繁栄の下で
小説のモチベ、仕事行く前はあるのに帰ってきたら無くなってるのが繰り返してます。
……………………何故だ……………?
……………俺は…………間違っていたのか…?
…………何度…………石を投げられたのだろう……?
何度………汚い言葉を吐かれたのだろう……?
…………雨が、重い。
…髪に、手足に絡まって…歩くのもやっとだ。
少し…疲れたな…………あ。
「………な…誰だ…?何で…こんな……」
…俺の目の前に転がっていたソレは、霞んだ目には一瞬、生き物に見えなかった。それほどまでに酷く汚れていた。枯れ木のようにくすんだ色に包まれて、ただ終わりに向かっている。
「……………!」
……目が合った。その身は終わりへと向かっていた。だが、ソレの…コイツの目はそんな事など一切考えていない。
………あんな姿になっても、まだ生きたいと願っている。
「………………………」
『コイツもまた裏切るさ、ずっとそうだっただろう?』
………構うものか。
………そこからしばらくの記憶はハッキリしない。洞穴の中で、ただ敵を滅する事しか出来ない手で、慣れない看病の毎日だった。焦りと不甲斐なさへの苛立ち、そんな感情で一杯だったんだろう。我ながら…ダサくて笑えちまう。
…それでも、少しずつ…少しずつだがアイツの体は終わりから離れていった。
「……今から木の実を煎ってやる。これだけじゃ喉が乾くよな?水も持ってきてやった。昨日食わせたものより硬いが大丈夫そうか?」
「……………………………」
こくり、と首を縦に振った。
…コイツ、看病してる時から一言も喋らない。俺もあまり喋るのは得意じゃねえのに。正直、勘弁して欲しい。話しかけた後、何か変な汗をかいちまう。
「…もう食ったのか?だいぶ食欲もでてきたな。今日はもうゆっくり寝ろ。…おやすみ」
「………………………………………あ」
!!!!!コイツ、今…声が……!?
「………何だ…大丈夫だ…ゆっくり、話してみろ」
「……………………あ、あり……がとう……ご飯」
「………気にするな」
…目を閉じたアイツから慌てて離れる。目から、涙が止まらなくなっていた。
次の日、アイツから話しかけてきた。
「…何で…助けてくれたの…?」
「……お前と目が合った時、感じたんだよ。生きたいって」
「………ありがとう」
「どういたしまして」
……どうしよう。喋れたら喋れたで気まずい。何か、じっと見てくるんですけど!?
「…あなたの…名前は?」
「俺は…カイリだ……お前の名前は?」
「……ハーブ」
「………そうか」
…やべぇ、話続かねぇ。何だ?コ…ハーブの奴、妙に不機嫌そうだな!?
「……………何で怒ってんだ?」
「………怒ってないよ」
「そんな風に見えないんだが?あ、あれか?体を洗う時に裸を見たからか?悪いとは思っていたが、仕方ないだろ!?」
「…今更、そんな事で怒らないよ。…ただ、久しぶりのお喋りが……上手くいかなくて…自分に…イライラしちゃっただけ」
「…そうか。すまない。あんまり話が得意な方じゃなくてな…というか、『今更』って…」
途端に、ハーブは動揺した顔でこちらを向いた。酷く何かを怖がっているようだった。
「ごめんなさい…その事は…聞かないで」
「……………すまない」
…そこから数日経った。ハーブも少し歩けるようになった。ゆっくりゆっくり休みながら、たわいのない会話を挟んで…少しずつ歩いていく。森を、山を、川を超えて歩いていく。
「……カイリ、どこに向かってるの?」
「…食料がありそうなところだ。だけど、最後はお前の故郷に向かっていきたいと思ってる」
「………ねぇ、カイリ」
「……………何だ?」
「……私、帰れなくてもいいよ。カイリとずっと一緒にいたい」
「………………分かった」
……ハーブがそう言った事に、何故か俺は全く疑問を感じなかった。返事をしたあとは早かった。持ち主のいない山小屋を拝借した。水も食料もある、魔獣もいない、住むには絶好の場所だった。ハーブもとても楽しそうだった。ハーブの笑顔を見れるのは…俺にとっても最高に幸せな事だった。…初めて、心の底から笑えたような気がした。
「……もう日も落ちたし、寝るぞ」
「うん………カイリ、一緒のベッドで寝ていい?」
「…まぁ、構わないが」
毛布をまくると、ハーブがすっぽりと入り込む。すごく幸せそうだ。俺も、嬉しかった。だが、すぐハーブの顔が曇ってしまった。…俺と会う前の事でも思い出したのか?俺と会う前、何があったのか未だに聞いてない。だが……
「……カイリと会う前の話、してもいい?」
見透かされていたかのようなタイミング。俺にも、出来ることはあるだろう。興味ではなく、使命感があった。
「…あぁ話してくれ」
「…私、逃げてきたのタイボク王国から」
「……どういう事だ?」
「…………アイツら、私達エルフ族を奴隷にしてたの」
「………!?」
「エルフ族は普通の人間よりも強いよ。なのに勝てなかった。私の村も襲われて、お父さんも戦ったけど……殺され…ちゃって……お母さんと村の人達と一緒にあの国に連れてかれた。私とお母さん以外はみんな他の国の人に売られたって…そう兵士達が言ってた……」
「…そんな事……してやがったのか」
呆れと怒りが頭の中でぐるぐると回っている。人間の悪辣さは薄々分かってはいたが、改めて聞かされると…言葉が出てこなくなる。
…それでも、人間を嫌いになれない自分が気持ち悪かった。
「……それで、私達はアイツらにずっと酷いことをされてた。寝る時以外、服を着ることも許されなかった。お母さんが目の前で…酷いことされてるのを無理やり見させられたり…最悪の毎日だった。でも、お母さんが不可視の魔法を私にかけて逃がしてくれた。………本当はね、お母さん達とね…一緒に逃げたかった…!でも、私だけが逃げるのが限界だった。お母さんも、後から連れてこられた他のエルフ族も私を逃がすために手伝ってくれた。悔しいけど、それが限界だった」
「……………ハーブ…」
「……私、幸せだよ。カイリに会えて…カイリは?」
「…俺も、だ」
~数日後~
……………少し、帰りが遅くなった。とはいえ、大収穫だった。大量大量!ハーブもきっと喜んでくれる。待ち遠しい、ついつい早足になっちまう。
「………何だ…ハーブ以外にも誰か…いる?」
ゆっくりと小屋に近づく。3人の鎧を着た人間が、小屋の中にいる。
「バカヤロウ!なんで殺したんだ!」
「す、すみません!!殴っただけで死ぬとは思わなくて!」
「しかし…何でこんなところにエルフ族が?地下牢から逃げてきたのか…?…!誰だ!!!」
ハーブ…?何で床で寝てるんだ?今……殺したって言ってたか?何で…?何で?何で……!!
「おい、兄ちゃん…今俺たちは仕事中でよ…異種族がウロウロしてるとゴブリンが繁殖に使っちまうもんでよ…だから俺たちは…」
「……………………………ハーブ…………ハーブ…!」
「もしもし?聞いてる?」
…ずっと気づいてたのに分かってないフリをしていただけだった。何度も唾を、雑言を吐かれたのに、何度も裏切られたのに!何でそれでも俺は…俺は何でこんな奴らを信じようとしてたんだ!!…バカだな、本当に。
………人間は、こんなにも穢れていたのか———
「……ふぅ」
簡単だった。魔物も殺す感覚と全く変わらなかった。人と魔物が戦争しているのもきっと同族嫌悪なのだろう…アホらしい。…さっき殺した奴、ゴブリンがエルフ族を使って繁殖してるって言ってたな。じゃあ、まずはゴブリン共を皆殺しにしよう。
………そうしたら…
……………次はテメェらだ、人間。
野を歩く。怒りに身を任せて、ただ歩く。とうに日は暮れ、微かな月と星々の光を頼りに進んでいく。憤怒に満ちた彼の顔を見れば、動物も魔物すらも身を翻し逃げていく。彼の目はただ真っ直ぐ、怨敵たる国へ向いていた。すると、遠くの方に明かりが見えた。月の、ましてや太陽の光でもない不愉快な光。彼の足は光が近づくにつれ、早くなっていく。
「……………!テメェら…!」
カイリは足を止める。憎悪の化身となった天士を止めるため、勇者と魔王の子が彼の道を阻んでいた。
-タイボク王国、城内-
「…ありがとうな、まさか手伝ってくれるなんて」
「……アンタがどうこうって訳じゃないです。少し人手が足りなかっただけですから」
礼を言うタンジーをヒショは冷たくあしらった。タンジーと…その後ろにいるカーレとレッジは苦笑いを浮かべていた。
「「…あの」」
「……何です?」
冷めきった態度のヒショに2人は恐る恐る尋ねる。
「俺たちは…」
「…何で、呼ばれたの?」
「……荒事になるような事があったらアンタ達がいた方が便利でしょう?」
「「…そっすか」」
それ以上、2人は何も言わなかった。城内の警備の目をかいくぐり、4人は城の裏手にある扉に近づいていく。その扉は豪華な城の作りとは裏腹に、年季の入った木造の扉だったが、何故か2人の警備が扉の横で見張っていた。
「…厳重に警備されてますね。ま、『ここに大事があるよ〜』って言ってるようなものですけどね」
ヒショはニヤリと笑う。そして、後ろで警備の様子を伺うカーレとレッジにハンドサインを送る。2人は嫌そうな顔をした後、瞬時に警備へと近づき手刀で気絶させてしまった。
「さぁ、私達も行きましょ」
「…手際がいいな……」
ヒショとタンジーも扉へ近づいた。タンジーは扉に手をかけるが、押しても引いても扉は開かなかった。
「…魔法で封じられてるみたいですね。どきなさい」
ヒショは乱暴にタンジーをどかすと、扉に向かってゆっくりと手を差し出した。ヒショの手から魔力が流れると扉が妖しい色に輝き出した。
「……中々、厳重ですね。だ・け・ど、私の手にかかれば…はい、この通り…!」
ガシャン!という音と共に、扉がゆっくりと開いた。4人は周りを注視しながらそそくさと扉の中に入っていった。
扉の奥は階段があった。階段は下へと続いており、ジメジメとしており薄暗く、足元がかろうじて見えるだけだった。恐る恐る動く男衆にヒショは得意げに指先に火をつけ階段を降りていく。男衆はヒショの有難みを感じながら階段を降りていった。
「……しっかし…この国が襲撃されそうになってたなんて…しかも、相手はテンシ様とは…」
「怒る気持ちは分かるけど…だからって無関係な人は巻き込む訳にはいかないしな」
「………静かにしなさいよ…バレるでしょうが…」
イマイチ緊張感の無い男衆にヒショは静かにため息をついた。長い階段が終わり、真っ直ぐな通路が続く。通路もまた薄暗く4人は慎重に足を運んでいく。しばらく歩くと通路の奥に扉があり部屋からはほんのりと光が漏れ出ていた。ヒショが少しだけ扉の窓を覗き込むと、2人の兵士が椅子の背もたれによりかかりながら寝息を立てていた。4人は物音を出来るだけ立てず中に入り、部屋を物色し始める。部屋には簡素な机が1台といくつかの本棚があり、部屋の奥にはまた奥へと続く通路が見える。
「…この中になんか証拠みたいな都合のいいものありませんかねぇ?」
ヒショは本棚から適当に本を取り、パラパラとページをめくる。本にはエルフ族に関する伝承や特徴が記載されていた。
「……………そう、上手くは行かないか…だるぅ…」
ヒショは本を投げ捨てると、再び本棚に手を伸ばした。カーレとレッジも手当り次第、本を手に取り読み漁る。タンジーはじっくりと本棚を見つめながら歩いていた。すると、部屋の角の方にあった本棚に目が止まり、その本棚から1冊の本を手に取った。それは大量の書類を綴じてあるもので、本というよりはファイルであった。彼はファイルを開くと黙々と文書に目を走らせる。3人は本を読む手を止めてタンジーの伺っていた。タンジーは読み終わるとふぅとため息をついて本を閉じた。…その表情には悲哀が見え隠れしていた。
「…………………何か…分かりました?」
「……これだ…!!間違いない!エルフ族の住処の襲撃からエルフ達の捕獲人数までこと細かく書いてある!!!それだけじゃない!エルフを誰にいくらで売ったのか、1人1人しっかり記載されてる!!!この国の闇…その動かぬ証拠だ!!!」
大声で叫ぶタンジーにヒショは平手打ちをかました。
「バカ!声がデカいんですよ!気づかれたらどう…する……」
…残念ながら遅かった。兵士達が目覚めたての細い目で4人をじっと睨んでいた。そのまま兵士達は席を立ち武器を構えると入口を塞ぐように陣形を組み出した。
「お前ら…ここで何してるんだ…?」
「え?…いやぁ…そのぉ…み、道に迷っちゃいまして……」
「そんな訳…ねぇだろうが!!」
兵士の1人が武器を振り上げ襲いかかってきた。ヒショは指先に魔力を集中させる。
「あぁんもう!アンタ達!目ェ閉じてなさい!!」
男衆は慌てて目を閉じた。彼女の指先から小さい火の玉が飛ぶ。兵士はその火を見ると小馬鹿にしたように鼻で笑い、火に向かって武器を振り下ろした。
「…!?ぐわーーーー!!!!」
武器が火に触れた瞬間、火の玉は発光し部屋が強烈な光に包まれた。兵士達は目がやられパニックのあまり武器を落としてその場でうずくまってしまった。その隙に4人は奥に見えた通路へと逃げ出した。
「とりあえず逃げたのはいいけど!この先どこに繋がってんの!?」
カーレがそう言うとレッジは後方を確認しながら冷静に答える。
「わ、分からねぇ!でも、エルフ族の人身売買が行われてるなら…何か……もっと決定的な証拠があるかもな…!」
4人はひたすら通路を走る。後ろからガシャガシャと鎧の音が聞こえてきて、段々と音が近づいてきた。4人はさらに速く走るが、兵士達との距離は離れるどころかさらに詰められていく。
「アイツらあんな鎧来てるのに何て速さだ!?」
「やべぇ!追いつかれた!」
兵士は1番後ろを走っていたタンジーに斬りかかる。タンジーは間一髪のところで身を躱す。もう逃げられないと悟り、カーレとレッジは振り返って武器を構えた。それを見たタンジーとヒショは急いで2人の背中に隠れる。兵士はカーレとレッジへそれぞれ斬りかかると2人は剣で受け止め鍔迫り合いの状態になる。力は最初こそ拮抗していたが、徐々にカーレ達が押され始め、ジリジリと後ずさりしていく。
「嘘だろ…大勇者候補が押されてる?」
「…何…コイツらの魔力…?普通じゃない…!アンタ達気を付けなさい!!」
ヒショは焦ったように2人へ強化魔法をかける。再び双方の力が拮抗しだした。膠着状態の中、カーレはチラリと後ろのヒショ達を見る。意味ありげな目配せに兵士は思わず視線を逸らしてしまう。その時、カーレは兵士の股間を渾身の力で蹴りあげた。鎧を着ていたとはいえ、痛みが内側に響いたようで兵士は剣を落として股間に手を当てた。その隙を逃さず、カーレは刀身の横で兵士の顔を殴り付けた。兵士は壁に打ち付けられぐったりと倒れ込んだ。もう1人の兵士が動揺していた隙を狙い
レッジは兵士の腹を蹴り飛ばす。後ろによろめいた兵士に2人は同時に斬りかかった。兵士は必死に2人の攻撃を受け止めるが、完璧に息のあった2人のコンビネーションには手も足も出ず、いつの間にか後ろに回っていたレッジから柄での殴打を受け気絶させられてしまった。
「「……何だったんだ…?」」
2人は揃って疑問を口にした。ヒショは額に指を当てながら深く考え込んでいた。しばらく考えた後、ヒショは神妙な面持ちで口を開いた。
「…エルフ族は、確かとてつもない身体能力を持った種族と聞いた事があります。戦闘訓練を受けていれば上級の魔物でも敵わないほど…」
「………あれ?だとしたら…」
タンジーが何か気づいたように声を上げる。
「たかが一国の兵士がエルフ族の捕獲なんて出来るはずがない…でも、あの兵士達の異様な力なら……何か…この国だけの問題では終わらない話になってきたような気が………」
それ以上、ヒショは何も喋らず奥へと進み出した。3人も黙って彼女に続く。少し歩くとまた扉があった。扉は鉄製で厚みのある作りで張り紙が着いており『開放厳禁!施錠確認!』と書かれていた。ヒショは扉を開けようとするが、張り紙通り施錠されている。
「仕方ない、無理矢理開けるか!」
カーレとレッジは顔を見合せ頷き合うと、扉から少し離れ息を大きく吸い込み始めた。そして、魔力で体を覆い助走をつけて扉に突撃した。扉は原型を留めないほどひしゃげて吹き飛んでいった。4人は奥へと進んでいく。
「………マジかよ」
「………………エルフ族が……こんなに………」
4人はただ目の前の光景に呆然としていた。部屋にはいくつもの牢屋が並んでいた。その中にはエルフ族がざっと数えただけでも数十人収容されていた。エルフ族達は皆やつれており、美しいはずの容姿も枯れ草のようにくたびれてしまっていた。エルフ族達は虚ろな目で4人を見ていた。
「……………レッジ…すぐに助けるぞ…!!」
カーレは怒りに手を震わせて言う。レッジも真剣な表情で頷く。カーレとレッジは鉄格子の扉を剣で叩き切り、エルフ族を解放していく。生気のない顔をしていたエルフ族達は目に涙を浮かべ2人に感謝の言葉を告げていた。ヒショは牢屋から出てきたエルフ族達をとりあえずその場に留まるよう誘導していた。すると、後ろからドサリ、と音が聞こえ振り返るとタンジーが四つん這いになって項垂れていた。
「……アンタ、何してるんです?アンタが追い求めてた情報がここにあるってのに?こんな危険を冒してまで悪事を証明したかったんでしょう?」
そう訝しむヒショにタンジーは悲痛な顔で答え始めた。
「……逆だよ。俺は…この国がそんな事するはずないって証明したかったんだ」
「………はぁ?」
「…この国のが豊かになってきた時、噂が流れ始めたんだよ…『この国は不当な手段で利益を出している』って…俺はそんなはずないって思ってた…でも、こんな職業柄調べずにはいられなくって…そしたらさ、調べれば調べる程…怪しいところがいっぱいあったんだよ…でも、俺が生まれ育った…大好きなこの国が悪事に手を染めてるなんて…そんな事思いたくなかったんだよ…!アンタ達には最初あぁ言ったけど…探しても何も出てくるなって…願ってたんだけどなぁ……」
タンジーは少し泣いた後、フラフラと立ち上がる。そして、エルフ族に向かって頭を下げた。
「すまなかった……この国の…顔と言ってもいい人がこんな事をしていたなんて…!それなのに…ワガママを言うかもしれないけど…知らなかったんだよ、俺達…この国が裏で人身売買してるなんて……知ってたら、こんな事誰も許したりしない!この国の人達はみんな良い奴なんだ!それだけは…信じてくれ」
エルフ族は黙って彼の話を聞いていた。すると、1人の背の高いエルフ族の女性が彼に近づきゆっくりと口を開いた。
「……貴方は、本当にこの国を愛していらっしゃるのですね」
「…あぁ、どんなに貧しくても…この国の人達は…手を取り合って頑張って来たんだ……」
「…我々は、沢山大切なものを失いました。故郷を、家族を、友を…きっと、貴方の言葉を聞いても貴方達を恨むものはいるでしょう…ですが、憎しみが世代を跨いで受け継がれることは望みません。この国にも貴方のような…愛するもののために涙を流せる人がいた事を…伝えていくと約束します…だから、どうかもう二度と過ちを、繰り返さないでください」
他のエルフ族達は彼女の話に静かに頷いていた。タンジーは再びエルフ族に頭を下げた後、握手を交わそうと手を差し出した…その時、いくつもの鎧の擦れる音が聞こえてきたかと思うと数十人もの兵士達が部屋の奥から現れ、あっという間に彼らを取り囲んでしまった。ヒショは何かに気づき頭上を見ると、天井には水晶のようなものが埋まっていた。
「…か、監視してやがったんですね……」
「そういう事だ…で?どこに行く気だお前ら?こんな事してタダで済むと思ってんのか?」
兵士達の中でも一際体格のいい男がヒショ達をギロリと睨む。兵士達からは不気味で禍々しさも感じる魔力が漏れ出ていた。
「コイツら…さっきの兵士とおんなじ魔力が……!」
「えぇ!?アイツら並の強さがこんなにいるって事か!?」
タンジーは動揺を隠せずに震えた足でエルフ族の前で仁王立ちをした。3人も守るようにエルフ族の前に立つ。兵士達は無表情でジリジリと距離を詰めていく。逃げ道を完全に塞ぐと、先程の男が静かに腰の剣を抜いた。
「秘密を知ったからには……死…あるのみ……!?」
ドドーーーン!!!
男が件を振りかぶった瞬間に、爆発音とともに部屋が大きく揺れだした。兵士達は突然の揺れに膝をつき始める。今が好機とカーレとレッジは目の前にいた兵士を他の兵士へと投げ飛ばし退路を切り開いた。
「皆様!この牢の奥は上へと繋がっています!」
エルフ族の1人が叫ぶ。
「良し!!!みんなこっちだ!!」
カーレの言葉とともに全員が部屋の奥へと走り出した。
「ラッキー!!!!でも、上で何かあったのかな?」
笑顔で言うカーレとは対照的に、ヒショは顔は何故か青ざめていた。気になったレッジがヒショに声をかける。
「あの…ヒショ姉さん?どうしたんすか?」
「……上で魔力を感じたんです…王子の」
「「……………へ?」」
—少し前、タイボク王国近辺にて—
3人の戦いの火蓋は切って落とされた。先に動いたのはカイリ。彼は拳に魔力を纏わせ振りかぶり、ノゾム…ではなく隣で剣を構えていたユウに向かって振り下ろした。だがユウには想定通りの行動だった。カイリの拳を剣で軽く受け止めると、そのまま彼の拳を押し返してみせた。たまらずカイリがよろめいたところにさらにノゾムが殴りかかる。カイリは受け止めようとするが間に合わず頬に直撃し、地面を抉りながら吹き飛んでいった。強烈な攻撃だったが、カイリは口元の血を拭きながらヨロヨロと立ち上がった。
「………乖離魔法が何故効かない!?」
カイリはユウを睨みつける。彼女の剣は乖離魔法を受けたにも関わらず少しも欠けていなかった。
「…サリエラ様から御加護を受けました。貴方に勝ち目はありません」
「…!余計な事を…!!」
そう言いながらカイリは口元を歪ませた。そんな彼にノゾムは平手打ちをした。勢いで2人を睨んでいた顔は横にむいていた。
「ダメだよ…こんなの……何も知らない…無実の人まで巻き込んだら……ハーブだって悲しむよ!!」
「………っ!?何故、知ってる!?」
ハーブの名を聞いて、カイリは大きく目を見開いて狼狽する。すると、3人の頭の中に声が響き始めた。
『…私が教えました。彼女の死を、彼らは涙を流し悲しんでいましたよ。カイリ、貴方はこんな心優しい者達の心まで無下にするつもりですか?』
「…サリエラ……!俺の事を拒絶しておいて!今更、主面か!?」
『…それでも、私には貴方を創った責任があります。まだ戦うというのであればよく見てなさい。この2人が…貴方が憎む人間がどんな存在かを』
カイリは魔力を纏いながら構えをとった。彼の意思は変わらない、彼の目からは嫌でもそれを感じさせた。ノゾムは悲痛な顔で構え出す。ユウもそれに続いて剣を構え直した。
「王子様!任せて下さい!王子様の力と大勇者の力があれば…!」
『あ、大勇者。ひとつ言い忘れていましたが、彼に大勇者の力は使えませんよ』
ユウは剣をほおり投げながらずっこけた。
「な、何でですか〜?せっかくすごい力が手に入ったと思ったのに〜?」
『大勇者の力は、魔族…と言うより人間を害する存在に対して使える力です。カイリは…無関係な人間も巻き込もうとしているとはいえ、悪いのはタイボク王国の方ですし』
「そ、そんな〜」
寝そべったまま泣きじゃくるユウ。カイリは呆れた目で彼女を見ていた。ノゾムはユウのそばに剣を置くと、彼女の前に立った。2人は睨み合いながら、慎重に間合いを詰めていく。そしてお互いの攻撃が届く範囲まで近づいた瞬間、2人の腕が交差しそれぞれの顔に拳が直撃した。互いの攻撃がクリーンヒットしふらつく2人。しかし、ノゾムの傷はあっという間に無くなり、カイリに2発目を叩き込んだ。彼の体は宙を舞い、地面にぶつかる…だが、その直前に彼は受身を取って素早く立ち上がった。その間にノゾムは魔力を右腕に集中させ禍々しい魔力が零れ出ていた。
「…!何っ!?」
「ロード…フィスト!!!!」
ギリギリのところでカイリは横に回避した。ノゾムの一撃は前方の木々を薙ぎ倒し、魔力の余波でまるで隕石が降ってきたかのように地面が大きく削れていた。
「…化け物が…」
カイリは小さく呟いた。それでも、臆することなくカイリはノゾムを殴る。ノゾムは少しよろめくが、負けじと殴り返す。そしてまたカイリが殴り返す。2人の気迫は凄まじいものだった。ユウですら入り込む隙が一切見つける事が出来なかった。
「ど、どうしよう…あ」
カイリの打撃をノゾムが腕で受け止めたその瞬間、カイリの手が輝きだし、ノゾムを空へと打ち上げてしまった。彼の姿は一瞬で見えなくなってしまった。
「えぇぇ!!?お、王子様ーーー!!!?」
ユウが叫んだのと同時に、タイボク王国から爆発音が聞こえた。ユウは振り返って目を凝らすと城から煙が出ていた。カイリもそれが見えたようでその場にしゃがんだかと思うと跳躍を行い、とてつもない勢いでタイボク王国へと向かっていった。ユウはポカンとしながらその光景を見ていた。
「………ハッ!お、追いかけないと!!」
ユウは全速力でタイボク王国へと走っていったのだった。




