希望
第3話です。
思ったより早く出来ました。今のところ長く続けていけそうです。楽しい。
書きたいところまで書けたら流行りの題材とかで書いてみたいなとも思っております。
....急に暑くなったなぁ
大勇者候補のユウと何とか会うことが出来た魔王子達。次の日、彼らはメジハ近辺で待機していた族長達の所へ向かった。族長達は作戦が上手くいったことを喜ぶ一方で、ユウの姿に驚愕する。
「その蒼色のマント……まさか、大勇者の…!……お、驚きました……王子様、貴方なら本当にこの戦争を終わらせることが出来ますよ!いやはや、本当に素晴らしい!!……申し遅れました、私、魔王子様の忠実な僕でオーク族の族長をしているものです。以後お見知りおきを……?」
族長は丁寧にユウへ自己紹介をするが、彼女は涙目になりながら魔王子の後ろで小さく固まっていた。
「……大勇者候補、らしいですけどね…ユウさん?貴女は何をそんなビビってやがるんです?」
ヒショはそんな情けない姿を晒すユウを見て、案の定苛立ち始める。
「……すみません………オーク族って魔族の中でもトップクラスに野蛮で、乱暴な種族と聞いてて…怖くって…」
恐怖心のあまり、ユウは話せば話す程鼻声になっていき、とうとう泣き出してしまった。慌てて魔王子は彼女を慰めようと彼女の頭を撫でる。
「………これガ……大勇者ノ候補…?」
「……私も信じたくは無かったですよ………」
オーク族の部下達もヒショも彼女の泣き虫っぷりを見てため息をつく。族長も彼女の大勇者候補とは思えぬ姿に困惑を隠せなかったが、このままではまずいと思ったらしく自分達が友好的な存在だとアピールし始めた。
「ご安心ください!ユウ殿!確かに以前の我々は乱暴者として知られていましたが、今は規律と忠誠心を何よりも重んじるようになりました!何も怖がることはありませんよぉ!!ブハハハハ!!!」
「ひっ!?……ご、ごめんなざいぃ!!やっばりごわいでずぅ!!!」
「だ、大丈夫だって!本当にみんないい人だから…よしよし、大丈夫だよ〜いい子、いい子……」
「うぅ、すみません…王子様……」
魔王子はユウを抱きしめ頭を赤子をあやすようにさすり始める。ユウはこの母親の如き一連の流れに不快感を持つどころか甘んじて受け入れてしまっていた。
「……その母親ムーブ、何とかならないんですか?気色悪くてしょうがないんですけど」
ヒショは肩を抱えて寒がるような身振りをする。そしてさすがの族長もその異様な光景に少し引き気味であった。
「ま、まぁ兎にも角にも作戦は上手く行きましたし、これからについて少し話しましょう!」
この雰囲気に耐えきれなくなったのか。族長は話を切り替えようとする。ヒショも同じ気持ちだったので、族長の話に乗り始めた。
「えぇ、そうですね…まぁ、アンタ達ともう行動は取ることはできませんよね……」
「…まぁ、仕方の無いことでしょう。私達と共にいれば周りの人間達に不安を与えてしまいますし……では、これから私達は別行動を取ります。他の部下達や、先代魔王派閥の者達の安否も気になりますし…当分の目的は彼らを見つけることですね。…………ユウ殿、王子様達を何卒よろしくお願い致します。王子様、ヒショさん…どうかご武運を」
「…まぁ、何だかんだ助かりましたよ。何かあったら召喚魔法で呼びますから…」
「デカブツさん、ありがとう…2人もありがとう……これからもよろしくね!」
族長達と別れの挨拶を済ませ、魔王子達は再びメジハへと戻った。メジハに到着すると既に昼過ぎでとりあえず簡単に腹ごしらえを、という話になった。広場で出ていたサンドイッチの屋台で何種類かのサンドイッチを買い、近くのベンチに腰を下ろしさ、3人はサンドイッチを頬張った。
「むぐ…美味しい……普段から人間はこんな安価で旨い料理を食べてる訳ですか…」
「……魔族の方達って、あんまり料理とかしないんですか?むぐむぐ…美味しい♪」
「……2人とも…口に食べ物を入れながら喋ったらダメだよ、お行儀悪いでしょ?」
魔王子は2人を窘めるが、ユウはシュンとしてしまい、ヒショは彼の母親ムーブに苛立ちを通り越して半ば呆れてしまっていた。
「……王子様というかお母さんみたいですね…」
「………ホントに勘弁して欲しいんですけど………で、何でしたっけ?魔族の料理についてでしたっけ?……まぁ、魔族は基本食には無頓着ですからね、食べられればそれでいいみたいな……あ、でも魔王とか幹部はちゃんとした料理は食べてましたね。それと」
「「ご馳走様でした!」」
「……おい♡」
真面目に説明したのにも関わらず、魔王子とユウは目の前のサンドイッチに夢中になっていて全く話を聞いていなかった。ヒショの顔は笑ってはいるが、どう見ても怒っていた。ヒショはすぐさま立ち上がると、魔王子の脛に蹴りを入れユウの頭へチョップを叩き込んだ。割と本気でやったらしく、2人揃って痛みに悶え始めた。
「………………っ!!!!」
相当な激痛だったらしく、魔王子は声を出そうにも出なくなってしまい、蹴られた所を手で抑えながら転げ回っている。
「……な、何するんですかぁ!?私何もしてないじゃないですかぁ!」
ユウは半泣きになっていたが、まるで自分に非が無いような態度にヒショはさらに怒りを膨れ上がらせ、もう一発チョップを喰らわせた。
「「………すいませんでした」」
2人の謝罪の形。それはあまりにも美しい土下座であった。
「…はぁ、もういいですよ」
気が済んだのか、ヒショは2人の謝罪を受け入れる。だが一方で2人へ釘を刺し始める。
「王子、アンタはもう少し魔族の王子らしくしなさい……それとユウさん?あなたも大勇者候補ならもっと……」
「……………………」
ヒショからの注意を聞いた途端にユウは少し俯いた。彼女の手を見るとスカートの裾を強く握りしめながら小刻みに揺れていた。
「……私、本当は大勇者にはなりたくないんです」
「………え?なんで…?」
ユウの本音に魔王子は動揺したが、ヒショは何となく察していたらしく、あまり驚いてはいなかった。
「………だって、私…こんなに弱くて、泣き虫で…そんな私が大勇者なんかになれる訳ないのに……先代の大勇者様が何故、私を大勇者候補に指名したのか全然分からなくって……とにかく、怖いんです…………」
「勇者ちゃん……でも、大丈夫だよ!勇者ちゃんなら立派な勇者になれるって先代の大勇者さんは信じてきっと…」
「ありがとうございます王子様、けど無理に肯定していただかなくても大丈夫ですよ…私なんて、花屋とかやっている方がよっぽど似合ってるんですよ…」
「えぇ、お似合いですね」
「ヒショ…そういうの、思っても口に出しちゃダメだよ」
ヒショの軽口を魔王子は咎めるが、ヒショはあまり気にしておらず、『あれはダメだ』と言いたげに両手を少し広げ肩を上げた。
「…………あ、いた!おーい!皆さーん!」
「…あの人……連盟の受付係の……」
「カゴさんだ!おーい!」
「あ、お2人も先日は…………???」
3人の元に駆けてきたのは、勇者連盟の受付係のカゴだった。魔王子は明るく呼び掛けるが、魔王の息子と大勇者候補が何故か地べたに正座させられているというあまりも珍妙な光景にカゴは一瞬思考回路がショートしてしまった。
「……えっと、何があったんですか?」
「…別に……ほら、アンタ達ぼけっとして無いでさっさと立ちなさい」
魔王子はすんなり立ち上るが、ユウは気落ちしているからかゆっくりと立ち上がった。
「ごめんなさい、変なところ見せちゃって……えぇっと、それでカゴさんは何でここに?」
「はい、実はここメジハから北西の方にあるツギ村との連絡が数週間前からつかなくなっているんです」
「………私達にそこへ行って様子を確かめてこい…ってところですか?」
ヒショはニヤリと笑う。
「そうなんです!話が早くて助かります!それでは早速で申し訳ないのですが…」
カゴは話を進めようとするが、話の中でヒショは少し納得がいかない箇所があったらしく、カゴの話を遮る。
「あれ?ちょっと待ちなさい、数週間前から連絡が取れないって何でもっと早く村に行かなかったんですか?」
「……はい、我々も本当はもう少し早く村に人を向かわせたかったのですが、魔王が代わってから魔族からの攻撃が激しくなってしまい、そこまで手が回らなくって……」
「…………成程ね…」
「…急で申し訳ないのですが、明日の朝すぐに出発出来るように準備をお願いします!出発の際は連盟支部へ来てください。その時にツギ村への地図をお渡しします。……それから、支部長からの伝言を預かっていまして、『十分に気を付けて行ってきてください』との事です!………実際、村や街の人々が1日で全員行方不明になる事件が世界各地で起きているようなので…」
「分かりました!ありがとうございます、カゴさん!」
魔王子は満面の笑顔でカゴの手を握る。…いくら魔族とはいえ、人間と変わらぬ容姿の…端正な顔立ちの彼から放たれる癒しオーラと爽やかな笑顔を前にしてカゴの顔は真っ赤に溶けていく。
「え?でへへ…その、受付係としての仕事をしているだけ…で……」
魔王子にデレデレし始めたカゴだったが、後方から殺気を感じ、ふにゃふにゃだった顔があっという間に引きつっていく。
「……一応言っておきますけど、王子に色目なんて使ったらその時は…わかってますよね♡」
その殺気の持ち主であるヒショはカゴのに顔を近づける。彼女の口元は笑っていたが、目はまるで不倶戴天の敵を見ているようであった。その目を見て恐怖を感じたのはカゴだけでなかった、ユウも腰が抜けて怯えていた。
「や、やですねぇ!あくまで仕事として魔王子様とお話してますから!下心なんてそんな…」
「だったらいいんですよ……王子、仕事で会った人間からプライベートの時に会いたいみたいに言われてもちゃんと断ってくださいよ!」
「え?何で?」
「……少し訂正します。プライベートの時に"2人っきり"で会いたいと言われたら断りなさい」
「…?よく分かんないけど、分かった」
(………独占欲、ですかね?)
ユウは腰が砕けていたままだったが、妙に頭の中は冷静だった。
「と、とにかく!明日はよろしくお願いしますね!」
カゴと別れ、3人は会話をしたりちょっとした買い物をして時間を潰した。あっという間に日が落ち、3人は勇者連盟の加入者が使える無料の宿泊施設に泊まった。施設にはシャワー付きの個室の他に食堂、剣や魔法の修練場も存在していた。魔王子とヒショは前日もこの施設を使ったとはいえ、まだ勝手が分からず施設内では居心地が悪そうであった。
(ベッド……フカフカだ…)
………それでも、ベッドの中は抜群の居心地だった。
(あのローブの人…また会ったらちゃんとお礼しないと……勇者ちゃん…心配……だ………な……)
ゆっくりと魔王子は眠りについた。
「………アレの様子はどう?簡潔に、早く」
「はいはい、魔王子君の状態ね…まぁ安定はしてますよ」
真夜中の森、ローブの女と何者かが通信魔法を使い話している。相変わらずローブの女は飄々としていたが、相手側は少し苛立っている様子であった。
「………そっか」
「そんなに焦らないでくださいよ、彼が"アイツ"みたいになるとは限らないし…下手に手を出せば逆に"アイツ"と同じ道に進ませてしまうことになりかねない…もっと若い子達を信じてあげてください」
「…そうだね、また変化があったら連絡を…それじゃあ」
「………はい、それじゃあ」
通信魔法が切られた後、女は木にもたれかかる。少し疲れが溜まっていたのか長めの伸びをした。
「ふぅ…きっとそうだ……彼なら、きっと……」
―空っぽになんかならないよ。―
次の日、3人は朝食を手早く済ませメジハ勇者連盟支部へ向かった。かなり早い時間に起きたからか、3人ともウトウトとしていた。
「皆さん!おはようございます!」
「ふあ…カゴさん…おはようございます……」
魔王子は眠気で重くなっている瞼を擦る。他2人も欠伸をしたり伸びをしており、カゴはその光景に苦笑いをしていた。
「ええ、それではですね…こちらがツギ村への地図です。メジハから徒歩1時間ぐらいの所にあるので、よろしくお願いします。後、支部長からこれを皆さんに渡して欲しいと…」
カゴが取り出したのは貨幣だった。取り出された貨幣はそれなりの枚数があり、ユウは貨幣の枚数を数え始めた。
「ええっと、銀貨が………30枚…結構な金額ですね」
「…金貨換算で3枚分……人間は何を考えているのか本当に分かりませんねぇ…まぁ、色々楽しめますからありがたくいただきますけど♪」
「……それは準備金ですよ」
3人が驚いて振り向くと、後ろには支部長の姿があった。支部長の姿を見てカゴは反射的に背筋を正した。
「い、いつの間にいやがったんですか…」
「……そちらで治療薬など遠出をする時に必要なものを買いなさい…無論、娯楽になど使われないように」
「し、支部長!!おはようございますぅ!」
「…カゴさん、彼らに渡す時に『無駄使いは決してしないように』と伝えなさい…そう言ったはずですよ?」
「も、申し訳ございません…すっかり忘れていました…」
何度も深く頭を下げるカゴ。彼女からはダラダラと大量の冷や汗が流れ出ていた。
「全く…最近の若い方は、お金を計画的に使おうとしないのですから……」
「あ、あの……このお金、支部長さんが用意してくれたんですよね?」
魔王子はまっすぐな目で支部長を見つめる。
「えぇ、大勇者候補様に何も準備させずに出発させて大怪我でも負わせたら我々の面子に…」
「……ありがとう、支部長さん…とってもいい人なんだね…」
魔王子は銀貨を握りしめ、支部長に満面の笑みを向ける。支部長は魔王子の全く魔王の血族らしくない姿を見て目を丸くする。…その直後、今度はカゴが目を丸くした。
「…どう捉えていただいても構いません……ただ、私はあなた達のような若い人に無用な傷を負って欲しくないだけなのです」
…支部長も魔王子に応えるかのように笑みを浮かべていたからである。
「……私には、本当はあなた達と同じくらいの歳になる息子がいたのです…」
「……そうなんですか」
「えぇ…でも、勇者になったあの子は…魔王軍との戦いに敗れて……」
重い雰囲気が辺りを漂った。支部長のこんな姿を見たものは全くと言っていい程いなかったらしく、通りかかった勇者達も目を丸くしていた。
「……さあ、身の上話はここまでです!大勇者候補殿、先代魔王の子、そしてその側近…速やかに任務へ向かいなさい!」
キリッと表情を切り替えた支部長は3人に号令をかける。3人は雰囲気の切り替えの速さに驚きつつも、慌てて勇者連盟支部を飛び出した。
(魔王子……本当に先代魔王の息子とは思えないわね…………あの子そっくり…)
3人の背を見つめる彼女の目はどこか寂しげであった。
その後、3人は大急ぎで準備を済ませツギ村へと向かう。歩いて数分はのどかな草原が広がっていたが、しばらくすると深い森の中へと入っていく。青々とした木々が空を覆い隠していて、森の中は薄暗く少し不気味であった。
「……なんか出てきそうですね」
「…魔物ぐらいはいるでしょうね」
不安がるユウにとても淡白に応えるヒショ。魔王子はヒショの隣を歩いていたが、何か思いふけている様子であった。
「………ヒショ」
「…何ですか」
「お父さんを倒した"無貌の騎士"ってどんな人なの?」
「…………………ん〜」
ヒショは返答に困ったのか、唸りながら腕を組む。魔王子と何故かユウまでも心配そうにヒショの顔を覗き込もうとする。
「……まぁ、一言で言うなら…」
「一言で」
「言うなら」
「…嫌いですね」
「……人物像じゃなくてヒショさんの感想じゃないですか」
ユウは白けたらしく、肩を落とす。一方、魔王子はまだまだ聞き足りなかったようでヒショを質問攻めにする。
「具体的にどこが嫌いだったの?」
「そうですね…考え方が古いところですね。なんて言えばいいか、武力を振りかざせば何とかなるみたいに考えているというか…そんなことしても、返って相手は警戒してより武力を高めようとするだけなんですけどね…」
「どんな姿をしてるの?」
「まぁ、騎士らしく鎧に身を包んでいますね。でも"無貌"と言うだけあって顔が無いんですよ。代わりに頭の部分にからは紫色の炎が出てますね。面白いのが感情の変化で炎の色とか形が変わるんですよ。だから顔はなくても感情は読み取りやすかったですね」
「…強かったの?」
「……えぇ、私達が想像していた倍は。まさか、あんなに力を持っていたとは思いませんでしたよ…質問はもう終わりですか?」
「あ、あの…」
ユウは恐る恐る小さく手を挙げた。ヒショは面倒くさそうな顔をするが、手を招く動きをして質問を急かした。
「…王子様とヒショさんてどういう関係なんですか?なんというか、王子様ってあんまり魔族の内部のことに詳しくなさそうですけど…」
「あぁ、言い忘れてましたね。コイツ、産まれてからずっと魔王城の地下室で監禁されていたんですよ」
「うん、だからあまり詳しくなくって…」
「ええ!?な、何でそんな……?」
「それは私が聞きたいくらいです!魔王城から脱出しようとした時にたまたまコイツを見つけて…」
「助けてもらったんだ…だから、ヒショは俺の命の恩人なんだ」
「……そうだったんですか…そういえば、王子様達は何で勇者連盟に?敵討ち…とかですか?」
「…元々、あのデカブツが提案したことだったんですがね…現魔王を倒すためにはとにかく戦力が足りないから人間の手を借りようって事だったらしくて…でも」
「俺は…人間と魔物の戦いを終わらせたかったんだ」
「な、成程……ってえーーーーー!?」
ユウは目玉が飛び出そうになる程目を大きく開いて驚く。
「まぁ、そんな反応にもなりますよね…」
ヒショは少しユウに同情する。
「つ、つまり…王子様は私達と一緒に魔王を倒して次の魔王になって…に、人間と魔物の戦いを止めようとしてるってことですか!?」
「えぇ、そうですよ…私もとんでもなくバカなお考えだと思います。でも、このバカ王子は本気ですよ…それは保証します」
「む、無理ですよ!…だって人間と魔物の戦争って少なくとも1000年は続いてて…」
「無理かどうかなんてまだ分からないよ。だって、みんな今までやってこなかったっていうだけなんだから…」
「そうかもしれませんけど……」
「勇者ちゃん…俺は自分が決めたことから逃げる気は無いよ…勇者ちゃんはどうなの?」
今度は魔王子の番だった。突然質問され、ユウは困惑した表情で魔王子を見る。
「ど、どうって…私は別に大勇者になりたいなんて…」
「……だったら、最初から断ってるでしょ?心のどこかで勇者になることをまだ諦められないんだよね?」
「っ!!…………」
言葉が出てこなかった。その通りだった。…ユウは自分が大勇者候補に選ばれた時のことを思い出した。心の中で自分には荷が重すぎると何度も何度も思った。だが、それだけでは無かった。心の奥底で、誰かに認められたことが本当に嬉しく思っていた。その後、大勇者候補とは思えない強さだと、こんな奴を選んだ大勇者は何を考えているんだと、散々に言われても…もう嫌だと思っても……心のどこかでは……
「………でも、私には…ぎっど…無理なんでず……」
ユウは下を向いてポロポロと大粒の涙を流す。魔王子の目は真剣そのものだったが、以前の時の様な覇気は無く、むしろ優しく温かい雰囲気だった。
「勇者ちゃん…俺は、泣く事が悪い事なんて思ってないし、逃げることも絶対に良くないことだとは思わないよ…でもね、自分で決めた事からは逃げちゃダメだと思う…ゴメンね、少しキツく言い過ぎたよね…」
魔王子はユウの涙を拭い、優しく微笑んだ。その笑顔に癒されたのかユウは徐々に落ち着きを取り戻した。
「えへへ、ありがとうございます…王子様」
「全く………さぁ、質問はこれで終わりですね!?さっさとツギ村に……着いた」
いつの間にか、森を抜けてツギ村に到着していた。村はあまり活気がなく、閑散としていた。家屋は木造でまばらに点在していたが、よく見ると村の中心にある広場を囲うように建っていた。
「……人はいるかな…」
魔王子は周りを見渡すと、村の入口から1番近い家屋から男が1人ゆっくりと出てきた。男は60歳位でふくよかな体型をしており、晴れ渡った空を見上げて心地良さそうに笑みを浮かべていた。
「あのー!すみませーん!」
「!?…こ、これはこれは…ようこそツギ村へ!わたくしはツギ村の村長をしているものです!」
いつの間にか居た旅人達に男は驚くが、すぐに笑顔に戻り、3人のもとへ駆け寄り頭を浅く下げた。
「あ、あの…私達、メジハから来たのですが…」
「ここ最近、アンタ達と連絡がつかないって言われて駆り出されたんですよ。まぁ、とりあえず平和でなりよりですけど」
「……そうでしたか…実は私達の村でも魔物の襲撃がありましてね、その時に通信魔法の魔道具が壊されてしまって…」
「だったら、直接行って被害があったことを言えば良かったでしょう?そこまで極端に距離が離れている訳では無いし…」
「…本当はそうしたいのは山々だったのですが、何分この村には人がいなくてですね…しかも、最近の魔物は妙にずる賢く夜中や人が出払った時を狙って襲撃してきたものですから…あぁですが、村の者達はせいぜい軽い怪我で済んでいるので皆無事ですよ!……ご迷惑をお掛けしたとメジハの方達にはお伝えください」
村長は深々と頭を下げ謝罪する。魔王子とユウは村の人達の安否が取れたことにホッと胸をなで下ろしたが、ヒショは村長の言動を訝しんでいた。
「………村長、あまり人を見かけないですけど、どうかしたのですか?」
ヒショが質問する。
「はい、普段はもう少し活気はあるのですが、今は若い連中は狩りに出掛けていまして…」
「ええ!?だとしたら魔物達が襲いに来るかもってことですか!?」
「え?…えぇ、言われてみれば…」
「………?」
村長の言葉にますますヒショは疑問を抱く。
「村長さん、今日はこの村に俺達を泊めてもらうって出来ますか?」
「…そうですね、いつ村が襲撃されるか分かりませんし、今日は私達が泊まって少しでも人手を増やした方がいいでしょうし…私はその意見に賛成です」
魔王子の提案にヒショは手を挙げて賛成する。ユウも特に何も言わなかったが彼らと同じ意見だった。
「え、えぇ…泊まっていただくのは構わないのですが…」
「…何か不都合でもあるのですか?」
ヒショは村長を睨む。どこか村長は焦っているような様子だった。
「い、いえ不都合など!…そうですね、では何も無い村ですがどうぞゆっくりしていってください」
3人は村の中に入っていき、その後ろを村長が着いていく。一瞬だけヒショは後ろを振り向くが、村長の顔はとても不安そうであった。
(………何を隠していやがるんですかねぇ…?)
ヒショの疑念は益々深まっていくばかりだった。
3人は村に居た他の住人達と会話をしたりしながら村を警護したが、特に魔物達の姿も見えず時間だけが過ぎていった。そして日が傾き始めると、村の若い衆達が狩りから戻ってきた。若者達は3人を見て少し警戒していた様子だったが、魔王子はここに来た経緯を話すと一転して3人を歓迎してくれた。
「では…若いのが帰って来たことですので……」
「え?ちょっと待ってくれよ村長!?せっかく来てくれたのにもう帰れって言うのかよ!?」
「そうだぜ!?もうすぐ夜なのに…」
「俺たちを心配してきてくれたんだぜ!?そんなの無いよ!」
村長の言葉に若者達は次々に詰め寄る。今にも手が出そうな雰囲気だった。そんな若者達の前に魔王子が立ちはだかる。
「お、お客人?」
「……ダメですよ、みんなで寄ってたかってなんて…俺達ならもう帰りますから」
「す、すまない…ついカッとなって……」
「あ、あぁ…お客さんの前でみっともなかったな…申し訳ない」
「け、けど…護衛までしてくれたお客さんに帰れなんてよ…明日の朝までぐらいまではさ…別にそれぐらいなら"アレ"も…」
その時だった。村長は若者の頬を力いっぱい叩いた。若者は痛みに耐えかねうずくまってしまう。それでも村長の怒りは収まらず、うずくまった若者に掴みかかろうとする。だが、ほかの若者達が村長を押さえ込んだ。
「村長!?何してるんだ!」
「やりすぎだ!落ち着けって!」
村長は息を荒らして組み付いた若者達を引か剥がそうとするが、次第に冷静さが戻り力が緩んでいく。
「…村長さん…ど、どうしたんですか…?」
半泣きになりながらユウは震えていた。
「……申し訳ない………今日は私の家にお泊まり下さい…」
深々と頭を下げる村長。魔王子とユウ、そして若者達はただただ呆然としていた。ヒショは眉間に皺を寄せ村長を眺めていた。
「どうぞ、なんてことのないただのシチューですが…」
「ありがとうございます!」
すっかり日も暮れ、3人は村長の家で夕食をご馳走になっていた。村長は謙遜していたが、村長が作ったシチューは中々に絶品だった。
「…フードはとっても良いのですよ?」
「え、あ…ごめんなさい、ちょっと事情が…」
魔王子は慌ててフードをより深くかぶった。村長は首を傾げるが、それ以上追求はしてこなかった。
「しかし…その蒼いマント…大勇者様の……」
「えぇ、そうですよ…コイツ、大勇者候補ですよ…こんなんですけど」
「そんな方に来ていただけるとは…先程は本当に申し訳ございませんでした…」
「もういいですよ別に…」
また頭を下げる村長にヒショは少し呆れていた。
「…す、すいません……食べ終わったら食器はそのままで構いませんよ。後で私が片付けますから…お風呂は沸かしてありますので、どうぞお入り下さい。寝床は簡素な物ですが用意させていただきましたのでそちらをお使い下さい…」
「すいません…色々用意してもらって…」
「いえ、このぐらいどうということは…後、夜は危険なので絶対に外に出ないようにお願いします…外は交代制で見張りをやっているので、何かあればお呼びしますから…」
「……分かりました」
ヒショは頷くが、心の中では全く納得してはいなかった。
「じゃあ、俺の部屋は別だからまた明日…」
夕食と風呂を済ませ、魔王子はそそくさと自分の寝床に行こうとするが、ヒショが魔王子の襟元を引っ張った。
「王子、村長の態度なんか気になりません?」
「え?別にそうは思わない…」
魔王子は否定しようとするが、夕方の1件がどうしても脳裏に浮かんでしまう。
「…夜に、村長が寝静まったら外に出てみましょう。なにか見つかるかも」
「……分かった」
ヒショはユウにもこの事を伝える。ユウもやはり夕方の事が気になったようでヒショの提案を承諾した。3人は寝たフリをして村長が寝るのを待つことにした。
「……もう寝ましたかね?」
しばらくして、ヒショはゆっくりと足を運び村長のいる部屋へ忍び込んだ。村長はスースーと寝息を立てていた。今がチャンスと言わんばかりに、ヒショは2人を呼び外へ出る。
「……といっても、お昼に警護してたけど別に変なものなんてなかったけど…」
「……あのですね、こういうのは見つけにくい場所に隠されてるものなんですよ」
「とにかく、見張りの方に見つからないようにしましょう!」
3人は出来るだけ足音を立てないように村を探索し始める。しばらく探したが特に怪しいものは見つからなかった。杞憂だったのかと3人が諦めかけた時だった。
「……ん?」
「王子様?どうかなさったんですか?」
「……音が…」
「……?下からですね……」
中央にあった広場、その下の方から物音が聞こえてきた。
「……何かある事はこれでハッキリしましたね…」
「明日、直接村長さんに聞いてみよう…」
「これ以上は、バレちゃいそうですもんね…王子様、ヒショさん、暗いので足元には…ニュエッ!?」
言ったそばからユウは転んでしまった。
「……誰かいるのか?」
さらに、転んだ時の声を聞いて見張りが近づいてきた!
「やっべ…このバカ!早く逃げるんですよ!」
「ご、ごめんなざいぃ…」
ユウは必死に声を殺しながら泣いていた。その後、3人はどうにか見張りに見つからず家に戻ることが出来た。そして夜は直ぐに明けた。
「おはようございます!今日の朝食は用意してありますので…こんな小さい村の護衛、本当に…」
「……………村長さん」
話を切り出したのは魔王子だった。
「…実は昨日の夜、外に出たんです」
「!?…出ては行けないと言ったはずですが……」
「ごめんなさい、でも昨日の夕方の事がどうしても気になって」
「単刀直入に聞きます。あなた達、この村に何を隠しているんです?」
「……なんの事だか」
この期に及んで村長はシラを切ろうとする。カチンときたヒショは村長に殴りかかろうとするが、魔王子が制止する。
「……村の真ん中にある広場の下から音が聞こえたんです…何があるのか教えてください…絶対に、勇者連盟には言いませんから!お願いします!」
ユウは恐怖心を押し殺し涙ぐみながら必死に説得を試みる。村長もさすがに隠しきれないと考えたのか項垂れしまう。
「…本当に、勇者連盟には言わないのですね?」
「……約束は守ります」
「………付いてきてください」
村長は3人を広場に連れていく。やはり広場に怪しいものは無かったが、村長は床にあった壁画のようなものをなぞり始める。それが終わった直後、床が音を立てて開き始めた。
「あ、開いた!?」
「………階段?」
開いた床の下には、地下へと続く階段があった。村長は特に何も言わず階段を下っていく。3人も何も言わず、村長の後に続いていく。階段を下り終わると、薄い木の扉があった。村長は扉を開けるのを少し躊躇するが、覚悟を決め勢いよく扉を開けた―
「………!?」
「………ユ、勇者?」
「やめテ!コの子だケは……!」
…扉の向こうには何人もの魔物達がいた。魔物達には男性がおらず、皆女性か子供だった。彼女達は3人を見て怯え震えている。中には、村長に対して恨みの篭った目を向ける者もいた。
「村長…!裏切ッたノ!?」
「違う!!勇者連盟には言わないと約束してくれた!!信じてくれ!!」
「……………村長、この人達は…?」
魔王子は魔物達を見渡す。魔王子が目を向ける度に彼女達は恐怖と怒りの混じった目で睨んで来た。
「………実は、我々の村は先代魔王"様"の占領下にあったのです…」
「え?そんな話…」
「…メジハには言っていなかったのです……そういう命令でした…言えば、この村を滅ぼすと……」
「………先代の奴、此処をメジハの動向を探るための基地にしてやがったんですね…村の人間を人質にとって…」
ヒショは悪態をつくが、直ぐに村長は大声で反論した。
「それは違います!!寧ろ我々は救われたのです!!!!」
「……ど、どういうことですか?」
怯えながら、ユウは質問する。魔王子も少し怯えた様子だった。
「此処を占領される時、村は凶作で作物も取れず、狩りも思うようにいかずで大変苦しい思いをしていたのです…勇者連盟に相談しても『我々の管轄外だ、自分で何とかしろ』としか言われず…」
「まぁ、当然と言えば当然ですね。勇者連盟はあくまで魔族と戦うための組織ですし…」
ヒショは欠伸をする。冷めた彼女の態度に対して、村長はさらに熱くなっていく。
「どうしようもなかったんです!もう頼れるのがあそこしか無かったのです!藁にもすがる思いでしたよ!……ですが、先代魔王様は条件を呑んだ後は本当に良くしてくださったのです…!村の食料が少なくなれば、食料を分けてくださいました…我々も下に見られること無く丁重に扱ってくれました!本当に、平和だったんです…!」
「…………じゃあ、この人達は…」
「その時に、ここへ移住してきた方たちです……男性が居ないでしょう?本当は居たのです…魔王が変わるまでは……!」
「成程、各地を攻めるようになったから人手が足りなくなって連れていかれたと…」
「…魔王が変わった後、勇者連盟から頻繁に連絡がくるようになったのです…もし彼らが彼女達を見つけたらどうなるかなんて考えなくても分かります…彼女達は立派な村の仲間です…追放など出来ず……大昔に使っていた避難所に居てもらうことになったのです……」
「連絡を取らなくなったのは意図的にですね?」
「……えぇ、バレてしまえば彼女達は…彼女達は…!」
村長から力が抜けていき、膝を付いて床を殴り始めた。
「…村長……言ったでしょ?絶対に言わないって……何も心配しないで………だって」
はらり、と魔王子は被っていたフードを脱ぐ。村長と魔物達は驚愕した。彼の額には人に付いている筈の無い禍々しい角が付いていた、彼女達はただの人間だと思っていたのだから無理もない事だった。
「こ、これは……!!」
「言ってなかったですけど…コイツ、その先代魔王の息子ですよ」
「!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
村長は驚きのあまりひっくり返ってしまう。魔物達も衝撃の事実にざわつき始める。
「せ、先代のご子息様…?ほ、本当に?」
「……そうらしです」
「そ、そうとも知らず!本当にとんだご無礼を!!」
「いいよ、こちらこそごめんなさい…村長さん、1つ聞いていい?」
「は、はい何でも聞いてください!!」
村長は再び膝を付き、何度も頭を床についた。
「…魔物達と一緒でも平和だった?」
「…えぇ、とても……」
「ここにいる人達は、戦争を望んでる?」
「そンな訳無い!!!!」
「夫ト、家族と…平和に暮ラセればそれデ良かっタノニ……!」
魔物達の感情が爆発した。怯えた様子の子供を抱きながら、涙ながらに魔王子に思いをぶつける。
「……そっか、良かった」
「え………?」
「俺は、人間と魔物の戦いを終わらせたくって勇者連盟に入ったんだ」
再び魔物達はざわつき始める。村長はただただ唖然としていた。
「そうだよね…やっぱり、皆が戦いたいって訳じゃないんだよね…まだ道は遠いけど、俺頑張るよ!みんなが平和に暮らせるように!」
魔物達から歓声が上がった。皆魔王子に群がり、応援の言葉を次々に伝えていく。
「……はぁ、大見得切っちゃって…ま、今更ですかね〜」
やれやれと言った様子でヒショは呟く。彼女がふと横を見ると、ユウが息を荒らしながら大泣きしていた。
「今度はなんですかぁ?感動して泣いちゃったんですか〜?………ってちょっと!?」
瞬間、ユウは凄まじい勢いで部屋を飛び出した。ヒショは何が何だか分からず頭を搔く。
「……勇者ちゃん?」
魔王子はユウが気になりその後を急いで追いかけて行った。
「………全く…」
ヒショは苛立ち混じりにため息をついた。
「うぅ……ひっぐ…えっぐ………うぐ…」
ユウは階段の周りに居た村人立ちをはねのけ、村の隅の方でヘタリ込みながら号泣していた。
「勇者ちゃん!!」
魔王子が駆け寄り、ユウの肩を優しく掴んだ。ユウは一瞬泣き止んだが、魔王子の顔を見て再び号泣してしまう。
「……どうしたの?」
「王子様…ごめんなさい、ごめんなさい……」
「ゆっくりでいいから…大丈夫……」
魔王子はユウを優しく抱き寄せ頭を撫でる。しかし、ユウは全く泣き止まなかった。それでも、ユウは途切れ途切れに話し始める。
「うぐ……私…王子様の思いを……頭ごなしに…えぐ…否定して……でも…王子様と同じ思いの人達が……うぅ……あんなに…いて……自分が情けなくって…!!」
「そんなの全然気にしてないよ。普通に考えれば無理な事だと思うもん…」
「…そ、それに…私、自分事ばっかり考えてて……誰かの為に頑張った事なんて無かったから!……最低です…私」
「……勇者ちゃん…」
…沈黙が続いた。ユウは魔王子の胸に顔を埋めて何も言わず泣き続けていた。魔王子は無言で彼女の頭を撫でている。
「…………王子様」
ゆっくりとユウの顔が魔王子から離れていく。
「…こんな私でも…弱くて泣き虫な私でも……勇者に、なれると思いますか?」
「……なれるよ…絶対に!」
ユウはまた泣き始めてしまったが、彼女は満面の笑みを浮かべていた。
「王子様…私も貴方の夢を叶えたいです!あの人達のためにも!」
「……勇者ちゃん…うん!」
道程はあまりにも険しい事は十分理解している。それでも、彼らの笑顔は希望に満ち溢れていた。
一言キャラ紹介
魔王子:ママ。身長は170無いくらい。何か裏事情がある模様
ヒショ:小物。スタイルと顔はいい。身長は魔王子と同じくらい。悪い人では無い。
ユウ:泣き虫。身長は160あるかどうかぐらい。胸は控えめ。これから強くなります(ネタバレ)
族長:オーク族。身長は3メートルぐらい。昔は暴れん坊だったが、今は超いい人。人間の奥さんがいる。