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勇者の定義

やっと物語が大きな場面に移りました…コツコツこれからもやっていきます。

 ……真っ暗な部屋の中に椅子が2つ、向かい合うように置かれている。片側の席には既に一人の男が目を閉じて座っていた。男の背は160cmに何とか届く程度しか無かったが、小顔で足も長く誰かと比較でもしなければ低身長である事を全く感じさせなかった。男の座る椅子の下には、蛇がとぐろを巻きながらギラギラとした目で辺りを見回していた。そして、蛇は何処からともなく現れた蜘蛛に狙いを定め喰らいつく。


「………来たね」


 男はかっと目を開く。目の前には眼鏡をかけた男が既に向かいの椅子に座っていた。スーツ姿の男達は互いを睨み、一瞬たりとも目線を外そうとしなかった。あまりにも異様な光景だった。


「いきなり俺の使い魔に喰らいつくとはな…手厚い歓迎だな、『第三』の」


「…こうなる事、分かってたクセに」


 小柄な男は冷めた口調で言い放つ。だが、眼鏡の男は全く気にもとめていなかった。


「………で?何の用だ」


「…()()()分かるでしょ?」


「……『あの方』が魔王に接触した事か?」


「…そういう事。どうしてあの方が魔王へ手を貸したのか、『第五』の君なら分かってるのかなって思ってさ」


「そうだな…まず確実に言えるのは、あの方には魔王から手に入れたい物がある。詳しくは分からないが…少なくとも我々の今後の活動に有益な物なのだろうな。それと、これは推測だが…あの方は魔王そのものにも興味があるのかもしれない…その理由までは分からんがな」


「……本当に分からない?」


「推測を話したところで意味は無いだろう」


「はぁ……」


「「勿体ぶらずに教えてよ」……か」


 小柄な男の言葉に被せるように、眼鏡の男は始めから()()()()()()()()()()()()()()()()()()彼と全く同じ事を言った。小柄な男はたまらず冷や汗をかく。


「………!」


「…お前はもっと聡明なヤツだと思ってたがな?『スネイグ』…」


「『スパイド』…相変わらず凄い観察眼だね…ホント妬けるなぁ…!"自称"悪魔界のNo.2ってだけはあるよね」


「………自称か…勝手に言ってろ」


 スネイグからの皮肉をスパイドは冷たくあしらう。少し疲れたように軽く溜息をつくと、スパイドはゆっくりと席を立った。


「話はこれだけか?俺はもう行くぞ………」


「……忙しそうだね」


「当たり前だ。俺には休む暇なんて無い……あぁそうだ…」


 これも全て、救世のため———




—リトの町—


 ユウ達がリトの町に着いてあっという間に1週間が経過した。大勇者を決める儀式が今、始まろうとしていた。円形の闘技場を囲うように観客席が存在している。観客席の1部分だけ出っ張っている席がありそこは関係者専用の席になっている。魔王子達はその関係者席で開会式を観戦していた。


「……勇者ちゃん、緊張してるね…」


「…こんな遠目でも分かるぐらいガチガチじゃないですか…アイツ大丈夫ですかね……」


 闘技場にはユウの他にジオッソを含め4人、合計5人の大勇者候補が横一列に並んでいた。他4人と比べてユウの顔は明らかに引きつっていた。


「…そういえば、儀式って何をやるの?」


「……さぁ」


「あの…お2人とも知らないんですか?」


 2人の横にはポップコーンを持ったカゴが座っていた。


「アンタ…メチャメチャ楽しんでますね」


「まぁ、せっかくのお祭りなので…で、儀式の事なんですけど……ザックリ言うとバトルロワイヤルですね!全員使える武器は支給された模擬の剣のみで、相手を場外に落とせば勝ちです。割とシンプルなルールなんですよ!…あ、良ければポップコーンどうぞ王子さん!」


「良いの?それじゃあ…」


 魔王子はポップコーンに手を伸ばそうとするが、ヒショが恐ろしい勢いで彼の手を掴んだ。


「…王子ぃ、私達は遊びに来てる訳じゃ無いんですよ〜♪分かってますよね♡」


 ヒショは魔王子と…それ以上にその隣にいるカゴを笑顔で威圧した。カゴは彼女がただ遊び気分に怒っているだけだとは全く思えなかった。


「…それでは30分後に儀式を始める!!!」


 そうこうしてるうちに、開会式が終わってしまった。


「……はぁ〜、緊張しました」


 控え室でユウは胸を撫で下ろす。一息ついた後、外からの観客の歓声が聞こえ彼女の胸に熱いものがメラメラと燃え上がってきた。


「やぁ!緊張はほぐれたかい?ライバルだけど…お互い頑張ろう!!」


「わわ!」


 金髪の男がユウに話しかけてきた。不意に声をかけられユウは握っていた模擬の剣を落としそうになった。


「…えっと…あなたは確か……『ホシ』さん…でしたっけ?」


「名前、覚えてくれてたの!嬉しいよ!でも、儀式は手加減無しで行かせてもらうからね」


「はい!こちらこそよろしくお願いします!!」


 2人は硬い握手を交わす。その後ろから2人の大勇者候補が近づいてきた。


「あ!お前が噂の女の大勇者候補……」


「確か………ユウだったっけ?」


「お2人は…『カーレ』さんと…『レッジ』さんですよね!」


「「覚えてくれてんの!?」」


 2人の声が綺麗にハモる。


「2人は確か…幼なじみなんだよね」


「「あぁ、そうだぜ!!」」


 また綺麗に声がハモる。ユウとホシは思わず顔を見合わせた。


「あはは…お2人はとっても仲良しなんですね」


「あぁ!俺達はガキの頃からずっと切磋琢磨し続けてたんだぜ!」


「おぅ!儀式ではライバルだけど、どっちが大勇者になっても俺達はずっと友達だ!!」


「本当に仲良しなんだね…!でも、大勇者になるのは僕さ」


 3人に火花が飛び散る。されど雰囲気は重苦しくは無く、むしろ熱く爽やかな雰囲気が漂っていた。


「アレですね…男の友情ってヤツですね」


 ユウは腕を組んで知ったような口をきいていた。軽く談笑した後、4人は各々儀式への準備をしていた。


「…後、10分ですね」


「あぁ……お互い頑張ろうぜ!」


 カーレの熱い声に、ユウも自然に笑顔になっていた。


「……ところでさ、儀式終わった後時間ある?良ければ2人っきりで食事にでも…痛ぇ!?」


 カーレの後ろから何者かにぶつかられ転びそうになるが、素早く体制を立て直す。ぶつかってきたのはジオッソであった。


「…貴方は……!」


「…?何だよ?2人揃って怖い顔して」


 ユウとジオッソの間でとてつもない緊張が走り、カーレはただただ困惑していた。


「みんな、そろそろ表に……どうかしたのかい?」


 ホシとレッジがユウ達を呼びに来るが、ただならぬ雰囲気に身構える。


「…本当にイライラするなぁ…!みんなみんなみんな弱くて甘くてさ!もう帰ったら?どうせみんなボクに倒されて終わりなんだから」


「…な、何だとぉ!?」


 レッジがジオッソに掴みかかろうとするが、ホシがそれを優しく、そして鋭い目で制止した。


「……レッジ、少し落ち着こう。あの挑発に乗ったら負けだ」


「す、すまねえ」


 ホシは冷静に、しかし確かな怒りを漂わせジオッソを睨みつける。


「…ジオッソ……大勇者候補として人を侮辱するような発言はあってはならないよ」


「…事実だろ?君達が弱いのも、甘いのも。父さんだってそうだ…あんな甘さを持ってるから誰も救えない!強さなんだよ!甘さも捨てられる程の圧倒的な強さが必要なんだ!その力で魔物を皆殺しにする!それがボク達勇者のやるべき事だろう!?」


 誰も何も言わなかった。だが、少なくともその意見に賛成する者などここにはいなかった。


「…もういいよ、すぐに誰が正しいか分かるから」


 ヅカヅカと足音を立ててジオッソは闘技場へ向かっていった。


「大勇者様の息子って聞いてたからどんな人かと思っていたけど…」


「「とんでもねぇ奴だな!」」


 4人は苛立ちが消えぬまま、闘技場へと向かったのだった。


「…ではこれより、大勇者選定の儀を始める!では大勇者様、お一言だけ…」


「え?あぁえっと…とにかく!みんな正々堂々頑張ってくれ!それでは……」


 大勇者は大きく息を吸い込んだ。


「始めーーーーーー!!!!」


 開始の合図がリトの町に轟く。5人は一斉に剣を構えた。まず動いたのはカーレとレッジであった。2人は息のあった動きで真っ直ぐジオッソに向かっていく。


「…いいよ。何人でも相手になるから」


「「後で吠え面かくなよー!!」」


 2人は同時にジオッソへ斬り掛るが、ジオッソは剣に魔力を纏わせ振り上げる。すると、魔力の嵐が吹き荒れ2人は大きく弾き飛ばされた。嵐は観客席にも届くほど絶大なものだった。


「……口だけじゃなかったみたいですね…」


 ヒショは肝を冷やす。関係者席に座っていたホシやカーレ達の仲間も、驚きのあまり言葉が出なかった。


「…やるな!」


「…まだまだ!!」


 カーレとレッジは全く怯んでいなかった。2人は再びジオッソに向かって突進していく。先に攻撃を仕掛けたのはレッジだった。彼は大きく剣を振りかぶってジオッソを斬る…と見せ掛けてジオッソの足を踏みつけた。


「……?!」


「甘いのはお前だぜ!!」


 動けないジオッソに向かってカーレは剣に魔力を纏わせ斬り掛かるが、間一髪のところでジオッソは剣で攻撃を受け止めた。その隙を逃さず、レッジはジオッソの腹に渾身の膝蹴りを叩き込んだ。


「ぐっ…!」


 堪らず呻くジオッソ。それでも2人の猛攻は止まらない。一糸乱れぬ連続攻撃にジオッソは徐々に場外の方へと押されていく。


「調子に…乗るなぁーーー!!」


 絶叫とともにジオッソは全身から魔力を解き放つ。カーレとレッジは逆方向の闘技場端まで吹き飛ばされてしまった。


「みんなまとめて場外に送ってやる…!!」


 ジオッソの剣に魔力が纏っている。だが先程と違うのは剣に纏う魔力の量が余りにも桁違いな事だった。剣は莫大な光を纏い、その光は竜巻のように剣を中心にして渦巻いていた。更にその周りには黒い稲妻が走っている。


「僕達と同じ光属性なのに……禍々しいね…」


「「ヤバいな…」」


 4人は呆然とジオッソを見つめていた。


「失せろーーーー!!!」


 轟音と共にジオッソの剣が振り下ろされ、4人は光に包まれた。光が消えると、カーレとレッジは場外に落下していた。ユウがゆっくりと目を開けると、傷だらけのホシが彼女を庇うように立っていた。限界を迎えゆっくりとホシは膝から崩れ落ちた。


「……!?な…何で……?」


「………同じ大勇者候補でも…女の子を守るのは当然だろ?……()()()みたいにはいかないか…」


 ホシは力無く目を瞑った。


「はぁ…はぁ……」


 かなり体力を使ったのか、ジオッソの息は上がっていた。彼は殺意に満ちた目でユウ達を見ていた。そのまま彼女達に近づくと、倒れたホシを場外へ蹴り飛ばした。


「!…………ジオッソ…さん」


「だいぶ消耗したけど…君を叩き潰すには充分だよ…!」


 ジオッソはユウへ斬り掛かる。ユウはギリギリのところで躱して彼から大きく間合いをとる。しかしジオッソは一瞬でユウへ近づき彼女の鳩尾(みぞおち)へ肘打ちを放つ。ユウは痛みに耐えきれず(うずくま)るがジオッソは冷徹な目で彼女を見下ろし、ユウの後頭部へ剣を振り下ろした。


「が…!?あ………」


 ユウは地面へ叩きつけられ倒れ伏す。それでもジオッソの攻撃は止むことはなく彼女の頭を、何度も…何度も踏みつけた。


「こんなもんなの?父さんが選んだ…大勇者候補サマの力はさぁ!!!」


「ゔ…ぐぅ……ぐっ!!」


「立ってよ…立てるもんならさぁ!」


 ユウを踏み付ける足がどんどん力んでいく。彼女の綺麗な顔は血で真っ赤に汚れていた。


「あ、あぁーーー!!!!」


 ユウの絶叫が観客の顔を歪ませる。するとポツポツと観客席からジオッソへのブーイングが起き始めた。


「それが大勇者のやることかぁ!?」


「もうやめろぉ!!」


「最低っ!!!」


 段々とブーイングの声は大きくなり、いつの間にか観客のほとんどがジオッソを非難していた。


「うるさいな…!弱い方が悪いんじゃないか!!」


 ジオッソは逆上してユウを闘技場端まで蹴り飛ばす。


「…!!勇者ちゃん!!!」


 魔王子が観客席から身を乗り出す。そのまま闘技場へ飛び降りようとする勢いだったので、ヒショとカゴは慌てて彼を抑えた。


「王子!!落ち着きなさいって!」


「王子さん!気持ちは分かりますけど!」


「ジ………!!ジオッソォー!お前…!お前ぇ!!」


 怒り狂う魔王子をジオッソは冷たく睨みつける。だが、直ぐに彼の表情が変わった。魔王子から人とは思えぬ威圧感が溢れ出ているのを感じ取り、悪寒を覚えたからだった。直ぐにジオッソは指先に魔力を込める。


「………『弾丸(バレット)』!」


 ジオッソは魔王子に魔力の弾を撃ち込んだ。急な事で魔王子は反応しきれず、弾は彼の眉間に命中した。


「王子さん!…大丈夫…あ」


「うん、なんとか……」


「王子!バカ!フード!フード!!」


「しまっ…!」


 ジオッソの狙いは魔王子の被っていたフードを脱がせることだった。彼の額から生えた2本のツノが観客達に晒される。


「へ……?ま、魔物ーー!」


「キャーーー!!?」


「魔物が観客席にいるぞぉ!!」


魔王子の正体が晒され、会場は半ばパニックになっていた。


「ど、どういう事!?何で魔物が!?」


 カーレ達の仲間である少女が咄嗟に武器を構える。それを見たカゴは素早く彼女の前に立ち塞がる。


「あなた連盟の事務員でしょ!何で邪魔するの!?」


「こ、この方達は勇者連盟の上層部が条件付きで連盟への加入を認めています!危害を加えることは許されません!」


「そんな話聞いてないぞ!?」


 ホシの仲間である青年が立ち上がってカゴへ怒りをぶつけた。


「というか『達』って事は隣の人も魔物って事!?」


「このバカ…!!」


 ヒショもカゴへ怒りをぶつける。その間にも会場は更に混乱が増していく。


「何で!?連盟が魔物を加入を許したってのか!?」


「あぁ!しかも2匹もだ!!」


「ふざけんな!どういう事か説明しろ!!」


 いつの間にか会場の怒りは魔王子どころか連盟の上層部にも向けられていた。


「これは……あまり良くない事態ですね…」


 プリモは頭を抱える。観戦していた連盟の上層部も気まずそうに闘技場を眺めていた。


「やはり…魔王子の一件を隠すのは悪手だったか…」


「何を言う!?魔族を加入させた事を公表すれば世界中が大騒ぎだ!我々の威信にも…?!」


 口喧嘩していた上層部は凄まじい殺気を感じ、皆揃って固まってしまう。その殺気は闘技場から放たれていた。


「ハ、ハハハハ……ふざけるなぁ!!!!!!」


 怒りのままにジオッソは魔力を解き放った。彼は血走った目で魔王子と上層部の人間達を睨んでいた。


「魔物を倒すための組織が!何で魔物の加入なんか認めている!?ふざけるな…!ふざけるなぁ!!」


「お、王子…様……」


 ユウは必死に立ち上がろうとするが、虚しくも彼女の体はその思いに応えてはくれなかった。


「降りて来てよ魔王子…!ぶっ殺してやる……!!」


「……ジオッソ…」


 ジオッソからの挑発を聞いて、魔王子は再び観客席から身を乗り出す。


「醜い魔物め!殺してやる…殺してやるころしてやるコロシテヤル!」


 誰もジオッソが正気だとは思えなかった。怒りを抑え魔王子はゆっくりと闘技場へ降りようとした…が、急に足を止めたかと思うと、彼はジオッソの後方を驚いた顔で見つめていた。


「……!お前…!?まだ立てるのか!?」


 そこには立ち上がったユウがいた。ユウは静かに、されど途方もない怒りを込めた目でジオッソを見ていた。


「…王子様に……私の仲間に手出しなんかさせない!!」


「仲間だって!?気でも狂ってるのか!アイツは魔物なんだよ!?ふざけるのも大概に…」


「ふざけてなんかいません!あの人は…こんな泣き虫な私でも大勇者になれるってずっと信じてくれたんです!ヒショさんだってそうです!口は悪いけど、それでも私の事を見捨てず一緒にいてくれたんです!!」


「………だから何?」


「…それに!あの人達は誰かの為に頑張れる優しさを持っています!人の事をバカにしてばっかりの貴方よりもよっぽど!勇者らしく振舞ってます!!」


「な、何だとぉ!!?」


 ユウの熱い仲間への思いが伝わったのか、観客は少しずつ落ち着きを取り戻していった。


「……………」


「お、おい?どうかしたのか?」


「いや…あの魔物…この前大勇者候補様と一緒にペンキ塗りを手伝ってくれたなって…」


「そういえば俺も…落っことした商品を一緒に拾ってくれたっけな……」


「………マジ?」


 少しずつ観客席の風向きが変わる。観客達は次々と魔王子達の事を話し始めた。


「私は、あの人にひったくりを捕まえてもらって…」


「ねぇお母さん…あのお姉さんって……僕が迷子になった時に助けてくれた人だよね?」


「えぇ…魔物だったのね…そんな悪い人には見えないけれど…」


 そんな中、1人の少女が立ち上がった。


「あの…貴方、魔物だったんですね…」


「キミは…ここに来てすぐに会った!」


「はい!あの時はありがとうございました!!…あの!私、貴方が魔物でも貴方が悪い人だなんてこれっぽっちも思えません!それが大勇者候補様のお仲間なら余計!」


「……!」


「だって…私の探し物を見つけてくださった時、自分の事みたいに喜んでくれて…そんな人が悪さをするなんて思えないんです!」


「…………ありがとう」


 魔王子は静かに笑う。だが彼は心の底から喜びに打ち震えていた。


「おい!騙されんな!!きっとなにか裏が…ぐえっ!?」


 横槍を入れた観客を、隣にいた大男が殴り飛ばした。ヒショはその男の顔を見て愕然としていた。


「げっ!?飴屋のオッサン……!?」


「おいお前…1つ言っておくぞ…飴が好きなヤツに悪人はいねぇ!たとえ魔物でもな…分かったか?」


 殴られた観客も、周りの観客もただただ黙って首を縦に振っていた。


「別に飴が好きって訳じゃないんですけど…」


 ヒショの小言は観客の声にかき消されていった。


「…みんな、聞けぇ!!」


「!!!!大勇者様!」


 大勇者の掛け声に観客は一斉に静まり返った。大勇者はじっとジオッソとユウの顔を見た後、ゆっくりと口を開く。


「…戸惑う気持ちはよく分かる。だが、先日彼らと対話して俺は確信している。彼らは人間にとっても…魔物にとっても安寧をもたらしてくれる柱になってくれる!信じられない者もいるだろう。しかしだ、ユウちゃ…大勇者候補ユウは4ヶ月も彼らと共に行動し互いに信頼を築いてきた……さっきの魔王子の怒りが演技に見えたか?彼らは種族を超えた仲間になった!!新たな可能性を彼らは見せてくれている!俺はその可能性を信じたい!!」


 大勇者の言葉に疑問を持つ者はこの場にはいなかった。


「………………冗談じゃない」


 …たった1人を除いて……


「ジオッゾ…ざん……ぐすっ…私は……絶対に負けません!!」


 ユウは嬉し涙を拭いて、ありったけの力で魔力を膨らませ、その魔力を剣へと纏わせていく。剣は魔力を帯び光り輝く…どころか大きくなっていった。


「………!どこにこんな力が!?」


 ジオッソはユウに近づこうとするも、魔力の嵐に阻まれ弾き返される。彼女の圧に押され、ジオッソに焦りが見えていた。


(あんなの避けられない!…クソっ!!!)


 ジオッソは魔力を全身に纏い、ユウの攻撃を受け止める体制に入った。彼にはほとんど余力は残っていない、苦肉の策だった。


「これが…私の……全部!!です!!!」


 ユウは剣先を下へ向け、剣を自身の後方で構える。そのままジオッソへ向かって全身全霊で剣を振り上げた!


「勇…撃ぃーーーー!!!!!!!!」


 絶大な魔力はジオッソに直撃した瞬間、柱状に天高く昇る。その凄まじい威力に観客達は言葉を失っていた。


「……はぁ…はぁ…ふぅ……」


 ユウは反動で過呼吸を起こし、膝を着いて俯く。だが、直ぐに過呼吸も落ち着きユウはゆっくりと立ち上がった。彼女の大技の余韻とやりきった笑顔に観客は大歓声を上げる。


「……!?」


 ユウの笑顔は長くは続かなかった。ジオッソはまだ場外に落ちてはいなかった。闘技場の端の角に剣を突き刺して場外負けを防いでいたのだ。彼の体はほとんど場外に出ていたが、執念と怒りでボロボロになった体を動かし場内へ帰ってくる。


「お前だけは……絶対に………潰す!!!」


 ジオッソはボロボロになった剣をユウに投げつける。ユウは間一髪のところで跳ね返す。しかしジオッソはその一瞬の隙を見逃すことはなく、ユウに飛び蹴りをあびせ場外付近まで飛ばしてしまった。トドメを刺さんとジオッソはユウに殴り掛かる。


「ぐっ!?」


「終わりだァ!!!」


(このままじゃ!?考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ!力じゃ多分負ける…!どうすれば!?)


 万事休すかと思い始めた…その時、ユウの耳に魔王子の声が届く!


「勇者ちゃん!!!最後まで!信じてるから!!!!!」


「!!王子…様……」


 ユウの体からスっと力が抜けていく。誰もが彼女は諦めたと思った。ジオッソも同じ思いだった。狂気的な笑みを浮かべたジオッソの拳がユウに直撃する ——


「…!?なっあっ?」


 直撃する瞬間、ユウはジオッソの腕を掴むと彼の勢いを利用してそのまま場外へ投げ飛ばした!!


「………わ」


 会場はしんと静まり返る。


「私の…勝ちですぅ!!うわぁーーーん!!!」


 ユウの大号泣はしばらく続いた。彼女の泣き声は会場の歓声にも負けないくらいうるさかった。それどころか魔王子達が近寄る頃には余計に酷くなっていた。


「勇者ちゃん!スゴいスゴい本当にスゴいよ!!」


「あ…ありがとうございまずぅ!!!」


 ユウは魔王子に抱きついて彼の胸にうずまった。それを見てますます会場の歓声が大きくなる。観客の中には貰い泣きをした人も現れていた。


「…本当に……よく頑張りました…ずびっ」


「……プリモさん…泣いてる?」


 大勇者に尋ねられ、プリモは少し機嫌が悪そうに姿勢を正す。だが、大勇者は大勇者で涙で鼻声になっておりほとんど泣いているようなものだった。


「……おめでとう、勇者ちゃん」


「はい……えへへ♪」


 魔王子の言葉にユウは満面の笑みを返したのだった。

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