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次なる手

今回は短めです。


「……………どういうつもりだ?」


 仄暗い静寂の中、魔王は口を開いた。その声は低く落ち着いてはいたが、彼の中にある今にも噴き出しそうな怒りを如実に表していた。


「…ふふ、一体何の事を言われているのか全く身に覚えがございませんが」


 魔王に怒りの矛先を向けられた女は深くかぶったローブの中で不敵に笑った。彼の怒る様は魔族…どころか魔王軍の幹部達ですら恐怖を覚えるのにもかかわらず、女は全く動じることなくむしろ彼が怒り狂う様子を楽しんでいるようにも見えた。彼女の態度にとうとう魔王は耐えきれず、持っていたグラスを握りつぶして声を荒らげた。


「ふざけるな!!決まっているだろう!?何故…何故先代魔王に子供がいたことを黙っていた!?()()()()知っていたはずだろう!!?」


 魔王の怒号は魔王城全体を揺らすほどだったが彼女はまるで怯んでいなかった。そんな彼に対し女は肩をすくめる——もう慣れっこなのか、はたまた彼が自分を殺す事は無いという絶対の自信があるかなのかは分からないが——そして彼女は小さくため息を着くと白々しく答え始めた。


「申し訳ございません…まさか、あの地下室から脱出していたとは思いもしなかったもので」


「…………貴様、一体何を考えている」


「………ご安心を。少なくとも、あなたを裏切るような事はしておりません。こう見えて()()()、とても腹が立っているのですよ?大人しくあそこで息絶えていればよかったものを…」


 そう語る間も魔王は女の様子をじっと見ていた。しばらくして彼女の言葉は嘘ではないと思ったらしくゆっくりと前かがみになった体を元に戻していく。

 静寂が戻ったかと思うと、魔王は深刻そうに唸り声をあげ始めた。


「…事態は深刻だ……ヴィッタに続きクロンまでも屠られた…」


「…確か、クロンが死んだのは悪魔達が介入した結果だと聞きましたが?」


「……どの道、奴に勝ち目は無かっただろう…次の一手を打たなければ」


 再び唸り声をあげ始める魔王に女は耳打ちをした。


「ならば、『邪龍騎士』を向かわせるのはいかがでしょう?彼なら他の幹部達と違ってテリトリーも持っておりませんし…」


「……確かに奴なら…」


「お待ちくだされ」


 魔王が納得しかけたその時、扉から老いた魔族が杖をつきながら歩いてきた。


「…『トラディ』か」


 老いた魔族…トラディは杖を置くと膝を着くと、静かに魔王へ頭を垂れた。彼は先代魔王…よりもさらに前の代から仕えていた魔族である。その経験から来る彼の論には現魔王も一目置いており、相談を持ち込むほど信頼している人物でもある。


「魔王様…今、大勇者と先代魔王の子は『アイン島』へ向かっております」


「…そうか……それで?」


「……お忘れですかな?邪龍騎士は今別の任務についているところですぞ?」


「……そういえば…奴には()()を探させていたな…」


 魔王はすっかり忘れていた…彼にはとある任務につかせていた。任務とは探し物、だがそれは世界に数個ほどしかないと言われる程の希少品であり、何処にあるのかと言う情報すら曖昧な物だった。それ故に大人数を動員出来ない今、活動域が広い彼にしか任せられなかったのだ。


「…………アレを探すの事も重要だが、今は奴らを止めるのが先決…」


「……ヴィッタが倒された時、彼は貴方に対して不満を漏らしておりました。ただでさえ彼はプライドが高いのです。振り回されることに我慢出来ず、万が一裏切られるような事になれば…」


「……………では、誰を向かわせるのだ?考えがあって来たのだろう?」


「えぇ………『バン』様を向かわせるのはいかがでしょう?」


 トラディの口から出た名前を聞いた瞬間、文字通り魔王の顔色が変わった。彼の頭部を形成している青紫の炎が緑色に変わったのである。この色は彼が不安や心配を感じた時の色だった。


「………奴は…今まで戦場に出た事がないだろう?大丈夫なのか?」


 心配を吐露する魔王にトラディは自信たっぷりに笑った。


「ゲハハハ!魔王様、彼の潜在能力を侮ってはいけませんよ。他の幹部にも決して引けを取りません!それに、初めての実戦には十分な相手でしょう…特に()()()()()()()()絶対負けたくないと彼も思っているでしょうし…」


「…………一応、邪龍騎士にも連絡は入れておけ」


「………はい…」


 魔王は頬杖をついて玉座を去るトラディの背を見送った。だが、その顔色は最後まで変わらなかった。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


 ……赤黒く胎動した空間の中に豪華に飾り付けられた円卓が、その周りには『Ⅰ』から『Ⅶ』の文字が刻まれた椅子が置かれていた。しかし何故か『Ⅴ』と刻まれた椅子だけ2つ置かれている。そして『Ⅵ』の席に一人の男が暇そうに欠伸をしてながら足を組み座っている。その足元には、食べ残しが乱雑に捨てられていた。


「………おっそいな〜…」


 男はまた欠伸をひとつ…すると彼の前に1匹の蝿が止まった。その蝿は机の上で飛ぶことなくひたすら羽を鳴らしている。それを見た男はニヤリと笑った。そして男の視線は『Ⅴ』の席に向けられている。


「悪魔神様、遅れてしまい大変申し訳ございません…」


 その席の後ろにたっていたのは蜘蛛を連れ眼鏡をかけた男…スパイドであった。


「よう!スパイド君!まぁまぁ気にすんなって!さぁ、座った座った!」


 悪魔神は嬉しそうに机をバンバンと叩く。上機嫌な悪魔神に少し困惑しながらもスパイドは『Ⅴ』の席に腰を下ろした。そして、軽く周りの空席を見渡すと彼は小さくため息をついた。


「……他の者達はまだ来ていないのですか」


「ま、いつもの事だし…一応、ディアス君も呼んだけど……まぁ、多分来ないでしょ」


 「ディアス」…その名前が悪魔神の口から出ると同時にスパイドの眉がピクリと動いた。露骨に彼は不機嫌な顔になっていく。悪魔神はそれを見て邪悪な笑みを浮かべ始める。俯く彼の顔を覗き込むように見ながら、囁くように話し掛ける。


「……何怒ってんの?」


 ……スパイドと悪魔神はじっと見つめ合う。じっとりと複雑な感情が2人のわずか数十cmの距離で渦巻いている…その感情のほとんどがスパイドから発せられていた。


「…悪魔神様には感謝しています。ですが…これだけは納得出来ないのです…何故…何故あのような()()()を手元に置いているのですか…?」


「…どんな人間にも欲望があるもんだろ?聖人だろうが腹は減るし異性を欲する…喜ばしいことだ、人は欲望を持ってこそだからな!だから俺は『Ⅴ』の…『強欲』の『罪座』を2席用意したんだ…だが、()()()は違う!()()()()()()()…!人間として…生き物として当たり前の欲求すら!……万物の『拒絶』…こんな『悪』が他にあるか?スパイド君?」


 悪魔神は立ち上がると高らかに手を広げる。たった1人への演説。悪魔神のその熱量はディアスという存在への入れ込みようを物語っていた。スパイドは不安や疑念を押し殺すようにゆっくりと頭を縦に振った。


「…お」


 悪魔神は目線をスパイドから『Ⅰ』の席に移した。そこには1匹の蝙蝠がいた。スパイドもそちらに視線を動かす…が、嬉しそうな悪魔神と違い彼の顔は青ざめ、その上を大量の脂汗が流れていた…


「……ふふ、そんなに怯えてどうなさったんですか?本当に…愛おしい人♡」


 後方の存在に対する悪寒が全身を駆け巡った。驚きのあまりスパイドは椅子から飛び上がり尻もちを着いていた。


「…ミュ……『ミュイゼン』…!」


 スパイドの後方に立っていた人物、10代前半程度の姿でその顔にはまだ幼さが残る可憐な少女…『ミュイゼン』はクスクスと彼を見て笑っている。男女問わずとも目を奪われる程の美少女、だがその目はどこか狂気を感じさせ恐怖を抱く…少なくともスパイドはそうだった。


「ミュイゼン…!いるならいるって言え…!……全く、おぞましい女め…」


「ふふふ…私の事は()()()()んですよね…?でも、私はもっと貴方に見て欲しいのに…」


 ミュイゼンに顔を近づけられると更にスパイドは顔を引き攣らせていく。すると、呆れた様子で悪魔神が手を叩いた。


「はいそこまで…今日は人数少ねぇなぁ…ま、始めちゃおっか」


「………はーい」


 ミュイゼンはつまらなさそうに『Ⅰ』の席に座る。スパイドもズレた眼鏡をかけ直し席に戻った。


「さて……『罪座』の諸君…日々の業務、実に御苦労!今日集まってもらったのは他でもない…明日空ノゾムの事だ!」


「……そんなに凄い人なのですか?あの子」


 興味がなさそうに自分の爪を見ながらミュイゼンが呟いた。


「凄いかどうかは()()わからない…だが、面白い存在ってのは確かだ!…だから少し考えたんだ、今取り掛かっている仕事が一段落着いたら…()()してやろうかなってよ」


「随分と…気に入られているのですね」


「まぁな!俺達を見たらどんな顔になるのか…今考えるだけでも面白くて仕方ねぇな!アッハハハハハァ!!!」


 ………影で蠢く不気味な企みなど露知らず、ノゾム達は船に揺られていた。

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