4
――撮影が終わった。撮影していたカメラマンが、ペットボトルのお茶を持ってきてくれた。
「ありがとう」
「いえいえ。お疲れ様でした」
和装の懐を緩め、お茶で喉を潤す。一息つくと、カメラマンが話しかけてきた。
「先生、話すの上手ですね」
「先生だなんてよしてくれよ。先生と呼ばれるほど、私の小説は売れていない」
と苦笑する。物書きとして食べている私だが、未だ大きなヒット作のない、いわゆる売れない小説家だ。今回は小説家が自分の書いた怪談を読むという企画に呼ばれ、怪談を話すことになった。
私がここに呼ばれたのは、知り合いの口利きに他ならない。持つべきものはよき友人ということだろう。
「またまた、先生の書く小説、俺は好きですよ」
「ありがとう。しかしまぁ、もの好きなカメラマンもいたものだ」
「今回の話も、俺カメラを回しながらびくびくしちゃいましたよ。もしかして、昔は語りの仕事もしていたんですか?」
「いいや。そういうわけじゃないよ。でも、まぁ、似たような経験は少しだけあるかな」
「へぇぇ」
昔の話だ。わざわざ語って聞かせるようなものでもない。
小説のネタにもならない、つまらない経験だ。
思い出したように、カメラマンが言う。
「そうだ。実話みたいに語っていましたけど、実話じゃないですよね」
「どうだと思う?」
冗談めかして言う。カメラマンは腕を組んで考えるそぶりを見せる。
「うーん。さすがに作り話でしょう。もし先生の話が本当なら、三人も死んでしまっていますよ。それも、先生の大事な友達が三人も。もしそうなら、事件にならないはずがありません」
「違いない。でもね、まるっきり、作り話というわけではないんだ」
「そうなんですか?」
頷く。私が話した話には大きな嘘があるが、本当のことも紛れ込んでいる。
「少なくとも、私が話した大蛭鳥居は実在するんだよ」
「マジですか」
彼は興味を持った様子だ。スマホを取り出して、鳥居の場所を検索している。最もいくら調べてもヒットはしないだろう。
――本当に危険な場所というものは、秘されて広まらないものだ。
――あるいは、誰も帰ってこられないならなおさらに。
「ああ大マジだ。何なら、今度行ってかい? 案内するよ」
作り笑いを浮かべて、問いかける。人間らしい表情を浮かべるのにも慣れたものだ。
「行ってみたいです、相川先生」
「いいね。じゃあ五日後にでも行こうか」
と言って私は、喉の奥で笑いをかみ殺した。
鳥居の向こう 終わり
これにて完結。
読んでいただきありがとうございました。感想などいただけると嬉しいです。