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傷は癒えぬまま

今年初投稿です。

今年もよろしくお願いいたします。


「よ〜っし、お仕事終わり!どうだった王子君?お姉さんのカッコイイところ見てくれ…あっぶな!?」


 ウリルはニコニコしながら自分でぶち抜いた壁から入ってきたが、ヒショは彼女の姿を見るやいなや壁に飾られていた短剣を彼女目掛けて投げつけた!投げられた短剣は油断から少し遅れて動いたウリルの髪の毛を掠った後、金属音を鳴らしながら床に落ちた。


「ちょっと!?本気で殺す気だったよね!?最近過激じゃないかな!?」


 ウリルは少し怒ったような態度だったが、ヒショの怒りは彼女の何倍にも沸いていた。


「アホか!地面にあんなデカい穴開けといて何終わった気でいやがるんです!?どうする気なのよアレ!!?」


 ウリルはヒショからそう怒鳴られ、あっ、と声を漏らし固まってしまった。彼女からの熱い視線からウリルはゆっくり目を逸らそうとするが、そんな事を許されるはずも無く…


「……テヘッ☆」


「…いい加減にしろ!!!!!」


 …ウリルの苦し紛れな誤魔化しは、火に油を注いだだけであった……


 その後は目が回る程忙しかった。本部への報告が終わったと思いきや、本部から送られる調査隊が到着するまで現場の監視を命じられてしまった。その監視中も押し寄せる野次馬を捌き、質問の雨をぶつけてくる記者達を捌き、昼夜問わずノゾム達は動き回っていた。

 調査隊が到着してからも忙しさは変わらなかった。数日にも渡る調査にずっと同行する羽目になり、調査が終わる頃には全員疲労困憊であった。


「……やっとディヴィを出発できますね…」


 その夜、ユウが力無く呟いた。


「………もう…2週間経ってる…」


 ヒショはそう言ってベットに倒れ込んだ。マールは最早何も言えずにボーッと天井を眺めていた。


「やぁ!みんなお疲れ様!大変だったね〜振り回されて」


「アンタね…もういいや…お休み………」


 呑気に笑っているウリルに苛立ちながらも、睡魔に負けたヒショはそのまま眠りについた。それに続くようにバタリ、バタリとマール達もその場に寝転んだ。


「……ウリルさん、結局…ディヴィの支部長に力を貸してた悪魔は見つかったの?」


 寝ている3人にブランケットを掛けながら、ノゾムはウリルに尋ねる。厄介者が逃げたのにも関わらず彼は割と穏やかそうな表情をしていた。ウリルは掴みどころのない人物ではあるが、やはりノゾムは彼女に信頼を置いているのだろう。だが、ウリルは少し悔しそうな顔で首を横に振った。


「…それがさ、支部長と戦ってる間に逃げられたみたいなんだ…もしかしたら、こっちの動きを何となく察してたのかも」


「そんな…」


 ひどく落胆したように、加えて僅かに怯えたようにノゾムは肩を落とした。そんな彼の顔を見た途端、ウリルはまるでワープでもしてきたのかという速度で、彼の目の前へ移動してきた。


「大丈夫!大丈夫!!そんなに力を持った悪魔じゃないから!私の目が黒い内は何も出来やしないって!!」


「………でも…」


「不安な気持ちは察するよ?でも、お姉さんの強さは見てくれてたでしょ?私がいれば悪魔達も迂闊に動きはしないさ!アイツらの事は私に任せて、気にせず君達は冒険を進めればいい」


「…ありがとう、ございます」


 ノゾムは瞼を重そうにしながら小さく微笑んだ。そして、彼は欠伸を我慢したのか少し口を閉じて顔を震わせ、そのままゆっくりとソファの上で横になった。


「……罪座…って人達と会った時、すごく怖かった」


 ノゾムは腕で顔を上部を隠しながら、小さな声で呟いた。うん、とウリルは優しく頷く。


「…………だけど…スパイドって人は…怖いだけじゃなくって…俺を見て…すごく…悲しそうな…目をしてたんだ」


「…悲しそう?」


「………俺の事を、そんな風に見てた気がするの。だから、あっちに引き込まれそうな…怖さもあったんだ…」


「……………大丈夫。お姉さんが付いてるから」


「…うん………………」


 ノゾムは嬉しそうな声でそう言って何も言わなくなった。少しして、すぅすぅと寝息を立ててる音が微かに聞こえてくる。

 ウリルはフードを被ると、彼の頭をゆっくりと撫で始めた。起こさないように、慎重に、そんな手付きで。


「……さてと」


 ウリルはドアノブに手をかけた。



——勇者連盟ディヴィ支部、裏口——


「うーん!やっと一段落着いたー!!」


 女性の事務員が伸びをしながら裏口から出てきた。その後に、男性の事務員が裏口の鍵を閉めて外に出てくる。彼は、最初にユウ達がここに到着した際に声をかけてきて…瀕死のディヴィ支部長にトドメを刺した青年である。


「やっとゆっくり出来ますね」


「ホントよ!あの野郎…最後の最後まで迷惑かけて」


 多忙のストレスからか、女性の事務員は亡くなった支部長の愚痴をこぼす。青年は似たような言葉を数え切れない程聞いていた。彼女以外の事務員達も同じようなものだった。支部長へ媚びを売っていた事務員達すらも、彼が死んだと聞いた途端、ボロクソに非難し始める始末だ。はなから分かりきっていた事だが、支部長はとことん人望は無かったのだと、青年は改めて思い知らされた。


「…えぇ、困った人でした」


「ね!…ふあ〜あ、もう帰ろっと。じゃ、また明日!!」


 女性の事務員は解放感たっぷりの笑顔で青年に手を振って帰路に着いた。青年もこれに応じて小さく手を振って彼女を見送った。


「…帰ろう」


 そう呟いて、青年は歩き出す…


「あ、いたいた」


「!?」


 青年は立ち止まった。耳元で声が聞こえたかと思うと、彼のすぐ横に女が立っていたのだ。とても驚いたように青年は後退りするが、直ぐに気付いた。彼女の独特な雰囲気に覚えがあったのだ。


「…貴女は……大勇者様と一緒にいた……」


「そうそう!第2級天士のウリルお姉さんだぞっ☆」


 本人的には映える、と思った妙ちくりんなポーズをとるウリルだったが…


「………はぁ」


 青年の反応はもの凄く、悪かった。


「…仕事終わりで申し訳ないんだけど、君に言っておかなきゃいけない事があるんだよね」


(…無かった事にしようとしてる……)


 疲れてる時にコレである。青年は目の前の変な人からさっさと逃げたかったが、無視しても面倒な事になりそうなので仕方なく耳を傾けた。


「……支部長にトドメを刺したのは、君だね」


「はい、それが何か?」


「…え?」


 ウリルは彼を驚かすつもりだったが、逆に驚かされてしまった。彼女の経験上、人間は()()()()()を隠そうとするものなのだが、彼は寧ろ自信満々、といった様子だったのだ。


「………あっさり認めるんだ」


「えぇ。僕は正しい事をした、そうでしょう?」


 その言葉に、ウリルは小さくため息をついた。


「…そう思ってるんだね」


「はい」


「…………いや、いいんだ。元はと言えば、私の確認不足のせいで君が手を汚す事になったんだ。強く言うつもりは無いよ」


「…なら、わざわざ何故出向いて……」


「…でもね…やっぱり…良い事をした、なんて思わないでほしい」


 青年は目を細めた。言い返そうともした、だが彼女の複雑そうな表情を見て思わず口を噤んだ…その表情は、単なる怒りだけでなく、心配する「親」のようだった。父親の事が、頭によぎる。


「…確かに…支部長は裁かれるべき人だった。でも、その結果による死と、私情で殺されるのでは…意味は大きく違ってくる。君はまだ若いんだ、理不尽な事と…悪事を平然とする人間なんかこれから沢山出会うはずだ…でも!でも…その度に君は手を血で汚すのかい?そんな事をしてれば必ず君はどこかで道を踏み外す!!もう…後戻りなんて出来なくなる!!」


「…………」


「だから……」


「…死んで喜ばれるような人を殺して、何が悪いのですか?」


「…な…!?」


 青年の目は据わっていた。ウリルの手にぐっ、と力が入り、握った杖が音を立てる。自分のせいで…もう、彼はとっくに戻れない所へ行ってしまった。ウリルの頭が絶望感で浸っていく…


「ウリルさん」


 ウリルは驚き振り返った。そこには寝ていたはずのノゾムがいた。いつの間についてきていたのだろう、そんな驚きもあった。だが、それ以上に驚いたのは彼の様子だ。普段の…優しい、見た人の顔が自然と綻んでしまうような笑顔はなく、喉の奥が閉まる感覚を覚える程、彼は…無表情だった。


「魔王子様…?貴方まで、どうかしたのですか?まさか…今の話を聞いてて…?」


「うん…全部聞かせてもらった。正義とか…悪とかそんな小難しい話、俺にはよく分からない。でも、一つだけ、俺からもいいかな?」


「……なんでしょう?」


 少し呆れたように青年は言った。どうせ、小綺麗な説教なのだろう、と…正直、鬱陶しく思い始めていた。


「………俺、一回死んだ事があるんだ。怖かった、今思い返してもそう思う」


「……はぁ…」


 青年は少し困惑したが…相手は魔族、そんな事もあるだろうと、ひとまず彼の話を飲み込んだ。


「でもね?…()()()()()()()()、って思える事も…生きてれば、あるんだよ?」


「…………!」


「………………っ」


 青年も、ウリルも言葉を…失った。少し間を置いて、ノゾムは何回か肩を回すと2人に背を向けた。


「…夜更かしは程々にね?ウリルさん…それじゃあ、おやすみなさい」


 そう言い残して、ノゾムは闇夜に消えた。


「…魔王子様に…何があって…」


 動揺する青年はウリルに目を向けた…彼女の手は、力むあまり、大きく揺れていた。


「……………あぁっ!!!!」


 ウリルは乱暴に杖を地面に叩きつけ、その場にしゃがみこんだ。両手を顔へ覆うように当てながら俯き、激しく慟哭している。


「私達は…彼に…なんてものを…背負わせて!!!」


 青年は、嗚咽を漏らす彼女に声をかけることも出来ず…呆然と空を眺めるのだった。




 ………………翌朝。


 ノゾム達は朝食を終え、直ぐにディヴィを出発した。まだ疲れは残っていたが、漸くこの街を出られる喜びで全員の顔は晴れ晴れとしたものになっていた…ただ1人を除いて。


「…どうしたんです?ウ・リ・ル・さ・ま?」


 ヒショはたまらず声をかけた。最初こそ物静かなウリルを見てベタベタされずに済む…と喜んでいたものの、いつまで経っても彼女が静かな事が流石に不気味に思えてきたのだ。


「…ごめん、ちょっとね」


 ウリルはそう言って微笑んだが、物憂げな雰囲気は変わらなかった。


「ウリルさん…?」


 ノゾムも心配そうに声をかけてきた。ウリルはハッとした。彼の声を聞いて、手が無意識にフードに触れていたのだ。彼女の心の中で、情けなさが一気に膨れ上がってきた。


(……彼は…あんな苦しみを背負って尚、前を向いているのに…私は……)


 …昨夜のノゾムの一言を聞いてから、彼女の自責の念は増す一方だった。守るなどと大層な事を言っていたのに…彼の根底にあった傷を、何も理解していなかった。

 だが、一番苦しい思いをしているはずの彼は、いつも笑っていた。やっと彼の強さ()、理解出来たのだ。


「…情けないね……私」


「……そんな事ないよ」


 ウリルは自虐したが、ノゾムは語気を強めて否定した。彼女の言葉にこもった意味を何となく理解していたのだろう。最初は眉を顰めていたノゾムだったが、直ぐに笑顔へと戻っていた。ウリルもそれにつられて笑顔を取り戻したのだった。


「ありがとう…さて、そろそろお別れだ」


 ウリルは立ち止まる。ヒショを含め、どこか寂しそうな全員の顔を見て、また笑った。


「困った事があったら、いつでも!お姉さんに言ってね!」


「……というか、どうやってアンタに連絡すれば…」


「じゃ!またね〜☆」


 ウリルは手を振りながら消えてしまった。


「人の話を…!聞けーーっ!!!!」


 ヒショの怒号は、虚しく青空へと響き渡ったのであった…

















 ……ようやく、いなくなったか。


 余所者に、邪魔をされては困るからな。



           …全くだ。待ちくたびれたぜ…!!



 …一応、言っておくが…油断するなよ。



              …小僧が…うるせえな……



 …………では、行くか。





 ———終わりだ…!!魔王子!!!




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