蜘蛛の糸
17話も書いてて全然話が進んでいない無能物書きがいるらしい。
「………ふむ…美味い酒だ。高い金を払っただけはある」
タイボク王国の国王は、緩んだ目でグラスに注がれた酒を眺めている。己の悪事が暴かれようとしていることなど露知らず、酒のお供としてあてがわれたチーズに舌鼓を打っていた。
「足りないようでしたらまたお申し付けください」
そう言って執事は頭を下げた後、早足で部屋から出て行く。国王は気にもとめずグラスをゆっくりと回していた。
(くくく……あの連中の言うことは半信半疑だったが…信じて正解だったようだな…エルフ共で得た金とエルフ族の魔法技術があれば…この国の権威はさらに強大なものになる!!我々を貧乏国家だと軽んじる国々に目に物見せてやる!!)
「く、くくく……はははは!どわっ!!!?」
突然天井から爆音が聞こえたかと思うと、上から瓦礫の山が国王の目の前に降り注いだ。物音を聞いた兵士達が慌てた様子で部屋へと入ってきた。
「国王様!!一体何が!?」
「おい!あれを見ろ!!」
1人の兵士が指さした先、瓦礫の山の中に人の手のようなものが見えていた。兵士達は武器を構え、恐る恐る手のあるところへ近づいていく。
「…ぶはっ!!痛たた……」
「……どわぁ!?」
瓦礫の山からノゾムが飛び出し、兵士達はビックリした拍子に情けない声を上げてしまう。
「貴方は!?大勇者様の…?というか、そのツノは!?」
「…お前知らないのか?今代の大勇者様のお仲間には先代魔王の子がいるって」
「そうなのか!?…えっと、魔王子殿は…一体どうして…?」
「ええっと…話せば少し長くなるんですけど……っ…国王!」
ノゾムが気まずそうに兵士から目を逸らした時、国王と目が合った。ノゾムの顔は途端に厳しい表情へと変わり、ホコリを払うと国王へ近づいていく。歩みは遅く、されど決して逃さないという威圧感を放っていた。
「魔王子殿…どうかなされましたか?」
国王はにこやかに尋ねるが、ノゾムの表情は一切変わらなかった。
「…貴方から聞きたいことは山程あるけど、今は…」
ノゾムがそう言いかけた瞬間、穴の空いた天井から何かが降り立った。カイリが瓦礫の上に舞い降りたのだ。
「な、何だ…?お前は…!?」
彼から発せられる敵意を感じ取り、兵士達は思わず身構える。
「…魔王子殿がここに飛んできたのもお前の仕業か!?」
1人の兵士がカイリに武器を突きつけ問いただすが、カイリはその兵士の武器を掴むと、あっという間に武器が粒子状に分解され消えてしまった。
「どけ…俺は国王に用があるんだ」
「ふ…ふざけるな!!国王様には指1本触れさせはせんぞ!」
兵士達は素早くカイリを取り囲む。だが、カイリは全く意に介さず国王の元へ歩みを進めようとする。近づかれた兵士が武器を振り上げた時、ノゾムが叫んだ。
「離れて!!この人の相手は俺がする!!」
「わ、分かりました…!」
兵士達はカイリから離れ、国王の元へ駆け寄った。
「国王…コチラへ…」
「あぁ……分かった」
兵士は国王を避難させようと声をかけると、国王は小さく頷いた。そして、彼らはカイリから距離を取りながら、部屋から出ていこうとする。
「待って!!」
ノゾムの一声に、兵士達と国王は足を止めた。ノゾムは怒りに満ちた目で国王をじっと見つめていた。
「…逃げ切れると思うなよ」
「……………」
ノゾムの冷たい一言に国王は何も答えず部屋を後にした。
「…逃がすわけ……っ!」
カイリは国王を追いかけようとしたその時、ノゾムが殴り掛かってきた。カイリは間一髪のところで気付き、体を逸らして攻撃を躱すと、ノゾムから距離を取りながら構えをとった。
「…俺もあの人は許せない……だけど、罪のない人まで巻き込むな!」
ノゾムはカイリへ必死に訴えかける。だが、カイリにはまるで響いていなかった。
「……無知も罪だ。犠牲を知ろうともしなかった国民にも裁きを受けてもらう…!」
「…そう思ってるなら、ますますこんな事許すわけにはいかない」
ノゾムが再びカイリへ殴り掛かる。カイリも拳を振りかざし、2人の拳が絶大な魔力とともにぶつかりあった。
——一方、城の地下では——
「上が何かやかましいですけど…あのバカ王子、城の中で戦いおっぱじめやがりましたね…!」
ヒショは焦りの表情を浮かべていた。4人はエルフ達を引連れて上へ続く階段を昇っていた。すると、後ろから野太い男達の声が聞こえてきた。地下牢で遭遇した兵士達だ。全員に緊張が走り、誰が言ったわけでもなく階段を上る足が速くなる。それでも、兵士達との距離はどんどん縮まっていく。
「クソっ!俺達が何とかするしか…!おっ!?」
ドドーン!!!!ガラガラガラ……
…カーレとレッジが振り返った瞬間、兵士達の目の前へ瓦礫が降り注ぐ。しかも、瓦礫は都合よく道を塞ぐように降り積もっていた。瓦礫の山の向こう側からは兵士達の狼狽える声が聞こえてくる。
「へへっ!ラッキー!!」
「アンタ達!ヘラヘラしてる暇があるならさっさと走る!ここが突破されるのも時間の問題ですよ!!」
喜ぶカーレの頭を叩き、ヒショは走り出した。他の者達も慌てて彼女の後をついて行く。
「…しっかしヒショ姉さん!あの目眩しの魔法、よく詠唱無しで唱えられるっすね!今度教えて下さいよ!」
カーレはいつもの調子で軽口をたたく。しかし、ヒショはどこか動揺した様子を見せていた。
「え、えぇ?ちちちちゃんと詠唱してましたよ?聞こえてなかっただけでしょう!!?」
「え、な、何かすいません…?」
動揺するあまり、ヒショは声がどんどん大きくなっていた。
そのまま、ヒショは少し強引に話題を変えた。
「そ、そういえば…この国の連中にはエルフ族を見せればいいとして…エルフ族を買った連中とかはどうするんです?問い詰めたって証拠隠滅して逃げようとするでしょうし…証拠になるようなもの持ってきましたっけ?」
「あぁ!顧客リストならちゃんと拝借してきたぜ!!その辺は…俺の仕事だ!」
そう言うと、タンジーは足を止めどこからともなく紙の束を取り出して、手に魔力を集中し始めた。
「…"念写"!!」
詠唱と同時に、紙にはエルフ族を購入した者達のリストが写り、その余白に所狭しと文章が書き綴られていく。それらが終わると、タンジーは紙の束を確認し始めた。
「……よし、全部の紙にちゃんと写ったな」
ヒショ達は見た事も無い魔法を目の当たりにし、ただただポカンとしていた。
「…伊達にジャーナリストを名乗ってる訳わけじゃないんですね」
「そういう事!…しかし、エルフ達のほとんどが外国に売られてる…この国での売買されたエルフは数人程度だ…とんでもない大物取りになりそうだな」
「…………そんな…妹とは…もう会えないの…?」
1人のエルフ族が嘆いた後、ふらふらと力が抜けていき、他のエルフが咄嗟に彼女を支えた。
「…まだ諦めるのは早いさ……この記事が世に出れば、アンタ達の家族だって救えるはずだ…!だから、今は走ろう」
タンジーは倒れそうになっていたエルフの手を握る。エルフは呆然とした顔で彼の顔を見つめていたが、徐々に目に涙をためて静かに頷いた。
「………ありがとう……ございます」
彼女からの言葉にタンジーは微笑むと、一行は再び走り出した。後ろを警戒しながらしばらく走っていると、前から灯りが見え始めた。一行はその灯りの方へ飛び込むように進むと、そこは城に入ってすぐにあるホールだった。すると、外から沢山の人が騒ぐ声が聞こえてきた。ヒショとタンジーは扉から小さく開き外の様子を伺う。扉のすぐ前には国王と警護をしている兵士が立っており、彼らを取り囲むように城の爆発を見に来た野次馬達が騒いでいた。
「国王!!!」
ヒショとタンジーは勢い良く扉を開けた。国王や野次馬達が驚いた顔で彼女達の方を向いた。
「な…!き、君達は…!!?」
動揺する国王。タンジーはそんな彼を軽蔑の目で見た後、野次馬達に目を向けた。
「……これだけギャラリーがいるなら…!みんな!!これを見てくれぇ!!!」
そう言うと同時に、タンジーは野次馬達に向かって記事をばらまいた。野次馬達は我先にと宙を舞う記事を手に取り読み始めた。記事は兵士達の手にも渡っていた。記事の内容を見た者達は皆、目を大きく見開き驚いている。そして、疑念の目を国王に向けだした。
「国王様!これは真実なんですか!?」
「人身売買!!?ホントかよ!?」
「どういう事なのか説明しろ!!」
「城の爆発とも何か関係があるのですか!?」
野次馬達は次々に国王へ疑念を投げかける。疑念を持ったのは兵士達も同じだった。兵士達は信じられないという顔で国王に問い詰め始めた。
「国王様!これは…本当に…?」
「国王様!!これが虚偽ならば一刻も早く国民に説明を!!……国王!」
「…そ、そうだ!こんなもの嘘に決まっている…!君は何が目的でこんな…!」
泳いだ目で話す国王に、タンジーは冷たく低い声で喋り出す。
「…………嘘じゃねえって事、これですぐに分かるさ…みんな!!もう出てきて大丈夫だ!!」
すると、扉から何人ものエルフ族が飛び出してきた。野次馬と国王達は一斉に驚きの声を上げた。
「エ、エルフ族だ…初めて見た……」
野次馬達が驚きの声を上げる中、1人のエルフがタンジーの隣まで歩いてきた。その美しくも冷厳な姿に野次馬達は無意識に口を閉じていた。
「…私達はこの国の部隊からの襲撃を受け、この城の地下に囚われていました。その部隊は…国王からの命令だったと…話していました……ここにいる皆、家族を…大事な人を失っています…それを許すことは出来ませんが…この国には他者のために動ける人がいます。どうか…貴方達が…正しい判断を下せることを…信じています」
「………!」
国民達は一斉に国王へと詰め寄った。怒りの声を上げながら国王へと迫っていく。兵士達は国王を守るべく彼らと押し合いになるが、その手に入る力は主への忠誠とともに失われていく。騒然とする中、カーレとレッジがタンジー達に合流した。
「「凄いことになってんな〜」」
相変わらず2人の声がハモる。ヒショは詰め寄られる王を白い目で見ていた。
「……報酬はパァですね…はぁ……」
ヒショは大袈裟にため息をついた。ふとヒショが顔を上げると、国王に群がる民衆の上を何かが飛び越えヒショの前に着地した。
「ヒ…ヒショさ〜ん…!」
息を切らしながらヒショの目の前に現れたのはユウだった。ユウは涙目になりながら驚きで固まっているヒショの手を取り騒ぎ始めた。
「ヒショさん!!大丈夫ですか!?大丈夫そうですね!?そうじゃなくて王子様が吹っ飛んでって!!どっか行っちゃって!慌てて追いかけてきたんですけど!えと!えっと!大丈夫なんですかね!?」
「あぁもう!いきなり現れてギャーギャーと!!!王子なら城の中で戦ってますよ!!」
「わ、分かりました!!早く助けに…!?危ない!!!」
ユウは咄嗟にヒショを抱き締め地面に伏せた。彼女達の頭上を赤黒い魔弾が通り抜ける。2人は慌てて起き上がり魔弾が飛んできた方を見ると、先程までタンジー達を追いかけていた兵士達がいた。
「あぁ…アイツら反対側からまわってきたんですね…」
ヒショは怠そうに言った後、ユウの後ろに下がり身を隠した。ユウは兵士達の言いようのない不気味な雰囲気を感じとり剣を構えた。
「ぐっ…!お前達、コイツらを始末しろ!!」
国王が血走った目で叫んだ。国王を守っていた兵士達はその様子を見た瞬間、国王の傍を離れ追いかけてきた兵士達に斬りかかった。だが、その攻撃はいとも簡単に受け止められてしまった。
「お前達のような部隊…見た事も聞いた事もないぞ!?」
「当然だ…俺達はお前達のような一般兵とは違う…エルフ族を捕獲するために特別な力を与えられ、秘密裏に編成された部隊なんだからな…我々は国王様から『狩人』と呼ばれている…!」
「他の兵士にバレないように呼び方を変えてたんですね…ホント、人間って小賢しいたらありゃしな…危なっ!?」
小言を言うヒショのすぐ横を投げ飛ばされた兵士が飛んできる。ヒショは危うく巻き込まれそうになった。
「ヒショ姉さん、もっと下がってた方がいいと思いますよ…」
「えぇ…そうみたいですね…おい、ユウさん!狩人だかカリウムだか知りませんけど、そんなヤツら二度と舐めた口聞けないようにしてやりなさい!!」
捨て台詞を吐きながら、ヒショは素直にカーレの言葉に従いその場から距離を取った。民衆も危険を察知し、我先にと城から離れていく。
「………すぅ……っ!?」
ユウが肺いっぱいに息を吸い込み、魔力を作る。すると、彼女から白金の魔力が吹き出し、彼女の身体を覆った。
「おぉー!これが大勇者の力…!すげー迫力だな!!」
目をキラキラと輝かせ感心するカーレとレッジを他所に、ユウはひとり困惑していた。
(あれ…何で…?大勇者の力って人間に敵対する存在にしか発動しないはずじゃ…?)
「笑わせるな…どうせ…見掛け倒しだろ!!」
『狩人』の1人がユウに向かって槍を突き刺した。だが、彼の槍は彼女を貫くどころか傷一つ与えていなかった。強いて言えば、彼女の位置が若干後ろに下がっただけだった。
「ふ、ふざけやがっ…ゲハッ!?」
男が瞬きする間もなく、ユウの蹴りが彼の鳩尾に叩き込まれる。男は涎を撒き散らしながら失神してしまった。
「レッジ、レッジ…見えた?今の蹴り…」
カーレが小声でレッジに話しかける。
「…全然、見えなかった」
「俺ら必要?」
「…国王を見張るとか?」
「…それだ」
2人が国王の方を見ると、彼はコソコソと逃げ出そうとしていた。2人は一瞬で回り込み国王の逃げ道を塞ぎ、あっさりと取り押さえてしまった。
「こ、この野郎!!」
『狩人』の中でも一際体格のいい男が大剣を振りかぶり渾身の力でユウへと振り下ろした。だがユウは顔色一つ変えることなく大剣を右手の人差し指と中指で挟み軽々と受け止めてしまった。そのまま、ユウは反対の手に持っていた剣に魔力を集中させていく。
「クソっ!!?う、動かねぇ…!?」
大男は大剣を彼女の指から引き剥がそうと必死に藻掻くが、剣は1ミリとも動かなかった。ユウはそんな醜態を晒す男を見ながら右手を軽く振った。すると大男は大剣と共に他の『狩人』たちのところへ投げ飛ばされ、ボウリングのように彼らを薙ぎ倒していった。そして、ユウは静かに剣を掲げた。
「……死なない程度にいきますよ…」
「ま、待て…!!」
『狩人』達の言葉など、ユウには届くはずがなかった。
「勇………撃!!!!」
白金の閃光が、『狩人』達を襲った——
一城内一
「…!?何だ…外が…?」
ノゾムとカイリは、お互い1歩も引くことなく戦っていたが、突如窓の外から鮮烈な光が入る。光が収まると、2人は戦いの手を止め窓から身を乗り出した。
「……そっか、終わったんだ」
外から見えた光景はノゾムが言った通り、正真正銘、全てが終わったあとだった。『狩人』と国王は縄で縛られ、兵士達から剣先を突きつけられている。そこから少し離れたところでは、民衆が記事を手に持ち、険しい顔でガヤガヤと話し合っていた。
「…………これは…どういう事だ!?」
カイリがノゾムに詰め寄るが、ノゾムは落ち着いた様子で答える。
「…この国にも間違った事を間違ってるって…言える人達がいるんだよ」
「………クソっ…何で…何で俺は間違いばかり…!」
カイリは壁にもたれかかると、ズルズルと力なく座り込む。項垂れる彼にノゾムは優しく手を差し伸べた。
「……カイリの言ってる事、分からない訳じゃないよ」
「…何?」
「………人の気持ちが分からない人…よく知ってる。だけど、そんな人達より…誰かのために一生懸命になれる人達が沢山…いるんだよ」
「………………」
複雑そうな表情で、カイリはノゾムの手を取った。ようやく分かり合えた2人は、城の外へ向かったのだった。
一城外一
「ヒショ!!勇者ちゃん!!」
「王子様!!!…カ、カイリさんも…?」
ノゾムが城から出てきてユウは喜びの声を上げるが、その後を着いてきたカイリを見てすぐに顔が引き攣った。
「………その、すまなかった。迷惑をかけた」
カイリが頭を下げる。ユウとヒショは何が何だか分からずしばらく固まっていた。なんとも言えない雰囲気に耐え切れず、ノゾムが話を切り出した。
「えっとね……みんなが頑張ってくれたおかげでこの国の人達は悪い人じゃないって分かってくれたんだ!だから…もう大丈夫…」
「……わ、和解できたんですね!良かったです!!」
「全く…もう面倒事起こさないでくださいよ…」
「…すまなかった…」
ユウ達の言葉を受け、再びカイリは頭を下げた。そんな折、1人のエルフの女性がヒショ達の元に歩いてきた。
「…………ヒショ様、この方達は?」
「…そっちのツノが生えてる方が先代魔王の子です。で、あっちの頭を下げてた方がカイリ…天士で、ハーブとかいうエルフを保護してたみたいですけど」
「………ハーブ!?」
落ち着いていたエルフが突然、カイリの両肩を掴む。困惑するカイリにエルフは焦慮な様子で迫った。
「ハーブは…ハーブは生きて此処を出られたのですか!?彼女は今どこに!?」
「……………すまない…この国から逃げてきたあの子を拾ったが…兵士に……見つかって………俺が、悪いんだ…!」
「そんな………」
エルフから力が抜けていき、その場に崩れ落ちてしまった。あまりにも残酷な現実、今にも泣き出しそうな彼女を見るとカイリは何も言葉が出てこなかった。だが、この鈍重な雰囲気を破ったのはエルフの方だった。彼女は震える足で立ち上がると、ゆっくりとカイリの手を取った。
「…ありがとうございました。彼女を守ろうとしてくれて…ですが、最後に聞かせてください…ハーブはあなたといて、幸せそうにしていましたか?」
「……あぁ…ハーブは………俺と……ずっと一緒にいたいって!…そう言ってくれたんだ……守れなくってすまなかった…」
涙を流し頭を下げるカイリに、エルフは慈悲を込めた笑顔を返した。
「謝らなくても大丈夫です…ありがとう、カイリ様……私は、他の者達にこの事を伝えに行きます。それでは…」
そう言って、エルフの女性は走り去っていった。しばらくしてカイリは恐る恐る頭をあげると、ゆっくりとノゾムの方を向いた。
「……国王達の事、任せてもいいか?」
「………うん、任せて」
そう言って微笑むノゾム。
「…本当に、迷惑をかけた…もう少し人間の事、学ぼうと思う。ありがとう…魔王子…いや、明日空ノゾム」
カイリは気恥しそうに笑うと、ノゾム達に背を向け歩いていった。
「…カイリさん、どこに行く気なんですかね?」
ユウは疑問を口にする。水を差すような言葉にヒショは思わずこめかみを押えた。
「知らないですよ…まぁ、あの様子だと面倒事は起こさなそうですし…ほっといても大丈夫でしょう。さて……」
ヒショはそう言った後、キッと国王を睨む。ノゾム達も彼女に続いて国王を睨んだ。国王は彼らと目が合うと、焦った様子で目を逸らした。3人はお構い無しに彼へ詰め寄った。
「国王、自分が何をしたのか分かってる?」
「ま、待て!!私は…この国のために…!!」
「国王……もうあなたの味方はいませんよ」
「ぐっ…うぅ……」
ユウの一言で国王は力無く項垂れた。ヒショは国王への怒りを隠せずにいる2人を一瞥すると、呆然とする国王の顔を覗き込んだ。
「……ねぇ、国王サマ?アンタの兵士…『狩人』でしたっけ?誰から力を貰ってたんです?」
「………何の事だ?」
「アイツらから感じた魔力は異常です…仮に強化魔法だったとしても、あんな異質な魔力を感じさせてエルフ族をいとも簡単に捕えられる程の強化ができる魔法なんて見た事も聞いた事もありませんよ…!」
「そ、それは………言う訳には…」
その言葉を最後に、国王は頑として口を開かなかった。一向に口を開かない国王に苛立ち、ヒショは彼に揺さぶりをかけ始めた。
「はぁ……もういいですよ。せめてもの温情で私達を始末しようとした事、勇者連盟に言わないであげようと思ってたんですけどねぇ…」
「な……!?」
「大丈夫なんですかぁ?世界中の国に加えて、勇者連盟まで敵に回しちゃって…」
国王は観念したように口を開いた。
「…………数年前の事だ…とある男が交渉を持ちかけてきた。この国を強国にするための力を与える代わりに、自分達の行いに目を瞑って欲しいと…この国は貧しく、他国からも相手にされていなかった。治安が不安定になる事は覚悟の上で私は…」
「その条件をのんだ…と」
「た、確かに治安は悪化していったが…そこまで酷いものではなかった…それに、それ以上に国が潤い国民の生活は豊かになっていたんだ!私は、この国が強国になる事が何よりの夢だったんだ!だから…!!」
「そんな事聞いてないです。で?その男ってのは誰なんです?名前ぐらい知っているでしょう?」
「そ、その男は…こう名乗っていた…スネ……!?う、うぅ…!!?」
彼が名前を言おうとしたその時、彼は呻き声を上げて苦しみ出した。彼の顔はみるみる青ざめていき呼吸がどんどん小さくなっていく。
「国王!?大丈夫ですか!?しっかりしてください!!」
「誰か!担架だ!担架を持ってこい!!」
「それじゃ間に合わない!医師はいるか!?」
現場は騒然となった。ヒショは驚きながらも冷静に国王を見ると、仰向けに倒れている彼の首元に何かがいるのが見えた。
「……?蜘蛛…?」
ヒショは蜘蛛を捕まえようとするが、蜘蛛はあっという間にどこかへ姿を消してしまった。
「…駄目です。もう亡くなっています。恐らく、原因は毒物によるものではないかと」
野次馬の中にいた医師が国王を診察する。『狩人』達はただただ愕然と国王の亡骸を見ていた。野次馬達は国王の突然過ぎる死に驚くものや、天罰だと呆れるもの、そんな声で溢れかえっていた。
「………………はぁ」
…騒然とする城のはずれ、真っ暗な路地裏で一人の男がため息をついた。彼の足元には何匹もの蜘蛛がたむろしていた。すると、おもむろに男は連絡を取り始めた。
「……おい、スネイグ」
「どうしたのスパイド?今忙しいんだけど」
「…お前が担当していた…タイボク王国の国王だが…勇者連盟に全部話そうとしていたぞ…」
「本当?…とことん自分勝手なんだね…そーいうとこ、妬けるなぁ…」
「……全部言う前に国王は始末しておいた」
「えぇ…?恩でも売ってるつもり?」
「バレたらこっちの仕事にも影響が出るだろう…お前の担当場所なんだ、自分で管理しろ」
「はいはい…じゃ、切るね」
露骨に面倒くさそうな態度のまま、スネイグは通信を切ってしまった。スパイドは憂鬱そうに眼鏡を押さえた。
「……あの野郎…」
そうポツリと呟いた後、スパイドは深呼吸を始めた。何度か深呼吸をすると少し落ち着いたのか、スパイドは腕を組みながら壁に寄りかかり、喧騒とする城を眺めていた。
「明日空…ノゾム……か」
スパイドはそう言い残すと、暗い夜道へと消えていった。




