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氷国の姫


 ノゾム達がギン王国に滞在し、かれこれ2週間が経過していた。刺すような陽の光が照りつける中、4人は国王のプライベートビーチへと向かった。勿論、ただ優雅に休暇を取っている訳ではない。砂浜に着くと、ユウは集中した様子で剣を構え、ノゾムもそれを見て静かに拳を構えた。そんな2人をパラソルの下でマールとヒショが眺めている。


「……たった2週間で明らかに強くなったッスね…ただでさえ元から強かったのに…」


「………飽きないですねぇ…毎日毎日…」


 …邪竜騎士が襲撃してきたあの時、ノゾム達は手も足も出なかった。ノゾムの『超人(イーヴィル)』と呼ばれていた力が偶然覚醒し九死に一生を得たものの、彼らはこれからの戦いに危機感を覚えていた。

 師から教わった事をノゾムとユウは一時も忘れた事はなかった。国王から誰も入ってこない広い場所…即ちプライベートビーチを借り、徹底的に基礎から修行をやり直した。修行し直すと聞いたヒショは相変わらず面倒くさそうな顔をしていたが、なんだかんだ真面目に修行に励んでいた。マールも2人に感化され——元からヒショと比べればやる気はあったが——2人と同じ内容に加えて、ヒショの修行にも参加していた。

 見違える程強くなったユウとノゾム。それでも、ヒショはどこか不安そうに組手をする2人を観察していた…


(これでも…アイツらに勝てるとは…)


「……ん?あれは……?」


 ヒショが立ち上がり、海へと目を凝らした。マールもじっと海を見つめる…遠くの方で波に揺れる何かが見えた。それは、潮に導かれるようにこちらの方へ近付いてきた。


「………あれは…船?」


 ヒショが呟く。彼女達が見ていたものは人が詰めれば2人は乗れるか、と言うくらいの小舟だった。試合をしていたノゾム達もヒショの様子がおかしい事に気付き、戦いの手を止めた。


「ヒショさん!どうかしましたか?」


 ユウが声をかけた。ヒショは返事をする事はなかったが、小舟の方へ指を差した。指された方を見て、ユウ達は漸くそれの存在に気付いた。


「舟…?随分小さいみたいですけど…」


「……近付いてみよう」


 すると、ノゾムはなんの躊躇もなく海に入ると、舟の近くまで泳いでいく。そして、あっという間に到着したノゾムは舟に手をかけて中を覗いた…


「………!みんな!」


 舟には、力尽きたように横たわる…少女がいた。


 ノゾムは直ぐ様、舟を砂浜まで運び、そのまま一行は大慌てで偶然近くを通った兵士を呼んだ。いまいち状況を呑み込めていない兵士だったが、その少女の顔を見た途端、血相を変えて城へと走っていった。


 …………数時間後。


 少女は何故か城内にある、やたらと豪華な寝室へと通された。一方のノゾム達は玉座へと呼ばれた。国王はひどく憔悴した顔でノゾム達を出迎えた。


「……………」


「国王様…?あの方は誰なのかご存知なのですか…?」


 ユウからの質問に、国王はハッとして顔を上げた。やはり、と言うべきか彼もこの状況に困惑しているようで、自身の考えを整理するようにゆっくりと口を開いた。


「……彼女は……ここから北にある孤島にある国…『コルデ王国』の姫…ラフレ様です…!」

 

「お姫様…ですか……?でも、何でそんな人が小舟に…?」


 王は一際大きなため息をついた。まるで、嫌な予感が当たってしまった…そんな思いを吐き出す様だった。


「……実は、10日程前からコルデ王国と連絡が取れなくなっていたのです…一度、遣いの者を向かわせたのですが、その者達とも連絡がつかなくなり…一体、何がどうなっているのか……」


 …王は再びため息をついた。と、同時にユウが少し顔を顰めている事に気付き、彼女と目が合った。彼は何となくユウの思いに気付き、彼女が口を開く前に頭を下げた。


「申し訳ありません、大勇者様…ただでさえ、皆様にお力を借りている手前、これ以上…ご迷惑をおかけしたくなかったのです……」


「……王様…」


「………しかし、もしかしたらこの一件、我々のだけの手では負えないものなのかもしれません……」


 …王の言葉に一瞬の間、沈黙が流れた。その時、部屋の外からその沈黙を吹き飛ばすような兵士の叫び声が聞こえてきた。


「お待ちください!!」


「いけません!まだ安静にしないと…!!」


 必死に呼び止める兵士の声、しかし中々その声は止まず、徐々にこちらの方へ近づいているようだった。そして、兵士達の声が部屋のすぐ側まで来ると勢いよく扉が開かれた。


「ギン国王!!!どうか…助力を…!!」


 堂々としつつも…今にも泣き出しそうな声で部屋に入ってきたのは、先程まで寝ていたはずのラフレ姫であった。


「ラフレ様…!体調はよろしいのですか…!?」


 彼女の体調は見るからに悪く、今にも倒れそうな程足元がふらついていた。王が心配そうにラフレ姫に近づくが、間に合わず彼女は崩れ落ちるように跪いた。それでも彼女は必死な形相で縋るように王に手を伸ばす。


「今はそんな事を言っている場合ではありません!!早く…早くしないと……兄上が…コルデ王国が…!!!」


 悲痛な叫びと共に限界が来たのか、ラフレ姫は咳き込みながら項垂れてしまった。咳が収まると、再び彼女は叫ぼうと顔を上げる…そこには細くも頼もしい手が差し伸ばされていた。


「……貴女…は…?」


「…初めまして。大勇者、ユウです」


「…………大勇者…様…!?」


 結局、ラフレ姫は兵士に連れられ寝室へと戻された。だが、先程までとは違い彼女は落ち着きを取り戻し、紅茶が注がれたカップをゆっくりと飲み干した。

 ラフレ姫と一緒に付いてきた一行は、彼女が口を開くまで静かにカップの紅茶を覗いていた。


「……先程は取り乱してすみませんでした…ただ、本当に時は一刻を争うのです…」


「その…ラフレ様?一体…コルデ王国に何が…?」


 すると、ラフレ姫はカップを置いた途端部屋から立ち去ろうと座っていたベッドから身を乗り出した。ユウが慌てて止めようとするが、彼女は一切聞く耳を持たない。


「あ、あの!?ラフレ様!!?一回落ち着いて…」


「…国王にお願いして、船を1隻お借りします。皆様にも付いてきていただきたいのです…何があったのかは、向かう途中でお話します!」


「え……えぇ…」


 結局、彼女を止めることは叶わず、言われるがまま一行はギン王国を出発するのだった…

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