学生の頃に引っ越した幼馴染みだそうだ。
圧倒的な要素、言うなれば勝ちヒロインだろう。
そんな二人なんだか、見つめあってかれこれ5分は経ってる。もじもじもじもじと鬱陶しい限りだ。
おそらくもう数分くらいはもじもじしているのだろう。
せっかくだし、僕がなんで今こんなことになっているかを話そう。
きっかけは数ヶ月前、高校二年生になった僕は、天天華に彼女が欲しいと言った。特に理由があった訳じゃない。高校生男子の会話なんてそんなものだろう。
そしたら数ヶ月後の現在、突然天華に呼び出さた。そして、ここに連れてこられ、
「良かったな、慎吾。彼女ができるぞ!あ、ついでに焼き肉奢れ」
笑顔で言った天華にヘッドロックを仕掛けた僕は間違っていないと思う。
何故に突然呼び出された上で焼き肉まで奢らなきゃならないんだ。
お、いつの間にか成上君が覚悟を決めたようだ。真剣な眼差しで桃井さんを見つめている。
その姿を見て、雪雨さんが表情を曇らせる。
「愛莉、俺は今まで自分の気持ちに気付けていなかった。でも、やっとわかったんだ。愛莉がいないと俺、ダメなんだって。だから、愛莉、俺と付き合ってくれ!」
「皇正君、、、」
桃井さんが成上君をうるうるとした瞳で見つめている。勿論成上君もだ。
「愛莉、、、」
どちらかともなく二人の唇が近づいていき、、、二人の唇が重なった。
紅くなった頬。潤んだ瞳。うっとりとした表情。それらの全てが二人が相思相愛だということを物語っている。
そして、それは一人の少女の恋が実らなかったことの表れでもあった。
ふわり、とでも表現しようか。見れば、軽い音と共に雪雨さんが床に崩れ落ちていた。
雪雨さんの茫然自失といった表情。光を映さない瞳。力ないその姿は、中庭でいちゃつく二人とは対照的で、ひどく弱々しいものだった。
「大丈夫?」
気がつけば、僕は雪雨さんに声をかけ、ハンカチを渡していた。
僕にそんなことをする権利はあるのだろうか?そんなものはない。友人に誘われて、他人の告白をネタにし、彼女を作ろうとするような人間には。
でも、僕はには耐えられなかった。雪雨さんが、自分の好きな人が悲しむ姿を見ることが。
「榊間くん、、、」
まるでなにかを求めるような雪雨さんの声に、僕はなにを返せばいいのか、わからなかった。
「僕が君の寂しさを埋めるよ」的なことを言えばいいのか?どうすれば彼女を慰められるのか?気の効いたセリフなんて思い付かない。そもそも僕が彼女に何か言う資格なんてあるのか?そんな思いが心に渦巻く。
「有り難う。ハンカチ、洗って返すね」
雪雨さんは、ハンカチで涙を拭うと、無理したとわかるひきつった笑みを浮かべ、足早にその場から去って行った。
去っていってしまった。僕が何も答えられていないまま。
「すまなかった。焼き肉は今度でいい」
天華は申し訳なさそうな、何かを考えている表情で去って行った。
あんな表情をしていたということは、この状況はあいつの想定外だったのだろうか?だとしたら予想外の状況で焼き肉をせびるあいつはさすがだと思う。
翌日、僕と雪雨さんは付き合うことになった。ハンカチを返すのと同時に告白され、そのまますんなりと。
それからの僕たちは、交際を通し、段々と仲を深めていった。
遊園地、水族館、動物園、プール、夏祭り。カップルで楽しめるような場所には全て行った。
改めて、僕から雪雨さんに告白もした。あいにく、僕たちの住む町には町を見渡せる、夕焼けが綺麗な丘なんてのはなくて、そんなロマンチックなものではなかったけれど。
キスもして、二人して笑い合って、そんな幸せな時間を過ごしていた。凡人ながらに睦まじいカップルになれるよう、色々と努力していた。
でも、僕は主人公ではなくて、雪雨さんはヒロインだった。
10月に、うちの高校では文化祭が行われる。その行事として、生徒が中庭で学校への不満やら愛の告白やらと、色々と叫ぶものがあった。そこに、成上君も参加した。僕と、雪雨さんのクラスの出し物のシフトが合わないことを良いことに、雪雨さんと文化祭を回り、雪雨さんの好感度をあげた。そして、イベントでおもいっきりの大声で雪雨さんへの告白を叫んだんだ。
成上君は、夏休みの時点で、桃井さんとは別れていたらしい。そして、雪雨さんとは、夏休みの頃から少しずつ会っていたらしい。
らしいというのは後から聞いた事だったからだ。イベントでの雪雨さんの返事はOK。僕はふられた。
文化祭の後に、雪雨さんに泣きながら謝罪され、事情を説明された。
曰く、成上君の事が忘れられなかっただとか、僕との日々は楽しかったけれど、どこか物足りなかったとか。
悲しかったなんてものじゃなかった。心に、ぽっかりと穴が空いたような気分だった。
気が付いたら家にいて、気が付いたら朝が来ていて、気が付いたら日が暮れて。そんな日々を過ごした。
途中、天華が何か申し訳なさそうに伝えて来たけれど、何も頭に入って来なかった。大方あいつの補正を使って関係を直してくれるとかだったんだろうけど、そんなことはして欲しくなかった。
成上君の桃井さんへの告白の時、あの時の天華の様子からして、恐らく補正での操作はしていなかったのだろう。いや、天華のことだ。多分、偶然ああなったのだと思う。
その結果を補正で歪めるのは、間違っている気がする。やっても虚しいだけだろうし、そんなことで心は満たされないから。
文化祭終了から一週間後、義妹ができた。従妹の佐藤 叶ちゃんの両親が事故で亡くなり、うちの両親が引き取ったから。
立ち直るまでに一週間くらい慰めていたけど、何故か叶ちゃんからの視線が熱い気がするのは気のせいだと思う。
生き別れの妹が帰ってきた。僕が10歳の頃、当時6歳で、旅行先で迷子になり、行方不明になっていた妹の榊間 乃々が。
家族愛が何とかと言いながらやたらベタベタとくっついて来るが気にしない。
疎遠になっていた幼馴染みの小田切 穂乃果から急にL1NEが来た。何でも、ふられたことを聞き付けたらしい。やたらと心配してくれて、長い文章だけれど、幼馴染みだからだと思う。
登校中、その日は雨で、電車から降りた後、傘を差しながら歩いていた。そしたら道角でパンを咥えた、遅刻しそうな少女とぶつかった。転校生の加納 愛理さんだった。なんだか一昔前の少女漫画の始まりにありそうな展開だけれど、傘で見にくかったからぶつかっただけだと自分を誤魔化した。
ハンカチの落とし物を届けに行ったら、生徒会長の有末 万里菜さんのものだった。生徒会の仕事を手伝わされるようになった。仕事の疲れで現状を誤魔化した。
生徒会の仕事の帰り、たまたま剣道部の前を通りかかった。剣道部元部長の百鬼 沙絵先輩がたまたま腕ならしに竹刀を降っていた後で、たまたま着替え途中で、それをたまたま僕が見てしまった。何かフラグがたった気がしたけれど、気にしないことに、、、出来なかった。さすがにこれは偶然じゃない。これが偶然で起きるのは天華か主人公の成上君かのどちらかだろう。
天華に電話をかけ、若干切れながら事情を話した。
きょとんとした声で前に説明したと言われた。そして思い出した。僕が呆然としていたときに言われた天華の言葉を。
どうやら僕は、ざまぁ系主人公になったらしい。
思った結末と何かが違う感じになりましたが楽しんで頂けたら幸いです。