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第5話、豪商の娘とお金

リュウキは部屋に入って暖炉に火を付ける。

「暖かくなるまで少し時間がかかるが辛抱してくれ・・・ってどうしたさっさと服を脱いでこっちに来いよ」

お嬢様は部屋に入ったところから動かないで立ったままいる。

「・・・ッ」

何か言おうとしたがやめて服を脱いで下着姿で部屋の奥に入って来た。

「あ、あの!!」

「どうした?」

「この髪飾りは銀貨6枚で買った物です!宿代としては十分な価値があります」

「ははっ、何を言ってるんだ。その髪飾りは二束三文の価値しかない」

「そんなッ私は騙されていたのですか・・・」

「そんな事より脱いだ服を暖炉の前に干して暖炉の前に来い」

お嬢様の頭の上に毛布を乱暴にかける。

「お嬢さんは騙されたとも言えるし、そうでないとも言える。ランディはその髪飾りに話術で付加価値をつけたんだよ。買った時は嬉しかっただろ?幸せな気持ちも一緒に買ったんだよ。ランディの奴も嬉しかったと思う」

「お金をぼったくれたから?」

「それは否定しない。でもあんたはそれを信じ込んで髪飾りを大切にしようとしだろう?自分の商品が大切にされるのは嬉しく思う。特にあいつはそんな奴だ。恨まないでやってくれ」

「・・・私は名の通った商人の娘です」

「へぇ、貴族の娘かと思ったが商人の娘だったのか」

「お礼は必ずします。だから・・その・・」

「ああ、そうか。私が手を出すとまだ思っているのか?」

「商人は必ず代価を求めるものだと教わってきました。だけどその・・今の私に支払えるものはこの身体しか・・」

「なるほど。商人が見返りを求めるのは間違ってはない。お嬢様の名前は?」

「ミリア」

「いい名前だ。ミリア、少し話をしようか。商人の目的はなんだと思う?」

「???お金を稼ぐ事?」

「ああ、そうだな。じゃあいくら稼げば目的を達成した事になる?」

「不自由なく生活出来るだけ?」

「それも1つの目的だね。じゃあミリアの両親はきっと商人として成功したお金持ちだろう。おそらく一生不自由なく生活できるんじゃないかな?それなのにどうしてまだ商売を続けているの?」

「・・・分からないわ」

「私はこう思うんだ。社会に貢献している。つまり人の役に立っている事を証明する為に商人を続けているんじゃないかって。人は人との関わりを断てない。人に貢献して認められる事が幸せなんじゃないかと思う」

「クスっ」

「今、お人好しだと馬鹿にしただろ!」

「違うわよ。少しおかしくって・・」

「でも凍死したミリアの顔でもなく、娼館に売られて悲壮な顔をしているミリアでもなく、今の笑ったミリアの顔を見るのは嬉しい。それは私が人の役に立ったという証、それは自分の価値に実感を持てる瞬間であり、幸せだと思う」

「変わった人ね。あなたの名前を教えてくれる?」

「リュウキだ」

「じゃあリュウキ、今度は少し私の話を聞いてくれないかしら。私がどうして家に帰れないのかを」


★★★


私はこのアデールの街の豪商の娘として産まれた。

生まれてから両親の愛情を溢れんばかりに受けて育った。ただ、小さな花の芽に大量の水をあげても育たないようにその娘も真っ直ぐには育たなかった。

欲しい物はなんでもねだって買って貰い、不自由なく育った。

でも物心つく頃には何を買って貰っても心が満たされなくなった。買った時は嬉しいけどすぐに心が乾いていくのを感じた。そしてどんどんお金を使うようになった。

そしてついに無駄遣いを理由に両親に屋敷から追い出された。

お父様は最後にこう言った。

「家の外で社会を勉強しなさい。お金の意味が分かるようになる。これはミリアの為なのだ。このままではお前は駄目になる。私も心が痛い。だが、わかってくれ」

そしていくらかのお金を渡されて家を追い出された。

私はお金について考えた。その時、幼少期にお父様の言った言葉をふと思い出した。

「いいかミリア。お金は稼ぐのを目的にしてはいけない。意味なく集められたお金は死んでいるのと同じなんだ」

「お金が死ぬの?」

「ああ、そうだよ。お金も私達と同じで生きているんだよ。」

「じゃあ喜んだり、悲しんだり、怒ったりする?」

「そうかもしれないね」

「わかんなーい」

「そうか、ミリアにはまだ難しかったかもしれないな。はははっ」

そして生きたお金の使い方について考えた。

お金は使われてこそ生きる。

だけど今まで私の使ったお金は生きていたのだろうか?

お金を本当に必要とする者に使えばそのお金は生きたお金の使われ方をするのではないか?

そして出した結論は貧乏人にお金を使う事だった。

怖いけどスラム街に行き、人を雇った。そして買い物もした。だが、その結果が今に至る。


★★★


「という事よ。リュウキはどう思う?」

「生きたお金の使い方かぁ。答えは出ない。それは商人が一生をかけて考え抜く事かもね」

「そんなの困るわ、一生家に帰れないじゃない!」

「例えば、だ。喉が乾いて水を買う。俺にとっては有意義で絶対必要不可欠なお金の使い方になる。これを生きたお金は使い方とする。ただ、喉が満たされたなら次に水を買っても生きたお金の使い方にはならない。次は何にお金を使えばいいか考えなければならない」

「ずっと考え続けなければならないという事?」

「そうだな。多分、ミリアのお父さんは有意義なお金の使い方を考えろと言いたかったんだと思う。考える事がある種の正解だと思う。そしてそれはミリア自身にしか答えを出せない」

「私にしか出せない答え・・・」

「もう今日はいいだろう。俺は床で寝るからベッドで休め」

「いいの?」

「こう見えても商人だけじゃなくて冒険者もやっているんだ。星空を眺めながら地面で寝る事もある」

「・・優しいんだね」

「なんか言ったか?」

「ううん、何でもない」

ここのベッドは固かった。天井を見上げながらしばらくお金の使い方を考えていたがいつの間にか寝てしまっていた。朝になって物音が聞こえた。まどろみの中で誰か動いている事に気付いた。

バタン。

ドアが閉まる音が聞こえて徐々に頭が冴えてくる。

「あいつ、本当に手を出さなかったんだ・・・あ、部屋の鍵どうするつもりなのかしら」

慌てて服を着替えてリュウキの後を追って部屋の外に出た。



★★★



朝になって床で寝ている事に気付いて昨日の出来事を思い出した。

立ち上がってベットを見るとスヤスヤと気持ちよさそうに寝ているミリア。

あんな事もあったし、昨日は夜遅くまで話をした。起こすのも悪い気がしてそっと部屋を出た。

階段を降りているとギルドの方がなにやら騒がしい。

荒くれ者の冒険者が騒ぐのは珍しくはないのだが、声の幼さに違和感を感じた。

気になって見ると子供が受付でセラスとなにやら言い合っていた。

「どうしたんだ?」

困り果てているセラスがリュウキに気付いた。

「いえ、その・・」

「お願いします。どうかお父さんを助けて下さい」

セラスが何かを言おうとしたが子供が切羽詰まった様子でまくし立てる。

「申し訳ないのですが依頼にはお金が必要で・・・」

ギルドは慈善事業ではない。依頼するのには当然お金が必要となる。子供の格好を見る限りお金を持っているようには見えない。

「お金ならある!家の中を探し回って集めたんだ!」

子供が手を出すとそこには銅貨が数枚ある。

あからさまに依頼をするには足りない。ギルドのシステムは仲介料として成功報酬の数%を取る形だ。だが、その報酬が少なすぎる場合は仲介料を取れなくなるので最低金額が決められているのだ。

残念ながら銅貨数枚程度では最低金額に届いていない。

「ごめんね、そのお金じゃ少し足りないのよ」

セラスはやんわりと説明するがそれでも引き下がる気が微塵も感じられない。

「詳しい事情を話してみて」

リュウキは少ししゃがんで目線を子供に合わせて聞いてみた。

「ウチのお父ちゃんは木こりなんだけど、アビスの森に出掛けたまま帰って来ないんだ。きっと何かあったんだ」

「・・・」

きっといつもの時間に帰って来ない父親をずっと不安な気持ちで待っていたけどいてもたってもいられなくなって家中のお金をかき集めてすがる思いでここまで来たのだろう。

「お父ちゃんを助けて」

「私は冒険者じゃなく商人だ。助けに行くことは出来ない」

「うっう・・」

子供は泣き出しそうになる。

「だが、価値のある物を買い取る事は出来る。それを買い取ろう」

子供の手に握っている硬貨を指差す。

「えっ?」

子供が驚いた顔をして見上げてくる。

リュウキは懐から銀貨を30枚取り出すと子供の手にある銅貨と交換した。

「どうだ?それを受付のお姉さんに渡せば依頼を受けてくれるはずだ」

「うん」

子供に笑顔が戻る。

「交渉成立だ。これで依頼は受けてくれないだろうか?」

セラスを見ると驚いた顔をしている。

「そ、そのよろしいのですか?」

「この子の顔を見ろ?目が赤い。恐らく必死で一晩中家の中でお金を探し回ったのだろう。その子の銅貨に私の銀貨と同等以上の価値があると私は判断した」

「リュウキさんはお優しいのですね。私がお礼を言うのは可笑しな話ですがありがとうございます。さっそく依頼書を作成します」

「その依頼、俺達が受けよう」

後ろから誰かの声が聞こえてきた。



★★★



リュウキと子供のやり取りを少し遡る。クリス達はギルドに出された依頼を見ていた。

「どれにしようかな?」

まだ眠たそうなクリスがぼさっとした頭をかきながら依頼書を見ている。

「あ、あの、パーティーに加えて欲しいのですが」

突然アイリスが話し掛けて来た。

「えっ?」

クリス達が驚きの声をあげる。

アイリスは冒険者には珍しい神官だ。神に仕え、清く正しい人生を目標にしている神官が荒くれ者ばかりで、金の為なら汚い事でもやる冒険者の世界に足を踏み入れる事は少ない。ここに来たのも教会の経営難であり、自らの手を汚してでも孤児達を救いたいと決意してのことだった。

「昨日一晩考えて私に出来る事ならやろうと決めたんです」

「歓迎するよ。今どんな依頼を受けようか見て回ってたんだ。どんな依頼がいい?要望があれば聞くよ」

「そ、その出来れば報酬のいい依頼がいいです」

アイリスは言いにくそうに応えた。

それを聞いて教会の資金ぶりが悪い事が容易に想像出来た。

「わかった。なるべく報酬のいい依頼にしよう」

再び依頼書を眺めて行く。そしてクリスの目が止まり、1つの依頼書を手に取った。

「それは?」

トマスが横から除きこんでくる。

「金貨一枚?かなりいいじゃない」

「でもなぁ」

その依頼の内容は護衛だった。難易度はそう高くないし、報酬もかなり良い。だけど依頼者に問題があった。

「ギニア商会ってあの奴隷商人だろ?」

最近、この街に進出してきた商会であまり良い噂は聞かない。クリスが少し顔をしかめる。

「噂じゃここの領主が奴隷を買い集めていて奴隷の価値が上がっているらしいわよ」

「なんで奴隷を買い集めてるんだ?」

「さぁ?長生きしたいなら知らない方がいいかもね」

「それでこの依頼どうする?」

皆で相談すると神官のアイリスは反対だった。

「他にもっといい依頼があればそっちにしませんか?」

教会では人は平等だと教えている。だから人を商品として売買する奴隷商人には抵抗があるのだろう。少し間違えれば教会の孤児だって奴隷として売られていたかもしれない。嫌悪感を抱くのは当然なのかもしれない。

「んー、他に報酬の良さそうな依頼は見当たらないな」

仲間と手分けして探したが、この依頼以上のものはなく、アイリスは渋々この依頼を受ける事を承諾した。

アイリスの中では後悔が芽生えていたが教会の孤児の事を想い、後悔を打ち消す。

受付に行くと見知った顔が何やら揉めているようだった。

「リュウキ?」

「受付で子供となにやってるのだろ?」

近付くと会話が聞こえてきた。

「ウチのお父ちゃんは木こりなんだけど、アビスの森に出掛けたまま帰って来ないんだ。きっと何かあったんだ。お父ちゃんを助けて」

「私は冒険者じゃなく商人だ。助けに行くことは出来ない。だが、価値のある物を買い取る事は出来る。それを買い取ろう」

リュウキが子供に銀貨を渡すのが見えた。

「そ、そのよろしいのですか?」

「この子の顔を見ろ?目が赤い。恐らく必死で一晩中家の中でお金を探し回ったのだろう。その子の銅貨に私の銀貨と同等以上の価値があると私は判断した」

その一言にクリスは雷に打たれたような衝撃を感じた。

仲間の顔を見ると同じように衝撃を受けているようだった。

皆が思っている事は同じだった。

今受けようとしている金貨一枚の報酬にどれだけの価値があるのか?

「すまないが俺はこの依頼を・・」

「はい、わかりました」

依頼を受けるのを辞める事を伝えようとしたが、最後まで言う事なく、アイリスが笑顔で応える。もう先程までの重い気持ちはすっかり吹き飛んでいる。

クリスが仲間の顔をみた。

トマス、ブレンダも迷いのない表情で頷いている。

「ありがとう」

そしてクリスはリュウキの後ろ姿に声をかけたのだった。

「その依頼俺達が受けよう」

リュウキが振り返るとクリス達がいた。

「おお、受けてくれるのか?それは助かる」

捜索は早ければ早いほど生存率が上がる。

「アイリスさん?もしかしてさっそくパーティーに入ってくれたんだ」

「はい、お邪魔しています」

アイリスはリュウキにちょこんと頭を下げる

「依頼は任せてくれ。さっそく受諾手続きをしてくれ」

その時リュウキはクリスが持っている依頼書に気付いた。

報酬額は金貨一枚と書かれた文字が見えた。銀貨100枚で金貨1枚と同じ価値がある。

リュウキが出したお金は銀貨30枚。つまり報酬額に3倍以上の差があるのだ。

「ちょっと待て、その手にある依頼書は?」

「受けようとしたがやめにした」

「こっちの報酬額は銀貨30枚だぞ?そっちの依頼は金貨1枚なんだろ?どうして?」

「冒険者は自由な生き物だ。好きに生きて好きに死ぬ。自分が好きな依頼を選んで受けるだけさ」

本来冒険者は金さえ払えば何でもやる。時には高い報酬欲しさに身の丈以上の依頼を受けて帰らぬ人になる者もいる。それくらいお金に価値を見出だしている者達なのに。

「・・・すまない」

「リュウキ、そういう時は笑顔でありがとうって言えばいいんだよ。商人の基本は笑顔だろ?」

「そうだったな。ありがとう。この借りは必ず返すよ」

「あ、ああ、貸しにしておいてやる」

クリスは少し口ごもりながらも胸を張って言った。

「はぁ、クリスも照れるなら話を振らなければいいのに」

ブレンダが深い溜め息をついて指摘する。

「馬鹿野郎!そ、そんなんじゃないってば」

「僕達はリュウキさんに日頃お世話になっているのでお礼がしたいのです」

日頃、あまり前に出ないトマスが話しかけてきた。

「アイリスさんもありがとう。稼げるなんて言っておいてあまり実入りのない依頼を受けてくれて・・・」

「神は困った人に手を差し伸べなさいとおっしゃっています。人助けが出来てお金も貰えるなら素晴らしいことです」

「依頼書が出来ました。こちらにサインをお願いします」

セラスが二枚の依頼書をテーブルに出した。

「ん?」

「ギルドからも依頼させてもらいます。アビスの森の調査です」

クリスが二枚ある依頼書に首を傾げている。

「その子の父親が木こりならよく森に行くのでしょう。帰ってこないのは予期しない事があったと思われます。なので被害が増える前に調査をお願いしたいのです」

セラスの言葉に違和感を感じた。本来なら2、3度同じ事があればギルドが調査に乗り出す。一度目で動く事をあり得ない。それがまして子供の話なら尚更だ。

「アビスの森で何かあるのですか?」

リュウキが訝しい顔で受付嬢に尋ねるとセラスが少し気不味い顔をして口を開いた。

「言わせないで下さい。あなた方の態度を見せられて私なりに手伝いたいと思いましてね。報酬のかさ増しです」

「ありがとう」

「いえいえ、依頼頑張ってくださいね。クリスさん」

こうしてクリスパーティーはアビスの森に出発した。


★★★


ミリアはリュウキを追い掛けて見つけた。だけど声を掛けづらい雰囲気だったので離れて様子を窺う事にした。

一連のやり取りを全て見終わったミリアは全身が震えて動けなかった。

「お金が・・・喜んでいる?」

ミリアの目にはお金が笑顔で飛び回っているように見えた。

「凄い。こんなの見たことがないわ。これが私の求めていたお金の使い方なのかもしれない」

そしてリュウキの元に向かう。

「ん?やぁおはよう。よく眠れたか?」

リュウキはこちらに気付いて挨拶をしてくる。

「ええ、おかげさまで」

本当は固いベッドで遅くまで考え事をしていたから寝不足だ。でもさっきの光景を見て眠気は全て吹き飛んでいた。

「お世話になったわ。このお礼は必ずします」

お礼を言ってミリアは足早に家に帰る事にした。














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