山脈を超えて
前回に続き、あまり話が進みません。
パーティーはピリピリとかギスギスした感じよりも、仲良くケンカしてる感じの方が好きなタイプです。
「……おはようございます」
朝8時、宿の食堂前でヒショが重い瞼を擦りながら言った。既に食堂に着いていた3人は苦笑いを浮かべている。
「おはようございます…昨日一番早く寝たのに…そんなにお疲れだったんですか?」
少し呆れたような様子のユウに対し、ヒショは眉間に皺を寄せて反論する。
「…アンタ達がうるさかったから、変な時間に起きちゃったんですよ……」
「あはは…それは申し訳なかったッス…」
項をさすりながらマールが謝った。するとヒショの様子を見ていたノゾムが急に彼女の前に立つと、そのままヒショの顎を人差し指で掬い上げ彼女の顔をじっと眺め始めた。いわゆる顎クイの状態である。ノゾムの顔が至近距離に近づいた事でヒショは途端に目が覚めたらしく、慌てた様子で騒ぎだした。
「ちょ!?何です朝っぱらから!?近い…近いって!!」
ヒショは恥ずかしさで顔を真っ赤にしていたが、一方でどこか嬉しそうにも見える。対して、ノゾムは表情はとても深刻そうだった。
「…ヒショ?大丈夫?目真っ赤だよ?体調は問題なさそう?」
「大丈夫!大丈夫ですから!!いいから離れろ!!!」
ヒショは我慢の限界に達し、ノゾムを手で突き飛ばした。
「ヒショさん!目どころか顔も真っ赤ッスよ!?」
「………ちょっとイライラしただけです…」
「…その割には嬉しそうでしたね…」
火照った顔を隠そうとするヒショにユウは冷たい視線を送っていた。
「あぁもう!うっせーですねぇ!!!さっさと食事して出発しますよ!!」
ヒショは強引に話を終わらせたが、食事中もずっとユウからの視線攻撃を受ける羽目になったのだった。
「……うん、みんな忘れ物は無い?」
「「大丈夫です!!」」
食事の後、4人はすぐに宿を出発した。街の入口に差し掛かり、ノゾムが3人を並ばせ点呼を行う。その姿はまるで園児を引率する保育士のようである。
「………何これ」
「ヒショ、大丈夫?本当に忘れ物とか無い?」
「は〜…無いですよ」
面倒臭そうにため息をつくヒショ。
「…ハンカチとか」
「はいはい、ちゃんと持って………あ」
「……みんなで取りに戻ろっか」
そんなこんなで一行はピエの街を出たのだった。
「冒険っ!冒険っ!」
ピエの街を出発し、一行は山道を歩いていた。マールは我先にと最前列でスキップしている。ノゾムとユウは微笑ましそうに先行く彼女を見ていたが、ヒショははしゃぐマールに神経を尖らせていた。
「ちょっと…そんな事してるとすっ転びますよ!」
「ヒショさん、心配性ッスね!大丈夫ですよこのくらい!」
「うーん、確かに道もぬかるんでたりする訳じゃないですし、そんなに気にしなくても…きゃん!?」
3人の視界からユウが突然消えてしまった。ユウはヒショの足元でうつ伏せになって倒れていた。どうやら彼女は僅かに地面から出ていた木の根に足をひっかけたようだった。顔を上げたユウの鼻から血が流れている。
「うぅ……痛いです〜…」
それなりに痛みもあったようで、ユウはうつ伏せのまま泣き出してしまった。ヒショは呆れたように彼女を起こそうとするが、既にノゾムが彼女に手を差し伸べていた。
「勇者ちゃん大丈夫?他に痛い所は無い?」
「はい…大丈夫です」
「そっか、とりあえず…はい、ハンカチ。これで鼻を押えて…少しを下を向いて…よしよし、泣かなくても大丈夫だよ」
優しく世話をするノゾムと泣き続けるユウ。そんな2人の様子をマールは興味深そうに見ていた。
「…何かノゾムさんってお母さんっぽいッスね」
「………そのうち慣れますよ……」
「…ちょっとだけ羨ましいッス」
マールのその言葉にヒショは急に青筋を立てて怒り出した。
「…!アンタもか!?王子を何だと思ってるんです!?」
「え?急にどうしたんスか?ノゾムさんは強くて優しい、まさに王子様だなって思ってるッスけど……」
「あのね…王子って言っても魔王子なんです!!魔王の!子!仲間のアンタ達がそんな風に接してたら舐められるでしょうが!」
「…そうッスかね……?」
「アホか!?魔王なんだから恐れられる存在じゃなきゃいけないんです!そうじゃないと魔族は従いません!」
「……ヒショさんはノゾムさんに従ってるじゃないですか」
「っ……あぁもう!鼻血も止まったでしょう!さっさと歩きますよ!!」
そう言ってヒショはぷりぷりと怒りながら歩き出していった。マールは結局何故彼女が怒っているのか分からないままだったが、黙って彼女の後ろをついて行った。
(…自分も王子様に膝枕してもらってたクセに……)
ヒショはそう思ったが、言うとまた怒りだしそうだったので心の中に留め歩き出したのだった。
歩き続け、夕暮れも近づき一行はテントを張り夕食の準備を進めていた。ヒショとユウ、そしてマールは調理器具の準備や火をつける事はしたが、調理のほとんどはノゾムが1人で進めていた。
「ノゾムさんって料理出来るんだ…」
「料理だけじゃないですよ!お洗濯とかお掃除も…家事は全部出来ちゃうんですよ!」
「…まぁ、味は保証できますよ」
「ヒショさんがそう言うなら間違いなしッスね!!楽しみだな〜!!」
そうこうしている内に、ノゾムは鍋の中のスープを皿へ人数分に取り分けて3人に配り始める。ユウとヒショは皿を渡されるとすぐにスープを口に運んでいたが、マールは皿を渡されると膝の上に置き、祈りを捧げていた。
「…冷めますよ……」
ヒショがスープを飲み終わり、ふとマールの方を見ると彼女はまだ祈りを捧げ続けていた。
「…………」
ヒショからの小言があって尚、マールは祈る事をやめず、ヒショとユウが2杯目を堪能していた時、漸くマールは顔を上げスープを飲み始めた。
「美味しい……すっごく美味しいッス!!」
「ありがとう。おかわり、まだまだあるからね」
「はい!それじゃあ早速おかわり!」
マールはあっという間にスープを飲み干し、空になった皿をノゾムへ渡した。ノゾムはスープを皿によそい、マールへ渡す…事はせずスープへ息を吹きかけ始めた。
「へ?ノゾムさん?何してるんスか?」
スープを渡される気満々だったマールは思わず素っ頓狂な声を上げてしまう。
「…?だってさっきスープ全然飲もうとしてなかったから…熱いのが苦手なのかなって…違ったの?」
「ち、違うッスよ!?サリエラ様への祈りを捧げてただけで…」
「そうだったの?…それじゃあ…はい、スープ」
ノゾムは少し申し訳なさそうにスープをマールへ手渡した。
「あ、はい…どうも……でも、お気遣いしてくれてスゴく嬉しいッス…えへへ…」
照れくさそうに笑いながら、マールはスープを飲み始める。ノゾムも嬉しそうに笑い返した。笑い合う2人の傍で、ユウは羨望の目をマールに向けていたのだった。
「……ふぅ!ご馳走様でした!とっても美味しかったッス!」
鍋も空になり、4人は寝支度を始めていた。しかし、マールは相変わらずテンションが高かった。彼女にとって冒険はそれ程までに憧れていた事だったのだ。
「どういたしまして!明日も早いからもう寝よっか!俺は最初の見張りだから後で寝るけど…」
「あはは、そうッスね…まだ眠くないッスけど……いやぁ、楽しみッス!これからどんな事が起きるのか!ワクワクするッス!!」
「はぁ……だから、遊びじゃないっての…」
「分かってるッスよ、そのくらい…」
ヒショからクギを刺され、マールは不機嫌そうに頬を膨らませた。
「でも、安心して欲しいッス!私の『回復魔法』と『聖域魔法』があれば…どんな相手が来たって…」
「…………その『聖域魔法』とやら、あんまり使わない方がいいと思いますけどね」
「え?…………ヒショさん?何でッスか?」
マールはやたらと真面目な顔付きのヒショにただただポカンとしていた。そのままヒショは話を続けるが、その声からも真剣さが伝わってくるほどだった。
「その『聖域魔法』ってサーサ国で使ってたやつでしょう?」
「はい…そうッスけど……」
「……恐らく『聖域魔法』の原理はカイリが使ってた『乖離魔法』と一緒です。神の権能を利用した詠唱不要の魔法式…対象を絞って力を抑制するなんて本来は詠唱無しで出来るはずがないんです」
「…そう言えば、カイリも詠唱せずに魔法を使ってたよね?」
「えぇ…発動自体は魔力を消費して行っていますが、正確に言ってしまえば魔法というより神の技…本来この世界に無いはずの…反則スレスレの力なんですよ」
「……反則…スレスレ……」
「…いいですかマールさん?アンタの力はこの世界のルールを軽々無視出来てしまいます。乱用すれば…この世界そのものを滅茶苦茶にしかねない…分かりましたか?」
「…………はい…」
マールは肩がずしりと重くなる感覚を覚えていた。自分の力がそれ程のものだとは今まで考えたこともなかった。動悸を、荒くなる息を必死に抑え…聖女は、覚悟を決めた。
「…責任……重大ですね…でも…この力は…正しい事のためにあるはずなんです。サリエラ教の教えの…皆様の理想の為にこの力があるのだと信じて…私は皆様と共に…歩みます」
「………………まぁ分かれば良いんですよ、分かれば」
マールの決意に対して、ヒショの反応は非常に淡白なものだった。
「ヒショさん、何かやたら詳しいですね?どこでそんな…」
「………アンタ達よりは長く生きてますからね」
ヒショからの雑な返答に、ユウは不満そうに唇をとがらせた。
「さぁ、無駄話はこれで終わりです。さっさと寝ましょう。あ〜疲れた」
ヒショはそう言ってテントへ飛び込んでいった。
「ふわぁ…じゃあ、私達も寝ましょうか?見張りの交代時間になったら起こして下さい〜」
ユウも一つ欠伸をして、ゆっくりとヒショの後に続いた。
「……えっと、それじゃあ…私も寝るッス!ノゾムさん、おやすみなさい…」
「うん……おやすみなさい…」
マールも元気よくテントの中へと入っていった。
「ちょっと!?押すんじゃねぇですよ!もっとあっちに行きなさい!!」
「これ以上は無理ッス!ヒショさんのお尻が大きいだけッス!」
「はぁ!!?」
マールが入った途端にテントの中が騒がしくなっていた。ノゾムは活気のあるテントを微笑ましく思いながら、焚き火から立ち上る煙を眺めていたのだった。
***************************
——クロンの根城——
『クロンよ、話がある』
「は〜い☆愛しの君主サマ!今度はどんな依頼ですかぁ!殺しですか?それともゴ・ウ・モ・ン?」
魔王からの連絡に対しても、クロンはおどけた様子で対応する。だが、いつもの事なのか魔王は特に気にする事無く話を進めていく。
「…どうやら大勇者共がお前の元へ向かっているようだ」
「……ほう」
「それとは別の勇者も向かっているようだが、大した問題ではないだろう…それよりもやはり気になるのは大勇者達だ…奴らはサリエラ教の聖女を仲間に引き入れたようだからな」
「サリエラ教!?あ〜んな異端を仲間にするなんとぅえ〜大勇者は相当な変人だねぇ〜!」
「…大勇者を始末しろ。やり方はお前に任せる」
「えぇお任せを!!!ボクちんがぁヴィッタよりも優秀だってトコロ、見せて差し上げましょう〜!全員バラして塩漬けにして提供しますから〜まっててね☆」
「…それはいらぬ。頼んだぞ」
魔王は少し強引に通信を切った。クロンは通信が切れた事を確認するや否や、通信器具がのっていた机を壁へ投げ飛ばした!
「っ!!!力が取り柄だけの無能め!!リトでの敗北がもはや取り返しのつかない事だとまだ気付いていないのか!?先代の王が築いた資源も浪費ばかりしおって!!こちらの士気は低下の一途を辿り!対して人間共はヴィッタの無様な最期を見て士気を最高潮に高めているのに!!」
「クロン様!何カありマしたカ!?」
クロンの部屋から聞こえた物音に部下の魔族達が駆けつける。クロンは部下の顔を見て、少し落ち着きを取り戻したようだった。
「…いや、何でもない……持ち場に戻れ」
「…本当二、大丈夫デスか?」
「何でもないと言ったのが聞こえないのか!!!」
「ヒっ!!?し、失礼しまシた!!!」
クロンは部下を部屋から追い出すと、ふらついた足取りで倒れた机へと向かい、少し乱暴に机を立たせた。そのまま机に両手をついてゆっくりと目を閉じる。
(ここで俺が奴らを止めなければ…魔王軍の敗北はより確実なものになってしまう……)
「まぁいい…上手くやるさ……あんな小娘ごとき…」
そう口にしてみるものの、クロンの顔の苦々しく歪んでいた。どんな強気な言葉でも、胸に巣食う不安を拭う事はできなかった。
***************************
……………………あれ?あの子はどこ行っちゃったの?
…………出掛けた?マジ?普段自分から全然動かないのに?
……まぁ、いいさ…好きにやらせれば…………
……………………あいつは…サイキョウだからな!———
アッハハハハハァ!!!




