第10話、盗賊と交渉
「今日はどこに行けばいいんだ?」
「アビスの森にしようかと思っているわ」
クリス達とセラスが打ち合わせをしている。
「アビスの森で取れる果実が値上がりの兆しを見せてるのよ。それとアビスの森近くでオークの討伐依頼が出ているわ」
「わかった。果実の採集とオーク討伐だな」
果実の採集だけでは報酬は少ない。だから近くのオーク退治の依頼を上手く抱き合わせて効率的、且つ安全に収益を出す工夫がされている。セラスの手腕はなくてはならない存在となっている。
「おはよーございまーーす!!」
そこにサリーが活き活きとした様子で挨拶をしてきた。
「今日も市場に売りにいくのですか?」
アイリスがサリーにが話しかける。
「にひひ、今日はいい商品が入ったから沢山売れると思いますよ~」
「サリーさん、ご無理はされていませんか?困った事があればいつでも言ってくださいね」
アイリスは奴隷のサリーを気に掛けているようだ。
「あっ、それなら1つお願いします。常連さんから毒消し草の注文が入りそうなので取ってきてもらっていいですか?」
「それくらいなら大丈夫だと思います」
アイリスの心配は杞憂に終わった。アイリスはクリスの顔を窺う。冒険の決定権はリーダーのクリスにある。
「ああ、全然大丈夫だよ」
「じゃあ、お願いしますね。最近は魔物が活性化してるみたいだから気を付けてくださいよ」
「朝から賑やかだな」
ミリアがクランハウスに入ってきた。
「あ、ミリアさん、昨日の売り上げです。どうぞ。今月最高ですよ?」
ミリアはサリーからお金を受けとり、数えるとお金をしまう。
「へぇー、着実に売り上げが伸びてるね」
「でしょ、でしょ。まだまだ伸びるから見ててよ。それじゃあいってきまーす」
サリーは笑顔で出ていった。
「果実にオークに追加で毒消し草ね。大盛況だね」
ブレンダが皮肉っぽく言う。
「毒消し草の採集もするならこっちのルートで行くと効率的ですね」
セラスが地図を指さして説明を始める。
「それにしてもあの娘、元気になったよなぁ。最初はどうなるか心配してたけど」
「そうですね。今ではこうやって1人でアイテムを売りに行けるようにまでなって。お客さんや市場人達からの人気もあるみたいなんですよ」
「あれで奴隷なんだから凄いよ」
「会長が色々気遣っているのよ。それを会長に言うと元々のサリーの個性だよって謙遜するのだけど」
「奴隷に気遣いか。リュウキって変わってるな。そこがいい所なんだけどね」
「じゃあ、俺達も出掛けるとするか」
クリス達も冒険に出発した。
その後にリュウキが現れた。
「あ、会長、昨日の探索で手に入れた素材です」
「わかった。加工しておこう」
「それと以前よりご依頼があったここ城塞都市アデールとオズリン交易都市を結ぶ街道で動きがあったので報告させて頂きます」
「何があった?」
「街道でギニア商会の荷馬車が行方不明になっているようです」
「・・・そうか」
リュウキの顔付きが変わった。
街道でのイベントは2つある。
1つ目のイベントは魔族のネクロマンサーが起こす。街道の北側の洞窟を根城としてゾンビを使って街道を襲う。
2つ目のイベントは盗賊による襲撃だ。これは街道南側にある昔の古城を根城とした盗賊が街道を襲ってくる。
ゲーム通りに事が進むなら通行者にかなりの犠牲者が予想される。
「・・・」
敵の根城もわかっている。クリス達やギルドで冒険者を雇ったらおそらく潰せる。犠牲者を救う事は可能だ。
だが、損失が大きい。現段階では討伐依頼も出てないだろう。ただ働きをして資金を浪費していては今後この街を襲う厄災を乗り切れない。
そして1番恐れる事態は討伐する事で今後の未来が変わってしまう事だ。主人公達が倒して得るはずの経験値が得られない。そしてそのまま次のイベントに挑戦する。これは主人公の死を意味する。
イベントを2つ飛ばして次のイベントに向かう。すると自分よりひとまわりもふたまわりも格上の魔物と対峙する事になるのだ。
以前から考えてた。そして答えも決めていた。
足りないのは覚悟だけだ。
助ける命を選択する。
命の選択?神様にでもなったつもりか?
自問自答する。
「どうかしたの?深刻な顔をして」
ミリアが心配そうにクリスの顔を覗き込んできた。
「いや、なんでもない」
馬鹿馬鹿しい。もし全知全能の神であれば全てを救う。力が足りないからこそ選ぶのだ。
「セラス、今日、会議を開く。全員集めておいてくれ」
「わかりました。そのように手配しておきます」
★★★
その夜、クランハウスにリュウキ、クリス、ブレンダ、トマス、アイリス、セラス、サリー、ミリアが集まった。
「みんなのおかげでクラン運営は順調に進んでいる。感謝している。本当にありがとう。クラン運営は軌道にのったがもっとクランの勢力を拡大しようと思う。だから・・汚い事もしなければならない。その事を共感は出来なくても理解して欲しい」
「何をする気だ?リュウキ」
「オズリンとここを結ぶ街道が魔族と盗賊に脅かされている」
「魔族だって!」
皆の視線がセラスに集まる。こう言った情報はセラスが一番知っているからだ。
しかし、セラスは知らないといった感じで困惑して首を振っている。
皆がざわつく。魔族と人間は有史以来ずっと争って来た天敵だ。魔王が討伐されて以降数十年は静かにしていた魔族が動き出したという事は人類にとって存亡をかけた戦いが始まるかもしれない。
「会長、その情報はどこからですか?」
「・・・今は言えない。だけど信じて欲しい」
ゲームの内容はまだ誰にも話す訳にはいかない。漏洩して未来が不本意な形で変わるのは避けたい。
「いや、リュウキが嘘をつく人じゃないのはわかってる。だから余計に戸惑ってる」
「私は信じますよ」
サリーが真っ直ぐな瞳で言った。
「わかった。それでその魔族は俺達で倒せるのか?」
「いや、私達だけで魔族を相手にするのは難しいだろう」
「なら騎士団に援軍を要請をするべきだわ」
「でも騎士団は証拠がなければ動かないわ。説得出来ない場合はギルドに助けを求めましょう。ギルドなら証拠がなくても金さえ払えば助けてくれる」
「いや、魔族は放置する」
リュウキの一言で魔族討伐について話し合いをしているみんなの動きが場が止まった。
「えっ?何を言っているんですか!放っておけば罪もない人が被害に遭うのですよ!」
アイリスは凄い剣幕で抗議してくる。
「事情は話せないが、魔族の件は解決してくれる」
「被害は出ないんですか?」
「・・・」
リュウキは目を伏せてアイリスの質問に答えない。それが答えだというのがわかっているがアイリスが詰めよる。
「被害が出るんですね?そんなの間違っている!」
「私も間違っている思う。それでもだ」
アイリスはリュウキを睨み付ける。それをリュウキは真っ直ぐ見返す。視線を外さずに何かを読み取ろうとするかのようにじっとアイリスはリュウキの瞳を見つめる
「やめて下さい!ご主人様には言えない事情があるんですよ」
慌ててサリーが横から入ってきた。
「・・・わかりました。神はこの行いを許さないでしょう。私もその罪を一緒に負いましょう」
「それで私は盗賊と取り引きをしようと思っている」
それを聞いてアイリスの顔がピクっと少し反応したが黙って聞いている。
「クランの拡大の為に人員が必要だ。おそらく盗賊はギニア商会の荷馬車を襲っている。積み荷は奴隷だ。その奴隷を買いに向かうつもりだ。その護衛をクリス達にお願いしたい」
「・・・リュウキ、俺はあんたについていくって覚悟を決めている。地獄だろうが信じてついて行くぜ」
「ミリア、奴隷調達に資金を使いたい」
リュウキ商会の資金管理はミリアが行っている。
「わかったわ。それがクランリーダーの方針なら口は挟まないわ」
「サリー、連れ帰った奴隷の食料と衣服が必要になる。スピカの店で安くて清潔な服と毛布の買い付け、食料はミリアのローグ商会で頼む」
「わかりました。手配しておきます」
「セラスは引き続き冒険者ギルドで情報を集めて欲しい。街道で変わったことがあればまた逐一報告を頼む。他にも冒険者の情報も欲しい」
「わかりました」
「明日の朝に街道に出発する。皆、準備の方をしっかりと頼む」
リュウキは仲間たちに深く頭を下げた。
★★★
リュウキはクリス達に守られながら街道を進んでいる。
「アデールからかなり離れたな。そろそろ来るかな?」
「どうかな?盗賊と言っても全ての通行人を襲う訳では無いよ」
「優先順位があるって事?」
「まず、盗賊が考える事は身の安全。つまり相手が自分たちより弱い事。そしてそれに見合った利益がある事。護衛なしの荷馬車なんかはいい標的になる。荷馬車は鈍重ですぐに逃げられないし、お金になる商品も積んでいる」
「俺達はどれにも当てはまらないね」
「来てくれないなら直接行くまでだ」
リュウキは街道から小道に逸れて進んで行く。小道の先を見上げると鬱蒼とした森が続いている。
「ここらで十分かな」
リュウキは止まると大きく息を吸い込んだ。
「私は商人をしているリュウキ。ここの頭目に会いたい!」
リュウキが大声で叫ぶと茂みからガサガサと数十人の盗賊が出てきた。
「結構な数いやがるぞ。すっかり囲まれてる」
武器を身構えたクリスの背中に嫌な汗が流れる。
他のメンバーも戦闘体制に入る。
頭の禿げた大柄の体格の男が前に出てきた。見覚えがあるゲームの中ボスである頭目だ。
「お前達が商人?」
武器を構えたクリス達を訝しげに見ている
「私が商人でこの者達は護衛の冒険者だ」
「討伐に来た冒険者じゃないのか?」
「私はここの頭目と商売をしたいと思って来ました」
「信じられないな」
「カシラ、どうしやす?やっちまいますか?」
「私はここに来る前に親しい者に私が帰って来なければこの先の古城を捜索するように伝えてあります」
ハッタリだがこれで迂闊に手が出せなくなる。
「なんだと!」
「アジトを変えなくてはならなくなりますね。もう一度言いますが私はここに商談をしに来ました。もし潰す気なら騎士団にこの場所を通報していますよ」
「ぐぬぬぬ・・・わかった。それで商売とはなんだ」
「奴隷を買いたい。先日ギニア商会が奴隷輸送中に街道で消息を絶った。君たちの仕業だろ?」
「・・・いいだろう。アジトまで案内してやる。ついてこい」
こうして盗賊のアジトまで案内された。
盗賊のアジトの古城にはちゃんと見張りや門番もいる。かなり大規模な盗賊なのがよくわかる。
そして地下牢のような場所に案内された。
牢の中には痩せ細ってボロボロの服を来た者達が沢山入っている。
「エルフやドワーフの奴隷もいるぜ」
「待って下さい。酷い怪我をしている少女がいます。すぐに治療を!」
アイリスが叫んだ。
「アレか?俺たちがやったわけじゃねぇーよ。【買い戻し】って言ったっけ?変態貴族が奴隷を使って遊び尽くして用がなくなったら安値で買い取ってくれるらしい」
「そんな事はどうでもいいです!」
アイリスは盗賊の頭目をキッと睨みつける。
「随分と気の強い嬢ちゃんだな?」
「すみません。ちゃんと言い聞かせますので。クリス、トマス、ここで暴れられては困る。アイリスを押さえつけろ」
ここで戦闘になればかなり不味いのは理解しているようでクリスとトマスがアイリスの両脇に移動して腕を押さて後ろに下がらせる。
「離してよ!」
「我慢してくれ。ここで問題を起こせばあの子を助ける事も俺達も無事ではすまなくなる」
クリスは盗賊に聞こえない程度の小声でアイリスを説得する。
「それに見てみろ」
クリスが頭目と談笑しているリュウキの後ろ姿に目線をやる。
リュウキの手に固く握りこぶしが作られて小さく震えている。握りしめすぎてこぶしの中で爪が突き刺さっているのだろうか、血が流れている。
「怒っているのはリュウキも同じだよ。でもあいつは笑って対応している。全く嘘をつくのが上手いのやら下手なのやら・・・」
それを見てアイリスは暴れるのをやめて小さく呟く。
「離して下さい」
クリスとトマスが顔を見合わせてクリスが頷くと拘束を解いた。
アイリスがリュウキと盗賊の前にゆっくりと進み出る。
「落ち着いたか?」
リュウキが気付いて声をかける。
「はい、ご迷惑を掛けました」
アイリスは盗賊とリュウキに頭を下げた。
「気をつけろよ」
頭目の手前、気にするなと言うわけにもいかない。素っ気なく注意する。
「それで奴隷をいくら欲しいんだ?」
「ここにいる奴隷を全てだ」
「全部だと?30人はいるぞ」
「1人あたり銀貨80枚、全部で金貨24枚でどうだ?」
「バカを言うな!今この近くの街では奴隷の値段が上がってる。1人あたり金貨1.5枚から金貨2枚が相場だぜ?」
「確かに奴隷の価格は上がってる。ここいらの奴隷商売はギニア商会が仕切っている。奪った相手には売れない。ギニア商会の息のかかってない場所で売るか、時間をかけて売るしかない。移動費、食事代などの費用がかかるんだ。生かすだけの食事を与えるにしても費用がかかるのは知ってるだろ?」
「ぬぅ・・・」
「他に売るツテはありますか?売れなければ費用もかさむ。食事を与えず死なしてしまえば一文にもならない」
「わかった。その値段で売ろう」
「ありがとうございます。更にお願いなのですが全ての奴隷を運ぶ荷馬車がないんです」
「はん?買いに来たのに帰りの事は考えてなかったのか?」
「いえ、最初から荷馬車を連れて来るとあなた達に襲われる可能性がありましたからね。次からは荷馬車を連れてきます」
次から・・つまり今後とも付き合いをしたいという事だ。
「・・・わかった。荷馬車も売ってやる。お前の名前はなんて言ってた?」
「ありがとうございます。リュウキ商会のリュウキです。次は1週間後に来ようと思ってます」
商談が成立すると頭目から牢屋の鍵を受け取り、そのままアイリスに渡す。
アイリスは直ぐに牢屋の鍵を外して中に入る。
近くでよく見ると奴隷の少女の顔は腫れ上がり、あっちこっちの骨が折れている。
「なんて酷い傷」
「ううっ・・」
少女の意識がなく熱にうなされて額から汗をかいて苦しそうだ。
アイリスが回復魔法を施すと少女の顔から苦しさが消えてなくなった。
「もう大丈夫だよ。遅くなってごめんね」
アイリスが意識のない少女に謝る。そして他に怪我人がいないか見てまわる。
「あまり商品を乱暴に扱わないで下さいね。次回からは品質の悪い物は買い取り価格を下げますので」
治療しているアイリスを牢屋の外から眺めながら頭目に言う。
「けっ・・・わかったよ」
奴隷の治療が終わるとアイリスがリュウキの前に立つ。
「治療終わりました。リュウキさん、こちらに来てください」
アイリスに引っ張られて盗賊から距離を取る。
「もう大丈夫です。ゆっくりと手の力を抜いて下さい。治療します」
未だに強く握りしめられている手を見てアイリスが言う。
「必要ない」
「駄目ですよ」
リュウキは拒否するがアイリスはゆっくりとリュウキのこぶしを開けていく。そして開ききった手に回復魔法を唱える。
「これで大丈夫です。しかしこんなにも多くの子供達がいるなんて・・・」
アイリスはなんとも言えない顔をしている。
「貧しい者は口減らしに自分の子供を売る事が多いんだ」
子供の奴隷の需要はそう多くない。殆どの奴隷は使い捨ての道具だ。即戦力になる成人奴隷の方が価値が高い。
盗賊が言っていたエルフとドワーフも1人ずついた。
エルフはその美貌から性奴隷として使われる事が多い。ドワーフは力の強さから炭鉱で強制労働させられる事が多い。
リュウキからすれば労力の無駄使いだと思う。
奴隷を荷馬車に詰め込み、盗賊のアジトから出ていった。
「奴隷をこんなに沢山どうするつもりだ?」
クリスがリュウキに訊ねた。
「リュウキ商会で働いてもらう。素材集め、アイテムの制作、アイテムの販売やってもらう事は山ほどある」
「奴隷を買わなくても普通に人を雇えば良かったんじゃない?」
「・・・絶対に逆らえない労力が必要なんだ」
いずれ始まるこの街の存亡をかけた戦い。その時には逃げ出さずに戦ってもらおうと考えていた。死ぬ事を前提として買ったんだ。
「そっか。俺達はリュウキについて行くって決めたからそんな暗い顔するなよ」
クリスは軽くリュウキの背中を叩いた。




