月とテンシと恋バナと
箸休め回です。
※補足
天使→事務作業を主に働いている。真面目な性格の者が多い。
天士→主に戦闘員として働いている。仕事はできるが少し性格がアレな者が多い。
という設定です…
昇る、天へと昇る。天の戦士に連れられ、青空を昇る。
……………ユウ達が目を開けると、不思議な空間が広がっていた…が、そこは妙に見覚えのある場所だった。
「…王子様、ここって……」
「……少し前に来たよね…確か」
顔を見合わせる2人の前に、美しい女性が現れる。彼女はユウとノゾム、そしてウリルの顔を見ると心底面倒くさそうな顔でため息をついた。
「……ウリル様、来るなら連絡ぐらいしてください…」
「ごめんごめんサリエラちゃん!でも、そんな暇無いぐらいの緊急事態だったんだ。だからそんな顔しないでよ〜…ね?」
ウリルからそう言われ、サリエラはまた大きなため息をつきながら前髪をかきあげる。
「…じゃあ聞かせてください。そのキンキュウ事態っていうのを…」
「…………ディアスが現れた」
「ッ!?なっ…?」
サリエラの表情が変わった。彼女はひどく動揺したように目を大きく見開いて、そのまま俯いてしまう。見かねたウリルは彼女のそばに寄ると、周りに聞こえないように話しだした。
「…アイツはいずれ来るとは思っていたが、正直こんなに早く来るとは思ってもみなかった…」
「……でも…何故……?」
「………理由はおおよそ見当はついてるけど…そういえば、あの事は君にはまだ伝えてなかったっけ?後で教えるよ…でも、彼らの前で言うのはまずい…特に魔王子君にはね。彼らを無事に帰してからだね」
「……分かりました」
まだ落ち着かない様子でサリエラは頷いた。ウリルが振り返ると、睨むように彼女達を見ているヒショと…顔の部位全てを限界まで開いているマールが目に入った。
「……あ、あの…えと…ウリル様の…後ろにいる方って…」
震える手でマールはサリエラを指さした。サリエラは優しく微笑み彼女に向かって手を振った。…マールは全てを察した。
「や……ややややっぱり、サリエラ様ぁ!!?」
「…えぇ、直接会うのは初めてでしたね。彼らと旅に出ると知った時は少し驚きましたが……ふふ、元気そうでなによりです」
「は…はわわわわ……ふぎゅう…」
……自身の信仰対象と直接会ってしまった衝撃で限界が来たのか、マールは白目を向いて倒れてしまった。それを見たノゾムは慌てて駆け寄ると、彼女の頭を膝の上に乗せ介抱し始めた。
「…そんなに驚かなくても……」
「……あぁ、あの子君の神徒だったんだ…そりゃあ無理もないか」
サリエラとウリルは苦笑いを浮かべる。だが直ぐにウリルは何かを思い出したようで、少し怒ったような顔でサリエラの方を向いた。
「そういえば思い出したけど、聞いたよ?君の創った天士が暴れたって」
サリエラの肩がビクンと跳ねた。冷や汗をかきながら、ウリルからゆっくりと目を逸らしだす。
「い、いえ…その……」
「……しかも、後処理を彼らに任せたらしいじゃないか?」
「………………申し訳…ございません」
ガタガタと震えながら謝罪するサリエラ。とても女神とは思えぬ情けない姿、思わずウリルはため息をついた。
「…………まぁいいよ、そこまで大きな被害は出なかったし。にしても、面白い事を考えるんだね?宗教で人魔を和解させようなんて」
「え?えっと…ギリギリセーフですよね?大丈夫ですよね!?だって他の世界でもやってた方がいらっしゃったじゃないですか!?」
まだ怒られていると思ったのか、涙目になりながら必死に弁解するサリエラ。ウリルは呆れたように眉間を指でおさえた。
「…別に怒ったわけじゃないさ、少し感心しただけ」
「…そうですか…良かったぁ……」
サリエラは胸を撫で下ろす。ウリルはそんな彼女の頭をポンポンと叩くと、ノゾム達の方へ振り返った。
「今日は迷惑をかけちゃったね…地上は今、夜だから朝まで君たちのそばにいるよ。ついでに港町の近くに移動させるね、そこで野宿だ」
「…どうせなら町で寝たいんですけど?」
文句を垂れるヒショに、ウリルは少し申し訳なさそうな顔になる。
「ごめんね?本当は私もそうしてあげたいんだけど、ディアスとまた会うかも分からない…仮に戦闘にでもなったとしたら町に被害が出るかもしれないからね…」
「…分かりましたよ、全く」
「……じゃあ、とりあえず地上に行こうか!ごめんねサリエラちゃん、また今度お礼するから!」
そう言い残し、ウリルはノゾム達を連れて地上へ降りていった。サリエラはとても疲れた顔でハンカチを振ったのであった。
地上に降りた一行は焚き火を囲っていた。あの異様な存在がまた来るかもしれない、そう思うと皆妙に落ち着かずソワソワと空を眺めたり、ボーッと空になったコップを覗いている。
…ただ一人、ノゾムを除いて。
「魔王子君は…寝ちゃったのか…うーん、寝ている顔もキレイだね」
ノゾムの寝顔を見て、恍惚な笑顔を浮かべるウリルだったが、後方からの視線に表情を戻す。その視線の主、ヒショはまるで汚物を見るような目で彼女を見ていた。
「……ショタコン天士」
「し、失礼だなぁ!?10歳以下はさすがに対象外だよ!一緒にしないで欲しいな!?」
「…五十歩百歩でしょう」
「…………魔王子君も寝ちゃったし、女子会でもはじめよっか!」
「無視!?」
ヒショはアツアツのお茶が入ったコップを投げかけるが、寸前のところでグッと抑えて震える手でお茶を飲みだした。マールとユウは心中で彼女に拍手を送った。
「えーと…女子会とは…?」
疲労困憊な様子のトゥールがウリルに尋ねる。彼女は悪童のような笑顔で人差し指を立てた。
「ズバリ…恋バナ!!」
「………はぁ、恋バナ…」
ウリルはキャーキャーと恥ずかしがる彼女達の姿を想像していた…が、彼女の予想に反し周りはびっくりするぐらい反応が薄かった。
「……ほ、ほら…例えば、好きなタイプ〜とかさ!あるでしょ!?少しぐらいは…ね?」
必死に話題を振るウリルを可哀想に思ったのか、トゥールがゆっくりと手を挙げた。
「私は…王子様みたいなタイプがいいかな!」
「…え?」
「…な!?」
「…………は?」
ユウ達勇者一行に動揺が広がる。何か勘違いされていると感じたトゥールは強めに咳払いをした。
「言っておくけど…魔物は対象外だからね」
「そ、そうですよね…」
「あはは……」
「………………」
安心した様子の3人を無視してトゥールは話を続ける。
「そうね、具体的に言うなら…キラキラしてて、笑顔が素敵で、白馬が似合う…絵本から飛び出してきたような人…なんて……」
トゥールは少し照れくさそうに笑う。他全員はキョトンとしていた。同じパーティのソウですら口を小さく開けていた。勝ち気な彼女からこんなメルヘンな理想が出てくるとは誰一人思っていなかったのだ。
「………意外…ですね」
本音をこぼしたユウにトゥールは顔を真っ赤にして怒りだした。
「い、いいじゃないですか!?理想なんていくら盛ったって!!」
「す、すみません!想像と凄くギャップがあったというか…なんというか、もっと日焼けしたムキムキの人とかがタイプなのかなって勝手に思ってて…」
「どういう意味ですか!!?」
まさに火に油を注ぐ。トゥールはさらに怒りを爆発させた。
「え?何で私の好きなタイプを知ってるんですか?」
「「……へ?」」
ソウの一言にその場の雰囲気が変わった。
「…ソウ、アンタ……え?」
トゥールは驚きのあまり、全く言葉が出てこなくなっていた。なんだかんだ付き合いも長く、似た趣味も多かった2人。彼女は勝手にソウも同じような理想を持っていると思い込んでいた。そんな彼女の心を知ってか知らずか、ソウは恥ずかしいそうに語りだした。
「私、あんまり体も大きくないからさ…そういうガッシリした体型の人にキュンときちゃうと言うか…逞しい人にドキドキしちゃうんだ…」
トゥールは話を聞いた後、ユウへゆっくりと振り向き凄い勢いで頭を下げた。
「何か…すみませんでした」
「いえ…こちらこそすみませんでした…」
ユウも頭を下げ、和解が完了した。恋バナはまだまだ続く。
「……大勇者様はどんな方がタイプ何ですか?」
「え!?わ、私ですか!?」
トゥールが話を振った。ユウは途端に慌て始める。逃げたかったが、ソウとマールの興味津々な顔がそれを許さなかった。すると、ニヤニヤとヒショが笑いながら口を挟んだ。
「コイツ、王子にお熱なんですよ」
「ヒ、ヒショさん!!」
ユウは顔から湯気を出すほど顔を赤らめ、体育座りで顔を隠した。
「そ、そうだったんスか!でも、気持ちわかるッス!ノゾムさんすっごく優しい方だから!私もノゾムさんみたいな人、正直素敵だと思うッス!」
「私には全然分からないな」
「トゥールちゃん…」
冷たい態度のトゥールをソウは小突いて諌めた。するとトゥールは視線を感じた…ユウからの視線だった。彼女は隠した顔からじっと抗議の目線を送っていた。トゥールは涙目の彼女を少し可愛らしくも思ったが、ソウからの小突きもあったので大人しく引くことにしたようだ。
「…まぁ、皆さんの方が付き合いは長いですし、私には分からない良さもありますよね」
トゥールがそう言い終わった時には、ユウは元の姿勢に戻っていた。だが、彼女の顔はまだ恥ずかしさで真っ赤なままだった。
「何でバラすんですか…」
ユウはヒショに抗議する。彼女は鼻で笑った。今度はユウは頬を膨らませ無言の抗議、だがヒショにはノーダメージだ。なので仕方なくユウは次の一手に出た。
「じゃあ、ヒショさんはどんな人がタイプ何ですか?」
「そうッス!自分は言わないとか無しッスよ!」
「アンタはアレで言った事になってるんです?」
「……?じゃあもう一度、ノゾムさんみたいな優しい人がタイプッス」
「アンタねぇ……はぁ…そうですねぇ」
ヒショは顎に手を当てて、じっと考える。そして考えが纏まると、淡々とした様子で語りだした。
「まず容姿は、清潔感があって当然イケメンじゃないとですね。それでムキムキは嫌です、ほっそりとした方が好みですね」
「ほうほう…」
ウリルが相槌をうつ。ヒショは気にせず話を続ける。
「性格は…オラつきすぎてるのはあんまりですし…かと言ってナヨナヨしてるのもあんまり…こう…普段は落ち着いていて柔らかい雰囲気だけど、いざとなったら引っ張ってくれるというか…」
(…ん?)
(……あれ?)
「外せないのが、権力を持ってることですね!一国の王とか次期国王とかでもいいですけど…」
「「「「「……………………」」」」」
(………王子様の事じゃ?)
(……ノゾムさん…ッスね)
(…あの人の事じゃない?)
(もしかして…魔王子さんじゃ…)
(……魔王子君の事だね)
全員、思わず黙り込んでしまった。彼女も大概鈍感であった。これ程条件ピッタリな存在が目の前にいるのに関わらずのに気づいていないのだから。全員、彼女へ目をどこにつけているのだと言わんばかりの目線を向けていた。当の本人は怪訝そうな表情を浮かべていた。
「…な、何ですか?揃いも揃って…ちょっと!聞いてます!?ねえってば!!!」
…意外な盛り上がりから始まり、なんとも言えない雰囲気を残したまま女子会は幕を閉じた。
……日付が変わり、皆すやすやと寝息を立てている。ウリルはそんな人間たちの寝顔を愛おしそうに眺めていた。しかし、後ろに気配を感じ、杖を構え振り返る…が、そこに居たのはヒショだった。
「あれ?いつの間に起きてたのかい?」
ウリルはいつもの様子に戻り、ヒショに尋ねる。だが、ヒショは何も答えずじっとウリルの顔を睨んでいた。
「…どうかしたの?」
「……あのディアスとかいう男、あれ、一体なんなんです?悪魔は複数の世界で活動している、底無しの欲望を持った者の集まり……それなのにアイツは…あまりにも異常すぎる」
「…さぁ?アイツの目的は悪魔の頭領でも理解出来てないはず……」
「……神徒が嘘をつく気ですか?」
のらりくらりとかわそうとウリルだったが、ヒショは全く引く気を見せない。
「…嘘はつかないよ、隠してることあるけどね……少なくとも今は言えない。最悪の結果を招きかねないからね」
「……これだから、神々は…」
「…随分、詳しそうだね?」
「………………………………『ネイツ』…この名前に聞き覚えある?」
「…!!!!!!!」
ウリルはその名前を聞くと、持っていた杖を投げ捨て、ヒショの元へと走り出した。そして彼女の両手を握ると目を瞑り彼女の体に宿る力を辿り始めた。すると魔力の、その奥にある燃え上がるような炎を感じとった。その火種は太陽のように美しかったが、黒い鎖が絡みつき小さく…小さく燃えていた。ウリルはゆっくりと手を離すと、今度は彼女を強く抱き締めた。
「そうか…そうだったんだ……君は…すまない、気づけなくって……」
「……今更謝るな…あんた達と和解する気なんてもうない」
「いや…それでいいんだ…君は…」
我々が背負うべき罪なのだから———




