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19話、密かなる襲撃

冒険者ギルドに来るのも久々だなぁ。前と変わらず酒場は冒険者達がくだらない事を言ってはしゃいでいる。ここの2階で泊まっていた頃は毎日聞いていた。変わらないものがあるというのも少し嬉しいものだ。

リュウキが酒場を見回すと席に着いているセラスを見つけた。その向かいにはクラン【グランツ】の女リーダーのアヤメが座っている。

「少し遅れたか?」

「よう、久しぶりだな」

リュウキは声を掛けてセラスの隣に座る。

「それで例の件なのですが・・・」

「これが報告書だ」

アヤメが書類をリュウキにの前に出した。それをリュウキは受け取り、目を通す。

「・・・予想通りか、セラス、しっかりと報酬を渡しておいてくれ」

「はい」

「水くせぇ事は言いこっなしだ。あんたのクランには随分と世話になってる。金なんて受け取れねぇよ」

セラスが革袋を渡そうしたがアヤメは大袈裟なリアクションをして拒む。

「資料を見る限りほぼクロですね」

「ああ、でも調べられたのはここまでだ。確実な証拠がない」

「そうか、ありがとう。助かったよ」

「で、どうするんだ?踏み込むんだろ?なら私達も協力するぜ」

向かいに座っているアヤメがグイッと顔を近付けて小声で話す。

「こちらでどうにかするよ。それよりそっちのクランは変わりないか?」

リュウキが話をそらすとつまらなそうに元の位置に戻り、頭の後ろで両手を組んで椅子に大きくもたれ掛かる。

「ああ、そういえばこの前クリスが来てたぜ。急に剣の稽古をつけてくれってさ。なんでも負けられない奴がいるんだって」

「はは、この前貴族とした決闘で負けたのがよほど悔しかったんだな」

「貴族と決闘?面白そうな事をやってたんだな。詳しく聞かせてくれ」

「ああ、実は先日・・・」

「貴様ら!ここで何をしている」

楽しく喋りながら食事をしていると突然それを遮るような大声に振り向く。

「ギルド長!?」

「なにって・・ここで飯を食って話をしているだけだ。それ以外にここでする事あるのかい?」

「その女は以前ギルドに務めていてギルドの金を勝手に使った大罪人だ。また良からぬ事を企んでいるかもしれん」

「・・・」

セラスが視線を背けて俯く。

「なんだぁ?その言いがかりは!」

アヤメがギルド長に吠える。

「アヤメ君もこんな輩とは手を切ってしまえ。じゃないとグランツの名に傷が付くぞ」

「はん?目の前で仲間侮辱されて黙ってる方がクランの名に傷がつくんだよ!」

アヤメが勢い良く立ち上がり、椅子が後ろに倒れる。周囲もアヤメの様子に気がつき、徐々に静まり始める。

「よせ。失礼しました、ギルド長殿。私達はすぐに出ていきますので・・・」

リュウキが落ち着いた様子でアヤメを止めて謝罪をする。

「ふん、わかったならいい」

「いいのか?冒険者ギルドの出入りが制限される事になっちまうぞ」

「すみません。それとアヤメさん、仲間って言ってくれて嬉しかったです。ありがとうございます」

セラスが申し訳なさそうに謝った後にお礼を言う。

「いや、いいって事よ」

「リュウキ商会が素材の買い取りを始めてギルドの売り上げが減ってきてるんだ。それにセラスが居なくなって仕事が上手く回らなくなっているんだろうね。言わば八つ当たりだ」

「小さい男だね〜、ああいう男にはなりたくないもんだ」

「向こうがその気ならこっちも遠慮なくやれる」

「なんか悪い顔をしてるな。何をする気だ?」

ニヤリと笑うリュウキを見て楽しそうにアヤメが聞いてくる。

「相手が嫌がってるいるならもっと派手にやってやるのさ」

「面白そうだね。一泡吹かせてやろうぜ」

「それじゃあ戻るか、セラスはクリス達を招集してくれ」


★★★


「重大な話がある」

リュウキ商会の主要メンバーが揃っている会議リュウキが切り出した。一同の視線がリュウキに集まり、静かに口を開くのを待っている。

「ある孤児院で不当な人身売買が行われている可能性がある証拠を手に入れた。貧困で子供に食事を与える事すらままならない者が孤児院を頼って自分の子を預ける。その子供を奴隷として売り払って不当な利益を得ている。最近ではその利益でならず者を雇い、スラム街の浮浪者を攫ったりしている」

「なんて酷い話」

「許せない」

皆がそれぞれの想いを告げた後にクリスが口を開いた。

「それで、どうするんだ?」

「・・・密かに襲撃して壊滅させる」

「それはまた大胆ね」

強引な解決手段にミリアの眉が上がる。

「それには理由がある。この件の裏には大物貴族が関わっている可能性が高い。訴えてもおそらく握りつぶされる。強行手段を取らざるを得ない」

「リスクが高いわ。失敗して捕まれば強盗、更にリュウキ商会が関わってると知られれば商会自体が吹き飛ぶ」

ミリアがリュウキに真っ向から反対する。

「・・・」

場が静まり返った。

皆はそこまでリスクを犯してまでやる価値があるのか、黙って考えている。

「それで計画はあるんですか?」

トマスが手を上げて質問してきた。

「これを見てくれ」

テーブルの上に孤児院の見取図が広げられた。リュウキがロビンさんの知り合いの大工から極秘に入手したものだ

「おそらくここに奴隷が集められていて、警備がこことここに・・・」

リュウキの説明を皆、真剣に聞いている。

「なるほど、後はやるか、やらないかだけが問題か。それなら俺はやるよ」

「それなら私も」

「僕もやります」

クリスが参加を表明すると次々と賛成意見が出た。

「今回は魔物じゃなくて人間が相手だが、大丈夫か?」

「気乗りはしないが放置する方がもっと気乗りしない」

リュウキが気遣ってクリスに確認したがそれでもやってくれるようだ。

「ありがとう」

「セラス、作戦は頼むよ」

クリスにお礼を言ってセラスに引き継ぎ、その場を離れる。

「襲撃は深夜の人通りが少ない時、施設周辺で警戒するチームと襲撃チームに別れて・・それと負傷者が出た時に備えて・・・」

リュウキはセラスの説明を背に少し離れたところで会議を見ていた少年の肩を軽く叩く。

「攫われた君のお兄さんは必ず助けるよ」

「ありがとう」


★★★


空には星が美しく輝いている。頼りない星の光が周辺の闇の深さを現している。

時折風が吹き、木々が擦れ合う音と虫達が奏でる音色。

そんな中で静かに動き回る人影があった。

「包囲完了。周辺に人通りはまったくありません」

「誰か来たらすぐに知らせて」

「外に見張りはいませんね」

「当然だよ。警備は外からの侵入を防ぐというよりは中からの脱走を防ぐものだろう」

「よし、作戦開始の合図を」

ランプに火をつけてその光を何度も遮って知らせる

ガッシャーン!

静寂を打ち破る音。

正面と左右からから突入班が窓を割って侵入した。

「クリア!」

真っ黒のフードで顔を隠した冒険者チームが素早く中を制圧していく。

「なんだテメーら!?」

駆けつけた警備の男の喚き声。動揺している内に素早く無力化していく。

「ぎゃあ!!」

突入班はリュウキ商会の冒険者で構成されている。奇襲も相成って街のゴロツキ程度には遅れを取らない。

「くそぉ!敵の襲撃か!奴隷を見張るだけの仕事じゃ・・・ぐはっ」

捜索を進めていると外から鍵の掛かった部屋があった。

フードの被った冒険者達は小さく頷くとドアを蹴破って突入する。

そこにはベッドが並んでいて攫われた人達が眠っていた。

「目標確保!我々は味方だ。安心しろ。ここから逃げるよ」

攫われた人達は建屋の外に連れ出されると待機していた者に保護されていく。同じように倒されたゴロツキも手を縛られ、引き渡される。

今のところは順調に進んでいる。

そして最後の院長がいる寝室に踏み込んだ。

部屋はかなりの広さだ。部屋に置かれている芸術品が窓から入る星の光で僅かに反射している。部屋の中央には豪華な大きな天蓋付きベッドが置かれていた。

「誰だ、貴様ら!こ、こんな事をしてタダで済むと思っているのかっ」

唯ならぬ空気にベッドから身を起こし、威嚇するように叫ぶ。

トマスは黙って院長の腕を捻り床に押し付ける。

「痛っぐぅぅっ、わ、私はこの街の侯爵とも親しいのだぞ!この街に居られなくなるぞ!」

それを聞いて院長を押さえ込んでいるトマスがブレンダと顔を見合わせる。ブレンダがフードの下でニヤリと笑う。

「デタラメだ。さっさとやっちまおう」

「嘘じゃない、執務机の上に中の書類を見ればわかる」

ブレンダが執務机の引き出し開けて覗き込む。

「これは奴隷売買の契約書。相手はウィンチェ侯爵」

「そうだ!今なら見逃してやる!じゃないと後悔する事になるぞ!」

「ありがとう。わざわざ侯爵との関係を教えてくれて探す手間が省けたわ」

「貴様!騙したな」

「連れて行って、書類も全部押収するわよ」

孤児院から突入班が出てくる。怪我人は1人もなく、みんな無事だ。周囲に目撃者もいない。

「成功だ」

「良くやった!撤退しよう」


★★★


リュウキの帰りをサリーとスラムの少年は待っていた。

「いい?君がやった事は許されない事なんだからね。ご主人様は人攫いなんて事はしないんだから」

「ごめんなさい。危ない事までして助けてくれるのに酷い事をしちゃった」

話を聞くとこの少年を逃がす為に兄が捕まったという。サリーも弟を庇ってウィンチェ侯爵に捕まった経緯がある。それを思うとどこかこの少年と自分の弟を被せて考えてしまう。

「じゃあ、ご主人様にしっかり謝れば許してあげる」

「うん、しっかり謝る。だから・・・」

兄に会えるのか心配で心細いのだろう。泣き出しそうな顔をしている。

「大丈夫。お兄さんは無事に帰ってくるよ」

サリーは優しく少年の頭を撫でてやる。

東の空が薄っすらと明るくなってきた頃、遠くに荷馬車が見えた。

「帰ってきた!」

サリーが向かってくる荷馬車を指さすと少年もそっちを一生懸命探す。

「おーーい」

サリーが大きく手を振ると手を振り返してくる。

リュウキ達は無事に帰ってきた。

「作戦は上手くいったよ」

リュウキがそう言うと荷馬車から少年の兄が出てくる。

2人は涙ながら抱き合っていた。

「無事で良かった」

「お前こそ」

しばらくすると甲高い鐘の音が打ち鳴らされているのが聞こえる。火事を知らせる警鐘だろう。リュウキ商会からも一筋の煙が立ち上っているのが見える。

証拠を残さないように火をつけたのだ。早朝の食事の準備の最中の出火、火事としてはありふれた原因だ。

だが、これで後片付けが全て終わった訳では無い。やらなきゃならない事がまだ残っている。


★★★


次の日、ルーカス伯爵から呼び出しを食らった。孤児院の事を報告した後にあの孤児院に火事だ。疑うなという方が無理があるだろう。

「後は手順通りに頼む」

そう言ってリュウキはルーカス伯爵の屋敷を訪れた

「この度はどのような要件で?」

ルーカス伯爵はリュウキの不審な所を探るようにジロリと見ている。

「前日言っていた孤児院が火事で燃えた」

「それは災難でしたね」

リュウキは大袈裟なジェスチャーで驚いてみせる。

「食事の支度の最中に出火したと考えられているが、不思議な事に焼け跡には遺体がまったく発見されていない」

「それは奇妙ですね」

「何か知っているな?」

白々しく言うリュウキにルーカス伯爵が詰め寄る。

コンコン

「お話中に失礼します!!」

「なんだ?騒々しい。静かにせんか!」

「申し訳ありません。つい先程屋敷の前に荷馬車を乗り捨てた者がいまして。御者は捉える事は出来ませんでしたが荷馬車の中を確認すると先日の火事の被害者と思われる者が拘束されていまして」

「なんだと!」

「それとこのような書類も一緒に」

渡された書類を見てルーカス伯爵の顔色が変わる。孤児院がスラムから攫った人を売り捌いていた証拠や預けられた子供を売った証拠、更には取り引き相手がウィンチェ侯爵だという証拠だ。

「真相を吐かせろ!多少手荒な真似をしても構わん」

「わかりました!」

騎士が部屋から出ていくとまたルーカス伯爵は黙ってリュウキの顔を見ながら考える。

「・・・」

あの孤児院の院長がウィンチェ侯爵と繋がっているのであれば釈放するように圧力がかかるだろう。だが、やっている犯罪を見過ごす事も出来ない。そこでルーカス伯爵が取れる選択肢は少ない。

「火事です」

リュウキが口を開いた。

「何?」

「ただの火事で全て燃えた事にすればウィンチェ侯爵も何も言ってこれない」

全てを見透かしているようリュウキの言葉にルーカス伯爵は驚く。

「今、ここで全てを公にしてウィンチェ侯爵と事を構えれば、ロザリーの両親と同じように潰される。ウィンチェ侯爵は歯向かう者は容赦しない」

そこで初めてルーカス伯爵が気付いた。

「そうか。全ては貴様が仕組んだ事なのだな?何が目的だ」

「あなたと同じですよ。この街を良くしたいと思っている」

「その言葉が本当かどうかはわからんが、いいだろう」

「ありがとうございます」


★★★


もう1つ問題を抱えていた。

それは孤児院にいた子供や攫われた人達の事だ。

解放して終わりという簡単な話では無い。親許に帰ってもやはり負担になる。つまり行き先がないのだ。

「教会の方に・・」

「可能ではありますがリュウキさんも経営状態はわかっていらっしゃるかと・・」

リュウキが言い終わる前にアイリスに否定される。

ですよね〜。

「もう奴隷にしちゃえばいいんじゃない?」

リュウキが考えているとスラムの少年が口を挟む。

「あのなぁ、そう簡単に奴隷に落とす訳にはいかんだろ」

「そっか〜、ここの奴隷は皆幸せそうだよ。いい案だと思うけどなぁ」

「ここで放り出したらまた変なのに攫われるかも・・・」

サリーは心配そうに言う。

「ぐぬぬ・・仕方ない。本人の希望を確認してリュウキ商会で引き取ろう」

「はぁ、またですか?いつになったら黒字経営になるのやら・・・」

ミリアが溜息を零す。


★★★


大通りに面した広い土地でガンダが大声で指示を出して部下達がせっせと働いている。

「近くまで来る用事があったので少し寄ってみました」

リュウキが工事の進み具合を確認しているミリアに声をかけると書類から目を離して顔を上げた。

最初は冒険者ギルドに対抗する建物を建てるとミリアに相談した時は「何を考えているんですか!」と強く反対された。

セラスがギルド長に馬鹿にされた事を説明すると建設案に渋々了承してくれた。

表向きは情報収集の場から締め出されると仕事に支障が出るとか、失敗しても増えた奴隷の食堂として使える分無駄にはならないとか言っていたが、本心は仲間が馬鹿にされた事に憤りを感じている事に周囲も何となく気付いている。

「順調ですか?」

「ええ、毎回無駄に拾ってくる労力を無駄にせずに済みます」

ミリアはたっぷりと皮肉を込めてリュウキに言う。

口ではそういうが、本気で怒っていない事がわかる。

「それは手厳しい」

わざとらしくおどけてリュウキは言葉を返す。

「しかしかなり大きいなぁ」

「当たり前でしょ!冒険者ギルドから客を引き抜かなければならないのよ?食堂や宿泊施設はもちろんの事、冒険者のニーズに答えなきゃならないのよ。エルル達が作ったポーション等の販売やガンタ達が作成した武器の販売。後は討伐モンスターの買取をセラス達に任せるのもいいわね。それに冒険者達にアドバイス出来る場所も欲しいね」

「そんなに!?」

「あのね?この建築作業が終わったらどうするつもりなの?雇用が必要なのよ?誰かさんのせいで」

あれ?やっぱりちょっと怒ってる?

「あ、いや、その、苦労をさせてばかりですまない」

「ふふふ・・冗談よ。ここに来てから大変だけど充実してるわ・・・リュウキに出会えて感謝してるよ」

ミリアは最後の言葉は恥ずかしくて小声になった。

「なんだって?」

リュウキが聞き返す。

「なんでもないわよ!それより店の名前は決めてあるの?」

「いや、まだ決めていない」

「そう、早く決めないとリュウキ商会の時みたいになるわよ。私が決めてあげる。希望の店」

「希望の店?」

「いいとは思わない?」

ミリアはここが出来た時を想像していた。奴隷も冒険者も全ての人が分け隔てなく笑いながら過ごせる。そんな場所になる気がしていた。
















































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