罠!!罠!!!罠!!!!
一行がピエの街を出発し2日が経過した。山を越え、断崖絶壁を越え、そして漸く「魔王六翼」の一人、クロンの根城まで辿り着いたのだった。
「ここにクロンって魔物がいるんですか?ただの洞窟にしか見えないですけど……」
「えぇ、アイツ派手な建物とか好きじゃなさそうでしたし…まぁ、罠を張るのが大好きな陰湿ヤロウらしい住処だと思いますけどね」
「罠の魔法が得意って事は迂闊に進まない方がいいよね?みんなで固まって慎重に進んでいこ…う…?」
ノゾムがハッとした顔でキョロキョロしだした。ヒショとユウも気になり周りを見ると、マールがいつの間にかいなくなっていた。冒険という言葉に浮かれていたマールの姿が見えなくなった…ならば彼女の向かう先は…
「「「…………まさか…」」」
共有せずとも3人の考えは一致していた。彼らは全速力で洞窟の中へ入ると、案の定そこに彼女の姿があった。
「あ!皆さん何してるんスか〜!遅…痛ッ!?」
呑気な顔で話しかけてきたマールにムカついたヒショは、一言も発することなく彼女へ平手打ちを放った。流石のノゾム達もヒショの行動に何も言う事はなかった。
「このバカ聖女!!相手は罠魔法の使い手だって言ったでしょうが!!!!」
「だ、だからって叩くことないじゃないッスか〜!」
「アンタねぇ!魔王軍舐めてるんですか!?」
まだまだヒショのターンは続く、今度はマールへ卍固めを浴びせる。マールも負けじと振りほどこうとするが相手は腐っても魔族、なかなか振りほどけない。またしても延々と騒いでいる2人。ノゾムがさすがに止めようとしたがその時、天井から調子のいい男の声が聞こえてきた。
『 あれ〜?随分楽しそうな声が聞こえると思ったらぁ…もう来てたんだねぇ!いらっしゃい!ボンクラ勇者御一行サマ!!』
「…!クロン…!」
クロンの声を聞いた途端、ヒショはマールから手を離し、鋭い目で天井を見上げた。
『おっ?誰かと思えば裏切り者のヒショじゃ〜ん!元気してた?』
「…相変わらず、イライラさせる喋り方ですねぇ…」
『そう言うなよ〜!昔馴染みなんだからさぁ☆…にしても、よくこんなヤツらでヴィッタを倒せたねぇ…エライエライ!パチパチパチ』
「……言っときますけど、コイツらを舐めてると痛い目みますよ」
『…プッ!随分絆されてまちゅねぇ!よっぽど愛しの王子サマにキモチよ〜くさせてもらったのかなぁ?』
「あ!?このゲス野郎!出て来やがれってんですよ!ボコボコにしてやる!!」
地団駄を踏むヒショをノゾムは落ち着かせようと取り押さえる。尚も怒りが収まらないヒショを横目にユウはゆっくりと鞘から剣を引き抜いた。
「と…とにかく、貴方を倒させてもらいます!覚悟して下さい!」
『はいはい、頑張って辿り着いてねー。ポチッとな♪』
その瞬間、鈍い音がしたかと思うと4人の真下にポッカリと穴が空いていた。4人は慌てて藻掻いてみるも、脱出は叶わず穴の底へと落下していった。
「お、覚えてろーーーー!!!!」
………………………………
「……………………ふぅ…」
…根城の奥深い部屋にて、クロンは水晶に映る光景をじっと眺めていた。4人が穴へ落ちたのを確認すると、彼は安堵したように息を大きく吐き出した。
(…ひとまず、上手くはいったが……そういえば、さっき入ってきた勇者共は…まだ生きてたか、しぶとい奴らめ…)
「……チッ、合流されたら面倒な事になるかもな…」
苦々しい顔をしながら、クロンは真っ暗な穴の中を覗いていた。
「ぎゃあああああああああ!痛え!?」
「………………みんな…大丈夫?」
4人は落下を続け、とうとう地面に激突した。幸い全員軽傷で、マールの回復魔法によって瞬時に全開になった。
「し、死ぬかと思いました…」
「いやぁ…まんまと罠にかかっちゃったッスね」
「誰のせいで……はぁ、とにかく慎重に行きますよ」
ヒショはそう言うと、その場で周辺の様子を観察し始める。落ちた場所は通路のようで、前方も後方も先が見えないほど長い道が続いている。ヒショは静かに目を瞑り、精神を集中させていく。少しした後、ヒショは前方の道を指さした。
「……あっちからクロンの魔力を感じます。この道を行けばあの野郎の所へ行けると思いますよ」
「ホントッスか!それじゃあ早速…」
「だぁかぁらぁ!慎重に行くって言ってるでしょ!?…王子、アンタが先陣切ってください」
「うん、任せて」
「王子様!気をつけて下さいね…?」
「大丈夫、ちゃんと慎重に行くか……!?」
ノゾムが1歩踏み出した瞬間、地面から極太の槍が無数に突き出してきた!ノゾムは避けることができず、何本もの槍に体を貫かれてしまう。光よりも早いフラグ回収、3人は青い顔でその凄惨な光景を見つめる事しか出来なかった。
「……あぁなりたくなきゃ、慎重に行くことですね…」
「再生能力があるとはいえ、大丈夫なんスか!?」
「…息はあるみたいですけど…王子ぃ?大丈夫ですかぁ?」
「…普通に痛いから…早く助けて……」
どうにか3人はノゾムを救出し、先へと進み出すのであった。
「……いつまで続くんですか、ここ」
先へ進んだ一行は、上り坂に差し掛かっていた。この坂道も終わりが見えないほど長く続いている。そんな地獄のような坂道を、一行はかれこれ数十分は歩き続けていた。
「…あぁ?何コレ?」
ヒショが見つけたのは、不自然に垂れ下がった1本のロープ。そのすぐ側の壁には『引っ張ってみると…?』と書かれている。
「引っ張ると…どうなるんスかね…?」
マールがロープへ手を伸ばそうとする。それを見たヒショは恐ろしい形相で彼女の手を下げさせた。
「バカですか!?どうせロクでもない事が起きるに決まってますよ!こんなの無視してさっさと進む…?」
ヒショが歩こうとした瞬間、足元に違和感を感じた。彼女が地面に目をやると、埋め込まれていたブロックの一つが大きく沈んでおり、ゆっくりと元に戻っている最中だった。それと同時に坂の上から地響きのような音が聞こえてきた。
「…………ホンメイ、こっちだったり…」
ヒショは冷や汗をかきながら坂の上へと目を凝らすと、大岩がこちらに転がってきていた!
「ちょっとヒショさん!私引っ張ってないっすよ!?」
「あんの野郎!ブラフなんか用意しやがって!」
「…ここは私に任せて下さい!!」
ユウは剣を構えて颯爽と皆の前に立った。彼女は勢いよく走り出すと、剣を大岩へと突き刺した!
「よし!このまグエッ!?」
…が、大岩の勢いは止まることなくユウを押し潰して坂を下っていく。さらに、突き刺さったままの彼女の剣に突っかかる事で大岩は何度も跳躍し、勢いを増しながら3人に向かってきた!
「岩がバウンドしてる!!?」
「ヤバイって!!ホントに死ぬ!!!!」
「…………えい」
パニックになるヒショとマールを他所に、ノゾムは妙に冷静だった。そして直感が働いたのか、彼はロープを引いた。すると、坂道全体が音を立てて動き出しそして下り坂へと変わった。大岩は再び坂道を下り始めていく。ノゾムは慌てて岩に飛びつくと、岩から剣を引き抜いた。
「…いたた…全く、私が大勇者じゃなきゃ死んじゃってましたよ…ぎゅえ!?」
ユウが起き上がった途端、再び大岩に押し潰されてしまった。3人は急いで彼女の元に走った。辛うじてユウは生きていた。
「……うぅ、情けないです…」
「…とりあえず剣、返すね」
「すみません、王子様……」
ユウは半泣きになりながら、マールの回復魔法を受けていた。
「…ちょっとでも期待した私がバカでした」
「えぇ!?そ…ぞこまで言わなぐだっでえ!!?」
ヒショから悪態をつかれ、案の定ユウは大声で泣き出してしまった…
ユウの傷も癒え、一行は下り坂になった道を進んでいくと、広い円状の部屋に辿り着いた。部屋には一行が入ってきた道から見て向こう側、そして左右にも道が続いていた。
「……どの道に行こうか?」
「ちょっと待ちなさい、クロンの魔力を探します…?何…この魔力…?」
ヒショは部屋中を見回していき、天井に違和感を覚えた。よく見ると、ポタポタとジェル状で緑色の物体が滴り落ちている。ヒショはその光景が目に入るとジリジリと後退り、真後ろにいたマールにぶつかってしまった。
「ヒショさん…?どうしたんスか?何かあったの?」
「…面倒なのを飼ってやがりますね…!」
ボトリ、またジェル状の物体が落ちてきた。だが、今までのものとは明らかにサイズが違う。先程までは大きくても手の平に乗る程度の大きさだったが、今、落ちてきたのは明らかに人間の倍はある大きさだった。
「ヒショさん……この魔物って…もしかしてですけど…」
「……スライム族…ですね…」
スライムはポヨンポヨンと上下に小さく揺れていた。一見、愛嬌のある動きだがユウとヒショの顔色を見るとそうは思えなくなる。2人は誰が見てもわかるほどに動揺していた。
「…そんなに、強いの?」
「強いというか…面倒というか……」
「…よく分かんないッスけど、私達にとって敵じゃないよね!覚悟!!」
「あっ!?ちょっと!!待ちなさい!!!」
ヒショの制止も聞かず、マールはスライムへ向かっていく。拳に魔力を纏わせ、全力のパンチをスライムへぶつけた…が、彼女の腕がスライムの中に埋まっただけだった。
「……??…あの……話し合あわぁ!!?」
スライムは突如形を変え、マールを自身の体内へ飲み込んでしまった!飲み込まれたマールは必死にスライムの中を泳ぎ、何とか顔を出すことが出来たが、そこで力尽きたのかそのまま気を失ってしまった。
「あのままじゃ…って2人とも!?どこ行くの!?」
ノゾムが振り返ると、ヒショとユウはその場から逃げ出そうとしていた。ノゾムは2人を捕まえるが、それでも2人はその場から離れようと必死に暴れている。
「王子様!離して下さい!聖女様は尊い犠牲になったんです!」
「何言ってるの!?助けなきゃ!?」
「あのね!?助けられるんなら助けてます!でもムリなんです!」
「だから何で!!?」
ヒショはノゾムの手を振りほどくと、緊張した面持ちでスライムの様子を伺いだした。スライムがこちらに来る気配がないとわかると、軽く咳払いをして説明を始めた。
「スライム族は…打撃も効かない、斬撃も効かない、それなのに魔法も効く種類が限られてるんです」
「…何なら効くの?」
「……『電気』属性だけです。超高威力なら『火』も効きますけど…少なくとも私達じゃあ、アイツは倒せないですよ」
「そんな……!」
「…自業自得ですよ……………」
冷たい言葉を口にするヒショだったが、その俯いた顔からは悔しさが滲み出ており、とても本心から出た言葉だとはノゾムには思えなかった。
「…………あれ?」
ヒショが顔を上げる。そしてじっと右側にある通路の方を見つめ出した。ノゾムとユウは目を見合せる。
「どうかしたの?」
「…この魔力…もしかしたら…!」
「何か方法があるんですか!?」
「えぇ!あの通路の先を進めばもしかしたら…!」
「よく分かんないけど…助けられるなら早く行こう!」
「……とはいえ、スライムを刺激しないように!通路に着くまではゆっくり…ですよ」
2人は静かに頷いた。
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「…………はぁ、何なのよここ…どこもかしくも罠だらけ!」
「まさか洞窟に入った途端に穴に落とされるなんてね…」
ノゾム達よりも先にクロンの根城へと向かっていた勇者…『トゥール』とその仲間『ソウ』はかれこれ数時間根城の中で迷い続けていた。
「せっかく魔王軍の幹部を倒して、みんなを見返してやろうって思ってたのに!!」
長時間出ることができずにいる鬱憤からか、トゥールは意味もなく大声で愚痴をこぼしていた。
「あはは…トゥールちゃん、そんなに叫んでも疲れるだけだよ?というか、トゥールちゃんは凄い勇者だってみんなわかってると思うけど…少なくとも私はそう思ってるけどな」
ソウの優しい言葉にトゥールの強ばった表情が少し緩んだ。気が強くて負けず嫌いなトゥールと気弱だが気遣い上手なソウ、2人はとても良いコンビだった。
「ソウ…ありがとう!でもさ、新しい大勇者様は幹部の1人を一撃で倒しちゃったんでしょ?私も負けてられないよ!」
「うーん…流石に大勇者様と比べるのは……」
「そうなんでけどさぁ〜……でもでもぉ…!」
仲睦まじく話しながら歩く2人だったが、途中でガコンと言う音が聞こえた。クロンの仕掛けた罠が作動したのだ。それを察したソウは慌ててトゥールを突き飛ばした。
「危ない!!」
「!!!?ソウ!!!!!」
壁から拳を模して彫られた大岩が現れ、ソウを殴りつけた!ソウはまるでパチンコ玉のように一直線に吹き飛ばされ、あっという間に姿が見えなくなってしまった。
「ヤバイ!早く追いかけないと!!」
トゥールは無我夢中でソウの後を追いかけたのだった。
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「……2匹は排除できたか…」
クロンは水晶を眺めながら呟いた。だが、クロンの顔は険しいままだった。このままではトゥールとノゾム達が合流してしまう。魔王六翼の一人である彼でも、それは避けたい事であった。
「クロン様!」
水晶の映像が変わる。部下からの連絡だった。
「準備は出来たか?」
「はイ!何時デモ大丈夫デす!」
「よし…アイツらはあと30秒ぐらいでそこに来る…足音が聞こえたら飛び出して囲え!油断はするな…仮にも大勇者だからな」
「ハい……!」
すると早速足音が聞こえてきた。部下達は互いに目配せをしてタイミングを図る。足音がすぐ近くまで来た瞬間、物陰から武器を振りかぶりながら3人の前に現れる——
「どいて…ください!!!!」
「ぐえええええ!!?」
……瞬殺だった。ユウが放った、たった一発の剣撃で部下達はまとめて真っ二つに斬られ全滅してしまった…
「……マジかよ」
クロンはこれ以上の言葉が出せなかった。ユウ達の勢いは全く止まらない。天井から矢が降り注ごうとも、前方から濁流が流れてこようとも彼女達は一切止まらなかった。
「!?勇者ちゃん誰か倒れてるよ!」
ノゾムが足を止め、2人も続いて足を止めた。一人の少女が苦しそうに唸りながらうつ伏せで倒れていたのだ。
「大丈夫ですか!?返事をしてください!」
「……待ちなさい」
ユウが抱き起こそうとするのを、ヒショが止める。ユウは思わずヒショを睨むが、すぐに冷静さを取り戻して手を引いた。
「…酷い怪我ですね…中途半端に動かすと、返って危険ですよ」
「…………尚更、聖女様を助けないと…ヒショさん、この先に行けば本当に聖女を助けられるんですか?」
「……一応」
「………一応って……」
ユウが怪訝そうに首を傾げる。すると、通路の奥から足音が聞こえてきた。新手が来たと思い、ノゾムとユウは臨戦態勢をとるが、奥からやってきたのはトゥールだった。
「……!?君は…!」
「…!ソウ!!アンタ達!私の友達に何しようとしたの!?」
トゥールは怒りに任せて杖を構えた!トゥールの事を知っているノゾムは察した様子だったが、ユウは何が何だか分からず慌てふためきだした。
「ちょちょちょ!?待ってください!私達は…」
「…『電撃』!!」
トゥールは一切聞く耳など持たず魔法をノゾムへ放った。凄まじい電撃がノゾムを襲うが、彼は平然としていた。ノゾムは全身に魔力を纏わせ一気に解き放つ。トゥールの全力の魔法はいとも容易く掻き消されてしまった。
「………嘘……」
トゥールは目の前の光景が信じられず、呆然とノゾムを見つめていた。ノゾムは彼女の目の前まで歩くと…静かに頭を下げた。
「………トゥール、力を貸してほしい」
「は、はぁ!?何を急に…」
「私達の仲間が、スライムに捕まってしまったんです…貴女の力が必要なんです!」
「……?…!あ、貴女…だ、大勇者様!?……話には聞いてたけれど…アンタ達、本当に大勇者の仲間になってたのね…何で魔物が…だけど…でも……」
トゥールは今になってユウの存在に気付いたようだった。だが、魔物を恨む彼女にとって、いくら大勇者の仲間でも 魔物に手を貸すなどそう簡単に決められることではなかった。答えの出ない彼女は複雑そうな顔でノゾムを睨んでいた。煮え切らないトゥールの態度に業を煮やしたヒショが彼女の胸ぐらを掴んだ。
「…今、スライム捕まってるやつは回復魔法を使えます……ソイツを助ければあんたの仲間も助かりますよ…このままじゃ、アイツ…死にますよ」
「………!あぁもう!スライムの所に案内しなさい!」
ヒショは乱暴に彼女から手を離す。そして振り返るとソウへ手をかざした。
「…『防御』…王子、ソイツを運んでください」
ヒショはそう言い残し、元来た道へと走り出した。ノゾムは言われた通り、ソウを担ぐとヒショの後を追いかける。残された2人もその後に続いたのだった。
「でっかい…あんなサイズ中々見ないけど…」
部屋に到着したトゥールは興味深そうにスライムを見ている。
「…あの顔を出している方が私達の仲間です。よろしく…お願いします」
「……大勇者様に頼られちゃったら、仕方ないっか…!」
トゥールは杖をスライムへと向けた。それに気付いたスライムは大きく弾みながらトゥールへ向けて突進してくる。彼女はそれに緊張を覚えつつも、勝利を確信していた。スライムは口を開けたような形に変わり、トゥールを飲み込まんと近づいてくる。
「至近距離で耐えられる?くらいなさい!『電撃』!!!」
杖先から強烈な電撃が放たれた!スライムは堪らず身を丸め耐えようとするが、体が至る所から崩れ始めどんどん小さくなっていく。最後にはジェルを撒き散らしながら爆発してしまった。
「…聖女様!」
ユウはジェルまみれのマールを抱き起こす。彼女はスライムと電撃のダブルコンボで放心状態になっていた。
「………死ぬかと…思った……」
「…人の話を聞かないからこうなるんですよ、バカ聖女」
「…………すみません…でした……」
マールは流石に反省したようで、ふらつく足で立ち上がると3人に向かって頭を下げた。
「…聖女さん、早速なんだけどお願いしたいことが…」
そう言うと、ノゾムは背負っていたソウをゆっくりと地面に下ろす。
「…!酷い怪我!すぐに回復を!!……『治療』!」
マールがソウへ手を当て呪文を唱えると、最初に彼女から擦り傷と切り傷が、その後は青痣や内出血していた箇所が治っていく。そして1分も経たないうちにソウの怪我は影も形も無くなっていた。
「…?あれ?私……」
ソウが目を覚ますと、トゥールは涙目になりながら彼女へ抱きついた。
「ソウ……!良かった………」
「……トゥールちゃん?…あなた達が助けてくれたの?」
ソウは不思議そうにノゾム達を見た後、トゥールの手を借りて立ち上がった。するとマールは彼女の手を取り、経緯を話し始めた。
「はい!貴女の治療は私がさせていただきました!…ですが、直前まで魔物に捕まっていて、トゥールさんに助けていただいたのです。なので…お礼はトゥールさんに……」
「…………そっか、…ありがとう、トゥールちゃん」
ソウはニッコリと微笑んだ。トゥールは彼女の顔を見て気恥そうにしていた。ソウは再びノゾム達を順番に見ていったが、ユウの顔が目に止まった途端、彼女は大きく目を見開いて叫び声をあげた。
「だ、だだだ大勇者様ー!!?」
「あぁ…言ってませんね、そういえば……改めまして、大勇者ユウです!」
「…スゴい人達と会っちゃったね!トゥールちゃん!」
ソウはトゥールに話しかけるが、彼女は気まずそうな顔をしていた。
「トゥールちゃん…どうかしたの?」
「……コイツ、いきなり王子に電撃かましたんですよ」
ヒショがノゾムを指さした。それを聞いたソウは再び目を大きく見開くと、慌てた様子でトゥールの方を向いた。
「え!?トゥールちゃん何やってるの!?ちゃんと謝らないと!」
「仕方ないじゃない!!魔物があなたの前でウロウロしてたんだから…」
「え?魔物…?……そういえば、大勇者様の仲間って魔物だったっけ?じゃあ、あなたも魔物なの?」
ソウはマールに尋ねた。が、マールは即座に首を横に振った。
「いえ、私は人間ですよ!私はサリエラ教の聖女、マールです」
「サリエラ…教!?あのカルト宗教の…あ」
トゥールは慌てて口から出た本音を押さえるが、時すでに遅し、とっくに全員が聞いてしまっていた。マールは暗い顔で膝から崩れ落ちてしまった。
「ついに言いやがりましたよ…私ですら言わなかったのに」
「うぐ……」
ヒショの言葉にチクチクと刺され、トゥールは何かを決めたようだった。彼女は静かに両手を大きく開いた。
「…トゥールちゃん……?」
「……1発、1発殴りなさい。今の失言と、さっき攻撃した分…それで、おあいこ…いい?」
「…出来ないよ、俺は別にダメージは無かったから…」
「分かりました!」
「ほら、勇者ちゃんもこう言っ…『分かりました』!?」
驚く様子のノゾムを他所に、ユウはトゥールへ本気のパンチを放った!トゥールは壁に叩きつけられ、ピクピクと痙攣している。そして、ユウは彼女の元まで歩いていくと、少し屈んで手を差し伸べた。しかし、その顔は眉間に皺が寄り、怒りを我慢するように口元が震えていた。
「……貴女が…どれだけ魔物を恨んでいるのか分かりませんが…王子様とヒショさんは……私にとって大事な仲間なんです……同じ勇者でも…これだけは、譲れないんです」
「…………」
「……でも、これで恨みっこなしです!もうあの2人に…あんな事…しないでくださいね?」
「………………ごめんなさい、大勇者様…どうしても、魔物の顔を見る度に思い出しちゃうの…目の前で…焼け死んだ両親の顔を……」
「……………………トゥールちゃん……」
心配そうにトゥールを見つめるソウ。トゥールはそんな彼女と目が合うと、自分の頬を叩いて恐る恐るユウの手を取った。
「……今、倒すべき敵は同じ…ここを出るまで協力します、大勇者様」
「はい!よろしくお願いしますね!」
固い握手を交わす2人を、ヒショはバツが悪そうな顔で見つめていた。トゥールと目が合いそうになると、ヒショは慌てて目を逸らした。
「ヒショ?どうかしたの?」
「……いえ、なんでもありません。さぁ、クロンはあっちの道の方にいるみたいですよ。さっさと行きましょう」
ヒショが指さしたのは4人が来た道の向かいにあった道だった。彼女は何故かトゥールを見ないようにしてその道へと歩いていった。その様子を少し不思議に思いながらも、一行は彼女の後を着いていくのであった。




