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第11話、奴隷教育

奴隷をのせた荷馬車がクランハウスに帰って来ると慌ただしくなった。

まずはサリーに頼んでスピカの店で買った服とボロ布を奴隷と一緒に荷馬車に詰め込み、水浴びをする為にクリス達で小川まで連れ出す。

奴隷にしっかりと身体を洗うように指示して身体を洗い終わった者からボロ布を渡して身体を拭いて新しい服に着替えさせる。

そしてまた荷馬車に詰め込んでクランハウスへ。

荷馬車から降りるとローグ商会で買ったパンを奴隷達に配って食べさせる。

本当はパンなんかより栄養のある物を食べさせたかったがそれが無理だったのは訳がある。

このクランには調理器具がない。クリス達は冒険中は干し肉などの簡単な物を食べる事が多いし、帰ってきても酒場で食事を済ませる。リュウキとサリーも宿生活だったので自炊しない。

じゃあ外食に連れて行こうと思うかもしれないが30名の奴隷が入店してもいい顔をされないのは明らか。トラブルの予感しかしないので却下。

今夜は簡単にパンだけで我慢してもらうが、栄養の足りていない奴隷にいつまでもパンだけを食べてもらう訳にもいかない。

栄養の観点からも自炊が必要だ。

クランハウスには大きな鍋などの調理器具や料理を盛り付ける皿やスプーンなどもない。火をおこす薪なんかも必要になる。

「サリー、今から追加で買い出しを頼めるか?大きな物も多いから荷馬車で行くといい」

サリーに買い出しを頼み、リュウキは奴隷の様子を見にいく。

クランハウスは広く奴隷達を収容するには十分な広さがある。広さはあるがただの広いだけの倉庫であって部屋はない。

奴隷達は倉庫の床に毛布を被ってごろ寝している。

しかしその事で奴隷達は不満を口にする者は1人も居なかった。

この世界では奴隷の扱いは酷いものだ。雨風をしのげて毛布も与えられるのは良い待遇と言っていい。


その夜、クランハウスで会議を始めた。

「今日はお疲れ様でした。明日は早朝から皆で奴隷の食事を作ろうと思っている。その後に私が奴隷を連れて薬師の森で薬草採集の仕方を教える。クランハウスに戻ったら薬草をポーションに加工もやってもらうつもりだ」

「私、孤児院で子供達に料理作ってました」

「やせ細ったあいつらにたらふく食わしてやろうぜ」

「僕も手伝うよ」

「何を作ろうか」

クリス達は乗り気になっているようだ。

「サリーには空いている時間に奴隷の世話をやってもらいたい。私がサリーに教えた事を教えてやって欲しい。やれるか?」

「はい、任せて下さい!」

「それと奴隷の住居スペースが欲しい。セラスはロビンさんに相談してきて欲しい」

「わかりました、会長」

バン!!

「リュウキ!わかってますよね?」

「・・・」

ずっと無言で聞いていたミリアが突然テーブルを両手で叩いた。周囲の者は何があったのかわからない様子で戸惑っている。その中でリュウキは何も言わずに黙っている。

「何かあったのか?ミリアさん」

セラスが恐る恐る声をかける。

「奴隷の数が多すぎます。いえ、奴隷にかける費用も多すぎます!奴隷購入代金にその衣食住。かなりの出費です。クリスさんに聞いた話では、一週間後にまた奴隷を購入するらしいじゃありませんか!このままでは破産するのは目に見えています。そもそもなんとかクラン運営が出来る現状で教育する手間もありません。奴隷の半数は今すぐ売却するべきです」

「ちょっと待ってよ!売られた奴隷はどうなるのよ」

サリーが強く抗議する。

「・・・さぁ?いい人に買われる事を祈るしかないわ」

「売られたら酷い目に合うんだよ。そんなの嫌だよ」

「だけど!これ以上の出費は破産する事になるよ。このクランも無くなってサリーも売られる事になるかもしれないのよ」

「でも・・・」

サリーは俯いて黙り込んでしまった。

「一度買った奴隷を手放す事はしたくない。奴隷の衣食住も最低限は維持するつもりだ」

リュウキが静かに口を開いた。

ミリアの睨み付けるような視線が突き刺さる。対照的にサリーはホッと笑顔を浮かべる。

「本気なの?」

「一週間後の買い付けまで経過を見て決める事でどうかな?」

「・・・わかったわ。でも一週間後にクラン運営が厳しい状況だったら奴隷を何人か売却する。それでいい?」

「わかった。ありがとう、ミリア」

こうして会議は終わった。


★★★


約束の日まで残り6日


翌日、サリーは奴隷達がいる倉庫に入った。サリーが来ても殆どの者が興味を示さず寝ている。顔をサリーの方に向けても直ぐに毛布を被って寝る。覇気が全くない。

少しでも長く休まないと過酷な労働に身体がついてこない。これまでの習慣なのかもしれない。

「はーーい、みんな、起きて、起きて。こんな天気のいい日に寝ててどうするのよ」

サリーが大きく手を叩いて起床を促す。ぞろぞろと奴隷が起き上がる。

「はーい、聞いて。私はご主人様から君達の世話をするように言われたサリー。私も同じ奴隷だから気軽にサリーって呼んでね」

サリーは首につけているチョーカーをずらすとそこには隷属の首輪が見える。

「ここで働く為に必要なのは笑顔です。一人ずつ鏡の前に立って笑ってもらいます。さぁ、さぁ君から」

奴隷の一人を指名して鏡のまえに立たす。

「笑って、笑って、こんな感じに」

サリーが一緒に並んで笑顔を作って見せる。

奴隷がぎこちない笑顔を見せる。

「んー、最初はこんなもんか。でもいいよ。ここに来て一番の笑顔だよ。でもね、ニヒヒ、一番の笑顔は直ぐに私が奪っちゃいますから覚悟しろよ~。とっておきの笑顔を見せてもらうから。あー、そうだ。それで鏡の前の自分を褒めるのも忘れないでね」

サリーはこうやってリュウキに教えられた事をちゃんと奴隷達に教えていった。


★★★


奴隷には料理が出きるまで休んでもらうことにして、皆で料理を始めた。

サリーが買った食材は大根、白菜、にんじん、じゃがいも、ネギなどの野菜にミルクと小麦粉と塩もある。

「まずは野菜の皮むきとカットからしようか。アイリスは慣れているみたいだから慣れてない人に教えてあげてね」

リュウキが全体に指示を出す。

「でりゃ!」

クリスが野菜をぶった斬る。

「クリス、なんで掛け声が魔物に斬りかかる時と同じなんだよ」

ブレンダが突っ込みを入れる。

「貸してみなさい」

包丁がこぎみよい音を立ててカットされていく。

「「おお!女子力」」

クリスとトマスが感嘆の声をあげる。

元貴族だったサリーは料理の経験はなく、セラスに教えてもらっている。

ミリアも豪商の娘だから苦手な様子だが、アイリスがサポートしてくれている。

「クリス、火をおこして、トマスは大鍋持ってきて」

戦力外通告を受けて暇そうな2人に指示を出す。

冒険者だけあって火のおこし方は上手い。トマスも大鍋を軽々しく運ぶ。

「よし、野菜を大鍋にいれようか」

そして軽く混ぜた後に蓋をする。

「これで野菜が程よく柔らかくなるのを待つ。ああ、クリス火は少し弱くして」

「あいよ」

「もういいかぁ」

蓋を開けて小麦粉を入れて混ぜて次にミルクを加える。最後に塩で味を整える。

リュウキは少し味見をしてみる。

「うん、野菜の旨味がよく出てる。それじゃあ、お皿とスプーンを皆に持たして並ばせて」

サリーが奴隷を呼びにいく。

「さて、今日から君達にはリュウキ商会の従業員として働いてもらう。まずはその貧相な身体をどうにかしないとまともに仕事も出来ないだろう。腹一杯食べてくれ」

サリーが大きな鍋に煮込んだスープを皿によそおっていく。そしてその隣ではパンが置かれている。

「わぁー、いいの?」

「どうぞ」

サリーの前に奴隷達が殺到した。

「大丈夫よ。沢山あるから好きなだけ食べれるから」

奴隷達は夢中になって食事を始めた。

その様子はまさに戦争と言い表してもいいくらい必死だった。

次第に奴隷達は腹を満たして静かになっていく。

「君達にはリュウキ商会の仕事の流れを紹介する。まずは薬草を集めてもらう。大丈夫、街の近くで危険は少ないちょっとした散歩のようなものだ」

何をするにしてもまずは体力作りだ。街の中をウォーキングさせても良かったのだが、いかんせんお金がない。どうせなら薬草を集めた方がいい。

そしてリュウキに引率されて薬草集めに奴隷達は出掛けた。

帰りは予定より少し遅くなったが全員無事に帰ってきた。

「さすがにこの人数に薬草の見分け方を説明するのは骨が折れるな」

30人もいるとなれば持って帰ってくる量も半端ない。

倉庫にどっさりと薬草の山が出来ていた。

これまでの食生活の悪かった奴隷達も疲れているようだ。

「疲れただろう?昼飯にしよう」

サリーに買ってきてもらったパンを奴隷達と一緒に食べた。

「午後の仕事に取り掛かるか。今度のは体力は必要ない。採ってきた薬草を調合するんだ。最初に手本を見せるから一人一人やって見てくれ」

リュウキがやって見せてその後に奴隷達にやらせてみる。

最初はぎこちなくやっていたが若い奴隷は物覚えが早い。すぐに慣れてくる。

その中でも突出してポーションの作り方が上手い者がいた。その者の耳はピンと尖って綺麗な顔立ちをしている。

「君はエルフか?名前は?」

「はい、エルルです」

エルフは長寿でその殆どを森で過ごす。

森で長年生活をしている種族だけあって薬草の取り扱いは慣れている。

出来上がったポーションを鑑定する。

ポーション(上質)

「ふむ、明日からエルルにポーション作りの指導を任せる。やれるかい?」

「人間へ教えるのは初めてですが、やってみます」

「それと見込みのある者を選別しておいてくれ」

薬草の調合が終わると続けて文字の読み書きや計算を教える。

「よし、次は作ったポーションを販売する。とはいえ、数学を知らなければ物は売れない。数学の勉強を始める」

こうして1日が終わっていく。

リュウキは今日1日を振り返り、奴隷1人ずつどんな作業が向いているのかを考えてメモをする。

そういえばドワーフもいたよな。

ドワーフは山に住んでいて背が低く、とても力持ちの種族だ。手先が器用な事で有名で鉱夫や鍛冶屋などの職人が多い。

「もしかしたら住居の増築を任せられるかも」

直ぐにドワーフの奴隷を呼び出す。

「お呼びですかい?」

長い髭を触りながらやってきた。

「えーっと名前はガンダで間違いないね?」

奴隷のリストを見ながら尋ねる。

「ええ、ガンダはあっしの事です」

「実は君達の住居スペースの増築を検討しているんだ。ガンダはドワーフだから作れるんじゃないかと思って」

「やれねぇ事はないが・・・」

「そうか、そうか、木材はこちらで用意するのでやってくれないか?」

「へぇ、やれと言われればやりますが道具が必要ですぜ?」

「わかった。今から一緒に買いにいこう。お金をとってくるんで少し待っていて欲しい」

リュウキはお金を殆ど持っていない。資金管理はミリアに任せてあるのでミリアを探す。

ミリアはクランハウスの事務室で書類とにらめっこしていた。

「少しいいか?買いたいものがあるんだが?」

「丁度いい。私もリュウキに話したい事があったんだ。昨日の話です。本当に奴隷を手放す気はないんですか?」

「昨日はありがとう。嫌な役回りをさせてしまった。本当なら私が言わなきゃならない事だった。感謝している」

「構いませんよ。私はやるべき事をやっただけですから」

リュウキからお礼を言われてミリアは少しだけ驚いた顔をする。

「ただ、手放すかどうかは昨日言ったように当日に判断して欲しい。サリーは昨日の件を気にして特に頑張ってくれている。サリーが諦めてないんだ。先に私が諦める訳にはいかないよ」

「不思議です。私も多くの奴隷を見てきましたが、リュウキとサリーさんのような主従関係は見たことがありません。普通の主人は奴隷を道具のように酷使し、奴隷は死んだような目で黙々と命令に従うものです」

「確かにサリーは奴隷らしくないように見えるかもしれない。だが、私が甘やかしているつもりはない。サリーは豊かな感情や自分の意志をしっかりと持ち、自由になりたい気持ちはあるだろうが我慢して働いてくれている。社会的身分は生まれ持った資質とは関係ない。自分では変えられない環境を受け入れて懸命に生きている。だから私が奴隷を使い捨ての道具のように扱っていいわけじゃない。個性を尊重せずに道具として使うと奴隷は必ずやる気を失い、仕事に悪影響を及ぼす。使う側、使われる側の双方が妥協点を見出だして両方が利益を得るのが好ましい」

「それがリュウキさんのやり方ですか?」

「不満かい?」

「そんなに上手くいくとは思えない。でも、信じてみたい気持ちもあるわ。答えは当日に見せてもらいましょう。それで買いたい物って言うのは?」

「ああ、実は・・・」

リュウキはミリアにこれまでの経緯を説明した。



★★★


約束の日まで残り5日


朝、サリーが奴隷を起こしに行く。

「はい、はーい。朝だよー。起きて起きて」

奴隷達が起き上がる中、小さな男の子が毛布にくるまったまま動かない。

「どうしたの?」

「家族に会いたい、友達に会いたい、ここにボクの居場所なんてない」

サリーがしゃがんで様子を伺うと男の子は泣いていた。

「大丈夫。君の居場所もきっとここにあるよ」

「どうしてそんな事がわかるの?」

「私も同じだったからだよ」

「えっ?」

男の子は顔をあげて意外そうな顔をした。

「そんなに驚かなくてもいいじゃん。私もたくさん、たくさん酷い目にあった。理不尽に思ったし、絶望もしてた。あ~、その顔は信じてないでしょ?」

「そんな事は・・・でも、それならどうしてそんなに笑顔でいられるの?」

「どうにもならない事を考えて、めそめそしてもつまらないよ。ご主人様を信じてみない?私は君と会えて嬉しいよ。私は君の家族にはなれないかもしれないけど友達にならなれる。いや、もしかしたら家族にだってなれるよ。ねぇ?ここに居場所を作ってみない?」

サリーは奴隷を優しく抱き締める。

「・・・」

「じゃあ試そうよ。私の事をお姉ちゃんって呼んでよ」

「・・お姉・ちゃん・・」

奴隷が顔をあげて小さく呟くとサリーは照れる。

「ニヒヒ、なんか弟ができるって嬉しいな」

抱き締めていた奴隷を放して奴隷達の方にむきなおる。

「それで皆にお願いがあるの。このリュウキ商会は資金が枯渇しているの。このままなら5日後に皆の半数を売りに出されるの」

ざわざわ。

ここでの奴隷の扱いはいい方だ。仕事は覚える事も多く大変だが、まともな食事もさせてくれるし、労働力として酷使される事も乱暴に扱われる事もない。ここを売られるとどうなるか?それを考えると不安な空気に辺りを支配される。

「私はそれを絶対に阻止したい。仕事を頑張って、売り値以上の価値がある事を見せつけたいの。協力して欲しい」

「・・ボク、やってみるよ」

「私もやる」

「ここでの生活は悪くない」

「そうだ」

「やらせてくれ」

先程の小さな男の子がそういうとそれを皮切りに賛同の声が聞こえてくる。

「・・・」

その様子を偶然通り掛かったミリアが静かに見ていた。

「あ、ミリアさん、昨日の売り上げです。昨日もたくさん売れましたよ」

「・・・そう」

サリーからお金を受け取って素っ気なく一言だけ言うとその場から立ち去った。

























































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