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休息は酒に飲まれて

久々に平和な回です。


※弊世界では、16歳から成人という設定になっております。




 ——翌日。


 何とか危機を脱した勇者一行。ウリルの誘導の元、悪意によって荒廃した大地を踏みしめ、乗り越え、歩いていく。しばらく歩いても人間はおろか、動植物がいるような気配すら無かった。本当に、消し炭にされてしまったのだ。


「……完全頂悪のやつ、何て事をしてくれたんだ…元の自然に戻るには、一体どれだけの時間を要するのか…」


 ウリルが悲しそうな目をしながら呟いた。一行はその後を黙って続いていた。

 この景色を忘れてはいけない…そんな風に、妙な責任感を一行は持ち始めていた。荒地から決して目を背けることなく一行は歩を進めていく…と、遠くの方で緑が映える、美しい風景が映し出された。かれこれ数時間歩き続け、やっと被害が無い土地へと辿り着いたのだった。


「……ようやく景色が鮮やかになったね」


「…で?ここからどのくらい歩くんです?」


「…もう一息さ。頑張ろう!」


 ウリルは少し疲れた様子のヒショを励ましつつ、どんどん歩くスピードを上げていく。ヒショも痛みだした足首を時折気にしながら速度を上げ、ウリルの横へ並ぶ…そんな彼女は少し怒っているようだった。


「アンタ……転移魔法的なの使えるでしょ…何で私達わざわざ歩かされてるんです?」


「え〜?流石にそれは甘やかし過ぎてるかなぁって…ほら、いい運動になるでしょ?頑張れ頑張れ☆」


「………これだから…神々連中は…」


 …彼女の妙な厳しさに、益々苛立ちを募らせるヒショであった。


 ウリルの言う『もう一息』は1時間を要した。ひたすら歩き続け、漸く一行は次の街『ディヴィ』に到着したのだった。その時にはもう既に太陽が空の頂上まで昇りきり、後は沈むだけになっていた。


「……やっと着いた」


 入口を過ぎたところで、疲れきった様子のヒショがため息混じりに呟いた。そのままベンチ目掛けて体を放り込む様に座り、棒のようになった足を癒し始めた。その隣へユウがリラックスした様子で腰を下ろす。ヒショは一瞬彼女の方を見たが、それ以降は特に気にする素振りも見せなかった。


「……それじゃあ、またウリルさんともお別れだね…」


「…そうだね……寂しいッスけど…」


 名残惜しそうにノゾムとマールは話を切り出した。だが、ウリルは何も言わず、目を閉じながら頭を捻っている。ノゾム達は目を見合せ、じっと彼女の様子を観察していた。


「……うーん………」


「あの…ウリル様…?」


 マールに声をかけられたウリルは目を開いた。そして、彼女に笑いかけた後、おもむろに指を鳴らした。


「決めた!君達がこの街に出発するまで一緒にいるよ!」


「本当!!?」

「本当ですか!?」

「いいんですか!」

「…え〜……」


 皆が喜びの声をあげる中に混ざった、明らかな拒絶の声。案の定、ヒショが出したものだった。それを聞いた途端、ウリルは両手を顎の真下で合わせ、わざとらしく目を潤ませ始めた。


「そんな〜。私、ヒショちゃんとも絆を深めたいな〜って思ってたのに〜…」


「何がキズナよ!?アンタとそんなモノ生まれた記憶なんてこれっぽっちもないんですけど!!?」


「えー!?もっと仲良くなろうよ〜!」


「誰が!アンタと!仲良くなんかなるかバカ!!!」


 …こんなやり取りがしばらく続いたが、結局ヒショはウリルの同行を許した。

 とりあえず、勇者連盟支部に向かうため一行は街中を歩きだした…その間もヒショの顔はムスッとしたままだった。


「ヒショちゃん…意外とチョロいね」


「何だかんだお人好しですからね…まぁ、そこが可愛くてついイジりたくなっちゃうんですけど」


「……成程、気持ち…すっごく分かるよ」


 悪童のような笑みを浮かべて笑い合うユウとウリルに、マールはまた恐怖を覚えたのだった…


 一行が勇者連盟支部に着くと、もれなく歓迎ムード…とはならず、それどころか何人かの事務員は彼らを冷たい目で見ている。剣呑な雰囲気をユウはひしひしと感じていた。


「…これはこれは、大勇者様……」


 1人の事務員がユウに声を掛けた。彼は何か言いたげな様子だったが、とても言いずらそうに口をもごもごさせている。


「あの……どうかしたんですか…?」


 ユウはそう言うと、事務員の顔を心配そうに覗き込む。彼女の真剣な瞳に勇気が湧いたのか、事務員は話がある、と一行を個室に案内した…あまり、人には言えない話のようだ。

 個室はどうやら重役を迎え入れる為の場所だったようで、花瓶や机、小物も金箔が貼られとても豪華に飾られていた。案内されたソファもふかふかだ。事務員は全員が座った事を確認するが、ウリルを見て首を傾げた。


「…?失礼ですが…大勇者様のお仲間は3人と聞いていましたが…?」


「あー大丈夫、大丈夫。気にしなくていいよ」


「……いえ、かなり大事な話なので…万が一周りに漏らすような事があると…」


「ぶ〜…イケズだな〜…じゃあ、私は外で待ってるとするよ!じゃあねみんな!また後で〜」


 ウリルはそう言い残し、そそくさと部屋の外へ出て行ってしまった。事務員は外を確認したが、もうそこには誰もいなかった。


「いない……あの方は一体…?」


「別に気にする必要ないですよ…で?話ってのは?」


 先程の事でまだ苛立っていたヒショ。そんな彼女に急かされ、事務員は慌てて席に戻った。軽く咳払いをしてゆっくりと話を開始する。


「大勇者様…先日、アイン島に滞在していた際、伝令が届いた事を覚えておりますか?」


「あぁ…確か無視したんですよね……あれ?もしかして…結構マズイ事しちゃいました?」


「端的に言うと……そういう事です…」


 そう言われ、ユウの顔はあっという間に青ざめる。他の3人にも緊張が走った。


「あの伝令は、本部の上層部が直接出した物なのです…今回の事は『大勇者が本部の言葉を完全に無視した』という事。本部の方々はかなり問題視しているようで…到着次第会議に参加させよ、と全支部に命令が下っていたんです…」


「………………」


 ユウは何も言わず、だらだらと冷や汗をかきながら下を向いていた。


「…思ったより…」


「…大事になっちゃったッスね…」


 ノゾムとマールの言葉に、膝に置いていたユウの手は強く握られ小刻みに震えだした。


「あーあ、だから言ったのに。やっちまいましたね」


「ぐへぁ!?」


 ヒショの言葉にとうとう耐えきれなくなり、ユウは頭を机に落下させた。そして放心状態のまま、めそめそと泣き始めてしまった。


「なんでですか〜…ちゃんとアイン島の事も解決出来たのに〜……」


「と、とにかく…大勇者様がここに来られた事を今から上層部に連絡します。皆様は少しここで待機しててください」


 事務員は足早に部屋を後にした。彼が出ていった後の空気は中々に気まづかった。ノゾム達はユウへの慰めの言葉も見つからなかず、黙って待つ事しか出来なかった…彼らも最後には皆、彼女の意見に賛成してしまったのであまり強くは言えなかったのだ。結局、ユウは事務員が戻ってくるまでずっと泣き続けていた……


「その…現在、上層部の方が立て込んでいるそうで…会議は明日の昼頃に、という事でした」


 事務員はそう伝えつつ、ユウの涙でびちょ濡れになった机を拭いていた。


「とりあえず、こちらでお部屋をご用意致します。少しゴタゴタがあったとは言え、貴女は大勇者様。重役の客人用の寝室がございますので、そちらをお使いください…良ければ、あのお連れの方もご一緒に」


 何はともあれ、寝泊まりする場所は確保できた。事務員に礼と謝罪をした後、一行はどんよりとした雰囲気のまま連盟支部から出ていった。


「ま、とりあえず夕方くらいまでは暇になりましたね…」


「そうだね…何か暇を潰せないかな…」


「やあ!お話は終わったかな?」


 突然真後ろから声が聞こえ、ヒショは驚いた猫のように飛び上がる。その声の主はウリルだった。とうとう腹を立てたウリルは彼女にローキックをかますが、特にダメージを受けた様子もなくニコニコと笑っていた。


「アンタ…本当いい加減にしなさいよ…」


「ごめんごめん、そんなにビックリするなんて思わなくって〜…で、君達どうやら暇ができたみたいだね」


「だから何だってんです…?」


「ふっふっふ…実は席を外している間に、近くのお店の予約をしていたんだ…たまたま空いてる店があってね。()()()は、美味しい物食べて忘れちゃおう!」


 ユウ達は思わず手を上げてしまう程喜んでいたが、ヒショだけはじっと目を細めウリルの事を見ていた。


「……アンタ、何を話してたか聞いてたの?」


 ヒショがウリルに耳打ちした。ウリルは何も言わず、相変わらずニコニコと笑っているだけだった。ヒショは彼女のそんなところが…気に食わなくて仕方なかった——


「……っホントムカつく…」


 ……ウリルの選んだ店は、大当たりであった。安価だが、ボリュームもあり味も悪くない…どころか、リピートしたいと思える程には美味しかった。皆とても満足そうに店を出ていった。ヒショもすっかり機嫌を直し、気持ち良さそうに歩いている。


「……で、この後はどうするの?もう支部に戻る?」


「まだ早い気がするッスけど…」


 ふとマールの目にヒショの姿が止まる。彼女はただ歩いているように見えたが、チラチラと店の中を見ているような時があった。その行動自体、以前からちょくちょく見かけており、とても気になっていた事だった。


「……ヒショさんって、服見るの好きですよね」


 ユウはそう言ってニヤリと笑った。


「は、はぁ!?そ…そ、そんな事…無いですけど…?」


 …図星、分かりやす過ぎるぐらいの図星だ。確かによく見れば、ちょうど彼女が通り過ぎようとした店の中には色とりどりの洋服が並んでいる。

 ノゾムとウリルも微笑ましそうに笑い始め、ヒショはまたカリカリと怒りだした。


「ふふふ…ヒショちゃんもカワイイところあるんだね!」


「あーもう!だ、だから興味なんて…!!」


「それじゃあ、ここで決まりだね」


「……は?ちょ、王子?何言って…!?」


 ノゾムは優しくヒショの手を掴むと、そのまま彼女が見ていた店に入ってしまった。残された3人は少しやれやれ、と言った様子で後に続くのだった。


「へ〜、いいですねぇこのワンピース!デザインも着心地も中々…」


「はい!そちら当店のオリジナルで、生地にもこだわりが…」


 …あんなに興味を否定していた彼女は何処へやら。店員に乗せられたまま、片っ端から試着を楽しんでいた。試着した服で鏡にポーズしてみせる彼女は、今まで見た事ないぐらいに嬉しそうで、傍らでこっそり眺めていたノゾムもつい楽しくなってしまう程だった。


「うーん、せっかく金もあるし、何か買っていきたいんですけど…」


 先程まで着ていた服を並べ、吟味していたヒショ。だがその途中、突然ハッとした顔で周りの様子を見始めた。試着でテンションが上がっていたせいで、ここまでの様子を全部()()達に見られているかもしれない事をすっかり忘れていたのだ…しかし、あの腹の立つニヤけ顔はなく、むしろヒショから背を向けて何かを触っているようだった。


「…どうしたんですか?何か見つけたんです?」


 少しだけ、寂しそうにヒショは声を掛けた。


「あ!ヒショさん!これ見てください!」


 無邪気な声で、ユウはヒショを呼んだ。ヒショはすぐに彼女達の見ていたショーケースに近付くと、その中にはずらりとアクセサリーが並べられていた。POP広告を見るに、これらもこの店のオリジナル商品のようだ。


「それで、これなんですけど…」


 ユウが手に持っていたのはブレスレット、それを同じデザインで色違いの物を4つ。何となく、ヒショは察しがついた。


「4人お揃いで買いたいって事ですか?」


「えへへ…ダメ……ですか?」


 ヒショは大きなため息をついた。やはり嫌だったのかと、ユウは悲しそうにブレスレットを元の場所へ戻そうとする…


「……コイツが手に持ってるブレスレット、全部貰えます?」


「…!ヒショさん…!!」


 この店で購入したのは結局、このブレスレットだけだった。ヒショは紫、ノゾムは黒、ユウは青、マールは黄色のブレスレットを右腕に着ける。ただ色違いのブレスレットを着けただけ…なのに、4人はより絆を深められたような気がしたのだった。


「うんうん、仲良さそうでお姉さんも嬉しいよ!」


 ウリルはそう言いながら笑った。ヒショは目を光らせ、ここぞとばかりに口撃を始める。


「…はん、年食ってると目線が親みたいになるんですねぇ…」


「……年の事はあんまり言わないで欲しいな〜…天界の偉い人がガチ泣きする姿、見たい?」


「………悪かったですよ」


「まぁ、君達よりもうんと長く生きてるのは事実だし…それに……」


「…それに?」


「いや、何でもないよ!それより、君達ともう少し行動する事、天界の仲間にまだ言ってなかったから…それを伝えてから帰るとするよ!だから、先に帰ってていいよ」


「あぁそう…じゃ、また後で」


 一行はウリル手を振りながら、先に帰路へと着いた。彼らを見送った後、ウリルは右手を側頭部に当てて意識を集中する…


「こちら、ミカ…どうしたの?」


「やぁミカ!どう?元気?」


「…はぁ、もう元の調子に戻ってる…」


「『もう』って、1日経ってるんだから元気ぐらい出るよ!」


「はいはい…で、要件は?」


「えっとね〜、魔王子君達としばらく行動を共にする事にしたから!よろしく〜」


「…………は?貴女、何を勝手な事を…」


「じゃ、切るね〜」


「待ちなさい!!!彼らとの接触は最低限しろとあれ程…!!!!」


「え〜、そんな固い事言わないでよ〜?」


「決まりは決まりです!!毎度毎度本当にいい加減な事ばっかりして!!」


「…うるさいな〜、全く…胸が小さいと器も小さいんだね」


「はぁ!!!!?もういっぺん言ってみなさい!!!!!今度という今度はタダじゃおか」


 プツンッ……


「…よし!連絡完了!魔王子君達の所に行こ〜っと☆」


 …ウリルは通信を強引に切って、ノゾム達の元へ向かうのだった………


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


 天界のとある一室、ほっそりとした美しい天使…ミカが声を荒らげていた。そして、その近くで白髪の青年がその様子をボーッと無表情で眺めている。


「…………ッ……ッ!!!」


 …ガッシャーン!!!!


 突如、ミカは怒りに任せて机をひっくり返した!!あまりにもいきなりの事に、青年は驚き体を仰け反らせた…表情の方はほとんど変わっていなかったが。


「…あのっ……ほんとっ…ぐっ……!」


 ミカの言葉にならない怒りが時々、口から漏れていた。青年は恐る恐る蹲る彼女に近付き、様子を伺う。


「あの……どうかしたんすか…」


 声を掛けてきた青年をキッと睨みながら、ミカは立ち上がった。


「いい?貴方は()()()()にならないように…い・い・で・す・ね?」


「…………うす」


 青年は黙って言う事を聞くことしか出来なかった…


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


 一行は連盟支部に戻ると、昼に出会った事務員から今度は寝室へと案内された。部屋は…正しくVIP専用と言ったところ。部屋の隅々まで豪華絢爛で、逆に落ち着く事が出来ず、ウリルですら少しソワソワしていた。

 夕食も入浴も済ませ、各々体を休ませていた。ヒショはまだ落ち着けず部屋をウロウロしていた…すると、机の上に置かれたメニュー表のような物が目に入った。


「え…?お酒飲み放題?しかも…無料!?」


 ヒショは目を輝かせた。そして同じく目を輝かせていた人物がもう1人…


「え!?本当ですか!!じゃあまとめて頼んじゃいましょう!!!」


 …ユウだった。ヒショからメニュー表をぶんどると、凄まじい手際でお酒を注文し始めた…


「……壮観…だね〜…」


 彼女の頼んだ酒の量に、ウリルは内心引いていた。5人が余裕で囲める机の上全てを埋め尽くす、酒瓶達。人はストレスを溜めるとこうなってしまうのか…と、ウリルはここに来て学びを得たようだった。


「よーし!飲みましょう!!ガンガン飲みましょう!嫌な事全部忘れましょう!!」


 ユウは瓶の蓋を開け、コップへ注ぐ。そして、あっという間に飲み干してしまった。マールも普段から節制を心掛けている反動か、コップいっぱいになるまで酒を注ぎ勢い良く飲み始めた。


「…王子……アンタも飲みましょう?魔族に年齢制限はありませんよ」


「……残り物でいいよ…」


「…あっそう。じゃあお先に」


 そう言って、ヒショも酒瓶の蓋を開いた……


 …………………………


 ………………………………………………


 …1時間後には、ほとんどの酒瓶は空になっていた。口を付けていないウリルとノゾム以外は皆、デロンデロンに酔っている。そんな中、マールが立ち上がりノゾムの横へ座り…彼の腕に抱きついた。


「マール…さん?」


「ふへへ〜…ノゾムさん、もう目がぁ…回っちゃってぇ…介抱…してくださ〜い……ふへへ」


 普段の彼女からは想像できない程の妖しい目。困惑のあまり、ノゾムは何も出来ずただ固まっていた。すると、反対の腕に柔らかく生暖かい感触が。ゆっくりと振り返ると…ユウが抱きついていた。


「ユゆ、勇者…ちゃん…?」


「えへへへ〜…王子様ぁ…そんなぁ年増なんかよりぃ…私と…イイコトしませんかぁ?」


「勇者ちゃん!?」


 酒と欲望に溺れた2人に囲まれ、ノゾムは完全に身動きが取れなくなっていた。完全に拘束された状態で、徐々に…2人の顔が近付いてくる!嫌という訳ではない…だが、マズいのだ!


「…ゴメン!!2人とも!!」 


 ノゾムは腕に魔力を込め、2人を振り払う!そして、よろけた2人の後頭部に手刀を放った!モロに食らった2人は気を失い机に突っ伏す…その後ノゾムは静まった2人をベッドへ寝かし、ふぅと安堵の息を漏らした。


「魔王子君……『一難去ってまた一難』だよ」


 ウリルがそう呟いたと同時に、後ろからノゾムは肩を組まれる!そう、彼は見落としていた…もう1人、厄介な酔いどれ女がいる事を…!


「ヒッヒヒヒ…おうじぃ…アンタは飲まないんですか〜?まだ酒は余ってますよ〜?」


「…………いただきます…」


 今度は、逃げられなかった。コップにたっぷりと注がれた酒を、ノゾムはゆっくりと飲み始めた…


 …………30分後。


 ノゾムは黙々と酒を飲んでいた。ヒショが彼の持つコップに酒を注ぎ、それを何も言わず飲み少し俯く。その繰り返し…いつの間にかウリルの姿が無かったが、その事にもすら、何も言わない。と言うより、気付いていないようだ…


「…もう一杯」


「……飲み過ぎですよ…」


 少し酔いが冷めたヒショが酒に栓をして、ノゾムへ注意する。だが、彼は乱暴にヒショの前へコップを突き出すだけだった。


「…アンタねぇ………」


「…………俺の言う事、聞けないの?」


「……へ?」


 ほんの僅かな間に、ノゾムの雰囲気が変わっていた。ヒショは直感する…間違いなくこの雰囲気は、彼が本気になった時…『王』としての力を発揮している時だ。


「ヒショは…俺の部下、だよね?」


「え?まぁ…一応、そうですけど…」


「だったら、言う事聞かないと…ダメだよね?」


「で、ですけど……」


「…悪い子。お仕置き…しないと、かな」


「へ?」


 ノゾムは突然立ち上がると、ヒショを抱きかかえ、ユウ達が寝ているベッドととは違うベッドへ押し倒した!驚いたヒショは急いで立ち上がろうとする…が、ノゾムに両手首を捕まれベッドに押さえつけられてしまう。ヒショは必死に藻掻くが、何故か体に全く力が入らない…!それどころか、体が火照りだし…胸が、高鳴る……


(な、何で…体に力が入らないの…?も、もしかして…コイツの事……受け入れ…!?)


「……カワイイ♪」


 ノゾムはヒショへ覆い被さると、恍惚の笑みを浮かべていた。尊大で、強欲な王の、笑み。ヒショは息を飲んだ。


「ちょ、ちょ、王子!?お、落ち着いて…」


「ふーん……お仕置き、だからさ…もっと刺激が強くないと…かな?ウブなヒショも…分かるような…お仕置き…」


「だ、誰がウブだ…っ!?」


 言い返そうと顔を上げたヒショだが、すぐに引っ込めた。ノゾムの顔が彼女の顔に近付いてきていたのだ。ヒショは顔を横に逸らす…事はせず、むしろ彼の唇に自身の口を合わせにいったのだ。無意識に、自然に彼の口元を目で追っていた。


(や、や、ヤバいって…!!!?けど…けど…!!)


 ヒショは、目を閉じた。



 ……………………………………………………



 ドスン…と音がする。ヒショがゆっくりと目を開くと、横でノゾムが寝息を立てていた。

 …ヒショは力一杯、ベッドを殴った。


「…………バカ王子…」


 ヒショはノゾムにタオルを掛け、ソファに横たわる。昼まで歩かされ、試着を繰り返し、そして夜は…


「疲れた…」


 勝手に口から零れ落ちた言葉が、今日の濃密さを物語っていた。瞼が重くなり体が睡眠をよこせと騒ぎだす。そうして細めた目で、ふとノゾムの方を見た…彼は気持ちよさそうに寝ていた。


「……ムカつく…………」


 天井を見上げ、目を閉じた。


 …まどろみの中で、想いが何度も頭を巡る。本当に、腹が立つ。あのバカ王子にも……自分にも。

 …言える訳が無い、言えるはずが無い…王子に迫られて…なのに、途中で終わって()()()()事……それを……


 残念に思った、なんて——












 …………早いうちから動いて正解だったかな。


 …うん、平和だね…ずっとこうならいいのにな………


 ……夜風が…思ったより冷たいなぁ……


 


 ……悪い予感が、当たらなければいいのだけれど………



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