『2人目』
投稿頻度あげられるように頑張ります…
…魔王城のとある一室にて………
「………バン様…出発の準備が整いました…」
「…そうか、では行こうか」
年老いた魔族…トラディからそう伝えられると、青年はゆっくりと壁に立て掛けていた剣を手に取り扉を開け放つ。廊下に出ると彼は颯爽とした雰囲気で歩き出した。トラディも遅れて彼の後に続いていく。
(待っていろ…先代魔王の子…!お前は必ず俺が打ち倒す!……そして…!)
次の魔王になるのは…この俺だ!!
——アイン島、第三採掘場事務所——
「あ!ノゾムさん!おはようございます!!」
「おはよう、聖女さん」
アイン島で働き始めて11日目の朝、少し早く起きてしまったノゾムが事務所のホールに行くと、先に起きていたマールが元気よく出迎えた。ノゾムは彼女のいる向かいの席に座ると、なんてことの無い雑談が始まった。職場の人達の事や昼食に支給される弁当の事、他愛のない話だったがノゾムにとってはそんな一時も本当にかけがえのないものだった……
「………………」
…一つだけ気になる事を除いて。ノゾムが話している時、ほんの一瞬だけマールの表情が暗くなる時があった。それは悲しみや怒り…というよりは不満がある、といった表情だった。ノゾムは慎重に彼女の表情を伺いながら雑談を続ける。そして、その正体に気付いた。
「……………聖女さん、この呼び方…もしかして嫌だった?」
「……え?」
マールの表情が変わる時、それはノゾムが彼女を呼ぶ瞬間だった。ノゾムからそう指摘されたマールは少し口ごもるが、ノゾムの真剣な眼差しに圧され、静かに口を開いた。
「その…ノゾムさんと初めて素のまま話した時に『友達になろう』って言ってくれたよね…?」
「………うん」
「それは…凄く嬉しいッス。でも…だからこそ…その………な…名前……名前で、呼んで欲しいッス…聖女ではなく、一人の人間…マールとして…」
マールは思いの丈を語ると、彼女の心は我儘を言ってしまったかもしれないという罪悪感で一杯になっていた。そのせいでノゾムと目を合わせることが出来ずに俯いてしまった。一方のノゾムはマールの言葉に何度も頷くと優しく彼女の肩を叩く。マールは恐る恐る顔を上げた…
「…マール」
「…ッ!!?!?」
ノゾムはただ彼女の名前を呼んだだけ…それなのに、マールは燃え上がるような喜びで胸が爆発しそうになっていた。みるみるうちにマールの顔は真っ赤に火照っていく。
「あ、あ、あああの…友達とはいえ距離感的なものは大事だよね!?それに、私の方が多分年上?だし…お、おお互いさん付けで行こう!?」
もはやよく分からない言い訳を並べるマール。だが、また次も呼び捨てで呼ばれたら耐えられる自信が彼女にはなかった。それ程までに彼女の胸は強く高鳴っていたのだ。
「……分かった。マールさん、これでいい?」
「は、はい!カンペキッス!」
どうにかマールは今にも炸裂しそうだった胸の高鳴りを抑えることができた。そして、少し落ち着いた彼女はじっと上目遣いでノゾムを見つめる。ノゾムは何を言うでも無く優しく彼女に微笑み返した…胸がまた少しだけ、キュッとなる。
(……生涯を共に歩んでくれる相手は、ノゾムさんみたいな優しくて芯のある方がいいと思ってたけど…ノゾムさんみたいなじゃなくて……ノゾムさんが…)
「………おはようございます。聖女様、王子様」
後ろから突如低い声が聞こえた。驚きつつもマールはゆっくりと振り返ると、ユウが静かに笑いながら立っていた…正確には笑ってはいたが、目が…心がまるで笑っていなかった。
「勇者ちゃん、おはよう」
それとは裏腹にノゾムはとても呑気な挨拶を返した。肝心な時に鈍い男…それが魔王子、明日空ノゾムである。
「…少し、聖女様をお借りしますね」
ユウはそう言うと、ノゾムが答える前にマールを引き摺るように彼女を外へと連れていってしまった。突然の事にノゾムは引き摺られるマールを見送ることしか出来なかったのであった。
「……………む〜…」
「………その…えっとね…?」
…マールは正直、彼女に殺される事を覚悟していたが、外に出ると先程よりかは雰囲気が丸くなっていた。だが、先程よりも露骨に怒りを表に出していた…目一杯頬を膨らませ、握り拳のまま腕を地面に向かってピンと伸ばす、子供っぽいとても可愛らしい怒り方だったのだが。
「…聖女様、その…知ってますよね…?私が……王子様の事を…す、す、す…好き…だって……」
顔を真っ赤にして言うユウをマールは可愛らしく思ったが、だからといって譲る気は彼女の中には毛頭なかった。恋には先着順など存在しないのだから。
「…知ってはいるッスよ……でも…いつも私の話を楽しそうに聞いてくれて…身分なんか関係なく優しくしてくれるあの人への気持ちに…嘘はつけないよ……」
「……………」
「……私はノゾムさんと友達以上の関係になりたい…!」
彼女もほんの少し頬を赤く染めながら、素直な言葉をユウにぶつける。お互い引く気は一切ない——それが分かると、ユウは深く考え込むような仕草を取り始めた。少しの沈黙の後、ユウは少し恥ずかしそうに人差し指を立てた。
「それじゃあ…ぬ…抜け駆けはナシにしましょう…?こういう事は世界が平和になってから…という事で……」
「……分かったッス…」
…こうして、2人の乙女の密約が交わされたのであった。
2人は事務所のホールに戻ると、ノゾムとヒショが難しい顔で机を睨んでいた。何やら机には1枚の手紙が広げられていた。
「お2人共!どうかしました?」
「…あぁ、おはようございます…その…これが……」
ヒショが難しい顔のままユウ達へ手紙を渡した。その内容を見たユウは思わず目を丸くした。
「…『大勇者一行にアイン島からの即刻の帰還を要請することをここに記す』って…!?何でですか!?」
ユウはそう言うと、困惑と怒りのままに手紙を握り潰した。
「知らないですよ…どうせ、言う事聞かなかったのが気に入らなかったとかしょうもない理由でしょう」
ユウ達は再び手紙を睨みつけるように読み始めた。適当な理由も書かれておらず、見れば見る程手紙の内容は理不尽なものに感じ、全員先程よりも更に渋い顔になっていた。
「おはよう!今日も元気に…どうかしたのかい?」
にらめっこがしばらく続いていたが、サイツが挨拶しにやって来た。最初こそいつも通り溌剌とした様子だったが、4人のあまりにも神妙な空気を感じると途端に心配そうな様子になってユウ達へ近づいてきた。
「サイツさん〜…コレ見てくださいぃ…」
それに気づいたユウは半泣きになりながら手紙を見せると、みるみるうちに彼女も渋い顔になっていく。
「なんだいこれ…?ちょっと強引すぎないかねぇ?」
手紙を読み終わると、そう言いながらサイツは大きくため息をついた。しかし、彼女の顔は少し複雑そうであった。勇者連盟や大勇者達に無理を言って連れてきた自分にも非があると考えていたからだ。そんな思いを抱きながらサイツはユウの方へ向き直る。
「……ごめんね、私が無理矢理連れて来たばっかりに…」
「いえ……そんな事………」
「…でも、どうするんだい?最悪、帰還しても…」
「……………いえ、無視します」
「「「「え!!?」」」」
ユウの言葉に皆一斉に驚きの声を上げる…当の本人はなぜ驚かれたのかいまいち要領を得ていない顔をしていたが。
「だ、大丈夫なの…?そんな事して…」
「大丈夫です王子様!私が責任を取ります!!」
「……アンタがそんな事言うなんて…ムキになってるだけならやめた方が…」
「…だって納得いかないですもん!帰還させたいならそれ相応の理由を言ってくださいって話です!!」
ノゾム達の不安に堂々と答えてみせるユウに、周りは何も返す言葉が見つからなかった。
結局、ユウ達は帰還する事はなくその日の仕事に取り掛かるのであった…
「………あれ…?寝てた…?」
ヒショが目を覚ますと、そこはもう見慣れた研究所の一室だった。昨日、他の研究員が帰った後も彼女は一人研究を続けていたが、途中で睡魔に負け研究所で一夜を過してしまっていたのだ。慌てて時計を見ると、午前の4時…彼女にしてはとても早い目覚めだった。
「あー…最悪…腰痛い……」
ヒショは少し掠れた声で独り言を呟きながら扉を開ける。するとそこには、黒板に書かれた魔法式をじっと見つめるピッケの姿があった。
「……………じいさん…アンタこんな時間に何やってるんです?」
ヒショが声を掛けると、ピッケは驚いた様子で振り返る。だが、自分に声を掛けた人物がヒショだと分かるとすぐに嬉しそうな顔に変わった。
「よう姉ちゃん!出勤にはちと早過ぎるんじゃねぇか?」
「………遅くまでいたら寝落ちしちゃったんですよ…」
「寝落ち?あぁ!睡魔に負けたってことか?はは、姉ちゃんも意外と抜けたところあるんだな!!」
「はぁ!?私がぬ、抜けてるって…!?」
ヒショの文句を無視して、ピッケは再び魔法式を眺め始める。…しかし、明らかに先程と雰囲気は違っていた。その小さい背中からは普段の明快さはなく、真剣な…悲痛さが伝わってきていた。
「…姉ちゃん、ありがとうな……」
「はぁ?何がです?」
「……………姉ちゃんが来てくれたおかげでこんな立派な魔法式があんな短期間のうちにできちまった…魔族の魔法学ってのは侮れねぇな」
「………それなりに勉強はしてきましたけど…褒められる程のものでも…」
「…姉ちゃん、ケンソンとかするんだな!………大勇者の嬢ちゃん達から聞いたぜ?人間と魔族の戦争を終わらせたいんだって?」
「………まぁ…そうですけど……」
「……もう何十年前の話になるかな…オイラが初めて他の国に鉱石を運んだ時によ…取引相手からなんて言われたと思う…?」
「……………………」
「…『ありがとう、これで魔族の奴らを皆殺しに出来る』ってさ……オイラ、怖いんだか悔しいんだかよく分からなくなっちまった。この島には…魔族もいないし…ケンカはしょっちゅうあるけどよ、戦争なんかとは無縁だったから…本当に衝撃だった」
「………じいさん………」
「…この話は…死んだ…ばあさんにも…サイツにも言ってねえ…この怖さを誰かに否定されるのが嫌だったのかもしれねえな………オイラ、姉ちゃん達の事信じてるぜ?こんなくだらない事終わらせてくれるってよ!!」
「………ま、期待せずにいなさい…」
「…ありがとうな姉ちゃん…」
ニッと笑うピッケの後ろから太陽が昇る…今日が始まった。
「じゃあ、私はゆっくり入浴でもしてきますよ…」
「あ!じゃあついでに1つ頼み事していいか?」
少し汗ばむ身体を綺麗にするために研究所から出ようとするヒショを、いつも通りの様子に戻ったピッケが呼び止めた。
「…何ですか?」
「大勇者の嬢ちゃんと…魔王子君によ、ちょっとデータを採らせて欲しいって頼めねえかな?悪いようにはしねえからさ!」
「……はぁ、そういえばアイツら今日休みとか言ってましたね…まぁ…一応言っておきま……っ!?」
……突如、『ドーン!!』と地響きのような爆音が窓の外に響いた。ヒショ達は飛び出すような勢いで窓から身を乗り出すと、港の辺りで黒煙が立ち上っていた。
「何だ…事故か?いや、こんな時間に稼働してる工場なんて…」
怪訝な表情で黒煙を眺めるピッケだったが、ふと横を見るとヒショが今まで見た事がないほどに青い顔をしており、全身から冷や汗が大量に流れ出ていた。
「ど、どうかしたのか?」
「あの魔力…そんな……でも、少し違う…?だとしたら…そんな事が…!?」
「…………とにかく、言ってみようぜ!」
何とピッケは窓枠に足をかけると、研究所の2階にも関わらずそのまま飛び降りてしまった。驚愕するヒショだったが、いってもたってもいられず彼女も研究所を後にしたのだった。
——アイン島第2海港——
「な、何だアンタら…?まさか…魔物…!?」
燃え盛る炎の中、1人の青年と老人が立っている。青年の額には上へ伸びる1本の角が。容姿こそ端正な顔立ちで優男にも見えるが、彼の手に握られた細身の剣とその氷のように冷たい瞳の輝きからは平和的な思念を感じることはとても出来なかった。
早番で港に来ていた作業員は彼の殺気にやられ腰を抜かしている。青年は怯えたまま立ち上がることも出来ない作業員の胸倉を掴み無理矢理立たせると、剣を彼の首元に当てて口を開いた。
「……魔王子、ノゾムはどこだ?」
「魔王子…?大勇者様のお連れか……?誰が言うかバーカ!」
作業員の精一杯の抵抗に青年は小さく舌打ちをする。彼は作業員を地面に叩きつけると表情ひとつ変えることなく、剣を振り下ろした——
…ガキン!!!
「………っ!?」
金属音が響くと、青年の剣は作業員に届くことはなく弾き返されてしまった。青年が視線を戻すと足元には既に作業員の姿はなかった。気配を感じ、横に視線を移すと作業員を抱きかかえて怒気を込めて青年を睨むユウの姿があった。
「……お前は…大勇者か…」
「…………最初に言っておきます。容赦はしません」
ユウは作業員を下ろし避難を促す。彼も黙って頷き走り出した。ユウは剣を構え、息を大きく吸い込む…すると、白金の魔力が彼女の周りを駆け巡り、包み込んだ。
「ほぅ…これが大勇者の力…何という魔力量…」
老人が呟き青年がそちらへ気を向けた瞬間、ユウは剣に魔力を纏わせ青年へ斬りかかった!が、青年は剣を振り抜き、彼女の剣撃を相殺する。
「……大勇者が不意打ちか?」
「…貴方に言われる筋合いはありません」
ユウは再び青年に斬りかかる。青年は今度は剣で受け止めようとするが、彼女の放った一撃は予想以上に重く後方へ大きく吹き飛ばされてしまう。それでも、青年は余裕の様相であった。
「……流石に使わないとか」
「………?一体何を…な?!」
ユウはその光景に目を大きく見開いた。青年の左半身からは見るだけで凍えるような冷気が発せられていた。そして、右半身からは見るだけでも汗が吹きでてくる程の熱気が放たれている。…あるはずの無い光景がそこに広がっていた。
「…2属性を同時に…!?そんな事が…!?」
「……炎氷…解放!」
青年は剣を構える。剣を持つ右手を、耳から拳一つ分開けて横へ、剣先を地面に向ける。軽く腰を落として左端を半歩前に置き、左手は剣の鍔に添える…とても独特な構えだった。
熱気と冷気が彼を中心に渦巻いていく…そして青年が動いた。彼は剣を左腰へ当てると、凄まじいスピードでユウに近づいていく。そのまま、居合のように剣で斬りかかるが、ユウは横方向へ動きこれを躱した。ユウは息を飲んだ、彼の剣は燃えたぎる炎を纏っていたのだから。
「…くっ!」
ユウは青年から距離を取った。迂闊に近づけばこっちが深手を負うだけ…高名な魔法使いでも出来ない2属性の併用など到底不可能なはず、だが事実この青年はそれが出来てしまっている…そんな異様な存在を相手しているのだから、様子を伺いたくなるのは無理もない事だろう。青年は左手をユウに向ける、すると、彼の手の周りに無数の氷の刃が現れ彼女に降りかかる!
「…ふん!!!」
ユウはたった一振で氷の刃を全て砕いてしまった。これには流石の青年も目を見開いていた。
「一筋縄ではいかないか……」
「…ここからが本番ですよ…!」
両者はまた剣を構え、絶大な魔力がぶつかり合った…
「……くくく………」
その最中、老人は薄気味悪い笑みを浮かべていた。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
「…勇者ちゃん、あの爆発音を聞いて飛び出していっちゃったけど…大丈夫……ヒショ!?」
「え…あ、王子!!マールさん!?」
ノゾムとマールが爆発のあった港へ向かう途中、同じく港へ向かっていたヒショたちと合流した。
「あれ?あのバカ勇者は!?」
「…先にもう向かってるよ」
「はぁ!?もう!今回ばっかりはヤバイかもしれないのに!」
「……?とにかく急ぐッスよ!!」
4人は騒然とする人々を掻き分け、港へ向かうのだった…
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
「……はぁ…はぁ………」
「…もう終わりか?大勇者……」
ユウは劣勢に立たされていた…正確に言えばつい先程までは全くの互角であった。転機は青年が炎属性を使わなくなった時だ。彼は左半身から放っていた冷気を全身に纏い、それを周囲一体に放出したのだ。すると、たちまち周りの空気は氷結し、口に入る空気も吸うと肺が凍りついてしまう程に温度が低下してしまったのだ。空気を取り込むことで魔力を生成するこの世界では、空気を吸えないというのはあまりにも致命的だった。ユウの呼吸は乱され気づけば完全に押されていた……
「他愛もない……バン様、トドメを」
老人の言葉に青年は頷いた。青年がゆっくりと剣を振りかざしたその時だった。
「ぐっ…!?」
突然、青年は苦しそうに胸を押さえて、剣を落とした。ユウは突然の事に驚いたものの、その隙を決して逃さなかった。彼女は最後の力を振り絞って青年の鳩尾を蹴り飛ばした!青年は呻き声をあげ、その勢いで後方の壁に激突した。周りの空気が温度を取り戻していく。
「勇者ちゃん!!!」
その直後にノゾム達が到着した。ノゾムはユウの前に仁王立ちし、マールはユウに駆け寄ると彼女に回復魔法を付与し始める。ヒショとピッケは近くの建物の側に隠れていた。そこからヒショは倒れている青年を観察し始めた。そして自分の中の予想に確信を持ち、声を張り上げた。
「王子!気を付けなさい!!そいつから…現魔王と似た魔力を感じます!!!」
「!!!?…じゃあ……」
「……いかにも…そこの裏切り者が言う通り…」
老人が不敵な笑みとともに言うと、青年を抱き起こした。彼はすぐに自分の足で立ち上がり、魔力で剣を手に引き戻す。
「この御方は…現魔王のご子息…魔王子『バン様』にあらせられるぞ」
「ま、魔王子!?ノゾムさんだけじゃなかったって事…!?」
青年は剣先をノゾムに向ける。ノゾムは静かに身構えた。
「会いたかったぞ…魔王子ノゾム…!!お前を倒して…俺が次代の魔王になる!!」
「………悪いけど、魔王の座は譲れない。俺には…魔王になる理由があるから」
2人の禍々しい魔力が膨らみぶつかり合う。しばらくの間睨み合いが続いた。2人とも一向に隙を見せなかったが、先に仕掛けたのはノゾムだった。彼はまっすぐバンへと向かっていく。対してバンは冷静に対処する。剣先に魔力を集め火球を作り上げるとそれをノゾムに向かって撃ち込んだ。
「……な!?」
……火球は直撃した。だが、それでノゾムの勢いは止まることは無かった。驚いた隙に、バンはノゾムの拳をまともにくらってしまう。今度は氷の刃を放った…だが全身に突き刺さってもノゾムは止まらなかった。
「…私達も行きましょう…!」
「はい!勇者様…!」
既に回復したユウはマールと共に加勢しようとするが、彼女達の前に老人…トラディが立ち塞がった。
「おっと…邪魔はさせませんよ……この老体でも時間稼ぎぐらいなら出来ます…」
「…なら……」
「さっさと倒して…王子様に加勢します!」
ユウ達とトラディの戦いが始まった。その端でそれぞれの戦いをヒショとピッケは遠目で眺めていた……
「じいさん…あのバンって奴の力…もしかして……」
「あぁ…もしかしたら……」
2人は顔を見合わせると、コソコソと建物の裏へと隠れていった…
ノゾムとバンの戦いは熾烈を極めた。バンが剣より放つ炎を受けた事による全身の大火傷や氷の刃や冷気による凍傷も、ノゾムは即座に回復し彼に殴りかかる。
「………しつこい奴だ…!」
「…………はぁ…はぁ……お互い様…だろう?」
しかし、バンも負けてはいなかった。回復されてしまうならそれを上回れる程に攻撃すればいいと言わんばかりに彼の攻撃は苛烈になっていった。ノゾムの再生も決して無尽蔵ではない。彼には段々と疲れが見え始め、再生の速度にも鈍りが出てきていた。
「これで終わりにしてやる…ノゾム!」
バンは両手で剣を持ち出した。すると冷気と熱気が剣を中心に渦を巻き、2つの力が絡み合い大きくなっていく。そしてバンは剣を構えノゾムに向かって走り出す。
「……なら、こうするだけだよ」
「何!?」
何とノゾムは避ける事などせずにむしろ向かってくるバンの方へ走っていった!そして、彼にぶつかる直前のところで足を止めると、剣を振り切れていないバンの腕に自身の腕を軽く当てた。まだ勢いがついていなかった剣は完全に動きが止まってしまった。
「しまっ…どわっ!!?」
ノゾムはそのまま空いた片手でバンの顔面を掴むと、渾身の力を込めて地面に叩きつけた!その反動でバンの体が浮き上がると、ノゾムは彼を建物の壁めがけて蹴り飛ばした。
「な…舐めるなぁ!!」
…しかし、そう上手くはいかなかった。バンは空中で身を翻し体勢を整え建物の壁に着地した。そのまま壁を蹴るとその勢いを利用してノゾムに斬りかかった!
……ザクッ!!
…不快な音と共に血飛沫が飛んだ。バンは勝利を確信した……だが、1秒も経たずにそれが間違いだと気付かされる。ノゾムは斬られて尚、じっとバンを睨みつけていた。ノゾムは自分の肩から胸まで斬り込んだままの剣を掴んだ。バンは必死に引き抜こうとするが、全く動かない……ノゾムの手に魔力が満ちていく……
「……ロード…フィスト!!」
「…!これで終われねぇんだよ!!!」
バンも負けじと片手に魔力を集中させ襲い来るノゾムの拳へぶつける…2人の魔力による絶大な爆発が起きた。
「………………」
「…………………………がっ…!」
……最後までたっていたのは…バンだった。ノゾムは深手こそ再生していたものの、既に限界が来ていた。もはや経つことすらままならず、地面に倒れ苦しそうに喘いでいた。
バンはトドメを誘うと僅かに残った魔力を解き放つ…
「…ぐっ!?がはっ…!?くそっ…!また…発作が…!」
「……やっぱりそうだったんですね……」
胸を押さえ膝をついたバンの前に現れたのはヒショとピッケだった。必死にヒショ達を睨むバンだったが、ヒショはボロボロの彼を見て鼻で笑った。
「アンタ…2属性が使える訳じゃないんでしょう?世界には色んな属性の魔法がありますが…大勇者の持つ『光』属性のような、超希少な得意属性を持った者が産まれる事があります」
「お前さんはその中の…『熱』属性を操れるんだろう?人間にも産まれてくる事はあるが、みんな短命だ…10歳でも長生きした方だと言われるくらいにな…」
「………だから…どうした…!」
バンは手から魔弾を放とうとする…しかし、ヒショとピッケはどこからともなく真っ白な水の入った小瓶を取り出すと、彼に向かって投げつけた!小瓶は両方ともバンに直撃すると魔弾は形を失い霧散していった。
「…何だ…これは!?」
「ふっふーん!それはね…『熱を帯びた魔力を閉じこめる魔法』を帯びた水ですよ!ここで採れる魔石を輸出するために開発していましたが…やっぱりアンタにも効果てきめんでしたね、ヒヒッ♪」
得意げに笑うヒショにバンはさらに怒りを募らせていくが、それに反して体は全く言う事を聞かなかった。
「ふ、ふざけやがって…!」
「…アンタ、それ以上無理しない方がいいでしょう?熱属性使いが短命なのは魔族も一緒。現に魔法を使ってるだけでボロボロじゃないですか、アンタの体」
「ぐっ……!」
怒り狂うバンを窘めるヒショ。すると、ノゾムがゆっくりと起き上がり、フラフラと彼女の元に歩いてきた。
「ヒショ………また、救われちゃったね…」
「へ?まぁ…そうですね……お礼は、アンタが魔王になったらいい立場に置くって感じで………」
ヒショはそう言いかけるが、途端に周りの様子を慎重に見渡し始める。その直後、爆音と共に火山が噴火した。
「……何…コレ……?」
「…………ヒショ…?」
…一方で、ユウ達はトラディの足止めを抜け出せずにいた。
「あぁもう!ちょこまか逃げないでください!!」
彼女達はトラディの自身の幻影を作る魔法に苦戦していた。幻影はとても精巧に作られており、攻撃しても消えてしまう。本物は本物で攻撃を加えてもヒラリと身を躱しあっという間に逃げられてしまう。
「もう!こうなったら纏めて吹き飛ばして…キャッ!?」
突然の爆音…火山の噴火が起きたのだ。すると、いつの間にかトラディの幻影が消え本物のトラディが笑みを浮かべて火山を眺めていた。
「ついに……ついにこの時がやって来た!!!!」
「え……?何が…ですか……?」
「ハハハハ!!!!簡単な事だ!!!魔王という存在も!!お前達勇者という存在も!!全てゴミになる日がやって来たのだ!!!ハハハハハハ!!!!」
…トラディの絶叫にも近しい笑い声が島中に響き渡る——
「何かが……目覚めた…?」




