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第14話、友好クラン

昨日の1件は想定外の出来事だった。

スケルトン50体の出現はバウアーがギルドに報告して騎士団にも通報されているはずだ。

今頃、この街のあちらこちらで噂になっているだろう。

だが、イベント通りに進むならこのアデールの街の騎士団より先に勇者が討伐に動くはずだ。

騎士団の部隊編成には時間がかかる。それにアデールの領主ウインチェは討伐にそれほど乗り気じゃない。

そして勇者がネクロマンサーを討伐した次に討伐されるのは盗賊だ。

盗賊と取り引きが出来るのも後数える程だろう。


今回のスケルトンから奪った奴隷と盗賊との取り引きで得た奴隷の数は60名を越える。

クラン倉庫はかなり広くスペースには問題ないが住居への改築が追い付いて来ない。しばらくは我慢してもらうしかないだろう。

食費や生活必需品も増えてかなり出費が増えている。初期の奴隷メンバーはようやく仕事を覚えてきて、収入も増えてきているのだが、今はその収入も食い尽くされている。

この教育期間さえ、耐えればリュウキ商会は大きな躍進を遂げられるのだが・・・

コンコン

「どうぞ」

「ご主人様、ギニア商会の方がお会いしたいとやってきています」

考え事をしているとミリアが部屋をノックして入ってきた。

「やはり来たか・・」

ギニア商会は奴隷売買を専門としている大商会だ。リュウキ商会が奴隷を使って商売をしているのにも気が付いている頃合だし、昨日の1件でバウアーがギルドに報告した事で奴隷を持ち帰った事も知られているはずだ。

「すぐに行く。接客室でお待ちしてもらって」

クランハウスの接客室に小太りで無駄に装飾品で着飾っている男が座っていた。その向かいにはミリアも座っている。

「お待たせしました。お初にお目にかかります。リュウキ商会のリュウキです」

リュウキは部屋に入って軽く頭を下げて挨拶をした後に席に着く。

「私はギニア商会のゾングだ。この辺りの奴隷売買を任されている。しかしここにローグ商会のご息女がいるとは驚きでした」

ゾングと名乗る男は椅子に座ったまま自己紹介をしてミリアを見る。

「お父様は関係ありません。他の商会でも商売の勉強したいと思い、ここで働かせてもらっています」


「なるほど、ご立派な考え方ですね。ギニア商会にも来て欲しいですね。手取り足取りお教えしますよ?」

「機会があればよろしくお願いします」

下劣な笑みを浮かべたゾングの言葉を小さく微笑みを浮かべて回避する。

ミリアは商会の娘として様々な商談で言葉を交わした経験がある。どんなに無礼な相手だとしても、不機嫌な表情を表に出さない。感情をそのまま言葉にすれば不幸な結末になることを知っている。

コンコン

「お茶をお持ちしました」

サリーがノックして入ってくる。

淹れたての紅茶をテーブルの上に置き、紅茶の入ったカップを私の前に差し出す。

サリーは貴族ということもあり礼儀作法もそれなりに知っている。

淡い色合いの紅茶から仄かな甘い香りが漂ってくる。

ソングに紅茶の入ったカップを差し出した後にソングの手がサリーの首に伸びる。

「キャッ」

いきなりの事でサリーが小さく悲鳴をあげる。

ソングの手はサリーのチョーカーを掴み、チョーカーの下からは隷属の首輪が見える。

「奴隷ですか」

「乱暴は止めて下さい」

ソングの嘲るような態度にリュウキが声を荒げて制止する。

「おっと失礼」

リュウキの言葉にソングがおどけたように手を離すが、これっぽっちも反省していない態度だ。

「それで何か御用ですか?」

人をコケにするような態度にリュウキは苛立ちを覚え、さっさと話を終わらせようと本題に入るように促す。

ミリアのように感情を隠して笑えない自分が少し情けない。

「白々しい。昨日の1件だ。ギニア商会の荷馬車が魔物に襲われた。奪われた荷物がここにある事は調べがついている。返してもらおうか?」

「それは出来ません」

ゾングの顔が一変して怒気を含みながらリュウキに言うが、リュウキもきっぱりと断る。

「浅ましいヤツめ。金ならここに金貨10枚ある。見たところ経営状態も悪そうですし、これをさっさと受け取って奴隷を返してもらおうか」

机の上にジャラと金貨10枚を放り出す。

「そんなはした金は要りません。どうせ金貨10枚で買って金貨20枚で売るつもりでしょう?」

「なんだと!出来たばかりのオンボロ商会の泥棒風情がつけ上がりおって!」

ゾングは唾を飛ばしながら怒鳴りつけてきた。

「冒険者は魔物から得た戦利品は奪った者にあると記されています。あなたに文句を言われる筋合いはありません」

「チッ・・さっきの娘もそうだが随分と奴隷を持っているようだがどこから手に入れた物だ?ウチの積み荷を奪ったんじゃないか?」

舌打ちを行なうと、怒りを込めた視線をリュウキに投げる。リュウキの方はと言えばとぼけた顔で受け流す。

「奴隷をどこで買おうが別に構わないでしょう?商人たるもの売ってくれた客の情報は守るものです。ギニア商会は違うのかな?奴隷の仕入れに人には言えないあくどい手口とかはないのかな?」

「不愉快だ。ギニア商会に盾突いてただで済むと思うなよ!」

ゾングは怒りで頬を赤くしてテーブルを強く叩いて帰っていった。



★★★



リュウキは酒場のテーブルでセラスからの報告書に目を落としながら飲み物を口にする。

もう夜に差し掛かる事もあって冒険者達で賑わっている。

「今日も皆お疲れ様。さぁ飲むぞ」

「おお!」

隣の席から声が聞こえて来てリュウキは顔をそちらに向ける。

先ほど見ていた報告書に書かれていた【グランツ】というAランククランの1つ。

アデールの街に拠点をおくAランククランは2つしかない。この街の冒険者なら誰でも知っている【エスパーダ】と【グランツ】

同じAランクといってもこの2つのクランは双璧を成しているわけではない。

この街の一番は?と問われれば殆どの者はエスパーダと答えるだろう。経験、実績、規模あらゆる面でエスパーダの方が一歩先をいっている。

グランツのリーダーは驚くべき事に女性だ。男勝りな性格でここまでクランを引っ張ってきた事に一定の評価を受けている。だが、最近は伸び悩んでいるようだ。

「さぁ、飲め飲め!今日は俺の奢りだ!」

女性の豪快な声が聞こえ、周りは盛り上がっている。

その中に1人だけ落ち込んでいる様子の男がいた。

「どうした?何しょぼくれてんだよ?討伐数が少ないのを気にしてんのか?」

女性リーダーもそれに気付いて声をかけている。

「俺はパーティーを抜ける。もうあんたにはついていけない」

「あんだと!もういっぺん言ってみやがれ!」

女性リーダーは男の胸ぐらを掴みあげた。

「あんたのそんなところが嫌なんだ!」

パーティーメンバーが今にも殴り掛かりそうな女性リーダーを押さえてた。

「アヤメさん、ここで揉め事はまずいですよ、俺達もこいつにきつく言い聞かせますんで」

「チッ・」

女性リーダーが腕を離すとその場はお開きになって女性リーダー1人だけ残った。

「どうしてなんだよ」

女性リーダーは悔しそうに呟いて酒を一気に煽る。

「私が冒険者だったとしてもあんたの下で働くのは嫌だな」

リュウキが女性に聞こえるようにそう言った。

「なんだと!俺が女だからって馬鹿にしてるのか!」

女性はリュウキを睨みつける。

「さっきの男の気持ちが分からないのか?」

「あんたには何が分かるって言うんだ!」

「部外者の私から見ても分かる事をあんたは分かってない。だからあの男も去ろうとしているんじゃないか?」

リュウキは席を立って酒場を出ていこうとする。

「・・・待ってくれ。その・・教えてくれないか?」

「ん?」

「俺の駄目なところを教えてくれないか!」

女性リーダーが頭を下げて頼んできた。

「わかった。私はクラン【リュウキ商会】のリュウキだ」

リュウキは席につく。

「リュウキ商会?聞いた事あるぞ。最近、奴隷を使って荒稼ぎしているクランだ」

女性リーダーが眉を寄せて不快な表情を浮かべる。

「嫌なのか?」

「いや、そんな事はない。俺は知っているだろうがクラン【グランツ】のリーダーのアヤメだ。自慢じゃねぇがグランツはこの街じゃ2つしかねぇAランククランの1つだ」

「へぇー、アヤメさんは女性なのに凄いな」

「なんだと?女がクランリーダーをやっているのがそんなにおかしいか!」

「おかしくはない。ただ、本当に凄いと思っただけだ」

「そうか。急に怒鳴ってすまない」

アヤメは女性という言葉に過剰に反応しているようにみえる。

「問題もその辺りにあるんじゃないか?どうして冒険者になったんだ?」

「・・・俺は小さい頃に冒険者の活躍話を聞かされて強い冒険者になる事を夢見て頑張ってきたんだ。でも周りは女性だからという理由で馬鹿にしてくる」

コップに入った酒を一気に煽るとコップをバンと乱暴に置く。

「だから男の真似をしているのか?」

「ああ、その冒険者の話も男が勇敢で力強くどんな困難にも打ち勝つ話だった。そんな風になりたかった」

「それがいけないのかもしれない。アヤメさんは女性だ。女性が男性の真似をしても本当の男性には勝てない」

「なっ!じゃあ俺はどうしろと?冒険者を辞めるべきだと言うのか!」

「早まるな。そうは言ってない。私が見た感じではアヤメさんは男の粗野で乱暴で荒々しい、そんな男性の短所が際立っている。男性らしさで勝てないなら女性らしさで勝てばいい」

「女性らしさ?今更俺に出来るのか?」

「やる前から諦めるのか?その冒険者の主人公はどうだった?」

「・・・わかった。やってみる」

「後は戦い方だ。今のギルドの戦い方は力こそがものを言う。そんな中では男性が有利な傾向にある。それを変える必要がある。明日にでもグランツで冒険に出よう。私もアドバイス役として参加する」



★★★



次の日、リュウキはアドバイス役としてグランツに臨時参加する事になった。グランツのメンバーはというとヒソヒソとこちらをみながら何かを話している。

リュウキに対する不信感がみてとれる。

「お前ら、あんまり邪推にすんな」

「へぇ、リーダーがそういうなら」

Aランククランだけあって街から離れた遠くの強いモンスターを狩りに出ている。

前方からオークの群が現れた。

「まずはいつも通りに戦ってみて」

「ああ、行くぞ!お前ら」

アヤメは頷くとオークの群に飛び込んだ。その後に続くように仲間達が走り出す。正面から次々とオークを切り伏せて全滅させる。腕前は流石Aランククランと言ったところだ。だが、この世界では見慣れた単調な力技だ。

「どうだった?」

鎧がオークの血で汚れたアヤメがリュウキに訊ねた。

「強いね。勇ましさを感じる。今度は私と一緒に後ろでみんなの戦い方を見ようか」

次のオークの群に遭遇するとメンバーに任せる事にした。

前回と変わらず全員が突っ込んでいくスタイルだ。

「後ろからだと普段は見えないものが見える。気付かないか?」

昨日パーティーを抜けると言っていた男がオーク相手に苦戦している。

「彼は結構無理をしてきてたんじゃないかな?アヤメさんはその事に気付いてましたか?怪我なんかしても乱暴な言葉を投げつけたりしてませんでした?」

「・・・」

思い当たる節があるのか、アヤメはハッとした顔をした後に弾丸のように加勢に向かい、オークを切り捨てた。

「リーダー?」

男は突然加勢して来たリーダーに不思議そうな顔をしている。

「お前が必死に頑張っている事に気付けなかった。俺はリーダー失格だ。すまなかった」

「いえ、昨日は言いすぎました。自分なりに頑張ってたけど思うような結果が残せなくてイラついていたんだと思います。やっぱり頑張ってもグランツでは役不足です。街に帰ったら正式にパーティーを抜けるよ」

「ちょ!ちょっと待ってくれ。お前今まで頑張ってきたじゃねぇか!苦楽を共にした仲間じゃねぇかよ!こんな結末は俺は認めない」

「そう言ってくれるのはありがたいのですが前々から考えていた事なんで・・・」

諦めている男にリュウキが声をかける。

「結論を出すのは少し待って欲しい。君は辞めたくて辞める訳じゃないよね?役に立てるなら残ってみたい?」

「ああ、こんな俺でもグランツの役に立てるならなんだってやるよ」

「君は攻撃力が低く防御力が高い。みんなに遅れを取らないように無理に攻撃しようとするから長所を殺してしまってるんだ。私の言う通りにやってみてくれ」

リュウキが男に立ち回りを説明してやる。

しばらく歩くとオークの群が現れた。

「今までより数が多い」

不安なのか少し怖気付いたように男が言う。

「大丈夫だ。上手くいく。仲間を信じろ」

リュウキが男の背中を軽く叩く。

男が飛び出しオークの群に突っ込む。

「倒そうとするな。防御だけに専念するんだ」

オークが振り下ろしたこん棒を盾で受け止める。続いてくるオークを武器で牽制しつつも後ろへと下がる。

オーク達は様子を窺うように距離とタイミングをはかる。

なんとか攻め崩そうとするが防御に徹した男に有効打を与えられずにいる。

均衡状態を作り、敵の注目を集めている。

「よし、今だ。全員突撃だ」

その隙を上手く突くてアヤメ達が攻撃すると、呆気なくオーク達は全滅した。

「・・あのこんなので良かったのですか?」

男は不安そうにリュウキに訊ねて来る。

「上出来だ」

「いつもは正面からやり合うから敵の反撃に気を付けないといけないけどそれを気にせず思いっきり剣をブン回せた」

「あれだけのオークを引き付けれるなんて凄いな」

「お前のおかげで簡単に倒せた」

グランツのメンバーは口々に褒める。

「大丈夫か?怪我はないか?」

アヤメが気遣いポーションを取り出して男に渡す。

それを見てリュウキが微笑む。

「女性らしさも出てきているみたいだな」

「そ、そうか?」

アヤメは少し照れている。

「浮かれるな。まだ1回成功しただけだ!今のやり方が身体に染み付くまで練習だ」

「おお!」

その後、なんの問題もなくオークを倒していった。

「今回は世話になった。本当に感謝している」

アヤメの態度が心做しか柔らかくなっているように思えた。

グランツの士気も上がってきている。

「ならこちらから1つ頼みがある」

「なんでも言ってくれ。力になれる事ならなんでもする」

「リュウキ商会と友好関係を結んで欲しい」

「それだけでいいのか?」

「リュウキ商会は冒険者のあり方を変化させようとしている。強さだけが全てじゃない。一人一人が長所を活かし、協力し合える場所に変えたいんだ。それをよく思わない者も多くいる。リュウキ商会が困った時にグランツに後押ししてもらいたい」

「わかった。協力しよう」

アヤメが差し出した手をリュウキはがっしりと握った。


★★★


リュウキ商会の執務室でリュウキはセラスにこれまでの事情を説明した。

「という訳でグランツと友好関係を築いた」

「わかりました。しかしよろしかったのですか?」

「あー、あの男を引き抜けなかったけどそれ以上の成果だったよ。これからもパーティーを抜けそうな者の情報を集めておいてくれ」

「わかりました」


★★★


この時期から冒険者ギルドでリュウキ商会とグランツの勢力が強くなっていく。

セラスが今回のようにパーティーから抜けようとする冒険者を積極的に取り込むようになった。以前は奴隷を扱う勢いがある新規クランという認識をされていたがグランツの後ろ盾が出来て一目を置かれるクランへと変わった。

パーティーを抜ける冒険者の大半は現在主流の攻撃特化パーティーから不遇な扱いを受けた者達。その者達を集めて新しい戦い方を教えた。更に火力不足を補う為にグランツと臨時パーティーを組みグランツとリュウキ商会はどんどんと活躍している。


「最近、変わりましたね。グランツの美人リーダーって噂されているのを聞きましたよ」

「やめてくれ、恥ずかしいじゃないか」

セラスとアヤメが酒場で話し合いをしている。リュウキ商会とグランツが友好関係を結んでから定期的に話し合いの場を設けている。

「アヤメさんとお近付きになりたくてリュウキ商会に加入してくる冒険者も多いんですよ?ウチで活躍したらグランツに加入出来るって。まるでウチはグランツの下部組織扱いですよ」

「いや、それは申し訳ない」

「冗談なので気にしないで下さい。リュウキ商会とグランツは目的が違いますからね。グランツはトップクランとして活躍する事が目的でしょう?リュウキ商会は冒険者の質の底上げを目的にしていますから」

「リュウキ商会が頑張っているおかげで新人冒険者の死亡率が下がっているみたいですね。それに冒険者ギルドの空気も以前より和やかになった気がする。今やリュウキ商会は冒険者ギルドにはなくてはならない存在ですよ」

「ありがとうございます。今後とも末永くよろしくお願いします」

「いや、こちらこそよろしく頼む」


























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