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第18話、陰謀

「今回の商談は上手くいきましたね」

「大量に仕入れると安く物を仕入れる事が出来るんだ」

「なるほど。勉強になります」

商談が終わりリュウキとルカはクランハウスに帰る途中だ。

ガッ

曲がり角を曲がった瞬間リュウキは頭に鈍い痛みを覚えて膝を地面につく。

「グッ・」

頭を触るとぬるっとしている。血が出ているのがわかる。

「兄ちゃんを返せ!」

声のした方を見ると小汚い少年が木の棒を持って立っていた。

更に少年は木の棒を振りかぶってくる。

「やめて下さい」

ルカが勢い良く少年に体当たりして止めようとする。少年はバランスを崩して倒れ込んだ。

「クソっ」

ルカと少年がもみ合っている。

その隙にリュウキが少年の右手に握られた木の棒を蹴り上げた。

木の棒は少年の手の届かないところに転がっていく。

そしてリュウキは少年の手を捻って地面に押し付けた。

「畜生!!」

少年はリュウキを睨み付けてくる。

「ご主人様、大丈夫ですか?」

「大したことは無い。助かったよ、ルカ」

「どうして私を襲った?」

「お前が兄ちゃんを攫ったからだ!兄ちゃんを返せ!」

「攫う?誰かと勘違いしてないか?」

リュウキにとっては全く身に覚えのない事だ。

「あんた、リュウキだろ?奴隷を働かせて商売してる」

「まぁ、それは否定しない。だが、人攫いはやってない」

「嘘だ!みんなお前がやったって言っている」

「それは誤解です。街ではご主人様の事を悪く言う人も多いですが、本当は優しい方です」

「信じられるか!」

「お前、この後どうするつもりだ?行く宛てがないならついてこい」

「俺も攫って働かせる気だな!」

「いや、私について来れば私がやってない事がわかると思っただけだ。他に犯人の心当たりはあるのか?」

「・・・」

「じゃあ、決まりだな」

リュウキとルカは少年をクランハウスに連れて行く事になった。

「あ、ご主人様、おかえりなさい、その子は・・えっ・ご主人様、そのお怪我はどうされたのですか!」

サリーがリュウキの服に血が着いているのを見て慌てる。

「あ、いや、少し転んだだけだよ」

リュウキは説明するのが面倒なので咄嗟に嘘をつく。

「すぐに手当てをします」

サリーが従業員にポーションを取って来るように指示をする。

「どうぞ」

従業員がポーションを持ってきた。

「ありがとう」

ポーションを受け取って飲むと頭の痛みが引いていく。

「ルカはもう休んでいいよ。私はこの子に事情を聞いてくる」

「しかし・・」

ルカはリュウキを襲った少年と2人きりにするのは不安に感じているようだ。

「大丈夫だ。今日は助かった。ありがとう」

そう言って少年と接客室に入った。

「そんなところに立ってないで座ったらどうだ」

リュウキが最初に席に座りながら少年に言った。

少年は黙ったままリュウキの向かいの席に座る。

「・・・どうして怪我の事、嘘をついたんだ?」

「本当の事を言ったらお前が居づらいだろ?」

「・・・」

「とりあえず話を聞こうか。君の兄が攫われた状況を教えてくれ」

「・・・まだちゃんと信用した訳じゃないけど、話すよ」

この少年と少年の兄は親に捨てられてスラム街で細々と生活をしていたらしい。そこをいきなりガラの悪い男、数人に襲われた。兄は少年を逃がす為に捕まったと言うのだ。

「そのガラの悪い連中はスラムのヤツか?」

「スラム街のゴロツキならだいたい覚えてる。危険なヤツを覚えていないと生きていけないさ。見たことないヤツらだった」

「他に情報はないのか?」

「ここ最近、スラム街で急に居なくなる人が増えてきている。それとは反対にリュウキ商会ってクランは奴隷を増やして大きくなっている」

「・・・なるほど。それで私を襲ったのか。わかったこちらでも調べてみよう。君は行く所もないのだろう?しばらくここにいるといい」

「えっ・・」

襲ってきた相手にそこまでしてくれるのが不思議で戸惑っているようだ。

ゴトッ

「・・・」

リュウキは部屋の外で何か音が聞こえた気がした。鼻の前で人差し指を立てて少年に静かにしているように伝える。

リュウキは立ち上がると音を立てないようにドアの前に向かいドアノブを回す。

「きゃっ!」

するとドアが開き、サリーが体勢を崩して部屋の中に倒れ込む。

「やれやれ盗み聞きしていたのか」

「すみませんでした。その・・心配だったもので」

「・・・ルカに何か言われたのだな?」

「いえ、私が無理矢理聞き出したのです。ルカは悪くありません。罰なら私に」

「わかった。サリーに罰を与える。この少年の面倒をみてくれ。それが罰だ」

「ご主人様を襲った人ですよ!そんなの嫌ですよ」

「嫌だからこそ罰になる」


それからリュウキはセラスの部屋に行った。

ノックして部屋に入ると書類をまとめているセラスが顔を上げた。リュウキが書類を一枚手に取って見ると冒険者の情報が細かくわかりやすく記載されている。セラスが有能であるのがよくわかる。

「あの・・・どうかしましたか?」

感心しているとセラスが声をかけてくる。

「ああ、すまない。早急に調べて欲しい事がある。スラム街での失踪者の情報と最近出入りを始めたゴロツキの情報を調べて欲しい」

「スラム街・・ですか。わかりました。調べてみます」

セラスは冒険者と繋がりが多い。情報もすぐに仕入れられるだろう。

セラスの仕事は早く次の日には情報が集まっていた。

「リュウキさんの指示通りスラム街を調べてました。まだ確定した訳ではありませんが失踪者が増えているようです」

「スラムなのだ生活が嫌になって抜け出す者もいれば、飢えて人知れず亡くなる者もいるだろう」

「はい、昔から突然居なくなる者はいたのですが、最近増加しているのは明らかなようです」

「ふむ、そこまで行方不明者が増えると問題になりそうだが?」

「もちろん、役人に訴えでる者もいましたが、握りつぶされているようです」

「まさか?!役人もグルというわけか」

「そこまでわかりません。スラム街はよく思われていませんから日常的に訴えが黙殺されることがあります。まだ推測の域を出ません」

「そうか」

「それと最近スラム街に現れたゴロツキの情報もまとめてあります」

「失踪者が増えて時期に現れたゴロツキはわかるか?」

「ええはい、傭兵崩れの荒くれ者が出入りし始めた頃ですね」

「そいつらの寝床はわかるか?」

「そこまではまだ。ただ、最近できた孤児院の辺りで目撃情報があります。詳しく調べますか?」

「頼む」

「わかりました。すぐに調べます」


セラスのから情報を得て部屋の外に出ると何やら言い合う騒がしい声が聞こえて来た。

「ご主人様をなんだと思っているのですか!!」

「金に物を言わして、貧しい者から子供を買い、食事や休息も満足に与えず死ぬまで働かせ、利益を貪り、年頃の娘を意のままにしている血も涙もない奴隷商」

サリーにとってリュウキは命の恩人だ。リュウキを悪く言われる嫌っている。

リュウキからすればサリーがどう思っているかはともかく、悪人と思われている事については否定しないし間違ってはない評価だと思っている。

ただ、サリーがその評価を容認出来るのかといえば、別だ。

サリーが浮かべた笑みは変わらないが目が笑っていない。まとう雰囲気に圧力のようなものを感じる。

「次に同じ言葉を吐いたら許しませんよ」

離れた位置に居るリュウキがその圧力を感じているのだから、対峙した当人はもっと感じている筈だ。

まずいと思って慌てて駆け寄る。

「何をしている!」

「あ、ご主人様、この子がご主人様の悪口を・・」

「そんなこと気にする必要は無い。それで気が済むなら好きなだけ吐けばいい」

「ですが・・・」

サリーは不満そうに口を閉ざす。

「兄ちゃんの居場所はわかったのか!」

少年がリュウキの胸ぐらを掴み問い詰めようとする。

サリーが止めようとするがそれをリュウキが手をあげて制止する。

「心配するな。すぐに見つける」

「・・・わかった」

そしてリュウキはルカとクランハウスの外に出た。

「今日はどこに向かうのですか?」

「今日は教会の孤児院に寄付をしに行くつもりだ。一緒に来てくれ」

「はい」


★★★


「ここが?」

ルカが子供達が元気よく走り回っている姿を見て聞いてくる。

「ああ、アイリスがウチに来る前に働いていた孤児院だ」

「沢山いますね」

「ああ、でも着ている服や建物の老朽化を見てわかるように経営は火の車だ」

「ああ、リュウキ様、いらしてたのですか?」

ルカと話しているとリュウキの姿を見つけたのか教会のシスターが声をかけてきた。

「これは今月の寄付だ」

「いつもありがとうございます」

シスターが感謝してくる。

「それで最近の調子はどうだ?」

「生活が苦しくなってここに子供を預ける人が増えてきてます。ウチもなるべくは受け入れているのですが・・・あ、暗い話になりましたね。どうぞ上がって行ってください。子供達も喜びます」

「いえ、今日は忙しいので失礼します」


★★★


「かなり経営が厳しそうですね」

「孤児が増えて食事も大変な状態らしいよ」

「次はどこに向かうのですか?」

リュウキ商会とは別の方向に進んでいることに気付き、ルカが聞いてくる。

「ああ、最近出来た別の孤児院だ」

「また寄付ですか?」

「・・・いや」

目的地に着くと立派な施設が目の前にある。

「なんとも先程の孤児院と比べて立派な建物ですね」

「ルカ、もし子供を預けるならどちらにする?」

「それはこちらの方ですかね」

「そう、普通の人ならこちらを選ぶ。だけどこちらの孤児院の子供が少ないという事に気付いたか?不思議だね。子供は沢山ここに預けられているはずなのに子供が少ないなんて。どこに行ったのかな?」

ルカと話をしていると太った温厚そうなおじさんが建物からこちらにやってきている。

「ルカ、少しくっつくよ。話を合わして」

リュウキは小声でルカに言うとルカに身体を密着させた。

「えっ・・」

急に密着してきたリュウキにびっくりしているが、少し顔を赤くして頷いた。

「やぁ」

「こんにちは、何かご用ですかな?」

にこやかな笑顔で挨拶をしてくる。

「すみませんが、ここの院長にお会いしたくて」

「私がここの院長ですが、なんのご用ですか?」

「実は妻と私の間に子供が出来なくて養子を迎えようと考えていたのです」

「えっ」

ルカが妻という言葉を聞いて顔を真っ赤にして挙動不審な動きをしている。

院長は顎に手を当ててルカをじっくりと見る。

嘘がバレたか・・・

「まだまだ若いように見えます。子宝にはこれから恵まれますよ」

「妻が傷付くのでそういう詮索はやめてくれ。実は事情があって妻は子供を授かれない。察して欲しい」

リュウキはムッとした口調で院長に言い放った。咄嗟に誤魔化す為に妻を庇う良い夫の役を演じてみる。

「あ、それは失礼しました、しかしここではある程度の寄付をしてくれる方を優先していますので申し訳ありませんが」

「そうでしたか、もう一度妻と相談してから訪れます。失礼します」

「行こう」

ルカに優しく声を掛ける。

こちらの声が届かないくらい離れてからルカが口を開いた。

「はあ〜、色んな意味でドキドキしました」

「でも、これでわかった。子供は簡単に預かるけど貰うのは簡単じゃない」

「では子供達はどこにいっているのですか?」

「おそらくどこかに売られている」

「なんて酷い事を・・」

「もう1箇所付き合ってくれるかな?」

「・・・夫婦を演じるなら先に言って下さい。その・・心の準備が必要です」


★★★


「お前らだけか?」

今度はルーカス伯爵の屋敷にお邪魔している。

ギルバートがリュウキに訊ねる。その質問の意図する所はクリスは一緒じゃないのか?って事だろう。よほど、この前の決闘の事が納得出来なかったみたいだ。

「ルーカス伯爵にお会いしたい」

「待ってろ。取り次いでやる」

無愛想に客室に案内された後、ギルバートが部屋から出ていく。

しばらくするとドアからルーカス伯爵が現れた。リュウキは礼儀として椅子から立ち上がり頭を下げる。

「構わん、座っていろ」

「恐縮です」

「そこのお前も座ったらどうだ?」

ルーカス伯爵は後ろに控えて立っているルカに声をかける。

「え?私のような下賎な奴隷が相席する訳には参りません」

「そこに立っていられると落ち着かんのだ」

「ですが・・」

「私が言っても聞かんようだ。リュウキ」

「ルカへの心遣いありがとうございます」

「ルカ、私の隣に座って」

「は、はい」

「失礼します」

ナザックさんが紅茶とクッキーを運んで来てくれた。

「ナザックさん、ありがとう。こちらでは上手くやれてる?」

「はい、大変良くしてもらっています」

「それは良かった」

「どうだ?1つ食べてみろ。なに遠慮はいらん」

ルーカス伯爵が紅茶を一口飲んでルカに向かってそう言う。

「あ、は、はい」

言われるままに一口クッキーをかじる。

サクッ

小気味の良い音が弾ける。口にした瞬間、口いっぱいに広がる甘さに目を見開た。

「美味いだろ?甘味が沢山使われている」

美味しさのあまりに自然と頬に手を当てる。足をバタつかせるような失礼を何とか我慢してお礼を述べる。

「私のような者へこのような過分な配慮、ありがとうございます」

「普段は奴隷として酷使されて大変だろう。一時の幸せがあってもいいだろう」

「お言葉ですが、ご主人様に酷使はされていません。厳しく苦労はありますが楽しくやっています」

「・・・ふむ、そうか」

ルーカス伯爵がリュウキを値踏みするような視線を向ける。

「それでなんの用だ?」

「最近、税が高くなってきています」

「お前のところは儲かっているって噂だぞ」

「貧しい者の生活は困窮しています。聞いた噂ではウィンチェ侯爵が税を増やして軍備拡張をしているらしいですね」

「・・・魔物が活性化しているという情報がある。それに備えているのだろう」

歯切れの悪い口調。否定は出来ないが本心は良くは思っていない感じだな。

「税金が高くなるから市民の生活は困窮して自分の子供を売っている。そしてウィンチェ侯爵は奴隷を買って軍備拡張している。これが本当ならよく出来た話ですね」

「・・子供の奴隷を戦いに使う?まさか・・ただの噂だろう?」

「噂といえば最近ではスラム街で失踪する者が増えているようですね」

「唐突になんだ?スラムで行方不明者が出るのはいつものことだ」

「おや?異常なほどの失踪者に気付いていらっしゃらない?まるで誰かが隠蔽しているみたいですね」

「何が言いたい?」

「魔物を討伐する為に人手を集めるならこそこそする必要はない。街道に出ている魔物を討伐しようとする動きがみられない。何と戦う為に人手を集めているのですかね?」

「貴様が口を挟むことでは無い。出ていけ!」

そしてルーカス伯爵の屋敷を後にした。

「上手くいった」

「追い返されたのに、ですか?」

「確かにあの孤児院もリュウキ商会も同じように悪いことしている。ただ、ルーカス伯爵にとってはあの孤児院の方が大きな問題だ」

「それはそうです。ご主人様はこんなにも奴隷に優しいのですもの」

「外れ。それはルーカス伯爵にとってはそれは考慮されてはない。例えば武器を抜き身で持って街を歩くと衛兵に取り押さえられる。そこに誰かを傷付ける意図があるかは関係ない」

「ではどうしてですか?」

「ウィンチェ侯爵のアデールの街の統治のやり方にルーカス伯爵は疑問を持ってる。だけど立場上逆らえない。そのウィンチェ侯爵が子供のしかも奴隷を雇おうとしたら騎士団は役不足と言われてるようなものだ。ウィンチェ侯爵がそう言わなくても周りはそうは思わない。騎士団にとって1番大切な面子が傷付けられる事になる」

「そうなのですか。勉強になります」

「もう日暮れだな。ルカは先に帰って休んでなさい。私はこの後、人と会う約束がある」

「・・大丈夫ですか?」

「ああ、大丈夫だよ」

























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