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「聖女」

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 事件から一夜明け、ノゾム達は街を出発するために身支度を整えていた。荷物を纏め、彼らは街を離れようと歩いていると後ろから声をかけられた。


「おーい!!大勇者様ー!」


「あれ?貴女は……リトの儀式の時にいた…」


 声をかけてきたのはカーレとレッジの仲間の少女、リコーだった。リコーは少し申し訳なさそうな顔で近づいてきた。


「あはは…儀式の時はごめんなさい…急に魔物が出てきてビックリしちゃって…で、早速なんだけど連盟から大勇者様宛に言伝を預かってるの」


「言伝…ですか?」


「ええ、あなた達『サリエラ教』って知ってる?」


「「「サリエラ!?」」」


 3人は一斉に驚きの声を上げた。急な大声にリコーはキョトンとしていた。


「……その様子だと、知ってるみたいだね…」


「……知ってるというか、昨日の一件はサリエラの創った天士が起こした事なんですけど!?」


「…そうだったんだ……まぁこれも何かの縁なのかもね」


 大声を出すヒショに対して、リコーは冷静だった。驚きが隠せない3人を他所にリコーは話を続けていく。


「…で、言伝…と言うより依頼かな?サリエラ教の聖女様がサーサ国にある教会へ巡礼に行くそうなの。だから、大勇者様に護衛をお願いしたいってことらしいの」


「……護衛…?」


「うん、元々聖女様専任の護衛はいるみたいだけど、最近魔物の襲撃が激しくなってるみたいで…でも、今回の巡礼は本当に重要だから厳重にしたいみたいね」


「ふーん…で?サリエラ教って一体何なんですか?そんな宗教、聞いた事ないですけど」


 ヒショがリコーに尋ねた。


「あぁ、知らなかったんだね…えっとねぇ、サリエラ教の最大の特徴は人間だけじゃなくって魔物にも信者がいる事ね」


「魔物にも…?そんなヤツら、いた覚えが無いですね…」


「最近までかなり小規模の団体だったからね。でもいい加減人間と魔物の戦争に疲れた人達が増えてきてるでしょ?サリエラ教の教義は『人と魔物が手を取り合って生きるべき』なの。殺し合いが嫌になってサリエラ教に入信する人や魔物が増えてきたみたいだよ」


「ここ最近で勢力をのばしてきてるって訳ですね…」


「ふふ、()()()()()()ピッタリの依頼だと思うよ!頑張って!」


 こうして3人は新たな依頼を受け、タイボク王国を離れたのだった。


「は〜………馬車ぐらい用意してくれって話ですよ…」


 3人はサリエラ教の聖地がある集落へ向かっていた。だが、集落はタイボク王国から離れたところにあったのにも関わらず、3人は徒歩で向かっていた。道は険しく、崖のようになっていた。


「まぁ、今日中には着くみたいですし頑張りましょう…?」


 案の定、苛立ちで大きなため息をついたヒショをユウは宥めるが、ヒショは無視して歩を進める。


「…こんなチンタラ歩いてて大丈夫ですかねぇ?襲撃とかあるかもしれないのに…」


 ヒショがわざと周りに聞こえるような声で呟いた。


「大丈夫ですよ!魔物の襲撃ぐらいなんとでもなりますよ!」


「うん、いざとなれば俺が前に出るから…」


 ヒショの不安をノゾムとユウは拭おうと笑ってみせるが、ヒショはまた大きなため息をついた。


「アンタらねぇ…魔王の幹部を倒したヤツらに真正面から向かって来るわけないでしょ!?きっと何か作戦でも立ててくるに決まってますよ…それと王子…アンタ前に出るのはいいですけどちゃんと引くことも考えなさいよ…!ただでさえ未知な力なんです、どんな弱点があるか分からないでしょ!?」


「ご、ごめんなさい……」


 急にヒショの説教が始まり、ノゾムは思わずたじろいだ。一方でユウは怒るヒショを見てクスクスと笑っている。


「…ふふ、ヒショさん…やっぱり王子様が心配なんですね!」


「は!?ち、違います!!私はただ…!」


 頬を赤く染めて言い返そうとするヒショ。彼女の真意が分かり、シュンとしていたノゾムに笑顔が戻っていた。


「…ありがとう、ヒショ!」


「だからそんなんじゃなくって…!」


 ヒショがそう言った瞬間だった。突然、上方から矢が放たれノゾムの胸に突き刺さった。ノゾムは慌てて引き抜くが、再生する事はなく、彼の胸からは鮮血がだらりと流れ落ちる。


「王子様!!何で!?」


「この矢…先端に毒が塗られてる…?王子の再生能力は毒で抑制されるの…?」


 驚きながらも、ヒショは冷静だった。対して、ユウは大慌てでウロウロと周りを見渡していた。すると、崖の上から何かが光ったように見えた。


「……あそこから私たちを狙ってます!」


 ユウが叫んだ。


「急いでここを離れましょう!!ユウさん!王子を担いで!」


「はい!分かりました!」


 ユウは言われた通りにノゾムを担ごうとする。だがその時、ノゾムの視界に何かが映った。直感でそれが危険な物だと感じた彼は、言うことを聞かない体を必死に動かし2人を突き飛ばした。


「危ない!!!」


 その直後に響き渡る爆発音。そしてノゾムはその爆発の衝撃で吹き飛ばされそのまま崖から落下してしまった。——ノゾムが見た物は、ぬのずきん達が作成した爆弾だった。彼らは弓や爆弾を作り、上から奇襲をしかけてきたのだ。——


「王子様!!!!!追いかけましょう!!」


「え?ちょ、何言って…ぎゃあああぁぁ!!!!?」


 ユウはヒショを抱き上げると、崖を滑り落ちていったのだった。









 …………………痛い……


 …体中……ズキズキ痛んでる…


 ………何も見えない…


 僕……また…死ぬのかな…………………









「大丈夫ですか!!?」


 …………?


「……あれ?痛くない…?」


 声が聞こえ、ノゾムはゆっくりと起き上がった。胸に受けた傷も体中を走っていた痛みも全て消えていた。彼の目の前には、質素な服装に身を包んだ美しい女性が立っていた。女性は心配そうな顔でノゾムを見ていた。


「…貴女が…助けてくれたの?」


 女性は満面の笑みを浮かべて彼の手を握った。


「あぁ、良かった…間に合って!」


「……何で、助けてくれたの…?」


 ノゾムが疑問を口にした。女性は不思議そうに答える。


「何でって……そんなの当然…あ」


 彼女の目に入ったのは、ノゾムの額にある2本のツノ。彼が人間ではないのは火を見るよりも明らかだった。しかし、女性は恐れることはなく、それどころかノゾムへ優しく微笑みかけた。


「大丈夫ですよ…私、サリエラ教の信者ですから。困っている方なら人も魔物も関係ありません」


「サリエラ教…!?」


「…?はい、この先にある森をぬけたところに私達サリエラ教の聖地があるんです。この森には魔王軍の魔物も魔獣もいませんからお時間があれば寄ってください、歓迎いたしますから!…色々気になることもありますが、実は今日お客様がいらっしゃることになっていて、直ぐに帰らないといけなんです…どうかお気を付けて、それでは!」


 その言葉を最後に、女性は森へと走り去っていった。


「名前…聞けなかったな…」


 ノゾムは森に消えていく女性を見届けていたが、崖からパラパラと小石が落ちてくる音が聞こえ崖の方へ目を凝らした。すると、上から猛スピードでユウ達が滑り落ちてきていた。


「…勇者ちゃん!?」


「王子様!!!!!!」


 ユウはノゾムの姿が目に入ると、途中でジャンプしノゾムの目の前で着地した。


「良かった!!ご無事…?ご無事…過ぎませんか?」


「アンタ…さっきの傷はどうしたんです?」


「さっき、通りがかった女の人が直してくれて…その人、サリエラ教の信者だって言ってたよ。あの森を進めば聖地があるって」


「はぁ……アンタ、運がいいですねぇ…回復魔法が使えるヤツなんて滅多にいないのに」


「そうですね…王子様の能力の弱点が分かった以上、回復魔法が使える仲間が欲しいですね…」


「…普通に欲しいでしょう、回復役。まぁ、大勇者サマの仲間募集なんて、馬鹿みたいに応募が集まると思いますから?考えるのは後でもいいでしょう…じゃあ、さっさと目的地に行きましょう」


 こうして一行はヒショを先頭に再び聖地へ歩き始めたのだった。


—聖地サリエラ—


「ようこそいらっしゃいました!大勇者様!ワタクシ、聖女様の世話係の『ジーヤ』と申します!」


 聖地に着いた3人は立派な白髭をたくわえた小柄な老人が出迎えられた。


「早速で申し訳ないのですが、我らが聖女にお会いしていただきたいのです」


「はい!ぜひ会わせて下さい!」


 3人はそのままジーヤの案内の元、聖女のいる聖堂へと向かった。聖堂の中では神への祈りを捧げる信者達が所狭しと並んでいた。リコーが言っていた通り、信者は人間だけでなく魔物の姿もあった。ノゾムの目には魔物の信者達の顔は、今まで出会ってきた魔物達よりも穏やかで澄んでいるように映った。


「さて…この先が聖女様専用の祈祷室になっております」


 聖堂の奥にはひときわ大きな扉があり、老人はゆっくりとその扉を開けた。部屋はステンドグラスで装飾を施されており、先程通った部屋よりもさらに幻想的に見える。その部屋の奥で、純白のドレスに身を包んだ美しい女性が祈りを捧げ…


「……あれ?貴女まさか!?」


 驚いたノゾムの声に気付き、女性が振り返る。そこにいた女性は、間違いなくノゾムの窮地を救った通りがかりの女性その人だった。


「貴方は…!?大勇者様のお仲間だったのですね!」


 聖女はとても嬉しそうに3人の元へ歩いてきた。早速の再会に喜び合う2人。ユウとヒショは()()女性と仲睦まじくしていたノゾムを白い目で見ていた。


「…また女誑かしてる……」


「えぇ!?ち、違うって…!」


 ヒショからの小言をノゾムは必死に否定しようとするが、天然でこんな事をしている彼への怒りは収まることはなく、ヒショはノゾムの頬をつねり出した。


「ヒショさん!!聖女様の前なんですから落ち着いてください!怒る気持ちはよーーーーーーっく!分かりますけど…!」


 ユウは本音を漏らしながらもヒショを取り押さえた。神聖な場所で大騒ぎする3人。だが、聖女は怒るどころか3人を見て吹き出してしまった。


「あははは!皆さん、とっても仲良しなんですね!」


「は?どこをどう見てそう思ったんです?」


「ほら、ケンカするほど仲がいいって言いますし…ふふ、とっても頼もしいです!私は『マール』と言います、短い間ですがよろしくお願いいたしますね?」


「…えぇ、よろしくお願いします。私はヒショです。で、この女誑しがノゾム…先代魔王の子です。それで、こっちの頼りなさそうなのがユウです。ちゃんと報酬のために仕事はしますよ」


 一言多い自己紹介が終わった。ヒショはヒショで相変わらずであった。


「「………………」」


 ノゾムとユウは何か言いたげに彼女へ視線を送っていた。その視線に気付いたヒショが2人を睨むと、2人はサッと視線を逸らした。


「……魔王の子…?」


 ポツリとマールが言った。ノゾムはさすがに驚かせてしまったのかと丁寧に自分の事を説明し始めた。


「…うん、あんまり覚えてないけど…俺、人間と魔物の戦争を止めたくて、俺が魔王になれば止められるのかなって思って…それで勇者連盟に加入させてもらって、勇者ちゃんとパーティーを組んでるんだ」


 静かに話を聞いていたマール。話を聞き終わると、何故か彼女は下を向いてプルプルと震え始める。心配になったノゾムとユウは彼女に声をかけようと近づくが、よく聞くと彼女は小さく何かを呟いていた。


「………す」


「…………す?」


「素晴らしいです!!!!!!!!」


 突然の発せられた大声に、3人は思わず耳を塞いだ。気にせずマールは目をキラキラさせてノゾムとユウの手を取った。


「魔王の子と大勇者が手を取り合って平和をつくろうとするその姿!まさに我々サリエラ教が目指すべき姿!!皆さんに依頼を出して本当に良かった!!!」


 マールの勢いは凄まじかった。2人はただその勢いに押され、嬉しそうに話し続ける彼女を見ている事しかできなかった。そんな中、祈祷室の扉が開き体格のいいスキンヘッドの男が入ってきた。


「……失礼します。皆さんお食事の準備が整いましたので…」


「ジル!もうそんな時間…」


 ジルの言葉を聞くと、マールは少し落ち着きを取り戻した。マールは2人から手を離すと、ジルの元に駆け寄り彼の紹介を始めた。


「彼はジル。私の護衛隊の隊長を務めています。強面ですけど、とても優しい人なので仲良くしてあげてください!」


「ははは…ご紹介に預かりましたジルです。皆さんは魔王6翼を倒した実力者。頼りにしていますよ。さて、話はここまでにして食事場に案内しますね」


 3人はジルの案内の元、食事場に通された。テーブルには人数分の小さなパンとこれまた小さな皿に入ったスープが置かれていた。


「……これだけ?」


 ヒショが不満げに言う。ジルは少し申し訳なさそうな顔をしていた。


「すみません、サリエラ教は別に食肉が禁止されている訳では無いのですが…」


「質素倹約は大事ですからね!お祝い事など以外では基本このぐらいの量ですよ!」


 にこやかな、しかしどこか圧のあるマールの返答にヒショはガックリと肩を落とし席に座った。ノゾム達も席に着くと、マールとジルは食事に向かって手を合わせる。ノゾムとユウはそれに続き手を合わせ、ヒショもユウに小突かれ嫌々ながらも手を合わせた。手を合わせて1、2分経った後、マールが口を開いた。


「……はい!感謝のお祈りも済んだので、食事を頂きましょう!」


 こうして、和やかながらもどこか厳格な雰囲気の中、食事が始まった。さすがに量が少なく、3人ともあっという間に食べ終わってしまった。


「ご馳走様でした!ふふ、皆さんいい食べっぷりでしたね!」


「食べ終わったところで…皆さん、依頼についてですが…聖女様は明日の早朝、サーサ国へ向けて出発いたします。移動は数日間かけて行われますので馬車を用意しております。なので、皆様はワタクシと聖女様が乗る馬車に乗っていただき、不測の事態があった際、動いていただくようにお願いします。護衛隊は他の馬車に乗り、周りを警戒しながら一緒に移動しますのでご安心を」


「分かりました!聖女様!よろしくお願いしますね!」


「いえ、こちらこそ!ご迷惑をおかけしますが…どうかよろしくお願いいたしますね…!」


 ユウとマールは硬い握手を交わしたのだった。


 翌日、一行は聖地を離れサーサ国へと向かった。最初こそ魔物襲撃を警戒し、馬車の中は緊張感に包まれていたが、次第に和気あいあいとした雰囲気へと変わっていった。マールを混じえた4人は今までの旅路を話していた。


「えぇ!?じゃあ、皆さんはサリエラ様にお会いされたのですか?」


「えぇそうですよ。とんでもない目に会いましたよ、全く…」


「……では、皆様とお会いできたのもサリエラ様のお導きがあってこそだったのですね!」


 マールは至極喜びに満ちた顔で、手を合わせ祈りを捧げ始める。そして何故かマールはそのままサリエラ教の教えについて話し始め、ノゾムとユウは真剣な顔で聞いていた。一方でヒショは鋭い視線でマールを見ていた。その顔には様々な感情が入り交じっていたが、少なくとも良い感情を抱いてる訳ではなさそうだった。


「……あ!」


 それまで話を聞いていたノゾムがふと思い出したようにマールへ声をかけた。


「聖女様、そういえば何であの森の近くにいたの?」


「…!?ノゾム様!しーっ!しーっ!」


 ノゾムの質問にマールは慌てて人差し指を立てて止めたが、少し遅かった。既にジーヤの耳にバッチリ届いていた。


「…聖女様……また、勝手に外出されていたのですか?」


「いえ…その……す、すみませんでした…」


「全く…あれほど勝手な外出は控えるようにと言っておりますのに」


「……すみませんでした」


 マールはしょんぼりとした顔で祈りを再開した。3人は気まずそうに会話を続けたのだった。


 ……その夜…


 「……眠れないな…」


 馬車を止め、一行は睡眠を取っていた。この日のノゾムは寝つきが悪く、天井を見渡したり遠くに見える見張りの護衛隊を眺めたりしたが、一向に寝付けなかった。彼は外の空気でも吸おうと体を起こした。


「あれ……?聖女様は…?」


 体を起こし気づいた、マールがどこにもいなかったのだ。ノゾムは慌てて外に出ると、彼女は馬車のすぐ近くで星空を寂しそうな顔で眺めていた。


「聖女…様…?」


 ノゾムの声を聞いて、マールの体がびくりと跳ねた。マールは慌ててノゾムの方を向くと、寂しさが抜けきらない笑顔で彼の横に歩いてきた。


「ごめんなさい…もしかして心配かけちゃった?」


「ううん、ちょっとビックリはしたけどね」


「あはは…でも丁度良かったッス!話し相手がいなくて寂しかったんスよ」


「………?聖女様?喋り方が…?」


 ノゾムが指摘すると、マールはハッとした顔で自分の口を両手で覆った。


「……その…素の喋り方はこっちなんス…みんなの前では、聖女っぽくいたくって…やっぱり変…ですよね……?」


 恥ずかしそうに語るマールにノゾムは首を横に振った。


「そんな事ないよ。明るくて…元気を貰える喋り方だと思う」


「え?そ、そう…かな?嬉しいッス…何か…上手く言葉に出来ないけど……」


 顔を赤らめ、マールはその場に座り込んだ。ノゾムも彼女の隣に座り、照れで少し下を向いている彼女の顔をじっと見つめていた。


「……何で、そんなに寂しそうなの?」


「……え…」


 気付かれた、と言わんばかりにマールは大きく目を見開いた。彼女はそのまま黙ってやり過ごそうとするが、ノゾムの真剣な眼差しに負けて、ゆっくりと口を開いた。


「…その、恥ずかしい話…生まれた時から聖女として生きてきたんで…同じ年齢の友達がいなくって…モチロン、ジルやジーヤと仲はいいんスけど…やっぱり、壁があるような気がして…だから、ノゾムさん達がちょっぴり羨ましくって……」


「じゃあ、友達になろ!」


 屈託のない笑顔で言うノゾム。そのままノゾムはマールへ手を差し出した。どこか寂寞な雰囲気をまとった彼女の笑顔は雲ひとつない星空のように輝き出していた。


「…はい!よろしくッス!!ノゾムさん!」


 美しく細い手がノゾムの手を取った。生まれて初めての友人にマールは心を躍らせたのであった。

 夜が明け、馬車は再び動きだしす。ノゾムはユウに昨日の事を話した。友人になって欲しい、当然ユウはその願いを快く引き受けた。新たな友が増えた馬車の中は昨日以上に和気あいあいとしていた。マールは久しぶりに心の底から笑えたような気がしていた。旅路はとても平穏なもので、魔王軍の気配を全く感じなかった。それがかえってヒショに不安を覚えさせていた。


—サーサ国—


 数日間の旅を終え、一行はサーサ国に到着した。入国して直ぐに一行は教会へと向かった。教会は街の端の方にある丘の上に建てられており、馬車でもそれなりに時間のかかる距離だった。


「そういえば…何でこの巡礼が大切なんですか?」


 ヒショがジーヤに尋ねた。


「この教会はつい先日できたばかりなのです。聖女様の巡礼でこの国にもサリエラ教の教えをさらに広めるこれ以上無いほどのチャンスなのです」


「成程ねぇ……逆に言えば、このチャンスを潰せばこの国に教えを広めるのが難しくなるかもしれない…と」


「……?どうかなされましたか?」


「…いえ、別に」


 それ以降、ヒショは何も語ることはなく揺れる馬車が止まるまでじっと熟考し続けていた。こうして一行は教会に到着した。教会の周りには沢山の人が聖女の到着を待ちわびており、その前に護衛隊が並んで待機していた。聖女は途端に緊張した面持ちになり、人々に近づく足が遅くなり始める。それを見たユウはまるで悪戯好きな子供のような笑顔でマールの背中をグイグイと押して前へと進ませる。マールは最初こそ驚いていたものの、徐々に笑みがこぼれていた。そして人々の前に聖女が現れたのだった。


「……皆さん、本日はお越しいただきありがとうございます。私はサリエラ教の聖女、マールです」


「おぉ…あれが噂に聞いた……」


「話で聞いてたよりもずっと美しい…」


 聖女の自己紹介が終わると、人々は思わず言葉を漏らし芸術的とも言える彼女の美しさに見とれていた。


「皆さんも充分お解りだと思います。長きに渡る、終わりの見えない戦争…戦いに疲れ果て平和を望んでいるのは人間だけではなく魔物達にもいることを…今こそ、人と魔物が手を取り合い、真の平和をつくる時が来たのです!当然、その道は困難を極めるでしょう…ですが……」


 そこまで言うと聖女は突然黙り込んでしまい、人々は何かあったのかとざわつき始める。聖女はじっとノゾムとユウを見つめていた。そして、聖女はニッコリと微笑むと話を続けていく。


「実は昨日、生まれて初めて友人が出来ました。先代魔王の子ノゾムさんと、大勇者ユウさんです…彼らは魔王の一族と勇者という関係でありながら、良き友として、平和を目指す仲間として手を取り合い戦っています。全員が分かり合えるかは分かりません…それでも……人と魔物は友達になれる、彼らのように…我々サリエラ教の教えを守り生きていけば、きっと平和な世界を築けると信じています」


 人々から歓声が上がり、マールはホッと胸を撫で下ろした。


「やりましたね!聖女様!!」


「うん!!大成功だよ!えらいえらい…」


「ちょっ、ちょっとノゾムさん!?頭を急に撫でないでください…私もいい大人なんですから…もう♪」


「……………!?アンタ達!!伏せなさい!!」


 バァーーーン!!!!


「きゃあああああああ!!!!!」


 ノゾム達が彼女の元へ駆け寄り成功を褒め称える、そんな喜びに満ちた空間を、炸裂音と絶叫が切り裂いた。民衆の中心で突如爆発が起きたのだ。その直後、魔王軍が民衆と聖女達を取り囲んだ。魔王軍は爆弾などの武器を担いだぬのずきんと、スカル族達で構成されていた。


「…誰一人逃すナ、皆殺シだ!!」


 魔王軍は一斉に攻撃を仕掛けた。民衆が次々と傷を受け倒れていく。だが、彼らの攻勢も長くは続かなかった。


「勇…撃!!!」


「ぐわあああ!!?」


 ユウの剣から放たれた閃光が魔物たちを消し飛ばした。彼女の一撃で魔物達に阻まれていた丘を降りる道が開けた。


「皆さん!ここは私達に任せて早く逃げて下さい!!」


 ユウの一言を聞き、人々は押し合いになりながら丘を下っていった。魔王軍が態勢を整える間に怪我人達は護衛隊によって教会へと避難していく。


「グッ…!?ひ、怯ムナ!」


「聖女様には指一本触れさせませんよ!!」


 ユウとノゾム、護衛隊と魔王軍の戦いが始まった。数では圧倒的に魔王軍が有利だったが、護衛隊は自慢の連携力で、ノゾムとユウは圧倒的な力量差で互角の戦いとなっていた。


「あぁ……そんな…」


「やっぱり来やがりましたね………さてと、分かりましたか?アンタが言ってる事、妄言だって」


 呆然とするマールにヒショが囁いた。すぐさまマールがヒショを睨んだ。その目の奥からは果てしない怒りがひしひしと伝わってくる。それでも、ヒショは冷たく見下すようにマールを見ていた。


「何故、そんな事を言うのですか…?貴女は…ノゾムさん達の仲間じゃないんですか!?」


「えぇ、そうですけど?でも、アンタもあのバカ王子も言ってる事が滅茶苦茶です。人と魔物が手を取り合うなんて、そんな事が出来る確率なんて1%にも満たないのに…」


「じゃあ何故、彼らの仲間になったんですか!?」


「今更、裏切り者の帰る場所なんてありませんからね……アイツらは本当にバカですよ…絶対って言い切ってもいい程の事をやろうとしている。真剣に、大真面目に……そのお陰かほんの少し、ほんの少し誰かの心を動かしてる…」


「…?」


「アンタの話を聞いてれば…何が『サリエラ教の教え守り生きていけば平和な世界を築ける』ですか?考えの違い1つで人間は平気で殺し合います。魔物も同じですよ!…そんな妄言添えて教えを広めて、それで平和が来たら誰も苦労しないんです」


「なら…どうすれば…」


「……アンタはどう思っているんです?アンタが生きてきた間に何を見てきたんです?何を知ったんです?必要なのは薄っぺらい理想じゃなくて、アンタの意思でしょう?」


「私の……意思………」


「その様子じゃあ、平和なんて絶対来ませんね…アイツらも()()()()()()…でも…アイツらは0%を1%にしたんですよ。アンタに出来るんですか?アイツらみたいにバカになれるんですか?教えだけで『絶対に無理』を『出来るかもしれない』って人に思わせられるんですか?アンタが本当に神の従者なら…もっとシャキッとしなさい!」


「………ッ!」


 聖女はいつの間にか拳を強く握りしめていた。彼女は自身に足りないモノを教えてくれていたのだ。あの2人にあって、自分に無いもの、ただのキレイ事だと済まさせない理想の実現…聖女はヒショに頭を下げた。


「すみません…貴女の事…少し勘違いしてたみたいです」 


「…私は言いたい事を言っただけです……で、どうするんですか?人と魔物を仲良くさせたいって言っても戦いを避ける事はできませんよ?このままボーッと見てるだけですか?」


「大丈夫です!私も戦います!いきなりあんな事をするなんて…絶対許せないッス…!もう…怒ったッス!!」


「は?アンタ、喋り方が…ぁあぁバカあぁ!!?」


 マールは息を大きく吸うと、彼女から魔力が嵐のように荒れ狂いヒショを吹き飛ばしてしまった。そのままマールは地面に触れると、周囲一帯が金色の魔力に包まれた!


「聖域…展開!!」


「何ダ……!?力が抜ケていク…?」


 魔王軍の魔族達が金色の魔力に触れた途端、力が抜けていき武器を落とす者や膝を着く者もいた。


「この聖域では私に…サリエラ教に敵意を持った相手から力を奪うッス!……さぁ!皆さん!今のうちに!一斉攻撃です!」


「グッ…!あの聖女ヲやレ…!!」


 その命令通りに、スカル族の1人がマールに殴りかかる…がマールはスカル族の足を踏み、逆に魔力を纏った拳をスカル族に叩き込んだ。


「甘いですよ!!エスピア師匠を見て真似た体術だってあります!」


「エスピア!!?聖女様ってお師匠様から教わってたんですか!?」


「あのジジイ何者なんですか…」


 3人は唐突に懐かしい名前を聞き、驚きを隠せずにいた。


「……とにかく、一気に決めるよ!!」


 ノゾムは大きく跳び蒼空へと飛び上がった。そして、ありったけの魔力を右手に集中させていく。


「全員退避!!!!」


 護衛隊とユウ達は急いでその場から離れていく。魔王軍も逃げようとするが、聖域によってそれもままならなかった。


「ロード……フィスト!!!!!」


 赤黒い魔力が地面を抉り、魔族達を纏めて蹴散らしたのだった。



「はぁ〜…とんでもない目に会いましたね〜…まぁ、報酬は貰えましたし…いいですけど…」


 ヒショのため息が馬車に響いた。サーサ国での出来事から数日後、一行は聖地サリエラへと戻り、馬車を借りて次の街へ移動を始めていた。


「いや〜!勇者様もノゾム様もお話で聞いた以上の素晴らしい方達でしたね!!本当に勉強になります!!私も聖女として、もっと頑張らないと…」


「ホントですよ…もっと自分をしっかり持てって話…どええええ!?」


 ヒショは大声を出してひっくり返りそうになった。無理もないだろう、先程別れたはずのマールが馬車の中にいたのだから。無論、ノゾムもユウも彼女の姿に目を丸くしていた。


「あぁアンタ!?いつの間に!?というか何でここに!?」


「だって!皆さんとせっかくお友達になれましたし…それに世界を変えるためには、祈りを捧げるだけじゃ駄目だなってヒショさんと話していて思ったッス!!だから私も旅に連れてって欲しいッス!!お願い!この通り!!」


 マールは手を合わせて何度も頭を下げだした。3人は顔を見合せると、その場に円になってうずくまり小声での会議が始まった。すぐに話はまとまったようで、代表としてノゾムが立ち上がる。


「聖女様…一応、俺らとしては歓迎するけど…大丈夫なの?勇者連盟の加入手続きとか…そもそもジーヤさん達には話をしてあるの?」


「そこは大丈夫ッス!実はこっそりジーヤには内緒で勇者連盟へ加入してたッス!いつか冒険に出たいなって思ってて…!ジーヤには話してないけど…どうせ反対されるだけだし、ジルが上手く説明してくれるッスよ!ね!ジル?」


 マールは無邪気な笑顔で馬車を運転していたジルを見た。彼女にジーヤを説得する策など無い、マールはジルに丸投げする気満々であった。


「は、はははは……」


 …対して、ジルの笑顔はどこかひきつっていた。


「…坊主、嫌なら嫌ってハッキリ言った方がいいですよ…」


 さすがに可哀想に思ったのか、ヒショなりにジルを慰める。


「いえ…いいですよ。我らが聖女は幼い頃からとても活動的な方ですので…いずれこうなるのだろうなと…それに、怒られるのは私だけですから」


「アンタ…その性格、直した方がいいですよ」


 呆れ返ったヒショはぐったりと椅子にもたれかかった。こうして、ノゾム達に新たな仲間が加わった。マールは3人の前に立つと、ゆっくりと片膝をつき両手を顔の前で組んだ。


「これは、サリエラ教において最大の感謝を示す姿勢になります…大勇者様、そして魔王子様…貴方達の旅に同行できること、本当にありがたく思います。サリエラ教、聖女マール……精一杯頑張るッス!今後ともよろしく!!」





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