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『鉄火の島』

次はもっと早く投稿したい。

 日差しが船内に差し込む、そして波の音で目が覚める。何度経験しても贅沢に思える…最高の目覚め方だ。

 ノゾムは身支度を整え早足で甲板に向かった。外に出ると、心地よい潮風と肌に焼き付くような感覚が。天気はまさしく晴天そのもの、目を思わず細めてしまうほど強い日差しだっただがノゾムの心はむしろ高揚していた。


「……あ!王子様!おはようございます!!」


「うん、おはよう勇者ちゃん」


 先に甲板で大海原の景色を楽しんでいたユウが、まるで飼い主を見つけた大型犬のようにノゾムの元へ走ってきた。ノゾムは彼女にニッコリと微笑むと甲板の様子に目を通す。先程ユウがいた所ではマールとサイツが柵の側で談笑していた。それ以外には…人はいなさそうである。


「……ヒショはまだ起きてないんだ…」


 残念そうにノゾムは微笑んだ。


「え?あぁ確かに……でも、いつもの事ですし…船が到着するのは午後みたいですから、今日ぐらい寝坊してもいいんじゃないですかね?」


 少し戸惑いつつもケロッとした顔でユウは答える。「そっか」とノゾムは呟くと、マール達の元へ挨拶しに歩き出した…

その背中には少しだけ寂しさが見え隠れしている。それに気づいたユウは彼の見えない所でふくれっ面になっていた。


「……………むー…」


 …思えば、ノゾムはことある事にヒショを気にかけていた。それが彼にとって命の恩人だからなのか、はたまた大事な仲間(同族)だからなのか…それとも……


(……少し…モヤモヤします…)


 ユウは初めてヒショを羨んだ。ノゾムが彼女を気遣う事は何度もあったが彼のヒショへの対応は自分とは違う、そう感じる事も多かった。ただの勘違いであって欲しい…そう思ってしまう自分が、心の奥底にしまっている思いを伝えられずにいる自分が悪いのに、それなのに大切な仲間に妬いている自分が…少しだけ嫌になる。


(…頑張らないと!)


 暗い気持ちを振り払うために頬を軽く叩いて、ユウは彼の後ろを歩き出した。


「あ!ノゾムさん!おはようッス!!」


「おはよう、聖女さん!」


 ハツラツとしたマールの挨拶に自然とノゾムの声も大きくなる。すると、サイツが彼の肩を軽く叩いた。振り返ると彼女の手には何やら筒のような物、よく見れば望遠鏡を持っていた。


「あっちの方、遠くに島が見えるだろ?コレで覗いてみな!」


 ノゾムは言われたままに手渡された望遠鏡を覗き込む。小さく見える島を中心に捉え、ゆっくりと拡大していく…


「…!わぁぁ!!」


 思わずノゾムは声を漏らした。島には数えきれない程の煙突が立ち並び、力強く煙を立ち上らせている。そして何よりも目につくのは島の中心に聳え立つ巨大な火山。その頂上には雄々しく溶岩が煮えたぎっていた。


「凄いッスよね!私もさっき見た時もう感動しちゃって!!」


 マールは興奮のあまりその場で飛び跳ね始める。一方のノゾムは騒ぐ彼女の言葉も耳に入らないほどキラキラした目で双眼鏡から覗ける景色に夢中になっていた。無邪気な2人を見てサイツは口を大きく開いて笑いだした。


「うんうん!これぐらい元気ならあっちでもやって行けるね!!到着するのは午後だけど、そうこうしてたらあっという間に到着しちまうからさ、寝てる仲間も今のうちに起こしてやりな!」


 …こうして3人がかりでヒショを叩き起すと、4人は船の到着を待つのであった。


——アイン島、船着場——


「さぁ着いたよ!!ようこそ!『アイン島』へ!」


 サイツに連れられ上機嫌に船から下りるノゾムとユウ、そしてマールの3人…の後ろを不機嫌そうな顔付きでヒショがついていく。


「………ねむ…」


 眠気のせいなのかやたらと低い声でヒショが呟いた。


「ヒショさん!元気ないッスね!」


 …対照的にマールはまるで子供のような大声でヒショに喋りかけてきた。当然、耳元で叫ばれて元気など出るはずもなく、ヒショは不快な思いを隠そうともせず無視を決め込んだ。

 移動中に見えた景色は、望遠鏡で覗いた景色とはまた違う良さがあった。それは建造物だけの話では無い。急ぎの用なのか小走りで店に入る者、工場らしき建物の中で設計図を手に指示をする者、それを聞き黙々と作業をする者…皆、見ただけでも多忙な生活が伝わってきたが、同時にその目は活力に満ち溢れ、皆一様に逞しく見えた。

 かれこれ数十分歩くと、サイツはとある建物の前で足を止める。その建物はドーム状に造られており、その中を線路が通っていた。


「それじゃあ今からコレに乗ってもらうからね!」


「…コレって……どれですか?」


 ユウがそう言ったその時、遠くの方からけたたましい音が聞こえてきた。全員が音のする方へ目を凝らすと線路の上に黒い鉄の塊のようなものが走ってきていた。


「…機関車……?」


「あれ?知ってるのかい?」


 サイツから尋ねられ、ノゾムは小さく頷いた。


「…前の世か…じゃなくって、小さい頃にああいうのが描いてある絵本を見た事があって」


「……?…さすが魔王の息子!博識だねぇ!偉い偉い!」


 ノゾムの口から出かかった言葉を若干不思議に思いながらも、サイツは彼の背中をバンバンと叩きながら褒めちぎる。背中の痛みで少し顔を歪めながらもノゾムは笑って受け止めていた。

 そうこうしている内に機関車はゆっくりと駅に近づいてきており、彼らの前でシュウーと音を立てて停止した。


「それじゃあ早速乗りましょう!さ、行きましょう王子様!」


 機関車の客車の扉が空いた途端、ユウはノゾムの手を取ると真っ先に客車へ乗り込んでいった。ノゾムも引っ張られるがまま客車へと乗り込む。それを見たサイツはまた大声で笑う。


「あはは!仲良しなんだねぇあの2人!」


「…………何かあったんですかねぇ…?」


 ヒショは考え込むように目を細めた。——ユウが乗り込む直前、一瞬だけこちら(ヒショ)のことを見ていたような気がした。その目は羨ましい…というのもありそうだったが、闘争心のようなものを彼女は感じていた——だが直ぐにヒショはハァと小さくため息をつくと、少し面倒くさそうな顔で汽車に乗り込んだ。後の2人もいそいそと後に続く。

 車内は向かい合うように設置された長椅子が6組置かれていた。入口から見て右手の奥の席からノゾムが手を振っており、全員その席で腰を下ろした。

 そして、笛の音と共に機関車は発車した。


「……コレ、魔力で動いてるんですか?」


「あぁ!一番前の車両に魔石が入っててね、それを動力に火を炊いて動かしているのさ」


 ヒショからの質問ににサイツは快活な声で答えた。ヒショは納得した様子を見せたが、直ぐに別の疑問が浮かんでしまったようで、またサイツに尋ねる。


「…成程、電気を作る要領で動かして…あれ?でも、何で他の街で造らないんです?いい儲けになりそうですし…私が言うのもアレですけど、魔族にも優位に立てそうなのに」


「あ〜…本当は私達もそうしたいんだけどねぇ…ウチで採れる魔石は少し特殊でね?この島から出そうとするとたちまち魔力を失っちまうんだよ…ただ、全部が全部そうって訳じゃないんだけど…よりにもよって1番使う必要のある『火属性』を纏った魔石が決まって出せないんだよ…」


 サイツはもどかしそうな顔で答える。2人の会話を聞いていたマールは不思議そうに首を傾げていた。


「……でも、他の場所でも魔石は取れるんスよね?それで造れないの?」


「ウチで採れる『火属性』の魔石はね、他で採れる石より同じ大きさでも10倍ぐらい出力に差があるのさ…これだけの物体を動かすとなるとウチの魔石じゃないとダメなんだよね」


 そう言いながらサイツは軽くトントンと椅子を叩いた。相変わらずもどかしそうにしていたが、憂いている様子は一切なく、むしろその目はやる気でメラメラと燃えているようだった。


「でも、最近色々調べて見て分かったんだけど、低温の環境に置けば魔力が無くならなかったんだ!もう少し研究が進めばこの島の技術を他の場所でも存分に振るう事ができるって訳さ!その時が楽しみで仕方ないね!!」


 熱い思いを語るサイツにノゾム達はただただ感嘆するのであった。

 しばらくして、一行は採掘現場前の駅に到着した。駅から降りて案内されたのはその駅のすぐ側にある事務所だった。そこは客人用の宿も併設されているようで4人はサイツから指定された部屋に向かい荷物を置く。部屋は簡素で無駄なものが一切置かれていなかった。


「それじゃあ、鍵を渡しておくから、無くさないように注意しなよ!」


「……何コレ?」


「何か…カワイイ……」


 4人は鍵を受け取る。鍵にはヘンテコだが妙に愛嬌のあるキャラクターのストラップが着いていた。どうやら、この島のイメージキャラクターのような物らしい。よく見ると壁のポスターにもそのキャラクターが描かれている。


「んで、この後どうするんです?」


「そうだねぇ、働いてもらうのは明日からなんだけど、一応挨拶には行ってもらいたくってね……あ!」


 すると、一行の元に小柄で恰幅のいい老人が走ってくる。サイツはその老人が自分たちの元に来るまでずっと嬉しそうに手を振っていた。


「この人は私のじいちゃん!この島全部の採掘場を指揮してる人なんだ!凄いでしょ!」


 エッヘンと子供っぽく胸を張るサイツ。老人は照れ臭そうに後頭部をさすっている。


「よせやい!照れるじゃねえか!まあ本当の事だけどな!…さて、お前さんらが大勇者だな?オレ様は『ピッケ』!さっきサイツが言った通りこの島の採掘場全部を管理している者だ!人手が足りなくて来たのが大勇者一行とは驚きだったけどな!」


 ピッケはそう言って豪快に笑う。2人の容姿はハッキリ言って似ても似つかないが、所作に関していえば驚くほど似ており血の繋がりを強く感じさせる。


「ま、そんなところで今から各々の持ち場に挨拶してもらうから…じいちゃんはヒショを連れてってもらえる?私はこの子達を連れてくからさ!」


「よっしゃ!任せとけ!よろしくな嬢ちゃん!!」


「…えぇ、よろしく」


 意気揚々に声を掛けてくるピッケだったが、ヒショはウザったく感じたのかとても淡白に返事を返した。そんな素っ気ない態度を取られてもピッケは変わらず口を大きく開けて笑っている。


「よっしゃあ!じゃ、早速出発!!」

 

 こうして一行は二手に分かれて移動を始めたのだった。


——第三採掘場——


「………うーん」


「…?どうした、新人?」


 青年はピッケルを振るう手を止め、物思いにふける。彼はここで働き始めてまだ数週間だったが気勢が良く、勤務態度も真面目だった。そんな彼の手が止まったからか、先輩であるガタイのいい男が心配そうに声をかけると、青年はハッとした顔で振り向き直ぐに申し訳なさそうな表情になった。


「す、すいません…ぼーっとしちゃって…」


「お前らしくねえな、何かあったのか?」


「何かあったというか…ほら、今日新人が来るってじゃないですか…それが大勇者様って聞いて何か…落ち着かなくって。どんな人なのかな〜とか」


「あぁ、そういう事か。御姿はオイラも見た事はねえが、聞く限りじゃあ凄い人らしいな!大勇者になった途端、あっという間に魔王軍の幹部を2人も倒しちまって…しかも、お仲間にゃあ先代魔王の子供までいるらしいしな」


「…滅茶苦茶ですね、何というか…本当にどんな人なんだろう?」


 ピッケルを打ち付ける金属音を挟みながら会話する2人だったが、突然採掘場内にベルが鳴り響いた。この音は採掘場前の広場へ集合しろという合図だった。大勇者達(新人)がついに到着したのだ。やっと来たか、どんな奴だ、そんな言葉を飛ばしながら作業員達は広場へ向うのだった。


「さ、着いたよ!ここがみんなに働いてもらう場所!『第三採掘場』さ!ほら、明日から世話になるんだから挨拶しな!」


「…………………な…」


 サイツの言葉など全く耳に届かないほど、作業員達は仰天していた。サイツの後ろ、そこには余りにも可愛らしく美しい2輪の花が咲いていたのだ。むさ苦しく、色気のない環境にいる男達にとってこんなに衝撃的な事などそうそう無い。皆、口をあんぐりと開き、目玉が飛び出そうなほど目を大きく見開いていた。


「…えっと…明日からお世話になります、大勇者ユウです…よろしくお願いします…!」


 モジモジと、恥ずかしそうに頭を下げる彼女の姿は皆のハートを撃ち抜いた。


「私はサリエラ教の聖女マールです。精一杯頑張りますので、どうかよろしくお願いいたします」


 二発目、直撃。高貴な雰囲気を漂わせ挨拶をするマールにあっという間に皆メロメロになっていた。


「ほら、あんたも挨拶しな!」


「あ…はい!」


 作業員達は目を疑った。サイツの真後ろにいたせいで気づかなかったが、花はもう一輪咲いていたのだ。美形だ、余りにも美形だった。一瞬、少女かと見間違いそうになり、額から伸びる2本のツノを見ても魔族とは信じきれぬ程の美少年がそこにいた。


「…俺、先代魔王の息子、ノゾムって言います。この島のために一生懸命頑張るのでよろしくお願いします!」


「「「うぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」」」


 魔族の王子らしからぬ爽やかな挨拶に作業員達は一斉に喜びの絶叫をあげる。男達の叫びは収まるどころか更に昂り大きくなっていく。ノゾム達は受け入れてもらえたと、一応笑顔ではいたものの、男達とのテンションの差についていけず少し顔が引き攣っていた。


「…あんた達!!!!」


 サイツが声を張り上げた。すると、ピタリ、と作業員達の声が止んだ。あれ程叫んでいた筋骨隆々で屈強な男達がまるで叱られた犬のようにシュンとしていた。サイツはキッと睨みつけるような表情で男達の顔を顔をみまわす。そして、小さく2歩前に出た。


「この子達がいくら可愛いからって手出したらタダじゃ置かないからね!!!いい!!?」


「「「わ、分かりました!姐さん!!!!!」」」


 …作業員達は逃げるように持ち場へと戻っていった。


「すまないね、女っ気がない職場だからちょっと飢えてるのさ…でも、変な事してきたら私に遠慮なく言いな!とっちめてやるから!」


「あはは…ありがとうございます…?」


 少し戸惑いながらも3人はサイツに頭を下げた。


「それじゃあ、今日は部屋で休んでもらって…じいちゃんの方は大丈夫かな?」


——研究室——


 ヒショが案内されたのは事務所から徒歩2分、他の建物の中でも一際新しく綺麗なところであった。ピッケに連れられるまま建物の中に入り、少し長い廊下を歩いていく。その先の上りの階段を上がる途中、ピッケが話しかけてきた。


「しかし、嬢ちゃんも魔族なんだろ?それにしてはえらくべっぴんさんだなあ!!」


「…ありがとうございます。他の魔族とは出来が違うので」


「嬢ちゃんってあれか?あの〜…人間みたいな姿の魔族…確か色っぽい格好してる…」


「……もしかして、サキュバスですか?」


「そう!それそれ!」


「んなわけ無いでしょう!!」


 ヒショは声を荒げれて言い放つ。急に大声を出されピッケは驚いて階段から足を滑らせ転げ落ちてしまった。そのまま階段のすぐ近くの壁に激突し、上下逆さで股から頭を覗かせながら痛そうに声を出していた。


「痛てててて……急に大声出さないでくれよ…」


「人をサキュバス扱いする方が悪いでしょう!?」


「わ、悪かったよ…そんなに怒るとは思わなくってよ…」


「…だいたい、サキュバスは魔王軍に所属する魔物じゃないんです!言う事聞かないし、戦う気もこれっぽっちもないし…」


「そうなのか!全然知らなかったぜ〜勉強になったよ!ハッハッハ!!」


 でんぐり返しの状態で笑うピッケにヒショは静かに頭を抱えた。


(……このジジイ…調子が狂う…)


 階段をのぼり直し、2階に上がるとそこには見上げてしまう程高く積まれた大量の書物や研究資材のようなものが置かれていた。そこを掻き分けるように進んで行き、その先には曇りガラスの張られた扉。ピッケはその扉をノックすると部屋の中からどうぞ、と女性の声が聞こえてきた。


「よう!元気にやってるか!?」


「ピッケさん!お疲れ様です!」


 部屋には十数人程の白衣を着た研究員がいた。研究員達は性別や年齢にかなりバラツキがあり、ユウと同じぐらい若い男性や、中年ぐらいの女性もいた。


「今日は新人さんを連れてきたんだよ!明日からバリバリ働いてもらうからな!じゃ、嬢ちゃん自己紹介を」


 ピッケにそう言われると、渋々といった様子でヒショは部屋の中に入り、浅く頭を下げる。彼らに舐められたくないのか、少し澄ました態度で喋り始めた。


「大勇者ユウのパーティメンバー、ヒショです。まぁ…お金を貰う以上ちゃんと役には立ちますよ」


 自己紹介が終わると、研究員達は拍手を送り暖かく彼女を迎えた。


「何とこのお嬢ちゃんは魔族らしい!面白い話が聞けるかもな!」


 拍手終わりに始まったピッケの話を聞くと、研究員達は皆目を丸くしてヒショを凝視しだす。危機を察したヒショは扉へ引き返そうとするが、あっという間に研究員達に囲まれてしまう。無論、始まるのは探究心に身を任せた調査地獄である。


「この服の生地は、アイン島では見た事がない…自身の魔力を元に布を生成しているのですか?」


「え、えぇ…そうですけど…」


「この装飾から特殊な力が観測できますね…この力は一体?」


「いや…その………」


「ハッハッハ!!!これなら仲良く出来そうだな!!」


「……ああもう!!早く助けろ!!!」


 …仕事をしてないのにどっと疲れが溜まったヒショであった。


 ………その夜…


「あ、サイツさん……」


「やあ魔王子さん!どうしたんだい?そんな浮かない顔して…」


 ノゾムが自身の部屋に戻ろうと廊下を歩いていると、偶然サイツと遭遇した。だが、昼の様子と比べてノゾムは少し気まずそうに俯いていた。


「…その、俺たちだけこんな個室を用意してもらって…ちょっと申し訳ないなって……」


「あぁ気にしなくていいさ!大勇者様達は立派なお客様だからね!!それに…女の子を男共と同じ部屋に入れる訳にはいかないだろ?」


「…でも、俺は…男だし……」


 ノゾムがそう言った途端…すん、とサイツの目の輝きが曇りだした。


「……………カワイイ男の子…()()()()()って言うやつもいるのさ」


「………え?」


「…なんてね!!さ、明日から忙しくなるからね!早く寝なよ!」


 ノゾムはサイツに押し込まれるように部屋へ返されたのであった…


 …次の日からは、本当に忙しい日々が始まった。ノゾム達3人は一日中ただひたすらピッケルを岩に打ち付け鉱石を運ぶ。その繰り返し。一息つく暇もなく鉱石を見つけるべく腕を振り続ける。鍛錬を欠かさず積んできたからか肉体的に疲労がある訳ではなかったが、慣れない作業や環境による疲労感が彼らを襲っていた。それでも…とても充実感があった。

 一方のヒショは、ひたすら実験と考察を繰り返す作業に苦しめられていた。トライ&エラーが大事なのは彼女も頭では理解しているが、短気な性格のせいで上手く結果が出ず苛立つ事も多かった。だが、他の研究員と議論を交し実験に向き合う日々を彼女は無意識に楽しんでいた——


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


「……大勇者様と魔王子がアインへ旅立ち10日も経っていたとは…」


「…この度は大変申し訳ございませんでした。部下が責任を負うことを恐れ報告が遅れてしまい…」


「今更言い訳など!この馬鹿者が!!」


「………申し訳ございません…ですが…何故、大勇者様がアイン島へ行く事が最悪の事態なのですか…?」


「あの島には、魔王軍も…島民も忘れた秘密が眠っているのだ………」


「………え…?」


「何も起きなければ…良いのだがな……」


 あんな事になるなんて、この時は誰も知らない——

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