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第2話、戦術改革

一週間後

クリス達は毎日薬草集めを手伝ってくれてポーションの販売も順調に進み結構資金にも余裕が出来てきた。

リュウキは露天商が立ち並ぶ一角で座り込みポーションを売っていた。リュウキの作るポーションはなかなか定評であり、常連客も付きつつあった。

「今日もいい感じに売れたな」

日が傾き店じまいを始めているとボロボロになったクリス達が現れた。

「ど、どうしたんだ?」

「ゴブリンにやられた・・・」

顔を上げず悔しそうに地面を睨みつけてクリスが言った。

「とりあえず、無事で良かったよ。詳しい話はこれを飲んで場所を変えて聞こう」

リュウキは商品であるポーションを渡すとクリス達は一気に飲み干す。

事情を聞く為にリュウキ達は酒場に集まった。

「一体何があったんだ?」

リュウキが尋ねるとクリスが重々しく口を開いた。

「午後からは暇なので少しでも稼ごうといつもの場所で薬草を集めていたんだ。そしてしばらくしたらゴブリンが現れて気付いた時にはゴブリンの群れに囲まれてた」

「もっと数が少なかったら勝てたのに」

ブレンダが悔しそうに拳を握りしめてる。

「ゴブリンは知性がある。野生の獣でも勝てない時はじっと隙を窺っている。勝てると判断したから襲ってきたんだろう。それで何匹か倒せたのか?」

「いや、戦ったけどすぐに勝てないとわかって逃げたんだ。一匹も倒せてない」

「ブレンダは魔法使いだろう?魔法が効かなかったのか?」

「違うわよ。魔法を使う隙がなかったのよ」

なるほど。戦術が悪かったのだろう。

「がっはっはー、お前ら聞いたか?こいつらゴブリンに負けたんだってさ?」

隣で聞き耳を立てていた筋肉質の戦士がエールを片手に口を挟むと周囲にいる仲間達が大笑いする。

「何よ!」

突っかかろうとしたブレンダをトマスが宥める。

「相手にしない方がいいよ」

「・・・アラン」

リュウキの呟きにクリスが反応する。

「知っているの?」

「ああ、アーデルに2つしかいないAランクのクランの1つ【エスパーダ】のリーダーだ」

相手はすでに酒がまわってすっかり出来上がっている。

「俺が新人冒険者にゴブリンについてご教授してやろう」

いいぞ、いいぞ、と周りの酔っ払った仲間が声をあげる。

「ゴブリン、肌は緑色で成長しても子供程の大きさにしかならず、力も強くなく、一匹程度なら大の大人なら十分倒せる魔物の中では下級の存在。討伐しても大した金にもならない雑魚だ。そんな雑魚に負けて帰ってきた新米冒険者に乾杯!」

アランがジョッキを掲げると仲間達もエールを掲げて酒を煽る。

「クッ!」

3人が俯いて歯を食いしばっている。

「ゴブリンはこの世界でもっとも人類に対して被害を与えている」

そこでリュウキが力強く声を出した。

「えっ?」

リュウキの声にクリス達が顔をあげてリュウキの方を見る。

「あん?・・ひっく」

「ゴブリンは討伐報酬が低いのはギルドが低くしているからだ。その理由は数の多さ、つまり繁殖力の高さだ。ゴブリンは同種ではない人間や亜人との交配も可能でその子は必ずゴブリンが生まれ、成長も極めて早い。もし、討伐報酬を上げればギルドの資金が枯渇するだろう」

「んな、話信じられっか。ただ弱いから安いんだよ」

「ゴブリンは賢い魔物だ」

「ゴブリンが賢いだと?あんた頭おかしいんじゃねぇのか?」

アランが馬鹿にしたように言うと仲間達はリュウキを軽蔑するように笑う。

そんな笑いを意に介さずリュウキは話を続ける。

「確かに人と比べると頭が悪いと軽く見がちだがゴブリンは武器や防具を使い、集団戦闘を得意とする。狼は群れからはぐれた弱い獲物を追い込み仕留める。好機を見極め、追い込み役、仕留め役に別れた集団戦術を使うのが知られているゴブリンも同様の戦術を使ってくる」

「ふん、非力な雑魚には違いない」

「なるほど。ゴブリンは非力で弱い。では人間はどうだ?魔物と力比べをして勝てる人間が何人いる?人間は魔物より弱いか?いいや、頭を使い魔物とも対等に戦える。それは数であり、戦術だ」

「ゴブリンと人間を一緒にするんじゃねぇよ!」

アランはテーブルを叩きリュウキを睨みつける。

一呼吸置いてリュウキは静かに強く話し続ける。

「子供でも知っている肝心な事実がある。人間はゴブリンを未だに駆逐出来ないでいる。ゴブリンに襲われる村は少なくない。年頃の女以外はなぶり殺しにされる。残った女はゴブリンの苗床にされ、奴らの子供を産まされる。そんな残虐な魔物を絶滅させるという偉業を達成した者は未だかつて存在しない」

「・・・ふん、酒が不味くなる。行こうぜ」

アランは捨て台詞を吐いて席を立った。それに続き、取り巻き達もゾロゾロとついていく。

「あんた凄いじゃない。口だけであいつらを追い払うなんて。あんたが口を出さなきゃ、私があいつらの鼻を殴り付けていたところよ」

「ブレンダ、そういうのは危ないから・・でもまぁ、僕も聞いててスッキリしたかな」

「これまでだ。もう危険な事は出来ない。路銀もそこそこ集まったし、田舎に帰ろうと思う」

ずっと黙っていたクリスが重々しく口を開いた。

「もう1度、俺と一緒に戦わないか?」

リュウキはこの3人と一緒にいるのが楽しい。ここで終わるのは寂しいし、勿体ない。

「商人のリュウキが戦えるのか?」

「商人の武器は金だよ。とは言っても硬貨を握りしめて殴る訳じゃないよ。投資するからもう一度やらないか?ゴブリンごときに何度もやられるのも癪に触る」

「・・・」

「私はいくらか武器を新調する金を出す。クリス達はゴブリンを倒して討伐報酬を貰い、俺はそこからいくらか返してもらう」

「失敗したらどうするの?」

「これは投資だから失敗は私の損失。金を返せとは言わない」

「・・・」

「もちろん、私もクリス達に同行する。命の危険はクリス達と同じだ。その上お金も出す。だから俺の指示に従ってもらいたい」

「でも・・・」

「僕はやりたい。村に帰ってもまた皆にバカにされる。僕はここに来て変わりたい。逃げたらまた後悔する」

クリスの否定的な言葉を遮ってトマスが力強く言った。

「・・・あんたがやるなら私もやるよ」

ブレンダも賛成してくれた。トマスとブレンダが何かを求めるようにクリスを見ている。

「わかったよ、もう一度だけやってみよう」

決まったところでリュウキは3人を武器屋に連れていく。いい武器や防具を揃えているところはあらかじめ目星をつけていた。

武器屋に入るとスキンヘッドであごひげを生やした店主がチラリとこちらを見る。

「少し見せてもらうよ」

「勝手にしな」

ここの店主は寡黙で無愛想だが、いい品を武器を作っている。

クリスは軽装で剣を主体としている。スピードを活かして幅広く臨機応変に動いてもらうのがいいだろう。攻撃力の高い片手剣を調達するべきだな。

ずらりと並べられている片手剣。それに鑑定スキルを使ってみると一本の片手剣に目が止まる。

それを手に取り刀身を見てみる。

「見事だ。不純物を極限まで取り除いて作られている。持った感じバランスもよく考えられている。クリスはこれにしよう。それとトマスには大盾だね」

トマスは大柄でパワーがあり、盾役にピッタリだ。ずっしりとした体格で安心感をもたらす。

「まずは使い方を慣れてもらおう。あまり重いのより軽くて取り回しがきく盾がいいかな」

木の大盾を選んだ。

ブレンダは魔法使いだったな。重い防具は必要ない。魔力を高める杖が妥当か。

「それとブレンダには杖を新調しよう」

買う物を決めて店主に話しかけた。

「これを売ってくれ」

「あんたなかなか見る目があるようだな」

「いえ、ここは良い品ばかりで迷います」

「フンッ」

少し照れたように店主が顔を逸らす。

そうして武器、防具を揃えて薬草集めに行く。道中、3人は新調された武具を嬉しそうに眺めている。早く使いたいのだろうがあくまでもメインは薬草集めだ。ゴブリン退治はそのついでだ。積極的にゴブリンの住みかを狙っていくつもりはサラサラない。

「トマス、その盾、重くないの?」

「少し重いけど大丈夫だよ。それより付き合ってくれてありがとう。ブレンダの事は絶対守るよ」

「ななっ、トマスの癖に何言ってるのよ!あんたこそ危なくなったらすぐに逃げなさいよ」

ブレンダが顔を赤くして慌ててる。

「ゴブリン来るかな?」

トマスとブレンダのやり取りを横目にクリスがリュウキに話しかけた。

「多分、来るよ、昨日の件で調子にのっているだろう」

「そっか」

そしてリュウキはいつものように薬草採集を始めて、クリス達は周囲の警戒を始めた。いつものような会話はない。緊張しているようだ。

しばらくして最初に気付いたのはクリスだった。

「来た!」

一匹見付けるとゾロゾロとゴブリンが増えて来る。

「全員、集まれ」

クリスの一言で全員が集まり戦闘態勢をとる。

「いち、にぃ、さん・・見えているだけで約10匹」

「まずいわよ」

「き、昨日より多い」

「大丈夫だ、落ち着け、トマスが前に出てゴブリンを引き付けて。倒さなくてもいい。時間を稼いで」

「あ、あんた何をする気?まさか囮にして逃げる気じゃ」

「そんな訳ないだろ。ブレンダは魔法の準備をしておいて」

「俺は?」

「トマスだけでは全部を引き付けられない。クリスはこっちに向かって来るゴブリンを倒して」

「よし、トマス前に出ろ」

「うおおおお!!」

恐怖をかき消すように雄叫びをあげ前に走っていき木の盾でゴブリンを一体吹き飛ばす。

すぐさまゴブリン達がトマスに殺到する。

「トマス!」

後を追おうしているブレンダの襟首を掴む。

「離しなさい!」

「追えばトマスの勇気が無駄になる。ブレンダは魔法の準備を」

「・・・ッ、もし何かあったら許さないんだから」

ブレンダはリュウキを睨み付けて魔法の準備を始める。

ブレンダの人差し指の先がほのかに光り、宙に魔法陣を描いていく。

無防備なブレンダに気付いてゴブリンがこっちに向かって来る。

「クリス!」

「おおよ」

クリスが向かって来るゴブリンを一撃で切り伏せる。

「よし、切れ味もいい」

「ブレンダ!準備は出来たか?」

「待って!もう少しよ!」

トマスがゴブリンに袋叩きにされている。しっかりと防御はしているが長くは持たない。これ以上は危険だ。

「トマス、撤退だ。こっちに来い!クリスはそれを援護して」

トマスが振り返ってこっちに走り出した。その後をゴブリンの集団が追う。それをクリスが牽制しつつ、トマスとこっちに逃げて来る。

「ブレンダ!まだか?」

「焦らさないでよ・・・で、出来たわよ」

ブレンダが杖をかざすと描き上がった魔法陣から炎の玉が浮かび上がる。

「よし、クリス達に当てないように魔法を撃って。チャンスは1度切り」

「わ、わかってるわよ!」

顔に汗を滲ませているブレンダの前で炎の玉が狙いを定めるように揺らいでいる。

間に合うのか?

段々と近づいてくるゴブリン達を前に焦りを感じてリュウキがつい声をあげた。

「早く撃って!」

リュウキの声に触発されるようにブレンダは杖を振った。

「あっ」

炎の玉は真っ直ぐクリス達に向かっていく。

ブレンダがやってしまったとばかりに口に手を当てている。

「げっ」

「なっ!」

こちらに走ってくるクリスとトマスは真っ直ぐ迫り来る炎の玉に顔をひきつらせる。

慌ててかわすように滑り込むとクリスとトマスの頭のすぐ上を炎の玉が通り過ぎる。

驚いたのはゴブリン達だ。追っていたクリスが滑り込むと突然目の前に炎の玉が現れたのだ。対応する事もなく直撃する事になった。

ドォーン

炎の玉がゴブリンに直撃して爆発して周囲を巻き込む。

クリスとトマスは爆風に目を細めながら振り返る。

「やったの?」

爆炎が収まり、動く者は何一つなくなった。

「やったの?じゃねぇよ。後少しで俺達もローストチキンになるところだったぞ!」

「えっいや・・リュウキが焦らせたからよ!魔法の精神制御って難しいんだからね!」

クリスの抗議にブレンダは目を泳がせてリュウキに責任転嫁する。

「まだ油断しないで。クリスとブレンダは周囲の警戒をして。トマスは今のうちに回復。冒険者がやられる時は強敵ではなく想定外のハプニングが大半だ」

4人は周囲を見渡して他にゴブリンがいない事をを確認した。

「トマス、大丈夫か?」

「僕、役に立てたのかな?」

「ああ、トマスがいないとこの作戦は上手くはいかなかった。よくやってくれた」

「へへっ」

トマスが嬉しそうに笑った。

「ブレンダからも何か言ってやったら?」

「へ?・・まぁトマスにしてはよくやったわ。褒めてあげる」

「ははっ・そんな事言って、泣きそうな顔でトマスを心配してたじゃねぇか」

クリスが茶化すように言う。

「そ、そんな事ないわよ!トマスはトロいからちょっとだけ気にしてただけなんだからね!」

顔を真っ赤にしながらブレンダは否定する。

「さて、使える物はあるかな?」

リュウキがゴブリンの装備を剥ぎとる。

「そんなボロボロの装備役に立つのか?」

「いや、売るにしても二束三文だな。鉄は鋳潰すしかないかな。残りは放置してもいいがまたゴブリンが拾って人を襲うかも知れない。人間にとっては無価値でもゴブリンにとっては価値がある。無難に穴を掘って埋めるのがいいな」

「なるほど」

そして死んだゴブリンから討伐証明部位を剥ぎ取っていく。

「ゴブリン12匹か。さてギルドに報告しに帰るか」

「おおーー!!」

ゴブリンを倒した戦果に上機嫌で話を弾ませながら街に帰った。


★★★


「少し話したい事がある」

ゴブリン討伐に成功し、その報酬を使って酒場で気分良く祝っているところにリュウキは唐突に切り出した。

「どうした?」

「私は冒険者のあり方に疑問を持っている。強さこそが全てのような今のあり方は間違っている。ほとんどの冒険者達は討伐数を競う事に夢中で連携しようとしない。これでは駄目なんだと思う」

先程まで討伐成功で浮かれていた気分から一変してリュウキの話にみんな真剣に耳を傾けて聞いている。

「今回のように協力し合って弱い所を補って戦うのが理想だと思っている。俺は今の冒険者のあり方を変えたい。その力になって欲しい」

今のままの冒険者達では間違いなく魔王軍に蹂躙される。クリス達だけ強くなっても焼け石に水だ。どうにかするには冒険者全体で戦う力をつける事が必要だ。

「でもそんな大それた事、俺達に出来るのか?」

「大した事ではない。今回のように討伐を成功させてくれたらいい」

「それだけ?」

「この戦い方で討伐を繰り返して周りに認められるようになれば必ず真似しようとする者が現れる」

「つまり有名になればいいんだな。わかった」

「それじゃあ、今後の戦い方の基本を説明するから聞いて欲しい」

リュウキがそういうと皆の視線が集まる。

「まずパーティーの戦いで大事なのはフォーメーションだ。フォーメーションは前衛と後衛に別れる。前衛は攻撃役、盾役などを担う。後衛は回復や支援、援護射撃や魔法による攻撃などを行う。そしてもっとも大切なのが回復だ。当然、回復がなければ生存できる確率が大きく変わってくる。クリスは攻撃役、トマスは盾役、ブレンダは攻撃魔法。そして私が回復役、とは言ってもポーションを提供するだけだけどね」

「各自がパーティーの為に役割を果たしてパーティーが1つになって戦うのね。やれるかどうかはまだ分からないけど理解はしたわ」

「僕も皆の力になれるように頑張るよ」

「よし、じゃあ、次はどのモンスターと戦う?強そうなモンスター倒して一気に有名になろうぜ」

3人が俄然やる気になってくれた。

ここでリュウキは1つ釘を刺す。

「冒険は準備と挑戦の2つに別けられる。準備というのは行った事がある場所で採集、戦った事のあるモンスターと戦ってお金を集める事だ。挑戦は装備を整えて未知なる場所、未知なる魔物に挑戦するんだ。俺達はゴブリンを倒せた。だけどそれだけではまだ力が足りない。何度も倒して実力を付けてから新しい魔物を倒しに行くんだ。つまりしばらくはゴブリン退治だよ」

「ええぇぇぇぇ!!」

しばらくゴブリンの相手をしなければならない事にげっそりした顔をする。

冒険はそんなに甘い世界ではない。地味にコツコツとやるしかないんだよ。


















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