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第17話、貴族と決闘

リュウキ商会は少しずつだが確実によくなって来ている。

それを奴隷達は実感してきているようだ。

それは衣食住であったり、仕事であったり、奴隷の待遇であったり、昨日より今日、今日より明日と変化を感じられる。

それはリュウキのおかげであると実感して、尊敬や感謝を感じている者も増えてきた。

そんな毎日に水を差す出来事がリュウキ商会を襲った。

いつも通りクランハウスで商品を販売する準備をしている頃であった。

「この店の主人を出せ」

武装した兵士達が物々しい雰囲気で店に押し掛けて来てリュウキを出せと要求してきたのだ。

サリーは慌ててリュウキを呼びに行き、リュウキが奥から現れた。

「一体なんの用・・ぐわっ」

リュウキが現れるやいなや兵士がいきなりリュウキを取り押さえる。

「貴様には奴隷の不正売買の嫌疑が掛けられている」

「いきなり何を・・うわっ」

「喋らせるな。奴隷に命令を出されては面倒だ」

兵士が乱暴に床に押し倒すとリュウキの口に布のようなもので口に噛ませて後ろでくくる。

「ううーー!ううー!」

リュウキは抵抗しようとするが屈強な兵士の前では為す術もない。

「無駄な抵抗はするな!」

「うぐっ」

兵士は暴れるリュウキに蹴りを入れてるとリュウキは悲鳴にならない声をあげる。

「じっとしていろ!痛ッ」

頭に鈍い痛みを感じて兵士が振り向くとサリーがほうきを振り下ろしていた。

「ご主人様から離れなさい!」

「貴様ァ」

兵士は腰にある剣を鞘から抜き放ち、大きく振りかぶる。兵士の剣がキラリと光る。

「んんー」

まずいと思った瞬間、リュウキの身体は動いていた。

渾身の力で拘束を抜け出してサリーの前に飛び出していた。

ブシュッ

リュウキは背中に熱い痛みを感じた。そのまま床に倒れ込む。背中からドクドクと血が流れるのを感じる。

「ご主人様!」

サリーがリュウキを抱え込み声をあげる。

「すぐにポーションを!!」

「は、はい」

販売班の奴隷が慌てて戸棚から何本もポーションを取り出し持ってきた。

サリーはポーションを受け取るとリュウキの背中に直接振り掛けるとポーションの効果が現れ血が止まった。サリーはリュウキの頭をを膝の上に乗せて容態を見守る。

「大丈夫だ」

まだ背中に痛みはあるが処置が早くて失った血も少ない。

リュウキの声を聞いてホッとした顔をした後にすぐに兵士達を睨みつける。

「俺達は貴様達を救ってやろうとしているんだぞ!それを邪魔しやがって!ヒッ・・」

兵士が怒鳴り付けた後周囲を見て息を飲む。

奴隷達が全員が今にも飛びかかって来そうな気迫で兵士達を睨みつけている。兵士は剣を持ったまま後退りをする。

「こんな事をしてただで済むと思うなよ?」

今度は背後から背筋の凍りつくような殺気を感じる。

クリスが兵士の真後ろに立っていた。

奴隷の誰かが異変をクリス達に伝えに行ってたのだ。

「お、俺達はルーカス伯爵の兵士だ。手を出せばこの街には居られなくなるぞ?」

「言い残す言葉はそれだけか?」

クリスは冷えきった言葉でそう言って剣を握り、鞘から抜こうとする。

「そこまでだ!!」

一喝するような声が店内に響き、クリスは無言で手の動きを止める。声のする方を見るとそこには貴族と側近らしき騎士が現れた。

「誰だ?」

「この方はルーカス伯爵であるぞ。無礼な口は慎め」

「ルーカス?」

「ダメです。まだじっとしていて下さい!傷口が開きます!」

リュウキは心配するサリーの制止を無視して、立ち上がる。

ルーカス伯爵の事はゲーム内で知っていた。貴族、平民問わず起用している実力主義の優秀な貴族だ。

作中ではウインチェ侯爵の悪行に疑問を持ちつつも主従関係でやむを得ず従い敵対して主人公に倒される。民や部下からの信頼も厚く、敵であった事が悔やまれる人物だ。

「こいつが親玉か」

「無礼な口を慎めと言っているだろ!」

クリスの軽口に怒鳴っているこの騎士の容貌にも心当たりがある。ルーカス伯爵の部下で騎士団長のギルバート。

「・・・」

右隣で黙って立っているのが無口で強面の副団長ヴォルフ。

「た、大変な事になりました」

左隣でおどおどしているのが副団長に最近なった女性騎士のシンシア。

この3人の実力は確かな強さで何度も戦う因縁の敵役だ。

「育ちが悪いのですまないね。それでどうするつもりだ?」

「ここの店主には奴隷の不正売買の嫌疑がかけられている。拘束させてもらう」

「いや、もうそれは無理だろう。奴隷達の目をみろ。死をも厭わない覚悟の目だ。無理に連れていこうとすればこちらもそれなりの痛手を負う事になる」

「・・・」

ギルバートとクリスのやり取りにルーカス伯爵が口を挟むとギルバートは静かに口を閉じた。

「しかしこちらも手ぶらで帰る訳にもいかない。そこの娘1人で手を打とう」

ルーカス伯爵がサリーを指さした。

「・・・彼女をどうするつもりですか?」

リュウキはルーカスに問う。

「彼女は私の大切な友人の娘なのだよ。私は友人を庇う事が出来なくて死なせてしまった。せめてもの罪滅ぼしとしてその娘だけは救ってあげたい」

ルーカス伯爵に嘘をついているような様子はない。作中の人柄からしても言っている事は真実だろう。サリーの事を悪いようにするつもりはない事はわかる。それでいて立場的にウインチェ侯爵から守る事も可能だろう。むしろロザリーの存在を知る者が増えた今ではリュウキ商会にいるよりは安全だし、良い待遇を受けられるだろう。

「・・・わかりました。ただ、サリーの存在は秘匿してくれますか?それが条件です」

「ぬっ・・・」

ルーカス伯爵はウインチェ侯爵にロザリーの事がバレる事を気遣かっているように感じた。それがとても意外だった。噂されているような悪い奴隷商が気遣う事に違和感を覚えた。もしかしてこの男は悪い奴隷商ではないのかもしれないという疑念が芽生えた。

「一つ、奴隷達に質問したい。どうして我々に抵抗しようとする?そういう風に命令されていたのか?」

「私に生きる目的を与えた恩人だからです」

「ご主人様が居なくなったら他の主人に遣える事になる。そしたら本当の奴隷に逆戻りだ。そうなるくらいならここで死んでもいい」

「こんな優しいご主人は他にはいません。一生遣えます」

奴隷達の言葉を聞いて、ルーカス伯爵は自分が間違っていた事を確信した。この商人にロザリーを預けていても良いのではないかと迷っていた。

その時クリスが叫んだ。

「何を言っているんだ!リュウキ!どうかしてるんじゃないのか!」

「この人はそんなに悪い人ではない。きっとここよりいい生活が出来るだろう」

「違うだろ!それはサリーが決める事じゃねぇのか!物のように扱ってるんじゃねぇよ」

サリーの方に振り返るとサリーは青い顔している。

「わ、私は出来るならばご主人様と一緒に居たいです」

悲壮感を漂わせながらもはっきりとそう言った。

「・・・」

クリスの言葉がリュウキの胸に刺さった。サリーにとって良い未来を考えての決断だったが、サリー自身の考えを度外視していた。ルーカス伯爵の人柄を知らないサリーからすれば不安でしかないのだろう。

リュウキは言い返せずに言葉に詰まった。

ルーカス伯爵は黙って成り行きを見守っている。

「決闘だ」

「はっ?」

静寂を打ち破るクリスの突拍子もない言葉にリュウキは呆けたような声をこぼした。

「サリーを賭けて決闘を申し込む。俺が勝ったらサリーを自由にする事。負けたらサリーを好きにすればいい」

「クリス!馬鹿な事は言うな!」

「いいだろう。その決闘受けよう。こちらは代理人としてギルバートを立てる」

ギルバートが前に出てくる。

「ほう、そいつか?丁度いい。さっきからその鼻っ柱を叩き折りたいと思っていたんだ」

「決闘日時は?」

「いつでも構いはしねぇよ」

「じゃあ、今からだ」

ギルバートとクリスがクランハウスの外に出る。それにつられてゾロゾロと外に出ていく。

「ルーカス伯爵!やめてくれませんか?」

「君も観戦するといい」

リュウキはルーカス伯爵に決闘を止めるように懇願するがルーカス伯爵は微笑んで取り合ってくれない。

そうこうしている内にクリスとギルバートの決闘が始まろうとしている。

「仲介人はここにいる全ての者とする!勝った方が奴隷を手に入れる事が出来る。異存ないな?」

「ああ、いいぜ」

「では剣による決闘を始める」

クリスとギルバートが武器を構える。

「どちらが勝つと思う?」

ルーカス伯爵は楽しそうにリュウキに話し掛けてくる。

騎士団長ギルバート。ゲーム内では何度も戦う中ボス的な存在だ。出会い方が違えば仲間になっていてもおかしくないとさえ思わせる人物だ。

強敵ではあるが、今回は1対1だ。ゲームでのギルバートはヴォルフとシンシアの3人1組で行動している事が多い。

クリスも冒険者として多くの実践を積んで強くなっている。

だが、クリスもギルバート同様基本はパーティーを組んで行動している。

どちらが勝つとは一概に言えない。

ただ、気になる事がいくつかある。

「互角・・いえ、こちらが少し不利でしょうか」

「どうしてそう思うのかね?」

「クリスは冒険者です。そしてそちらの方は騎士です。決闘は騎士の土俵でしょう」

「どうしてだい?」

「同じ戦闘職でも冒険者と騎士は違います。冒険者は生き残れば勝ち。でも騎士は勝ち方にもこだわります」

「ほう、なるほど」

1つ目の気になる事は勝敗についてだ。そしてもう1つ気になるのはルーカス伯爵の余裕の素振りだ。

リュウキが思案している間に決闘が始まろうとしていた。

「その減らず口二度と叩けなくしてやる」

「おもしれぇ、やってみろよ」

両者の剣がぶつかる。お互い1歩も引かずに激しい攻防戦を繰り広げている。

兵士は剣術を習う。その剣術は過去の偉人達が試行錯誤を続けて今も進化し続けている型だ。ギルバートの動作1つ1つが洗練され無駄のない動きだ。

対してクリスは実戦の経験に基づく我流で応戦する。

「あの冒険者の青年は信念が真っ直ぐ通っていますね。先程の言葉には心を打たれました。彼が奴隷販売の不正、冒険者ギルドの利益横取り、奴隷を酷使して荒稼ぎ、そういった悪事を行う者に従うとは思えません」

決闘を観戦しながらルーカス伯爵はリュウキに話し掛けてきた。

「そして貴方も命懸けでロザリーを守ろうとしていた。私には貴方が悪人には見えません。ここで決闘に負けたとしても貴方ならロザリーを悪いようにしない気がします」

「ルーカス伯爵は本当にサリーの事を考えてくれていたのですね。私はこの決闘に負けてもいいと思えてきました」

徐々にクリスが押され始める。

「まさか冒険者風情がここまで粘るとは思わなかったよ」

「はん、まだまだこれからだぜ」

クリスの額には汗が滲んで息もあがっている。しかしクリスの目は全く諦めていない。じっと耐えてギルバート隙を伺っている。

「そうか、俺の本気もここからだ。本物の剣術というものを見せてやろう」

ギルバートの剣撃が速くなった。一気に畳み掛けるつもりだ。クリスは受け切るので手一杯になる。

「そろそろ決まりそうですね」

連撃に耐え切れずクリスの身体がよろめいた。その隙を逃さずにギルバートは渾身の一撃でクリスの剣を弾き飛ばす。勝ったと言わんばかりにギルバートは大きく踏み込んでトドメの一撃を振るう。

剣を手放してしまったクリスは意表を突いてギルバートに向かって飛び出した。

「なっ!」

そしてギルバートの懐に飛び込み強烈な肘打ちを当てる。

「グッ・」

普通の人なら剣を振ってくる相手からは逃げようと考える。だが、上手く間合いの外に逃げたとしても無手では負けてしまう。

クリスは相手の間合いの内側が安全だと知っているのだ。そしてそれを知っていても迷いなく実戦出来るには度胸が必要となる。経験と判断力はクリスの方が上だ。

「あの状態から反撃なんて凄いな。だが・・・」

膝をついて胸を押さえているギルバートに一気に畳み掛けようと駆け寄る。強烈な蹴りが無防備なギルバートの頭に襲いかかる。

「そこまで!!」

ルーカス伯爵の声にクリスはビタッと攻撃を止める。

「騎士かなんか知らねぇけど楽勝だぜ」

「ギルバートの勝ちだ」

「なんだって!どこに目をつけてやがる!」

怒りをあらわにして食って掛かろうとするクリスをリュウキが止める。

「・・・これは剣による決闘だ。剣以外の攻撃をした時点でクリスの負けだ」

「じゃ、じゃあ仕切り直しだ」

「いいぜ、俺も無様な姿ばかり見せてられない!」

いつの間にか立ち上がっていたギルバートもやり直しを求めている。

「純粋な剣術はギルバートの方が強い」

リュウキは首を振る。

「それではギルバートの勝ちでいいんだな?」

ルーカス伯爵が確認してくるとリュウキは頷く。

「はい」

「リュウキ!俺はまだやれるぜ」

リュウキはクリスの言葉に踵を返さずにサリーの元に行って隷属の首輪を外す作業に取り掛かる。

「あの・・ご主人様、私が居なくなると販売班は困りますよ」

「ああ、そうだな」

「他の子にも教えないといけない事が沢山あるし・・・」

「ああ、分かっている」

「わ、私に常連客も沢山ついているんですよ」

「ああ、どうにかする」

ガチャッ

隷属の首輪の外れた音がした。

「心配しないで、ルーカス伯爵は悪い人じゃない。きっと良くしてくれる」

「そんなの関係ない!わ、私!ご主人様とみんなと一緒に働いていたいです!」

サリーは目に涙を溜めて今にも泣きそうな顔でリュウキに抱きついてきた。

「この決闘は私の勝ちです。ロザリーをどうしようと自由です」

ルーカス伯爵の言葉にサリーの身体が強ばるのがわかる。

「ロザリーを自由にする自由もあります」

「えっ」

サリーは顔をあげてルーカス伯爵の顔を見る。

するとルーカス伯爵はニッコリ微笑んだ。

「ロザリーの事をよろしく頼むよ」

「しかし、隷属の首輪を外しているのがウィンチェ侯爵にバレたら・・・」

「何かトラブルがあれば私を頼って来るといい。力になるよ」

「ご主人様、もう一度隷属の首輪を着けてください。それで一緒に居られるなら本望です」

「私に付いてくるという事は困難な道が待ってる。その覚悟は・・」

「あります。絶対にお役に立ってみせます」

「お前もそれでいいな?」

ルーカス伯爵がそう言うと陰からロザリーの執事をしていたナザックが現れた。

「爺や!」

サリーの頭にこの前爺やが言っていた言葉が思い出される。

(絶対にお救い致しますので)

「まさか、ルーカス伯爵に頼み込んだの?」

「申し訳ありません。お嬢様が酷い目にあっていると早とちりしたようです」

「もう済んだ事よ。それより爺やは今どうしてるの?」

「あ、はい、貯蓄を切り崩して細々生活しています」

「ルーカス伯爵、お願いがあります。爺やの面倒を見てやってくれませんか?」

「ほう、丁度、優秀な執事が欲しいと思っていたところだ」

「主想いの優秀な執事です」

「わかった。ウチで雇おう」

これで全てが円満に終わったと思われた。

「次にやったら絶対に負けねぇ!」

「それはこっちのセリフだ!」

「「なんだと!」」

クリスとギルバートがバチバチと睨み合っている。

こうして困難を乗り越える事が出来たのだった。























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