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リトの町にて

何だかんだで9話目ですが、全然話が進んでいません。もっともっと頑張っていきます。

 ジオッソがその場から離れていった後、プリモと大勇者によって群衆は解散させられ、魔王子達は勇者連盟支部に連れていかれた。そのまま会議室に到着し、全員神妙な面持ちで長机を囲うのであった。


「…まずはすまなかった。俺の息子が迷惑を掛けたみたいで……」


 大勇者が頭を下げる。


「いえ、良いんですよ。大勇者様が謝らなくても…」


 そう言ったものの、ユウの顔はかなり険しかった。


「本当にすまない…アイツももう17になるからいい加減大人になって欲しいんだけど………言っても全然聞かなくてな…」


「…私より年上だったんですか!?」


 ユウは驚きの声を上げる。魔王子とヒショも、顔を見合わせた。


「彼の良くない噂は聞いた事がありましたが…ここまでとは……それなのに勇者達は彼の強さについての話ばかり…我々にはもっと大事にしなければいけない物が…」


 ストレスで胃が痛くなったのか、プリモは自分の腹をさすっていた。


「何なんですかアイツ!?いきなり攻撃してきて、挙句に私の悪口まで言いやがって…!オマケに剣まで向けてきやがりましたからね!ホントムカつく!」


「…勇者ちゃんに『しょうもない挑発に乗るな』って言ってたのに……」


 呆れた様子で魔王子が言ったが、それも我慢ならなかった様でヒショは机を叩いて立ち上がる。


「うっさいですねぇ!?アンタ達が何言われようが気にしないですけど!私の悪口は我慢ならないんですぅ!!」


 魔王とユウは最早言い返す気力を無くす程に呆れていた。


「………大勇者様のお子さんなのに…どうしてあんな考えをお持ちなんですかね?」


 小声でカゴが呟いた。誰にも聞こえないように言ったようだったが、大勇者にはしっかりと聞こえていた。


「…あの子の母親…つまり俺のカミさんだな…魔物に殺されてんだよ……」


「………っ!」


 驚きのあまり魔王子は立ち上がる。大勇者は魔王子の顔を少し見たが、すぐに話を進めていく。


「…俺はアイツに『恨んでも仕方ない』とは言っていたんだが…それが逆効果だったみたいでな……アイツはどんどん力に固執するようになっていったんだ…」


「………そうだったんだ…」


「…魔王子君、そんな顔しないでくれよ……俺達は戦争をしているんだ…いつ誰が殺されてもおかしくない…俺も沢山の魔物の命を奪ってきたからな……でも、これだけは知って欲しい…勇者連盟には魔物を恨んでる奴らは少なくない…1回ぐらいそういう奴に会ったことあるだろ?」


「……………はい」


 魔王子はメジハで出会ったトゥールの事を思い出していた。


「ユウちゃんと連盟の上層部が君達を認めてる以上、俺も君達を信じるつもりでいる。でも、反対する連中も多い事は忘れないで欲しい」


「…分かりました………でも…あの人のお父さんに直接言いたくないですけど…俺、彼の事は絶対許せない……!」


 先程までの優しげな雰囲気から一転、魔王子の体から凄まじいプレッシャーを伴った魔力が(ほとばし)る。そのあまりの変わりように流石の大勇者も目を見開いていた。


「……君が魔王子って聞いた時は半信半疑だったけど…どうやら本当みたいだな………その…アイツ、そんなに君を怒らせるような事したの?やっぱり、ユウちゃんやお付きの子を悪く言ったりした事かな…?」


「それもあるよ…けどジオッソは……子供を突き飛ばして…謝りもしなかった……!勇者ちゃんは泣き虫で勇者らしく無いかもしれないけど、人を傷つけるような事は絶対しなかった…こういう人が大勇者に選ばれるんだって思ってた…なのに!」


「アイツそんな事したのかよ………そりゃあ許せない……というか魔王子君、魔物の割に結構人ができてるよね…アイツにも見習って欲しいよ…」


 大勇者は大きなため息をついた。そんな大勇者を見て何か思う所があったのか、魔王子はゆっくりと落ち着きを取り戻していった。


「…ごめんなさい、少し熱くなってしまって……」


「気にすんなって!元はと言えば俺の教育が悪かったんだから…とはいえ、やっぱりユウちゃんを推薦して正解だったな!まぁ、上層部の連中からは非難轟々だったけどな!」


「はっ……でしょうね」


 ヒショはわざわざユウの方を向いて嘲笑する。案の定、ユウは泣き出してしまった。直ぐ様、プリモは大勇者をキッと睨んだ。大勇者の顔が一気にひきつる。


「あぁゴメン!そういうつもりじゃ無かったんだって!今はみんなユウちゃんの凄さは分かってるから!!」


 慌てて大勇者はユウを慰める。


「ぐすっ……本当ですか?」


「えぇ、貴方達の努力は見ただけでも充分伝わってきますよ。上層部の方々も来週の儀式を見れば手のひらを返している事でしょう…ところでヒショさん、貴女の人を小馬鹿にする態度は容認できません。以後、気を付けてください」


「……はーい」


 プリモからの注意をヒショは軽く流す。ユウは涙を吹いた後、机の隅の方でオロオロしているカゴが目に止まった。


「そういえばカゴさん、さっきはありがとうございました!すっごくカッコ良かったですよ!!」


「えぇ!?いや…そのぉ……」


「うん!すっごくカッコ良かったよ!!」


 ユウと魔王子から褒められ、カゴは恥ずかしさで顔が赤くなっていた。プリモはそんな彼女を見て少しだけ口角が上がっていた。


「カゴさん、詳しい事情は後で聞きますが…勇者連盟の人間に相応しい行動を取れたようですね」


「いや、そんな事…!!ただ、ケンカを止めようとしただけで……当然のことをしただけなので…」


「……その当然の事を行うのは意外と大変な事なのですよ?まだまだ足りない所だらけですが、貴女の将来には期待していますよ」


「……あ、ありがとう…ございます…」


 カゴの顔は茹で(だこ)の様な色になっていた。


(…あぁ、だからこの子をわざわざ連れてきたんだ)


 プリモの意図を想像して、大勇者は暖かな笑みを浮かべていた。


「……?何を笑っているのですか?」

 

「あぁ、別に何でもないですよ!とにかく、今日はすまなかった!来週の儀式までゆっくり休んでくれ!…あぁでも、ちゃんと本番に向けて調整しといてね!!」


 この日はこれで解散となった。


 — 次の日 —


「はぁ………ヒショさん全然起きなかったです」


 ユウは肩をガックリと落とした。時刻は午前9時、1時間前にはユウと魔王子は起床していたが、ヒショはユウが揺すっても叩いても起きる気配が一向に無かった。


「うーん…しょうがない、お昼までに戻ってくれば流石に起きると思うから…2人で出掛けよっか」


 少し寂しそうに魔王子は笑った。ユウは魔王子の気持ちを察してはいたが、正直な所、魔王子と2人っきりで出掛けられる事に少しワクワクしていた。


「そ、そうですね〜仕方ないですけどね〜♪」


 ユウは喜びを隠そうとしていたが、ハッキリ言ってダダ漏れであった。


「……じゃあ、行こっか」


 流石の魔王子も彼女の本心を分かっていたが、気付かないフリをして宿を出発した。


「「………………スゴい…」」


 町には既に沢山の人で溢れかえっていた。町中はまさにお祭りムードで、至る所に屋台が並び路面店には長蛇の列ができていた。


「…何か勇者ちゃんみたいな格好した人がいっぱいいるね」


「へ?あぁ確かに…多分、大勇者を決める儀式があるからそれで私達を模した服が屋台とか服屋で売ってるんですよ!…それにしても辺り一面人、人、人ですね」


「うん…じゃあはぐれない様にしないとね、はい」


 魔王子はユウの前に左手を差し出す。


「はい!それでは…ってえぇ!?」


 ユウはそのまま魔王子の手を取りそうになり、慌てて手を引っ込めた。


「………お、王子様?その手はその…繋いで歩こうって事ですか!?」


「…?うん、はぐれたら危ないから。手、繋ぐのイヤ?」


「いえいえいえ!そういう訳じゃ…」


 ユウの心は羞恥と喜びの間で揺れに揺れていた。魔王子からの好意は自分自身でもよく分かってはいないが飛び跳ねたくなる程嬉しく思えた。だが、いくら相手が魔族とはいえ同年代の異性と手を繋ぐのは彼女の中では尋常じゃない程ハードルが高かった。


(落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け…!!王子様はお優しいから下心とかも絶対無いですし!!!いやそれは分かってますけど!?男の人と手を繋ぐって子供の時お父さんと散歩した時以来ですし………うおん!)


 数分の間、沈黙が続いた。魔王子もユウからの返答をじっと待っていたが、彼女を見ると頭から蒸気が出ていた。


「ゆ、勇者ちゃん!?大丈夫!!?」


「大丈夫…です……その、手…繋いで行きましょう………」


 魔王子とユウは手を繋いで町を散歩する。ユウは緊張と照れで顔が真っ赤に染まっていたが、魔王子は平然としていた。ユウは昨日の一件もあり、注目されないかという不安があったが、幸いにも大勇者のコスプレをしたカップルも多く、自然に馴染めていた。


「…綺麗な町だね」


「……へ?あ!はい!そうですね…!!」


 魔王子への返答もどこかぎこちなくなっていた。ユウは平静さを保とうと必死になっていた。だか返って胸の鼓動は速く、大きくなっていった。


「ますます人が増えてきたね…メジハでヒショと手を繋いで歩いた時よりも本当にはぐれちゃいそ…痛っ!?」


 魔王子がそう言った途端、彼が痛みを感じる程にユウの手に力が入っていた。彼女の顔はすっかり冷めきっていて目も死んでいた…


「王子様…こういう事は誰彼構わずやらないで下さい。特に女性には」


「ご、ごめんなさい……」


 魔王子が謝るとユウはニッコリと笑ったが、とても心から笑っているようには見えなかった。


 しばらく町を歩いているといつの間にか繁華街の外れにたどり着いていた。2人は人混みで酔ったらしく、すぐ側にあった公園のベンチに座った。公園では沢山の子供達がキラキラした笑顔で駆け回っていた。町中よりは静かだったが、子供達のはしゃぐ声は街の活気にも負けておらず、とても楽しそうなその声は聞いているだけの2人にも心地のよいものだった。


「そろそろ戻りますか?流石にヒショさんも起きたと思いますし…」


「うん、そうだね」


 いつの間にか時刻は正午になっており、ゆっくりと2人はベンチから立ち上がった。だが、先程まで遊んでいた子供達が1箇所に集まって興味深そうにこちらを見ていた。


「…おねえちゃんってもしかして、だいゆうしゃこうほさま!?」


「え?そうですけど……」


「わー!すごーい!!ホンモノのだいゆうしゃこうほさまだー!」


 子供達のテンションが天よりも高くなる。そのまま2人は子供達の集団に囲まれてしまった。


「ねぇねぇ、フードのおにいさんもゆうしゃなの?」


「うん、そうだよ」


 魔王子は優しく答える。その笑顔に何人かの女の子が顔を赤らめていた。


「だいゆうしゃこうほさまとおにいちゃんってつきあってるの?」


「いえ!?ち、違います!?違いますよ!?」


「あははは!!おねえちゃん、かおがまっかー!!」


 昨日囲まれた時に比べ、子供達の質問はなんの遠慮もなかった。そして、そのまま流される様に2人は子供達と遊ぶ事になってしまった。


「キャーー!にげろーーー!!」


「えへへー!捕まえちゃいますよーー!!」


 ………


「おにいちゃんみてみて!!キラキラのどろだんご!」


「すごい!上手に出来たねー!!いい子いい子…」


 2人はとてもノリノリであった…


「…そして王子様はお姫様を助けるためにドラゴンのいるお城へ向かいました」


 子供達が遊びに飽き始めた頃、何人かがどこからともなく絵本を持ってきて、それを魔王子が読み聞かせをすることになった。ユウも何故か子供達に混ざって聞いていた。


(王子様優しい声だな〜…まるでお母さんに読み聞かせしてもらってるみたいで…心がポカポカしてきますね……そういえば、子供達にも何回か「お母さん」て言われてた様な…まぁ、聞き間違いですかね)


「…王子様とお姫様はいつまでも幸せに暮らしましたとさ、おしまい」


 魔王子がパタンと絵本を閉じたのと同時に、子供達から割れるような拍手がおきた。


「はぁー…いいお話でしたね〜………………ってちがーーう!!!」


 突然ユウが大声を上げる。そのせいで子供達は驚き、中には怖がっている様子の子供もいた。


「すみません皆さん!仲間を待たせてしまっているので今日はこの辺で!また良ければ遊びましょう!」


「…うん!またねーー!!」


 子供達の声を背に2人は公園を飛び出した。既に時刻は3時を回っていた。急いで2人は宿に戻ろうとしたのだが……


「あぁ!商品が転がっていっちまうぅー!」


「勇者ちゃん!!」


「急いでるとはいえ見過ごせません!」


 坂道を転がる果物拾いを手伝い…


「ひったくりよーー!!」


「え!?待てーーー!!!!」


 ひったくり犯を捕まえ…


「…すみません、急いでいるところを……」


「…いえいえ、全然良いんですよ…」


 ゴミ拾いも手伝う事になり…


「………夕方だね…」


「…夕方…ですね……」


 すっかり日が暮れてしまっていた。因みに、ゴミ拾いの後もペンキ塗りやら看板の修理やらで困っていた人も放っておけず手伝ってしまっていた。すっかり町中からは人混みが無くなっており、屋台も店仕舞いを始めていた。


「…確か夜は治安が良くないそうなので、犯罪防止のために儀式当日まで夜に屋台を出したりするのが禁止されてるみたいですよ……その分、当日の夜は凄いどんちゃん騒ぎになるらしいですけど」


「そうなんだ…ヒショ……流石に怒ってるかな…?」


 魔王子は目を細めて遠くの方を見始めた。ユウも気になり、彼の向いている方を見ると、見覚えのある人影があった。


「あれ…ヒショだよね?」


「…行ってみましょう」


 2人が近付いていくと、人影はやはりヒショであった。彼女は誰かと話している様子だった。さらに近づくと、ヒショと話しているのは子連れの女性で、ひたすらヒショに頭を下げていた。


「あの………本当に…」


「だからもういいですって…」


「ヒショ!どうしたの!?」


 魔王子がヒショに声を掛けると、ヒショは驚いた様子で振り返った。彼女は振り向いた時一瞬だけ笑顔になったが、その後すぐ怒った顔になっていた。


「アンタ達…私を置いて随分楽しんでたみたいですねぇ?」


「ヒショさん……まさかカツアゲでっ」

 パァーーンッ!!


 強烈な破裂音が響く。

 ……ユウからのあらぬ疑いに、ヒショは当然の報い(ビンタ)を放ったのだった。



— 数時間前 —



「アイツら…私を置いて出掛けやがりましたねぇ!?」


 ヒショは激怒していた。彼女が起床したのは午後2時頃であった。どう考えてもヒショが悪いのだが、イライラした様子のままヒショはフロントへ向かった。


「貴女は確か…大勇者候補様のパーティーメンバーの方ですね?」


「あ?……そうですけど?」


「大勇者候補様から伝言を預かっております。『先に出掛けてしまいすみません。耳元で叫んでも叩いても起きなかったので…お昼頃には帰ってきますので待ってて下さい』との事です。ここでお待ちになられますか?」


「……いえ、少し出掛けてきます。もうとっくに昼過ぎですし…アイツらが帰ってきたら痺れを切らして出てったとか言っといて下さい」


「………かしこまりました」


 ヒショは乱暴に扉を開けて宿を出発した。町は沢山の人で溢れ返っていたが、ヒショは気にせず人混みを押し退け突っ切っていく。


(アイツら…普通置いていきます?全く………まぁ、いいですよ。私は私で勝手に行動しますから!)


 心の中でイライラがどんどん膨らんでいく。それが外に漏れていたのか、周りの人間は彼女を避けるように歩いていた。そして数十分程歩いたが、特に考えもなく宿を出たせいかやりたい事も見つからず、気だるそうに木の幹に寄りかかる。


「はぁ〜…1人ってこんなに暇なんですね…」


 ヒショは心に小さい穴が空いた感覚を覚えたまま、その感覚を振り払えずしばらくぼーっとしていた。ふと周りを見るといくつか屋台が並んでいたが、1つだけ何故か人混みが落ち着いていた屋台があった。ヒショはふらふらとその屋台へ足を運んだ。


「…やぁ、いらっしゃい」


 理由は直ぐに分かった。屋台の主人は表の人間とは思えない程強面(こわもて)だったのだ。男は顔じゅう傷だらけで、愛想良く笑ってはいたがそれが返って恐ろしかった。だがヒショは特に臆することなく商品を吟味していた。


「…何ですかコレ?ガラスの…鳥?」


 屋台には鳥や少女を模した美しい作品が並んでいた。


「これはね、アメ細工だよ」


「アメ…?あのアメですか?ただのお菓子でしょう?」


「あぁそうだよ。でもこんな風にチョイチョイっとね…」


 店主は手のひらサイズのアメに筒のような道具で息を吹き込むと、手馴れた手つきで刃を入れていく。あっという間にアメは魚の形になっていた。


「おぉ……!」


 ヒショはすっかりアメ細工の虜だった。興味津々な彼女を店主は嬉しそうに眺めていた。


「…コイツはあくまで観賞用だから食べられないが…せっかく来てくれたからな!良ければ食べられるアメを1つサービスしよう」


「…………3つ下さい。2つ分は金払うんで」


 ヒショはアメを入れた袋を握りしめ、先程までとは打って変わって軽い足取りで歩き始めた。


(…ヒヒ、我ながらいい買い物しましたね〜♪これでアイツらにも……)


 ピタリと足が止まる。彼女の全身から冷や汗が吹きでていた。


(何で私は人数分キッチリ買ってんだーーーーー!?)


 ヒショは危うくアメを地面に叩きつけそうになり、間一髪のところで手を止める。


(アイツらの分を買うのになんの疑問も持たなかった…!わ、私もしかしてめちゃくちゃアイツらに(ほだ)されてる!?)


 ヒショは手をわなわなと震わせて膝から崩れ落ちてしまった。周りは彼女に目を向けない様に横を通り抜けていた。


「どうしよう…このままじゃ私……」


 知らぬ間に変わっていた自分への絶望が彼女に絡みつく。一方で、絶望を感じている自分へ喉に何か詰まる様な感覚を覚えていた。ヒショは背中を丸めてトボトボと歩き始める。しばらく歩いていると、いつの間にか大通りに出ていた。


「はぁ…もう帰りましょうかねぇ……アイツらも戻ってるでしょうし」


 シュンとしたままヒショは帰路に着こうとするが、ガヤガヤとした人混みに混ざって何かが聞こえた様な気がしてその正体を探す。


「うぇぇぇん…お母さん……」


「…迷子?」


 正体は子供の泣き声だった。少年は大声で母親を探していたが、周囲の人間は聞こえていないフリをして少年を無視し続けていた。


(……人間って意外と薄情なんですねぇ…まぁ、私にも別に関係ない事ですし…)


 ヒショも少年を無視して立ち去ろうとする。


「ひっぐ…うぐ…お母さん……」


「……………………」


「うぅ…うわぁぁぁん!!」


「……………………………」


「お母さん…お母さん……ぐすっ」


「……………………………あぁもう!」


「うぅ……むぐっ!?」


 ヒショは少年の口にアメを押し込んだ。少年はアメを舐めているうちに少し落ち着いたようで、アメが無くなる頃には泣き止んでいた。


「……お姉さん…誰?」


「アンタ…迷子ですか?」


「えっ?……うん…」


 少年は小さく頷いた。ヒショは少し苛立った様子でわざとらしくため息をついた。


「めんどくさいですねぇ……どこではぐれたのです?さっさと探しますよ」


「…!うん、ありがとうお姉さん!」


 ヒショは少年を連れて町中を歩きだす。少年は彼女の横に並ぶように一生懸命についていく。


「…で?何処で母親とはぐれたんです?」


「えっと…確か噴水のある広場だったはずだけど……」


「そこの場所は分かります?」


「…うん」


 少年の案内の元、ヒショは噴水のある広場にたどり着いた。


「………母親が戻ってくるかもしれませんからね…ここで待ちましょう、いいですね?」


 ヒショは腰に手を当てながら前屈みになり、不安そうに俯く少年の顔を覗き込んだ。


「…うん……」


 よく見ると少年の頬は少し紅潮していた。…少年にとってヒショの肉厚な太ももやそれを強調する短すぎるタイトスカート、前屈みになった事で少しだけ見える豊満な胸の谷間はあまりにも刺激が強かった。ヒショもその事に気付き、ゆっくりと元の姿勢に戻った。


「……エロガキ」


「ご、ごめんなさい!」


「まぁ、無理もないですよ。私のこの至極の肉体に魅了されない男なんて…居たわ、仲間内に」


「お姉さん、誰かと一緒に来たの?」


「えぇ…どうしようもないお人好し(バカ)2人とね」


「…?じゃあ、お姉さんは何で1人なの?」


「………あんたと同じで、はぐれたんですよ」


「……!そうなの!?………じゃあ迷子仲間だね!えへへ」


 ヒショの優しい嘘が少年に笑顔を取り戻したのだった。夕方頃になり、ようやく少年は母親と再開することが出来た。母親はヒショに何度も何度もお礼を言っていた。


「本当にありがとうございました!この子に何も無くて良かったです!何度お礼を申し上げれば…」


「あーはいはい、別にどうって事無いですよ…」


 そんなやり取りをしているうちに、ユウ達がやってきて先程に繋がる——


「お姉さん!バイバーイ!!」


 3人は親子を見送った。少年は姿が見えなくなるまでずっとヒショに手を振り続けていた。


「うぅ…まだヒリヒリします…」


「勇者ちゃん…流石に自業自得だよ…」


 魔王子の正論が勇者の胸に小さく突き刺さった。


「はぁ……全く、迷子になるぐらいなら手でも繋げって…あ」


「そうだね」


「…だからって手はもう繋ぎません!バカ王子…」


 照れ隠しで怒るヒショを2人は微笑んで見ていた。魔王子は心の底から彼女を愛おしく感じて笑っていたが、ユウの笑顔はどこか黒ずんだ雰囲気があった。


「ヒショ…人助けしてどうだった……」


「………別に…でもまぁ、たまには悪くないですね♪」


 ヒショは親子の笑顔を思い浮かべる。そんなヒショの顔はとても優しさに満ち溢れていたのであった。


「うーん…………」


「…王子?どうかしました?」


「やっぱり…ヒショがいると安心するなって」


「…へ?……そうですか?………その…私も1人より……みんなと…」


「え?1人より何ですか!?ヒショさん!!もっと大きな声で!!!!」


 ユウはここぞとばかりに目を輝かせる。


「…誰が言うかバーカ!!!」


 顔を真っ赤にしてヒショは逃げるユウを追いかける。そんな2人の追いかけっこを魔王子は微笑ましく眺めていたのだった。

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