1
「世の中には、行ってはならない場所があるということを、皆さんはご存知ですか?」
「えぇ、そうです。いわゆる『禁足地』というものです。人が入ることを許されていない、あるいは入ると祟りがあるような土地のことです」
「対馬のオソロシドコロや、犬鳴峠などが有名でしょうか。行ってはならない。行けばよくないことが起こる」
「そういう場所です」
「何年前だったかなぁ。そういう場所にね、私は一度行ったことがあるんですよ。とはいえネットに上がるような有名な場所ではありません」
「地元の人間しか知らない、親が子どもに」
あそこには絶対行ってはいけないよ。
「と、真顔で言うような場所です」
「一人で行ったわけではありません。四人で行きました。大学の、同じ学部の仲間で……そうだな。名前をA、B、Cとしましょう」
「お調子者でおしゃべりなA、寡黙で頼りになるB、真面目だけど気弱なC。Cだけが女で、Aと付き合っていました」
「懐かしいな。二人が付き合っていると知った日には、さんざんからかって遊びましたよ」
「私とその三人は、よく誰かの家に集まって飲んでいました。性格も趣味も合わない四人でしたが、気だけは、不思議と合ったんです」
「禁足地に行こう」
「言い出したのはAでした。彼は当時動画投稿をしていまして、ネットによく、くだらない動画を投稿していました。くだらないから注目もされていない。再生数も十か二十かそれくらい」
「本人はどうしてこんなに面白いのに見てもらえないんだと、よくつぶやいていました」
「私も見たことがありましたが、大学生が一人で騒ぐだけの動画の何が面白いというのでしょう」
「正直、よくわかりません」
「話が逸れてしまいましたね。Aは自分の動画の再生数を伸ばしたいそうで、考えに考えた結果、子どもの頃に聞いたその『行ってはならない場所』に行こうと決めたそうです」
「もちろん、最初はやめようと言いましたよ。私も、BもCも、そういう場所に軽々しくいけばろくなことがないと思っていましたから。でも、Aの意思は固かった」
「おちゃらけているくせに、変なところで頑固だったんですよ。Aは」
「A一人に行かせるのは危険だからということで、皆で行くことになりました」
「決まるまで色々ありましたけどね、最初に折れたのはC。なんだかんだ、CはAの押しに弱かったんですね」
「五日後だったかな、車で行くことになりました。その場所はAの地元であるM県、その深い山の中にあるそうで、大学から三時間程度。車を持っていたのはBだけでしたから、彼の運転で行きました」
「ちょっとした旅行です。四人で行くのも久しぶりだったから。なんだかんだ車内は楽しかったです。バカな話や将来の話をしたり、トークゲームをしたり」
「反対はしたけど、楽しい旅行になりそうだと思いました。初めは反対しましたが、何も起こるはずがないと、思い始めていたんです」
「となると、気になり始めるのは旅の目的地です。道中、私はAに聞きたんですよ。『お前はこれまでその場所に行ったことがないのか』って。そうするとね」
「Aは『行ったことがない』って言うんですよ」
「地元の人間は、本当にその場所に近寄らないそうです。不思議に思いました。親が子どもに行くなと言うのであれば、普通、子どもは行くでしょう。彼らはいつだって、無限の好奇心をもっているのですから」
「けれど行ったことがない。厳密には、Aも近くまで行ったことがあるそうです。だけど、その場所を踏み越えることはなかった」
「踏み越える? 私は言いました。不思議なことに、私たちは誰も行ってはならない場所がなんなのか聞いていなかったんですよ」
「無意識的に避けていたのかもしれない」
「聞けば、Aは答えてくれました。それは鳥居なんだそうです。深い山の中にぽつんとある古い鳥居」
大蛭鳥居。
「その鳥居の向こうが、行ってはならない場所なんだそうです」