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「………うへぇ…飲み…過ぎ……あ、頭が…」


 ユウは今、人生で一番最悪な朝を迎えていた。頭をガンガンと金槌で殴られたような痛みが襲い、少し動こうとするだけで胃が浮き上がってくる感覚を覚える。洗面所の鏡で自分の顔を見てみるが…肌はガサガサ、目には隈がくっきりと。到底、人には見せられない顔だ…ヤケ酒をした彼女の自業自得なのだが。


「…勇者ちゃん、大丈夫…?」


「ふん!!!!」


 ノゾムの声が聞こえた途端、ユウは蛇口を目一杯開きそこへ思いっきり顔を突っ込んだ!そして顔どころか頭までも流水で洗い始め、手元に置いていたタオルで乱暴に頭を拭くと笑顔を作りノゾムの方へ振り返る。勇者とて一人の乙女、好きな人の前では可愛くありたい…そのためには、なりふり構っていられないのだ。


「…本当に大丈夫?」


「はい!もう全然大丈夫ですよ!おはようございます、王子様!!」


 そう言ってユウはまたノゾムに笑いかけるが、彼の顔にはいつもの優しい笑みはなかった。軽く拳を握りしめ、じっと…勇者の目を覗いている。ユウが強がっている事など彼はお見通しなのだ。それを察したユウはシュルシュルと肩をすぼませていった。


「すみません…まだ、気分は優れないです…」


「……だよね、昨日あんなに飲んでたし…嫌な事があったからって、お酒に逃げちゃダメだよ」


「………………すみません…」


「…でも、勇者ちゃんをそこまで追い詰めたのは俺にも責任があるよ…あの手紙を無視する事、正直俺も軽く考えてたし…」


「そ、そんな!?王子様も他の皆さんも悪くないですよ!!悪いのはワガママを言った私です!それに…手紙を無視した事、間違ってたとは思ってないですから…」


「え?…何で?」


「…あのままアイン島にいたから、トラディを倒すための突破口が開けたんです…もし、手紙に従ってたら…あの島の人達も、私達も…バン様も…全員殺されてたかもしれませんし…」


「………そっか…そうだよね」


「今日の会議でちゃんと伝えようと思います。もう、ただの泣き虫じゃありませんから!」


「うん!一緒に頑張ろう!!」


 ユウはまた笑顔になった。今度は作り物じゃない、真っ直ぐで勇ましい、本物の笑顔。それを見て、ノゾムもようやく笑顔を見せたのだった。


「…で、その前にちょっと手伝って欲しい事があって…」


 ノゾムはそう言って、苦笑いを浮かべながらリビングへと戻っていく。ユウはその後をついていくと、そこにいたのはノゾムと同じように苦笑いを浮かべるウリルと、椅子に座り足を組みながら超がつく程不貞腐れていたヒショだった。


「………えっと…」


「…おはようございます、ユウさん」


 ヒショはユウには素っ気なくはあるものの挨拶をしたが、ノゾムには一切口を聞こうともせず、加えて目を合わせようともせず、ずっとそっぽを向いていた。ぶすっとした態度はいつも通りだが、今日は度合いがまるで違った。


「……王子様、昨日何かあったんですか?」


「そ、それが…全然記憶に無くって……」


「………………チッ」


 120dBぐらいあるのかという程の、特大の舌打ちをしてヒショは部屋から出て行ってしまった。

 ノゾムは声をかけることも出来ず、ションボリしながらその場に膝を抱え座り込んだ。今までも彼女を怒らせてしまう事はあったが、口すら聞いてもらえない事は初めてだった。何が悪かったのか…どうすればいいのか…答えなど出ず、ノゾムは頭を抱えるばかりであった。


「はぁ…俺、昨日何しちゃったんだろう…」


「……ま、まぁ!大丈夫ですって!きっと直ぐに機嫌も戻ってますよ!」


 ユウはすぐにフォローを入れるが、ノゾムは小さく頷くだけだった。それはそうだ、そんな確証は無いのだから。たまらず、ユウは目配せでウリルに助けを求めた…


「そうそう!ユウちゃんの言う通り!ヒショちゃん、ああ見えてチョロいし…」


 ストン!とキレのいい音がウリルの真横で鳴った。彼女がいる直ぐ後ろの壁にはナイフが刺さっていた…方向的にヒショが出て行った扉から飛んできたようだ。


「…き、聞いてたんだ〜…ヒショちゃんってば人が悪いんだから〜…」

(…あれ?もしかして、私の事、本気で殺す気だった?)


 流石のウリルも少し肝を冷やした。だが、それで終わらなかった。彼女の言葉が怒らせたのはヒショだけではなかったようで…


「ウリルさん…そんな言い方、無いと思います」


 ノゾムはウリルへ冷たい視線を送っていた。当然である、人を貶めるような言い方、彼が気に入るはずもない。今度はノゾムがウリルにそっぽを向いて部屋から出て行こうとするが、ウリルがヘッドスライディングをしながら彼の足を掴んだ!


「ご、ごめん!軽い気持ちだったんだって!そんなに怒らないでよ〜!!」


 必死な様相で謝りつつも、ノゾムの体に密着しだしたウリルにユウは僅かながら殺意を覚えるのでだった…


 …ウリルは結局ノゾムと和解する事は出来たが、彼からそこそこ長い説教を受ける羽目になった。こんなに騒いでいたのにも関わらず熟睡していたマールを叩き起し、一行は勇者連盟支部のホールで会議を待つ事にしたのだった…ヒショは未だに機嫌を損ねたままだったが…


「…あ!大勇者様!」


 そう言って近付いて来たのは、昨日ユウ達に応対した事務員だった。昨日よりも妙に自信がありげな態度のユウを少し訝しみながらも軽く会釈をして時計を見た。


「…時間は少し早いですが、もう準備は出来ています。ただ……」


「ただ………?」


「………会議には、大勇者様お一人で出席をして欲しい、と言われまして…」


「…分かりました」


 ユウの了承は早かったが、周りはそうはいかなかった。歩き出そうとするユウを遮るように、ノゾムは彼女の前に立った。


「…ごめん、勇者ちゃん一人の所為にされてるみたいで…納得、出来なくって」


「……心配してくれてありがとうございます、王子様。でも、2度も言う事を聞かない訳にはいきませんから」


 ノゾムは何も言わず横へ避け、事務員を見つめる。彼は頷くと、ユウへ会議室へと案内し始めた。ノゾム達は静かにその背中を見送った…少しだけ感じた嫌な予感を隠して。

 ユウ達が見えなくなり、ふとノゾムが振り返ってみるとウリルが何故か連盟支部から出ていこうとしているところだった。少し驚いたようにノゾムは彼女を引き止める。


「ウリルさん?どこ行くの?」


「ん〜?ちょっと外の空気吸ってくるよ!じゃ、また後で!」


 その言葉を残し、ウリルは軽くスキップしながら連盟支部の外に行ってしまった。イマイチ行動の読めない彼女に、ノゾムはただただ困惑するのだった。


「………いちいち、余計なお世話ですよ…」


 ヒショはそう小さく呟いたが、ノゾム達の耳には入らなかった。


 長い廊下を歩く途中、ユウは少し気が重そうな事務員に笑顔で話しかけた。彼は昨日よりも明らかに緊張していた。それを心配していた…というのもあるが、それよりも彼女には気になる事があった。それを聞きたい、というのが本音だった。


「あの…支部長はどちらに?」


「…?あぁ!支部長でしたら、近くの街に出張していまして…今日お戻りにはなるんですが、戻ってからだと会議に間に合わないそうで…滞在先の街から通信魔法で出席するそうですよ」


「……成程、通りで…」


 事務員はそれだけ答えると、再び口を閉じてしまった。彼は中々に真面目な人間なのだろう、必要以上の話を一切しようとしないのだから。しかし、ユウには新たに気になる事が出来た。『支部長』という言葉に彼は一瞬眉を顰めたのだ。再びユウは事務員に声をかける。


「…支部長さんと何かあったんですか?」


「…え?その……私から言った、とは誰にも言わないでくださいね」


 ユウは元気よく頷いた。少し不安そうだったが、事務員は彼女の疑問に答えてくれた…


「支部長は…正直な事を言うと、大勇者様が…貴女が気に食わないんです」


「…………え…」


「元々…性別への偏見が強い御方というか……女性に厳しい人で…今時、珍しいと思うんですけどね…しかも、それだけじゃないんです」


「それだけじゃない…?」


「支部長は、武具の製造工場を幾つも所有していて…貴女が仰っている『人魔戦争の終結』をとても…目障りに思っているんです。戦争が終わってしまえば武具の需要も無くなりますからね」


「じ、自分の利益のためにそんな…!」


「…最初は若者の戯言程度に思ってたみたいなんですけど…今日までの貴女方の快進撃!それに人魔の平和を謳うサリエラ教の聖女を仲間にされた事で、かなり危機感を覚えられたみたいなんです」


「…………………」


 ユウは腹が立った。だが、それ以上に悲しくなった。自分の勝手な考えで、利益のためにこれ以上犠牲者が増えてもいいというのか。()()()のような犠牲者が。笑い話にもならない…いつの間にかユウの目に涙が溜まっていた。

 …歩きながら、事務員はまた口を開いた。


「…厳しい事を言うかもしれませんが、この街の支部長と同じ様な考えの方も見てきました。会議は大変なものになると思います…ですが…」


 …青年は振り返った。とても、穏やかな笑顔だった。


()()()()()()、味方がいる事を忘れないでください」


「……!はい!」


 勇者に笑顔が戻ったのだった。


 その後、少し歩いたところに会議室があった。事務員が扉を開けると、部屋の中心には小さな机がポツンと1つあり、それをほんのりと明かりが照らしている。不思議な緊張感が、部屋の中に漂っていた。


「ぼくはこの辺で…頑張ってください、大勇者様」


「…はい」


 事務員は深く礼をしてその場を後にした…1人になるとやはり心細い、ユウの心の中で不安が膨らみ始める。もしも…大勇者には不適だと言われたら、もしもノゾム、ヒショ、マール…彼等ともう旅を続ける事が出来なくなるとしたら、そんな悪い想像ばかりしてしまう。


(…違う、そうならないために、入らなきゃ!)


 不安を、恐怖を振り払ってユウは堂々と会議室へ入っていった。

 ユウが机の前に立つと壁から天井にかけて10個程の画面が映し出された。投影魔法と通信魔法が繋がったようだ。それぞれの画面に1人から2人、勇者連盟の上層部であろう人達が映っており、その中にはユウがよく知る人物もいた。


「…!メジハの支部長さん!」


「……お久しぶりです、大勇者様」


 メジハの支部長、プリモがいたのだ。彼女は淡々と挨拶をしたが、彼女を見るその顔はどこか嬉しそうであった。するとプリモはじっとユウの事を凝視し始める。まだまだ初々しいが、以前会った時よりも、確実に彼女は成長していた。画面越しでもそれは良く分かった。


「…立派になって……」


「え?支部長さん?何か言いました?」


 …自然と出てきてしまった本音を隠すように、プリモは軽く咳払いをした。


「いえ、元気そうでなによりだと言ったのです」


「はい!色々ありましたけど、頼りになる仲間も増えて…」


「ようこそディヴィ支部にいらっしゃいましたな!大勇者サマ!」


 下品な大声が、2人の会話に割り込んだ。ユウは少しムッとしながら声のした方を見ると、その画面には髭を生やした肥満体型の男がいた。髪の毛や肌は脂ぎっており、単刀直入に言えばまるで清潔感が無く、危うくユウは不快感を顔に出してしまいそうになる。


「私は、ディヴィの支部長です。以後お見知りおきを…それでいかがでしたかな、ディヴィの街は?とても良いところでしょう?」


「あ、はい。スゴクヨカッタデス…あの、早く会議を始めませんか?」


 露骨に冷たい態度でディヴィの支部長との話を切り上げ、ユウは他の画面の人達へと語りかけた。ディヴィの支部長はそれでもニコニコと笑っていたが、ユウにはどこか怒っているようにも見えた。


「そうですね。それでは会議を始めましょうか」


 白髪の老人の言葉と共に、会議が幕を開けた。


「…先ずは、我々の意見は…既にお聞きになっていると思いますが、改めて…今回、我々勇者連盟の伝令を無視した事は重大な問題だと認識しています」


「……………」


「確かに、大勇者という地位は勇者連盟の中でも特級のものとして扱われています。我々に匹敵、若しくは超える程の地位です。ですが…だからこそ、大勇者様と我々は密接なコミュニケーションを重要視しているのです。大勇者様、何か意見はありますか?」


「…あの…『密接なコミュニケーション』って言うなら…何故、あの手紙には撤退についての理由が一切書かれていなかったのですか?」


「決まっているでしょう?魔族にそんな話をしてしまえば悪用されるのは目に見えていますからねぇ?」


 不潔な容姿に反した真っ白な歯を輝かせ、ユウを見下すようにディヴィ支部長が笑った。それに合わせるように、画面の人々の表情が変わった。ある者は彼の言葉に同意するかのように微笑み、ある者は小さくため息をつき、またある者は眉間に皺を寄せる。ユウはここに来て、あの事務員が言っていた事を理解した。


(…何で…あの2人には危険がないって、分かってもらえてるんじゃ…!)


 だからと言って納得出来る訳が無い。ユウは机を叩いた。癇癪…ではなく周りの視線を自分に戻させるためだ。狙い通りに、彼らの視線は一斉に彼女の方へ戻った。

 先程よりも鋭い目つきに変わったユウは、周囲の画面の中にある顔を一通り睨んだ。彼女の殺気だった表情はかなりの迫力を持ち合わせていたが、流石、と言うべきか上層部の誰一人も怯む様子は無かった。


「理解出来ません…魔王子、明日空ノゾムとヒショには危険性が無いと判断されているのでは無いのですか?それなのに…何を今更!?」


「高々、数ヶ月共に過ごした程度で随分と絆されたのですねぇ?魔族をこうも簡単に信用するなど…ま、元はただの田舎娘ですから仕方なし、なのでしょうが」


 ディヴィ支部長は嘲笑した。ユウは無意識に痛む程手に力が入っていた。不愉快だ、あの2人の事を何も知らないこの男が知ったような口を聞くことが…ニタニタしながら嘲るあの顔が。最早、この男の何もかもが不愉快に感じた。


「…ディヴィ支部長…あの2人は私と共に魔王六翼を既に2人倒しています…そこまでしているのに、まだ彼らが私達を騙していると思っているんですか!?」


「ええ。なんせ、貴女が倒した幹部の強さは下から数えた方が早い。いてもいなくても変わらない相手を討ち取ったからといって信用出来る訳…」


「……それはどうでしょうか?」


 ディヴィ支部長にプリモが物申した。いつもと変わらず、冷静に、されど勝機があるのかほんの少し口角が上がっていた。その自信ありげな顔付きにディヴィ支部長は表情を固くしていく。


「『いてもいなくても変わらない』…果たしてそうでしょうか?諜報部の報告によれば、大勇者様が最初に相対したヴィッタは『転移魔法』の作成を指示されていたそうです。それに、ヴィッタは魔王軍の2割という超大軍勢を連れていました。使い捨て、とは考えにくいのでは?」


「………」


 ディヴィ支部長は何も言い返さなかった。だが、彼は反論を諦めた訳ではない、じっと反論する隙を伺っているのだ。仮にも彼は支部長の地位に着ける程のエリートだ。下手に感情をむきだしにする事も、中途半端なところで反論する事も悪手だと、そのぐらい充分理解している。その隙を今か今かと待ち侘びながら、プリモの顔を見つめていた。


「クロンについてもそうです。2割もの軍勢と、幹部の一人を失った中で彼を使い捨てとして利用する程、現魔王に余裕があるとは思えません。幹部2人、そして大量の兵を消耗する事が、先代魔王の子と秤にかけて釣り合うとは考えられないでしょう。そもそも、現魔王は魔王子にとっては親の仇。手を組んでいる可能性はゼロに近いのでは?」


「………成程、メジハ支部長はこう仰っていますが…ディヴィ支部長、何か反論は?」


 先程、会議の開始を宣言した老人がディヴィ支部長へ尋ねたが、彼は何か思い付いたのかまたニヤニヤと笑っていた。そして、自信満々に手を挙げた。


「えぇ、少々お時間をいただきます」


「…良いでしょう」


「ありがとうございます!…実は私は個人的に諜報部隊を持っていましてね…とある情報を入手しているのですよ!」

 

「とある情報……?」


「えぇ…現魔王にも息子がいるとね!」


「…!な……」


「げ、現魔王にも子供が…!!?」


 ディヴィ支部長の発言に、会議室は騒がしく混乱の声が飛び交った。彼はそれだけでも満足そうだったが、まだ足りないと言わんばかりに大袈裟な口調で話を続ける。


「それだけではありません!なんと…先代魔王の子と、現魔王の子は…父親違いの血を分け合った兄弟だったのです!!!これは先代魔王の子と現魔王軍を繋ぐには充分過ぎる証拠になるでしょう?」


 会議室は更なる混乱に襲われた。プリモもこの話には驚きを隠せず、目を見開いていた。勝利を確信したように、ディヴィ支部長は息を大きく吸い込み、特大の笑い声をあげる——


「あ、あの〜………」


 …その前に、ユウが小さく手を挙げた。水を差されただけでなく、何も驚いていない彼女に苛立ちながらもディヴィ支部長は余裕を崩さなかった。弾けそうな笑いを抑え、ユウの方を向いた。


「……どうかなさいましたか?大勇者サマ?」


「実は…その…()()()()魔王子様と、アイン島で会いまして……」


「…は?」


「その弟様…なんですけど……こっちの王子様と戦闘になって…その途中で何か、古代?の巨人みたいなのが現れて……」


「……は??」


「その巨人を倒した後、王子様が弟様に勝って…」


「………は???」


「それで…その……弟様…魔王軍、抜けるって言ってました」


「…………はああああぁ!!!!????」


 会議室に激震。ディヴィ支部長に至っては目玉が吹き飛びそうな程に目を大きく見開いていた。まぁ取り乱すのも無理もない、情報戦で勝ったと思っていたら核弾頭を投下されたのだから。それ以外の人物達も驚き取り乱していたが、プリモは呆れたように頭を抱えていた。


「…貴女、何故そんな大事な話を黙っていたのですか?」


「い、いやその…勇者連盟に行ったらちゃんと報告しようと思ってて…そしたら会議があるからって言われて…まぁ、そこで言えばいいかって思って……あはは」


 嘘である。彼女はバンとの一件を報告する事などすっかり忘れていた。誤魔化すように笑うユウに、プリモは益々呆れてため息をつくばかりであった。


「大勇者様…その事について証拠などは…」


 老人がそう言い切る前に、彼の部屋の扉が乱暴に開かれた。


『本部長!!!重大な報告が!!』


 老人…勇者連盟本部長が、鬱陶しそうに振り向いた。報告書を持ってきた事務員らしき男性は、息を切らしその手は持った資料と共にガタガタと震えている。


「…どうした?」


『アイン島と連絡が着いたのですが…せ、先日に現魔王の息子からの襲撃にあったと…』


「……知っている」


『え?…それで…同時に封印されていた炎の巨人が出現して…』


「……知ってるって」


『そ、そして…炎の巨人は島民の協力もあり、大勇者様が撃破…現魔王の息子は……せ、先代魔王子に敗北後…ま、魔王軍を…脱退したと…!!』


「だから知ってるって言ってるでしょうがぁ!!」


『ひっ…!?』


「…資料だけ置いて出て行きなさい。大事な会議中だから」


『し、失礼…しました……』


 事務員は資料を机に置き、恐る恐る部屋を出ていった。本部長は大きなため息をつくと、ユウの方へ向き直った。


「大勇者様…確かに貴女が仰った事は真実のようですね…ですが…こういう事は早く言っていただかないと……」


「あははぁ…すみません…次からはちゃんと報告します!あ、そう言えば…ディヴィ支部長!」


「…!?な、なんでしょう?」


 急に話しかけられて不意をつかれたディヴィ支部長は手に持った飲み物をこぼしそうになる。必死に平静を装って笑顔でユウに返事をしてみせるが、やはりどこかぎこちなかった。

 

「…弟様が言ってたんですけど……現魔王から直々に王子様を殺せと命令されたそうですよ!だから、王子様が裏切ってるなんて絶対無いです!!」


「…………ぐっ……んぐ…」


 ディヴィ支部長は苦虫を噛み潰したような顔で下を向いた。反論は…出来なくはないが、そんな事を冷静考えられる状態ではなかったのだ。すると、画面に映る1人の男がそんな彼を見て笑い始めた。


「ハッハッハ!ディヴィ支部長殿の()()()もこれでお終いですかな?」


「……どういう意味ですかな?」


「貴方が推薦された大勇者候補のジオッソ様は大勇者様に敗北してしまいましたからね!面子も丸潰れというもの!それに、彼女の活躍は兵器工場を経営されている貴方にとって不都合で…」


「…だ、黙りなさい!!」


 ディヴィ支部長がとうとう声を荒らげた。シンと会議室が静まりかえる。彼の本音はそれだけでは無いが、かなり痛いところを突かれてしまったようだ。


「私の工場のおかげで人間は魔王軍に対抗出来ているのに!悪く言われる筋合いは無い!!」


「…それが本音ですかな?大勇者様が目指す、人魔戦争の終結…それが達成されたら貴方の工場は無用の長物……目障りなのも無理はないかと…大事な会議に私情を持ち込まないでいただきたいですな」


「それは貴方も同じでしょう!?父親が戦死したからと言って、私を悪者扱いするなど…!」


「何だと!!?」


「そこまでです!口論をやめなさい!!」


 本部長が止めに入るが、2人の口論は一向に止まらない…それどころか、双方の派閥が参戦し、収拾がつかなくなってしまった。


「私の妹は焼き殺されたのだぞ!?それを侮辱するのか!」


「戦争が終わってしまえば一体何人の人間が路頭に迷うことになると思っている!?」


「もう皆戦いには飽き飽きしている!この戦争を終わらせる最後のチャンスだと言うのに!?」


「それは一部の人間だけだ!多くの勇者は戦う事を望んでいる!!」


「これ以上、被害を出さないためにも…!!」

「我々には戦争が必要なんだ…!!」


 ユウは思わず耳を塞ぎたくなった。戦争を望む声も、戦争を止めたい…そう口にする味方の声すらも胸に刺さり、彼女の顔を歪ませる。彼女の前に現れたあまりにも大きな溝は想像を、悪い意味で軽々と超えていた。他者への気遣いを隠れ蓑にした身勝手な意見とはどうしてこうも気分が悪くなるのだろうか…ユウはそう思う度に、涙が流れそうになっていた。


「全く…子供の前で恥ずかしいと思わないのかな?」


「え?ウ、ウリル様!?」


 …いつの間にか、俯くユウの後ろにウリルが立っていた。ユウが驚くと、それを聞いた者は1人、また1人と突然の来訪者へ目をやった。会議室にはようやく静寂が戻ったのだった。


「貴女は……以前、お会いしましたね?」


「やっほー!本部長!『第2級天士』のウリルお姉さんだぞっ☆」


「第2級…!?」


 またもや会議室が騒がしくなった。ユウは何が凄いのかよく分からず、ポカンと口を少し開けてその光景を傍観していた。


「ご、ご冗談を…!第2級天士は言うなれば神の右腕と表現しても差し支えない存在!そのような方がこんな場所に…」


「……嘘だと思う?」


 …たった一言。証拠を見せた訳でもない、ましてや説明をした訳でもないのに。そこにいた全員が、その一言で彼女が高位な存在だと納得してしまった。


「…すごい、本当にウリル様ですか?」


「……あれ??私あんまりリスペクトされてない?」


 ユウは静かに目を背けた。少ししょぼくれるウリルだったが、すぐに気を取り直してディヴィ支部長の画面へ杖を突きつけた。


「な、何でしょう…?」


「ちょっと話聞いてたけど、魔王子君が裏切り者って言うならそれなりの証拠があるんだよね?諜報部隊とやらの話だけ…なんて言わないよね?」


「……えぇもちろんです。とはいえ、今は証拠となる物は持ち合わせておりませんし、明日以降、機会を作っていただければ…」


「……検討しましょう」


 本部長は静かに頷いた。そして、顔を引締め真剣な面持ちでゆっくりと前を向いた。


「…さて、大分話が逸れてしまいましたが本題に戻りましょう。今回、我々の伝令を無視した件をお咎め無しで終わるという訳にはいきません」


「あ〜、その事なんだけど…」


 ウリルが口を挟んだ。本部長は顔を顰めたが、何も言わず手の平を2人に見せた。意見を言え、と言う事なのだろう。ウリルはすかさず手を合わせ頭を下げた。


「ごめん!私に免じて許してくれないかな!!?」


「…それは何故でしょう?」


「仮にこの一件で魔王子君が仲間と離れ離れになるのはちょっとこっちとしては都合が悪いんだ」


「……神々は何故そこまで魔王子を…」


「…こっちにも事情があるんだ。申し訳ないけど察してほしい……お願〜い!この通り!!」


「い、幾ら天士様と言えどもそんな勝手…」

「ウリル様、別に彼らへ重大な処罰を与えるとは言っておりませんよ」


 ディヴィ支部長の言葉を遮るように、本部長が口を開いた。


「え?つまり?」


「大勇者様…今回の一件は厳重注意、という事で終わりにしましょう。とはいえ、次は無い事を頭に入れてもらうように」


「あ…はい!」


 ユウは勢いよく頭を下げて感謝の意を示した。他の上層部の者達もひとまず納得しているようだった…ディヴィ支部長を除いて。


「では…解散としましょう…先代魔王の子が裏切り者かどうか、についての会議はまた後日…日程が決まり次第連絡します。それでは」


 別れの言葉と共に、次々と画面が消えていった。ホッとユウが一息ついたのも束の間、ウリルは机を思いっきり蹴飛ばした!!


「…ディヴィ支部長。見上げたものだね…私に嘘をつくなんて」


「あ、あの…ウリル様…大丈夫ですか……?」


 あまりにも突然の事で、涙目になりながら震えるユウにウリルは優しく微笑んだ。


「大丈夫!私に任せて!何時だって私は美少ね…君達の味方さ!!」


「……そういう意味じゃないんですけど」


「…でも、こうなったら君達にも協力してもらった方がいいかもね」


「え?どういう事ですか?」


「……一回、みんなのところに戻ろっか…」


 ウリルの真剣な表情に、嫌な予感を覚えるユウであった…

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