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4.城門屍殺戮現場屍屍屍屍屍屍屍屍屍

 城門が完全に開き、その向こうの様子が分かった。そこには大勢の人間が蠢いていた。しかし暴徒のように人間らしい動きはしていない。


 農業者なのか素朴な服装だが、服のそこかしこが破れに破れており、血飛沫のような痕がいくつも見られた。四肢は折れ曲がったり欠損していたりする者も多く、どれも一カ所は肉が抉れている部分があった。肌は灰色一色で、血の色が完全に抜けきっている。そしてなにより歩き方が異様だった。


 体は左右に大きく揺れ、両手は垂れ下がり、地面を舐めるように足を前に出していく。まるで幽鬼のような歩き方だ。


 それが何百、いや何千人と城門に殺到していた。相手が武装していない一般人だったとしても、その迫力は相当なものだろう。


 外にいた騎士たちも対処できていないようで、恐怖に満ちた表情を浮かべながら、開いた城門へと駆け込んでいく。怪我をした者も多く、重傷者は何も乗っていない運搬用の魔動機械に乗せられて、仲間から応急処置を受けていた。


「これは最終警告だ。今すぐ停止し、我々の指示に従え!」


 ジークフリードは重厚な赤の鎧で一歩前に出ると、両手を広げた


「君たちが憤慨する気持ちも分かる。税金か? 汚れきった評議会か? 三ヶ月前の地震の補償金なら、もうすぐ支払われるはずだ。いずれにせよ暴力で訴えかけても解決はしない。言葉だ。皆で言葉を交わしてより良い王国に変えていこうじゃないか!」


 その光景は異常だった。普通、暴動であれば何らかの主張があるはずだ。税金を下げろだとか、あの議員を辞めさせろとか。だが、それらを叫ぶ者は誰一人としていなかった。


 それどころかジークフリードの言葉に一切耳を貸さず、幽鬼のような足取りで前進し続ける。意義主張など存在せず、ただ暴力を振いたいがために駆け出した狂人のように。


「……どうかしているな。所詮はクズどもの集まりか」


 思わず、赤い鎧からそんな言葉が漏れ出した。


「仕方がない。これ以上の説得は無意味だ。実力で排除させてもらう!」


 そう言うと、ジークフリードは両手を前に出して、魔法を発動させた。


『魔紋展開―――炎の攻撃魔法【ブラストリィ】』


 ジークフリードの右腕が炎に包まれる。


『魔紋展開―――氷の攻撃魔法【フロストエッジ】』


 その右腕に、氷の刃となった左手が添えられて、


『合体―――攻撃魔法【爆発的な氷刃の拡散ブラスティック・フロストエッジ】』


 すると氷で形成されたギロチンがいくつも空中に出現し、それらが猛々しい炎を纏っていく。熱気は周囲の視界を歪めるほどであり、近くにあった城門の鉄柵が溶け始めていた。炎と氷。相反する二つの要素が合わさり、強力な魔法となったのだ。


 両手の魔紋から発生したそれぞれ異なる魔法を合体し、新たに一つの強力な魔法として構築する。優れた魔法士は皆そういった技術を有しているのだ。


「塵芥と成り果てろ。はァッ!」


 ジークフリードの咆哮とともに、炎を纏った氷のギロチンたちが暴徒たちに迫る。熱気を帯びた刃の一つ一つが、暴徒たちの首を焼き切るには十分すぎる速度と鋭さ、そして熱を持っていた。


 しかし次の瞬間、目の前で起きたのは信じられない光景だった。


 炎を纏った氷のギロチンは、暴徒たちに触れると消滅していった。まるでガラスが硬い岩に当たって砕けたような音とともに、次々と強力な攻撃魔法が掻き消されていく。


 魔法による防御を誰かが行ったのか。否、魔法が発動したような形跡はない。ジークフリードの力量不足か。否、彼の力量は本物だ。


「なぜだッ! 魔法士がいるのか!? にしても、俺の攻撃魔法を一瞬で……!?」


 暴徒たちはジークフリードの魔法を打ち消したと同時に、目の色を変えて地面を疾走し始めた。ある者は骨が折れているはずの両脚で地面を踏みしめ、ある者は頭から漏れ出した目玉を激しく揺らしながら、またある者は意味不明な言葉を何度も叫びながら、ジークフリードへと殺到していった。


 もちろん、ジークフリードは先ほどの魔法よりもさらに強力な魔法で対抗した。しかし巨大な竜のかたちをした氷も、大きな竜巻となった炎も、暴徒の前に霧散していくのみだった。結果的にその無駄な抵抗が彼の逃げ足を遅らせ、暴徒たちに体を掴まれてしまう。


「な、なにをする! やめろ、離せッ! 俺は英雄だぞ!」


 騎士団最強と言われた青年は、最大級の攻撃魔法を封じられた挙句、ただの一般人の集団に殺されようとしていた。


 暴徒たちはジークフリードの赤い鎧を引き剥がすと、露出した肌めがけて勢いよく噛みついていく。人間が甲殻類を食するときのように、躊躇なく豪快に。


「あぁぁぁああぁぁあぁぁあぁぁあぁあぁあっぁぁあぁぁっアァァァァアッッッッ!」


 激痛のなか、混濁していく意識でジークフリードはようやく気づいた。彼らは人だが、生きてはいない。生きてはいないが、死んでもいない。屍だが動いている。


 そうだ、彼らは生ける屍だ。


 やがてジークフリードは四肢をもがれ、絶叫とともに血飛沫を天に巻きあげながら壮絶な最期を遂げた。

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