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修行開始!!

4話目です…もう少し話を進める気でしたが、かなり長くなってしまいそうだったので分割することにしました。


ドラゴンボールの映画面白かったな〜あんな風に面白い話書けるようになりたいよな〜頑張らなきゃな〜

 ツギ村の人々が隠そうとしていた秘密、3人は改めてその秘密を口外しないことを約束し、ツギ村を後にした。昨日も通ったはずの森の中は、薄気味悪さなど何も感じなかった。それどころか木々の間から漏れる陽の光は清々しくも見えた。3人がメジハに戻ってきたのは丁度昼頃だった。彼らは早速、勇者連盟の事務所へ向かった。


「…つまり、魔物の襲撃でアンタ達と連絡が取れなくなって下手に村を離れることも出来ず…」


「音信不通になっていた、ということですね。…報告ありがとうございます。任務完了です、おめでとう」


 事務長は隣にいたカゴと共に拍手をして3人を祝福する。ヒショは上手く嘘を織り交ぜ、約束通りに秘密を隠し通した。それを横で聞いていた2人は、ヒショのアドリブ力に感心していた。


「…それでは、報酬の方をお渡ししますね!この調子で今後も頑張ってください!」


 カゴは袋を取り出し、魔王子に手渡した。袋の中には、3人が前日に貰った程では無かったがそこそこの金額が入っていた。3人は任務成功の喜びでハイタッチを交わした。


「事務長さん!カゴさん!ありがとう!もっともっと頑張るね!!」


 魔王子はそう言い残し、2人を連れて連盟事務所を飛び出した。


「………とはいえ、まだまだこれから、と言った所でしょうかね…」


 長めのため息と共に事務長は椅子に座り、机に両肘をついて両手を組んだ。


「……………本当に、これで良いのですか?」


 カゴは事務長に恐る恐る尋ねる。事務長は少し眉をひそめ、カゴの方へ体を向けた。


「………というと?」


「そ、その……先輩から聞いたのですが、ツギ村にはあまり良くない噂があると…魔物達に力を貸している……そんな噂が…」


「…今となっては我々も同じようなものでしょう」


「そうかもしれませんけど…連盟本部からも何度もツギ村について詳しく調査してこいと通達が…」


 その言葉が出たあとからカゴも事務長も黙り込んでしまった。事務長は机に体を向き直し、再び肘を机について目を閉じた。……静かな時間がしばらく続いた。先に口を開いたのは事務長だった。


「……………時代が、変わろうとしているのですよ」


「へ?………時代が、ですか?」


 突拍子も無い言葉に、カゴは間抜けな声で聞き返してしまう。


「……大勇者候補が、あと4ヶ月で力をつけ正式に大勇者に…例え大勇者になることが出来なかったとしても、魔王子と共に強力な魔物を倒す程に成長すれば…もしかしたら、魔物と人間が共存する世界を我々は迎えるかもしれません」


 事務長の予想に、カゴは何も言えず、ただただ愕然とすることしか出来なかった。


「〜♪お夕飯♪お夕飯♪」


 すっかり日も暮れ、魔王子達は勇者連盟の宿泊施設で夕食をとることにしたのだが、何故かそこにユウの姿がなかった。


「あれ?勇者ちゃんは?」


「もう夕食は済ませてあるみたいですよ…さっき部屋を覗いたらスゥスゥ寝息立ててましたよ…それなりに疲れていたんでしょうね…」


「そっか…」


 魔王子は少し寂しそうに微笑んだ。彼はヒショの座っていた席の向かいに座った。ユウだけでなく2人も疲れが溜まっていたからか、食事中にはあまり会話が無く、お互い何か話題を振ってもあまり弾まず直ぐに話が終わってしまった。


「……?」


 もう少しで夕食も食べ終わると言う時に、魔王子は後ろから聞こえた男達の会話が気になり、耳をそちらの方へ傾ける。


「おい、聞いたか?大勇者候補サマがメジハに来てるらしいぜ!」


「マジで!?あの歴代最強とも噂されてるジオッソさんが!?」


「…いや、どうやら女の候補の方らしい」


「なんだよ…確か、その女の方って歴代最弱なんて言われてるらしいじゃねえか!」


「全く…そんなに弱いやつが何で大勇者様直々のご指名を受けたんだ?俺の方がよっぽど強えのによお!」


「あのなぁ、ライバルはジオッソさんなんだぜ?あの人、現大勇者様の息子さんらしいからな…お前勝つ自信あるの?」


「…確かに、どの道無理だな!恥だけかかされる他の候補達も可哀想だなぁ!ガハハ!」


 …魔王子は苦虫を噛み潰したような顔をしていた。事実とはいえ、仲間をバカにされ怒りで手に持っていたフォークが震えていた。だが同時に、ユウがここにいなくて良かったとも思った。仮に彼女が聞いていたら彼の想像している以上に傷付いただろう。彼女の決意が折れてしまう可能性も十分考えられた。それでも、心の中では圧倒的に怒りと悔しさが勝っていたのだが。


「…王子、あんなの放っときなさい」


 ヒショは呆れながら言う。魔王子はハッとした様子で彼女の方を見た。直ぐに言い返そうと彼が口を開けた瞬間、残っていた夕食を口の中に突っ込まれ口を塞がれてしまった。


「!?…む、むぐ!!」


「いいですか王子?私達はあと4ヶ月であの泣き虫を強くしなきゃ殺されちまうんですよ?文字通り、死に物狂いで強くならなければいけないんです!いちいちあんなのに構ってたら間に合いません」


 紛うことなき正論。魔王子は口の中の物をどうにか飲み込んだ。間が空いたことで少し冷静になることが出来たようで、彼は彼女の言葉にゆっくりと頷いた。


「...ごめんなさい」


「…まぁ、現大勇者がわざわざご指名したのですから多分大丈夫だと思いますけどね…」


 ヒショはそう言いながら背もたれに寄りかかってコップに入っていた水を飲み干した。その間、魔王子は何故かニコニコしながら彼女を見つめていた。ヒショは妙にその顔が気になりコップを乱暴に置いて魔王子を見つめ返す。


「何ヘラヘラしてやがるんですか?」


「ううん、ヒショって凄く良い人だなって思ってさ」


「は、はぃ!?」


 「良い人」…ヒショはこんな言葉とは縁もゆかりも無かったので、衝撃で椅子から転げ落ちそうになってしまう。


「ん、んな訳ないでしょう!!」


「...?何で怒るの?俺やデカブツさん達の事も助けてくれて、勇者ちゃんの事も凄く気にかけてくれてるのに?口は悪いかもしれないけど俺はヒショの事凄く良い人だと思ってるよ」

 

「あ、アンタ達を助けたのは成り行きでそうなっただけで…!あの泣き虫勇者の事だって、自分の命が惜しいだけで…」


「…それに、どんな理由でも勇者ちゃんなら大丈夫って思ってくれてるんだから…やっぱり、悪い人だとは思えない」


「うぐ…!きょ、今日はもう寝ます!!!!」


 ヒショは魔王子からの真っ直ぐな言葉に耐えられなくなり、机を叩きながら席を立つ。そのまま彼女は早足で部屋へと戻っていった。魔王子はそんな彼女をただただ微笑ましく眺めていたのだった。


「…バカ王子」


 そんなことを呟いたヒショの顔は真っ赤に染っていた。



―次の日―



「勇者ちゃん!!危ない!…ガッ!?」


「王子様!?ゆ、許しませんよ!!」


 3人は勇者連盟から、メジハの近辺にある水辺に現れる小型の魔獣の討伐依頼を受け、依頼対象と戦闘を始めたのだが…


(魔獣…自然界の魔力から生まれたケモノ。私達魔族よりも筋力がある種類もいるみたいですが、所詮はただのケモノ…しかもあんなに小さいヤツらならてんで大したことは……)


「って言いたかったんですけど…」


「ハァハァ…ハァ………」


「や、やりました!依頼達成です!」


「…何でこんなに時間かかっていやがるんですか!!」


 …戦闘開始からかれこれ1時間は経過していた。普通の勇者であれば戦闘自体は数分で終わるような相手だったのだが。2人の弱さは想像を絶していた。ユウの剣筋はフラッフラであり、プリンすら切れるか怪しいほどであった。魔王子に到っては一方的に攻撃され続けていた始末だった。


「アンタ達!私がせっかく筋力の強化魔法をかけてんのに!ふざけてんですか!?」


「ご、ごめん…勇者ちゃんを庇うのに必死で…」


「お、王子様!?滅茶苦茶噛まれてましたけどお怪我は?…あれ?無い?」


「コイツは自分の魔力で肉体を再生出来るんですよ!でも、戦えないんじゃただのサンドバッグですけどねぇ!」


 ヒショは皮肉交じりに怒鳴った。怒りで興奮したまま、ヒショは疲れで座り込んでいたユウの耳を引っ張りさらにキレ始めた。


「痛い痛い!ヒショさん!落ち着いてぇ!!」


「アンタは何ですか!!やっぱりやる気ないんですか!?一応言っておきますけど私達の命掛かってるんですよ!?」


「えぇ!?そうなんですか!?何でそんな大事なこと黙ってたんですか!?」


 ユウは痛みと衝撃的な事実でまた半泣きになっていた。ヒショの怒りはさらに膨れ上がっていく。


「どうせ泣いて終わりだと思ったからですよ!泣く暇あるんだったら早く強くなりなさい!ポンコツ!!!!」


「ご、ごめんなざいぃ!」


「ヒショ、もうその辺で…」


「人の事言えた口じゃないでしょう?バカ王子!!」


 魔王子はヒショの止めに入るが、すぐさま彼女は魔王子の胸ぐらを掴んだ。


「アンタ本当に魔王を倒す気あるんでしょうね!?どうするんです!?あと4ヶ月もないんですよ!?」


「そ、そうだけど…地道に頑張るしか…」


 ヒショは舌打ちするのと当時に、乱暴に魔王子を突き放した。すると、彼女はヒョロヒョロと座り込み頭を抱え込んだ。


「……やっべぇ、どうしよう…」


 ヒショの頭の中は絶望感で満たされていた。魔王子とユウも改めて自分の弱さを突きつけられ、意気消沈してしまい、ヒショの隣で座り込んでしまった。そのまま数十分程が経過した。


「…そろそろ報告しに戻ろっか」


 最初に声を出したのは魔王子だった。


「……そうですね。とにかく、こうやって実績を積み重ねないとですね…」


 ヒショもさすがに落ち着きを取り戻し、ゆっくりと立ち上がる…その時、遠くから聞き覚えのある咆哮が聞こえた。3人とも、とても嫌な予感がした。


「…ヒショ」


「…はい」


「ここって初めて勇者ちゃんと会った所だよね」


「…はい」


「…確か、その時勇者ちゃんって」


「…私、魔獣に追いかけ回されてました」


「それで、この聞き覚えのある鳴き声…」


 嫌な予感は的中した。3人の方へ巨大な牛型の魔獣が突進してきていた!


「「「逃げろーーーー!!!!!!!!!!!!!!!!!!」」」


 3人は一目散で逃げ出す。全員、逃げ足だけは異常なほど速かった。このまま走り抜ければまた逃げ切れる…そう思った時だった。


「ニュエッ!?」


 地面の窪みに引っかかり、勢い良くユウが転んでしまった。牛型の魔獣は勢いそのままにユウへ突進していく。もうダメだとユウは目を閉じ、覚悟を決めた…


「……フン!!」


 牛型の魔獣がユウへぶつかる直前、突如として人影が現れ牛型の魔獣の顎を蹴り飛ばした!魔獣は堪らず悲鳴をあげ、ヨロヨロと方向を変えて退散していった。


「勇者ちゃん!!大丈夫!?…貴方は?」


「嘘ぉ…?あんなデカいのを軽々と…」


 2人は謎の人物の強さに感嘆しつつもユウの所へ駆け寄った。ユウは完全に腰が抜けており、立ち上がろうとしても、まるで生まれたての子鹿のように膝が揺れてしまっていた。


「……立てるか?」


 魔獣を退けた人物は白髪の老人であった。糸のように細い目で無精髭を生やしていて尖ったような耳の形がとても特徴的だった。背丈は成人男性の平均的な高さだったが、体つきはかなりガッシリとしており筋肉質だった。服装は麻布で出来た簡素な服でかなり使い古されていて、所々ほつれがあった。


「す、すみません…少し…このままで……」


 魔獣への恐怖が全く抜けず、ユウは膝はおろか声も震えていた。そんな彼女を見た老人はやれやれといった様子で人差し指で頬をかき始めた。それも束の間、彼女が着ていたマントを見て、老人は目を丸くした。


「そのマント…まさか大勇者の…?」


「は、はい…まだ候補ですけど……」


「……して、大勇者候補が何故魔物と行動を共にしている?」


「え!?何で分かっ…!?」


 魔王子が危うく正体を漏らしそうになり、ヒショは慌てて彼の口を塞いだ。


「わ、わ、私達が魔物な訳ないじゃないですか〜!あははは…」


 …ヒショはヒショで顔は青ざめ、額からは冷や汗が大量に流れており嘘をついているのは明らかだった。


「安心しろ、いくら魔物でも敵意が無いのなら無闇に命は奪わん…何か事情があるのだろう?」


 そうは言うものの、老人の目は鋭く2人を睨み続けていた。安心出来る、柔和な態度だとは到底思えなかった。


「こ、この人達も勇者連盟に入っているんです!だから…その……私の仲間…なんです…悪い人じゃないんですよ…」


 ユウは懸命に2人を庇う。彼女の潤んだ、真剣な眼を見て老人の2人への視線は少し柔らかくなった気がした。だが、まだ引っかかるところがある様子でもあった。


「魔物が連盟に…か……どうしてだ?」


 どすん、と老人は腰を下ろした。


「俺…先代魔王の子供……らしくて…今の魔王のことを止めたくて…その……」


 老人は表情を変えず、じっと魔王子の顔を見つめる。ヒショは老人は魔王子の事を聞いてきっと驚くだろうと内心ワクワクしていたが、老人の反応の薄さに返って驚かされてしまった。しばらくして、老人はゆっくりと空を見上げ始めた。


「…このような事が起きるとは……運命とは、なんとも…」


 老人は小声で呟いく。すると、彼は直ぐに3人の方へ顔を向け直し、手を差し伸べた。


「大勇者候補、先代魔王の子…それからそこの魔物娘、ワシのところで鍛えないか?」


「「「…んえ?」」」


 急な提案に3人は顔を見合わせる。老人は少しムッとして話を続ける。


「…お前さん達の強さでは魔王は倒せん……それどころか大勇者になることも出来やしないぞ…」


「……はぁ…そうですね、このまま闇雲に戦っていったところで強くなれるとは思えませんからね……」


 ヒショの言葉の後、3人は再び顔を見合せた。


「それじゃあ……」


「お師匠様、これからよろしくお願いします!」


 魔王子とユウは深々と頭を下げる。ヒショは少し乱暴に老人の手を取った。


「そういえばまだ名前を言っていなかったな…エスピアだ……これから、よろしくな」


 エスピアはほんのりと微笑んだ。


 その後、3人は依頼達成の報告を終え、直ぐにエスピアと共にツギ村のあった森へ向かった。最初こそツギ村へ向かう道を歩いたが、途中からさらに森の奥へ入る獣道を歩くことになった。ツギ村への道でさえ陽の光がかなり遮られていたが、獣道はさらに陽の光が無く足元すらあまり見えなかった。かれこれ、数時間は歩いたというところで空が見える開けた場所に辿り着いた。その場所の真ん中にはぽつんと年月がたった小屋があり、そのすぐ近くには小川が流れていた。空には既に太陽は無く、綺麗な星空が広がっていた。


「もうこんな時間に…鍛錬は明日からだな、今日は風呂と飯はワシが用意しとく。明日からは交代制でやるからな」


「「はい!」」


「…はぁ」


 魔王子とユウはやる気に満ちた声で返事をする。一方的でヒショは家事が交代制であったのが心底嫌だったらしく、ため息をついていた。












-翌朝-


「さぁ、起きろ!とりあえず今日の料理当番はワシと魔王の子だ!顔を洗ったら台所に来なさい!」


 早朝4時、エスピアの大声で3人は叩き起された。そのまま彼らはゾンビのようにフラフラと洗面台へ向かっていった。魔王子は顔を洗って直ぐに台所へ向かったが、まだ眠気が消えないらしく伸びや欠伸を繰り返していた。


「よし、来たな…では、まずこれを」


 エスピアはそう言うと、魔王子にエプロンを手渡した。少し魔王子はキョトンとしていたが、特に何も言わずエプロンを装着した。


「ふむ…中々似合っているな。じゃあ早速だが手を洗ってくれ。朝はパンと肉野菜のスープだ…ワシはパンを人数分に切り分けておく。お前さんは野菜を切ってくれ」


「分かりました…!」


 手を洗いながら、魔王子は今出せる精一杯の声で返事をした。


トントントン…ザクッ…ザクッ…


 台所からはとても気持ちのいい音が流れ始めた。


「……何で朝っぱらから掃除なんて面倒なこと…」


 それを聞いていたヒショは酷く気分が悪かった。ヒショとユウはエスピアから玄関や廊下の掃除をするよう言われ、渋々掃除をしていた。ユウはまだやる気を出して一所懸命に手を動かしていたが、ヒショは開始数分で手よりも口が動いていた。


「はぁ…早くご飯食べたいー!」


 ヒショの文句は綺麗な青空に吸い込まれていった。


「お師匠様!野菜の大きさはこのぐらいでいいですか?」


「え?…あ、あぁそのぐらいで大丈夫だ」


 …魔王子の手際は驚異的だった。エスピアは正直なところ、不慣れな作業で自分が手伝う事になるだろうと考えていたが、彼はまるでプロのように肉と野菜を切り、エスピアが気づいた時には既にスープが完成していた。味見もしたが、かなり上出来だった。では今何をやっているかと言うと、野菜が少しあまったのでプラスで1品作っているといった具合である。


「…お前さんは、魔王城で料理を担当してたのか?それとも、料理が趣味とか……?」


「ううん、そういう訳じゃ無いんですけど…何でこんなに上手く出来るのかな…?体が覚えているような…?」


 何故か当の本人もよく分かっておらず、2人揃って疑問符を浮かべたまま料理が完成した。


「…美味しい!……これ、本当に王子が作ったんですか?」


「すっごく美味しいです!王子様って料理上手ですね!」


 掃除を何とか終えたヒショとユウは、同じく料理を作り終えたエスピアと魔王子と共に食卓を囲んだ。掃除でヘロヘロになった2人には十分過ぎる程のご馳走だった。


「…料理当番、ずっと王子でいいんじゃないですか?」


「…確かに、正直私、自信ないです……」


 2人は若干劣等感を滲ませつつ、シュンとしてしまった。


「…俺は別にずっと料理当番でも良いんだけど……」


「……うむ、美味い………」


 エスピアは思わず呟く。この瞬間、魔王子は料理担当になることが確定した。


 食事が終わり、いよいよ修行が始まる…となるはずが何故か3人はエスピアに、横一列に並べられた椅子に座らせられた。


「…それでは、授業を開始する」


「……授業?」


 3人は揃って首を傾げた。だが、エスピアは気にもとめず部屋の奥から黒板を取り出し、3人の前方の壁に取り付けた。


「あの…お師匠様…修行は……?」


 ユウが小さく手を挙げる。魔王子もその言葉に賛同するように小さく首を縦に振った。


「お前さん達……何事もまずは理屈を知るのは大事だ。"どうしてそれをやるのか"をちゃんと分かっていなければ修行にも身が入らないぞ…」


「…成程!流石お師匠様!!頑張ります!」


 ユウは一転してやる気を出し、背筋を正した。魔王子も彼女を真似て背筋を伸ばすが、ヒショは面倒くさそうに背もたれに寄りかかって足を組んでいた。


「うむ!その心意気や良し!……では、まずは魔法についての基礎知識から話していこう」


 エスピアは黒板にチョークで『魔法の基礎知識』と書く。同時に、エスピアは3人の前に長机とその上にノートとペンを置いた。早速ユウと魔王子はペンを持ちノートを開くが、ヒショはペンを持つとクルクルと指で回し始めた。


「魔法についてだが、基本的に魔法の属性は1人1つのみ使うことが出来る。使える属性は生まれた時に決まっている…正確に言えば、他の属性の魔法を使うことは出来なくはないが、得意な属性の魔法を使う時よりも明らかに出力が落ちる。無理に複数の属性を使おうとするよりも、得意な属性に絞って鍛錬を積んだ方が良いとされているな」


「ちなみに私の属性は『火』です…後、あのメジハで会った…トゥールでしたっけ?あの女は多分『電気』属性ですね。あぁ、後使える属性魔法は1人1つですが、属性を持たない魔法は大体の奴らが使えますね…ただ、服を直したりとか基本的に旅をする時に役立つ程度で、無属性の魔法は戦闘とかにはあんまり使えないですけど…精々私が昨日使った肉体の強化魔法とかそのぐらいで」


 ヒショは自慢げに魔王子に説明する。それを見ていたエスピアは感心した様子だった。


「お前さん、中々詳しいじゃないか」


「…こんな事で褒められても嬉しかないですよ…こんなの基礎の基礎知識じゃないですかぁ♪」


 そんなことを言っているヒショだったがどう見てもドヤ顔をしており、褒められて喜んでいるのは誰の目から見ても明白だった。…彼女は全くと言っていい程褒められ慣れていなかったのである。


「…じゃあ、俺と勇者ちゃんにも得意な魔法があるって事?」


「え?…あぁそうですねぇ……あるんじゃ…無いんですかねぇ?」


 魔王子からの質問。それに対するヒショの答えは非常にフワフワしていた。


「……大前提として…大勇者候補は『光』の属性が使えるものでないといけない。『光』属性を扱えるものは貴重だ。大体100年に10人いれば多いと言われている。つまり、お前さんは……」


「私がそんな貴重な人材だったなんて…全然知らなかったです……」


 こんな自分が特別な存在だった…そんな事実にユウは胸が熱くなった。


「……というかお前さん、知らなかったのか?」


 エスピアは驚きを隠せず、ユウに尋ねる。


「え?はい。大勇者様からも特に何も…」


 ユウはキョトンとした顔で人差し指を顎に当てていた。


「……まぁ、鍛えれば、ちゃんと使えるようになるだろう…大勇者は何を考えているんだ……全く…」


 ぶつくさとエスピアは小言を垂れ流す。それを見ていたユウは苦笑いを浮かべていた。


「…それで、魔王子、お前さんは恐らく『闇』属性が適正だろう」


「…なんで分かるの?」


 エスピアの出した結論に、魔王子は首を傾げる。


「…代々魔王やその血族は『闇』属性を使う者達がほとんどだからな。例外もいるにはいるが…」

 

「そういえば、先代魔王も『闇』属性の魔法を使ってましたね。それじゃあ、お師匠サマの言う通り……というか何でそんな魔王の事について詳しいんです?」


「ん?…いや、まぁ長く生きていると色々とな」


 ヒショはエスピアの態度に引っかかるものがあったが、あまり関心が無く追求はしなかった。


「さて、そんな魔法だが使えるようになる…そしてより魔法を強力にするには何が必要か分かるか?」


 先程まで説明したことを黒板にまとめながら、エスピアは話を進めていく。魔王子とユウは一所懸命にノートに書き写していた。


「はーい、分かりまーす」


 ヒショが頬杖をつきながら手を挙げた。


「魔法…というか、魔力を作るのに必要なのは『肺活量』でーす」


「うむ、正解だ」


 得意げな顔をしているヒショだったが、他生徒2名はイマイチ理解できていない様子だった。


「ハイカツリョウ?」


「何で…肺活量なんですか?」


「はぁ…全く……いいですか?体内で魔力を作るには、空気中に存在する魔力の元を吸ってそれを活性化・増幅させるんです」


「つまり、魔力の生成は肺活量が高ければ高い程より効率的にできるという訳だ」


「じゃあ…魔法使いの方々って……」


「「肺活量お化け」」


 エスピアとヒショの声がハモった。ユウは意外過ぎる答えに言葉が出ず唸り始めた。一方、魔王子は淡々とノートをとっていた。


「…とにかく、簡潔ではあったが魔法の基本的な部分の話はここまでだ。ちゃんと頭に入れて鍛錬に勤しむように!」


 エスピアは先程の内容を黒板に書いた後、3人に10分の休憩を取るよう伝えると、外に出ていった。3人は黒板の内容をノートに書き写したり、軽く会話を交わしているとあっという間に休憩時間が終了した。


「休憩時間は終わり!全員外に集合!」


 外からエスピアが大声を上げる。魔王子とユウは急いで外に出て行き、ヒショもやれやれといった様子で彼らの後について行った。


「よし、全員揃ったな。お待ちかねの修行だがまずお前達は根本的に基礎の部分がなっていない。なので、これを着けてランニングだ」


 エスピアは魔王子とユウにチョーカーを手渡した。そのチョーカーには紋章が刻まれていた。2人は言われるがままにチョーカーを装着する。するとその直後、2人は苦い顔になり始めた。


「…なにこれ……」


「あの、お師匠様…なんだか息がしずらいのですが…?」


「…そのチョーカーは修行用の魔道具だ。装着した人間は吸える空気の量が通常の半分になる。まずはこの状態で動けるようになれ…これでも出力は最低レベルに抑えてある。辛くなければ修行にはならんからな」


 2人は試しに軽く走ってみるが、あっという間に息切れを起こしてしまった。


「ハァ…ハァ……お、お師匠様…最初はどのぐらい走るんですか?」


 ユウは何とか息を整えエスピアに尋ねる。


「そうだな…まぁ、最初だから軽めにな。とりあえず20kmぐらいだな。そうすれば昼食に丁度いい時間になっているだろう」


((……軽め…とは?))


 2人は想像以上のキツさに呆然とするばかりであった。


「それではお2人さん、ワシの後に付いてこい」


「はーい、2人とも頑張ってくださーい」


 ヒショはどこからともなく取りだしたハンカチを振りながら2人を見送ろうとするが、ユウは直ぐに疑問の声を上げた。


「え?ヒショさんは一緒にやらないんですか!?」


「ハァ?文句あるんですか?私、オマケで付いてきただけですし、そもそもアンタ達に言われる程肺活量酷く無いですからね」


「まぁそういう事だ。最優先はお前さん達を強くすることだしな…」


 エスピアはユウの方に手を置いた。ユウはそれでもあまり納得がいかなかったようで頬を膨らませていた。


「勇者ちゃん…一緒にヒショも驚くぐらい強くなろう!」


 魔王子はユウの手を取って微笑みかける。ユウの顔は一瞬で茹でタコのように真っ赤になっていた。


「ハ、ハイ…イッショニガンバリマショウ」


 手を握られたままのユウは何故か言葉もぎこちなくなっていた。


「ふむ…それでは行くか」


「「はい!!」」


 勢いの良い返事をして、2人はエスピアの後をついていった。


 ………数時間後、ボーッと帰りを待っていたヒショの目に飛び込んできたのはまるで壊れかけのオモチャのようにボロボロになって歩いている2人と、そんな彼らに対して必死に声を掛け自身の後をついてこさせようとするエスピアの姿であった。


「…半分も行かない所で限界が来てたな……」


 エスピアはヒショの隣に来るとゆっくりと腰を下ろした。魔王子とユウは揃って仰向けに倒れ込む。2人共意識が朦朧としており、耳もほとんど聞こえておらず自分の呼吸音ばかりが耳に入ってきていた。


「…4ヶ月でどうにかなります……?」


 ヒショは不安げな様子で2人を指さしていた。


「…やるだけやってみよう」


 エスピアは表情こそ変わってはいなかったが、声にあまり張りが無く自信があるようにはあまり思えなかった。


「…昼食を食べて1時間休憩したら……もう一度行くからな…」


「「……はい…」」


 2人の声は出発前と比べてあまりにも弱々しかった。


















-夜-


「つ…疲れましだ〜!」


 バタンと勢い良くユウはソファへ寝転んだ。午後の修行はさらに厳しいものだったが、どうにか乗り越えることが出来た。夕食と風呂も済ませようやく一息つける時間になり、ユウはとても開放的な気分になっていた。


「お疲れ様。ホットミルク作ったけど…」


 魔王子はホットミルクの入ったカップを2つ、台所から持ってきて片方のカップをユウへ手渡した。ユウはカップを受け取るとゆっくりと起き上がりホットミルクを堪能し始めた。


「はぁ…落ち着きますねぇ…」


「ふふ…そうだね。あれ?そういえばヒショは?」


「…あぁ、もう寝ちゃいましたよー…いちばん何もしてなかったのに」


 ユウは小言を言いながら唇を尖らせた。魔王子は苦笑いを浮かべるが、しばらくするとホットミルクを覗き込みながら物思いにふけていた。


「俺達…どのぐらい強くなれるのかな……?」


「……どのぐらい…ですかね…」


 周りの雰囲気が少し沈んだような気がした。これではいけないと思ったのか、ユウは明るく笑ってみせた。


「でも、一所懸命努力すればきっとすっごく強くなれますよ!明日からも頑張りましょう王子様!エイエイオー!!」


「…うん!一緒に頑張っていこう!エイエイオー!」


 魔王子も静かに優しく笑い始めた。2人は互いの笑顔のおかげで心のどこかにあった不安が少し晴れたような気がした。ホットミルクを飲みきったあと、2人は寝床に入った。


(明日も……頑張ろう!!)


 ほんの小さな決意を胸にゆっくりと2人は眠りについたのであった。

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