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「魔王子」

初投稿です。

このような創作は1度もなく、右も左もわからず文章も稚拙ですが、生暖かい目で見ていただければ幸いです。

趣味で始めたものなのでコツコツ書ければなと思っております。

投稿直前に気づいたのですが、勇者はまだ出てこないです。申し訳ございません。次回から登場します。ネタバレすると勇者は女の子です。

―魔王城―


「た…助ケて…」


ザクッ…グジュ…


無慈悲な肉を斬る音が聞こえる。


「くソっ…!撤退!!てっタイーー!!」


「逃げタ!追え…オエ…」


ドドーン…


ゴゴゴゴ…


魔王城のあらゆるところから断末魔と爆破音が飛び交っている。


ドーーーーーーン!!!!


「あーもうウッセーですねぇ!!」


その魔王城の地下道を、眼鏡をかけた魔族の女とオーク族の何人かが慌てふためいた様子で走っている。


「ヒショさん…イライラするのは分かりますが少し抑えてください…」


頭上で繰り広げられている戦闘に苛立つ少女「ヒショ」を少し呆れた様子でなだめている、一際大きなオークはオーク族の族長であった。


「しかし、以前より魔王様と無貌の騎士様の仲は険悪だと聞いてはいましたが、まさかクーデターを起こし魔王様を倒してしまうとは…」


「"モト"マオウ戦ウのキラいな臆病モノ」


「ナカマ、みんな好キじゃナカッた」


―かつての歴代魔王達は皆揃って武闘派であった。人間の村や街を襲撃し、領地を広げ食料も人間から奪うことで手に入れていた。だが、先代の魔王はそれを良しとしなかった。彼が魔王になった時はそれは酷い有様であった。ほとんどの魔族は何代にも及ぶ戦争で疲弊しきっており、弱い魔族達にいたってはまともに食料も手に入らず、飢餓状態の者もいる有様であった。そんな状況を先代は許さなかった。まず先代は戦争を計画的に行うことにさせ、勝ち目の低い戦争などは行わせないようにした。また、捕虜にした人間達を丁重に扱うようにし、その人間達と交流することで耕作などの技術を手に入れた。これにより無用な犠牲が無くなり、食料の問題も解決して行った…が、魔族とは基本的に戦闘狂である。次第に先代が戦いを禁じていることに不満を募らせていた。特に、戦争によって武勲を上げていた魔族達はより強い怒りを覚えていた。その筆頭が先代魔王の幹部「無貌の騎士」であった。―


「馬鹿者!!あのお方は無用な戦いを避け内政に力を入れてくださったのだ!そのおかげで我々オーク族含め魔族は必要以上の犠牲も出ず、食料にも困ることはなかったでは無いか!!」


「ヒッ!」


小言を言うオーク達に怒鳴る族長。それに驚いたのかオークの1人が転んでしまった。


「だあぁ!!図体もデカけりゃ声もデカい!!ほら、さっさと立ちやがれってんですよ!!このボンクラオーク!!」


オーク達の口喧嘩に更に苛立ちを覚え怒鳴り散らし、転んだオークにもヒショは強くあたり始める。


「オマエうルサい、嫌イ…」


「あ?」


「…なんデもナい」


小声で言った悪口も聞き逃さないヒショ。

人間から見ても魔族から見ても彼女の容姿は素晴らしいの一言であったが、言動はご覧の有様であった。


「さあ、さっさとここから逃げ……あれ?」


途中、急に足を止めるヒショ。


「…?道が2つに分かれてますね。どちらの道が外につながっているんですか?」


「えっと、えっと…あぁ?」


「ヒショさん?」


彼女が地下通路を見つけたのは数週間前のことだった。

彼女が押し付けられた雑用をサボって…もとい小休憩をしていた時にたまたま魔法で隠されていたこの通路を見つけたのだ。彼女は魔力の流れには他の魔族よりも人一倍敏感であった。試しに入ってみたが、その時は分かれ道などなく暗いジメジメとした一本道がただ続いてた。奥まで進むと魔王城から少し離れた海岸沿いに出たのだが…


(こんな分かれ道あったっけ?ん、右に進む道から魔力を感じる…あれ?一番最初に入った時にこんな魔力感じた覚えないんだけど?海からは変な魔力をちょろーっと感じたような気もするけど関係ないだろうし…)


緊急のはずだが、目の前に現れた疑問を相手に長考してしまう。


「よし!ヤバそうなことは避けるに限る!!左のみ『ドゴーン!!ガラガラガラ…』…おいおい」


左の道に行こうとした瞬間、上からの衝撃によって左の道は崩れ去ってしまった。


「オマエのセい、考エすギ」


「なっ!?人任せにしたあんた達だって悪いでしょーが!」


「まぁ、仕方ありません。右の道を行きましょう。」


「えっちょっと!?」


すぐに気持ちを切り替える族長についていけず困惑するヒショだったが置いてかれそうになり、また苛立ちを募らせて彼らの後を着いていく。


(どうするんですかぁ?この先にとんでもない魔法兵器とかあったら…いや、逆にそれを使えば…私が王に…ヒヒ♪)


「ん?」


「んがっ!急に止まるな!!」


小物臭い妄想を膨らませていると急にオーク達が足を止る。それにぶつかってヒショは尻もちを着いてしまった。


「あぁ、申し訳ないです。仮にも女性ですものね…お召し物は汚れていませんか?それとあちらを…」


「あんたオーク族のくせに妙に紳士的ですねぇって"仮にも"ってどういう意味ですかこのやろ…扉?」


族長に突っかかろうとした彼女の目に入ったのは鉄製の、見るからに頑丈な扉であった。そして、それ以上に目に付いたのは扉に張られていた結界。結界は不穏な光を放ち、侵入者を寄せ付けまいとしている。そのあからさまに危険なものがあるという雰囲気に一同は固まってしまう。


「…………」


「……………」


「……」


「…開けますよ…」


沈黙を破ったのはヒショであった。

ヒショは扉にゆっくりと手を伸ばし結界を解除しようと試みる。結界に触れた瞬間、光の色が変わり更に禍々しい色へと変わっていく。まるで「これ以上何かしたら容赦はしない」と言っているかのようであった。その威圧感に思わず手を引っ込めそうになるが、もうここまで来てしまったのなら仕方ないと覚悟を決めヒショは結界に魔力を送る。


(かなり複雑な魔法式で構築されてる…けど、上で起きてる戦闘のせいで式が緩んでる?…正直完全な状態ならさすがの私でもハッキリ言って無理だったけどこれなら…!)


「……いける…!!」


バチンッ!!


弾けるような音ともに結界が消滅する。


「おぉ」


「開イた」


「タまには役ニ立つ」


「はぁ…はぁ…"たまには"は…余計です、はぁはぁ…」


(この扉、当然ここに続く道も前に来た時は無かった…私でも察知しきれないほど徹底的に隠されていて…余程人に見られたくないものがあるんでしょうね…そんなもの一体誰が?先代の魔王?…ううん、先代の魔王はもう死んでいる、アイツが直接作った結界ならもう消滅しているはず…けど、こんな結界作れる奴、アイツ以外で魔族にいたっけ?)


「ご苦労さまでした、後は我々の仕事です!フンっ!!」


ズズズズ…


そう言うと、考え事をしているヒショを尻目にオーク達は扉を力一杯押し開けようとする。扉はかなり重量があるようで、屈強なオーク達でも開けるのに一苦労であった。


扉が開く―


小さな部屋に繋がっていた。

中には何に使うか分からないような道具が散乱している。

そして、その部屋の奥には―


「…人?」


人がいる。

鎖に雁字搦めにされ吊るされている青年がいた。

着ている服は、簡素だがどこか禍々しさを感じさせる。

その青年は意識が無く、目をつぶったまま俯いている。


「オい!近づクな!!」


本能的にその青年から何かを感じとったのかオーク達は青年に近づこうとするヒショと族長を呼び止めようとするが、2人は全く意に介さず近づいていく。


(……寝てる?上であんな大騒ぎしてるのに…)


そんなことを考えながらヒショはゆっくりと青年に触れる。彼から微かだが魔力を感じ取れた。…微量のはずだが、その魔力は肝が凍てつく程の圧倒的なプレッシャーを放っていた。


「…この魔力…まさか!?」


驚きのあまりヒショが叫ぶ。


「まさか…なんですか?」


「…………魔王」


「………え?」


「間違いない…この男、先代魔王の血縁者だ!!!!」


「ま、魔王様に血縁者が…?そんな話聞いた事…」


「あんた達には分からないでしょうけど魔力にはそれぞれ"色"って言えばいいですかね、まぁ違いがあるんですよ。で、魔王の持ってた魔力の色に似ているの、血縁がある…もっと言えばアイツの子供としか説明がつかない程ね」


「………………」


あまりにも衝撃的な発見に族長は言葉が詰まってしまう。


「ふーん、顔は合格点ですね。…というかよくあんな強面からこんな優男みたいな顔のやつが産まれましたね」


俯く顔を乱暴に持ち上げ、空気の読めない言葉を放つヒショを睨む族長。ヒショは見ていなかったのか、それともワザと見てないふりをしたのか全く気にしている様子は無い。


「…これは運命かもしれません。」


「は?」


「だってそうでしょう!?クーデターの真っ只中で魔王様のご子息を見つけることができたのです!!これは魔王様の仇を撃てという他になんというのですか!?」


「はぁ…暑苦しい。私としては生き延びれればなんでもいいですし、そもそもこの通路を使って逃げたのも戦火に巻き込まれて死ぬのはごめんだからです。大体、先代も無貌のヤローも偉そうで嫌いなんですよねぇ。」


「オマエも偉ソう」


「ソウだ、ソウだ、オマエうるサい。顔と乳だけがトりえ、ケど犯ス気にもナラない」


「はぁッ!?この絶世の天才美少女である私に欲情しないオスなんているはずが…!!」


「「…はァ」」


顔を見合わせて溜息をつくオーク達。


「なんだぁその溜め息はー!!」


「んっふん!!」


オーク達の文句に地団駄を踏みながら怒るヒショ。族長はそんな彼女達のやり取りを咳払いで止める。


「…とにかく魔王子様を連れて逃げなければ!」


「はぁ…えぇ、そうですね。ふむ、この鎖自体は大したものでは無いですね。力づくで引き裂けますね。」


「そうですか、それでは…フンっ!!!!」


バツン!バツン!ジャランガシャン!


族長は無理矢理くさりを引きちぎり、魔王子に絡みついた鎖を丁寧に取ると優しく彼を抱え込む。


「これで大丈夫です。」


族長はそう言うと優しく微笑んだが、ヒショは渋い顔をし始める。


「……よく考えたら、ここで行き止まりなんですよね?どっから出るんです?」


「…あっ!危ない!!ヒショさん!」


ドガーン!!ガラガラガラ!!!!!!


上で繰り広げられている戦闘により天井が揺れ、瓦礫がヒショに降り注ぐ。だが、咄嗟に族長が彼女を引っ張り九死に一生を得る。


「だはーーっ!!あっぶねー!!!!あんた、たまには役に立……つ…」


…一難去ってまた一難。

降り注いだ瓦礫によって入り口が塞がってしまった。


ゴゴゴゴ…!


不幸は続く。

天井が再び揺れ始める。

この部屋全体が潰れかけている様子だった。


「ド…どウスる?」


「もウ無理ダ…」


「ぐ……無念…」


「あぁもう!!こうなったら一か八か転移魔法を使うしかねぇですね!!」


「!?そのようなものが!?」


「えぇありますよ!けど転移先は完全ランダム!!ヘタすりゃ海のど真ん中に転移して全員お陀仏ですけどねぇ!何もしないよりはマシでしょう!?さぁ死にたくなけりゃさっさと私に捕まりなさい!!」


その言葉と同時にヒショに捕まるオーク達。


「ぐグ…こンなオンナと一緒に死ヌノは嫌ダァ!!」


「私だって嫌ですよ!!うぉぉオラァ!!どーにでもなれーー!!!!!!」


そう叫びながら転移魔法を発動すると、彼女達の体が光り輝き、その光が球状になって飛んでいく。





















「…ん……んん?」


ヒショが目覚めるとそこはのどかな森であった。


「え、マジ!?生きてる―!!ッシャー!!さすが最強天才美少女ー!!!!まぁこうなるのは計算通りでしたけどねー!!アッハッハッハッ!!」


一か八かの賭けに勝ち、ヒショはピョンピョン飛び跳ねながら喜び始めた。


「……ググ」


「…どうやら、どうにか無事に脱出出来たようですね…」


ヒショの大騒ぎでオーク達も目を覚まし始めた。だが、魔王子は一向に起きる様子が無く、ぐったりと仰向けで倒れている。


「よし、大体起きましたね。後はこのネボスケ王子だけですね…ほらぁ、早く起きろーバカ王子〜ウリウリ〜☆」


そう言うと、ヒショは魔王子の頬をつねり始める。


「ヒショさん!何をしておられるのですか!?仮にも先代魔王様のご子息なんですよ!?」


「だぁーもぅ!!また耳元でギャアギャアとうるさいですねぇ!!分かってますよそのぐらい!逆に考えてみなさいよ、あのエラそうな魔王の一族にこんな事出来るのなんて今しかな……い…」


みるみるとヒショの顔が青ざめていく。理由は簡単、族長に向けていた目を魔王子に戻すと目が合ったから。魔王子のパッチリと開いた瞳と思いっきり目が合ったのだ。彼はこの状況に頭が追いついていないのかキョトンとした表情をしている。ちなみに、ヒショは魔王子の頬をつねったままだった。


「ワーアーアー!!!!ようやくお目覚めになったんですね王子様♡心配したんですよ〜♡中々目をお覚ましにならなかったんですもの♡あぁ、なんで頬をつねっていたかですかね?これはあれですよ、あれ?王子様が気持ち良く起きられるようにするためのおまじないです!最近流行り始めたモノなので…知らなくても……無理ないかなぁ…なんて…」


さすがに不味いと思い、ヒショは露骨に媚びを売りながらバレバレな言い訳を始める。


「…………」


魔王子はじっとヒショを見つめたままだった。

…魔王子の目は納得がいっているようには思えなかった。少なくともヒショにはそう見えていた。


「…っていうのを後ろにいるデカブツ!!このデカブツの命令でやったんです!だから文句があるならアッチにどーぞ!!」


「えぇっ!?ちょっとヒショさん!?」


「……………」


「いえ、これは…その…」


族長をじっと見つめる魔王子。もはやこれまで、粛清もやむ無しと覚悟を決め―


「そうなんだ、ありがとう」


「…え?」


感謝の言葉と共に魔王子はへにゃっとした笑顔を浮かべる。ふわふわオーラを纏うその姿はとても魔王の一族とは思えず、全員気が抜けてしまった。


「え?あの、王子様…?」


「王子?俺の事?」


「…えぇ、そうです!あなたは我々魔族の王、魔王のご子息様なのです!……正確には"先代の魔王"ですが…」


「ぐっ…うぅ」


―先代の魔王―この言葉が改めて族長の心に深く深く突き刺さる。自身が尊敬してやまなかった王の最期はあまりにも呆気なかった。無貌の騎士はこの時のために相当力を付けていたのだろう。先代が繰り出す空を覆う程の弾幕も、山をも切り裂く剣撃も…無貌の騎士は尽く弾き返し、彼の持つ凶槍が先代を貫いて…

『魔王様ーーーーーーーーー!!!!』

己の発した絶叫が鮮明に思い出される。

あの光景は永遠に忘れる事など決して出来ないだろう……

もうあの玉座にあの方はもう居ない…今あの方の玉座には……族長は己の無力さに心が打ちのめされていく。憎悪と悲壮感が混ざり合い体にのしかかる。族長は唇を噛み締め拳を握りしめる。怒りのあまり無意識に体が震えていた。


「………大丈夫?」


その声にハッとして族長は顔を上げる。そこには、とても心配そうに族長の顔を覗き込む魔王子がいた。


「どこか痛い所があるの?」


「いえ…貴方のお父上のことを思い出してしまい…貴方のお父上は…うぅ…立派な最期を…」


涙を浮かべながら魔王子に父親の最期を語ろうする族長。だが、族長は耐えきれず大粒の涙をぼろぼろと流し始めた。その姿をみて、魔王子は優しく彼の涙を拭う。3メートルはあるであろう巨体に一生懸命背伸びをしながら…


「…ごめんね、このぐらいしか出来なくって…」


魔王子はそう言うと、申し訳なさそうに微笑む。


「そんな!!…お気遣いありがとうございます。こちらこそ本当に申し訳ございません、情けない姿をお見せしてしまい…」


「大丈夫だよ」


「王子様…必ずお父上の仇を討ちましょう!」


「…………なーにやってんですかね、あの2人」


ヒショとオーク達は2人のやり取りを遠巻きに眺めていた。やり取りが一通り終わったと察し、オーク達と一緒に2人に近づいていく。


「おーい、もう終わりやがりましたかぁ?全く…」


「……えーっと?そういえば君は?」


「あぁ、自己紹介がまだでしたね!それでは、私から…私、オーク族の長を務めているものです。今後ともよろしくお願いします」


「うん、よろしくねデカブツさん!」


「…あの、それは私の名前という訳では…あぁいえ!王子様の好きなように呼んでいただければいいですよ!…ええと、紹介を続けますね!この私ソックリな者達は私と同じオーク族です。そして、あそこにいる女性はヒショさんです。…正直な所、素行はあまり良くはありませんがいざとなればとても頼りになる方なので仲良くしてあげてください!」


「よろしく、ヒショ」


「なんで私は呼び捨てなんですか…まぁいいですよ。よろしくお願いしますね、ふわふわ王子」


早速悪態をつき始めるヒショだったが、魔王子は全くと言っていいほど気にしておらず、相変わらずふわふわとした笑顔を浮かべている。


「……自分で言っといてあれなんですけど、あんた本当に王子なんですか?」


「ええと、よく分かんない……記憶にあるのは、鎖でぐるぐる巻きにされてて、誰かが目の前で俺を見てる…そのぐらいしか無くて…」


「……………」


(……ふむ、どうやら生まれた時からずっとあそこにいたようですね。箱入り娘ならぬ箱入り王子…色々気になる事はありますが、コイツの魔力は絶対先代の血縁者。それだけは間違いない!!………仮に、仮にコイツが次の魔王になったとしたら…コイツを上手く利用すれば私が王に…そうじゃなくてもNo.2ぐらいの席につかせて貰えれば…ヒヒ♪)


「…………ねぇ」


「……ドゥワーー!?」


相変わらずしょーもない妄想を膨らませていると、いつの間にか魔王子が顔を覗き込んでいた。それに驚いてヒショはひっくり返りそうになってしまう。


「………どうしたの?お腹痛いの?」


「はぁ?何を急に…いたって健康です!!」


「本当に?無理しなくてもいいよ?背中さすろうか?」


「母親かアンタは!?」


ヒショが痩せ我慢したと勘違いしたのか色々心配し始める魔王子。まるで母親のようなお節介にヒショは案の定、苛立ち始めた。


「全く…もっと王子らしくしなさい!このバカ王子!!」


「ヒショさん…いくら魔王子様がお優しい方でもそのような……」


『ピーーーーー!!』


「?!この音は!!」


突如、笛の音が鳴り響いた。しかも魔王子達から比較的近い距離から聞こえてくる。臨戦態勢、オーク達は素早く身構える。魔王子は何が起きたのかわからずキョロキョロと周りを見回している。ヒショはコソコソと魔王子の後ろに隠れ始めた。ガサガサと茂みを掻き分け近いて来る―


「…キュウ!!」


現れたのは2人、人間の子供程度の大きさで、大きな布袋を被った生き物だった。人型だが、丸み帯びた外見で声も動きもどことなく愛嬌があった。


「なーんだ、早速新魔王様の手先が来たと思ったら"ぬのずきん"ですか…ビビって損しましたよ」


「ぬのずきん?」


「えぇ、魔族の中でも最弱を争う程よわっちい奴らですよ」


相手が低級の魔物だと分かった途端、ヒショは調子付き始め魔王子の横に立ち、ぬのずきんについて説明する。


「味方?」


「…いえ、あの笛はぬのずきん達が敵を見つけた時に鳴らすものです。彼等は現魔王の配下でしょう」


そう言いながら、族長はぬのずきん達を睨み、牽制する。


「そうなんだ…」


「へぇー、全然知らなかった」


魔王子とヒショは族長の知識量に感心する。


「…王子様は仕方ないとして、なんでヒショさんも知らなかったんですか」


「うっさいですねぇ!誰にだって知らない事の1つや2つありますぅ!!……しかし、コイツらも運が悪いですねぇ…よりにもよって魔王子と戦う羽目になるなんて…さぁ王子!!華々しい初陣といきましょう!!サッサとやっちゃってくださいあんな奴ら!!」


勝利を確信し、魔王子を差し向けようとするヒショ。だが、当の魔王子は急にぬのずきんの討伐を振られたことに困惑してしまい、キョトンとしている。


「…えっと、俺が戦うの?」


「当たり前でしょう!?まさか、こんな可憐な清純乙女を前線に出そうなんて考えてないでしょうねぇ!!」


(……せイジュん?)


オーク達はそう思ったが、口に出せばどうなるかわかっていたので口を閉じる。他の魔族たちよりも少し知能が低いオークにもそれぐらいは予想出来た。


「……えぇっと、どうやって戦えば?」


魔王子は再びヒショに質問する。


「はぁっ!?アンタ魔法とか使えないんですか!?」


「…どうやって使うの?」


「じゃあ何か凄い能力とか…」


「…ごめん、多分無い…」


「おいおい…」


これはマズイ…ヒショはそう思った。彼は生まれてからずっとあの小部屋で封印されていたのだ。冷静に考えれば、魔法についての勉強も無しに魔法が使えるはずもなく、ほとんど眠っていたようなものなのだから戦闘についての基礎知識も無い。あれだけ厳重に封印されていたのだから、きっと凄まじい力を持っているのだろうと勘違いしていたに過ぎなかったのだ。


(くっそー…あんな命からがらに救出したっていうのに…まぁ、オーク達がいるから何とかなるでしょう…万が一、アイツらが負けるようなことがあったら寝返るなり、このバカ王子を壁にするなりいくらでも生き残る術は…)


―ここでぬのずきんについて補足しておく。彼等は単純な戦闘能力は一般的な成人男性より少し強い程度だ。しかし、彼らを侮ってはいけない。彼等はものを作る力に長けているのだ。耕具や剣、果ては魔力が動力源の爆弾も…


「王子様!!!!!!危ない!!!!!!」


その爆弾が王子に投げられ、彼の頭に直撃してしまった。

威力は凄まじく、彼の頭を跡形もなく吹き飛ばしてしまった。魔王子は首の上からモクモクと煙をあげ、力なく倒れ伏す。


「……やっべ」


「…あぁ…終わった………」


絶望。だが、無理もないだろう。現魔王に対する最後の切り札と思われていた存在が、低級の魔物にごくあっさりと倒されてしまったのだから…膝から崩れ落ちる、ヒショとオーク達。一方のぬのずきん達はその様子を見て勝利を確信し、ピョンピョンと喜びの舞を踊る。その間にも次のターゲットに狙いを定め…




「……うーん?」


起き上がった。魔王子が再び起き上がったのだ。吹き飛んだはずの頭部も元に戻っていた。


「…うえぇぇ!?生きてるー!!」


奇声を上げ驚くヒショ。


「キュ?……キューーー!?」


喜んでいたぬのずきん達も驚きを隠せていなかった。その隙を族長達は見逃さなかった。族長は勢いよくぬのずきん達に向かって突撃していき、ぬのずきんの1人を吹き飛ばす。その勢いのまま、もう1人に狙いを定め打撃を放った。…だが、ぬのずきんは左に大きく飛び、躱されてしまった。


「…キュウッ♪」


思った通りには行かないぞと言いたげに声を上げるぬのずきん。地面に着地して、ぬのずきんは反撃の構えをとる―


「かカッた!」


着地点にはオーク達が待ち構えていた。彼等は、ぬのずきん達が族長の大振りな攻撃を躱したのに合わせて回り込んでいたのだった。着地した隙を狙い、オークの1人が足払いを仕掛ける。だが、ぬのずきんはギリギリのところで上に飛んで避けてしまった。しかし、もう1人のオークがぬのずきんが飛び上がったところを狙い、拳をぬのずきんに向かって振り下ろす。空中では身軽なぬのずきんも流石に躱すことが出来ず、直撃し地面に叩きつけられた。


「ギュウ………」


絞り出したような呻き声を上げながら、ぬのずきんの死体が青紫色の塵となって消えていった。オーク達の統率が取れた動きにもう1人のぬのずきんは完全に怯えきっていた。


「キュ…キュウゥーーー!!!!」


「逃がすな!追え!!」


逃げ出すぬのずきん。オーク達は族長の号令と同時に追いかけだした。


「…ここは彼らに任せましょう……しかし、王子様の首が…」


「えぇっと、ご迷惑をお掛けしました…」


そう言うと魔王子は申し訳なく俯く。族長は落ち込んでしまった魔王子を大丈夫ですと必死に慰め始めた。だが、返って気を使わさせてしまったと思ったのか、王子は余計に落ち込んでしまった。そんな2人のやり取りを尻目にヒショは考え事をしていた。


(……アイツ、魔力で体を再生出来るの?欠損した体を再生できる魔法もあるにはあるけど、そんな事出来るのは人間、魔族含めたほんのひと握りの魔法使いだけ…しかも、ソイツらだって色んな魔道具やら薬草やらを用意して数ヶ月かけて再生させるのに…しかも頭ですよ?…まぁ、再生出来ても戦えないならただのサンドバッグですけどねぇ…)


類稀な能力を目にしても、結局良い結論には辿り着けず、ヒショの頭にはモヤモヤした感覚が残ったままだった。



……これから始まる物語は、私達の世界では絶対にありえない事が起きる、不思議な世界の物語……………























「…………これはオモシロイことになりそうだなぁ!」


異空間から黒い服を着た男が、魔王子達を見ながら嗤っている。その男は美形であったが、どこかその笑みには狂気を孕んでいる。不潔という訳では無いのに、何故か彼の周りには数匹の蝿が飛んでいた。


「……何見てるんですか?」


男の部下らしき者が質問する。


「ん、あぁそうだな… まぁ、これから忙しくなるってだけさ」


「……はぁ」


「そんな面倒くさそうな顔するなってぇ!!………そうだ、さっきクロワッサン焼いたんだけど、食うか?」


「…いただきます」


男のテンションが高い理由が分からず、部下であろう者はただ困惑しながらクロワッサンを頬張ることしか出来なかった。


「さぁ、楽しくなってきなぁ…ハハハァ!!」

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