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20話、開店と価格変動

「いらっしゃいませ」

冒険者ギルドに対抗する為に作られた希望の店は冒険者達でごった返しており、みんな忙しそうに働いている。

リュウキ商会の奴隷達は忙しくとも充実したような顔をしている。

サービス、価格、サポート、あらゆる面で冒険者ギルドより圧倒的に充実してるから当然の結果だろう。

これで冒険者ギルドに一泡吹かすことができただろう。

ただこのまま何事もなく終わることはないだろうとはリュウキは思っていた。


★★★


一方、その頃の冒険者ギルドでは


「希望の店ができてから冒険者ギルドの売上が落ち込んでいます」

冒険者ギルド内はまばらに冒険者がいるだけで前のような活気はなくなっている。

「ぐぬぬぬ・・何か手はないのか!このままではワシが笑い物ではないか」

「希望の店はサービスもいいと評判で・・・」

「ならこちらもサービスを増やさんか!」

ギルド長が従業員を怒鳴り散らす。

「みんな自分の仕事で手一杯でして・・・」

「口答えするな!ふむ、良いことを思い付いた。素材がなければ商売ができん。あいつらの素材を買い占めてやろう」


★★★


数日後・・・

アヤメから報告がある一つの報告がもたらされた。

「実は冒険者ギルドが素材を買い集めているんだ」

「??そうですか」

サリーが頭を傾げる。冒険者ギルドが素材の買取はやっているのは誰でも知っているような当たり前のこと。そんな事実をどうして今更?

「それが・・その・・リュウキ商会よりも高く買い取ると言ってるらしいんだ」

「リュウキ商会より高く?あ、もしかして、最近、素材を売りに来る人が減ってきたのはそのせい?」

アヤメの言葉に思い出したようにサリーが顔を上げる。

「ウチはリュウキ商会と友好クランだから向こうの買取価格が高くてもここに素材を売っている。だけどこのままじゃマズいぜ?リュウキ商会に売りに来てくれる人が居なくなるぜ?」

素材が手に入らなければ加工してアイテムを作れないし、販売もできない。

幸いなことにアヤメ率いるグランツやリュウキ商会でも採集はしているので必要素材が完全に絶たれることはないが・・・

商売が軌道に乗り始めている時に邪魔されるのはあまり面白くない。

「助かりました。わざわざ知らせてくれてありがとうございます。それに買取の高い冒険者ギルドじゃなくてリュウキ商会を使ってくれて」

「世話になってるんだ。当たり前のことだぜ。それではどうするんだ?」

アヤメがリュウキに尋ねるとそれをそのまま隣にいるルカに振る。

「ふむ、ルカ、どうしたらいいと思う?」

「私ですか?」

急に名前を呼ばれてルカはびっくりしている。

「そうだ。そろそろ経験を積む時だ。自分のやりたいようにやってみるのもいいだろう。失敗したらやり方を変えればいい。合っていると思えばそのまま貫けばいい」

「そう・・ですね。相手が買取価格をあげてきたならこっちも値上げして対抗する・・ですかね?」

「それでやってみよう」

「え?いいのですか?」

自分の意見がすんなり通ったことにルカが戸惑っている。

「ああ、結果はそのうちわかるだろう」


★★★


「ふむ、これはどういうことだ?」

「それが希望の店も買い取り価格を上げてきました」

「なんだと?!小癪な!更に値段を上げて対抗しろ!」

「ですが・・・」

「従業員の分際で私に意見する気か?言われた通りにやればいい」

「わ、わかりました」


★★★

「いらっしゃいませー」

サリーの元気の良い声が店に響く。

希望の店はルカの案で賑わいを取り戻した。

だけど、ルカは深刻そうな顔をしている。

「気付いたか?」

リュウキがルカに声をかけた。

「客足は戻ったけど利益が出ていません。おかしいです!」

「ほほう?何がおかしいんだ?」

リュウキはルカを試すように訊ねた。

「リュウキ商会が銅貨10枚分の薬草を買い取りポーションにする場合。調合して瓶を作って中に詰めて商品棚に並びます。ここまでの作業に銅貨5枚がかかります。ポーションは原価は銅貨15枚です。この価格はリュウキ商会内で一連の流れを全てやれるからです」

「そうだね」

「冒険者ギルドは調合などを他の店にやらせている分コストがかかります。おそらくポーションの原価は銅貨17枚くらいになります。だからこの店では他より銅貨2枚分安く提供できます。今は薬草の買取価格を銅貨2枚分上げて対抗しています。冒険者ギルドはどうやって利益を出しているのでしょう?」

「ルカは深く考え過ぎてるね」

「え?」

その時、アヤメが慌てたように希望の店に入って来た。

「おい!更に冒険者ギルドが買い取り価格をつり上げてきたぜ」

「そんな・・・まだ値を上げてくるなんて」

ルカの顔色が青くなる。

「どうする?」

「・・・打つ手がありません。これ以上の値上げにはついていけません。冒険者ギルドがどうやって利益を出しているのか分かりません」

「ふむ、覚えておけ。こういうやり方はよくある。例えば極端な売値や買値で赤字を覚悟して相手を潰す」

「そんな?!不毛な争いです。それでは高く買えば買うほど損をするだけじゃないですか!」

「見据えているのは相手を潰した後だ。商売敵がいなければ値段を好きにできる。値段を上げて損失をカバーできるどころか、利益も見込める」

「そんなやり方が・・・」

「今のリュウキ商会の経営は希望の店の準備資金にお金を使っていて今は資金がない。更に資金融資されているから一定の金利を納めないと破産する。単純な資金力の差で借金をしているリュウキ商会は冒険者ギルドに負ける」

「負け・・ですか」

「アヤメさん、今まで助かったよ。もう取れた素材をリュウキ商会に売らなくてもいいよ」

「いいのか?そんなことすれば・・・」

「諦めないで下さい!お金なら私を売ってお金にしてください」

「そう早まるな。リュウキ商会だけを見ると負ける。だがこのやり方はデメリットも大きい。市場を荒らすのはリュウキ商会だけじゃなくてこの街全ての商人が困ることなんだ。今から他の商人達と会ってくる。上手くいけばこの状況を打開できる。こんな不毛な潰し合いに付き合う必要は無い」

「何か秘策があるのですね?」

「単純な話だよ。高く買い取ってくれるなら売ったら儲かるだろ?いい感じで高値で素材が取り引きされている。リュウキ商会の買い取り価格を通常に変更!冒険者班に素材集めに力を入れるように連絡。ここでありったけの素材を冒険者ギルドに一気に売りつける。他の商人と協力を取り付けたら反撃の時間だ」

「わかりました」

「向こうの資金が尽きるのが先か、こっちの素材が尽きるのが先か?さて、冒険者ギルドはこの街にある全ての素材を高値で買い続けることができるかな?」


★★★


「やりました。希望の店は私達の値上げについて来られず、値段を通常価格に戻しました。向こうにいた冒険者達はこちらに来てます」

「おお、そうか、そうか。あいつらも冒険者ギルドに楯突くとどうなるかわかっただろう。今夜は枕を高くして寝られるわ」

次の日

冒険者ギルドは人で溢れかえっていた。

「まだなのか?早く買い取ってくれよ」

「いつまで待たせる気だよ」

買い取って欲しい人が冒険者ギルドの中だけに収まらず外にまで続いている。

「なんだってこんなに人が多いんだよ!いつまでも中に入れねーじゃねーか!」

冒険者ギルドの外からもイライラしたような叫び声が聞こえてくる。冒険者は腕っ節が強い。気が短い者も多い。

受け付けでは慌ただしく買い取りが行われているが全然追いついていない。

「あのギルド長」

ギルド職員がギルド長を見つけると小走りでやってきた。

「何をしている!早くこの列をどうにかせんか!」

「あ、はい、今、休みの職員も来てもらってギルド職員総出で対応しています。それで・・ですね」

ギルド職員は言葉を詰まらせる。

「なんだ?言いたいことがあるなら言ってみろ!つまらんことならクビにするぞ」

傲慢な態度で職員を睨みつける。

「このまま素材を買い取りを続けると資金が底をつきます」

「な、なんだと?!どうにかせんか!そうだ!今から買い取り価格を元に戻せ。そうすればいいじゃないか」

「・・・今、直ぐに値段を戻すと暴動が起きますよ」

職員が殺気だって列に並んでいる冒険者を見ながら言う。

ギルド長の顔が段々と青くなっていく。

「少しずつだ。少しずつ値段を戻していけ。余剰資金も使っていい。わかったな?」

そして夕刻

列が少なくなってきた頃に冒険者ギルドの資金が底を尽きた。

「申し訳ありません。これ以上の買い取りはできません」

「ええ!」

幸いなことに買い取り客もまばらになっていたので暴動になることはなかった。不満を言いながら冒険者ギルドを去っていった。

「何とかしのげたな」

ホッとギルド長が胸を撫で下ろす。

「そ、それがですね。もう銅貨一枚残っていません」

「それがどうした?」

「すみません。討伐依頼を達成してきました」

ギルド長と職員の話に割り込むように冒険者が声をかける。

「・・・」

言葉を失うギルド長と職員。

「素材なら山ほどある。お前、買い取れ」

ギルド長が職員にふてぶてしく言った。

「冗談じゃありません!一生懸命働いた上で買い取りまでしろってもう我慢できません!辞めさせて貰います。今日まで働いた給料支払ってください!」

「ちょ、待て、私が悪かった」

こうして冒険者ギルドは不払いを出して機能不全に陥った。


★★★


「カンパーイ!」

希望の店では盛大な打ち上げがなされていた。

「どんどん食え。今回売った素材で大儲けできたからな」

「おう!」

今回協力してくれた一同が酒を片手に飲み食いしている。

「いい儲け話に誘ってくれたリュウキさんには感謝ですよ」

今回手を貸してくれた商人が笑顔で話し掛けてきた。

「しかし大丈夫ですか?その素材を全て手放せば商売に支障が出るんじゃ?」

ルカが声を商人に訊ねる。

「素材を加工する錬金術しや調合師などは一時的困るだろうが、私達は商人ですからね」

「私達リュウキ商会も独自で素材集めているから直ぐにとはいかないが少しずつ商品を作れる。それに上手くいけば素材も安く手に入る」

商人とリュウキが酒を片手に答える。

「どうしてですか?」

リュウキが悪い笑顔を浮かべる。

「それはな、素材ってのは適切な管理ができないと劣化するんだ。アデールの街にある全ての素材を売り付けたんだ。冒険者ギルドの保管容量を超えているはずだ。薬草ひとつにしても適切に管理しないと干からびてしまう。時間と共に価値がどんどん下がるわけだ。私達は相手の足元を見て買い戻せるって寸法さ」

ルカは話を聞いて商売とは先の先を読んで動くものだと感心する。

「冒険者ギルドは今後どうなるのでしょう?」

ルカの質問に商人が答える。

「冒険者ギルドは貴族達の支援で成り立っている。潰れることはないだろう。本来は街の周囲の魔物を退治して治安を守る為のなくてはならない組織だ。それが潰れたとなると貴族の面子も潰れる。しかし、今回の件で冒険者ギルドの信用は地に落ちた。逆にリュウキ商会はこの街で一目置かれる存在になった」

「一目置かれる存在?」

「そうさ、冒険者ギルドの素材の値の吊り上げで私達も迷惑していた。そこに上手く儲け話を持ってきて商人達をまとめた。しかも値段を吊り上げるだけ吊り上げて最高潮で売りに出してかなり儲けさせてもらった」

商人がリュウキの首に腕を回して酒を煽る。

「リュウキ商会はアデールの街に認められたってことさ」

こうして冒険者ギルドの目論見は失敗に終わった。



































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